NAD+の前駆体であるNMNの補充による、生命機能の維持やアンチエイジング戦略|薄毛/脱毛・糖尿病・フレイル旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2027年6月号

NAD+の前駆体であるNMNの補充による、生命機能の維持やアンチエイジング戦略|薄毛/脱毛・糖尿病・フレイル

不老不死は大昔から人類の夢であり、老化研究に於いて、細胞老化、ホルモン低下、ミトコンドリア機能不全等、老化に伴う様々な現象・メカニズムが報告されています。2020年の「Nature Rev Drug Discov」誌では、アンチエイジング効果を有する可能性が高い候補物として、老化細胞除去薬、糖尿病の薬であるメトホルミン、納豆等にも含まれるスペルミジン等に加え、エネルギー代謝に必須な物質であるNAD+を増やすNMN等が挙げられます。
NMNは、生体内での働きやアンチエイジング効果の解明が日々進展しており、NAD+不足のリスクがある人には補充効果が期待出来ます。NAD+は加齢に伴い減少しますが、糖尿病、高脂肪食、飲酒過剰等NAD+消費が多い人も減少します。特に、アルデヒド過剰が疑われる人(糖化ストレスが強い)では、NMN補充効果が期待出来ると考えられています。しかしながら、野菜や乳製品などの日々の食品から摂取する事は難しいのが現状です。日々サプリメントや点鼻、時々点滴等での補充が推奨されています。

 不老不死は、中国でも伝統的な生命観の一つとされています。この世で強大な権力を手に入れた始皇帝は、不老不死の薬を求めました。蓬萊の国へ行って仙人and/or仙薬を持って来るようにと命じられた徐福は、そんなものが見つかるはずもなく、始皇帝の怒りを恐れて、そのまま日本に亡命しました。不老不死の創薬(練丹術)を命じられた者達は、辰砂、即ち、水銀等を原料とした丸薬を始皇帝に飲ませ、毒殺しました。熱い砂漠を移動する中、始皇帝の死体は直ぐに腐臭を放ち始めましたが、皇帝の死を隠す為に、側近達は、皇帝の馬車の前後に腐った魚を乗せたり、腐った魚が入った箱の中に皇帝の死体を入れたりと、その場凌ぎの隠蔽工作に四苦八苦したとの逸話が残っています。

 その他にも、不老不死を求める話は世界各地にあり、西洋では「elixir of life」(エリクサー)という錬金術の霊薬があります。エリクサーは、主に錬金術で使用される成分を意味し、鉛を金に変換するとされる液体、又は、全ての病気を治し、永遠の命を与えると信じられている物質または液体を指します。寿命を無期限に延ばすものは、金属を変換する物質と密接に関連しているか、同一であると考えられていました。

 古今東西の賢人達は、不老不死を求める行為の愚かさを指摘していますが、「寝たきりの要介護状態での延命で、寿命が結果的に長い」という不健康長寿を意味するネンネンコロリ(NNK)ではなく、「亡くなる直前まで病気に苦しむ事なく、元気に長生きし、最後は寝込まずにコロリと死ぬ」という健康的な死に方を意味するピンピンコロリ(PPK)(別名・大往生)は、十分実現可能な概念です。日々のサプリメントや点鼻によるNMNの補充は、大往生の友となり得る可能性があります。

 今月号は、<NMN補充による、生命機能の維持やアンチエイジング戦略>の特集です。

NMN概論

 NMNは、2008年頃にワシントン大学の今井眞一郎教授らが糖尿病への効果に注目し研究を進めた事を切っ掛けに、マウスで抗老化やミトコンドリアの働きに係るサーチュイン等のNAD+消費酵素が見出された事で、アンチエイジング成分として大きな注目を浴びました。その後、ハーバード大学のシンクレア教授の著書Lifespan(老いなき世界)(美容通信2022年6月号)が世界的なベストセラーになりました。

NMNの生体内代謝と安全性

 NMNは私達人間の体内で、様々な生理作用に広く関与している補酵素であるNAD+の前駆体として知られています。NAD+は、体内でエネルギー代謝やDNA損傷の修復、遺伝子発現の制御等に深く関与しており、抗老化分子として知られるサーチュインもNAD+により活性化されます。

 哺乳類に於けるNAD+の生合成経路には、トリプトファンを出発物質としたde novo経路、ニコチン酸NAを利用するPreiss-Handler経路、ニコチンアミドNAMを利用するサルベージ経路の主に3つが知られています。NAD+は、20歳代前半をピークに加齢と共に減少しますが、酸化ストレスや慢性炎症、過食や飲酒、睡眠や運動不足等の生活習慣によっても減少する事が知られています。加齢等で減少した体内のNAD+を補う事が、アンチエイジング戦略上重要な鍵となります。

 NAD+の前駆体について、私達人間に於いて最も研究されている成分はNA及びNAMですが、過剰経口摂取により、NAでは紅潮、頭痛、眩暈、胃腸障害、全身血管拡張が、NMNでは肝毒性や吐き気、嘔吐等が起こる事があります。米国でのヒト臨床試験によれば、1日2000mgを4週間摂取した試験が、現状報告されている最大の容量とされています。因みに、日本人を対象にしたヒト臨床試験では、1日1250mgを1ヶ月間摂取した試験が、現状報告されている最大の容量とされています。HISAKOは、もう10年近く1日2000mgのNMNサプリメントを摂取していますが、特に副作用はありません。

 NMNは、野菜や果物、肉類にも含まれています。100g当たりで、野菜(枝豆、ブロッコリー等)では0.0035~1.88mg、果物(オレンジ等)では0.021~1.6mg、水産物(海老等)では0.029~0.51mgと、何れも焼け石に水以下?気のせいレベル?の含有量しかなく、サプリメントや点鼻、点滴等で摂らない限りは補給が難しいと考えられています。現在、サプリメント原料として流通しているNMN原料は98~99%以上の純度が規格化されたものが大部分で、その製造方法は主に、化学合成法・酵素合成法、発酵法の3つの技術で製造されています。NMNにはα型とβ型があり、人体や天然に存在するβ型がサプリメントの原材料で多く使われています。HISAKOのクリニックで採用しているNMNのサプリメント(細胞治療技術研究所)は、

  • NMN純度:定量NMR法(絶対値法) 分析:> 99% 
  • 製造方法:酵素合成法
  • NMNβ

です。

 哺乳類のおっぱいには、NAD+とその前駆体が高濃度に含まれています。NMNは母乳中に最も多く存在するNAD関連物質であり(NAD:2.2μM、NMN:9.2μM)、母乳に含まれるNMN濃度が、その母乳で育った小児の精神発達と関連する重要な栄養成分である事が明らかになっています。この事は、赤ちゃんがお母さんのおっぱいからNMNを摂取し、NAD+生合成システムを発達に利用していると言う非常に興味深い可能性を示すと共に、NMNの経口摂取について幅広い年代に於ける安全性と生理機能の観点からも重要な知見と考えれれます。

 

NMN(NAD)の有効性

 日本に於いては、2015年頃からNMNサプリメントの販売が行われていますが、細胞や動物でのメカニズム検証や人間での安全性試験、有効性試験がが世界中で多数実施され、急速に知見の蓄積が進んだのは、2020年以降になります。糖尿病、メタボリックシンドロームの分野では、肥満傾向の被検者を対象にした複数の研究によれば、血糖値、中性脂肪値改善や筋肉のインスリン感受性、インスリンシグナル伝達、リモデリングを高める可能性が示唆されています。血圧についても、中高年を対象とした試験で、改善傾向を示したとの報告があります。

 筋肉や歩行速度については、高齢者を対象とした試験が複数実施されており、歩行速度や椅子の立ち上がりテスト、握力、歩行持続力等の改善報告があり、フレイル改善の可能性が示唆されています。27~50歳のランナーでは、NMN摂取により、酸素消費量の有意な増加が認められ、アスリートのパフォーマンスを向上させる可能性が示唆されています。

 睡眠に関しては、中高年や高齢者、健常者等を対象にした複数の試験によれば、睡眠の質の改善の報告や、眠気、疲労感の改善傾向等の報告があります。しかし、有意な差が認められなかったとの報告も複数有り、サーカディアンリズム等からNMNの摂取時間や対象者の年代等によって左右されると考えられています。

 肌や血流に関しては、日本人を対象にしたNMN経口摂取による皮膚弾力や水分量の改善、紫外線ダメージ軽減の報告があり、専門医による目視評価で紅斑の軽減についても報告があります。血流に関しては、中年女性を対象とした試験で、NMN摂取により手指の血行促進や皮膚温度上昇の報告があります。

 経口摂取や点滴、点鼻により補充されたNMNは、体内でNADに代謝され、ミトコンドリアでのエネルギー代謝、ATP産生の改善やサーチュインの活性化による老化制御や炎症の抑制、神経保護作用、DNA修復や酸化還元反応等に関与し、健康や長寿に関して上図の様な多面的な効果が期待されています。

 近年、NMN及びNAD研究者の第一人者である今井眞一郎教授は、NAD World 3.0と言う全身的な調整ネットワークの概念を提唱しており、哺乳類の老化及び長寿の調節に於いて重要な役割を果たす組織として、視床下部、骨格筋、脂肪組織、小腸の4つの臓器間に於ける相互コミュニケーションの重要性を報告しています。

 NMNは、小腸に発現するトランスポーターSlc12a8を介して吸収される可能性が示唆されており、哺乳類の組織に於けるNAD量は、NMN合成酵素であるNAMPTによって律速されています。NAMPTは、脂肪組織で高発現し、運動により筋肉組織でもその発現が上昇する事が知られています。脂肪組織からは、NAMPTが細胞外小胞extracellular vesicles(EV)に内包され、eNAMPT-EVとして細胞外に放出されます。このeNAMPT-EVが、視床下部に於けるNAD合成を促進します。視床下部での適切なNAD+レベルを維持する事は、生命機能の維持やアンチエイジング戦略に於いて重要です。視床下部は、全身のコントロールセンターとして、交感神経を介し、筋肉や脂肪組織を含む全身の老化制御に関与している事が分かっています。

NMNを使用した髪の毛の若返り

 嘗て「隆能源氏」と呼ばれてきた『源氏物語絵巻』は、源氏物語を題材にして制作された絵巻としては現存最古のもので、平安時代末期の制作であるとされています。本絵巻で現存するのは絵巻全体の一部分のみで、名古屋市の徳川美術館に絵15面・詞28面(蓬生、関屋、絵合(詞のみ)、柏木、横笛、竹河、橋姫、早蕨、宿木、東屋の各帖)が所蔵され、国宝に指定されています。左図は東屋。手前には、女房に髪を梳かせている宇治の中の君(後姿)が描かれています。平安時代の女性達は髪を腰よりも長く伸ばし、床に届くほどにしていました。『源氏物語』の登場人物・末摘花も「美人とは言えないけれど、髪だけは美しい」と描かれています。つまり、髪の美しさは非常に重要な項目で、「ふっくらした顔立ち」「長い黒髪」「白い肌」が美人の条件とされていました。

 現代でも、毛髪の老化(美容通信2027年4月号)は、外見の印象を大きく左右するだけでなく、自己認識や生活の質にも大きな影響を与えます。加齢に伴い、毛髪密度や太さが減少し、白髪の増加、ハリやコシの低下等の様々な症状が顕著になります。これ等の現象は、毛髪を司る毛包の機能が低下する、特に、毛母細胞や毛乳頭細胞の増殖・分化能の低下して毛周期が乱れる事に起因します。毛周期に於ける成長期の短縮と休止期の延長が、毛髪量の減少や細毛化を招きます。

 従来の毛髪ケアでは、外用薬(美容通信2024年12月号)や育毛剤(美容通信2022年12月号)、生活習慣の改善(美容通信2027年3月号)(美容通信2020年11月号)等、間接的な介入方法が中心であり、毛包細胞自体を標的としたアプローチは限定的でした。しかし、近年、細胞老化や代謝に関連する分子メカニズムが明らかになるにつれ、新たな老化制御標的として、NAD+が注目されるようになりました。NAD+はエネルギー代謝、DNA修復、サーチュイン活性化等の重要な生物学的プロセスに関与し、その体内濃度が加齢と共に減少します。その前駆体であるNMNの補充により、NAD+濃度の回復を介した細胞機能改善や老化抑制が促進される可能性があり、毛髪の老化に対する新たな介入戦略として期待されています。

毛髪の老化とNAD+

 因みに、ハゲと言えば、ぱっと頭に浮かぶのは河童ですが、河童は日本三大妖怪の一つで、実在する訳ではないので…、実在に拘れば、ザビエルではないでしょうか。彼の名を広く知らしめたのは、歴史の教科書で異彩を放つその特異な髪型と、大分銘菓でも知られる南蛮菓子・ざびえるの功績でしょう。特に後者は、ラム酒に漬けられた刻みレーズンを練り込んだ餡を、カカオ風味の豊かなチョコレート生地で包み込み、遠い異国と豊後を繋いだ南蛮文化を思わせるお菓子で、いきなり団子、16区のダックワーズと並ぶ(HISAKOが選ぶ)九州三大土産の一つです。まあ、ザビエルの髪型に話を戻しますと、あれは実際は頭頂部がツルツルの禿げ故になってしまった故の仕方がない髪型ではなく、敢えて「トンスラ」という特別なヘアスタイルを選択した結果なんだそうです。トンスラは、古代ローマ時代から続くキリスト教伝統の髪型で、修道士が神への献身を表す為にしたとは言いますが…、穿った見方をすれば、武士の月代と一緒で、加齢に伴う薄毛を、威厳を損なわずにスタイリッシュに見せる髪型として定着したのが真相じゃないのかしらねぇ(笑)。

 毛髪は、毛包と言う複雑な器官により形成され、成長期・退行期・休止期からなる特有の毛周期により調整されています。毛母細胞や毛乳頭細胞は、活発な分裂・分化を繰り返し、毛周期を経て毛髪の生え変わりを維持しています。また、私達の体の中で、NAD+は細胞のエネルギー産生や代謝調節に関与します。

 老化が進行すると、毛包細胞の増殖能が低下し、酸化ストレスの蓄積、慢性炎症、微小環境の悪化等の複合的な要因により、毛周期が乱れます。特に活性酸素種ROS(美容通信2017年10月号)は、DNA損傷や蛋白質変性を誘導し、毛包構造を破壊します。また、毛包老化の背景には、局所的酸化ストレスの蓄積だけではなく、全身的な慢性炎症(サイレント・インフラメーション)(美容通信2021年1月号)の影響もあります。経口投与もしくは点滴によるNMN補充は、全身の炎症レベルを低下させ、毛髪の若返りや脱毛抑制のみならず、皮膚全般の健康維持と、広汎な効果が期待出来る可能性があります。

 NAD+は、ミトコンドリア機能維持、DNA修復、エピジェネティクス調節に重要な役割を果たす補酵素であり、特に、NAD+依存性の酵素群であるサーチュイン(SIRT1~SIRT7)は、細胞老化抑制に於いて重要であると考えられています。NAD+濃度の低下は、サーチュイン活性を低下させ、老化を促進させてしまう可能性が示唆されています。NMNは、このNAD+の前駆体であり、体内で迅速且つ効率的にNAD+へと変換されます。

 マウスのお話ではありますが、NMNの長期投与は、毛髪の質や密度改善を齎したとの報告があります。更には、DHT(美容通信2026年2月号)で障害を受けた、所謂AGA、若ハゲ(美容通信2013年2月号)(美容通信2005年12月号)の人の毛包細胞を用いた培養研究に於いても、NMN添加により、細胞の増殖促進及び老化マーカー発現抑制が確認されています。こうした作用により、毛周期に於ける成長期が延長され、退行期や休止期への移行が抑制される事で、毛の密度や毛径の増加に繋がったと考えられています。

 

 また、NAD+レベルの上昇に伴い、ミトコンドリア機能の改善や抗酸化酵素(SOD、カタラーゼ等)の発現促進が知られており、ROS産生の抑制や慢性炎症の軽減による、毛包の微小環境の正常化が期待出来ます。特に、皮膚線維芽細胞に対し、NMN投与により、炎症性サイトカインの抑制及びコラーゲン産生促進が報告されており、毛包支持組織への間接的作用もあると考えられています。

 40~50歳代の健康な日本人醸成を対象にした、NMNサプリメントの経口摂取に於ける毛髪への影響を調べた報告でも、飲用前後に毛髪総数や密度の若干の減少はあったものの、成長期の3日間の毛髪伸長の増加が認められており、特に、終毛期の伸長が顕著だったそうです。毛髪表面のキューティクルの改善、毛髪径の増加も認められたそうです。NAD+代謝は、遺伝的な背景や生活習慣、ホルモン状態等の、多くの因子に影響され、NMN単独の効果には個人差があるとされてはいますが、NMNの経口摂取により、中高年の女性の毛髪ケア及びQOL向上に有用な治療方法の一つになり得ると考えられています。

糖化ストレスによるNAD+不足とNMN補充

 補因子NAD+は、様々な酵素反応、糖脂質代謝、エネルギー産生系に於いて円滑な反応を補助する補因子として、身体の恒常性を維持する役割を担っている為、NAD+が不足すると、これ等の反応に支障を来してしまいます。NAD+の前駆体には幾つかの種類がありますが、そのうちの一つがNMNです。

糖化ストレスとNAD+消費

 糖化ストレス(美容通信2015年10月号)(美容通信2019年11月号)は、体内のアルデヒド過剰状態に起因します。糖質の過剰摂取は、食後高血糖(血糖値スパイク)(美容通信2021年3月号)を経て、糖質由来アルデヒド生成の連鎖反応(アルデヒドスパーク)を引き起こします。体内の脂肪酸は、酸化や他のアルデヒドとの反応によって、脂質由来アルデヒドを生成します。

 2025年3月13日発行のNatureにも紹介されていますが、動物実験では、高脂肪食は、血中メチルグリオキサールやグリセルアルデヒドの上昇を惹起します。これらのアルデヒドによって、体内の蛋白質が終末糖化産物AGEsに置き換わります。糖と脂と言う至福の最強タグは、体にとってはダブルパンチで病的老化を強力に促進してしまいます。

 体で発生したアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により、安全な有機酸に代謝されます。グリセルアルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素によりグリセリン酸に代謝される他、リン酸化して細胞膜を通過出来ないグリセルアルデヒドー3⁻リン酸に変換され、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)に代謝されます。アルデヒド脱水素酵素(ALDH)とグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)の反応には、補酵素NAD+が必要な為、強い糖化ストレス状態(アルデヒド産生過剰)ではNAD+が大量に消費されます。

 糖化ストレスが強い糖尿病の患者さんでは、グルコース過剰に応答して、ポリオール経路が活性化します。ソルビトールをフルクトースに変換するソルビトール脱水素酵素SDHも、反応にNAD+を使う為、ここでもNAD+が消費されます。更に生成されたグリセルアルデヒドは、アルデヒド代謝酵素に処理されますが、この際にも、NAD+が消費されます。酒ヤクザや愛煙家では、エタノール由来アセトアルデヒドや煙草の煙に含まれる多種類のアルデヒド負荷が加わります。

 この様に、強い酸化ストレス(アルデヒド過剰負荷)は、NAD+不足を来す主要な要因になります。NAD+不足に陥ると、これらのアルデヒド代謝酵素活性が低下します。その為、ますますアルデヒド過剰状態が増悪すると言った悪循環になります。

 

糖脂質代謝とエネルギー産生システム:NAD+の関与

 グルコースは、解糖系を経てアセチルCoAを生成、TCA回路に輸送されてATPを産生すると共に、NADH、FADH2を生成し、電子伝達系を介してATPを産生します。また、脂肪酸は、β酸化の過程でATPを酸性すると共に、アセチルCoAを生成し、TAC回路に輸送されてATPを産生すると共に、NADH、FADH2を生成し、電子伝達系を介してATPを産生します。この様に、脂肪酸の代謝は、2つの経路によって電子伝達系に至る為、ATP産生量がグルコースに比べて多くなります。

 NAD+不足に陥ると、エネルギー産生システムに不具合が生じます。

 β酸化の第三段階では、NAD+による酸化が不調を来し、途中段階の脂肪酸代謝産物が蓄積します。TCA回路では3ヵ所の反応でNAD+が関わる為に、NAD+不足により、回路が円滑に回らなくなります。その結果、グルコースや脂肪酸からのエネルギーの産生効率が低下します。TCA回路の不調が起きると、フマル酸産生が増加します。フマル酸は蛋白質翻訳後修飾を惹起し、ペプチドのシステイン残基と反応してサクシニル化を起こし、25C-GAPDHや2SC-アディポネクチンを生成します。GAPDHのサクシニル化によって、酵素活性が低下し、血中のGA、MGOが増加します。アディポネクチンのサクシニル化は、アディポネクチンの分泌低下の原因となり、インスリン抵抗性が増して、高血糖を助長してしまいます。

 NAD+は、SIRT1(美容通信2022年7月号)活性に関与しています。SIRT1は、ヒストン(美容通信2022年6月号)のリジン残基を脱アセチル化させ、主に抗酸化系遺伝子の発現を促します。

 

NAD+不足を防ぐ

 NAD+の材料として、トリプトファンTrp、ニコチン酸NA、ニコチン酸アミドNAM、NMN、ニコチンアミドリボシドNRがあります。細胞膜の通過は専用の輸送体を介して、NMNからNAD+への変換は酵素反応を介するので効率良く行えます。

フレイルに対する臨床効果

老化関連疾患に対するNMN補充治療

 NAD+は、ミトコンドリアに於ける糖質や脂質の炎症のエネルギーへの変換、核に於けるDNA損傷や様々なストレスの管理、細胞質に於けるプロテオスタシスやオートファジーの制御等、多くの生理機能の維持に不可欠です。NAD+合成系には、食事由来のビタミンB3(ナイアシン)とde novo経路であるトリプトファン由来の2つの合成経路があります。中間代謝産物のNMNを経て、NAD+が合成されます。NAMPTがNAD+合成系の律速酵素であり、環境・栄養状態に応答して発現量が変化する事が知られており、加齢と共にその発現量が低下します。NAMPTは脂肪組織で多く産生されて分泌される事が知られており、特にエクソソーム(美容通信2027年2月号)の中に含まれています。血中のエクソソーム内のNAMPTを定量すると、マウスも人間も同様に、加齢と共にNAMPTの発現が低下してしており、更に興味深い事としては、血中エクソソーム内のNAMPT量とマウスの余命が相関する事が分かっています。即ち、加齢と共に、NAMPTの発現が低下する事で、細胞内NAD+が低下し、この事が個体寿命に大きな影響を与えていると推察出来ます。NAD+レベルの低下は、老化関連疾患であるフレイル(美容通信2019年2月号)の発症・進展に関与するものと思われます。

 NRやNMN等のNAD+中間体の補充は、マウスや人間の複数の組織でNAD+レベルを増加させます。例えば、Ⅱ型糖尿病マウスモデルに500mg/kg/日のNMN腹腔内投与を行ったところ、インスリン分泌と抵抗性が改善されて酸化ストレスが軽減した等の報告があり、NRやNMN等のNAD+中間体の補充により、様々な抗老化効果が期待出来ます。人間でのエビデンスとしては、米国ワシントン大学で行われた臨床試験では、閉経後の高齢女性の糖尿病予備群25名に、NMN250mgを10週間服用してもらったところ、インスリン抵抗性の改善、中でも骨格筋でのインスリン抵抗性の改善効果が認められたそうです。

 

フレイルに対するNMNの臨床効果

 プレフレイル・フレイルは、可逆的な状態であり、要介護が必要な状態になる前に介入治療を行う事で、健康寿命を延伸する事が出来ると考えられています。フレイルには、①身体的フレイル、②社会的フレイル、③精神的フレイルに大別されますが、身体的フレイルについては、筋力評価としての握力低下(男性28kg、女性18kg以下)、身体機能評価としての歩行速度低下(1m/秒未満)が基準の一つです。

 握力や歩行速度の持続的な悪化がプラセボ群で認められたのに対し、NMN群に於いては認められず、NMN群では寧ろ虚弱状態が良好に変化するとの複数の報告があります。



*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

*使用中や使用後、刺激またはアレルギーによる赤み、かゆみ、痛み、腫れ等の異常が現れた場合、使用を中止し、医師に相談してください。

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