HISAKOの美容通信2024年1月号
生物学的(エピジェネティック)年齢と暦年齢
加齢による病気を予測し、予防し、健康寿命を延ばす為に私達はどうすべきでしょうか? 誕生してからの時間経過で規定される暦年齢(chronological age)は、あらゆる人にとって平等で、個人間での差異はありません。しかしながら、暦年齢が同じだからと言って、皆同じ老化を呈する訳ではありません。数学的モデルであるエピジェネティッククロックで算出されるエピジェネティック年齢が、生物学的年齢(biological age)を良く表し、暦年齢よりも実際の老化の指標と考えられています。メチル化DNAを始めとする、様々な指標によって定量が試みられていますが、残念ながら、皮膚や幹細胞については、明確な老化バイオマーカーと言えるものは確率されていません。皮膚で起こる加齢変化を、細胞・分子レベルで定量的に評価する為の指標やバイオマーカー、アッセイ系の確立が今後の課題とされています。
遊びをせんとや生まれけむ。梁塵秘抄に記されている有名な歌詞で、解釈は色々ありますが、私は額面通り、これをクリニックの、人生のモットーとしています。心身ともに健康でなければ、遊びは叶いません。
私事ですが、28歳の時に子宮癌になり、その後遺症で両下肢リンパ浮腫になりました。3年前には、放射線照射の後遺症による腰椎の圧迫骨折を契機に、両足の関節機能が全廃しました。病院は、医師は、患者の生命を存続させる為の治療を最優先で行うべきです。しかし、生き延びた後も、人生は続きます。その人生をより楽しく、どう遊ぶか。人間は、遊びをせんとや生まれけむ。クリニックでは、栄養療法やホルモン療法等で内側から、そしてレーザー照射やヒト幹細胞のメソセラピー等の外側からのダブルのアプローチで、人生をより豊かなものとする為のお手伝いをいたします。
これは、以前、集英社のOur Ageに掲載されたクリニックの紹介文です。これに、アンチエイジング(抗加齢)ではなく、もっと一歩踏み込んだリジュビネーション(若返り)を加えようと思います。しかし、未だ、リジュビネーション(若返り)の分野は、緒に就いたばかり。今月号では、先日開催された抗加齢医学会から生物学的年齢について特集します。
生物学的年齢を測定する
老化研究の現状
「老化は、治療或いは予防し得る病気である」。今まで、HISAKOの美容通信でも幾つか特集はしましたが、カロリー制限(美容通信2023年7月号)、DAF-2、Sir-2、ラパマイシン、SIRT6(美容通信2022年6月号)(美容通信2022年7月号)、p16/細胞老化と言った老化を制御する様々な遺伝子、介入、細胞機能が発見されており、近年、学術研究は勿論、産業としてスタートアップ、企業等への巨額の投資等、幅広い関心が寄せられています。つまり、時代の潮流は、Anti-aging(抗老化/抗加齢)からRejuvenation(若返り)に、大きく舵が切られようとしています。
老化の定義はまだ明確なものがありませんが、形態的、生理的、機能的な時間に伴う変化を指し、多くの場合、細胞や個体の恒常性の破綻、疾患、死と連動している生命現象として考えられています。特に、私達人間の場合は、癌、動脈硬化、アルツハイマー病、サルコペニア、慢性腎不全等の病気や臓器の機能低下は年と共に起こり、死亡の主要なリスク因子やQOLの低下の原因になってします。これらの老化疾患を予測して、早めに介入、予防する事は非常に有用とされてはいますが、老化の機序を解析し、生活環境、食生活等に応じて動的に変化する老化を定量、数値化するまでには至っていません。
生物学的(エピジェネティック)年齢の予測方法はいろいろある
近年、細胞の生物学的年齢、更には組織の生物学的年齢を予測するという試みが、盛んに行われるようになって来ました。その概念は、エピジェネティック クロックと呼ばれ、Horvath博士が、2013年にSteve Horvath博士が開発したHorvathクロックから始まり、様々なエピジェネティック クロック指標が開発されました。現在、DNAメチル化に基づくエピジェネティック クロックが最も生物学的年齢を正確に反映していると考えられていますが、DNAメチル化だけでなく、H3K9me3やH4K20me3等のヒストン修飾を介した遺伝子抑制も、老化や病気に係っている事が分かっています。更には、これらと並行して、血液中の炎症性因子、ケモカインであるCXCL9が加齢と共に増加し、心疾患や悪性腫瘍と相関がある事が報告されており、炎症性時計inflammatory aging clockと呼ばれています。年齢や病気によって変化するバイオマーカーについても、蛋白質、代謝産物、転写パターン等の様々なAging Clockの開発が試みられています(Omics Clock)。
DNAメチル化
細胞は、徐々にその機能や状態を周囲の環境に順応させ、細胞分裂や分化を繰り返してもその特性はリセットされる事なく、次世代の細胞達に引き継ぐ事が出来ます。エピゲノムとは、この分子レベルの継承機構の中核を担うもので、ゲノムDNAの変化を伴わず、後天的に遺伝子の発現状態を変化させる分子相互作用のことです。この中には、外部刺激に対する迅速なレスポンスを行う為に特化したものや、それとは対極に、長い時間を掛けて状態の維持・変化を蓄積する事に特化したもの等、様々なものがあります。
エピゲノムの中でも、変化のスピードが緩やかで、連続的な状態変化を引き継ぐ事に特化したのが、DNAメチル化です。
DNAメチル化は、生物のゲノムに於ける重要なエピジェネティック修飾の一つで、メゲノムDNA上の様々な領域で、時間的・環境依存的な状況に合わせて、適切に遺伝子が働くように制御を行なっています。しかしながら、例えば、細胞にとって好ましくないストレス状態が続いたりすると、DNAメチル化が不適切な箇所で起こり、細胞状態を悪化させます。つまり、細胞の状態とDNAメチル化の間には非常に密接な関係があり、悪い状態のDNAメチル化の状態を正せば、細胞が正常な状態に戻ります。これを応用したのが、白血病に於けるDNAメチル化阻害薬で、非常に効果的な治療方法とされています。
ですから、DNAメチル化の状態を把握する事は、細胞がどの様な方向に向けて変化し、どの様な状況にあるのかを予測する事であり、ひいては細胞の生物学的年齢、組織の生物学的年齢を反映すると考えられています。
生物学的(エピジェネティック)年齢の因子と利用
メチル化DNAに代表されるAging Clockの中でも、DNAやヒストンの化学修飾による老化の定量や予測を行うエピジェネティック クロックが着目されている理由は、主に生活習慣等による動的な変化を反映しているからです。つまり、遺伝子多型、ゲノムワイド関連解析(GWAS)は、確かに、癌や糖尿病を含めた疾患のリスク予測(美容通信2008年2月号)(美容通信2014年11月号)(美容通信2010年3月号)、鑑別診断に有用な指標です。しかしながら、生涯変化しないDNA配列を元にした身体機能低下や疾患のリスク予想には、どう考えたって、限界ってものがあります。生物学的年齢のコンセプトは、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を適応したpolygenic risk score等の、生涯動かない数値を代替するツールではなくて、健康寿命のリスクや健康状態を、動的に変化する定量的指標として表す事です。
2023年に、老化を加速、制御し得る細胞の機能として、Aging Hallmarksと呼ばれる因子が更新され、12に分類されました。ゲノム不安定性、テロメア短縮、エピゲノム変化、蛋白質の恒常性の喪失、オートファジーの機能低下、栄養センシングの異常、ミトコンドリアの機能異常、細胞老化、幹細胞の枯渇、細胞コミュニケーションの変化、慢性炎症、腸内細菌叢の変化です。将来的には、これらの生物学的指標であるAging Hallmarksに加えて、顔の表情や、動き、発声等の生活記録等の様々な情報が組み合わされるようになると考えられています。
ここで、エピジェネティック年齢の書き換え、つまり若返りの可能性についての興味深い報告を一つ紹介します。α‐ケとグルタル酸製剤であるRejuvant(Ponce De Leon Health社)を平均7ヶ月服用した群は、プラセボ群と比較して、平均約8歳、エピジェネティック年齢が若返ったそうです。実際の表現型としてエピジェネティックな若返りが反映されているのか、どう言った長期経過を辿るのか等々、まだまだ研究の途上ではありますが。現在、アメリカで市販されているエピジェネティック クロック解析の受託サービスを利用して、HISAKOも生物学的年齢を調べてみました。おまけ的に記載してますので、読んでみて下さいね。
HISAKOの生物学的年齢を、The TruAgeTM Testで知る。
The TruAgeTM Testについて
DNAメチル化と生物学的年齢の関係は、まだ完全には解明されていません。DNAのメチル化については、臓器や人種のみならず、発生段階や個体の年齢によっても異なります。更には、個体間のバリエーションも存在し、個々の遺伝子や環境要因もDNAメチル化に影響を与えるため、一般化するのは難しいです。将来的には、より正確な生物学的年齢推定の手法や、DNAメチル化と健康状態との関連性についての理解が深まって行くとは期待されていますが、今回HISAKOが今回トライしたThe TruAgeTM Testは、現時点では生物学的年齢の推定に最も有用な手法と考えられてはいますが、研究の途中段階の未完の検査でしかありません。
The TruAgeTM Testでは、以下の事が分かります。
- 生物学的年齢
DNAメチル化を、第2世代および第3世代の科学的アルゴリズムを使用して分析します。
生物学的年齢の介入方法としては、下記が挙げられます。第一に、外因性エピジェネティック年齢加速(EEAA)は、魚の摂取量(p=0.02)、中程度のアルコール摂取(p=0.01)、BMI(p=0.01)、および血中カロテノイドレベル(p=1×10-5)(果物と野菜の消費の指標)と有意な関連を示しますが、内因性エピジェネティック年齢加速(IEAA)は家禽の摂取量(p = 0.03)およびBMI(p = 0.05)に関連しています。これは、適度なアルコール摂取(週に1杯の飲み物でのみ検証される)がこの指標を減らすのに役立つ可能性があることを意味します。魚、果物、野菜の消費量は、EEAの改善と相関しています。BMIや体重を減らすなどの他の介入も、改善された指標と相関しています。免疫系が時間の経過とともに低下するのを予防または遅らせる治療法も役立つ可能性があります。この空間への検証された介入の1つは、胸腺の再生を中心に展開します。胸腺は私達の最も重要な免疫器官の1つであり、加齢とともに小さくなります。DHEA、メトホルミン、およびGH関連の治療法は全て、胸腺の再生と体内の免疫細胞の変化の改善を示しています。
- 老化のペース
DunedinPACEアルゴリズムを使用して、現在のエイジングの速度を計算します。端的に表現すると、車で例えるなら、生物学的年齢は車の走行距離。老化のペースはスピードメーターに相当し、今現在人生に於いてどれくらいの速さで老化街道を突き進んでいるかを示します。
テロメア(美容通信2022年7月号)は、全ての染色体の末端にタグを付けるヌクレオチド配列(TTAGGG)の繰り返し配列です。それらは、DNA鎖の予測不可能な変化を防ぎ、ゲノムを安定に保つように設計されています。それらの主な機能は、靴ひもの端にあるプラスチックの先端のように、細胞が複製するときに染色体の「ほつれ」を防ぐ事にあります。細胞が老化するにつれて、そのテロメアは短くなります。この短縮は、細胞を老化させる幾つかの要因の1つであると考えられています。骨髄中のもの、胚の幹細胞、成体の生殖細胞などの活発に分裂する細胞では、テロメア長(TL)は酵素テロメラーゼによって一定に保たれています。生物が成長するにつれて、この酵素は時間と共に活性が低下します。これにより、細胞が複製出来なくなるポイント(「複製老化」)に達するまで、テロメアの長さがゆっくりと減少します。テロメアが短過ぎると、細胞は分裂出来なくなります—臨界点に達すると、細胞は不活性(または「老化」)になり、修復出来ない損傷をゆっくりと蓄積するか、死にます。
テロメアの長さは、遺伝的寄与とエピジェネティック寄与の両方の影響を受けます。新しい研究では、DNAメチル化がTLと密接に関連している事が分りました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者による研究は、老化を示す2つの異なるマーカー間の非常に重要な関連性を示しています。テロメアは、私達の細胞の老化に影響を与える人間の細胞の重要な部分です。テロメアの長さは、複製老化と細胞運命の重要な決定要因として浮上しており、老化プロセスや、癌、心血管疾患、加齢性疾患などの幅広い病状の重要な指標となっています。短いテロメアは、年齢だけでなく病気にも関連しています。実際、テロメアの長さが短く、テロメラーゼ活性が低い事は、いくつかの慢性的な予防可能な疾患に関連しています。これらには、高血圧、心血管疾患、インスリン抵抗性、2型糖尿病、うつ病、骨粗鬆症、及び肥満が含まれます。より短いテロメアは、ゲノム不安定性及び発癌にも関与しています。テロメアが短い高齢者は、心臓病と感染症で死亡するリスクがそれぞれ4倍と高くなります。従って、テロメアの短縮率とテロメアの長さは、個人の健康と老化のペースにとって重要です。
- アルコール消費量
飲酒によって、皮膚や血液、肝臓の老化はグンと進んでしまいます。禁酒によって、このダメージをチャラにするのにどれくらいの時間を要するのかが分かります。
- 減量反応
効率的な減量計画の足し(美容通信2010年10月号)(美容通信2010年3月号)になります。
- 煙草の煙への暴露
喫煙(美容通信2008年7月号)は、生物学的年齢を5〜7年増加させます。
基本的には、このテストは一生に一回って代物ではなく、3ヶ月後に再テストを行い、試みた介入が最適だったかどうかを評価します。後述のAging Hallmarksの因子の一つである腸内細菌叢へのアプローチも、介入の一つの方法です。
HISAKOの結果
- HISAKOの生物学的年齢
生物学年齢には、内因性と外因性の二種類があります。内因性生物学的年齢とは、遺伝的な要因や個体発生の過程によって決まる、個人固有の生物学的年齢の事です。これは、個人の努力如何で何とかなる代物ではありません。これに対して、外因性生物学的年齢とは、環境的な要因や生活習慣によって変化する、個人に依存しない生物学的年齢で、努力次第で改善の余地があります。端的に言うと、一卵性双生児は全く同じ遺伝子の持ち主ですから、内因性生物学的年齢は両者に差がありません。同じです。しかしながら、その後のに夫々が置かれた環境や生活習慣、つまり、喫煙やストレス等の老化促進因子に曝された方が、外因性生物学的年齢が高くなる可能性があります。老化に対する介入治療は、内因性ではなく、この外因性の生物学的年齢に対するアプローチです。
HISAKOの内因性生物学的年齢は、52.93歳で、暦年齢より7年程ですが若い。
癌になったり、その後リンパ浮腫を発症したり、放射線を照射した後遺症で骨が壊れて敗血症になって死にかかったり、その後歩行困難になったりしている割には、意外に若い。慢性炎症の総合商社だと!と自認していただけに、外因性生物学的年齢は、未だ、40代!(笑)。これが、後述する腸内細菌叢への介入で30歳台にまで若返れるか!? 乞う、ご期待!です。
- 老化のペース
DunedinPACEは、死亡率と慢性疾患の罹患率に相関し、1.00を超える年齢になると、今後56年間で死亡リスクが7%増加し、1.00の割合を超えて老化している場合、慢性疾患の診断のリスクは今後54年間で7%増加します。断食のような食事療法は老化率を低下させることが示されています。
- テロメアの長さ
HISAKOのテロメアの長さは75.70パーセンタイルでした。HISAKOと同じ年の人達よりも、テロメアが75.70%よりも長い事を意味します。サンプル被験者のデータを使用して、テロメア測定から生物学的年齢を予測すると、推定テロメア年齢は 51.37歳です。
- 減量反応
カロリー制限してもあんまり痩せないタイプなんだそうな…。
Aging Hallmarks:腸内細菌叢
Aging Hallmarksは、2013年に、老化を加速、制御しうる細胞の機能として、9つの因子が分類されました。2023年には更新され、新たな因子が加わり12因子となりましたが、腸内細菌叢はその新しく加えられた因子の一つで、脂肪酸等の代謝産物の変化や加齢性疾患のリスクへの関与(美容通信2020年6月号)が示唆されています。
腸内細菌叢のメタゲノム解析、その代謝物を分析する手法が改良・確立され、腸管の老化を制御する事が、生活習慣病の予防、健康長寿の延伸に繋がる可能性を示す重要な成果が報告されています。メタゲノム解析、代謝物、食、臨床要因等を含めたオミックス研究により、腸内細菌叢、腸内環境に最も影響を与える外的要因が、食・栄養・環境要因(エキスポソーム)である事が明らかにされつつあります。
次世代善玉菌
私達人間の腸内細菌叢の解析が進み、幾つかの疾患で共通して増加する細菌、減少する細菌が同定されつつあります。これらの細菌を分離・培養し、最終的には病気の治療や予防に繋げる試みが、近年盛んに行われるようになって来ました。これまでのビフィズス菌や乳酸菌等の善玉菌(美容通信2014年1月号)(美容通信2013年8月号)(美容通信2012年8月号)とは異なる、次世代の善玉菌達です。
■Akkermansia muciniphilaアッカーマンシア
Akkermansia muciniphilaは、2004年に、オランダのムリエル・デリエンにより、健康な人のうんこから分離された、消化管の粘膜表面のムチンを単一の栄養源として生育出来る細菌です。大人の腸内細菌の1~4%を占め、大腸に生息しています。
老齢マウスに対して、若年マウスの糞便移植或いはAkkermansia muciniphila菌投与は、腸管だけでなく筋肉、脳、皮膚等を若返らせる事が知られています。欧米では既に販売されていますが、日本では遅くとも来年の秋頃かな、メタジェニックス社から販売予定の、注目の次世代のプロバイオティクスです。
- 肥満、糖尿病との関わり
体重、肥満度指数(BMI)、血中コレステロール値、空腹時血糖が高い人では、正常の人に比べて、腸内のAkkermansia muciniphilaが少ない事が知られています。また、過体重や肥満の人がカロリー制限の食事療法に取り組んだ時に、腸内のAkkermansia muciniphilaが元々多い人ほど、インスリン抵抗性の改善効果が著明に現れるそうです。
糖尿病の人では、腸管粘膜バリア機構の破綻があり、これが病状をより悪化させる要因となっているのは周知の事実ではありますが、Akkermansia muciniphilaは、粘液分泌を促進させ、バリア機構をより強固にしてくれるんです。
- 代謝・免疫応答への関与
Akkermansia muciniphilaは、ムチンを餌に酢酸等の短鎖脂肪酸を産生し、ムチンを産生する杯細胞にエネルギーを供給しています。因みに、糖尿病のお薬として有名なメトホルミンは、杯細胞の数を増やし、ムチンの産生を亢進、腸管粘膜層を厚くする事で、腸管バリア機構の維持、抗炎症に係り、抗糖尿病作用に寄与する事が知られています。Akkermansia muciniphilaみたいな奴なんです。
Akkermansia muciniphilaの外膜蛋白質であるAmuc_1100は、腸管上皮のToll様受容体(TLR2)を介した細胞内シグナルを活性化し、腸管バリアの増強に寄与しているんだそうです。このAmuc_1100は免疫応答にも関与し、抗炎症サイトカインIL-10産生の誘導にも関わっています。この様に、Akkermansia muciniphilaは、直接的及び間接的に生体の代謝・免疫応答に係っており、やっぱり次世代の善玉菌と呼ばれるだけの事はあるんですね。
- ポリフェノールとの相互作用
これまでポリフェノールの機能性は、抗酸化作用によるものと考えられて来ましたが、最近の研究によれば、比較的難吸収性ポリフェノール類が直接的に腸内細菌叢に影響し、Akkermansia muciniphila等の所謂善玉菌を介して発揮する、抗炎症・抗肥満作用である事が分かって来ました。
■Faecalibacterium prausnitziiフェリカバクテリウム
Faeclibacterium属は、Bifidobacterium属と共に、加齢と共に減少する腸内細菌として有名です。私達人間の腸内細菌叢の中でも最も豊富で、重要な共生細菌の一つとして考えられており、酪酸産生能が最も良く知られている機能です。酪酸を介した抗炎症作用、腸管の生理維持作用により、宿主の健康に於ける善玉菌と位置付けられています。代謝物だけでなく、その菌体成分にも抗炎症作用があります。
■Reseburiaロゼブリア
Reseburiaは、酪酸産生菌として知られています。日本に於ける長寿地域の優勢菌でもあり、由来の食物繊維を長年摂取してきた日本人の腸内には、その食物繊維を資化するReseburiaが定着し、Reseburiaが産生する短鎖脂肪酸が宿主に還元されるというwin-winの関係が、長い歴史の間に構築されてきたようです。炎症抑制作用があります。
■Lactobacillus reuteriロイテリ菌
Lactobacillus reuteri菌は、ヨーロッパを中心に注目されている乳酸菌で、ロイテリンを生成する事が知られています。ロイテリンは、常在菌はスルー!しますが、グラム陰性菌、グラム陽性菌等の様々なバイ菌のみならず、酵母やカビ、原虫等に対しても抗菌活性を発揮します。
ロイテリンは100℃、5分間の熱処理にも耐性を示し、幅広いpH領域にも安定している為、商品的価値が高い抗菌薬として注目されています。
- 口腔内細菌への応用
口腔内に生息する細菌のバランスをコントロールする事は、腸内細菌に対するプロバイオティクス作用と同様であり、バクテリアセラピーとも呼ばれています。
- ロイテリ菌の様々な効果
皮膚バリア機能や炎症反応、骨粗鬆症予防効果、ピロリ菌除菌療法時の副作用軽減、メタボリック症候群等に対する有効性が多数報告されています。
■ミックスプロバイオティクス
複数のプロバイオティクスをミックスしたミックスプロバイオティクスについては、効果や機序についての化学的な根拠は、未だ明らかにはされていません。有効性についても、多菌種の方が単菌種よりやや高いとされてはいますが、統計学上の有意差はありません。しかしながら、人間よりも遥に抗菌薬の使用を極力制限した畜産系では、ミックスプロバイオティクスが主流にはなっています。
これまで臨床的なエビデンスが乏しいとされてきたプロバイオティクスについても、多くの比較試験が行われており、今後の情報に要注意と言ったところでしょうか。
因みに、ミックスプロバイオティクスと似て非なるものに、ミックスジュースがあります。ミックスジュースは、地域によって多少の内容の違いがあるのはご存じでしょうか? 近畿地方では、喫茶店の定番メニューとしてお馴染みですが、牛乳と様々な果物(桃やみかん、バナナ、パイナップル、林檎等の果物(缶詰可!))をミキサーで攪拌した飲み物を指します。しかし、それ以外の地域では、複数種の果物の果汁を混合したものをミックスジュースと呼ぶんだそうです。嘗ては、銭湯のお約束とされたフルーツ牛乳を混同して考える人がいますが、製法が違います。つまり、ミックスジュースは果実をミキサーに入れて粉砕する段階で牛乳を加えるのに対して、フルーツ牛乳はフルーツジュースを牛乳で割る点が異なります。まるで、焼き飯とチャーハンに於ける卵の扱いに似ています(笑)。
糞便微生物移植法
私達の腸内細菌叢は、母子環境やその他の後天的環境因子(美容通信2019年11月号)、特に食の影響(美容通信2018年5月号)を強く受けながら、構成細菌の偏りやその多様性の低下と言ったディスバイオーシスが引き起こされます。一般的には、プレバイオティクス、ミックスバイオテイクス等による修正を試みますが、しかしながら、なかなか頑固で重症化してしまう症例も存在します。そんな時の奥の手的な方法が、糞便微生物移植法です。劇的な腸内環境の変化が叶います。が、未だ、投与経路、投与量、回数、ドナーの選び方等、未確定な治療方法です。C. difficile菌に対する糞便微生物移植法については、2020年3月に保険収載を目指した臨床治験が認可され、開始されています。
ファージセラピー
最近は、細菌に限らず、古細菌や酵母・カビ、ウィルスに関する研究も進んでいます。
私達の腸内には、細菌数以上にウィルスの一種であるファージがいます。ファージは、細菌や古細菌に感染して複製するウイルスで、基本構造は、蛋白質の外殻と遺伝情報を担う核酸 からなります。ファージが感染した細菌は、細胞膜を破壊される溶菌という現象を起こし、死細胞を残しません。あたかも細菌が食べ尽くされたかのように死滅するので、これにちなんで「細菌(bacteria)を食べるもの」を表す「バクテリオファージ(bacteriophage)」という名がつけられたんだそうです。
腸内細菌叢のコントロールが選択的に可能なファージを幾つか選択、組み合わせる事により、善玉菌に作用する事なく、悪玉菌だけを攻撃するなんてファージセラピーも、今後急速に臨床応用が進むのではと期待されている分野です。
HISAKOの腸内細菌叢を、MicroBio Meで調べる。
腸内細菌検査「MicroBio Me」とは
2023年6月にこの原稿を書いているのですが、この時点で日本で最も詳細に見える!を謳っている腸内細菌検査「MicroBio Me」(キリンホールディングス株式会社)を受けてみました。15、6年位前(美容通信2013年8月号)に行って、あまりの善玉菌の無さに絶望して…諦めモード以来のリベンジ検査です。MicroBio Meは、菌を属レベルではなく、種・株レベルまで見れるように進化していただけでなく、細菌叢の代謝物生成能力まで分かるんです! つまり、不足している有用な菌(種・株)が分かるから、HISAKOの腸内細菌が喜ぶ食材が的確に分かる。例えば、フィーカリーバクテリウム(種)の割合が少なければ、フィーカリーバクテリウムが喜ぶ食材が分かります。また、菌叢の能力が見えると、積極的に摂るべき栄養素がより正確に分かります。例えば、ビタミンB3を作る能力が低いって分かれば、ビタミンB3を含む食品やサプリメントを食べればいいやって具合です。
2023年の中旬、だからこの美容通信の発行日には、このMicroBio Meの結果とお腹の状態を元に、検査会社であるキリンホールディングス株式会社から、特定した不足菌を増加させる5タイプの食物繊維と2タイプのプロバイオティクスが提供されていると思います。いづれですが、提案されたサプリメントを3ヶ月間服用して、HISAKOの腸内細菌叢がどう変化したか、それが生物学的年齢にどう介入をしたかについてレポートしたいと思っています。
HISAKOの結果
■腸内細菌の状態
判定は、A・B・C・D・Eの5段階評価で評価します。HISAKOの総合判定は、Bでした。レベルの値が高い程、良好です。3が真ん中だから…短鎖脂肪酸を作る能力は全然ダメじゃん!
有用菌の多さ)レベル3
有用菌の少なさ)レベル5
菌の種類の多さ(多様性))レベル5
短鎖脂肪酸を作る力)レベル1
ビタミンを作る力)レベル3
- HISAKOに不足している有用菌は、これだ!
菌の特徴 | 菌種 | 説明 |
長寿菌 | フィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(種) | 様々な健康に関係すると言われている注目の菌! 短鎖脂肪酸(酪酸)を作り出す菌の代表格。 |
健康関連菌 | ルミノコッカス(科) | 様々な健康と関連性が報告されている菌。 |
短鎖脂肪酸生成菌 | ユーバクテリウム レクタル(種) | 短鎖脂肪酸(酪酸)を作る菌。 |
健康関連菌 | アリスティペス(属) | 様々な不調に対して保護作用を示すとの報告があります。 |
■HISAKOに必要な腸内細菌を増やす為に
HISAKOに必要な腸内細菌を増やす為には、当たり前ですが、バランスの良い食事を摂る事は大事。しかしながら、それだけではなかなか結果が出ません。手っ取り早く確実な結果を出すには、HISAKOに不足している菌が好む種類の食物繊維を与えるのがやっぱり大事。嫌いなものを食べろ食べろと言われても、そりゃあ、腸内細菌だってうんざりしてしまいますからね。サプリメントって、奥の手もあります。
- HISAKOに必要な菌が好む食物繊維はこれだ!
素材名 | 素材を含む食材 |
ペクチン | 柑橘類(レモン、ライム)やリンゴ等の果実の果皮 |
グァーガム | グァー豆と言う植物…(サプリメントでも可) |
イヌリン | チコリ、菊芋、ゴボウ、玉ねぎ等 |
アラビノガラクタン | コーヒー豆やセイヨウカラマツの木、白サツマイモなどに含まれています(サプリメントでも可) |
- HISAKOが摂った方が良い菌
移民がどれくらい帰化するかは、難しい問題ではありますが、アップル、イーベイ、ゼネラル・エレクトリック等、フォーチュン500社の40%が移民かその子供により設立されています。アップルのスティーブ・ジョブズは元を辿ればシリアだし、グーグルのセルゲイ・ブリンは旧ソ連によるユダヤ人迫害を逃れる為に6歳の時に両親と米国に移住しています。少ない菌があれば、生きた菌で摂るのは、悪くない選択ではあります。推奨される菌はないようですが…、発売されたら、長寿菌は絶対飲まなきゃ!
■検査結果詳細
スコアは論文審査のある出版物及びThorne HealthTech社の独自データベースに基づき、0~100での表示になります。
- 腸内細菌が関連する身体のスコア
- 腸バリアダメージスコア:24
腸バリアダメージスコアは、腸の粘膜や細胞(腸バリア)に影響を及ぼす腸内細菌の割合に基づいて算出されます。スコアが高い場合は、腸バリアに悪影響を及ぼす細菌が多い事を示しています。
腸には、有害な細菌の侵入を抑える粘膜で構成されたバリア機能が存在しています。有用菌が減り、バリア機能が崩れると、有害な細菌が身体に侵入し、体調不良を来します。飲酒により有用菌が減少する為、腸バリア機能の崩壊に繋がる可能性が高まります。
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- 脳腸相関不調リスク:67
脳腸相関不調リスクスコアは、脳に及ぼすと考えられる腸内細菌の割合に基づいて算出されます。
スコアが高い場合は、脳腸相関に関連する腸内細菌のバランスが乱れている事を示します。このバランスが乱れると、気分に影響が出て、感情のムラに繋がります。また、質の悪い睡眠やアルコールの常飲は、神経系や腸内細菌のバランスに影響を与え、脳腸相関に悪影響を及ぼします。
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- 消化力スコア:89
消化力スコアは、アンモニア等の身体に悪い物質を生成する腸内細菌の割合に基づいて算出します。
スコアが低い場合は、蛋白質の消化・吸収がされず、腸まで流れ着き、体に悪い物質を作る性悪な腸内細菌の餌食になってしまっている可能性があります。消化を助けてくれる、果物や野菜、ナッツ等から、植物由来の栄養素を摂りましょう。
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- 免疫スコア:42
免疫スコアは、病原体(ウィルス、細菌、寄生虫等)に対する、適切な免疫反応をサポートする細菌の割合に基づいて算出されます。
スコアが低い人は、以下の有用菌の種類と数が不足している事を示しています。
①病原体の侵入を防ぐ腸バリアを整える細菌
②過剰な免疫反応を抑える細菌
③獲得免疫システムをサポートする細菌
④短鎖脂肪酸を生成する細菌
加齢も免疫力を変化させる要因の一つです。
- ビタミン&短鎖脂肪酸・乳酸 生成能力
腸内細菌は、食物繊維やオリゴ糖等の餌を食べて、体の中でビタミンと短鎖脂肪酸・乳酸を作ります。短鎖脂肪酸には、①免疫の調整、②大腸のアエネルギー源、③食欲の抑制、④代謝UP、⑤腸のバリア機能UP、⑥有害菌が住みにくい腸内環境にする等の作用があります。
-
- ビタミン
- ナイアシン(ビタミンB3):76
- ビタミンB6:57
- 葉酸(ビタミンB9):60
- ビタミンB12:17
- ビタミン
ビタミンを生成する腸内細菌の遺伝子の割合に基づいて、算出します。
スコアが低い場合は、ビタミンB群を生成する能力のある腸内細菌の種類と割合が不足している可能性があります。このスコアが低い場合は、ビタミンB群を含む食材を食事に取り入れる、サプリメントを使用する等して、必要な摂取量を確保しましょう。
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- 短鎖脂肪酸・乳酸
- プロピオン酸:15
- 酪酸:10
- 吉草酸:23
- 乳酸:44
- 短鎖脂肪酸・乳酸
短鎖脂肪酸・乳酸を生成する腸内細菌の割合に基づいて、算出します。
短鎖脂肪酸(プロピオン酸・酪酸・吉草酸)は、大腸にいる腸内細菌が、食物繊維やオリゴ糖を発酵させる事によって作られます。大腸のエネルギー源になるだけでなく、有害な菌の増殖抑制や免疫の調節等、様々な機能を有しています。乳酸は、短鎖脂肪酸の原料ですが、多過ぎると、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
- HISAKOの腸内環境の特徴
菌の種類の多さ(多様性)スコア:95
多様性スコアは、腸内細菌の種類の多さを示す指標で、HISAKOのスコアよりも低いスコアの人が何%いるかを表す、パーセンタイルランクで表示されます。
スコアが低い場合は、体重や免疫力を維持する能力が落ちている可能性があります。研究によれば、定期的な運動は、腸内細菌の多様性に良い影響を与え、健康リスクを下げる事が分かっています。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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来月号の予告
もう抗生物質はいらない。
皮膚の常在細菌叢を操って、炎症性皮膚疾患を制する。
<皮膚微生物叢>