HISAKOの美容通信2016年10月号
美容皮膚科と漢方薬
漢方薬は、体内の調子を整え、体質改善に役立ちます。昔は、科学的な根拠もなく、つまり経験値的に語られていていた漢方薬が、最近、漸く科学的に解明され始めました。これにより、従来のレーザーやフォトフェイシャル(IPL)、ケミカルピーリング等の美容皮膚科領域の治療のみならず、アンチエイジング全般やガンの治療の補助等にも併用され、実際治療効果が上がっているのが確認されています。漢方薬の特徴とされる①抗酸化作用、②免疫賦活作用について、腸内細菌叢との関係を含めて解説します。
漢方医学(美容通信205年5月号)(美容通信2005年6月号)(美容通信2006年7月号)ってものは、中国から伝わった医学を元に、日本独自のガラパゴス進化を遂げちゃったガラケーの様な存在。日本の伝統医学とも、お家芸とも言いますが、「どうして効くの?」…つまりまあ、機序って奴ですね、かが良く分かっておらず、一子相伝の職人芸的な側面ばかりが強調されて、世界的なメジャー制覇どころか、衰退の一途。一部の好事家が嗜む処方とされ、敬遠する医者も、未だに多数います。
近年、漸く、科学的な解明がされ始め、随分と好事家でなくても使い易くなりました。従来のレーザーやIPL、ケミカルピーリング等の美容皮膚科領域の治療に、栄養療法(美容通信2007年3月号)(美容通信2016年6月号)を組み合わせる。良い方法です。でも、更に漢方薬を、エビデンスを持って、謂わば合わせ技的に使用出来れば、治療効果は飛躍的にUPします。
漢方薬と美容医療
漢方薬の得意分野は、生体の状態を整える事です。従来のレーザーやIPL、ケミカルピーリング等の美容皮膚科領域の治療の下拵え、若しくは併用療法として服用すると、治療効果のUPが期待出来ます。特に、閉経前の女子達の肌はデリケートで、例え同じ治療を行っても、月経周期によって、治療効果に大きな差が出る事がままあります。PMSや月経困難症等がある場合には、その傾向が顕著です。漢方薬を併用する事は、安定的な治療効果をGETする為の、第一歩でもあるのです。
月経前症候群、月経困難症、更年期…症状や病態は違えども、実は、同じ漢方薬を使う!
「異病同治」。肝の高ぶりを抑える抑肝散って漢方薬は、赤ん坊の夜泣きにも、老人のボケ(認知症)にも使うくらいですですから、月経前症候群、月経困難症、更年期と、症状や病態は違えども、瘀血って範疇に含まれれば、同じ漢方薬を使って当たり前。物事の根っこを見て治すのが漢方薬なのです。
■配合している生薬の種類が少ない程、切れ味が良い。
以前、「女性と漢方薬」(美容通信2005年6月号)で特集しましたが、大人女子特有の月経周期や更年期の揺らぎは、どちらも内分泌に関係するもので、瘀血と言う血に着目する処方が適しています。この瘀血を治す駆瘀血剤には色々ありますが、中でも女性の三大処方として有名なのが、当帰芍薬散(ツムラ23)、加味逍遥散(ツムラ24)、桂枝茯苓丸(KB-25)です。下の表を見て下さい。代表的な駆瘀血剤です(漢方と最新治療 18巻,1号 2009年2月より引用 一部改正)。
使用目標 | 漢方薬 | 構成生薬 |
顔色不良、浮腫み、眩暈、立ち眩み、冷え、貧血 | 当帰芍薬散 | 芍薬、蒼朮、沢瀉、茯苓、川芎、当帰 |
のぼせ、発汗、肩こり、頻尿、不眠 | 桂枝茯苓丸 | 桂枝、芍薬、桃仁、茯苓、牡丹皮 |
発作性発汗、不眠、耳鳴り、動悸、冷え、易疲労感 | 加味逍遥散 | 柴胡、芍薬、蒼朮、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷 |
下腹部痛、便秘、月経不順、月経困難、痔疾 | 大黄牡丹皮湯 | 冬瓜子、桃仁、牡丹皮、大黄、芒硝 |
便秘、更年期障害、腰痛、打ち身、頭痛、眩暈、肩こり | 通導散 | 枳実、大黄、当帰、甘草、紅花、厚朴、素朴、陳皮、木通、芒硝 |
手荒れ、冷え、口唇乾燥、脱毛、顔のほてり | 温経湯 | 麦門湯、半夏、当帰、甘草、桂枝、芍薬、川芎、人参、牡丹皮、呉茱萸湯、生姜、阿膠 |
腰痛、便秘、肩こり、発汗、左下腹痛 | 桃核承気湯 | 桃仁、桂枝、大黄、甘草、芒硝 |
イライラ、動悸、喉のつかえ、耳閉塞感、吐き気 | 女神湯 | 香附子、川芎、蒼朮、当帰、黄芩、桂枝、人参 |
構成する生薬を見ると、少ないものと多いものがあります。傾向として、生薬の種類の少ないもの程、薬としての切れ味は良くなります。例えば温経湯ですが、入力していて、思わずスタバに逃避行しようかと本気で考えちゃう程に、多種類の生薬で構成されています。この漢方薬は、数日飲んで効くって代物ではなくて、慢性的な肌荒れや唇の荒れ、冷え症だが手がほてる、不妊の治療等、慢性的な症状に対して比較的長期間投与します。
女性の三大処方中では、桂枝茯苓丸が一番生薬の種類が少ない。つまり、切れ味抜群で、生理痛には即効的な強さを誇ります。
芍薬甘草湯も、生薬の種類が少なく、即効性がある漢方薬の代表格です。足がつった時に飲むと、数分で効果が表れます(笑)。痛み全般に効果があるので、腰痛でも、頭痛でも、生理痛にも、胃痛にも、肩こり、筋肉痛までと、と~っても守備範囲が広い。この薬には、他にも、抗アンドロゲン作用がるので、多嚢胞性卵巣症候群、不妊症、女子のニキビ、月経前症候群の様々な症状にも効果があります。
■実証か?それとも虚証か?
実証か?それとも虚証か? 駆瘀血剤を処方する上でも、大事なポイントになります。例えば、実証で便秘が酷い!ならば、代表的な駆瘀血剤について分類したものが左図ですが、それを見てもらえば分かる様に、通導散や桃核承気湯の処方で、長年の便秘から、月経痛、イライラ、のぼせ、疲労感、浮腫み、ニキビ等が、全部一緒くたに解決と相成ります。
因みに、同じ便秘でも、下剤を飲むとお腹が痛くなる!って人は虚証。又、「何時、うんこが出たんだか…遥か昔の事で記憶にない」と、平気でシャランと言える人は虚証ですし、「毎日快便でないと、超不快!」なHISAKOと同類は実証です。
■生理痛の時に、痛み止め(NSAIDS)をパカパカ服用するのは、本当は怖~い話。
生理痛の時に、カバヤのジューCか?ってノリで、ロキソニンの様な痛み止め(NSAIDS)をパカパカ飲んでいる女子を時折り見かけますが、こんな事を生理の度に続けていると、年を取ってからロクな事にはなりません。痛み止め(NSAIDS)を長期使用すると、骨粗鬆症のリスクが上昇するって報告があります。
下図は、「局所炎症と薬剤の使用部位」(分子栄養研究所)です。局所炎症については、何度か特集を組んでいるので、詳しくはそちらをご参照下さいませ(美容通信2016年6月号)(美容通信2010年6月号)(美容通信2007年3月号)。
上図を見て戴くと分かると思いますが、痛み止め(NSAIDS)はCOX-2を制御して、プロスタグランジンE2を抑制します。このプロスタグランジンE2には骨吸収作用があるので、一見、骨に対して保護的な幻想を抱いてしまいがちですが、実は反復刺激により骨形成作用を有するという相反する特徴を持っています。つまり、若い女子が生理痛や頭痛で痛み止め(NSAIDS)を常用する事は、長期的には骨形成作用を抑制し、骨粗鬆症のリスクを上げる事になります。しかも、高齢者よりも若い世代(論文では25歳から41歳)の方が、痛み止め(NSAIDS)による骨粗鬆症のリスクは上がるそうです。つまり将来は、背骨の曲がったノートルダムのせむし男か、亀の甲羅婆。ある日、道端でちょっと転んで大腿骨頸部骨折し、あっという間にご昇天…って事です。恐ろしい話ですよね。
こんな時こそ、芍薬甘草湯の出番です。
美容皮膚科領域の施術の友として
■越婢加朮湯(ツムラ28)
ダウンタイムのあるレーザー、例えばQスイッチルビーレーザー(美容通信2013年12月号)とか炭酸ガスレーザー(美容通信2014年9月号)等を照射する際に、赤みや腫れ、水泡等が心配な時に3日間飲みます。
この他にも、帯状疱疹(美容通信2006年8月号)の初期、アトピー性皮膚炎(美容通信2007年4月号)の急性増悪期、熱傷(美容通信2009年1月号)の初期、うっかり日焼けしてひりひりする時にもオススメです。虫刺され(美容通信2007年1月号)や、光接触皮膚炎(美容通信2009年7月号)等に対しても、皮膚の抗炎症剤として広く使用が出来ますが、特に浮腫や水泡等の皮膚の水分増加を改善する効果が高い漢方薬です。
■桂枝茯苓丸(KB-25)
駆瘀血剤は、顔が赤くのぼせやすいとか、ちょとした打ち身でもアザになっちゃう内出血しやすい人、静脈瘤持ち、シミやクマが気になる人に適しています。
なので、ヒアルロン酸の注入(美容通信2005年8月号)だとか、脂肪融解注射(BNLS)(美容通信2015年5月号)するとか、成長因子(美容通信2012年6月号)(美容通信2009年3月号)やボトックス(美容通信2010年11月号)(美容通信2011年3月号)等のメソセラピー、糸をちょっと入れてリフトアップ(美容通信2013年7月号)したりふわっと(美容通信2012年5月号)させたりとか、埋没でちょこっと二重(美容通信2003年4月号)とかの手術で、内出血のリスクがある時に飲んで欲しいのが、桂枝茯苓丸です。美容ではないですが、歯科さんで抜歯する時にも、桂枝茯苓丸の様な駆瘀血剤を予め飲んでおくと、治療後の腫れがぐんと少なくなります。
治療後に屯用で飲む場合は、通常の1.5倍量がお約束です。
微小循環を改善するって事は、それだけで多くのトラブルの回避、改善に繋がります。
■ストレス対策には、柴胡剤
主成分はサイコサポニンで、多くの薬効があるとされますが、一番の注目頭はストレスマネジメント効果です。慢性疾患に柴胡剤が頻用される理由の一つには、病気も長い付き合いになると、好むと好まざるとに関わらず、どうしてもストレスの存在を無視出来ないからなのでしょう。他にも、抗炎症作用、免疫調整作用、自律神経を整える等、幅広い薬効が認められています。
唯、ストレスを訴えているから全員が全員に効く訳ではなくて、お腹(季肋部)を触って、圧痛や抵抗がない人には効かないんです。「!?」と思ったら、ベットの上でゴロンと横になって、潔く腹を出しておくんなまし。
第一関門を無事通過した人にいざ処方と相成りますが、駆瘀血剤同様に、実証か虚証かで、処方する薬が異なります。
虚証の星、補中益気湯は、ストレスまみれの虚弱なアトピー性皮膚炎に著功を奏します。柴胡剤には、柴胡って文字が入っていることが多いですが、十味敗毒湯も、実は重要な柴胡剤の一つです。ストレス過多の大人女子に多いアダルトニキビには、十味敗毒湯がオススメです。
■ピルの代わりに?若しくは、一緒に?
避妊薬としてだけでなく、子宮筋腫や内膜症の月経量のコントロール、月経困難症、月経不順に、更にはアダルトニキビの救世主(美容通信2007年11月号)としても人気が高いピル。しかしながら、ピルを飲むと活性酸素が上昇する傾向にある事は、あまり一般的には知られてません。その他にも、肝斑が悪化したり、血栓のリスクも上がったりと、ピルは決して良いこと尽くめの薬ではありません。
ピルを使う前に、先ず駆瘀血剤を使ってみましょう。これで改善すればラッキーだし、例え駄目でも、併用する事で様々なメリットが期待出来ます。
女性特有の疾患、例えば、子宮筋腫や内膜症の月経量のコントロール、月経困難症、月経不順等の改善が得意な漢方薬と言うだけでなく、ピルに付き纏う負のリスクである血栓の心配がありません。2013年12月17日の朝日新聞によると、ピルの内服で5年で11人が血栓で死亡、重症例が361症例出ています。微小循環障害を正すのが駆瘀血剤の使命。最悪、ピルを服用せざる得ない事態になったとしても、併用により、多少なりとも怖い血栓症の予防になってくれます。
漢方薬は抗酸化作用が強く、ピルと異なり、活性酸素を減弱出来ます。更には、瘀血改善による肝斑の改善を認める人もあり、少なくともピルの様な肝斑悪化の危険性もありません。また、ピルの内服により起こりやすい吐き気や浮腫等の症状も、漢方薬の併用により、起こりにくくなります。
■貧血
生理がある世代の女子にとって、貧血(美容通信2013年11月号)は重大な問題です。
貧血女子を、フェロミアと当帰芍薬散で治療した時の比較論文があります。どちらもヘモグロビンが徐々に上昇をしますが、途中からの俄然優位に立つのが当帰芍薬散だったそうです。考えてみれば当たり前の話で、穴の開いたバケツに水を注ぎ込み続ける治療(フェロミア)よりも、漢方薬で穴を修復(月経量自体のコントロール)し、注ぐ水の量を増やす(造血作用)治療に軍配が上がるのは当然です。
アンチエイジング医学としての漢方薬
抗酸化作用と免疫賦活作用
漢方薬がアンチエイジングに効果的とされる最大の所以は、その高い抗酸化力です。酸化ストレスが増悪因子となり得るアトピー性皮膚炎(美容通信2007年4月号)やニキビ(美容通信2003年11月号)等にも、当然効果がありますし、後述する癌のお話し、そして来月号の「代謝から考える癌の原因と高濃度ビタミンC点滴療法」とも関連します。相乗効果的に、抗酸化作用が期待出来ます。
酸化ストレスとは、活性酸の生成と抗酸化反応のバランスが崩れる事で起こります。下図を見て下さい。
活性酸素の生成には、公害や放射線等の環境因子の他、お食事の内容や、酒の飲み過ぎ!、煙草(-。-)y-゜゜゜、不適切な運動、ストレス等の生活習慣に関わる因子etc.と、色んなものが挙げられます。
抗酸化反応には抗酸化物質の存在が関係しますが、これには内因性のものと外因性のものの2種類があります。内因性の抗酸化物質としては、SOD(美容通信2011年4月号)(美容通信2014年11月号)やカタラーゼ、還元グルタチオン(美容通信2008年11月号)等が挙げられます。外因性のものとしては、アスコルビン酸(美容通信2008年11月号)やトコフェノール、カロテン、ポリフェノール等の、主に食べ物の他、サプリメントや点滴等(美容通信2010年10月号)(美容通信2009年12月号)で摂取される抗酸化物質です。
複数の天然生薬からなる漢方薬は、押し並べて強い抗酸化力を有しています。特に、身動きが取れない星の下に生まれた植物達には、外敵から走って逃げるなんて選択肢はあり得ませんから、気候の変動や害虫等からがっつり身を守る≒抗酸化力に長けざる得なかったと言うのが本当のところなんですけどね(笑)。つまり、漢方薬を服用する事は、すなわち、活性酸素の生成を抑制したり、外因性の抗酸化反応の増強を、原材料である複数の植物達から容易に、殆ど漁夫の利的に搾取出来ちゃう(^^♪って事を意味します。アントシアニン、ポリフェノール類、ジアントロン類、遊離没食子酸、フェノール配糖体、フラボノイド、糖類、ジテルペノイド、アスコルビン酸、カフェー酸誘導体、サポニン、カテキン、アラトラキノン類、タンニン類、モノテルペン配糖体、フェノール類、ステロイド、精油、アルカロイド、トコフェノール、リグナン、カロチノイド等々…。抗酸化物質が、目白押し! お得が大好きな大阪のおばちゃんならずとも、非常にオイシイお話ですよね。
■酸化ストレスを、ラットで測定してみた。
酸化ストレスと言うと…何か雲をつかむ様なイメージしか沸いて来ないとは思いますが、実は、測定が可能なんです。活性酸素の生成はd-ROM(活性酸素代謝物 Diacron-Reactive Oxygen Metabolies)で、抗酸化反応はBAP(生体抗酸化力 Biological Antioxidant Potential)で評価するのが、現在のところ一般的です。
論文(日東医雑 Kampo Med Vol.62 No.3 337-346, 2011)によると、ラットに漢方薬を内服させ、酸化ストレスを測定したところ、下図の様に、漢方薬5種類全てで、d-ROMが低下し、BAPが上昇したと言う結果を得たそうです。
つまり、ラットでは酸化ストレスの改善が認められたんです。
他の論文によると、人間でも同様の結果が報告されています。唯、d-ROMの低下は、環境や物事の考え方一つでも変化する為、漢方薬単独でどれ位の活性酸素の低下をもたらしたのかを評価する事は極めて難しい側面がありますが、漢方薬に加えてのプラスα、例えば食事指導やサプリメントの併用、腸内細菌叢の改善、点滴等で、相乗効果は見込めそうです。
■漢方薬1日分飲めば、それだけで1日分のORAC値が賄えてしまうという事実
アメリカでは、抗酸化力を示す指標として、ORAC値(酸素ラジカル吸収能 Oxygen radical absorbance capacity)が使われています。ORAC値とは、活性酸素除去能を数値化したもので、アメリカ合衆国農務省(USDA)の栄養データラボ(NDL)が発表している数値です。健康維持の為には、ORAC値で1日4000~5000程度を摂取する事が推奨されています。これはお野菜に換算すると、約350gに相当する量です。
下の表は、漢方薬のORAC値の上位15を列挙したものです。
漢方薬名 | エキス製剤1日当たり(単位:μmol/) | |
1 | 通導散 | 5913.27 |
2 | 大承気湯 | 5475.76 |
3 | 麻子仁丸 | 5327.37 |
4 | 大黄甘草湯 | 4378.69 |
5 | 当帰飲子 | 4337.19 |
6 | 大柴胡湯去大黄 | 4330.30 |
7 | 潤腸湯 | 4275.11 |
8 | 荊芥連翹湯 | 4187.25 |
9 | 柴胡清肝湯 | 4176.74 |
10 | 葛根加朮附湯 | 3851.23 |
11 | 竹茹温胆湯 | 3701.18 |
12 | 葛根湯加川芎辛夷 | 3683.11 |
13 | 三黄瀉心湯 | 3675.31 |
14 | 防風通聖散 | 3594.02 |
15 | 清上防風湯 | 3579.52 |
1日当たりのエキス製剤量を見ると、漢方薬を1日分内服するだけで、1日に必要なORAC値が摂取出来ちゃうのが明白ですよね? 凄~い!その酸化力に脱帽です。因みに、ORCA値が高い処方を見ると、印象として瀉下(バナナうんこで、快便❤お通じを良くする)するモノが多いかな。恐らくは、大黄って、超が付くほどの瀉下作用のある生薬は、抗酸化能力も超が付くほど高いからなんですね。
■アンチエイジングサプリとしての漢方薬
本間行彦先生(北海道大学名誉教授)の著書”漢方が効く 北大名誉教授30年のカルテから”に、こんな記述があります。
「噴石(排泄物の化石)から古代人は何を食べていたのかを分析すると、貝殻や動物の骨まで粉にして全部食べていて、なんと10万種類を食材として利用していたと推察されるそうです。6000年以上前の遺跡からは骨すら出土せず、人骨も全て食べていた。」
つまり、古代人は、漢方薬で良く利用される竜骨(動物の骨)、牡蠣の殻、木の皮や実、根、種等と、”四足ではテーブルと椅子、空飛ぶものは飛行機”それ以外は何でも食べる!中国人も真っ青以上に、何でも食べてたんです。つまり、私達の体の大枠(代謝システム)は、そのような食生活を前提に、大昔のお猿だった頃から、私達の遠い祖先が気の遠くなる様な年月を経て確立したものなのです。高が、農耕が始まっての6000年位の短いスパンでは、変りようがないのです。
古代人だった頃と違って、今では工場で食べ物は大量生産され、安定的に供給されています。誰が好き好んで、古代人時代になりふり構わず食べざる得なかった様な、硬くて、甘くもない物(≒不味い!)を、今更食べるでしょうか? 口当たりの良い美味しいものだけを選りすぐって、つまり限られた種類の食材って意味ですが、それだけを食べているのが現実です。それに、今時のお野菜ときたら、綺麗で上品なだけで、昔のザ・野菜!のような野太さに欠ける≒栄養価自体もめきめきと低下しています。「この飽食の時代に、栄養不足!?」って笑うに笑えない状況に、私達は今直面しています。
そう言う意味でも、今時の私達が「絶対、そんなもん食べれる訳ないじゃん」!と憤っちゃう栄養素まで含まれている漢方薬は、急激な食生活の変化に対応出来なかった体の代謝のシステムを補いうる、栄養素の補給源となるかも知れません。つまり、究極のアンチエイジングを期待出来る分野の一つと言っても、決して過言ではないでしょう。
実際、アンチエイジング医学の先進国アメリカでは、丼に山盛り状態!と揶揄される様に、大量のサプリメントを服用する人々が散見されます。下の図を見て下さい。Biomedical Research on Trace Elements, 4(2): 209-210, 1993からの抜粋です。
日本の漢方薬の成分分析をすると、”アンチエイジング サプリメント”として人気の高いマグネシウムや亜鉛、鉄、カルシウム等のミネラルが、実の豊富に含有されているのが分かります。漢方薬を常用しているだけで、意外にも毎日の食事で不足しがちなミネラルが補充される!なんて、結構無精者ならずとも、オイシイって思いませんか(笑)。
漢方薬で癌は治らないが、手助けはしてくれる。
アンチエイジングのもう一つのテーマは、癌です。
当たり前ですが、漢方薬で感が治るなんて事は、絶対あり得ません。が、癌の治療に伴う様々な不愉快なオマケ(副作用)達の軽減、又、癌免疫の向上の為の有能なお助けマンとして働いてくれます。兎に角、使えるモノは、西洋医学(手術や抗癌剤、放射線療法etc.)であれ東洋医学であれ、何でも節操なく使う。その柔軟さこそが、賢い大人女子の証なのですから。
手術の前の準備に
■傷の治りを早く、綺麗に
創傷治癒(美容通信2004年5月号)(美容通信2013年4月号)の恙なく進めるには、何と言っても血流の改善は大切です。つまり、駆瘀血剤の処方です。
●桂枝茯苓丸(KB-25):比較的体力のある人向き。見た目的には、HISAKOやロシアの丸太おばさんに代表される様な粗野で、頑丈なタイプ。
●加味逍遥散(ツムラ24):ストレスによる不安やイライラ等の愁訴が多い虚弱系(≒面倒臭いメンヘラ女系)に。
●当帰芍薬散(ツムラ23):竹下夢二が好んで描きそうな、貧血気味で、筋肉もないから浮腫みが酷い水クラゲ型に。
●温経湯(ツムラ106):手足のほてり、湿疹等がが出やすい人向き。
■リンパ節郭清も予定している子宮癌や乳癌等の人に
今は昔に比べ、手技の向上でリンパ浮腫の合併は減ったとは言うけれど、やっぱり、リンパ節の郭清と言えば、リンパ浮腫(美容通信2003年9月号)(美容通信2011年1月号)(美容通信2011年2月号)(美容通信2012年4月号)(美容通信2014年3月号)(美容通信2016年5月号)の合併の可能性はある程度は覚悟しておいた方が無難。一旦起こると、HISAKOの様にエンドレスの蟻地獄人生になる…。上記の駆瘀血剤の処方に加え、水毒を改善する五苓散(ツムラ17)の併用が、リンパ浮腫が例え起こっても、飲まないよか全然マシだったと思えるはずです(←信じる者は、救われる…)。
■お肌がか弱い…
傷が化膿しやすいとか、テープや消毒液で被れちまうとか…、ホントに枝葉的にも拘らず、枝葉以上にどっぷりと不幸度が増してしまう、皮膚のバリア機能が脆弱な踏んだり蹴ったり系の人々には、十味敗毒湯(KB-6)がおススメです。
■炎症が強く、発赤や腫脹が予想出来ちゃう、副腎機能に難ありの人々
術後の皮膚に急性の炎症が起きてしまって、所謂薬としてのステロイド(つまり、合成物って意味なんだけど!)が使いたいけど、感染症が心配で使えないなんて事はままあります。本来ならば、美容系の治療(施術)を行う時と同様に、「コーヒーは飲むな!」「菓子は食べるな!」「早く寝ろ!」等々と、副腎の機能(美容通信2015年4月号)を妨げるような行為を一切禁止するとか、「ビタミンD3は、ちゃんと飲んでるか?」(美容通信2013年3月号)「魚を食え!」(美容通信2010年6月号)とか、様々な局所の炎症を抑える様な下拵えをした上で、行うものではあります。場合によっては、もっと根本的なところまで検査、例えばホスホリパーゼA2尿検査(美容通信2016年7月号)や有機酸検査(美容通信2016年9月号)等が相当しますが、その上で治療を進めるのが定番です。
ところが、癌の宣告は、ある日突然で、往々にして時間的な余裕を私達に与えてくれません。炎症が強く、発赤や腫脹が予想される場合は、手術当日から越婢加朮湯(ツムラ28)を3日間服用するだけでも、皮膚の炎症をかなりコントロール出来ます。越婢加朮湯は、急性期の皮膚炎に強い漢方薬です。
また、既に感染症を起こしてしまっていても、漢方薬と抗生物質の同時併用は特に支障がなく、寧ろ高度多剤耐性菌の感受性を高めるって報告もなされていますので、ご安心を!
手術後の、抗癌剤投与や放射線療法による不愉快なオマケを軽減
癌の場合、手術が終わって、それで一件落着となるケースは稀です。メインディッシュには、往々にして、好むと好まざるとに関わらずですが、付け合わせってものが皿に乗ってるのが世の常です。抗癌剤や放射線療法に漢方薬をちょっとプラスするだけで、治療に付き物のあの極めて不快以上の辛い諸症状を緩和してくれます。勿論、高濃度ビタミンC点滴(美容通信2008年11月号)やオゾン療法(美容通信2011年8月号)を、抗癌剤のクールに合わせて併用するのも副作用の軽減には効果がありますが、これ等の治療は病院にわざわざ出向く必要があり、体調や天気の具合で家から出たくない時にも使えちゃうのが、漢方薬の強みです。それに、併用による更なる相乗効果も期待出来るのも、オイシイところです。
■吐き気
あの時、HISAKOも知っていれば!と思ったのが、この五苓散(ツムラ17)、小半夏加茯苓湯(ツムラ21)です。HISAKOは、あの吐き気が辛くて辛くて…、何か吐く物があった方が楽とばかりに、抗癌剤の点滴が午後からって日は、いつも昼ご飯を大学病院の隣にあったブラジル料理屋に出掛けてはフルコースって決め込んでましたけどね(笑)。
特に後者は、妊娠中の悪阻が酷い患者さんにも良く処方される漢方薬です。気持ちが悪い時は、良く冷やしたお水で漢方薬を服用すると、楽に飲めます。
■疲労倦怠感
補中益気湯(KB-41)がファーストチョイス。疲れやすい、やる気が起きない、食後に横になりたくなる、胃が持たれやすい等の気虚の改善に○なお薬です。補中益気湯は、臓器の下垂を改善する作用もあるので、胃下垂や脱肛、子宮脱等ががある人にもおススメです。
■疲労倦怠感+皮膚の乾燥、貧血、易脱毛
上記の気虚に加えて、皮膚の乾燥や貧血、易脱毛等の血虚の症状も伴うようなら、十全大補湯(ツムラ48)です。
■食欲不振
抗癌剤に付き物の食欲不振には、六君子湯(ツムラ43)が定番。唯、前述の補中益気湯(KB-41)も食欲不振に効果があるので、疲労感等の全身症状を伴う場合には、補中益気湯を選択する方が良いみたい。
■浮腫み
低蛋白質による浮腫みには、前述の水毒の五苓散(ツムラ17)が鉄板処方です。
■浮腫み+関節痛
関節に水の偏在があると、浮腫と一緒に関節痛を訴える事がしばしばありますが、そんな時には防己黄耆湯(ツムラ20)の出番です。
■抗癌剤による痺れ
抗癌剤の副作用である痺れも漢方薬で治せ!と言われても…流石に無理がありますが、腎虚を改善する八味地黄丸(ツムラ7)や牛車腎気丸(ツムラ107)で、痛みが和らぐ場合があります。痺れは、冷えると悪化する事が多いので、冷え症の体質改善も兼ねた処方になります。
癌の治療中に、心が折れそうになったら…
時には、心が折れそうになる事もあるかも知れません。気に病んだところで、癌が良くなるならいざ知らず、寧ろストレスが悪さをするだけで良い事ないのに…、悩むのを止められない。唯、HISAKOの様に、「餅は餅屋」と割り切って、医者に丸投げ状態で、全く興味関心を無くしてしまうタイプが果たして良いのか悪いのか…ちょっと判断に苦しむところではありますが(笑)。
こんな時にも、漢方薬は心強い味方となってくれます。
■不安+動悸
不安で動悸がするような場合には、桂枝加竜骨牡蛎唐湯(虚証向き!)(KB-26)や、柴胡加竜骨牡蛎湯(実証向き!)(ツムラ12)が奏功します。
■不眠
落ち込んだり、考え事をして眠りが浅くなる時は、上記の処方に、加味帰脾湯(ツムラ137)を加えるのが○。
因みに、抑肝散加陳皮半夏(KB-83)って名の、五臓の肝の高ぶりを抑える漢方薬がありますが、この漢方薬は、健康な大人に対し、短期から中期間作用型のベンゾジアゼピン系睡眠薬と似た作用特性(入眠潜時の短縮、総睡眠時間の延長、Stage2の増加)を有する事が分かっています。
■不定愁訴が盛り沢山!
一昔前の肩肘張ったキャリアウーマンは今時は完全なる絶滅危惧種となり、当たり前にバリバリ仕事を熟す女子全盛の今日この頃ですが、内に自律神経失調の症状を抱えている人は結構います。そんな人にこそ飲んで欲しいのが、加味逍遥散(ツムラ24)です。
ストレスが高じて、腹の調子が悪い
ストレスが高じると、お腹に来るって人は結構います。
■便秘
頑固な便秘だからと言って下剤を使うと、超腹痛起こしちゃう。ガスがぷっぷかぷっぷか出やすい。ゲップまで出る。…こんなストレスによる気鬱の症状があるのなら、気の巡りを良くしてくれる桂枝(シナモン)が配合された穏下剤効果のある桂枝加芍薬大黄湯(ツムラ134)がオススメです。
■下痢
反対に、ストレスのあまり下り竜が大暴れしちゃう人には、気の巡りを良くしてくれる蘇葉(シソの葉)の香りがする香蘇散(ツムラ70)が最適。
■お腹が張って張って仕方がない
前述の桂枝加芍薬大黄湯から、瀉下剤の大黄を取り除いた桂枝加芍薬湯(ツムラ60)で手を打つなんて方法もあり。
■お腹の手術後に上手く、排便が出来ない!
下痢にも便秘にも使えるのがとっても便利な、大建中湯(ツムラ100)。お腹が冷えると、お腹の調子がてきめん悪くなる!って人にも最適です。
■月経トラブルを伴う女子の便秘
実証なら、通導散(ツムラ105)や桃核承気湯(ツムラ61)、大黄牡丹皮湯(ツムラ33)。中~虚証ならば、桂枝茯苓丸(ツムラ25)、加味逍遥散(ツムラ24)が有効です。
■うんこの時に、手術の傷が痛む!
痛み全般に効果がある芍薬甘草湯(ツムラ64)の頓服服用がいい。
癌の増殖や転移を抑えたい
元々は正常だった細胞が、癌化して、遂には転移に至る…。唯、とうとう癌が芽吹くまでには…、様々な因子の関与があり、薬効と言うよりも、漢方薬には広い意味でのアンチエイジングとしての立ち位置を求めるしかないかありません。しかし、悪性化進展と転移については、漢方薬が果たす役割は少なくないと、科学的にも証明されています。
■悪性化、そして進展。
C57BL/6マウス線維肉腫より分離したQR-32退縮型癌細胞を、正常マウスに移植しても生着しません。しかし、異物であるゼラチンスポンジ、プラスティック小片、低用量の抗癌剤と同時に皮下移植すると、致死的増殖性を獲得した癌細胞への不可逆変化が認められます(実験モデル)。論文では、この実験モデルに対し、十全大補湯(ツムラ48)を経口投与すると、増殖型への悪性化変換が阻止されると言う報告があります。
この論文によれば、悪性化進展を促進する因子として、宿主細胞から放出されるオキシラジカルやサイトカイン、増殖因子が関与していますが、十全大補湯の構成成分である桂皮(シナモン)が、腫瘍細胞へのラジカルスカベンジャー誘導を介して、悪性化進展を抑制すると考えられています。前述の通り、桂皮には非常に強力な抗酸化作用があります。
また、後述しますが、幾つかの論文で、この十全大補湯は、癌の転移の抑制にも効果的との報告があります。
■転移
論文によると、実験で、十全大補湯をColon26-L5結腸癌細胞の接種前7日間経口投与した群は、用量依存的に著明に癌細胞の肝転移を抑制したそうです。この抑制効果の機序としては、NK細胞が介した様式ではなく、マクロファージ及びT細胞が関与して抗転移効果を発揮していると推測されています。
補中益気湯(KB-41)も、同様に明らかな肝臓転移を抑制する効果を示したそうですが、面白い事に、十全大補湯とは異なり、NK細胞を介した経路が関与しているそうです。一口に漢方薬と言っても、複数のアプローチで癌の転移を抑制しており、一筋縄では語れないんですね。
興味深い事には、十全大補湯は、肝臓転移系のモデル系では転移の抑制を認めましたが、肺癌の縦隔リンパ節転移のモデル系では、全くと言って良い程、効果が上がらなかったそうです。しかしながら、肝臓転移では全く効果を認めなかった人参栄養等(ツムラ108)で、抑制効果が認められたそうです。つまり、漢方薬の効果発現には、臓器選択性があるんです。「ほ~っ!」ってしょ?
何故、この様な臓器選択性があるのでしょうか? 論文では、中医学の経絡論(美容通信2009年4月号)(美容通信2011年7月号)に通じるのではないかと考察がなされています。つまり、十全大補湯は肝胆系に、人参栄養湯は肺経に作用する生薬を含んでいる事が、病態の改善に関係しているのではないかと。
十全大補湯の構成性生薬には、血虚の基本処方である四物湯と、気虚に基本処方である四君子湯が配合されています。十全大補湯の転移抑制効果は、四君子湯よりも四物湯の抑制効果に依存している事までは分かっていますが、四物湯単独の抑制効果って、十全大補湯に比して、明らかに劣るんです。だからと言って、十全大補湯に似せるようにと、四物湯と四君子湯を一緒に投与しても、四物湯単独以上の効果は得られない…。摩訶不思議な気もしますが、単なる生薬の総和としてのcombination効果ではなく、複合生薬としてのharmonization効果が、漢方薬の強みって事なんでしょう。漢方薬を併用するよりも、十種類の生薬からなる十全大補湯として、調整段階から一緒に煎じる事が、より高い効果を発揮する。奥が深過ぎて、溺れてしまいそうです(笑)。
ちょっと知っておくとお得な…裏技・小技最速攻略!?
漢方薬は、まず1剤から始めよ。
HISAKOのクリニックでは、漢方薬を最初から2種類とか3種類、複数で処方する事は基本ありません。先人の知恵が集結した合わせ技が自慢の漢方薬ですから、まあ小手先調べなんて失礼な事は申しませんが、尊重の意味でもまず1剤からがお約束です。それに、良くなっても、どっちが効いたかも分かんないし、トラブルが起きた時に、どっちが犯人なのかも断定し難いしが、本音です。
しかしながら、途中から追加して、2剤を飲むなんて事態は起こるかも知れません。その時には、同時に飲まないって言うのが、ミソ。最低でも30分は間を開けて下さい。「なんて、面倒臭い奴なんだ!」とイラッとくるかも知れませんが、既成の生薬の組み合わせを最大限引き出す為には、ちょっとした気遣いが必要です。
ちゃんと飲む時間、守ってる?
頑固な便秘に大黄牡丹皮湯や通導散等を処方する事はままありますが、途中から、だんだん効きが悪くなる(^^♪なんて患者さんがいます。薬をチェンジする前に、ちゃんと飲む時間、守ってる?
普通は、始めは1日3回きちんきちんと飲んで、漸くうんこをひり出していた青息吐息女子も、漢方薬の腸管の血流改善作用や腸内細菌叢の変化等の作用により、1日2回、そして夜だけ1回と…余裕しゃくしゃくにゃんこに昇格するのが一般的です。市販の下剤は、年月の経過と共に服用量を増やさざる得ないのに、流石、漢方薬! 単なる瀉下効果じゃなくて、腸内環境自体を改善させる作用を有しているからなんだと、褒めてあげるのが普通の経過なのですが…。
「漢方薬は空腹時に飲んでくださいと、薬局の人には確かに念を押されてましたが…、そう言えば、ついつい飲み忘れて…、それでも、飲まないより、飲んだ方がマシかなぁと思って、食後に飲んでました、(ゝω・) テヘペロ」
…食事が不規則でも、食事のタイミングに合わせて、最適な空腹時間を医師と相談して、服用時間を守りましょうね。
同じ名前でも、製薬会社によって異なる生薬が入っている
今月号の美容通信を読んでいて、(ツムラ○)とか(KB-○)とか、同じ漢方薬なのに態々断っているのを不思議に思いませんでしたか? 実は漢方薬には、同じ処方でも、製薬会社によって異なる生薬が入っている場合があるからです。
有名なものとしては、桜皮があります。後で詳しく述べますが、クラシエの十味敗毒湯には、エストロゲン様作用のある桜皮が入っていますが、ツムラの十味敗毒湯には、桜皮の代わりに樸樕と言うクヌギの樹皮が入っています。樸樕も有名な生薬ですが、エストロゲン受容体に結合する作用はありません。
ニキビを例に挙げて、考えてみましょう。従来は漢方薬のニキビに対する作用機序は、抗炎症作用や抗菌作用等と考えられていました。ところが、同じ十味敗毒湯でも、大人女子の所謂アダルトニキビには、ツムラよりクラシエの方が、断然効くのです。これは、クラシエの製剤に配合されている桜皮が、ニキビの原因のより根っこにある性ホルモンに対する作用と考えられています。
唯、十味敗毒湯は、比較的体力のある人向きの漢方薬で、胃腸虚弱の人には使えません。
補足ですが、十味敗毒湯をアダルトニキビに使用する場合は、通常量の1.5倍からスタートがお約束です(←昔の江戸時代と思うと、今時の日本人は、やっぱ図体がデカいので、昔ながらの容量では効きが悪いみたいです)。まあ、多くの場合は、3週間後くらいから通常量に下げられますけどね。
■桜皮のエストロゲン様作用について
桜皮は、言葉通り、桜の樹皮です。中国や韓国でも民間薬として、桜の木の根や葉っぱ等を使用したものはありますが、桜の樹皮を剥いで治療に使っているのは、日本だけみたいです。
最近になって判明した事ですが、桜皮は、皮膚の真皮の線維芽細胞のエストロゲン受容体βと結合して、女性ホルモン様作用を呈します。下の図を見て下さい。クラシエ製薬株式会社「化膿性皮膚疾患(尋常性痤瘡)に対する十味敗毒湯の作用機序の検討」より抜粋 一部改変です。
左側が、エストロゲンを産生する代表的な臓器(子宮)を想定した図です。エストロゲンが標的臓器のエストロゲン受容体αやβに結合すると、標的遺伝子の転写を活性化し、タンパク質の合成が起こり、所謂エストロゲンの作用が発現します。右側の図を見てみましょう。皮膚の線維芽細胞に於いては、桜皮抽出エキスにより、それに酷似した反応(エストロゲン様作用)が起こっています。つまり、エストロゲン受容体βに結合して、コラーゲン線維の合成や表皮真皮のムチン類の増加、抗アンドロゲン作用による皮脂の過剰分泌抑制や毛包漏斗部の角化抑制作用が認められます。
左図は、in vivoのデータで、エストロゲン受容体に桜皮が結合しているかどうかを調べたものです。上図同様、クラシエ製薬株式会社「化膿性皮膚疾患(尋常性痤瘡)に対する十味敗毒湯の作用機序の検討」より抜粋 一部改変です。桜皮エキスが、それなりとは言え、しっかり結合してるのが分かりますよね?
実際に、桜皮がエストロゲンの産生を誘導しているかどうかをin vitroで調べたデータが右下図になります。(竹村et al:西日皮.76(2).2014) 痤瘡治療の観点から、桜皮と樸樕についての胎児皮膚由来の正常線維芽細胞からのエストロゲン分泌促進作用を比較したものです(添加量100μg/ml)。
やはり、桜皮には、17βエストラジオールの優位な分泌促進作用があるのが分かります。
■ツムラ、クラシエ、コタロー、オオスギ…各社製剤の大まか過ぎる特徴( ´艸`)
- 形状対決~クラシエVsツムラ
ツムラは乳糖で包んだ顆粒ですが、クラシエは細粒です。飲みやすさってところでは、ツムラに軍配ですが、アロマテラピー効果を期待する時は、生薬の香りがすがすがしいクラシエでしょうか。
- 蒼朮Vs白朮
朮の種類も、製薬会社によって異なるモノが配合されています。
一般的にですが、ツムラは蒼朮を使っている製剤が多く、痛みや浮腫みの改善が得意です。
対して、クラシエ、コタロー、オースギは白朮を使用している製剤が多く、気を補う作用があり、体に水を保持する方向に働きます。つまり、アトピー性皮膚炎の患者さんは、乾燥した皮膚に潤い(水分)を保持したいし、汗でも被れるちゃうので、汗だらだら(;´Д`)はちょっと勘弁です。そうすると、同じ補中益気湯を処方するにも、白朮を使った製剤の方が○って判断になります。白朮は代表的な補剤で、胃腸の改善が得意なので、消化器が弱い人や疲労感の強い人、爺婆向きとされています。
腸内細菌の環境が最悪だと、ロクな事がない。
漢方薬には、腸内細菌によって糖鎖が切れて吸収するものが結構多く、お腹の不良な安倍ちゃん系は、効きが悪かったり、逆に副作用が出やすかったりと、ロクな事が起こらないのが世の常です。腸内細菌叢を如何に健全に保つか(美容通信2016年2月号)(美容通信2012年8月号)(美容通信2014年1月号)は、全ての治療の根幹なんです。
左図は、漢方薬の生薬の約7割に配合されている甘草の構造式です。甘草は、お砂糖の50倍程の甘みがあり、グルクロン酸と言う2分子の糖鎖が含まれています。腸内に入ると、青の点線の糖鎖が外れて、グリチルレチン酸が体内に吸収され、薬効を発揮します。糖鎖を切断する係が、腸内細菌です。同時に、切り離された糖は、腸内細菌の餌になる。つまり、漢方薬は、腸内細菌の育成にも関わっているとも言えるのです。
漢方薬を飲んでから風邪を引き難くなったという話を、良く耳にすると思います。これは、漢方薬が腸内環境を整え、それが回りまわって免疫賦活作用に繋がったと推測されています。
それ故に、ニキビなんかの治療の際に、抗生物質と漢方薬を長らく飲み続けるのはNG。抗生物質は、腸内細菌も殺してしまいますからね(美容通信2016年9月号)。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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来月号の予告
高濃度ビタミンC点滴療法の聖地!”リオルダンクリニック”で使用している、患者の病態を理解するための『ピラミッド・パネル』(6個の根本原因と10のバランスをとる鍵)と、癌における酸化ストレスとエネルギー代謝を解説します。
<代謝から考える癌のルーツと高濃度ビタミンC点滴療法>です。