テストステロン補充療法と若返り(=生物学的年齢を巻き戻す方法)に関する最新のトピックス旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2027年10月号

テストステロン補充療法と若返り(=生物学的年齢を巻き戻す方法)に関する最新のトピックス

LOH症候群(男性更年期障害)の治療に際し、テストステロンの補充療法は一般的となりつつありますが、単にテストステロンだけを補充していれば、誰もが同じような効果が得られると言う訳ではありません。運動や食事療法等との併用が重視されており、これは、所謂、LOH症候群(男性更年期障害)の治療だけに留まらず、若返り=生物学的年齢を巻き戻す効果が認められています。題して、テストステロン補充療法と若返りに関する最新のトピックス。

「減少したテストステロンは、補うほかない。」冒険家の三浦雄一郎さんは男性ホルモンであるテストステロンを補充することで、身体に劇的な変化があったそうです(AERA 2019年12月9日号)。世の中の90歳代が、皆がみんなエベレストに挑戦するとは限りませんが、テストステロンが果たした役割もとても大きかったんだとか。今月号は、<テストステロン補充療法と若返りに関する最新のトピックス>です。よりテストステロン補充療法の効果をUPさせて、若返る=生物学的年齢を巻き戻す方法を考えます。

若返りを考える

 100歳以上まで生きる、例えば、supercentenariansは110歳まで生きる人事なんですが、彼らは、心血管とか高血圧とか脳卒中とか、相当年を取らないと病気しません。つまり、長生きする人は、病気になるまでの時間が長いんです。逆の言い方をすれば、年齢と共に、こう言ったsupercentenariansであれば病気をしないのですが、その手前の人、例えば90歳くらいの人は、心血管疾患に20歳くらい若くしてなります。もう少し年齢を若返らせるという事が、色んな意味で疾患予防の可能性に繋がると考えられています。

若返りは、(動物実験では)可能である。

 HISAKOの美容通信(美容通信2026年2月号)でも何度か登場しましたが、ドラキュラ伝説を彷彿とさせる、(動物実験ではありますが)若返りは可能だ!って非常に有名な論文’Rejuvenation Factor’ in Blood Turns Back the Clock in Old Mice(9 MAY 2014 VOL 344 SCIENCE)があります。若いネズミと年取ったネズミを、皮膚を縫い合わせる事で、末梢循環を共通させる。一緒にしちゃうと言う、非常にコンセプトとしては簡単な実験です。パラバイオーシスと言いますけれど、そうしますと、この2匹のネズミは一緒に活動をするようになります。年取ったネズミの表現型である、血流が低下する、筋肉が痩せる、或いは匂いが分からなくなるとか、神経細胞が少なくなる。そう言った事が、若いネズミとドッキングすると、みるみる回復して行きます。ですから、年取ったネズミであっても若返りをするという事は、方法はさておき、可能なんです。

 

人間に於ける若返りとは?

 先ほどはネズミのお話でしたが、人では、若返りとは一体どんなものなのでしょうか? 現在考えられている若返りとは、70歳で男性は1年間で1.7%が死亡し、75歳だとこれが2.8%に増えます。逆に言えば、75歳の人が70歳に若返る事が出来れば、死亡する確率が減る可能性があります。また、加齢に伴う症状が改善し、疾患リスクも減る可能性があり、ひいては医療需要が減る可能性があります。

 最大寿命は、私達人間では125歳くらいと言われています。テロメア(美容通信2024年9月号)の長さは生物によって決まっている考えられていますが、これについては、未だ未だ不明の点もあります。また、どうして健康度が低下してくるのか、最近だんだん理解が進んで来たとは言え、未だ未だ不明の点が多くあります。

 

老化のペース

 老化のペース(美容通信2025年12月号)(美容通信2024年1月号)は人夫々ではありますが、この老化のペースを科学的に定量化(数値化)する試みが進んでいます。

 右図は、有名なHallmarks of Agingです。老化の根本的なメカニズムを特定する為に、研究者や科学者が共通の基盤として使用するものとして提唱され、2023年の時点では、12種類の要因に定義付けられています。

 これまで、糖尿病や心筋梗塞、脳卒中、癌、アルツハイマー病は生活習慣病と考えられていました。例えば、食塩の摂り過ぎは、心筋梗塞、脳卒中の原因である事は誰でも知っています。しかし、寧ろ現在では、老化と言う事実そのものが、この様な生活習慣病や老化関連疾患の最大リスク因子と考えらるようになりました。各疾患の背景には、実は、非常に多くの特徴的な因子が絡み合っています。ですから、一つの老化経路を標的とする薬剤が、従来の考え方の様な一対一対応ではなく、複数の疾患に有効である可能性があると考えらえるようになって来ました。

■Gerogenes/Gerosuppressorsと加齢関連疾患のネットワーク

 老化関連疾患は、単一遺伝子ではなく、老化を促進するもの(Gerogenes)と老化を抑えてくれるもの(Gerosuppressors)の、ネットワークのバランスが崩れる事で発症すると言う考え方です。

 老化を促進する遺伝子(Gerogenes)として有名なものとしては、APOE4があります。この遺伝子は、最も強力なアルツハイマー病のリスク遺伝子として知られていますが、脳血管疾患や動脈硬化性心疾患等の血管系疾患との多面的関連が指摘されています。他にも、心血管疾患や代謝性疾患との関連が指摘されているPCSK9ですが、LDLの受容体分解を促進し、結果的に動脈硬化を起こします。PCSK9が関係する疾患は他にも多く、癌の他、非常に多くの疾患に関わっている事が知られています。心血管疾患や脂質異常症のリスク遺伝子であるAPOBや、早老症との関連が知られているLMNA等が、gerogenesと考えられています。

 老化制御遺伝子(Gerosuppressors)としては、TERTはテロメアを維持する中心的な遺伝子ですが、これが活性化すると癌のリスクになります。逆に低下機能により、再生不良性貧血や肺線維症の様なテロメアが短くなる疾患になります。テストステロンは、経験的にではありますが、肺線維症や再生不良性貧血の治療に使われて来た時期がありました。これはテロメアが短くなった場合に、テストステロンの投与により、テロメアを長くする効果がある為です。また、Werner症候群(早老症)や癌、免疫老化に関係するWRNの他、TET2とかDNMT3Aはメチル化に関係する遺伝子があります。TET2/DNMT3Aは、CHIP(クローン性造血)により炎症・動脈硬化を促進します。

 この様な様々な遺伝子が、癌であるとか、心血管疾患であるとか、腎不全とか、その他様々な病態に関係しています。

 その他にも、特異的な加齢関連疾患遺伝子としては、骨粗鬆症や骨関節疾患のRUNX2や、肺線維症に関係するMUC5Bであるとか、また加齢黄斑変性を起こすARMS2と言ったものも分かっています。

 

老化の進行度の評価・測定の指標Biomarkers of Aging(BoA)

 Biomarkers of Aging(BoA)は、老化の進行度を測定・評価する指標です。ウェアラブル機器を用いて、例えば脈拍数であるとか、睡眠であるとか、そういう事から睡眠年齢とか、心臓の年齢とか、或いは、physiologicalなパフォーマンス、例えば歩行速度からとか、そして様々な分子から、つまり、Epigenomicsとか、代謝産物であるtranscriptomicsとか、proteomicsとか、代謝産物metabolomicsであるとか、様々なデータ収集により、健康や加齢に関する変化を直接測定・予測出来る可能性があります。これ等を用いる事で、個人だけでなく、人や動物モデルに於ける睡眠パターン、活動量等の縦断的バイオマーカーの大規模測定も可能になります。

■老化に関連するバイオマーカー

 特にこの中でも、老化のバイオマーカーだけでも様々なものがあります。例えば、予測バイオマーカー。介入研究や臨床ケアに於いて、特定の治療から利益を得られる可能性が高い個人を特定する為に使用されるバイオマーカーです。その人がいつどんな病気を発症するかについても、現在、ある程度は予測が可能です。また、反応バイオマーカーは、介入の証明や容量の選択に役立ちまし、発見バイオマーカーは、老化に関連する疾患の薬剤発見プロセスを効率化に役立ちます。しかしながら、老化に関連するバイオマーカーは、FDAによる臨床応用の承認を受けていないのが現状です。

 

エピジェネティクス

 エピジェネティクスは、老化と非常に密接に繋がっていいます。私達の体は、一つの細胞(受精卵)から始まり、体の発生過程で細胞の数と種類がどんどん増えます。しかし、多種多様な細胞が体の中に存在していて、全ての細胞は同じ個人であれば同じDNAを持っているにも拘らず、しかし、細胞ごとに異なる役割・特徴を持っています。同じDNAでありながら、異なる細胞の特徴を発揮出来る仕組みが、エピジェネティクスです。

■遺伝子のON/OFF

 同じDNAでも、異なる細胞の特徴を発揮出来るのは、細胞種毎に遺伝子のON/OFFのパターンが異なる為です。私達人間のDNAには、約20000個の蛋白質をコードする遺伝子がありますが、細胞種毎にONになっている遺伝子のセットが異なっています。DNAは、ヒストン(美容通信2022年7月号)と言う構造分子の周りに巻き付いています。この巻き付きが緩くなると遺伝子がONになり、強く巻かれると身動きが取れないのでOFFにならざる得ません。

■DNAのメチル化

 右図を見て下さい。DNAは、A/T/G/Cの連なりですが、C(シトシン)は化学修飾(メチル化)が起こります。DNAのメチル化が起こると、亀甲縛りされたようなものですから、自由を奪われ、遺伝子発現と言う転写はOFFになります。修飾が外れると、箍が外れた遺伝子は自由放免。ONになります。年齢ごとに於いて、どういう遺伝子のメチル化が起って来るのか、あるいは外れるのか、と言う事が加齢特異的な変化と考えられています。

 数100から数1000箇所のDNAのメチル化の修飾を調べる事で、老化を測定する事が出来ます。そして、暦上の年齢に対して、DNAメチル化に基づく体の年齢の事をepigenetic clockと呼びます。人だけではなくて、勿論、哺乳類だけでもなくて、全ての生き物がその生存時間に応じて、DNAに科学的な変化が生じます。つまり、その科学的な変化を知れば、その人の年齢、或いはその生物が生存している時間が分かるって事なんですね。具体的には、遺伝子DNAの修飾の度合いを調べれば、一発で老化≒生存年齢を測定出来るって寸法です。

■加齢によるエピジェネティック情報の喪失

 左図は、Braga DL et al., Biogerontolgy(2020)から拝借した図ですが、エピジェネティックな情報に、老化によってランダムなノイズが加わって行くと…、若い細胞ではエピジェネティックな情報がしっかりと厳密に制御されているが、加齢と共にその制御が乱れて、エピジェネティックな情報が薄れて行ってしまいます。細胞の特徴が徐々に失われてしまうんです。

 エピジェネティックな情報の喪失によって、老化が駆動されます。

 

 上図は、エピジェネティックスのお話の際には必ずと言って良い程登場する図ですね。最初の受精卵の段階から、細胞の運命を辿る様に、エピジェネティクスランドスケープと言うのを転がって行って、それが発生過程によって、細胞のセルアイデンティティを確立します。しかし、少しここから老化をするに至って、確立したセルアイデンティティが、ランダムなエピジェネティックなドリフトによって、確立したアイデンティティがちょっとづつ薄まって行って…、それが老化と凄く密接に繋がっています。つまり、若返りとは、このエピジェネティックな再プログラムを通じて、喪失した情報を取り戻せれば、加齢逆転を促進する事が可能になります。

 

epigenetic clock

 今は、年齢を予測するエピジェネティックの変化を調べる事によって、この遺伝子の修飾が何歳に相当するのか、あるいは暦の年齢よりも若いのか年を取っているのかを、そしてもう一つは、DNAだけではないのですが、プロテオミクスを加える事によって、残っている寿命を予測する事も出来るようになって来ました。epigenetic clocksです。

 このエピジェネティッククロックの研究はかなり古く、10年以上の歴史があります。非常に有名な2013年のホルバスクロックは、353のゲノム中のメチレーションを、化学修飾を使って生物学的年齢を計算しています。その後の、Dunedin PoAmやGrimAgeと言うものも、非常に多数のゲノム中の場所のデータを使って、AIを使って、エピジェネティックな年齢を計算しています。

■epigenetic clockを、介入によって巻き戻す

 老化の程度は非常にミックスされており、全ての因子が一様に年取っている事も、若いと言う事もありません、色んなパスウェイによって異なりますが、しかし全体で見ると、若いとか年取ってるって判断になるだけです。

 右図は、epigenetic clockの一例ですが、こういった方に何らかの介入、例えばファスティングすると、炎症が高かったのが、変化して、4歳若返ります。検診の中でも、今腎臓が悪い、肝臓が悪いと言う事だけではなくて、将来的には糖尿病に関する問題が出て来るかも知れないが、この人に於いては糖代謝に対する基づく老化は考えにくいが、逆に炎症の変化があると言う事は、これを介入によって減らす事は、若返りに有効と考えられます。将来的には、epigenetic clockが検診の場でも活用されるようになるのでしょうね。

Horvathの介入研究

 現在、様々なエピジェネティッククロックが提唱されていますが、その草分け的存在であるHorvathのエピジェネティッククロックは、DNAメチル化の状態を基に年齢を推定し、実年齢だけでなく「生物学的年齢」を測定できると話題になりました。生物学的年齢は、個人の健康状態や老化の進行を示すもので、年齢より体が若いか、若しくは老化が進んでいるかを判断出来ます。これにより、病気や生活習慣が年齢以上の老化を引き起こしているかどうかも分かるようになりました。また、年齢を測るだけでなく、個人の健康リスクを予測するツールとしても活用されています。

 エピジェネティッククロックを利用した介入研究の例として、このHorvathの介入研究を紹介します。高齢被検者(60~95歳)を対象に、10週間のヒト臍帯血漿濃縮液を打ち続けて、臨床的なバイオマーカーとGrimAgeで評価したところ、0.82歳しか若返らなかった。逆に年取った人もいたそうです。しかし、健康な男性(50~72歳)を対象に、8週間の食事・睡眠・運動・リラクゼーション・サプリメントの効果を評価したところ、3.2歳若返りました。メチレーション食とはお肉中心ではなく、野菜中心の食生活。これはあんまりお金が掛からない方法ですけれども、臍帯血よりも効果が出たんです。例えば、7歳くらい年を取っている方が、6歳くらい若返ったんだそうです。

 

カロリー制限の話

 科学的に有効なアンチエイジングとしては、運動とカロリー制限と、絶食(美容通信2023年7月号)と言われています。左図は、HISAKOの美容通信でも何度か登場した、有名なウィスコンシン大学のお猿さんの研究です。腹7分目で育てられたお猿さんは長生きをする。或いは、病気をしません。食べる量が少ないお猿さんの方が、加齢関連疾患を予防が出来ます。

■エネルギー不足になると、SIRT1のスイッチがONになる

 そのメカニズムとしては、カロリーを制限したり絶食、運動したりすると、SIRT1がONになり、蛋白量が増加したり、活性が増加します。

 SIRT1の主な働きとしては、一言で言えば、DNAの損傷を防ぐ事です。例えて言うと、遺伝子が転写を受ける時は、昔の古い固定電話の黒い線がビヨ~ンと伸びた状態で、この様な状態では、DNAは傷を付きやすい。ぐっと結び直してあげると、DNAの損傷を防ぐ事が出来ます。

 SIRT1自体は様々な老化関連疾患と関係していて、心臓(心筋梗塞)、肝臓(脂肪肝・Ⅱ型糖尿病)、腸(炎症性腸疾患)、脂肪組織(肥満・Ⅱ型糖尿病)、膵臓(インスリン分泌不全・Ⅱ型糖尿病)、肺(COPD)、骨格筋(サルコペニア・インスリン抵抗性)、脳/CNS(アルツハイマー病・パーキンソン病・ハンチントン病・脳卒中)との関連性が報告されています。

■ファスティング

 長寿遺伝子サーチュインを上げる方法は、運動の他、テストステロン、PDE5阻害薬(美容通信2026年2月号)(美容通信2025年9月号)、ポリフェノール(レスベラトロール)と言われています。最近その中で、カロリーを制限するのではなくて、食事を飛ばす、つまり、ファスティング(美容通信2016年3月号)が多くの医学的な効果がある事が分かって来ました。認知機能の改善から始まって、心血管疾患のリスクの軽減や、血圧や脈拍を下げる、喘息(アレルギー)の改善、血中コレステロール値や中性脂肪値が改善する、内臓脂肪が減る、筋肉量の増加、全身的な炎症の改善。肝臓や筋肉でのインスリン感受性の改善(糖尿病の予防・改善)、腸内細菌の変化、癌予防等、非常に多くの作用がある事が分かって来ています。

 古来、ファスティングは断食として世界中で行われて来ました。老子や荘子等の中国の哲学者の思想をまとめた淮南子の中には、「肉を食べるものは勇敢であり、穀物を食べるものは知恵があるが、どちらも早死にをする。食べないで、気を充実させると、不老不死になる」との記載があります。また、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教では、重要な祭日の前に断食を行います。例えば、イースターのお祭りも、元々は、断食明けに行う祝日だったそうです。当然仏教でも、断食が登場します。断食とかファスティングは、辛いもの、苦しいものとの誤解を受ける事が多いですが、実際行ってみると、集中したり、活力が沸いたりして、正に若返った感じがします。

 ファスティングは、元々、老化と寿命に影響すると言われていましたが、近年、生活習慣病や老化の関連疾患にも作用するだけでなく、多くの臓器がファスティングによってホメオスタシスを回復する事が分かっています。細胞はファスティングによる反応として、抗酸化作用、DNAの修復、蛋白質の調整、ミトコンドリア生成、オートファジー、炎症のダウンレギュレーションが高まります。

  • ファスティングでは、ケトン体がエネルギー源として使われる

   炭水化物は糖になり、体のエネルギー源となりますが、この過程に於いて、活性酸素(美容通信2017年10月号)と言ういらないオマケが付いて来ます。つまり、炭水化物を摂れば摂る程、体は錆びて行く。老化をして行くんです。

   ファスティングでは、エネルギー源としていた炭水化物、糖類を断ちます。しかし、体は何処からかエネルギーを得る必要があり、苦肉の策ではありませんが、脂肪を分解して、遊離脂肪酸になり、それがケトン体になります。このケトン体をエネルギー源として使うと言う奥の手を選択します。このケトン体には抗酸化作用があります。また、面白い事に、ファスティングをすると、基礎代謝量が上がります。通常食事を摂ると、インスリンが分泌します。これをしっかり使ってしまえれば問題はないのですが、使えないと体脂肪として蓄えられてしまいます。ダイエットとファスティングの違いですが、食事のカロリーを減らしてもインスリンは分泌されます。ダイエットでカロリーが減った分だけ、必然的に代謝も減ってしまいます。ファスティングは、逆に蓄えているエネルギーを使って、脂肪を燃やすので、基礎代謝量が上がるので、実は両者は似ているようで、全く違うんですね。

高齢者のフレイル・サルコペニアとホルモン

虚弱高齢者(フレイル)

 フレイル(美容通信2027年6月号)(美容通信2019年2月号)とは、高齢期に生理的予備能が低下する事で、ストレスに対する虚弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡等の転帰に陥りやすい状態の事で、要介護の12.1%、要支援の16.2%を占める主な原因疾患です。

 フレイルの評価方法(改訂J-CHS基準)は、以下の通り。

  ①体重減少:6ヶ月で、2kg以上の意図しない体重減少

  ②筋力低下:握力)男性<28kg 女性<18kg

  ③疲労感:ここ2週間、訳もなく疲れた感じがする

  ④歩行速度:通常歩行速度<1.0m/秒

  ⑤身体活動:ⅰ)軽い運動・体操、ⅱ)定期的な運動・スポーツの2つの何れも、週に1回もしていない

 

テストステロンの高い人は、長生きする

 左図は、日本人に於ける軽介護を受けている男性117名について、性ホルモンと生存率の関連性を平均28ヶ月に亘って追跡調査した研究結果ですが、テストステロン値が高い人は、生活機能も、意欲も、認知機能も保たれており、長生きする事が分かっています。

 SAMP8マウスは、老化モデルマウスで、認知症を呈する事が知られています。このマウスのテストステロン値を測定すると、コントロールマウスに比較して、血中のテストステロン濃度が低くなっています。

 また、老化によって濃染するSA-β‐gal染色で精巣を染色すると、上図の如くに、SAMP8マウスでは明らかに濃染され、精巣での老化が確認されます。DHT(ジヒドロテストステロン)(美容通信2024年12月号)(美容通信2013年2月号)を投与すると、SA-β‐gal染色で濃染されて、所謂老化像を示していた海馬・第三脳室付近でも、長寿遺伝子であるSIRT1遺伝子が惹起され、濃染も消えます。テストステロン投与で、認知機能も改善が認められました(美容通信2026年2月号)。

 

性ホルモンとエピジェネティッククロック

 前述の通り、エピジェネティッククロックは、DNAメチル化パターンを基に、生物学的年齢を推定するものです。研究によると、エピジェネティッククロックは、健康状態や疾患リスクと強い相関がある事が知られています。

 その中で、性ホルモン(特にテストステロンとテストステロン/エストラジオール比=TE比)は、性差に応じた健康格差に関与している可能性があり、性ホルモンがエピジェネティッククロックにどう関係しているかを調べた研究を、生物時計を発見したHorvathさんが行っているので、紹介しますね。性ホルモン濃度とDNAメチル化に基づく老化/死亡リスクバイオマーカー(Pheno-Age加速、Grim-Age加速、DNAm-PAI1、DNAm‐レプチン等)との関連を調べました。データは3つのコホートからプールし、男性1612人、閉経後ホルモン療法非使用女性が1062人を対象にしています。

 男性の中でテストステロンの値、そしてテストステロンとエストロゲンの比が、炎症のクロックであるDNAm-PAI1の低下と関連していました。つまり、テストステロンの高い人は、炎症に基づくエピジェネティッククロックの指標を若返らせ、老化加速指標も若くなると言う事が分かりました。女性では、エストロゲンそのものではなく、SHBG(性ホルモン結合グロブリン)のみがDNAm-PAI1の低下と関連しており、これが炎症の抑制関連していました。

 まとめですが、男性では、テストステロンや、テストステロンとエストロゲン比が高い人は、エピジェネティック的な加齢指標の改善(若返り傾向)と関連している可能性があります。男女共に、SHBGはDNAm-PAI1の低下と関連しており、これが炎症の低下と関係していました。テストステロンの値自体も確かに重要ではありますが、エピジェネティッククロックの個々の項目を低下させる介入があれば、DNAm-PAI1そのものが心血管リスクや炎症・代謝異常との関連から、寿命・心血管血管健康に対するテストステロンの保護効果の指標となる可能性があります。

 

加齢に伴う筋肉量の推移

 加齢に伴い、筋肉量は著しく低下、萎縮するだけでなく、筋肉の質の低下、骨量の低下が起こり、死亡リスクも上昇します。

■速筋特異的なARノックアウトマウス

 速筋特異的ARノックアウトマウスは、生存的には通常のマウスと同じ2年位の寿命ですが、筋量を測定しますと、1年位の所謂中年期から骨格筋の筋重量の低下が始まり、2年の高齢マウスではそれが著明になります。しかし、筋量の低下の前に、13週辺りから、握力やトレッドミル等の、筋のパフォーマンスの低下が認められます。

 下図を見て下さい。この速筋特異的ARノックアウトマウスは、名前の通り、タイプⅡの速筋だけのARのシグナリングを遮断したマウスですが、タイプⅠの遅筋が10%程度増えている事が知られています。筋のボリュームに変化はないように見えても、中身は、つまり、どうも、速筋から遅筋へのトランジションが、代償的に、若い頃から起こっていたのではないかと推定されます。それが加齢に伴って、前期高齢者位の年齢になると、筋肉のボリュームも加齢に伴って落ちて来て、多少は速筋の方が減少が著しくはありますが、速筋も遅筋もどちらも減少します。

■テストステロンと筋力

 テストステロンと筋力は、正の相関をする事は、様々な疫学的調査からも知られており、テストステロンの低い群では、将来サルコペニアのリスクが高くなります。

■サルコペニア肥満

 最近は、サルコペニア肥満が注目されています。普通体型や寧ろ肥満に見える場合でも、筋肉量が少なく、脂肪が多い状態で、身体機能の低下が著しく、転倒・骨折のリスクが高いだけでなく、糖尿病や脂質異常症等の代謝性疾患や、心血管リスクも高くなる事が知られています。

 一般的に、肥満の治療は、ダイエットと運動ですが、肥満に対する所謂減量療法(diet)は、減量が加齢に伴う筋肉量・骨密度の低下を悪化させ、フレイルを悪化てしまいます。つまり、単に減量だけではダメ!なんです。減量と有酸素運動を組み合わせて、身体機能は改善出来も、減量に伴う筋肉量及び骨塩量の減少は補足出来ません。その為、筋肉量・骨塩量減少を最小限とした、ライフスタイルへの介入(lifestyle intervention)が必要になります。

 

テストステロンと運動療法

 サルコペニアは、加齢と非常にリンクしていますが、加齢に伴ってテストステロンが減少するLOH症候群も、当然、筋量・筋量の低下と関係しており、この両者は非常に関連しています。サルコペニアもテストステロンの減少も、骨塩量の低下を介して、転倒・骨折のリスク、QOLの低下、健康寿命の短縮に関連しています。

 サルコペニアに対するテストステロン補充療法ですが、海外で実施されたRCTの有効性ですが、筋肉量の増加、除脂肪体重の減少を示しているものもありますが、筋肉量を増加させる事は良く知られています。日本人を対象にしたRCTでも、1年間のテストステロンの補充により、握力は有意に改善し、全身筋肉量も治療後半年の時点で改善が認められており、テストステロン補充はサルコペニアの予防になるのではないかと考えられています。

 しかし、筋肉量・身体機能の改善に対するテストステロン補充療法の効果は、補充療法単独だけよりも、運動療法を併用する事で最大限に発揮されます。

■運動により、ビタミンD受容体(VDR)とアンドロゲン受容体(AR)の発現が変化する。

 C2C12細胞と言う骨格筋の細胞を培養して、シャーレにピコピコっと電気刺激を行うと、時間の経過と共に低下はしてしまいますが、アンドロゲン受容体(AR)の発現が増します。同様の現象は、ビタミンDの受容体でも起こります。

 運動によって、ホルモンも惹起する事が知られていますが、ホルモンの受け皿であるARやVDRも発現が増強すると考えられています。マウスに於いては、in vivoの結果ですけれども、トレッドミルで走らせた後では、AR、VDRの発現が共に上昇しています。つまり、運動により、内因性のホルモンだけでなく、ホルモンの受け手であるレセプターの発現も上がります。しかし、これが、組織特異的なのか、また、加齢によってどう変わるのか、性差があるのか等々については、今後の研究報告が待たれるところです。

■高齢者に於ける筋量・筋力と血中ビタミンD濃度

 右図は、日本内分泌学会誌(2017)から拝借した、ビタミンD不足・欠乏の判定指針です。

 2010年のClin Endocrinol(Scott D. et al.)論文によれば、ビタミンDが足りていれば、筋肉の量も筋力もアップしていますし、裏返す様に、脂肪の量も少ないとの報告があります。

  25(OH)D3≦20ng/ml 25(OH)D3>20ng/ml
脂肪量(%) 34.5±8.0 32.2±7.5
四肢筋肉量(%) 59.3±9.9 62.2±9.6
下肢筋力(kg) 91.5±47.8 100.8±50.1

 

補中益気湯のテストステロン様作用

 補中益気湯の様な補剤も、フレイル対策としては虚証に対しては補剤を補う事が知られていますが、後肢懸垂モデルマウスに漢方薬の補剤を投与すると、部分的ではありますが、マウスの骨格筋量が増えて来ているとの報告があります。漢方薬にはテストステロンは含まれてはいませんが、テストステロン様の作用が認められています。

男性骨粗鬆症

骨強度=骨密度+骨質

■骨強度

 骨粗鬆症は、骨強度の低下により、骨折リスクが増大した状態を指します。骨強度は、骨密度が7割と骨質が3割で、この2つで定義されます。骨粗鬆症では、この2つが様々な割合で低下して、骨強度が低下し、骨折が起こります。骨折の発生部位としては、大腿骨近位部、椎体、肋骨、骨盤等があります。日常臨床では、骨密度の測定は可能な指標で、体幹部の骨密度が評価されます。一方、骨質は、骨密度以外の骨強度を規定する全ての因子の総称で、今現時点では一部を除いて、臨床的な評価は難しい為、日常的には、骨密度が骨強度の代表的な指標として考えられています。

■骨密度

 右図は、骨密度の年齢による変化を示したものです。骨密度は成長と共に増え、20~30代の性生殖期をピークに暫くは維持されます。しかし、女性では、閉経期、50歳前後になると、女性ホルモンが急激に低下します。それに伴って、骨吸収が亢進、骨形成も亢進し、高骨代謝回転の状態になって、その状態では骨形成が骨吸収に追い付かなくなって、骨量が急激に減ってしまいます。男性では、そう言った急激な変化は認められなません。その後男女共に、加齢と共に、骨密度はゆっくり低下します。

 

男性骨粗鬆症

 男性の骨粗鬆症は、頻度的には女性の1/3程度。殆どの骨粗鬆症は、性ホルモンの低下や加齢に伴う原発性骨粗鬆症ですが、一部にはその他の疾患とか病態が原因となる続発性の骨粗鬆症があり、これは男女差がありません。つまり相対的には、男性では、続発性骨粗鬆症の割合が高くなっています。

 加齢と共に骨折は急増します。例えば、大腿骨近位部の骨折の発生率ですが、男性でも女性でも、70歳を超えて来ると、この様に急激に骨折率が上がって来ます。最近では、90歳以上の大腿骨頸部骨折が非常に増えています。大腿骨頸部骨折の生命予後は非常に悪く、1年以内の死亡率は、海外含めて20%以上。特に男性では、死亡率が高くなっています。

■骨粗鬆症の診断

 骨粗鬆症の診断は骨密度と骨折の組み合わせで行います。椎体や大腿骨の骨折があれば、それだけで骨粗鬆症ですし、骨密度が低下していればそれだけで骨粗鬆症。具体的には、若年成人平均値との比較で、70%未満だと骨粗鬆症になります。また、その他の骨折があって、骨密度が70~80%未満の骨量減少症があっても、骨粗鬆症になります。ここで重要なポイントとしては、椎体骨折の2/3は無症候性で、いつの間にか骨折。積極的な診断としては、レントゲン写真での評価が非常に重要になります。

 詳細は省略しますが、この椎体骨折の重症度は、3段階で評価します。グレード1が軽度で、2、3と、誰が見ても明らかな骨折になります。女性ではグレード2以上の高度の椎体骨折が多いのですが、男性ではグレード1の軽度のT12、L1の椎体骨折が多いのが特徴です。

■COPDと続発性骨粗鬆症

 慢性閉塞性肺疾患(COPD;Chronic Obstructive Pulmonary Disease)とは、煙草煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露する事で生じた肺の炎症であり、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病です。主な症状は呼吸器症状ですが、様々な全身の併存症を合併する事が知られています。その一つが、骨粗鬆症。日本では、40歳以上の人口の8.6%、約530万人の患者が存在すると推定されていますが、大多数が未診断、未治療の状態で、隠れCOPD&骨粗鬆症が潜在的に多く存在すると考えられています。

 COPDでは、骨密度も低下していますが、構造的な骨質も劣化が認められます。

 TBS(Trabecular Bone Score)は、COPD病期に依存します。TBSは、骨質、つまり海綿骨微細構造を反映する指標で、DXA画像の濃淡から算出されます。骨密度が同じであっても、綺麗な構造のものでは高め、バラバラした構造のものでは低めに表されます。TBSは、骨密度とは独立した骨折のリスク因子と考えられています。男性で、COPDの患者さんでTBSを見たところ、呼吸機能が比較的保たれているGOLD1と比較して、2、3&4と呼吸機能が低下するに従い、TBSが有意に低値になります。COPDでは病気の進行と共に、骨質が悪くなります。

 COPD合併骨粗鬆症では、初期の段階から、慢性炎症を基盤として、骨質が低下します。また病期が進行すると、呼吸機能が低下し、低体重が進行し、更に合併するサルコペニアと共に骨密度の低下が認められるようになります。また、COPDではビタミンD不足が多いと言われていて、ニコチンや病気の影響が考えられます。この様にして…フレイルが進んで、骨折も増えて、予後も悪くなる…。

■Ⅱ型糖尿病と続発性骨粗鬆症

 Ⅱ型糖尿病との関係ですが、肥満を背景に骨密度は高いと言われています。骨密度が低下すればするほど、糖尿病でも非糖尿病であっても、骨折は増えます。糖尿病では骨密度は高いとは言われてはいますが、骨密度が低下する事は、骨折リスクが上がります。また、骨密度が同じ場合、糖尿病ではより骨折が多くなります。糖尿病自体が骨折リスクですし、骨質の劣化が骨折に繋がります。

 糖尿病に於ける骨質の変化は、HR-pQCTのデータがあります。左から、非糖尿病、骨折のない糖尿病、骨折のある糖尿病。骨折のある糖尿病では、皮質の部分が穴がポコポコ空いています。つまり、皮質骨の多孔化と言われるもので、これが骨折リスクに繋がります。TBS、つまり、海綿骨の指標についても、やはり糖尿病では落ちており、COPD同様に、慢性炎症が関係します。

 

炎症老化と生活習慣病合併骨粗鬆症

 生活習慣病、男性ではCOPDやⅡ型糖尿病疾患が併存している事が多いですが、この様な疾患と骨粗鬆症の共通の基盤としては、近年、炎症老化が注目されています。

 Agingは、様々な疾患の原因になります。そもそも、骨粗鬆症は加齢と共に進行するのですが、糖尿病だったり、認知症だったり、CKD、動脈硬化性疾患等、こう言った様々な疾患が加齢と共に増えて来ます。骨粗鬆症は、これ等加齢関連疾患の共通の基盤があるという事が分かって来て、老化のメカニズムを解明して、制御する治療の研究が最近進んで来ました。

 老化を進める機序としては、前述のHallmarks of Agingの12の機序が提唱されています。これ等の要因は、全て加齢と共に出現し、これを実験的に悪化させると、老化が加速します。反対に、実験的に改善させると、老化が遅延して健康寿命が延びます。これ等の要因は、一つ一つ勝手に働いているのではなく、互いに密接に関連していて、一つの機序の破綻が周りに悪影響を与えます。続発性骨粗鬆症の関連として、この中で特に注目されるものとしては、慢性炎症です。

■慢性炎症と老化細胞

 私達の正常の細胞と言うものは、基本的にはアポトーシスに陥るか、アポトーシスを逃れて老化細胞(美容通信2026年10月号)として生き延びるかのどちらかになります。様々なシグナルによって、炎症のカスケードが進行し、細胞周期制御因子であるp21、p16、p51等の転写因子を活性化して、その下流の転写因子カスケードを活性化。その結果、細胞を老化させると言われています。この老化した細胞と言うのは、SASP(美容通信2027年9月号)と呼ばれる炎症性サイトカインとか、プロテアーゼとか、様々な因子を分泌します。それにより、様々な免疫細胞が集まって来て、一部はそのまま排除されます。一方で、生き残ってしまった老化細胞は、周囲の細胞を更に老化させて、周囲の細胞、組織を傷害っします。これが老化を齎す機序です。骨の組織に於いても、SASPが骨の老化に非常に重要になります。

 実際に、私達の全身性炎症を反映する高感度CRPの高値は、骨折リスクになります。3万人を対象にした10個の観察研究によれば、高感度CRPで、最も高値の群と低値の群を比較すると、最も高値の群で骨折率が高いと報告されています。

 

加齢によるビタミンD代謝異常は、骨粗鬆症の増悪因子

 ビタミンD(美容通信2013年3月号)は、骨、Ca代謝にとって重要なホルモンで、非常に低下すると、低Ca血症になったり、骨軟化症・くる病を呈しますが、日常臨床では非常に稀です。成人に於けるビタミンD不足と言うのは、続発性副甲状腺機能亢進症を齎して、低骨密度になり、転倒リスク、骨折リスクに繋がります。ビタミンDの充足状態と言うのは、血清25(OH)D濃度で評価し、30以上が正常。20~30未満が不足。20未満が欠乏と定義されています。

 ビタミンDの代謝は、加齢によっても影響を受けます。皮膚でビタミンDは合成されますが、加齢でビタミンDの合成が低下します。また、腸管や腎臓に於いては、活性型である1,25(OH)2Dの産生が低下したり、分解が亢進すると、抵抗性が増したりして、Caの吸収が低下します。骨や筋肉に於いては、前述の通り、ビタミンDの受容体が発現していますが、加齢と共に発現が低下して、骨芽細胞分化であるとか、蛋白の分解に係るという事が言われていて、骨量減少やサルコペニアに関わっています。

 25(OH)Dと骨密度は、骨密度は正の相関を示し、ビタミンD不足が(大腿骨頸部の)骨密度に関係しています。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群OSA(Obstructive Sleep Apnea)

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)では、睡眠中に起こる上気道の部分、又は完全閉塞により呼吸停止(10秒以上持続する無呼吸または低呼吸と定義される)が認められ、それに続いて覚醒及び過呼吸を来すエピソードが複数回認められます。症状としては、日中の過度の眠気、不穏状態、いびき、繰り返す覚醒、起床時の頭痛等があります。肥満の有病率の増加に伴い、本疾患の有病率も増加しています。世界で推定10億人が罹患しており、その大半が未診断且つ未治療とされています。症状を伴うある程度のOSAは成人の8~16%で、男性で4倍多く、肥満患者(BMI[body mass index] ≥ 30)で7倍多い事が知られています。

 テストステロンとOSAとの関連は、1978年にStrumpfらによって初めて報告されました。テストステロン値は一般的に朝高く、1日の終わりに低くなります。OSAの患者さんでは、反復性の呼吸停止によって、夜間の低酸素血症が起こり、これが非肥満の中年及び高齢のOSA患者のテストステロン値の低下と関連していると考えられています。

 肥満、テストステロン低下、OSAとの関連については多くの論文があり、テストステロンの低下は、様々な病態と関連しています。睡眠障害もLOHの代表的な症状であり、テストステロン値と睡眠の質には正の相関があります。睡眠障害は、テストステロン値の低下、勃起障害とも関連しています。

 テストステロン補充療法とOSAについては、2007年の段階では手引きで禁忌の扱いされていましたが、現在ではOSAは禁忌ではなく、OSAは多血症と関係があるので、多血症に注意とされています。

LOH症候群

LOH症候群の定義

 性腺機能低下症のうち、染色体異常、遺伝子異常、或いは精巣の障害、腫瘍、機能異常、及び中枢神経系等の疾患に起因するものではなく、主として加齢或いはストレスに伴うテストステロンの低下による症候群を、加齢男性性腺機能低下症候群(Late-onset hypogonadism:LOH症候群)と呼んでいます。テストステロンは、体全体に作用するホルモンであり、皮膚や毛髪(頭髪は禿げる傾向にある、髭は濃くなる)、中枢のも作用するだけでなく、筋肉や骨、肝臓、エリスロポエチンの産生にも関与しています。心血管系の他、男性の外性器や内性器にも作用します。

 

LOH症候群の診断

 LOH症候群では、加齢に起因すると思われる色々な症状が出現します。性機能症状だったり、精神症状だったり、身体症状だったりと、実に多彩です。これらの症状の原因となる様なリスクファクターを、先ずは探索すし、疾患に伴うものであれば、その原因となる疾患を治療します。そうではないと考えられる場合は、総テストステロン(閾値を250ng/dl)の低下がないかを考えます。しかし、総テストステロンは大丈夫でも、遊離テストステロンの値を見て、どちらかで低下があって、症状があれば、LOH症候群の治療を始めます。今回の手引きのポイントは、測定値に拘わらず、総合的に判断する事が重要とされた点です。元々高かった人が、少し下がる事で症状が出る事もあり得る為で、単純に閾値だけでは評価出来ないからです(美容通信2025年6月号)。閾値に拘わらず、必要があれば、積極的に治療を行う必要があります。

 

男性ホルモン補充療法

 一般的に男性ホルモン補充療法を考慮する時は、治療に適応に関しては、症状の有無を重視します。治療の目的としては、副作用を最小限にしつつ、症状を改善する事です。

■男性ホルモン補充療法の方法

 実際の男性ホルモン補充の方法(美容通信2014年7月号)としては、筋肉内投与が一般的です。後述の通り、テストステロン ゲルは、性機能と気分の改善については、注射剤と同等の効果が認められていますが、多血症のリスクについては注射剤よりも低く、安全性は高いとされています。塗布後、24時間で定常状態に達し、塗布中は正常範囲内に保たれるとされています。

  • テストステロンエナント酸エステル:125~250mgを2~4週間毎に筋肉内投与。
  • ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG):男性ホルモンの補充を行った場合、男性ホルモンんいよるネガティブフィードバック掛かってしまって、造精機能に影響が出て来てしまう可能性があります。患者が造精機能の温存や挙児希望の場合は、HCGを使うのがお約束とは言われてはいますが…現在出荷調整で、実臨床では新規使用が事実上不可能!
  • 男性ホルモンクリーム/ゲル製剤剤:1UPフォーミュラ(美容通信2026年2月号)・エスクテム(美容通信2027年2月号

■どれくらいで効果が出現するか?

 Lunenfeld B, Aging Male, 2013; 16: 143-150によると、一般的には、代表的な症状としては、性欲低下に対しては効果が早く現れやすく、3週間以内と言われますが、最大でも6週間。QOLの改善は、3~4週間以内とは言われていますが、最大の改善を得るには長くやりなさい(笑)と言う…良く分からない記載がされています。抑鬱症状とLOH症候群の関連については、はっきりとは認められてはいませんが、テストステロンの補充により十分な効果が認められます。補充により、比較的早い段階での症状の改善が認められますが、最大の改善を得る為には18~30週間と長期の治療が必要です。骨とかに関しては長めの治療期間が必要ですし、脂質異常については早めの症状の改善は認められるが、最大の効果を得る為にはやはり1年くらい掛かります。インスリンの感受性の改善も比較的早期から認められますが、血糖のコントロールが実際的に良くなるのには、もっと長い期間が必要です。

  • 性欲低下:3週間以内。6週間で最大の改善。
  • 生活の質:3~4週間以内。最大の改善を得るには、長期間の治療が必要。
  • 抑鬱:3~6週間後。最大の改善が起こるのは、18~30週間後。
  • 骨:骨密度に対する完全な有効性は、24ヶ月若しくは36ヶ月後。
  • 脂質異常:4週後。最大の効果は6~12ヶ月後。
  • インスリン感受性:数日以内。血糖コントロールは、3~12ヶ月後。

■治療期間

 ガイドラインによる治療期間は、治療開始後3ヶ月毎に治療判定を行い、治療継続の適否を判断する事になっています。唯、臓器ごとに改善に要する期間は、上記の様に、結構機関がバラバラなので、その患者さんが求めている事に合わせて、つまりどういう事で困っていて、どういう事を改善したいかは、治療をしながら、長期的に治療を継続するのか、短期的に止めてしまうのかを、夫々判断する必要があります。しかし、一般的には…長期亘る事が殆どです。

■男性ホルモン補充療法による副作用

 男性ホルモン補充療法による副作用としては、多血、肝機能障害、痤瘡、精巣萎縮等が知られており、特に、静脈血栓や肺梗塞は致死的な病態となり得ます。しかし、テストステロン ゲルは、多血症のリスクについては注射剤よりも低く、安全性は高いとされています。

 テストステロンゲル投与群では、プラセボゲル群に比して、血清テストステロンレベルが高い事が知られています。しかしながら、心血管累積発症率は同等。心血管疾患死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中に於いても同等との報告があります。

 しかし、統計上有意ではありませんが、静脈血栓イベントは、若干テストステロン ゲル投与群で多い傾向が認められています。また、非致死性不整脈、心房細動、急性腎障害は、テストステロン ゲル投与群で有意に高頻度に認められました。

 

2015度年岩木町健康増進プロジェクトから、EDを考察する

皮膚終末糖化産物AGEsは、EDの誘因であるが…。

 皮膚終末糖化産物AGEs(美容通信2015年10月号)は、酸化ストレスの誘因になり、これが血管内皮の障害、動脈硬化に繋がり、これがEDの危険因子(美容通信2025年10月号)になると考えられています。

 しかしながら、AGEsの蓄積はEDの危険因子と考えられてはいますが、AGEsが蓄積しやすい糖尿病患者とか糖尿病モデルラットのみでの検討であって、健常者の男性については実はデータがありません。

■Antioxidantsとしてのビタミン類・カロテノイド類

 ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類や、ルテイン、ゼアキサンチン、β‐クリプトキサンチン、α-カロテン、β-カロテン、リコピン等のカロテノイドは、Antioxidantsとして知られいます。

 酸化ストレスはEDの危険因子だ!!と言う論文は、非常に多数ありますが、意外にAntioxidantsとEDの関係性について触れた論文は殆どなく、精々、ビタミンEとPDF-5阻害薬の相乗効果の検討した論文が幾つかある位です。ましてや、ビタミンやカロテノイドとEDの関係性について言及した論文はありませんし、また、これらが、AGEs蓄積との関係性について調べた論文もありません。

 2015度年岩木町健康増進プロジェクトで、EDの診断が付いた335人について、この関係性について調べた報告があるので抜粋しますね。皮膚のAGEs濃度は、皮膚自家蛍光を測定。血中ビタミン類・カロテノイドは、高速液体クロマトグラフ法で測定しました。これを逆確率重み付け法による多変量解析を行ったところ、AGEsは、重症EDのリスク因子で、各ビタミン・カロテノイド類は、5つのカロテノイドがAGEsと負に相関していました。しかし、AGEsは加齢と可なり相関しており、年齢での調整を掛けたところ、カロテノイド類であるゼアキサンチンだけが、AGEsと負の相関を示しました。

 つまりこの研究から、以下の事が分かりました。

①AGEsは、ED重症度と正に相関する。

②ビタミン類・カロテノイド類は、ED重症度と負に相関する。

③ゼアキサンチンは、AGEs蓄積を防ぐ事で、EDの重症化を予防する可能性がある。

 

加齢に伴う諸症状は、DHEAの補充で改善?

 2015度年岩木町健康増進プロジェクトでは、テストステロンの濃度も測定していますが、約97%はほぼ正常。しかし、AMSスコアだけに限ってみると、症状無が43%で、半数以上が軽症以上で、何かしらの症状を有していました。つまり、これは、テストステロン値は正常にも拘らず、AMSスコアで見る限り、何らかの症状がある事を意味し、ひょっとするとテストステロンだけではなくて、他の性ホルモンがスコアに影響を与えている可能性が示唆されました。

 テストステロン値は閾値以上あれば、EDと相関せず、DHEA(美容通信2026年2月号)(美容通信2025年6月号)がEDと相関する事が分かっています。DHEAはテストステロンの前駆体で、アンドロゲン活性はテストステロンの5%程度あり、これがEDと相関している理由ではないかと考えられています。その他にも、血管内皮細胞にも独自の受容体を持つと報告されており、例えば、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化したり、G蛋白質依存的にeNOSを安定化させて、NO(美容通信2025年9月号)産生を促進します。また、細胞の保護・代謝改善作用が報告されており、インスリンの感受性の改善や、フィブリン溶解抑制因子の低下、抗動脈硬化作用、抗酸化作用が認められています。他にも、分かっていないメカニズムで、様々な生理活性を持っているのではないかとも考えられており、非常に興味深い性ホルモンとされています。

 左図を見て下さい。テストステロンとDHEAの年齢との相関を見てみると、テストステロンと年齢は有意に相関する事はありませんでした。しかし、DHEAに関しては、年齢と共にかなり急激に下がります。DHEAとAMSスコアの相関を見てみると、そんなに強くはないけれども、有意に負に相関しているので、ひょっとすると、LOH症候群とは別の話で、老年医学の領域になってしまうかも知れませんが、加齢に伴う諸症状はDHEAの補充で改善する可能性があります。

その他の治療方法:漢方薬

 漢方薬は、テストステロン補充療法が禁忌であったり、適応外の際に、症状に応じた漢方薬を選択します。

  • 当帰芍薬散[虚証]:筋肉軟弱、易疲労性、腰脚の冷え~貧血、倦怠感、更年期障害、月経不順
  • 加味逍遙散[(虚~)中間証]:体質虚弱な御婦人、易疲労感、精神不安~虚弱体質、月経不順、更年期障害
  • 桂枝茯苓丸[実症]:しっかりした体格、赤ら顔、腹部充実~月経不順、更年期障害、睾丸炎
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯[中間証]:比較的体力あり、心悸亢進、精神症状~高血圧、神経衰弱症、陰萎
  • 八味地黄丸[虚証]:疲労、倦怠感、頻尿~陰萎、腰痛、膀胱カタル、前立腺肥大
  • 補中益気湯[虚証]:消化機能低下、四肢倦怠感、虚弱体質~食欲不振、陰萎、多汗症
  • 柴胡桂枝乾姜湯[(虚~)中間証]:体力弱く、冷え性、神経過敏~更年期障害、神経症、不眠症
  • 抑肝散[中間~やや虚証]:虚弱な体質、神経が昂る~神経症、不眠症

その他の治療方法:冬虫夏草(サプリメント)

 馬軍団とは、1990年代に中国の国威発揚に大きく貢献した陸上競技チームです。同チームの構成メンバーは、遼寧省内で優秀として選抜された中長距離選手20人程で、チームを率いるコーチの名前が“馬俊仁”だったことから、“馬家軍(馬軍団)”と呼ばれるようになりました。しかし、ドーピング疑惑によって2000年シドニーオリンピック出場が出来ず、馬俊仁は、2004年、失意のうちにコーチを辞任し、競技指導を離れました。しかし、彼はそれだけで終わる様な男なんかではなく、陸上競技指導から得た知識を元に作成した栄養ドリンクの調合レシピを中国企業に売却し、1000万元(当時1億2000万円)を得ました。日本では、江戸時代からその概念が知られるようになりましたが、世間様に爆発的に認知度が拡がった(←少なくともHISAKOがその存在を知った!)のは、冬虫夏草を元にした馬軍団の疲労回復ドリンクとして、大手商社(日商岩井)が販売権を得て発売してからです。

 しかし、冬虫夏草の歴史は古く、9世紀頃、『酉陽雑俎』に登場したのが最初です。中国唐代の段成式による随筆で、博物学的知識から奇事異談まで様々な内容を扱っており、全20巻及び続集10巻からなります。冬虫夏草とは、簡単に言うと、昆虫や節足動物に寄生し、その体内で成長してキノコ状の構造(子実体)を形成します。中でも非常に有名なものは、シネンシス冬虫夏草です。これは標高3000m以上のチベット高原等に生息し、コウモリガの幼虫に寄生して、キノコ状の構造を構造を延ばします。元々は、チベットの遊牧民が、1500年ほど前に、これを食べた家畜が元気になる事から、その機能を発見とされています。唐の時代、清では、精力剤・長寿薬として、皇帝への献上品として珍重されていました。私達の様な庶民には、手の届かない高価な生薬です。

 冬虫夏草は、特定の菌種が特定の宿主に寄生すると言う、菌-宿主のペアが基本になります。日本で流通している国産の冬虫夏草のサプリメント(第一工業製薬)は、カイコの幼虫に、ミリタス菌を感染(皮下注射)させて製造している冬虫夏草が主流のようです。非常に多くの有効成分が含有されていますが、主なものとしましては、セノリティクス(老化細胞除去)(美容通信2026年10月号)(美容通信2027年9月号)ではなくて、セノモルフィックス(老化細胞を抑える)成分が挙げられます。

■冬虫夏草の臨床試験1

 肥満傾向の被検者に於いて、唾液中テストステロンが有意に増加しました(サブグループ解析結果(BMI≧25kg/m2))。

■冬虫夏草の臨床試験2

 AMSスコアの総スコア、心理的因子、身体的因子が有意に改善しました(解析対象集団(PPS)解析結果)。

 


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

*使用中や使用後、刺激またはアレルギーによる赤み、かゆみ、痛み、腫れ等の異常が現れた場合、使用を中止し、医師に相談してください。