難治性のED(勃起不全/勃起障害)の治療|プロスタグランジンE1(PGE1)の陰茎海綿体注射(ICI治療)旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2025年9月号

難治性のED(勃起障害/勃起不全)の治療|PGE1陰茎海綿体注射(ICI治療)他

ED(Erectile Dysfunction勃起障害/勃起不全)は、男性の尊厳、重要なアイデンティティ、コミュニケーションツールが損なわれるだけでなく、糖尿病やメタボリック症候群等の生活習慣病や、循環器疾患、男性更年期障害/LOH症候群、前立腺肥大症/LUTS等に深い関連を有する重要な症状です。特に、心血管疾患に関しては、EDがその前兆であると言う認識が広がっています。PDE5阻害剤(バイアグラ)の登場によりED治療法は大きく前進しましたが、糖尿病や前立腺癌の手術後等の治療に反応し難いEDに対しては、PDE5阻害剤(バイアグラ)だけではなかなか如何ともしがたく、テストステロンの補充療法や、タダラフィル錠(ザルディア)内服、レーザー治療や磁気刺激治療、PGE1陰茎海綿体注射(ICI治療)、L-アルギニンやL-シトルリン、抗酸化物質のサプリメントや漢方薬の服用等の、あの手この手を併用し、治療を行います。

 国立西洋美術館に常設されている、ロダンのバルザック像(習作)をご存じでしょうか? EDに悩む紳士諸君とそのパートナーの方には、動物園の帰りに、是非立ち寄って鑑賞していただきたいブロンズ像(美容通信2015年6月号)です。朝勃ちしているペニスを両手で握ったバルザックの姿は、男の生理である”早朝勃起”を象徴したモニュメントで、Hの時の勃起と異なり、純粋に男性の尊厳を示すものでしたが、その表現があまりにも露骨で、流石に衆目に晒すのが憚られた為、ガウンを纏わせたと言うのが真相だったようです。しかし、その姿が「ジャガイモの袋をかぶせた」ようだと嘲笑され、挙句、注文主のフランス文芸家協会に引き取りを拒絶されました。ロダンの嘆きと憤慨はさておいて、バイアグラを始めとするPDE5阻害剤を飲んでも如何ともし難い、難治性のEDに対する治療のお話です。

 

ED(Erectile Dysfunction勃起障害/勃起不全)とは

EDの定義

 満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、又は持続出来ない状態が持続又は継続する事で、他覚的なものではなく、本人の自覚により決まります。ですから、本人が満足していれば、それって半立ちじゃない?って医者が思おうと、EDではありません。反対に、太く猛々しく聳え、びくんびくんと脈打っているじゃん!と医者が思っても、本人が思っていなければ、それは十分にEDです。

 

EDの分類

 EAUのガイドラインでは、病因から器質性、心因性、混合性の3つに分類されますが、殆どの症例では病因が混合しています。強いて言うなら、主因が器質性とか心因性と言う表現にならざる得ません。

 

EDの有病率と発生率

 EDの有病率は年齢と共に上昇します。発生率は4~66/1000人年です。

■有病率

 数多くの疫学研究がありますが、全てに共通しているのは、年齢と共に有病率は上昇し、その概数は、40歳未満が1~10%、40歳代が2~15%。50歳代が最もばらつきの大きい年代ですが、均すと40歳代と60歳代の間位の率に落ち着きます。60歳代が20~40%、70歳以上が50~100%と推測されています。

■発生率

 日本人若しくはアジア人でのデータはありませんが、欧米では、複数の研究から、その発生率は4~66/1000人年とされ、何れの研究に於いても、有病率と同じく年齢と共に発生率は上昇していたそうです。

 

EDの治療

 EDの治療としては、バイアグラ(美容通信2005年1月号)(美容通信2017年2月号の様なPDE5阻害薬、PGE1陰茎海綿体注射、テストステロン補充療法、陰圧式勃起補助具、陰茎プロステーシス挿入術、サプリメント、漢方薬、陰茎リハビリテーション、行動療法、カウンセリング等々が挙げられますが、実臨床では、ほぼPDE5阻害薬一択。「効果があれば、続けてね」。「無効なら、諦めてね」。…しかし、後述の通り、PDE5阻害薬は、海綿体への刺激を損傷してしまう前立腺の全摘手術の既往があるとか、糖尿病で神経や血管の内皮に損傷がある場合等は、NOの産生が不足し、効果が上がりません。

NO(一酸化窒素)

バイアグラの父・ルイス・J・イグナロ

 勃起組織の神経がNOを放出すると、血管が弛緩し、勃起が起こります。この発見を切っ掛けに、ファイザー製薬が、バイアグラ(美容通信2005年1月号)(美容通信2017年2月号)の開発にいち早く成功しました。バイアグラは、生活改善薬として「夢の薬」「画期的新薬」と騒がれ、ファイザー社の売上・株価は急上昇し、世界的なセンセーションを巻き起こしました。この為、1998年にノーベル医学・生理学賞を授与されたルイス・J・イグナロは、「バイアグラの父」と言う名誉ある?称号を拝受しています(笑)。

 

NO(一酸化窒素)とは

 下記の図は、堀田らによる日本性機能学会雑誌.38(1).2023より引用改変しました。

 バイアグラを服用されている紳士諸君の皆様はご存じだとは思いますが、ルイス・J・イグナロは、体内で産生される信号伝達物質である一酸化窒素(NO)が血管拡張物質であり、身体の各部に流れる血液の調整を手助けしている事を発見した功績を認められ、1998年にノーベル医学・生理学賞を授与されました。動脈や静脈が梗塞する原因となるプラークが貼り付かない様にするだけでなく、動脈の弛緩によって正常な血圧を維持して血流を調節し、心臓発作は勿論、EDを回避する為にも体内で生成されます。NOは、体内で作られる心血管系の血管維持の為には、非常に重要な化学物質なのです。

【1998年のノーベル医学・生理学賞に関する、カロリンスカ研究所ノーベル賞選考委員会のプレスリリースより引用抜粋】

①心臓

 アテローム性動脈硬化では、内皮のNO生産能力が低下します。しかし、ニトログリセリン治療によって、NOを補給する事が可能です。現在、信号伝達分子としてのNOに関する新たな知識に基づいて、より強力且つ選択的な心臓薬の開発作業が集中的に進められています。

②肺

 集中治療患者さんにNOを吸引させて治療を行う事で、良い成果が挙げられており、人命が救われた事もあります。例えば、新生児の肺高血圧症の治療にNOガスが用いられますが、高濃度では有害な為、投与量が極めて重要と考えられています。

③癌

 白血球は、バクテリア、カビ、寄生虫等の感染源を死滅させるだけでなく、患者さんを腫瘍から保護する為にもNOを用いています。NOガスによってアポトーシスを引き起こす事が出来る為、科学者は現在、腫瘍の成長阻止にNOが使用出来るかどうかをテスト中です。

④不能(ED)

 NOは、勃起組織の血管を拡大する事によって、勃起を開始させます。この知識を利用して、既に勃起不全治療の為の新薬が開発されています。

⑤診断分析

 肺や腸でのNO生成を分析する事によって、炎症性疾患を診断する事が可能で、喘息、結腸炎、その他の疾患の診断に利用されています。

⑥他の機能

 NOは、嗅覚や違った臭いを嗅ぎ分ける能力にとって重要です。また、記憶力の為にも重要です。

 

 彼の提唱する、心血管系の老化を防止するSay Yes to NOプログラムは、L-アルギニン、L-シトルリン、抗酸化物質の相乗的な組み合わせを行う事により、当然、EDにも効果が期待出来ます。L-アルギニンは、NO産生の為に最重要要素ではありますが、L-シトルリンを加える事で、単体と比して、相乗効果的にNOの産生を大幅に増大します。抗酸化物質に対しても同様で、L-アルギニンから生成されたNOを酸化から守り、NOの有効利用をサポートします。しかし、十分な結果を得るには、L-アルギニンの量は1日3~6gが必要とされ、3g未満ではNOが殆ど増えないのだそうです。

 

Say Yes to NOプログラム

 ルイス・J・イグナロの提唱するSay Yes to NOプログラムは、アミノ酸の一種であるL-アルギニンと、L-シトルリン、抗酸化物質の相乗的な組み合わせを行う事を基本としており、EDの治療の際にもこのプログラムは非常に有用で、多くの施設でも治療に取り入れられています。

 赤肉、魚、オリーブオイル、ナッツ、ザクロジュースを始めとする機能性食品、適切な運動、それに適切量のL-アルギニン、L-シトルリン、抗酸化物質を組み合わせると、僅か2週間で、私達の体は優良なNO産生工場と化し、内皮細胞に十分な栄養素が補給され、血管が弛緩するので、血圧が低下し、コレステロールが減少する事が知られています。また、プラークの生成が抑制され、血流が改善するので、アテローム性動脈硬化症に至るケースの炎症が抑えられます。

■L-アルギニン

 長い間、L-アルギニンとL-シトルリンは、体内では産生されないので外部から摂取しなければならない、つまり、必須アミノ酸と考えられていました。しかし、最近になって、私達は体内でL-アルギニンとL-シトルリンを産生する事が判明ましたが、決して十分量とまでは言えない為、半必須アミノ酸に分類されています。一般的には、1日の食事での摂取量は1g~2gと考えられていますが、生物学的に利用可能なのは、つまり、消化器系を通過して血流に流れ込み、細胞に取り込まれるって意味ですが、恐らく摂取量の半分以下と考えられており、残りはうんこかおしっこととして下水道に流れ去ってしまいます。

 分厚いステーキを朝、昼、晩と三食食べ続けるのは、一般人にとってかなり難しいと言うか…殆ど苦行でしかありませんから、L-アルギニンをサプリメントで摂取するのが現実的な方法でしょう。推奨されるL-アルギニンの量は、3~6gです。Pure encapsulations L‐アルギニンは、1粒700mgですから、この製品だと5~8粒の服用となります。サプリメントによるL-アルギニンの摂取量が1日3g未満の場合、極く少量しかNOが産生されないそうです。そして、出来れば、就寝前に飲むのがベストだと考えられています。体内の血管内皮細胞は、起きている時や運動中よりも、就寝時は少ないNOしか産生しません。身体運動はNO産生を刺激するのは周知の事実ですが、同時に、心臓発作の大半はが、内皮細胞が最低量のNOしか産生しない早朝に起こる事も、皆さんは良くご存じだと思います。

 HISAKOは、女なのでEDにはなりようがありませんが、つい最近になって、L-アルギニン4000mgとL-シトルリン750mgを飲み始めました(元々、抗酸化ビタミンの類いは、アンチエイジングの為に飲んでいます)。神経麻痺の強い左側のふくらはぎが、冬になると、つまり12月中旬から3月の中旬までの3ヶ月間、霜焼けが酷くて、殆ど凍傷状態になります。痛い。タイツが沁みる…。何を塗っても効果が上がらず、強いて言うなら、オゾン化オイルが一番マシって有様で、知り合いの旭川医大の形成外科の教授に「どうしたもんでしょうかね」と相談したら、「旭川の冬は、環境が非常に厳しいからねぇ」と、さらっと流されてしまった…。Say Yes to NOプログラムで、今年の冬を乗り切る事が出来ればと願っています。

■L-シトルリン

 L-シトルリンは、L-アルギニンへの転換によって、NOを間接的に産生出来る事が知られています。また、L-アルギニンと組み合わせる事により、相乗効果が期待出来ます。

 L-シトルリンの推奨摂取量(サプリメント)は、1日1回就寝前に200~1000mgとされています。

 左図は、HISAKOのクリニックで取り扱っている医療機関専売製品の、Pure encapsulations スーパーシトルリン。1粒に500mgのL-シトルリンと、ブドウ種子抽出物、クランベリーエキスを配合した植物性食品で、植物由来のポリフェノールを含みます。CranLoadはNutra Canada社の商標です。

■抗酸化物質

 酸化プロセスは、NOを非活性化し、その体内濃度を低下させ、内皮細胞の損傷へと繋がります。ビタミンC、ビタミンE、葉酸等の抗酸化物質は、酸化プロセスを阻止し、内皮細胞を保護するだけでなく、体内で生産されたNOも保護してくれます。

  • ビタミンC

   ノーベル医学・生理学賞を2度受賞したライナス・ポーリング(美容通信2007年3月号)が、極く普通の風邪から癌に至るあらゆる病気を予防し、治療する効果のある物質(美容通信2016年11月号)美容通信2008年11月号としてビタミンCを賞賛して以来、アメリカでは特に大容量のビタミンCに対する信奉が多い事で知られています。ライナス・ポーリングは、毎日1g摂取すれば風邪を予防出来、また、風邪を引いてしまっても、1日数g摂取すれば風邪が治ると言っていました。大量のビタミンCは、内皮機能を改善し、心血管系の健康を強化します。

   Say Yes to NOプログラムでは、500mg/日の摂取が推奨されています。

  • ビタミンE

   ビタミンE美容通信2017年9月号美容通信2009年12月号は、体内の酸化ストレスを軽減します。フリーラジカル(美容通信2017年10月号)が血管系疾患やその他の重大な病気を引き起こす前に、中和してしまいます。

   Say Yes to NOプログラムでは、200IU/日の摂取が推奨されています。

  • 葉酸

   葉酸美容通信2017年8月号はビタミンBの一種ですが、それ自体に強力な抗酸化特性はありません。補因子です。フリーラジカルの活動軽減を含め、特定酵素がその重要機能を体内で果たす為には、この因子が必須です。酸化ストレスに干渉出来れば、体内のNOを安定させられます。それと同時に、葉酸はNO合成酵素の活動継続を手助けして、NOの産生がピークレベルで維持されるようにします。

   HISAKOの様に、便検査(美容通信2024年8月号)でビタミンB12を生成する能力のある腸内細菌の種類と割合が不足している輩は、ビタミンB群を含む食材を食事に取り入れる、サプリメントを服用する等して、推奨量(400~800μg/日)以上の摂取量を確保するしかありません…。

 

NO因子は、ED及びEDのリスクファクターを減少させうるか?

■糖尿病

 NOが、インスリンをより大量に身体へ提供する事を示す確実な証拠はありません。しかし、NOがこのプロセスに働きかけて、合併症の予防に役立っている事は明らかになっています。高血圧、眼病、ED(勃起不全)を始めとする糖尿病の大半の合併症は、心血管系的性質のもので、内皮細胞を損なう高レベルな酸化ストレスに関連しています。重症の糖尿病患者さんでは、内皮が十分な量のNOを産生出来なくなっており、合併症の発症を回避出来ない状況で、発症は単に時間の問題となります。

■ED(勃起不全)

 バイアグラに関するジョークは至る所で耳にしますが、2019年度調査データでは、軽度型EDは約1411万人、中等度型EDは約720万人、完全型EDは約680万人であり、成人男性の人口約5030万人のうち、2人に1人の約55.9%がEDと言う計算になります。EDは、決して当事者にとっては笑い事で済む話ではありません。 自尊心を傷付け、深刻な抑鬱状態を招いたり、パートナーとの間に深い感情の溝を生じさせたりします。

 ペニスへの血流が制限されると、どんなに欲望があろうとも、立たない…立てない。深刻なED患者さんの勃起組織は、EDでない男子に比して、物凄く少量のNOしか産生が出来ないのです。EDのみならず、高血圧、アテローム性動脈硬化、尿失禁、糖尿病、恐らくはアルツハイマー病を含めて、NOと関係するこれ等の多くの病気は高齢者特有のもの思われていますが、これもNOレベルの低下と相関しています。

 1998年に発売されたバイアグラは、NO研究で解明されたメカニズムによって機能し、cGMPの拡大機能を強化し、その結果勃起が起こります。

■尿失禁

 50歳を過ぎると、男も女も、尿失禁は他人事ではなくなります。通常は、NOは膀胱の平滑筋を弛緩させ、正常に膨張させて、おしっこが一杯溜まる様にします。NOが不足すると、膀胱は十分に膨張する事が出来なくなり、意に反して、おしっこを漏らしてしまったり、頻尿になります。

 NOがおしっこの悩みを全て解決してくれる訳ではありませんが、少なくとも失禁を減らす一助とはなります。

EDのリスクファクター

 EDのリスクファクターは数多くありますが、主なものとしては、12因子、つまり、①加齢、②糖尿病、③肥満/運動不足、④心血管疾患/高血圧、⑤喫煙、⑥テストステロン低下、⑦慢性腎臓病/下部尿路症状、⑧神経疾患、⑨手術/外傷、⑩鬱等の精神的因子、⑪薬物、⑫睡眠時無呼吸症候群が挙げられます。可変可能な因子としては、③肥満/運動不足、⑤喫煙があり、頑張れば何とかなる!→努力が必要。⑪薬物に関しては、原疾患の治療前、治療中に勃起機能を評価し、これまた、EDの発生を防ぐ努力が必要です。⑨骨盤内の手術に関しては、神経温存手術を選択する事が望ましいとはされてはいますが…、中々思うようにならない事態は多々起こります、はい。④心疾患の前兆としてのEDの意義は、重要です。

■加齢

 加齢は、EDの最重要リスクファクターです。幾つかの日本人とアメリカ人の地域住民を対象にした疫学調査によれば、日本人の方が性機能低下が著しく、70歳代では71%が中等度ないし完全EDだったそうです。

■糖尿病

 日本人のデータを含むレビューによれば、糖尿病の患者の35~90%にEDが発生し、発生時期も、糖尿病患者では、そうでない人に比して10~15年早いとされています。不良な血糖管理、年齢、糖尿病罹病期間、末梢神経障害、BMIがEDの発生に有意関連しています。また、英国での調査によると、男性糖尿病患者12~30%に於いて、EDが糖尿病の初発症状であったとされ、空腹時血糖とHbA1cの血液検査を必須とすべきとの勧告もあります。

 糖尿病によるED発生のメカニズムに関しては、血管障害と神経障害が関連する事は勿論の事、糖尿病に起因するhypogonadism(性腺機能低下症)によるもの、亀頭包皮炎等の陰茎局所の感染やペロニー病(陰茎硬化症)の発生と言った要因に加え、糖尿病に合併しやすい高血圧、肥満、運動不足等が増悪因子として働き、更には、鬱状態、不安、性欲低下と言った精神心理的要因も加わり、局所のNO(一酸化窒素)の産生が低下し、海綿体平滑筋の弛緩が障害され、EDが惹起されると考えられています。

 堀田らによる日本性機能学会雑誌.38(1).2023より引用改変した図を、再度掲載します。

 所謂難治性のEDと言われる状態、つまり、前立腺癌等で全摘手術を行(神経性ED)ったり、糖尿病で血管の内皮細胞や神経に障害がある(糖尿病性ED)と、局所のNO産生が低下してしまう為、GCが活性化しません。cGMPの分解を阻害するのがバイアグラ(PDE5阻害薬)のお仕事なのですから、NOの産生がそもそも枯渇状態では、飲んでも立たなくて当たり前なんです。そうなると、NOを増やす為に、ルイス・J・イグナロの提唱するSay Yes to NOプログラムに従って、L-アルギニンとL-シトルリン、抗酸化物質をサプリメントとして摂取したり、局所的に光応答性NOドナーの様なレーザー系の照射を行ったり、幹細胞の注射をする。又は、別経路のPGE1の陰茎海綿体注射すると言う対応になります。

■肥満と運動不足

 日本人のデータでは、肥満は有意な因子とは言えず、運動に関するデータもないのが現状です。しかし、肥満の解消、運動不足の解消はEDの改善、予防に繋がる可能性は高く、非薬物療法として推奨されています。

■心血管疾患及び高血圧

 高血圧患者さんでは、EDを合併する頻度が高い事は良く知られています。血圧の恒常性と勃起機能の両者の維持に不可欠な、神経・血行動態・生理活性物質等のバランスが崩れる事で、高血圧と同時にEDも引き起こされると考えられています。また、高血圧によって、虚血性心疾患や腎不全等の心血管合併症が発生し、その影響でEDが続発している可能性もあります。

 EDは、冠動脈疾患の重要なマーカーになりうると考えられています。

 繰り返しになりますが、硝酸薬との併用は禁忌ですが、心血管疾患のリスクファクターのある患者さんに対しても、バイアグラ等のPDE5阻害薬は安全に使用出来ると考えられています。

■喫煙

 喫煙が勃起機能に与える悪影響の機序については、血管内皮障害、陰茎への血流障害、交感神経刺激等が考えられています。組織的には、平滑筋の減少とコラーゲンの増生が認められています。禁煙(美容通信2008年7月号)(美容通信2006年10月号)しましょう!

■テストステロン低下

 実は、テストステロン(美容通信2014年7月号)(美容通信2015年6月号)とEDの関連に関しては一定の見解はありません。しかし、テストステロンは、勃起に関係する神経、血管、海綿体組織の正常な機能を保つのに必須なホルモンです。

 テストステロンの補充療法は、バイアグラ等のPDE5阻害薬の有効性を高める可能性が指摘されています。

■慢性腎疾患と下部尿路症状

  • 慢性腎臓病

   慢性腎臓病患者さん4389名のメタアナリシスによると、ED罹患率は70%。また、174名の日本人透析患者さんをHEFで調査した研究によれば、30代の36.4%から年齢と共に罹患率は上昇し、60歳代では93.1%だったそうです。発生機序としては、血流障害、神経障害、テストステロンの低下や抗プロラクチン血症と言ったホルモンの異常、腎性貧血、内因性NO合成阻害物質の蓄積、薬剤性、鬱等の多因子が考えられます。慢性腎臓病によるEDの患者さんに対し、腎移植を行う事でEDが改善する事が期待されています。

  • 下部尿路症状

   欧米7か国の50~80歳の男性12815名を調査した研究では、下部尿路症状を国際前立腺症状スコアで、EDを国際勃起機能スコアで評価し、年齢と合併症で調整した結果、両者の重症度には相関関係があり、下部尿路症状はEDの独立した予測因子でした。同様の多くの横断研究の下部尿路症状のEDに対するオッズ比は、1.06~8.90でした。両者に共通する発生機序としては、①交感神経系の過活動、②骨盤内血管床の虚血、③NOS/NOの低下、④Rhoキナーゼのup-regulationの可能性が示唆されています。因みに、前立腺肥大症を伴う男性下部尿路症状を合併するEDの患者さんに対し、前立腺の外科的治療で、勃起機能が改善した報告はありません。薬物療法としては、バイアグラ等のPDE5阻害薬は、男性下部尿路症状とEDを改善します。

■神経疾患

 勃起現象は神経によって制御されている事から、中枢神経、末梢神経を障害する疾患は、EDを起こします。多発性硬化症では50~75%、脳卒中では48.3%、てんかんでは42.5%、パーキンソン病でも68.4%に、EDを併発します。多系統萎縮症の患者では96%もの患者にEDを併発する上に、重要な事は37%の患者さんでEDが初発症状だったそうです。

 神経疾患自体もEDを引き起こしますが、その治療薬もEDを引き起こす事があります。てんかんに対する薬物療法や神経疾患に多く処方される抗鬱剤が、これに相当します。

■外傷及び手術

  • 外傷

   身近な外傷として、自転車乗車の際のサドルによる会陰部の圧迫があります。発生機序としては、サドルによる圧迫で、陰部動脈の血流障害及び陰部神経の神経障害が起こったと考えられています。

  • 前立腺癌

   前立腺癌に対する根治的前立腺摘出術後のED罹患率は、6~68%と推計されています。神経温存手術やロボット支援手術の導入と言う術式の進歩はありましたが、術後の勃起機能に全く問題がない患者さんは20~25%で、少なくとも過去17年間で改善は認められていません。発生機序は、糖尿病の項でも触れましたが、海綿体神経の損傷が主な原因と考えられており、手術技術の進歩にも拘らず改善が認められていない理由としては、想像以上に、この神経の走行が複雑で個人差が大きい事が考えられています。例え、手術による神経自体の損傷はなくても、手術中の牽引、電気メスによる熱、局所の虚血や炎症が、神経にダメージを与えた可能性も否定出来ません。また、放射線療法が手術療法に比べてEDの発生が明らかに少ないとの報告もありません。

   前立腺癌の治療後は、手術療法、放射線療法に関わらず、高率に術後EDの原因となります。HISAKOの大学時代からの友人の放射線科の医者は、主治医に手術を勧められましたが、EDになるなら、死んだ方が良いと手術を拒絶。腫瘍が大きくなるなら、放射線療法を選択する(←統計上は、EDの発症の有差はないのだが…)と断言していましたが、今のところ、幸いにも増大はないみたいです。最近はPSA検診の普及により、比較的若年の前立腺癌の発見が増えており、治療後のQOL維持の為にEDへの配慮がより重要とされています。

   陰茎リハビリテーションは、根治的な前立腺癌摘除術等による勃起機能を可能な限り回復させる為に、薬剤やデバイスを用いる事と定義されています。陰圧式勃起補助具、後述のプロスタグランジンE1の陰茎海綿体注射、バイアグラ等のPDE5阻害薬、レーザー照射、骨髄単核細胞移植等の方法が提案されていますが、方法を始め、開始時期、期間に関してエビデンスは未だなく、推奨出来る方法も現在のところありません。前述の通り、勃起の誘発物質であるNO放出が低下している為、バイアグラ等のPDE5阻害薬は無効な事が多いのですが、臨床に於いては、実用性の面からPDE5阻害薬が第一選択として使用されています。

  • 膀胱癌

   膀胱癌に対する膀胱全摘術後のEDの発生率は、20~70%です。患者さんの年齢や術前の勃起機能、神経温存術の有無、代用膀胱の手術法の違い等が、EDの発生率に関係します。膀胱全摘によるED発生の機序は、手術による神経等への侵襲は勿論の事、ボディイメージの変化、本人及びパートナーへの情緒的/精神的な影響もあると考えられています。

  • 直腸癌

   直腸癌に対する手術によるED発生率は、5~88%。腹腔鏡手術と開放手術の間に有意差はありませんが、我が国で良く行われている拡大リンパ節郭清を行うと、著しく勃起機能は損なわれます。

■心理的及び精神疾患的要素

 鬱症状と心血管疾患とEDの三者は共存しやすい事が知られており、EDに対し、鬱と心血管疾患の合併を念頭に置くべきとされています。

 また、心因性EDについては、バイアグラ等のPDE5阻害薬単独よりも、心理療法の併用でより効果が上がるとされています。因みに、PDE5阻害薬単独と心理療法単独では有意差はないそうです。

■薬剤

 多くの薬剤がEDを引き起こす可能性が指摘されていますが、実際問題として、薬剤の変更や中止は困難な事が殆どですし、休薬、切り替えにて勃起機能が改善したとの研究報告はありません。バイアグラ等のPDE5阻害薬を上手に併用するしかありません…。

  • 降圧薬

   降圧薬による薬剤性のEDなのか、リスクファクターとしての高血圧そのものによるEDなのか、はたまた両方なのかは結論が出ていません。

  • 抗鬱薬
  • 前立腺肥大治療薬(α遮断薬と5α還元阻害薬)

   α遮断薬に関しては、射精障害の報告が多くなされていますが、勃起機能に関しては影響がないか、寧ろ保護的に働くと言う報告が多くあります。

   プロペシア(美容通信2005年12月号)、ザガーロ(アボルブ)(美容通信2013年2月号)は、若ハゲ(AGA)の薬としても良く投薬される5α還元阻害薬ですが、性欲を低下させはしますが、バイアグラ等のPDE5阻害薬を併用する事で勃起機能は維持出来ます。

  • 髄腔内バクロフェン療法
  • 非ステロイド抗炎症薬

   他の薬剤や関節炎等の交絡因子による可能性が高く、関連性は薄いとされてはいますが…。

■睡眠時無呼吸症候群

 睡眠時無呼吸症候群の患者さんのEDに対し、PDE5阻害薬単独による治療は、呼吸データの悪化と心機能への悪影響が懸念され、推奨はされません。睡眠時無呼吸症候群に対する治療としてだけでなく、勃起機能改善目的としても、持続的陽圧呼吸療法は強く推奨される治療方法です。

 睡眠時無呼吸症候群で何故EDが起こるのか? 幾つかの仮説はあります。睡眠時無呼吸症候群により睡眠障害が起こる結果、レム睡眠(美容通信2020年4月号)が障害され、それがレム睡眠期に起こる夜間勃起現象を障害し、海綿体の酸素化が障害されるって説。テストステロン低下(美容通信2023年2月号)説。交感神経の過剰興奮説。海綿体の血管内皮細胞機能の障害説、等々と、決定的なものはありません。

PGE1の陰茎海綿体注射(ICI治療)

プロスタグランジンとは?

 1933年にGoldblattがヒトの精漿内に、1934年にウルフ・スファンテ・フォン・オイラーが羊の精嚢腺に、平滑筋を収縮させる生理活性物質が含まれている事を発見し、1936年に初めて精液中から分離されました。当時は、前立腺 (prostate gland) 由来であると考えられた為に、 prostaglandin と名付けられたんですね。

 プロスタグランジンの主な種類と作用は、下記の通り。

  • PGA:血圧低下作用のみ
  • PGB:血圧低下作用のみ
  • PGC:血圧低下作用のみ
  • PGD2:血小板凝集作用・睡眠誘発作用(PDD受容体)。
  • PGE1:動脈管開存作用、子宮収縮作用
  • PGE2
    • 平滑筋収縮作用(EP受容体EP1サブタイプ)
    • 末梢血管拡張作用(EP受容体EP2サブタイプ)
    • 発熱・痛覚伝達作用(EP受容体EP3サブタイプ)
    • 骨新生・骨吸収作用(EP受容体EP4サブタイプ)
  • PGF2α:黄体退行・平滑筋(子宮・気管支・血管)収縮作用(FP受容体)
  • PGG:血圧低下作用・血小板凝集作用・眼圧降下作用
  • PGH2:血小板凝集作用
  • PGI2:血管拡張作用・血小板合成阻害作用(IP受容体)
  • PGJ:抗腫瘍作用のみ

 

プロスタグランジンE1(PGE1)陰茎海綿体注射(ICI治療)とは?

 1982年にフランスの血管外科医によって発見された治療方法です。プロスタグランジンE1(PGE1)は、PDE5阻害薬無効や禁忌のED患者さんに対し、海外では広く使用されている薬剤であり、世界80カ国+2自治領において陰茎海綿体自己注射(ICI)が承認されています。

 バイアグラ、レビトラ、シアリスは、何れもPDE5阻害薬ですが、約30%には効果が認められません。更には、硝酸薬や一酸化窒素(NO)供与薬内服中の患者さんでは、使用禁忌とされています。重症のEDとなる典型例としては、前述の様に、糖尿病によるEDや前立腺癌の手術によるEDが挙げられます。これらの難治性EDは、いずれも末梢神経障害があり、勃起の誘発物質であるNO放出が低下している為、PDE5阻害薬は無効な事が多いとされています。しかしながら、プロスタグランジンE1は陰茎に直接注射することによって、NOを介さずに平滑筋弛緩作用を示すので、陰茎への血流があれば、勃起の維持が期待出来ます。つまり、プロスタグランジンE1に反応が悪い症例は、血管性因子の存在が推定され、特に、糖尿病、メタボリック症候群では反応が悪いとされています。反対に、神経性EDでは反応が良好であり、脊髄損傷では76~88%の有効率、前立腺癌全摘後は85%の高い有効率を呈しています。

 ICI治療とは、プロスタグランジンE1(PGE1)を陰茎海綿体に注射するもので、通常20μgを生理食塩水1mlに溶解して使用します。左右の陰茎海綿体は交通しているので、左右どちらか一方だけの陰茎海綿体内に注射します。勃起の遷延傾向や疼痛を認める場合は、通常段階的に2.5μgまでドーズダウンします。

 これは治療としては勿論、EDの血管系の機能を評価する際にも行う検査でもあります。HISAKOのクリニックでは、検査と自己注射の指導を兼ねて、初回のみ行っています。通常は注射後10分以内に勃起が発現して、30分以上持続します。反応が不十分な場合は、動脈血流入不全又は、静脈閉鎖不全の存在を示唆する所見です。

 

実際の注射の方法

 HISAKOと一緒に陰茎に注射して、自己注射の方法をマスターしましょう。これは、プロスタグランジンの効果判定も兼ねています。1バイアル中にプロスタグランディンE1が20μg含まれています。このお薬を生理食塩水1mlに溶かし、性交直前に適切量を、注射の間隔は24時間以上の間隔を開けて行います。

 左手で陰茎を引っ張り、右手で注射器を持ち、陰茎中央から根元のあたりを、斜め上から注射します。直上(12時方向)からの刺入は、重要な血管や神経を損傷する可能性があるので避けて下さい。刺入時に、プチンと、海綿体を覆う膜を貫通する感触があります。注射後は、針を抜き刺した部分を1分間以上、止血するまで押さえます。

 通常は、使用量が適切であれば5分から15分で勃起が起こり、30分から1時間程持続します。2時間以上持続するようであれば、過量投与と判断します。

 尚、使用した注射器や薬剤のアンプル等は、医療廃棄物となる為、処方された医療機関で廃棄する必要があります。再診の際に、お持ち下さい。

有効性と副作用

 勃起に関わる神経や血管を損傷した器質性EDの方に限らず、心因性EDの方にも高い有効性が認められており、海外ではICI治療を受けた方の約70%~90%の方が効果を実感したと報告されています。

 重篤な副作用は確認されていませんが、副作用に関する一般的な報告では、局所の疼痛11%、 皮下出血8%、海綿体線維化2%、6時間以上の持続勃起症1%です。

■持続勃起症

 極々稀ではありますが、勃起が持続的に続いてしまう、持続勃起症になる危険性はあります。その為、初診時に、EDの血管系の機能評価兼自己注射の指導を行う訳ですが、適正な薬剤の量で正しく使用する事は非常に大切です。前立腺癌手術後EDの患者さんの場合、血管障害がある事は少なく、持続勃起症が発生する可能性があります。一方、糖尿病性EDの患者さんの場合は、血管障害があるので、持続勃起症にはなり難いとされています。

 持続勃起症には、①陰茎海綿体内の血液の戻りが悪く、虚血状態になる静脈性持続勃起症と、②陰茎打撲により陰茎海綿体内の動脈が破れ、動脈血が常に流入する動脈性持続勃起症がありますが、前者の静脈性持続勃起症の原因には、陰茎海綿体注射の他、飲酒や麻薬等の薬物中毒、鎌状赤血球性貧血、白血病等が挙げられます。

 静脈性持続勃起症は、陰茎海綿体内の血液の入れ替えが出来なくなり、海綿体内の組織が虚血に陥り、発症から6時間で組織が壊死し始めます。海綿体組織が壊死すれば器質性勃起障害になります。痛みを伴う硬い勃起が4時間続くようなら、至急受診をして下さい。19ゲージ翼状針で海綿体血を吸引し、エピネフリン(ボスミン) 0.01~ 0.02mg + 生食水5ccを海綿体内に注入します。15分後に改善傾向がなければ再度同様の処置を行います。薬物治療が無効の場合は、直ちにシャント手術を行います。良く行われるシャント手術は、陰茎陰茎海綿体と亀頭のシャントで、陰茎陰茎海綿体の血液を亀頭に逃がし血液循環を改善します。亀頭に局所麻酔を行い10号のメスを亀頭から陰茎海綿体に貫通させ、メスを90度回転して引き抜く方法(Tシャント)で亀頭から血液が十分な勢いで流出すれば亀頭部の傷を吸収糸で縫合します。血液の流出が不十分な場合はシャントを拡張します。



*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

*使用中や使用後、刺激またはアレルギーによる赤み、かゆみ、痛み、腫れ等の異常が現れた場合、使用を中止し、医師に相談してください。

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来月号の予告

先日、抗加齢医学会総会に出席して来ました。抗加齢医学の新規治療技術最前線について、色々なトピックス満載の学会でした。HISAKOセレクションで、面白いなと思った最新情報をお届けします。(←因みに、この原稿は2024年6月に作成しているので、最前線2024になります。)

<抗加齢医学の新規治療技術最前線2024>