広範囲円形脱毛症の新薬・リットフーロとその他の脱毛症(男性型/女性型/老化/瘢痕等)の治療の新戦略旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2024年12月号

広範囲円形脱毛症の新薬・リットフーロとその他の脱毛症(男性型/女性型/老化/瘢痕等)の治療の新戦略

薄毛・抜け毛・脱毛と一括りも申しましても、老化による脱毛、男性型(AGA)、女性型、円形脱毛症、瘢痕型、休止期脱毛等々と様々な原因があり、トリスコピー等による非侵襲性の検査を踏まえながら、適切な治療を行う必要があります。
我が国では、これまで円形脱毛症の発症にストレスが強調され、男性型脱毛症では科学的根拠のないケアが氾濫していました。これは頭髪の伸びが遅い為に、受けた治療法やケアの効果を患者さんが実感し難い事が、科学的根拠に基づかない治療穂が蔓延る原因となっています。前回の美容通信の特集から10年ちょっと。最近のトピックスと併せて、脱毛症の新戦略を特集します。

 「ルッキズム」とは、人を見た目や身体的特徴によって差別することを指す言葉です。ルッキズムは、外見至上主義、美貌差別、外見差別、外見を重視する価値観等とも呼ばれます この言葉は、韓国の作家が1990年代に提唱したもので、その後日本でも広く知られるようになりました。

 「ルッキズム」を決して肯定する訳ではありませんが、毛髪に係る病気、特に円形脱毛症や、男性型/女性型脱毛症は、体の機能には大きな障害にはなりませんが、その人の(外観の)印象を大きく左右するものです。科学的な根拠がある治療なら、決してすぐには効果は表れなくても、試す。そして、治療を継続する価値はあります。

毛の基礎

毛周期

 毛包は、一生涯に亘り、成長期・退行期・休止期からなる毛周期を営んでいます。人の頭髪では、成長期は2~6年、退行期は1~2週、休止期は数ヶ月です。私達の頭髪は約10万本あり、そのうちの約85~90%が成長期で、それ以外の毛は退行期若しくは休止期です。私達人間では、個々の毛包が独立独歩。夫々に独立した毛周期(モザイクパターン)を営んでいます。正常でも、1日100本前後の頭髪が抜けています(生理的脱毛)が、新たな成長期毛によって補充されるので、全体のバランスは保たれてるので、ご安心を!

 成長期には、毛隆起部(バルジ)に局在する上皮幹細胞のニッシェから、毛母に細胞が供給されます。毛母細胞は、毛乳頭細胞からの刺激を受けながら、盛んに分裂・増殖して、毛包を構成する各層の細胞に分化します。

 毛包には、甲状腺ホルモンやエストロゲン等の、多数のホルモンの受容体が発現しています。

 

毛包幹細胞

 胚幹細胞(ES細胞)、生体組織幹細胞、多分化生体前駆細胞を用いた幹細胞(美容通信2022年12月号)の研究は、再生医療(美容通信2023年3月号)への期待とも重なり、全世界で注目を集めています。近年、多分化能を有する毛包幹細胞は、ネスチンと言うclassⅣの中間径フィラメントを発現しているそうです。

■毛包幹細胞のマーカーのネスチン

 ネスチンを強く発現する皮膚毛包幹細胞は、毛包の脂腺付着部に分布しており、毛包幹細胞に繋がる真皮血管網もネスチンを強く発現しており、毛周期に伴って血管新生を誘導し、毛包再生に重要な役割を果たしています。また、ネスチンを発現する毛包幹細胞は、神経幹細胞培養液を用いて分離、培養する事が可能で、培養液を血清含有PMI1640培養液へ変更すると、神経細胞、グリア細胞、ケラチノサイト、平滑筋細胞、メラノサイトに分化するんだそうです。凄い多分化能!です。動物実験のお話ではありますが、移植後もGFPの発現が安定しているとされるグリーンマウスの髭の毛包幹細胞を分離し、これを切断した末梢神経や骨髄間に移植すると、見事、グリア細胞に分化し、Schwann細胞となって、既存の神経軸索の再生を促し、末梢有髄神経や脊髄の神経線維を再生したんだそうです。

 毛包幹細胞が分布する毛包バルジ領域の上部の毛包脂腺付着部は、多分化能を有する毛包幹細胞が分布する領域です。

 毛包幹細胞は、多臓器の生体組織幹細胞と比較して、皮膚と言うとっても採取し易い場所にありながら、患者自身の皮膚毛包から採取した自己幹細胞を直接病変部に使用出来るので、ES細胞で問題となる倫理面や拒絶反応の心配がなく、また、ES細胞やウィルスにより遺伝子導入した誘導多能性幹細胞(iPS細胞)の様な腫瘍化の危険性が殆どない為、将来的には、より安全に組織の修復が出来る組織修復医療として、臨床応用が期待されています。HISAKOもこれで、もう一度歩けるようになるかも? その日まで、長生きしなくちゃ(笑)。

■円形脱毛症と瘢痕性脱毛症に於ける毛包幹細胞の役割

  • 円形脱毛症

   脂腺付着部に分布するネスチンを発現する毛包幹細胞は、円形脱毛症(美容通信2004年2月号)では障害されていません。つまり、毛包幹細胞は、炎症細胞の直接的な標的ではなく、主たる標的は、毛包幹細胞から分化した毛球部に分布する毛包角化細胞だと考えられています。つまり、多分化能を有する毛包幹細胞機能が損なわれていないので、血管網の再構成やグリア細胞、ケラチノサイト、平滑筋細胞、メラノサイトの再生能力が働き、萎縮や瘢痕を残さずに治癒するんです。

  • 瘢痕性脱毛症

   毛孔性扁平苔癬、円板状エリテマトーデス、脱毛性毛包炎、萎縮性脱毛症等の瘢痕性脱毛症では、毛包幹細胞を含めた毛包上部の毛包幹細胞領域(hfPSA)が、炎症細胞の標的となる為、萎縮や瘢痕が残らざる得ないと言う悲しい結末で終わります。

  • 抗腫瘍薬による成長期の脱毛は、毛包幹細胞と真皮血管網に対する増殖抑制によっておこる

   成長期脱毛は、悪性腫瘍に対する化学療法や放射線療法、その他コルヒチン、タリウム、水銀、銅等の重金属、ホウ酸、ヒ素等によって、成長期の於ける毛包細胞の増殖分化が抑制され、比較的急性に頭の毛がび漫性に成長期脱毛を起こします。残毛の殆どは、休止期毛です。

脱毛症の補助診断

トリコスコピー

 トリコスコピーは、非侵襲性の検査方法の代表格。シャーロック ホームズは、パイプを燻らせながら、「見るべき場所を見ないから、それで大切なものを全て見落とすのさ。」とほざきましたが、これだけでは、HISAKOの様な凡人は、中々判断に苦しむ場合が多々あります。そんな時は、後述の頭皮生検って検査方法を選択せざる場合もなきにしもありますが、決して一般的な方法とは言い難いのが実情です。

 ダーマスコープ(美容通信2008年3月号)って特殊な虫眼鏡を用いて、脱毛部の頭皮、毛孔、毛幹を観察する方法です。まあ、特に大事なのは、毛孔の有無。これが消失していると…、再び髪の毛を生やすと言うより、これ以上の被害の拡大をどう阻止するかが治療の主眼になります。

■円形脱毛症

  1. 黒点:切れた毛髪の基部が、黒い点々みたいに見える。
  2. 漸減毛(感嘆符毛):急速に、退行期・休止期に移行した為に、毛直径が縮小してしまった状態。一見正常に見えるけれど、毛孔側で折り曲げると、膝カックン状態になる、通称・肘折れ毛も、このお仲間。
  3. 切れ毛・折れ毛:脆弱な毛幹が破壊されて起こる。
  4. 黄色点:男性型の脱毛症でも認められる所見で、皮脂と不完全に形成された毛幹の混合物です。
  5. 短軟毛:早期段階の再生毛。多数見られれば、回復中の証!

■男性型脱毛症

  1. 毛直径の不均一性:軟毛化の故。
  2. 毛孔周囲色素沈着
  3. 黄色点:円形脱毛症の様に無数に見られる訳ではありません。全頭でも、10個あるかないかが、男性型脱毛症。

■瘢痕性脱毛症

 瘢痕性の脱毛とは、毛包が炎症や外傷等によって破壊され、毛の再生が不可能になる脱毛症です。

  1. 毛孔の消失:毛包が失われた領域では、毛孔が見られなくなります。これは、トリコスコピーで白色や乳白色の斑点として認められます。毛孔の消失は、瘢痕性の脱毛の最も重要な診断的所見です。
  2. 毛包角化:残存した毛包に角化物が詰まっていることがあります。これは、トリコスコピーで黄色や茶色の丸い構造として認められます。毛包角化は、瘢痕性の脱毛の初期段階で見られる事が多く、活動性を示す指標です。
  3. 炎症性所見:瘢痕性の脱毛の原因となる炎症によって、起こります。
    1. 毛包周囲の紅斑:毛包を取り巻く赤い輪。皮膚表面から深部まで広がっている場合も。
    2. 毛包出血:毛包から出血した跡。赤や黒の点や線として認められます。
    3. 炎症性細胞浸潤:毛包周囲に白血球や好酸球等の炎症性細胞が集まっている状態で、トリコスコピーでは、白色や黄色の小さな点や星形構造として認められます。

 

病理組織診断法

 頭の皮を少々いただいて、病理の先生に判断を仰ぎます。脱毛症の原因となる病態は、カビ(頭部白癬)(美容通信2007年7月号)等を除いて、殆どが、頭皮からは観察不能な毛包峡部以下の深いレベルでのお話。中々判断に苦しむ場合には、後述の頭皮生検って検査方法を選択せざるえません。標準的には、4mmのパンチで、病変部から2か所、健常部から1か所、毛球部の深さまで抉り取ります。

老化に伴う毛髪の変化

 老化による私達の悲しい変化は、寿命と言う遺伝的因子に基づく老化現象に加え、生後の様々な内的・外的環境因子が加わって起こります。毛髪の老化現象としては、壮年性・老人性脱毛、老人性多毛、白髪が挙げられます。

壮年性・老人性脱毛

■発生機序

 前頭から頭頂の髪の毛が寂しくなるもので、男性型脱毛のお仲間です。遺伝的素因のある主に男子が、アンドロゲン作用により、本来長い硬毛が、年齢と共に毛根のミニチュア化し、軟毛化する現象です。勿論、女子も例外ではなく、頭頂の髪が疎らに禿散し状態になります。男子ではテストステロンが、女子では、副腎由来のアンドロゲンが悪さの根源とされています。

 尤も、若禿と称されるAGAと壮年性・老人性の脱毛は、毛根のミニチュア化と言う現象に於いては一緒ですが、老人では思春期の様にアンドロゲンが増加する元気などはなく( ;∀;)、寧ろ、血中のテストステロンの値は年齢と共に減少(美容通信2015年6月号)し、特に遊離テストステロンの値は高齢になるにつれ激減してしまいます。つまり、壮年性・老人性の脱毛は、以下に列挙するように、ホルモン支配のみならず、細胞の機能老化も関与しているんです。

  1. 思春期に増加したアンドロゲン作用が遅れて発現。
  2. 毛乳頭細胞のアンドロゲン感受性が、加齢で上昇。
  3. アンドロゲンと無関係に、毛増殖促進因子が減少。
  4. 毛増殖抑制因子が、加齢と共に増加。

■治療

  • フィナステリド(プロペシア)/デュタステリド(ザガーロ/アボルブ)

   男性型脱毛の治療に対しては、Ⅱ型5α-還元酵素の阻害薬であるフィナステリド(プロペシア)(美容通信2005年12月号や、Ⅰ型及びⅡ型5α-還元酵素の阻害薬であるデュタステリド(ザガーロ/アボルブ)美容通信2013年2月号の内服は有効です。毛乳頭細胞のTGF-β1産生を抑えて、ミニチュア化してしまった毛根を増大させ、成長期も延長してくれます。

   女子の前頭毛のⅠ型とⅡ型の5α-還元酵素とアンドロゲン受容体のレベルは、男子の半分くらいしかありませんが、男子と同じで、後頭部に比して高いレベルではあります。しかしながら、男子と違うのは、毛乳頭細胞に、テストステロンをエストラジオールに変換するシトクロムp450アロマターゼ(美容通信2015年9月号)(美容通信2014年7月号)あるので、結果的に産生される5α‐ジヒドロテストステロン(5αDHT)が少なくなります。ですから、女性では男性型脱毛症の素因があっても、それ程悲惨な男性型脱毛症には陥る事はありませんし、しかもフィナステリドは無効です。飲んでも効きません。

  • ミノキシジル

   ミノキシジルは、女子の男性型脱毛症に対しても有効で、外用薬は推奨度Aの第一選択とされています。しかしながら、少なくとも、半年以上の塗布が必要とされています。しかしながら、飲み薬ならいざ知らず、頭部に対する外用でも、顔の生毛が目立つなんて事もあります。

   稀に、初期脱毛等の副作用を認める事があります。

   ミノキシジルの作用機序としては、下記が考えられています。

  1. 毛乳頭細胞のスルホニルウレア受容体活性化により、増殖因子(IGF-1やVEGF)産生を高める。
  2. 毛乳頭細胞のプロスタグランジン合成酵素-1を活性化して、PGE2合成を高め、毛上皮細胞を増殖させる。
  3. ミトコンドリアATP感受性Kチャンネル開放により、毛母細胞のアポトーシス現象を抑制して、成長期の退行期への早期移行を阻止し、毛根のミニチュア化を防ぐ。

   右図は、大正製薬ホールディングス<4581>(東証スタンダード)グループの大正製薬が、発毛成分であるミノキシジルに新規の作用メカニズムを発見し、第1回国際研究皮膚科学会(ISID2023)(国際研究皮膚科学会)で発表から引用した図です。発表によれば、

・研究成果(1):ミノキシジルによる毛包周囲での毛細血管増加の可視化に成功
・研究成果(2):ミノキシジルは血管細胞に直接作用していることを確認

   皮膚の血管は加齢とともに減少します。その結果、栄養や酸素が届き難くなる事が、薄毛の原因の一つと考えられています。同研究により、ミノキシジルが毛包の毛細血管を増加させる事が明らかとなり、ミノキシジルの発毛メカニズムの解明がまた一歩前進しました。

  • FetoScell Follicle

   ヒト羊水中の胚性幹細胞を培養・精製したエクソソームを含有する幹細胞馴化培養液で、作用(効果)としては、細胞再生作用、血管再生作用、抗炎症作用、コラーゲン合成作用、エラスチン合成作用があります美容通信2022年12月号。メソガンで、頭部に細かく注射をします。

 

老人性多毛

 壮年性・老人性脱毛の対極にあるのが、爺ちゃんの眉毛や鼻毛、耳毛等の硬毛化。年と共にテストステロンは減少しているし、細胞機能の老化でも説明が付かず、何故、この様な硬毛化が起こるのか…。今後の解明を望む!

 

白髪

 白髮三千丈
 縁愁似箇長
 不知明鏡裏
 何處得秋霜

 白髪三千丈は、8世紀、唐代の詩人・李白の五言絶句「秋浦歌」第十五首の冒頭の一句。縁愁似箇長と続きますが、白髪は、憂いが無くても、年を取ると誰もが経験する老化現象です。一般に、30歳代後半から50歳代後半にかけて始まります。

 近年、様々な組織幹細胞が、加齢に伴って機能的に衰えていく事が分かっています(stem-cell aging)。白髪も、加齢により色素幹細胞が異所性に分化し、その後数を減少させ、最終的には完全に枯渇。その結果、毛母にメラノサイトが供給されなくなり、白毛化に繋がると考えられています。放射線照射等によるDNA損傷ストレスでも、色素幹細胞のプールが枯渇する事が分かっています。しかしながら、その解決策となると…、未だ、市販の染毛剤に頼らざる得ないのが現状です。しかし、染毛剤はそれ自体が毛包に刺激になるだけでなく、接触皮膚炎の原因にもなり、問題が多い解決策です。

円形脱毛症

円形脱毛症とは

 後天性脱毛症の代表的な疾患で、前駆症状を欠き、円形~斑状の脱毛班が頭部のみならず、毛髪が存在するあらゆる部位で起こります。一般に自覚症状はありませんが、稀に、脱毛前や活動期に、軽い違和感や、浮腫性の淡い紅斑を認める事があります。萎縮や瘢痕は残しませんが、慢性期に病巣部が幽かに陥凹する事も。アメリカでは人口の0.1~0.2%に発生し、一生のうちで円形脱毛症になる確率は、計算上1.7%だそうです。恐らく、日本でも同程度と考えられています。

 毛髪以外の症状では、爪の変化を呈する事が多く、極く僅かなものまで含めると、半数以上に認められます。最も多いものは、爪甲の小さな点状陥凹で、発症時や再燃時に一致して、横一列に線状に並ぶ事も。障害が酷いと、爪甲自体が厚く、脆くなります。

 病因については様々な説が提唱されていますが、近年は、毛包組織に対する自己免疫疾患と考えられています。何らかの誘因で、本来は体内の免疫機構から逃れているはずの毛包由来の自己抗原をターゲットにした、自己免疫反応が誘発されているようです。

 アトピー性皮膚炎を始め、多くのアレルギー性疾患を高頻度に合併する事が知られています。報告によれば、患者本人や家族にアトピー素因があるものが54%認められたそうです。しかし、円形脱毛症の発症にどう関わっているかは、まだ良く分かっていません。他には、甲状腺疾患(合併率8%)、尋常性白斑(合併率4%)(美容通信2006年3月号)、全身エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、重症筋無力症等の免疫疾患との合併が良く知られています。

■治療

 円形脱毛症の治療には、外用療法、注射療法(局所注射、点滴)、内服療法等があります。

 ミノキシジルの外用は、推奨度C2群の治療方法とはされていますが、前述の通り、生毛を終毛の成長させる作用があり、活動性が低く、生毛が認められる円形脱毛症では、より早い成長毛が期待出来ます。文献上、円形脱毛症に対するランダム化比較試験により、5%ミノキシジルを外用すると、1%ミノキシジルと比較して、脱毛範囲が縮小したそうです。しかし、当たり前ですが、整容的にこれだけでは十分な効果は得られず、後述するリットフーロカプセルの適応となる様な広範囲の脱毛には、全く歯が立ちません( ;∀;)。

 

新薬・リットフーロカプセル

 リットフーロカプセルは、脱毛部が広範囲に及ぶ難治性(頭部全体の概ね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヶ月程度毛髪に自然再生が認められない)の円形脱毛症に対する新薬です。12歳以上が対象です。

■作用機序

 円形脱毛症は、自己反応性T細胞による自己免疫疾患で、CD8陽性T細胞やNK細胞等の免疫細胞が、毛包の内部及び周囲に浸潤します。炎症性サイトカインが放出され、持続的な炎症と毛包の萎縮と言う悪循環を引プレビュー (新しいタブで開く)き起こし、これが脱毛に繋がります。

 リットフーロカプセルの作用機序は、下図の通り。

 ATPとの結合を阻害する事で、JAK3を不可逆的に阻害し、JAK3依存性炎症性サイトカインのシグナル伝達を阻害します。TECファミリーキナーゼ(BMX、BTK、ITK、TEC及びTXK)を不可逆的に阻害します。

■有効性

 24週間飲み続けて、脱毛の割合が20%以下にまで減った患者さんは、23.39%。偽薬をただひたすらに信じて飲み続けた患者さんは、1.54%。明らかに、リットフーロカプセルの優越性が統計学的にも検証されています。更に、プラス24週飲み続けると、43.20%の患者さんで、脱毛の割合が20%以下にまで減ったそうです。しかしながら、48週飲み続けて結果が出ない人は…、これ以上飲んでも仕方がないので、終了になります。

 まあ、薬ってもんは、リットフーロカプセルに限らず、根治的なものではなく、取り敢えずの対症療法にしか過ぎません。生えたからと言って、飲むのを止めても大丈夫な場合もあれば、元の木阿弥で、再び、エンドレスに飲み続けざる得ない場合もあります。

■安全性

 重大な副作用として、感染症(帯状疱疹(0.9%)、口腔ヘルペス(0.8%)、単純ヘルペス(0.5%)、COVID-19(0.2%)、敗血症(0.1%)等)、リンパ球減少(1.6%)、血小板減少(0.3%)、ヘモグロビン減少(0.2%)、好中球減少(0.2%)、静脈血栓塞栓症(頻度不明)、出血(鼻出血(0.5%)、尿中血陽性(0.1%)、挫傷(0.1%)等の出血(頻度不明))等が現れる事があります。

 主な副作用(1%以上に発現)は、悪心、下痢、腹痛、疲労、気道感染、咽頭炎、毛包炎、尿路感染、頭痛、痤瘡、蕁麻疹。

男性型脱毛症

男性脱毛症とは

 男性型脱毛症は、通称・若禿(AGA)。思春期以降に始まり、徐々に進行する成熟した男子の証です。ベトナムでは、ハゲてないと、未熟な鼻垂れ小僧とみなされ、結婚の対象にもされません。昔、髪の毛がふさふさとしたベトナム人の男性の患者さんが、「日本の男は、ハゲが多くて羨ましい」とため息を吐いていました。日本のハゲたおっさんにそんなこと面と向かって言ったら、殺されても文句言えないよとは、彼にはちゃんと忠告はしましたが…(笑)。

 日本人の男性型脱毛症の頻度は、軽症を含めると30歳代で約10%、60歳代で約50%、平均30%と言われています。欧米に比べ、発症時期は遅く、頻度も約10%低いとされていますが、毛唐と俗称がある金髪の白人種と比べて、日本人は黒い髪の毛に薄黄色の肌と、その対比は極めて明確。つまり、ハゲが目立つ人種なのです。欧米の猿真似ではなく、江戸時代の様に、寧ろ、ハゲをスタイリッシュに利用した月代に丁髷こそが、日本男児に似合うカッコいい髪型なのではないでしょうか…。

 

治療

■鉄板の治療薬・フィナステリドとデュタステリド

 フィナステリド(プロペシア)(美容通信2005年12月号)は、5α‐還元酵素Ⅱ型の特異的阻害薬です。デュタステリド(ザガーロ/アボルブ)(美容通信2013年2月号)は、5α‐還元酵素Ⅰ型、Ⅱ型の両方を阻害します。これにより、DHT産生を抑制します。

 5α‐還元酵素Ⅱ型は、男性型脱毛症や髭の毛乳頭、前立腺癌等のアンドロゲンの標的臓器に比較的限局して発現しています。これに対し、Ⅰ型は、腎、副腎等にも発現しています。その為、長らく、日本ではデュタステリドは前立腺肥大症の治療薬としてのみ認められていましたが、2015年に2種類目のAGAの治療薬として認められました。海外の第Ⅱ相試験(ランダム化比較試験)では、デュタステリドの方がフィナステリドよりも優位だったとの結果が出ています。しかしながら、薬屋さんの学術部門の人に聞いても、全く何故なんだか分からないのですが、30人に一人くらいはフィナステリドの方が効果的って人がいます。飲んでみないと分からない…のが本音です。

 長期成績としては、進行予防だけでなく、明確な改善効果が認められています。また、日本人に対するAGAの長期成績より、進行の早期から、若しくは39歳以下から内服治療を開始した方が、進行してから治療を開始するよりも改善効果が高いとされています。

■ミノキシジル

 休止期毛から初期成長期毛包への移行を促進させ、また、後期成長期毛への移行を促進させ、維持します。その為、細い生毛が太い終毛へと成長するので、性別も年齢も問わず、円形脱毛症等の病気の際にも使える、人気のお薬です。

■ケトコナゾール

 抗男性ホルモン抑制効果を持つ外用薬として、水虫の鉄板薬・抗真菌薬ケトコナゾール(美容通信2004年9月号)が挙げられます。論文によれば、含有シャンプーと普通のシャンプーで比較した場合、6ヶ月間の使用で有意な効果を認め、使用継続により効果が維持されたそうです。

■自家植毛

 一時的な改善を目指すだけでなく、将来的な毛髪状態の進行を念頭に置いて、植毛手術(美容通信2005年9月号)直後(若しくはそれ以前)から、フィナステリドやデュタステリドの内服治療を開始、且つ持続する事が重要とされています。

 

原発性瘢痕性脱毛

 瘢痕性脱毛症とは、様々な原因や病気により、毛包が破壊、又は消失し、毛孔欠損を特徴とした不可逆性の脱毛症です。原発性と続発性の2つに大きく分けられます。

  • 続発性:熱傷、外傷、腫瘍、感染、morphea、サルコイドーシス等が原因となって、毛包が二次的に破壊、消失してしまいます。
  • 原発性:毛包自体が主な標的となる、原因不明の病気。欧米では多数の報告がありますが、日本では症例自体の報告が少なく、情報自体あまりなく、お手上げの事も…。

診断

■臨床診断

  • トリコスコピーの大御所・シャーロックホームズは、「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのでは大違いなんだ」と申しました。トリコスコピーで、先ず、脱毛部位の毛孔の有無を確認します。
  • 治療的診断としては、トリアムシノロンアセトニドの局所注射が、円形脱毛症のオフィアシス型(蛇行型)との鑑別に役立つ事も。
  • 続発性か原発性かの鑑別には、過去の外傷や熱傷の既往の確認は必須。
  • 発症時期や進行している期間、過剰なヘアケアの習慣の有無も、大事な確認事項です。
  • 自己免疫疾患を疑わせるような全身状態の有無、頭部以外の皮膚病変、爪甲、粘膜病変の有無。
  • 毛包や頭皮に炎症を伴っていれば、細菌・真菌感染の確認の為に、細菌培養や直接鏡検の施行。
  • 腫瘍やmorphea等の続発性脱毛症が否定されれば、原発性しかない…。

■病理診断

  病初期なら兎も角、終末期や炎症所見がない原発性瘢痕性脱毛症は、明確な病理所見すら得られず、診断に難渋…。

 

治療

 不可逆的な脱毛を防ぐ為には、初期の急性炎症期の治療が大事です。しかし、既に進行してしまっている場合は、兎に角、症状を落ち着かせ、頭皮の瘢痕化の進行を遅らせる、若しくは可能なら、進行を止める事が治療の目標です。ステロイドの外用や局所注射が行われますが、外用薬だけでは効果が不十分な事が多く、広範囲の活動性病変や、限局性でも、炎症が強く、急速に進行する活動性病変に対しては、ステロイドの内服やレチノイドの内服等が行われます。

 ミノキシジルの外用は、瘢痕性の脱毛には無効ですが、残存する毛髪量を改善するので、どの段階でも奨励されます。

休止期脱毛症

 生理的な脱毛を逸脱した多量の成長期毛が、同時に又は徐々に休止期になり、脱毛します。脱毛した毛の根元は棍棒状で、正常の休止期毛と殆ど区別が付きません。急性と慢性があります。発症要因が良く分からない特発性が、可なりの割合を占めています。

 誘因が取り除かれれば、多くの場合は、放っておいても勝手に治ってしまいます。しかし、改善の兆しが認められるまでは、かなりの時間を要するものなので、地道な覚悟が必要です。

発症要因

■出産後脱毛

 分娩後2~3ヶ月から始まり、出産後6ヶ月で正常に回復し、治療しなくても自然に軽快します! 

 妊娠中期から後期にかけては、成長期毛の割合が増加します。エストロゲンの上昇が主な原因とされていますが、詳しい機序は不明です。出産後は、休止期毛の割合が一時的に増加するので、脱毛をします。ホルモンが関与する、生理的な脱毛です。

■様々なストレスによる休止期脱毛

 外傷、手術、感染症、ダイエット、心理的ストレス、大出血等の様々なストレスにより起こります。ストレスの真っ最中若しくは直後からではなく、2~3ヶ月経ってから脱毛は始まります。

■薬剤による休止期脱毛

  • 薬剤性成長期脱毛

   成長期の毛包の毛包の成長が抑制或いは中断され、毛が狭小化部で断裂するか、根部から脱落します。抜けた毛は、正常な休止期毛に見られる、根部の棍棒状構造を有しません。脱毛は、薬剤開始後、数日から1ヶ月くらいで始まります。

   抗癌剤による脱毛の殆どは、成長期脱毛です。成長期の毛は、細胞が活発に分裂、増殖している為、抗癌剤によるダメージを受けやすいと言う特徴があります。同じ薬剤でも、投与量が増えれば、脱毛を来す可能性は上がります。

  • 薬剤性休止期脱毛

   薬剤性休止期脱毛では、成長期の短縮、休止期の延長等により、休止期毛の割合がUP! 抜けた毛は、正常な休止期毛に見られる根部の棍棒状構造を呈しています。ヘパリン、インターフェロンα、エトレチナート、リチウム、バルプロ酸、カルマゼピン等では、薬剤投与後2~3ヶ月後から脱毛が始まります。

■様々な内蔵系の病気に伴う休止期脱毛

 鉄欠乏性貧血、甲状腺機能異常症、肝障害、腎障害、膠原病、亜鉛欠乏症等の様々な内蔵系の病気に伴い、休止期脱毛は起こります。原因となる病気が改善されなければ、脱毛は、当たり前ですが、エンドレスに続きます。

 甲状腺ホルモンは低下しても、Basedow病等で過剰に増加しても、脱毛します。甲状腺ホルモンの低下により起こる休止期脱毛では、疎で細く乾燥した頭髪が特徴とされています。甲状腺ホルモンは、毛母細胞の増殖を促進して成長期を延長する作用の他、バルジの上皮幹細胞にも直接作用している事は知られてはいますが、低下は兎も角、何故、甲状腺機能亢進で脱毛するのかは分かりません。


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

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