HISAKOの美容通信2026年2月号
中高年の夜間頻尿や過活動膀胱等の下部尿路症状に対するテストステロン補充療法
男性の更年期を境に起こる、夜間頻尿などの排尿障害と過活動膀胱、性機能障害等の症状(LOH症候群)は、全て、アンドロゲンの低下が一つのリスクであると考えられます。テストステロン補充療法は、夜間頻尿に対する有効な予防・治療方法の一つであり、前立腺肥大や前立腺癌の治療後にも安全に行える治療とされています。
日本のテストステロン製剤は、これまで注射薬や外製製剤しかなく、値段・使用感に優れた製剤はありませんでした。 テストステロン・ゲル製剤「1UPフォーミュラ」は、 純粋なテストステロンのみを含むゲルで、5%配合されています(市販薬は1%のみ)。日本メンズヘルス医学会のテストステロン治療認定医の処方箋が必要なお薬です。1UPフォーミュラの処方については、粗悪品の流通を防止する為、オールインワン薬局(提携薬局)のみでの対応(購入)になります。
今回は2024年の日本メンズヘルス医学会の講習会の中から、中高年の排尿障害に照準を合わせてお話をします。
中高年の快尿の為に!
メタボリック症候群と下部尿路症状
”ヒトは血管とともに老いる”。これは、 かの有名な内科医オスラー博士の言葉であり、中高年以降の排尿障害を考える意味でも非常に重要な言葉でもあります。
下部尿路症状は、メタボリック症候群を始めとする全身疾患と、非常に密接な関係があります。左図は有名なメタボリックドミノの図ですが、このドミノ牌の中には、排尿障害も何処かに隠れていると考えられています。多くの排尿障害は、頻尿から始まりますが、単独で排尿障害が起こるとは考え難く、海面下では、繋がっていると考えられています。
例えば、高脂血症や糖尿病による動脈硬化は、頻尿や過活動膀胱(美容通信2022年1月号)、まあ最終的と言うか…過活動膀胱の成れの果てが低活動膀胱なんですが、これ等の症状と非常に密接な関係があります。高血圧は頻尿や過活動膀胱と、糖尿病は神経因性膀胱(末梢神経障害)と、脳梗塞は神経因性膀胱(中枢性)と、認知症と神経因性膀胱(知覚障害)等々と、正に、将棋倒しならぬ、ドミノ倒しの様相を呈しています。
■高血圧から頻尿、そしてEDへの連鎖
高血圧になると、先ず、頻尿が起こります。これはラットレベルでも明らかなんですが、男子では悲しい事に、勃起力の低下(ED)も洩れなく付いて来ます。左図は、高血圧自然発症ラットでの論文からの引用ですが、勃起力が6割に落ちてしまっているのがお分かりになると思います。
高血圧治療のガイドラインの「高血圧とED」の項目には、EDは50歳以上の男性では加齢と共に増加し、高血圧自体がEDの頻度を高めると、はっきり記載されています。又、ED診療ガイドラインにも、EDは心血管疾患のマーカーである。EDは心血管疾患の初発症状であると、記載されています。つまり、動脈硬化の症状は、先ず初めに、最も細くデリケートなペニスの血管に現れ、徐々にその他のより太い血管に波及するとも言えます。
HISAKOの母校と言っても、卒業して以来、一度も同窓会費すら支払っていない分際で、おこがましいにも程があるとお叱りを受けそう(笑)ですが、旭川医科大学の研究推進本部の松本成史先生の講義で良く出るスライドを載せさせていただきます。彼が大学の講義でこのスライドを出すと、重大なコンプライアンス違反として、学生さんから苦情の投書が大学に寄せられるそうです。しかし、実に的を得た表現で、これをコンプライアンス云々で却下してしまうのは、生粋の昭和人!としては誠にもったいないと思うのですが…。
下部尿路症状には、膀胱血流障害が影響する
下図を見て下さい。メタボリック症候群があると、交感神経が過活動になります。その様な状況下では、加齢により、動脈硬化、過活動膀胱、頻尿、前立腺肥大、下部尿路閉塞が起こります。虚血⇔再灌流と言う血流(障害)の影響により、排尿の表現型としては、初期には過活動(頻尿)、最終的には低活動に陥り、最終的にはおしっこの管を入れなければいけない状況になってしまいます。
■解決策は? 予防策は?
下部尿路の機能障害に対する解決策、若しくは予防策としては、次の方策が考えられます。①膀胱血流低下(膀胱虚血)に対し、膀胱血流増加作用で膀胱機能の改善を図るのが、α1遮断薬やPDE3&5阻害薬等のお薬です。②酸化ストレス(膀胱再灌流)に対し、酸化ストレスの消去作用により膀胱機能の改善を図るのが、Vitamin E(美容通信2017年9月号)(美容通信2009年12月号)やRadical scavenger(美容通信2017年10月号)等です。
中でも、バイアグラ等のEDの治療薬として有名なPDE5阻害剤(美容通信2025年9月号)(美容通信2005年1月号)は、ユニークな存在として、最近注目を浴びています。
バイアグラで、下部尿路症状が改善する
PDE5阻害薬が下部尿路症状を改善する機序は、「膀胱血流を増加させる!」の一言に尽きます。
2021年10月、販売元のバイエル薬品からレビトラの販売中止の発表があり、全世界のED野郎を震撼させたのは、未だ記憶に新しいところ。FDAから製造工場の製造ラインの浄化不備を指摘され、他の薬剤に使用する成分が混入する恐れがあるとして製造中止になりました。小林製薬の紅麹コレステヘルプを彷彿とさせる顛末ではありますが、下部尿路閉塞ラットにレビトラを投与したところ、下図の如くに、ハイドーズであればある程、膀胱機能の低下を抑制しました。また、正常の膀胱にPDE5阻害剤を投与すると、膀胱収縮力が増強した事が報告されています。
TOTOの音姫から知れる、「排尿時間は、21秒前後」と言う事実
犬🐶や山羊🐐、牛🐄、象🐘等の哺乳類の排尿時間は、体の大小に関わらず、21±13秒とほぼ同じ時間なんです。私達人間でも、排尿期間は、~50歳(前立腺肥大の影響のない年齢)の男子と女子では、21秒前後です。ですから、TOTOの音姫は25秒で設定されているんだそうです。
しかしながら、織田信長で有名な敦盛の歌「人間五十年~♪」がありますが、戦国時代どころか昭和まで「人間五十年」。戦後の僅か80年足らずで随分と長生きになり、前立腺を有する男子では、50年を過ぎる≒前立腺肥大の影響を受けるプラスとなった長生き分の人生では、年齢と共に排尿時間は延長します。
男性更年期障害の基本的な原因として、性ホルモン量の低下が挙げられますが、男性ホルモン(テストステロン)の減少とストレスの増大が、この症状に強く影響を及ぼす事が知られています。種々の研究報告によれば、一般的に、40歳頃から男性ホルモンの減少が加速し、60歳になると。40歳の時と比べて平均25%もホルモン量が低下する事が知られています。つまり、テストステロンは年齢と共に低下し、反対に排尿時間は延びる。逆相関の関係があるんです。
しかしながら、排尿時間(下部尿路症状)とテストステロン(加齢男性性機能低下症候群(LOH症候群))は、下記の様な論文から、直接的には関係ないものの、臓器として考えた場合は間接的に関係すると考えられています。
- 去勢すると前立腺は縮小しますが、テストステロンは下部尿路症状には影響しない。
- 下部尿路症状の有病率に、LOH症候群の有無による差はない。
- LOH症候群に対するテストステロン補充療法では、下部尿路症状は変化しない(悪化させない)。
テストステロンの低下は、前立腺肥大(≒尿道長延長)と膀胱収縮力を低下させます。つまり、排尿時間の延長は、エイジングそのものとも言えます。
夜間頻尿
前立腺肥大症の手術は、尿の勢いを中学生レベルに戻すだけじゃない
最近泌尿器科領域では、Rezum(水蒸気治療システム)やUroLift(経尿道的前立腺吊り上げ術:前立腺の中に小型のインプラントを埋め込み、肥大した前立腺を持ち上げて尿道を広げ、排尿しやすくする治療法)等の日帰りの前立腺肥大の手術が盛んに行われていますが、これ等の治療は、尿の勢いを改善してくれるだけではありません。快尿の項での触れましたが、左図の様に下部尿路障害から、膀胱が障害を被る羽目に陥ります。
排尿障害の原因は、テストステロンの低下だけじゃない
排尿障害と更年期障害には密接な関係があります。特に、テストステロンと尿勢には相関がある事が知られています。左下図を見て下さい。アンドロゲンの低下により、膀胱過活動と排尿筋過可動が惹起されます。排尿筋過可動の病因としては、肥大した筋細胞は、正常細胞よりも電気的安定性が低く、肥大した膀胱収縮に対する刺激の閾値が低くなってしまうからではないかと考えられています。
夜間の頻尿は寿命を縮める
恐ろしい事に、夜間3回以上排尿で、寿命が短くなる事も良く知られています。
■頻尿の原因
勿論、頻尿は①前立腺肥大症だけが原因ではありません。昨今の「水を飲むことは健康に良い」って風潮による、②多飲・水分摂取の習慣も大きな要因です。その他にも、③高血圧・心不全・体液貯留傾向、④神経変性疾患、⑤下部尿路閉塞、⑥膀胱容量の低下・残尿量、⑦テストステロン低下、⑧サーカディアンリズム(美容通信2023年2月号)(美容通信2019年10月号)の変調、⑨浅睡眠(美容通信2020年4月号)(美容通信2020年3月号)等が挙げられます。
■睡眠障害
排尿に於けるサーカディアンリズムの変調として、特に睡眠の問題が挙げられます。加齢により、夜間のメラトニン(美容通信2015年8月号)が低値のままだと、睡眠障害になります。そうすると、おしっこで目が覚める閾値が下がってしまうので、必然的に機能的膀胱容量が低下し、夜間頻尿になります。
サルコペニア(美容通信2019年2月号)の視点から睡眠障害を考えると、高齢者だけでなく、若い人でも、睡眠を5時間に制限するとテストステロンレベルが下がる事が分かっています。左図を見て下さい。通常の老化では、テストステロンレベルは年に1~2%減少します。しかし、20歳代の若い男の子達でも、1週間の睡眠時間を5時間に制限すると、日中のテストステロンレベルが10~15%減少します。テストステロンは、筋肉細胞の成長を促進します。細胞質アンドロゲン受容体の活性化は、核転写を増加、蛋白質合成を刺激します。この同化作用は、又、mTORの活性を遮断する蛋白質であるRegulated in Development及びDNA損傷応答1(REDD1)によって、間接的に増強されるそうです。ところが、加齢による睡眠障害が生じると、テストステロンの低下だけでなく、GHやIGF-1合成が低下します。反対に、コルチゾールやミオスタチン等は増加するので、筋細胞の増殖(筋肉同化)が阻害され、筋肉の萎縮(筋肉異化)が進みます。サルコペニック肥満とは、大腿四頭筋がエイジングによって痩せて行く状態を指します。
■加齢によるバソプレッシン分泌低下&受容体の減少
夜間トイレに行かないで眠れるのは、抗利尿ホルモンであるバソプレッシンが分泌されて、腎臓は尿から再吸収する水分を増やして、尿の量を減らすからです。ところが、加齢により、バソプレッシンの分泌が低下したり、受容体が減少してしまうので、夜間頻尿に悩まされる羽目になります。しかし、テストステロンを補充すると、バソプレッシン発現と正常な尿濃縮能の維持が可能となり、夜間頻尿が改善したとの報告もあります。
骨盤血流の低下と下部尿路症状やEDへの新しい知見(LUTS asociated ED)
下図を見て下さい。動脈性アテローム硬化症に起因する骨盤血流低下が、膀胱、前立腺、陰茎の勃起機能に同時に組織学的変化をもたらします。
恐ろしい事に、根治的前立腺全摘除術及び又は放射線療法を受けた前立腺癌患者に良く認められる副作用としてのEDであっても、欧米では、離婚の訴訟の対象になります。庶民からすれば天文学的な資産を持つトップセレブ達は、離婚に対して支払う代償はケタ違いです。少し昔のお話にはなりますが、アマゾンのジェフ・ベゾス氏の場合は単なる浮気が原因だったようですが、財産分与だけで7兆円(←因みに、東京都の令和6年の予算は15兆円。北海道の予算が3兆円ちょっとです)。例え、前立腺全摘術後の副作用で役立たずだったからとしても、離婚財産分与が減額されるわけではありません。これは、ふにゃちんに鞭打ってでも、立ってもらわなければなりません(笑)。
幸いにも、根治的前立腺全摘除術での神経温存技術後のEDは、勿論、年齢や既存の病気の有無等も関与はしますが、適切な陰茎リハビリテーションプログラムで、多くの場合、回復が見込めるとされています。海綿状神経への機械的ストレッチ又は熱損傷、虚血性損傷、手術による局所炎症等により、海綿体に於ける線維症の増加、勃起組織の弾力性の低下が起こったと考えられているからです。バイアグラ(美容通信2005年1月号)(美容通信2017年2月号)の様なPDE5阻害薬やPGE1陰茎海綿体注射(美容通信2025年9月号)、L-アルギニンとL-シトルリンの様なNOの産生をUPさせるサプリメント、陰圧式勃起補助具(VED)等は、陰茎平滑筋細胞のGMPを上昇させ、平滑筋の維持&線維化の抑制を図るものです。
最近は、全く異なるアプローチとして、低強度体外衝撃波療法extracorporeal shock wave therapyも行われるようになって来ました。組織損傷(血管内皮の損傷)を引き起こし、血管内皮増殖因子(VEGF)等の炎症性メディエーターの放出と循環を促進するものです。唯、バイアグラ等のPDE5阻害薬では歯が立たない人には難しくて、ちょっと弱ったくらいの人に一番効果があるみたい。年齢が若い人向けです。
フジテレビの人気番組「ホンマでっか!?TV」で、元女優で美容家の君島十和子さん一押しの、病院で椅子に座っているだけで、骨盤底筋群が鍛えられる!と言う自費の椅子治療(高強度高周波磁気治療(美容通信2025年11月号))が、中高年女子の間で人気を博しているってお話をしましたが、そのED版もあります。骨盤底刺激と仙骨神経刺激による骨盤血流のモデリングって点では女子用と一緒ですが、ED版はプラスでしゃもじみたいな誘導パットを陰部に押し当てて、勿論、直接ではなくて、お洋服の上からですが、陰茎を衝撃波で刺激するものです。
ミニリンメルトは、バソプレシン受容体に作用し、血管内への水分の再吸収を亢進させ、夜間頻尿の改善の一助となるお薬ですが、併用により夜間頻尿が改善すると、皆さん朝立ちを実感するみたいです(←全員って訳にはいきませんが…)。
【朝立ちの3つのメカニズム】
①副交感神経が優位になる事で、仙骨神経が勃起を起こす。
②眠っている間に、テストステロン値が上昇する。
③睡眠中に繰り返すレム睡眠の時に、朝立ちが発生する。
前立腺疾患をもつ性腺機能低下症に対するテストステロン補充療法のエビデンス ~前立腺肥大症・前立腺癌に対しては禁忌なのか?
LOH症候群
男性ホルモンの標的臓器は全身に亘り、特に有名有名なのが、精巣や前立腺や陰茎です。
男性ホルモン減少による諸症状がLOH症候群です。
アンドロゲンと排尿機能(前立腺)について考える
繰り返しになりますが、男性ホルモン減少による諸症状がLOH症候群で、アンドロゲンが減少する頃に、排尿障害やLUTS(下部尿路症状)が出現します。
前立腺癌の治療として、去勢や抗アンドロゲン剤、LHRHアナログやアンタゴニストを投与すしますが、それらによって前立腺は縮小します。アンドロゲンを補充すると、前立腺はデカくなると考えがちですが、しかし良く考えてみると、アンドロゲンが減ってくる中高年の時代に、前立腺が大きくなって来るんです。
■テストステロン補充療法は、排尿症状に悪影響を及ぼすか?
テストステロン補充による排尿機能に対する影響としては、悪化すると言うデータは全くなありません。LOH症候群患者25名(重症下部尿路症状、α1blocker/PDE5阻害剤使用は除外)に対し、テストステロンゲル50~100mg/日を1年間使用し、評価したところ、IPSS(トータルスコア)は、テストステロン補充療法で有意に改善。尿流動態(UFM)では、最大尿流率、一回排尿量共に、テストステロン補充療法で有意に改善していました。
マウスを用いたテストステロン補充療法による排尿機能のpressure-flow studyを用いた検討でも、IPSS(トータルスコア)、最大尿量だけでなく、コンプライアンスもP detrusor at Qmaxも改善しており、最近では、テストステロン補充療法は、寧ろ排尿障害の改善に役に立つと考えられています。
■テストステロン補充療法が、下部尿路症状を改善する理由
下部尿路症状や過活動膀胱の発症には、骨盤内の血流の低下や、骨盤に分布するeNOSやiNOSの機能障害(美容通信2025年9月号)が提唱されています。加齢によってメタボリック症候群、つまり動脈硬化や糖尿病が起こりますが、これ等は下部尿路症状や過活動膀胱のリスクファクターです。これ等のメタボリック症候群のリスクファクターの根底には、アンドロゲン低下があります。つまり、排尿障害と過活動膀胱、性機能障害は、全て、アンドロゲンの低下が一つのリスクであると考えられます。
動物実験レベルでは、去勢ラットにテストステロンを投与する事によって、膀胱壁のmuscle/collagen比が改善して、コンプライアンスが上昇する=膀胱の線維化を抑える作用がある事が証明されています。
■中等度未満の前立腺肥大に対しては、ホルモン補充療法は悪影響を及ぼさない
人間の前立腺の生検を用いた検討でも、テストステロンを補充すると、血液中のテストステロンの値、DHT値は共に上昇します。しかし、前立腺組織内のテストステロン値もDHT濃度も、有意な上昇は認められませんでした。また、自覚症状だけでなく、前立腺体積、増殖系のマーカーKi-67にも、有意な相違がなかったそうです。
つまり、前立腺肥大症に対して、テストステロン補充を行っても、少なくとも前立腺組織内のテストステロン濃度も、DHT濃度も影響を及ぼさない事が分かっています。但し、中等度以上の前立腺肥大に対しては、未だ、不明です。
■中等度以上の前立腺肥大がある場合の、安全性について
中等度以上の前立腺肥大を伴う下部尿路症状のある患者さんに、テストステロン補充を行った報告です。つまり、AGAの治療薬として有名なザガーロ(デュタステリド)(美容通信2013年2月号)は前立腺肥大の薬でもありますが、これを使用して、DHT(ジヒドロテストステロン)抑制下でのテストステロン投与を評価(プラセボ群/投与群(低用量~高用量まで4群に分ける))しました。
テストステロンを投与すると、当たり前ですが、全ての群でテストステロンの血中濃度は上昇します。しかし、DHT濃度はデュタステリド投与群では、高用量のテストステロンを投与しても、上昇しません。
ところがDHT抑制下でテストステロンを投与すると、デュタステリドを投与してもしなくても、前立腺体積もPSA値も有意差はありませんでした。
ここで興味深い事に、デュタステリドを投与するとDHTが下がりますが、これによりテストステロンの効果がどうなるかを見てみると、体脂肪量も除脂肪体重も筋力も改善しているんです。テストステロンの筋肉増大や蛋白同化作用には、DHTの変換は必要ではない。テストステロンそのものの作用だって事です。
つまり、高度の前立腺肥大症を患っているLOH症候群の患者さんにも、前立腺肥大/下部尿路症状に対する治療として、テストステロン補充療法は、禁忌でも何でもないんです。影を畏れ迹を悪むなかれ。
■前立腺癌治療後のテストステロン補充療法の安全性
前立腺癌治療後のテストステロン補充は、KAUFMANを始めとする多数の報告に於いて、再発を高めるエビデンスはないとされています。開始の基準は、前立腺全摘の場合は、PSA0.1未満、放射線の場合は0.3~0.7未満とされています。(美容通信2025年6月号)
最近のトピックスになりますが、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC) の患者さんに高用量テストステロン投与(←凄いチャレンジャー!)してみたところ、PSAが低下したんだそうです。理由は、テストステロンには2極性(生理的用量/高用量)の作用があり、両者では作用が違います。高用量のテストステロンでは、内因性のエストロゲンや、前立腺癌を取り囲むサイトカイン環境の変化(特にIL-8やCCL2等のケモカインを抑制する)や、AR標的薬に対する感受性の回復が報告されています。
テストステロンには、下部尿路症状の改善以外にもこんな効用がある
男性ホルモンであるテストステロンは、生存率と関係があることは良く知られており、テストステロン値が高く保持出来ていれば、生活機能も意欲も認知機能も高く維持出来ます。ところが、女性では、生存率と女性ホルモンであるエストロゲンとは関係がなく、DHEAが高いかどうかが生存率に影響します。高い方がより生存率が高くなります。
テストステロンと老化
老化促進マウスSAMO8では、テストステロン値は低下します。精巣をSA-β-gal染色(老化染色)すると濃染されますし、海馬領域でのサーチュイン遺伝子の一種であるSIRT1遺伝子(美容通信2022年7月号)(美容通信2022年6月号)の発現も殆ど認められず、老化を示唆しています。
ところが、DHT(ジヒドロテストステロン)(美容通信2024年12月号)(美容通信2013年2月号)を投与すると、濃染が消える。つまり、老化が解消され、長寿遺伝子SIRT1も増えるのが確認できます。精巣の老化が関係/性腺の老化は、鶏が先か卵が先かではありませんが、先行するのか随伴するのかは不明ではありますが、少なくとも老年疾患と大きく関わると推測されます。
骨格筋とテストステロン
■運動でテストステロンは上がる
シャーレの中でもマウスを走らせても、骨格筋の中のアンドロゲン受容体の発現が増える事が知られており、一般的には、運動するとテストステロンも上がります。勿論、運動を止めればテストステロン値も下がりますが、受け手である受容体も一緒に変動します。
■サルコペニアとテストステロン
繰り返しにもなりますが、サルコペニアにもテストステロンは関与します。
下の表を見て下さい。サルコペニアは速筋が有意に落ちるので、速筋に於けるアンドロゲン受容体をブロックしたマウス(速筋特異的ARKOマウス)で、疑似サルコペニア状態にして動物実験を行いました。若いマウス(13週齢)では筋量にそんなに差がないにも拘らず、2年経つとがくっと低下します。因みに、テストステロン影響を受けないメスでは、若いマウスと老齢マウス(2年齢)では、差が出ません。
速筋特異的ARKOマウスでは、若い時から、筋力低下が出現し、中年では筋肉量が減り始め、パフォーマンスが落ち、老年になると筋肉が枯れる…。これは即ち、テストステロン値が低下し、サルコペニア予備軍落ちした人々の未来予想図でもあります。詳しく見てみると、右図の様に、筋肉のボリュームは変わらなくても、速筋から遅筋の割合が増えているのが分かると思います。筋のパフォーマンスが落ちて来る→中年期以降は筋肉の量が落ちて来て→高齢期は筋力も筋肉量も落ちる…。
筋骨関連
■筋骨関連~ポリアミン
左図を見て下さい。骨格筋の速筋だけを遮断したマウスのオスだけが、大腿骨の骨密度が低下しています。筋肉だけで、骨のアンドロゲン受容体をブロックしていないにも関わらず、です。って事は、骨格筋から分泌している何かが、ポリアミン生合成関連遺伝子で著明な発現変化を起こさせているとしか考えられません。
ポリアミンは、第一級アミノ基が3つ以上結合した直鎖脂肪族炭化水素で、ウイルスから人間まで、あらゆる生体中に含まれ、細胞分裂や蛋白合成等の活動に関与している成長因子です。私達人間では、20種類以上のポリアミンが確認されていますが、主なものとしては、プトレシン (PUT)、スペルミジン(SPD)、スペルミン(SPM)があり、これ等の相互変換により至適濃度が保たれています。オートファジーを誘導し、長寿に資する事が知られており、特にスペルミンはイオンチャンネルの調節やNMDA受容体の調節に関与しています。
抗酸化物質が多く含まれる大豆や地中海食等の食習慣には、ポリアミンも多く含まれています。
■老化制御物質・サルコペニア治療薬として期待されるポリアミン
残念な事に、体内のポリアミンは、加齢によって減少する事が知られており、老化との関連も示唆されています。動物実験でも、血中ポリアミン濃度の上昇したマウスの寿命は、延長する事が分かっています。
骨格筋のアンドロゲン受容体を介して、スペルミンは誘導されます。加齢に伴ったスペルミンの低下が、どの様な機序で骨と関連しているのかは不明ですが、何らかの関係があるのは疑いようもない事実ではあります。
筋の修復に於いても、ポリアミンは重要な役割を果たしているだけでなく、アンドロゲンの同化作用も媒介しています。更には、レジスタンストレーニングにより、速筋・遅筋共にポリアミンがUPします。
■イシリンとテストステロン
マイオカインは、筋肉から分泌される生理活性物質の総称で、様々な臓器にアンチエイジング効果を及ぼします。マイオカインには、イシリンの他、マイスタチンやIL-6、フェリスタチン、IL-15、デコリン等があります。イリシンは、 筋肉マッチョ系には、筋肉が運動に反応して分泌するホルモンで、脂肪の燃焼やエネルギー代謝の調節に関与している事は良く知られていますが、実は、筋肉だけではなく、様々な骨や脂質、脳、肝臓、筋肉、血球関係に良い効果を及ぼします。
テストステロンを補充すると、筋肉が刺激を受けて、イリシンが放出されます。テストステロンの補充によって筋肉の増強、若しくはマイオカインの産生効果があるので、テストステロン補充療法と運動量を併用する事は非常に重要と近年報告されています。
付録・再生医療「ヒトiPS細胞からLeydig細胞を作製して、LOH症候群を打破!?」
再生医療からLOH症候群に対するアプローチも、近年盛んになりつつある研究分野です。実用性って点では未だではありますが、これから楽しみなトピックスとして読んで下さいね。以下、神戸大学の千葉先生の論文からです。
Leydig細胞
Leydig細胞は精巣の間質に存在し、テストステロンを分泌します。LOH症候群とは、精巣にあるこのLeydig細胞の数と機能が低下し、テストステロンが欠乏する事で様々な症状、例えば、骨密度の低下や筋肉量の減少、性欲低下、抑鬱、認知力低下、脂肪増加、勃起不全等を来します。
現在、テストステロンの補充療法としては、注射と1UPフォミュラー等の外用薬(美容通信2014年7月号)(美容通信2025年6月号)が使用されています。最近、第3の補充方法として、iPS細胞(人工多能性幹細胞)細胞を用いた再生医療が注目されつつあります。
ヒトiPS細胞からLeydig様細胞を作成し、移植する
ヒトiPS細胞からテストステロンを分泌するLeydig様細胞を作成し、移植する方法です。
ヒトiPS細胞とは、体細胞に4種類の遺伝子を導入する事により、ES細胞(胚性幹細胞)の様に非常に多くの細胞に分化出来る分化万能性 (pluripotency)と、分裂増殖を経てもそれを維持出来る自己複製能を持たせた細胞の事です。
細胞が異なる形や機能に分化するのは、細胞毎に、2万数千個ある遺伝子の各々の発現量が異なるからなんですが、この細胞の運命を決定付けるのは、たった一つの(or少数の)因子(マスター遺伝子です。
■試行錯誤の話
ここからは、研究者の苦労話です。HISAKOは、学位を取ってからは、長らく研究とは無縁の生活を送っていたので、思わず、大学でのネズミ達との格闘の日々を思い出し、涙してしまいました。
ヒトiPS細胞からLeydig様細胞を効率良く作成する為に、培養法を浮遊培養から接着培養に変えてみたそうです(←試行錯誤)。この新しい接着培養法に変えて、従来法では40日で死滅していた細胞達が、120日以上の長期培養が可能となり、臨床応用の可能性が見えて来たんだとか。
更に、培養法を変える事には、期せずして嬉しいオマケが付いて来ました。従来法では、副腎等の雑多な細胞を含んでいました。NR5A1は、Leydig細胞だけを誘導するマスター遺伝子ではなく、副腎皮質の細胞も交じってしまうと言う問題があったんです。ですから、従来法ではコルチゾールとアルドステロンの分泌が認められましたが、改良法ではそれが解決! 下図の如く、免疫染色でも、Leydig細胞以外の細胞が含まれていない事が明らかになりました。次世代シーケンシングNGSを用いた評価でも、Leydigマーカーの発現の経時的な上昇を認めました。
PCA解析では、Day14以降の細胞は一領域に集中しており、Day14で既にLeydig細胞で完成しているのが分かります。
左図は、シングルセルRNAシークエンスを用いた解析で、健康な男性3名の精巣データ(公開データベース)と作成されたLeydig様細胞を比較したところ、非常に近い遺伝子発現状況を示しています。
さあ、これで、テストステロンを安定的にGET出来るぞ!と早合点してはいけません。未だ問題があります。iPS細胞から作成した細胞集団に於いて、未分化細胞の残存率の問題です。未分化な細胞が残っている細胞集団を脳に移植すると、奇形腫を形成してしまう事は良く知られています。デジタルPCRを用いて、LIN28(未分化マーカー)の発現を解析したところ、iPS細胞混入率%相当未満を達成し、少なくとも、先行する網膜や心筋のiPS細胞の臨床移植に於ける安全性のレベルまでは達している事は確認されています。
去勢したオスの免疫不全マウスの皮下に移植した、動物実験です。Control群では、当たり前ですが、テストステロンは認められません。先ずは生着しているかの確認です。ルシフェラーゼ遺伝子を導入したLeydig様細胞を免疫不全マウスの皮下に移植し、1週間後に細胞の生体内での生着を確認します。次に、このマウスの血清テストステロン濃度とDHT濃度を測定すると、有意に上昇しているのが確認されました。漸く、第3のテストステロン補充療法の実用化が見えて来ました!
アンチエイジングを考える
ドラキュラ伝説は若返りの話である。
動物実験では、アンチエイジングは既に実現可能です。右図を見て下さい。若いネズミと年取ったネズミをホチキスでがっちゃんこすると、体液の交換が行われ、年取ったネズミの表現型が変わるんだそうです。例えば、血流が少なくなる、匂いを感じなくなるとか、つまり神経幹細胞が減少する、筋肉が減少すると言った表現型が、がっちゃんこすると、急激に若返る。その代償にと言っては何ですが、年取ったネズミとがっちゃんこされた若いネズミは、遺伝子年齢は年を取ってしまう、つまり老化してしまいます。
ルーマニアのトランシルヴァニア地方の由緒正しい貴族であるドラキュラ伯爵は、若い美女の生き血を吸う事で、何世紀も前から生き続けている…。実は、吸血鬼の概念は、メソポタミア、古代イスラエル、古代ギリシア、古代マニプル、古代ローマ等と、世界各地で数千年もの前から伝承されています。つまり、科学的根拠には至らずとも、人々の間では、不老長寿の秘術として広く認識されていたのでしょう。先ほどのネズミのがっちゃんこの実験は、テロクロニック・パラビオーシスって実験モデルなんですが、改めて、吸血鬼ドラキュラ伝説は、妄想でもホラーでもなく、単に若返りの伝承に過ぎなかった事が、漸く科学的に証明されつつあるようです。
バイオマーカーとしてのテロメア長
若返りの物差しとして、テロメア(美容通信2022年7月号)の長さがあります。テロメア長の短い人は、癌罹患率リスクが有意に高い事は良く知られています。
テロメア長は、所謂バイオマーカーの指標と考えられています。臓器特異的な老化と関係があり、癌の罹患率、生存率に関係し、癌治療により短縮します。また、テロメア長は生活習慣の影響を受け(美容通信2024年9月号)、特に有酸素運動はテロメア長維持に効果的です。
テロメアを伸ばすと、老化は予防出来る!
テロメアを伸ばすと、老化を予防出来る事は良く知られています。
右図を見て下さい。老化モデルマウスは綱渡りする時に、握力、平衡機能が老化によって、綱から滑って落下してしまいます。ところが、この動物にテロメアを伸ばす酵素を遺伝子導入すると、同じ年齢でも綱の上をするする渡って行けるようになるんですね。テロメアは単なる指標ではなくて、機能的な意味があるんです。
■選食のススメ
テロメアを伸ばす方法として選食、中でも注目株は断食(ファスティング)(美容通信2016年3月号)です。断食の効果としては、認知機能の改善、血圧や脈拍の低下、喘息の改善、血液コレステロール値や中性脂肪の値の改善、内臓脂肪の減少、全身的な炎症の改善、糖尿病の予防や改善、腸内細菌叢(美容通信2024年8月号)の変化、癌予防等が挙げられます。
特に、断食により、インスリンが低下して、膵臓やインスリン受容体の機能が改善、糖尿病のリスクを低下させる事は良く知られています。
また、長寿遺伝子(美容通信2022年6月号)として有名なSirt1は、抗老化作用や細胞のストレス耐性を高める事が良く知られていますが、断食により殆どの人で著明な増加が確認されています。
年齢と白血球のテロメア長の関係を見てみましょう。0歳から100歳で、テロメア長は大体半分になりますが、断食により5%伸びたんだそうです。多寡が5%と思うかも知れませんが、5%変化すると10年違うんです。凄い事なんです。
生物学的年齢
最近は、老化のペースを定量化するのが世界的な流れで、その為のBiomarkers of Agingとして、epigenetic clock(美容通信2024年1月号)が関心を集めています。最近は、日本人向けの検査(美容通信2025年12月号)も発売されています。
エピジェネティッククロックは、年齢を予測する第一世代から、残りの寿命を予測する第二世代に進化しています。
■不老とは、生物学的年齢を巻き戻す事だ。
生物学的年齢は、介入により、伸び縮みします。不老とは、病気をしない。不老とは、生物時計を巻き戻す事です。左図は、2021年に行われたmethylation diet and lifestyle studyの結果で、健康な男性(50~72歳)を対象に、8週間の食事・睡眠・運動・リラクゼーション・サプリメントの効果を評価したものです。
■癌の治療方針を、遺伝子時計で評価する時代が来るかも
HISAKOの様に、癌治療をして良くなった人(サバイバー)はテロメアは伸びる事が知られています。ところが、癌治療をしながら亡くなった人は、その過程でテロメアは短くなっているんだそうです。つまり、癌治療を続けるかどうかは、従来の様なバイオマーカー或いは画像で決めるのではなく、遺伝子時計も検討する時代が来るかも知れません。
日本のテストステロン製剤は、これまで注射薬や外製製剤しかなく、値段・使用感に優れた製剤はありませんでした。 テストステロン・ゲル製剤「1UPフォーミュラ」は、 純粋なテストステロンのみを含むゲルで、5%配合されています(市販薬は1%のみ)。HISAKOの様な、日本メンズヘルス医学会のテストステロン治療認定医の処方箋が必要なお薬です。1UPフォーミュラの処方については、粗悪品の流通を防止する為、オールインワン薬局(提携薬局)のみでの対応(購入)になります。 |
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
*使用中や使用後、刺激またはアレルギーによる赤み、かゆみ、痛み、腫れ等の異常が現れた場合、使用を中止し、医師に相談してください。
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