男性更年期の症状と治療|テストステロン補充療法,漢方薬(補中益気湯),サプリメント(腸内細菌改善を含む)等旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2025年6月号

男性更年期の治療

テストステロンは、色々な社会性に対する影響を与えるホルモンです。しかしながら、男性も更年期になり、テストステロン値が下がると、筋力の低下・筋肉痛、疲労感、火照り・発汗、頭痛・眩暈・耳鳴り、性機能の低下、頻尿、起床時の勃起の消失等の様々な所謂不定愁訴が出現します。仕事に影響を与える症状も少なくなく、本来の自分を仕事で発揮出来ない状態に陥ります。テストステロンの補充療法は王道中の王道ではありますが、生活習慣の見直しや、漢方薬、栄養療法等も効果があります。最近は腸内細菌とテストステロンの関係が徐々に解明されて来ており、アプローチの方法が広がっています。また、男性更年期だけでなく、前立腺癌の手術後の頑固なED(勃起不全)、尿失禁に対し、インティマレーザー療法等を従来の薬物療法(ザルディア)やホルモン補充療法等を組み合わせる方法が広がって来ています。

 主にアメリカ大陸の熱帯地域に生息するフウキンチョウ(風琴鳥)のメスは、きらびやかに飾り立てたオスを高く評価します。この為、オスは、目を引くようなオレンジや赤、黄色の羽飾りを作る為に、果物を食べて、色素のカロテノイドを吸収する必要があります。カロテノイドは抗酸化物質でもあるので、鳥の免疫システムには欠かせません。色素を羽毛に割り当てることで、オスは「ほら、わたしはこんなに健康なんだよ」とアピールしているんです。メスは免疫力の高いオスの遺伝子を子孫に伝えたいと思いますから、当然、きらびやかな色調のオスと結婚出来なくても、遺伝子だけは欲しい!→メスの隙あらば浮気は、子孫繁栄の為には必須な行為です(笑)。

 オスの鳥の美しい羽根は、男性に於けるテストステロンに良く例えられますが、ところが、最近の研究で、フウキンチョウのオスは“ズル”をしている事が分かったんだそうです。オスは“モテる”べく、羽毛の構造そのものを変えて光の加減を操作して、羽をカラフルに見せているんだそうです。…どっちもどっちの恋愛?浮気?事情でした。

男性更年期再考

テストステロンは、社会に参画するホルモン

 テストステロンは、色々な社会性に対する影響を与えるホルモンです。つまり、テストステロンの値が高いと、以下の特性があるとされています。

  • 意欲、チャレンジ精神
  • 我慢出来る
  • 縄張りを主張する
  • 社会の中の自分を意識:ボランティア・寄付
  • 公平、公正を求める気持ち
  • 不安を感じ難い:鈍感力

 これについては、面白い実験があります。サイコロを振って出た目の金額をもらえるとしましょう。1の目なら1000円、2の目なら2000円…って具合で、最高額は6の目の6000円です。サイコロを振るのは他の人は知る事が出来ない密室状況で行いますから、本当は何の目が出たかは本人しか知り得ません。自己申告だけで申告した目に相当するお金を貰えるシステムなので、噓っこして高額ゲットしてもバレようがありません。これは、テストステロンが「公平さと社会貢献を大切にする」事を証明する為の実験で、予め、参加者には、テストステロン含有のものと、テストステロンを含有していない偽薬のどちらかを服用させて行うのですが、被験者はどちらを飲まされたかは知りません。薬の見た目は一緒ですから。結果は、左下図の通り。

 インチキ賭博ではないので、目の出る確率はどれも同じはずですが、テストステロンを含有していない偽薬を飲んだ連中では、6の目が出たと嘘の申告して6000円をGETした輩が、ダントツに多いんです。そりゃあ、テストステロン有でも嘘吐きは多少はいます(笑)が、テストステロンが高い人は(概して)正直者?

 

テストステロンの働き

 右図は、男女の寿命の違いを表したグラフですが、男は女よりも寿命が短い動物です。テロメア(美容通信2022年7月号)とは、1930年代に発見され、ギリシャ語のtelos(末端)とmeros(部分)が由来とされています。真核生物の染色体の末端部にある構造で、特徴的なDNA配列(TTAGGG)を繰り返し、遺伝子情報を保つDNAを保護し、染色体の安定化及び細胞の寿命と関係します。

 テロメアは受精した時が一番長く、分裂の度に短くなるものですが、男性のテロメアは女性より早く短くなることが知られています。論文によれば、男子60歳と女子72歳のテロメアの長さはほぼ同じなんだとか。そりゃあ、女の方が長生きするわ(笑)。

 男性のテロメア長に関係するのが、テストステロンです。実験的にも、テストステロンはテロメアを伸ばす事が知られています。ミトコンドリア機能とテロメアは互いに依存関係にあることは良く知られており、テストステロンはミトコンドリアDNAコピー数とミトコンドリア遺伝子の発現を増やす事が知られています。貴方のテロメア長はどれくらい(美容通信2024年9月号

男性更年期

 右図は、テストステロンの分泌の生涯推移を示したグラフです。

 男も40歳を過ぎると、所謂更年期に突入します。いきなり女性ホルモンが急降下する女子と異なり、男ではテストステロン値が牛の涎宛らに、だらだらと下がります。と言っても、個人差が非常に大きく、80過ぎても殆ど値が下がらない、亀仙人級の輩も結構います。

■テストステロンを押し下げる要因

 リストラを含む転職や退職、転勤等の環境の変化で、強い社会的なストレスを受けると、それまで男子の溌剌!さの維持の源であった、男性ホルモンが急激に下がり、更年期が始まります。ちょっと前は、コロナ禍も大いなる原因でした。

 テストステロン値が下がると、筋力の低下・筋肉痛、疲労感、火照り・発汗、頭痛・眩暈・耳鳴り、性機能の低下、頻尿、起床時の勃起の消失等の様々な所謂不定愁訴が出現しますが、仕事に影響を与える症状も少なくなく、本来の自分を仕事で発揮出来ない状態に陥ります。

■LOH症候群

 性腺機能低下症には、①視床下部‐下垂体-性腺系の器質的疾患と、②器質的異常が明らかではない機能的異常の2つに分類されます。②のうち、成人男性での血中テストステロンの低下と、それに伴う種々の症候を呈するものをLOH(late-onset hypogonadism)症候群と呼称します。LOH症候群では、非特異的な所見として、下記の様な精神・心理症状や性機能関連以外の身体所見も呈して来ます。

  1. リビドー(性欲)と勃起能の質と頻度、とりわけ夜間の睡眠時勃起の減退
  2. 知的活動、認知力、見当識の低下及び疲労感、抑鬱、短気等に伴う気分変調
  3. 睡眠障害
  4. 筋容量と筋力低下による除脂肪体重の減少
  5. 内蔵脂肪の増加
  6. 体毛と皮膚の変化
  7. 骨粗鬆症と骨粗鬆症に伴う骨塩量の低下と骨折のリスク増加

 昔は、器質的な疾患がない事を確認した上で、総テストステロン(250ng/dl未満)や遊離テストステロン(7.5pg/ml未満)の値を測定して診断を行っていましたが、ホルモンを感受する受容体の機能まで評価する手段がない為、測定値はナンセンスとまでは言いませんは、現在では、値に関わらず、総合的にテストステロンの補充の適応を検討します。

 

男性更年期治療

テストステロンの値が病的に低下していない限り、生活習慣の見直しで、大多数の男性更年期の症状は緩和されるとされています。

■テストステロンは社会に参画するホルモンなので、居場所を確保するだけでも値はUPする!

自分の居場所を感じる事(コミュニティやペット等の存在)は、テストステロンの低下を防ぎます。

■テストステロンを増やす栄養素

  • ビタミンD

   ビタミンD(美容通信2013年3月号)が不足すると、テストステロンも低下します。鮭に最も多く含まれていますが、鯖等の青身魚にも含有されています。しかし、統計では日本男児の8割方は、ビタミンD不足なんだとか。

  • 亜鉛

   亜鉛(美容通信2009年12月号)は貝類に多く含まれていますが、成人男性の約半分は亜鉛欠乏症との報告があります。左図の年齢別の低亜鉛血症の割合(男)でも明らかな様に、食生活の変化で、どんどん欠乏症の割合が加速度的に増えています。

   亜鉛の欠乏は、男性不妊や、ED、テストステロン低下、免疫力低下に繋がります。

■テストステロンと腸内細菌叢

 詳細については、後述します。兎に角、腸内細菌は、テロメアまで伸ばしちゃう(美容通信2024年9月号)凄い軍団です。

■テストステロンを増やす漢方薬

  • 補中益気湯

   補中益気湯は、筋力を付けて、元気を取り戻してくれます。詳細については、後述します。

  • 柴胡加竜骨牡蛎湯

   柴胡加竜骨牡蛎湯(美容通信2005年11月号)は、ストレスを感じている男子におススメ!

■海外では様々なサプリメントがあります

 海外では一般的とされているサプリメントではありますが、機能性表示食品には、テストステロンを上げる!と言うヘルスクレームは認められていません。悪しからず。

 因みに、ヘルスクレームとは、有効性・機能性に関わる健康を強調する表示を指します。シンゾーの置き土産としてザルが露見した機能性表示食品制度ですが、事業者の責任に於いて消費者庁に「届出表示」として届出する事で、ヘルスクレームの表示が可能となります

■テストステロン補充療法

 前述の様に、男性の性腺機能低下症のガイドラインでは、一昔前と異なり、テストステロン値に関わらず補充療法を行って良いとされています。

 テストステロン補充の適応としては、男性更年期症状・性機能低下、メタボ・軽症糖尿病・頻尿・ED、フレイル・高齢者、鬱病・抗鬱剤長期投与者等が挙げられます。特に、メタボリック症候群に関しては、高血糖や高血圧は夫々単独でもリスクを高める要因ではありますが、これらが多数重積すると相乗的に動脈硬化性疾患の発生頻度が高まる為、リスク重積状態を「より早期に把握」しようという試みが、2008年から開始された、所謂、メタボ検診です。5年後に成果を判定し、結果が不良な健康保険者には財政的なペナルティを課す事によって実行を促すもので、厚生労働省は、メタボリック症候群と予備軍に該当する約2000万人を、平成24年度末までに10%減、平成27年度末までに25%減とする数値目標を立てています。しかしながら、悪化した目標項目に、メタボの該当者及び予備軍の減少が挙げられている通り、メタボ検診は、完全なる失敗とまでは言いませんが、上手く行っていません。そもそものメタボリック症候群の原因である「男性ホルモンの減少」に対するアプローチを行わない限り、財政的なペナルティを掲げたところで、当たり前ですが、成果は上がりません。実際、男性ホルモン補充により、約7割の症例で改善効果が認められたとの報告があります。

 65歳以上の地域住民1677人のうち、虚弱基準(体重減少、低運動量、筋力低下、疲労感、歩行が遅いの何れか)があり、T≤12nmol/L(345ng/dl)で前立腺疾患、排尿障害がなく、試験に同意した274名に対し、テストステロンゲル(50mg/day)、プラセボに二重盲検無作為割り付け6ヶ月後に調査を行ったところ、フレイル(美容通信2019年2月号)に対する効果が認められたそうです。膝関節伸展筋力の有意な増加、筋肉量の増加と脂肪量の減少、高齢虚弱傾向にある男性の身体機能の改善、QOL指標(身体症状、性機能症状)の改善と、正に抗介護ホルモンとしても面目躍如なんです。

 テストステロン補充療法の有害事象としては、多血症や心血管疾患が有名です。他には、睡眠時無呼吸症候群、脂性肌、ニキビ、乳房痛、肝障害、不妊症等があります。しかしながら、補充により心血管イベントを増加させる明確なエビデンスはありませんし、前立腺癌の発症に明らかな関連性もありません。加齢性性腺機能低下症に対するテストステロン補充療法は、前立腺癌の発症に影響を及ぼさない事も明らかになってします。また、補充が前立腺肥大症の症状悪化を起こす事もなく、寧ろ、IPSS(国際前立腺症状スコア:前立腺肥大症や前立腺癌に対する症状評価法)による排尿症状が改善したとの報告があります。唯、前立腺癌の治療中は禁忌とされていますが、世界的には治療終了後、特に放射線治療後は補充が推奨されています。日本では、未だに嫌う先生もいるので、主治医との関係を忖度しながらになりますが(笑)。

  • テストステロン補充の方法

 テストステロンの補充方法としては、注射、塗り薬、飲み薬があります。

 注射は、3週間くらい効果があるとは言われていますが、実際は1週間くらいで下がってしまいます。m右図は、コロナ禍以来出荷調整でほぼ幻となってしまったエナルモンデポーの、治療後の血中のテストステロン濃度の推移です。他の注射液も同じような推移を辿ります。

 塗り薬は、中々、エンジンがかかり難いのが欠点ですが、注射程の変動がなく、血中濃度を保ちやすいのが特徴。HISAKOのクリニックでは、初動は併用で、注射の間隔を徐々に開けながら、外用単独に移行する事が多いかな。

 飲み薬は…肝機能障害を来す可能性がと~っても高いので、×。ドラッグストア等で販売されている、通称「大衆薬」或いは「市販薬」と呼ばれていたOTC医薬品は、実は、この肝機能障害を来す代物なので、危険です。アメリカ等では肝機能障害を来さない飲み薬もありますが、国外への輸出を規制しているので、現状では残念ながら日本では入手不可です。

補中益気湯のオートファジー活性とミトコンドリア機能への作用

オートファジーとは

 オートファジーのauto-はギリシャ語の「自分自身」を表す接頭語、phagyは「食べること」の意で、1963年にクリスチャン・ド・デューブが定義しました。この経緯から、自食とも訳されます。

 オートファジーとは、端的に言うと、スクラップ アンド ビルド。絶えず、老朽化して非効率な工場設備や行政機構を廃棄・廃止して、常に新しい生産施設・行政機構に置き換える事を繰り返すので、いつもピカピカの新品状態! 生産設備・行政機構の集中化、効率が叶います。つまり、地産地消。究極の自己完結型のアンチエイジング、若返り(rejuvenation)のエコ・システムです。

  1. 細胞新陳代謝:不用な蛋白質を分解除去して、細胞新陳代謝を図る。
  2. 代謝適応:空腹時には、自分自身の細胞成分を分解して栄養源を確保し、細胞の生存を図る。←まるで蛸(笑)?
  3. 生体防御:病原体を除去する事で、感染症を予防。

 ところが、加齢によりこの様なオートファジー調節機能が低下すると、部品は壊れたままで、リサイクルも進まず、一気にゴミ屋敷に。つまり、生活習慣病や癌、心不全、炎症性疾患、貧血等の疾患へと沼落ちする羽目になります。

 

ミトコンドリア機能

 ミトコンドリアは、細菌の共生を起源とする細胞小器官です。通常は、細胞の制御の元に維持されていますが、現在も内部に独自の遺伝子(mtDNA)を持っており、また細胞内で活発に動きながら増殖しています。

ミトコンドリアは、細胞内の発電所としてエネルギー生産に必須の機能を持つ、2重膜構造の細胞小器官です。同時に酸化ストレスの主要な発生源でもあり、更には、細胞死の制御やカルシウム応答等の細胞機能制御にも関与する等、極めて多様な機能を有しています。

  1. ATP産生:細胞へのエネルギー供給。
  2. 代謝反応:アミノ酸・脂肪酸代謝、ステロイド合成、鉄代謝、アルコール代謝等。

 しかしながら、加齢によりこのミトコンドリア機能は低下します。それ故に、健康長寿の鍵とされ、人は、ミトコンドリアを鼓舞する為に、補中益気湯を服用したり、NMNを点滴(美容通信2022年6月号)したり飲ん(美容通信2022年7月号だりと足搔きます。

■ミトコンドリアダイナミクス

 エネルギーを産生する細胞小器官であるミトコンドリアは、細胞の栄養状態によって、細胞内で融合・分裂・除去し、活発に姿を変え、動的に動いています。この一連の動きは「ミトコンドリア ダイナミクス」と呼ばれ、ミトコンドリアの品質管理を担うシステムです。

 飢餓状態では、効率良くエネルギー産生が出来る様に、ミトコンドリアは一致団結。幾つものミトコンドリアが結合して、再編成。巨大結社を作ります。しかしながら、栄養過多(肥満)の時は、ミトコンドリアは断片化し、あたかも個人事業主の乱立状態になります。

 

低栄養(制限給餌)によって、生体に何が起こるのか?

 低栄養(制限給餌)を行うと、4日目くらいから老齢マウスはバタバタと死に始め、10日目には生存率は40%にまで落ちてしまいます。血糖値も、あっという間に低血糖になってしまいます。老齢マウスは、低栄養に脆弱な生き物なんです。

 制限給餌を行うと、肝グリコーゲン、そして脂肪の順でエネルギー源として分解され、底を突きます(枯渇)。それでも飢餓状態が続くと、通常は筋肉を分解して、エネルギー源(糖原性アミノ酸→糖新生→グルコース)とします。ところが、これは若いマウスでの通常のお話で、老齢マウスでは筋肉重量の低下が殆ど認められませんでした。老齢マウスでは、糖原性アミノ酸からの糖新生能・利用能が低下している為、これをエネルギー源として利用が出来ないからです。実際、糖原性アミノ酸の一つで血中に豊富に存在するアラニンですが、これを投与しても、老齢マウスでは、若いマウスの様に血糖値が上昇しない事が実験的にも知られています。

 

肝オートファジー活性

 制限給餌5日目です。若いマウスでは、オートファジーが誘導された際に出現する球状の構造体、つまりオートリソソームやオートファゴソーム等が多く認められます。

 オートファジーのマーカーであるLC3-Ⅱの蛋白質も増加していました。しかしながら、老齢マウスでは構造体もマーカーも上がっておらず、オートファジー誘導能自体が低下しているのが分かります。

■オートファジーと糖新生

 繰り返しになりますが、老齢マウスでは、制限給餌によるオートファジーの活性化が起こらないので、糖新生が起こらず、血糖値は上がらりません。

 何でこんなことになってしまうかと申しますと、オートファジーってものはオートファゴソームが形成される事から始まりますが、BeclinにBcl-2が結合すると、そもそものとっ始めのオートファゴソームの形成が出来なくなります。老齢マウスでは、制限給餌にも拘らず、下図の如くに、肝Bcl‐2が過剰に発現しており、またBeclin1との結合量も増えています。

■老齢マウスではオートファジー活性が抑制

 低栄養(制限給餌)状態に陥っても、若いマウスでは、オートファジー誘導がしっかりなされるので、糖原性アミノ酸利用が亢進し、血糖値が上昇します。しかしながら、年を取ると、肝Bcl-2が過剰に発現し、オートファジー活性が低下してしまいます。その結果、糖新生が阻害されてしまいます。

 

補中益気湯の作用について

 補中益気湯は、中(胃腸機能)を補い、元気を益する処方って意味の漢方薬。つまり、消化管の機能を司るのは五臓の脾ですが、脾とは胃の王道なりと称される通り、心身の消耗を治す為には、先ず消化機能を改善し、気力を付けるのが正しい道筋ってもの。それが故に、医王湯とも呼ばれている漢方薬なんです。

 肝臓のオートファジー活性及びミトコンドリア機能を改善し、高齢者の低栄養状態の改善に寄与していると考えられています。

【効能又は効果】

 消化機能が衰え、四肢倦怠感が著しい虚弱体質者の次の諸症:夏痩せ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症

  • 病後の体力増強

   虚弱な高齢者のQOL改善、免疫活性化。高齢COPD患者の免疫機能・栄養状態を改善。

  • 陰萎

   突発性男性不妊症患者の精子運動性を改善。


 人間では、731部隊の様に生体実験が出来ませんから、以下マウスでの実験でのお話です。

 補中益気湯の構成成分であるオウギ、ショウキョウ、タイソウ、ニンジンには、老齢マウスのオートファジー活性化作用があります。補中益気湯の投与により、電顕写真でも、オートファゴソームやオートリソソームの有意な増加が認められたそうです。

 右図を見て下さい。補中益気湯投与により、老齢マウスのアラニン利用が亢進するので、低血糖が回避され、活動量も低下しません。

肝ミトコンドリア機能

 前述の通り、栄養状態によってミトコンドリアはその形態が変化し(ミトコンドリア ダイナミクス)、これによりミトコンドリアの品質管理がなされています。

 左図は、制限給餌を行った際の、若いマウスと老齢マウスの肝細胞の電顕写真です。若いマウスでは、制限給餌により、複数のミトコンドリアが融合している状態が認められますが、老齢マウスでは、若いマウスの様なミトコンドリア ダイナミクスが認められず、単に膨化したミトコンドリアがあるだけ。つまり、ミトコンドリアの品質が低下しているのが分かります。

 ミトコンドリア ダイナミクスに関連した肝臓のmRNAの発現を見ても、若いマウスでは制限給餌により発現が増加したのに対し、ミトコンドリアの低栄養反応性が老齢マウスでは減弱が確認されました。また、老齢マウスでは、肝臓中の代謝物、つまり、アセチルカルニチン合成やシステイン代謝、尿素回路、コリン代謝、BCAA代謝等の多くの代謝物が低下していました。ミトコンドリアを介するこれ等の代謝が上手く回らず、代謝産物の低下に繋がったと考えられます。

補中益気湯の作用(老齢マウス)

 肝細胞の電子顕微鏡写真を見て下さい。補中益気湯を投与したところ、制限給餌5日目にも拘らず、ミトコンドリアが、若いマウスの様な細長い形状に戻っていますし、ミトコンドリアの断面積も、controlが平均0.58μm2だったものが、投与後は平均0.8μm2に増加しました。

肝臓中の代謝物も軒並み増えていますね。

 つまり、老齢マウスの肝臓では、オートファジー活性抑制因子であるBcl-2の過剰発現により、オートファジー活性が低下し、糖新生が生じ難くなっています。しかし、補中益気湯は、糖原性アミノ酸からの糖新生を回復させ、活動量を増加させます。その作用機序は、肝オートファジーの活性化及び肝ミトコンドリア恒常性の維持を介したものである事が示唆されました。

 

 

 

 

腸内細菌叢とテストステロン

寿命、心疾患、代謝疾患とアンドロゲンの関係

 2021年の日本に於ける平均余命は、男が81.47歳、女が87.57歳と、約6年女子が長寿です。

■長寿の3つの特徴

 男子に於ける長寿の特徴としては、①体温が低い、②インスリン濃度が低い、③DHEA-S濃度が高いが挙げられます。

①体温が低い

   男性ホルモンは、褐色脂肪組織(美容通信2018年8月号)に於いて、β3アドレナリン受容体シグナルによる熱産生をCREBのリン酸化抑制により低下させます。

②インスリン濃度が低い

   右側のラット膵β細胞の写真を見て下さい。胎児期のインスリンに分化する1つ手前の細胞に、アンドロゲン受容体が既に出現しているのが確認出来ます。

   左側の写真は8週のラット膵β細胞ですが、アンドロゲン受容体が出現しています。これらのアンドロゲン受容体の機能を抑制すると、β細胞量が減少し、インスリン分泌量が減少してしまいます。血糖調節が悪くなり、将来的に糖尿病のリスクが高まります。

③DHEA-S濃度が高い

  DHEAは中間体で、この濃度が高いと、末梢のテストステロンの濃度も上がります。

 

膵β細胞に於けるS-Equolの作用

 男性ホルモンが低下してくると、膵β細胞の機能が低下します。

 インクレチンは、食後に血糖を低下させるホルモンの一種で、消化管ホルモンの総称です。食物の摂取によって分泌され、血糖値依存的に膵臓のβ細胞からのインスリン分泌を促進し、血糖を低下させる役割を果たしますが、S-エクオール(美容通信2025年5月号)は、β細胞でインクレチンに非常に似た作用を及ぼします。テストステロンは前述の通り、β細胞を増加させますから、エクオールと併用が出来れば、より相乗効果が期待出来るって寸法です。

 エクオールには、S体とR体の2種類の立体異性体が存在します。S-エクオールは、R-と異なり、女性ホルモンであるエストロゲンと似た構造をしており、エストロゲンと類似した活性を持つ為、エクエル(美容通信2016年8月号)等のサプリメントは、更年期障害の際の補完療法として人気があります。しかし、更年期の女子だけに独占させるのはもったいない話なんですよ。

 エクオールは、大豆イソフラボンの一つであるダイゼインが、腸内細菌によって代謝されて生成される成分です。しかし、大豆を食べたからと言って、十分生成出来る人もいれば、不幸にも生成が出来ない人もいます。お腹の中の、貴方の腸内細菌次第なんです。報告によれば、ヒトから培養された腸内細菌の21の株が、ダイゼインをS-エクオール又は関連する中間化合物に変換する能力を有していたんだそうです。

 因みに、ダイゼインからS-エクオールへの完全変換を齎すとされる細菌は、下記の通り。代表的なエクオール産生菌としては、Adlercreutzia equolifaciensSlackia equolifaciensSlackia isoflavoniconvertensが有名ですが、名前を見れば役割が分かる(笑)。

  • Adlercreutzia equolifaciens(放線菌門)
  • Asaccharobacter celatus AHU1763(放線菌門)
  • Bacteroides ovatus(バクテロイデス門 バクテロイデス属)
  • Bifidobacterium(放線菌門 ビフィドバクテリウム属)
  • Bifidobacterium animalis(放線菌門 ビフィドバクテリウム属)
  • Coriobacteriaceae sp MT1B9(放線菌門)
  • Eggerthella sp YY7918(放線菌門)
  • Enterococcus faecium(フィルミクテス門)
  • Eubacterium sp D1 and D2(フィルミクテス門 ユーバクテリウム属)
  • Finegoldia magna(フィルミクテス門)
  • Lactobacillus mucosae(フィルミクテス門 ラクトバシラス属)
  • Lactobacillus sp Niu-O16(フィルミクテス門 ラクトバシラス属)
  • Lactococcus garvieae (Lc 20-92)(フィルミクテス門 ラクトコッカス属)
  • Ruminococcus productus(フィルミクテス門 ルミノコッカス属)
  • Slackia sp HE8(放線菌門)
  • Slackia equolifaciens (Strain DZE)
  • Streptococcus intermedius(フィルミクテス門 レンサ球菌属)
  • Veillonella sp(フィルミクテス門)

 幾つかの研究によれば、イソフラボンを含む大豆食品を食べてS-エクオールを産生する事が出来る人は、西側諸国の成人の場合、僅か25-30%のみ。これに対して、日本、韓国、中国の成人のエクオール産生者は、50-60%だったそうです。又、菜食主義者は、ダイゼインをS-エクオールにより多く変換する能力があるんだそうです。海藻や乳製品の摂取により、エクオールの産生能力がUPされるとの報告もあります。

 

腸内細菌叢には性差があります

男の下痢。女の便秘。…幼い時は、腸内細菌には男も女もありません。が、性成熟すると、ホルモンの影響で、腸内細菌叢が変化する事は良く知られています。

■NODマウスのⅠ型糖尿病発症に於ける腸内細菌の影響

 NODマウスとは、1型糖尿病の自然発症モデル動物です。一番上のグラフは、何もしない状態では、糖尿病の発症に明らかな性差が認められます。真ん中のグラフは、腸内細菌を壊滅状態にしたところ、性差が無くなります。一番下のグラフは、メスのマウスに、大人のメスからの腸内細菌を移植しても発症リスクは変わりませんが、大人のオスからの腸内細菌を移植すると発症リスクが下がります。

 つまり、腸内細菌によってテストステロンが産生され、そのテストステロンの一部が影響しているのではないかとの説があります。しかしながら、腸内細菌が直接発症性差に影響しているのではないかとする説もあり…、残念ながら、結論は出ていませんが。

 

食事依存的なメタボリックシンドローム発症とアンドロゲンの関係

 マウスを去勢する。つまり、テストステロンを作れないようにすると、体重は減ります。食べる量も減少し、食餌効率(=体重増加/カロリー摂取量)は変わりがないので、単に食べてないから痩せたと言えます。ところが、このマウスに高脂肪食を食べさせると、ぶくぶく太る事が知られています。食餌効率が高くなっているのですが、これに腸内細菌が関与しています。

 テストステロンの作用不全モデルである、アンドロゲン受容体ノックアウト(ARKO)マウスは、高脂肪食を食べさせるとぶくぶく太ります。ところが、腸内細菌のコントロールの為に抗生物質を投与すると、高脂肪食を食べさせても体重は増加しなくなります。それどころか、高脂肪食のARKOマウスに認められた、内臓脂肪や皮下脂肪の増加も、耐糖能の低下、脂肪肝の発症、大腿筋重量の低下(←唯、下腿の筋肉量は落ちない…)も、腸内細菌のコントロールの為に抗生物質を投与すると、認められなくなります。

 高脂肪食摂取時のオスのARKOマウスに於ける腸内細菌叢の菌の分布ですが、人間でも、アンドロゲン除去治療を行った前立腺癌の患者ではTuricibacterの増加が認められ、共通性があります。

 上図は去勢とARKOで共通に観察された腸内細菌叢の変化を示したものですが、Turicibacter spp.も、Lactobacillus reuteriも、乳酸を産生する菌なので、乳酸と何らかの関係があるようですが…。

■アンドロゲン作用低下マウスに於ける代謝疾患・寿命についてのまとめ

 


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

*使用中や使用後、刺激またはアレルギーによる赤み、かゆみ、痛み、腫れ等の異常が現れた場合、使用を中止し、医師に相談してください。

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来月号の予告

高濃度トラネキサム酸とナイアシンアミドによる色素沈着治療。

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