HISAKOの美容通信2025年11月号
骨盤臓器脱・排尿障害に対する保存的治療|ペッサリーとサポーター
2020年の日本人女性の平均寿命は87.74歳で、世界一の長寿国です。子宮脱、前膣壁下垂(膀胱瘤)、ダグラス窩下垂(小腸瘤)、後膣壁下垂(直腸瘤)等の骨盤臓器脱は、熟女?(高齢者)に好発し、増加傾向にあります。しかしながら、熟女?(高齢者)が故に、種々の合併症を有している事も多く、手術を希望しない場合や、手術までの待期期間の繋ぎとして、ペッサリーが使用されます。当たり前ですが、手術と違い、骨盤臓器脱を根本的に治してしまう方法ではありませんが、低侵襲でありながら、即行効果が実感出来る治療方法です。排尿障害(尿漏れ)についても、欧米ではペッサリーの適応とされています。尤も、ペッサリーには昔と違って、シンプルなリング型からサポートリング型、ドーナツ型、ゲルホーン型、キューブ型等々と色んな種類があり、どの型でも尿漏れに効果的と言う訳ではありません。
ペッサリーには連続装着法と自己着脱法がありますが、HISAKOのクリニックでは、膣炎等の合併症が少なく、患者さんのペースで使用が可能な後者を薦めています。朝自分で挿入して、夜出すって言うのが(自己着脱法の)原則です。自己着脱が出来れば、Hだって、お互いその気になればいつだって(?)OKですから、ね。
もう20年くらい昔ですが、代官山に元・日産自動車会長カルロス・ゴーンの元妻のレストランがありました。マイ・レバノン。結構、本格的なレバノン料理を食べさせてくれるお店で、日産自動車の社員だけでなく、HISAKOの様なミーハーな一見さんで繁盛していました。…HISAKOは脱出と言うと、つい、2019年の大晦日の脱出劇(カルロス・ゴーン事件)を思い出します。米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)出身の男性ら2人の協力で、「音響機器運搬用の黒い箱」の中に隠れて、プライベートジェットでベイルート国際空港に逃れました。自由の代償は、2,000万ドル(約22億円)以上だったとか。カルロス・ゴーンの実父も、刑務所からレバノン内戦の混乱に乗じてベイルート脱出に成功しており、この親子に限らず、骨盤臓器も含め、自由に対する渇望は激烈なものです。これをエントロピーの法則に準じると言うのは、少し強引過ぎますかね(笑)?
今月は、<骨盤臓器脱・排尿障害に対する保存的治療|ペッサリーとサポーター>についてです。
骨盤臓器脱
骨盤臓器脱とは
骨盤臓器脱とは、膣壁が靴下をそのままひっくり返して脱いだ時みたいに、裏返っ(内反)て、膀胱や子宮、小腸、直腸と言った骨盤底臓器が膣から出てしまう現象(ヘルニア)です。膀胱や子宮、直腸等の臓器自体には支持力はありませんから、膣管で間接的に骨盤内に保たれています。つまり、骨盤臓器脱は臓器の問題ではなく、膣管を支持している骨盤底筋群や筋膜、結合組織が、妊娠や分娩、骨盤内手術やエストロゲン欠乏、加齢により脆弱化して起こる、多因子疾患です。出産経験者の44%が何らかの骨盤臓器脱の症状を有し、検診に於いて17%が罹患していたとの報告もあり、決して他人事ではない疾患です。
症状としては、ざっくり分けると、臓器脱出による事そのものによる症状と、排尿・排便機能障害の二つです。前者には、外陰部の違和感、臓器が下着に擦れる事による痛みや不正性器出血、性交困難等があります。後者には、残尿、頻尿、排尿困難(子宮を指で突っ込まないと、出ない( ;∀;)、腹圧性尿失禁等が挙げられます。この為、気分の落ち込み、外出や人との接触を控えたりと、熟女?のQOLを著しく低下させてしまいます。どの臓器が脱出してくるかによって、子宮脱、膀胱脱、直腸等とその脱出してきた臓器の名称+脱の名前で呼ばれます。子宮筋腫等で子宮を摘出した後に、膣の一番奥の部分が脱出してくるものは、膣断端脱(中身は、膀胱、小腸、直腸等)です。これらの臓器は近くにあるので、膀胱脱に軽い子宮脱を伴う等、2つ以上の臓器が同時に出てきてしまう事もあります。頻度としては、膀胱、直腸、子宮の順に多いとされています。
治療方針は、POP-Q(pelvic organ prolapse quantification)分類のStage Ⅰ、Ⅱで、症状が軽度の場合は保存的治療を、Stage Ⅲ以上で保存的治療が困難な場合は手術療法が選択されます。POP-Q分類は、膣内の9つのポイントの長さを測定して分類するものですが、おおよその目安としては、内診して初めて分かる様な軽度なものはStageⅠ。自覚症状があり、子宮や膀胱が膣の出口から1cm位下がって来ているのが、StageⅡ。それ以上下垂していれば、StageⅢ。膣が反転して、ほぼ完全に脱出している状態がStageⅣです。根治的な治療は手術しかありませんが、しかし、患者さんには高齢者が多く、手術療法を望まない方が多数いるのも事実…。
保存的療法は、軽度の症例には理学的療法(骨盤底筋体操(Kegel体操))を選択しますが、これが結構難度が高く、間違った方法を続けて効果が実感出来ないと訴えるどころか、そもそも続かない人が殆ど。ちゃんとやれば、この物価高の世の中で費用0円にも拘らず、その効果は絶大な治療方法なんですが…、孟子様の申す様に、「人は易きに流れる」(笑)。フジテレビの人気番組「ホンマでっか!?TV」で、元女優で美容家の君島十和子さん一押しの、病院で椅子に座っているだけで、骨盤底筋群が鍛えられる!と言う自費の椅子治療が人気を博しています。脱出が高度の場合、膣内に挿入する骨盤臓器脱矯正用のペッサリーを使用します。サポート下着の併用をする場合もあります。
手術には、自分の組織のみを用いて修復する方法と、メッシュってミカンのネットみたいな網で修復する方法があります。
骨盤臓器脱の解剖学的支持と脱出の発症機構
■骨盤臓器の解剖学的支持
骨盤底臓器は、互いに筋膜、漿膜、靱帯で固定されていて、立った状態でも、腹腔内の圧力下でも解剖学的位置を維持し、各臓器の機能を保っています。左下図を見て下さい。正常女性の膀胱、膣の上部2/3、直腸は骨盤底筋(肛門挙筋)と水平となり、対照的に、尿道、膣の下部1/3、肛門管は垂直に位置します。肛門挙筋が、尿道、膣、肛門を恥骨結合方向に牽引する事で、羽蓋弁構造となり、臓器の脱出を防止しています。膣の最深部(後膣円蓋)は、坐骨棘の高さです。
■骨盤内臓器の3つの軸
左図を見て下さい。Delanceyの理論によると、支持組織は、その支える場所によって、レベルⅠ、レベルⅡ、レベルⅢの3つの軸で構成されています。因みに、レベルとは言いますが、組織損傷の酷さを評価するものではありません。悪しからず。
最上部の軸は、子宮を背中側に引き上げる仙骨子宮靱帯部と基靱帯の複合体(DelanceyのレベルⅠ)。ここが脆弱になると、子宮脱になります。
2番目の水平軸は、膀胱、膣、直腸を左右に引っ張って支えている恥骨頸部筋膜(DelanceyのレベルⅡ)。ここが脆弱になると、膀胱脱や直腸脱になります。
3番目の支持軸は、尿道口や膣口、肛門を支えている骨盤底筋群や会陰体と呼ばれる組織(DelanceyのレベルⅢ)。ここが脆弱になると、排尿障害や下部直腸の脱出等の症状が起こります。
骨盤臓器脱の治療
骨盤臓器脱に対する治療としては、保存的に骨盤底筋訓練や生活指導を含む行動療法、ペッサリー、サポート下着等があります。骨盤底筋を鍛える体操は、骨盤臓器下垂や脱の予防になりますが、脱出した臓器を戻すには、膣内へのペッサリー挿入か手術になります。ペッサリーは骨盤臓器脱の治療の中で、合併症リスクが低く、先ずは考慮すべき治療方法です。ペッサリーには、連続装着と自己着脱の2通りありますが、前者は、持続的な留置により、糜爛による出血や疼痛、おりものが増える等のトラブルが起こりやすい為、後者の自己着脱が推奨されています。
根治的な治療は、手術しかありません。手術には、自分の組織のみを用いて修復する方法と、メッシュってミカンのネットみたいな網で修復する方法があります。前者は、子宮全摘術(経膣/経腹)、膣断端挙上術、膣壁形成術、膣閉鎖術等があります。メッシュ手術には、経膣的にメッシュで修復する手術と腹腔鏡を用いてメッシュで修復する腹腔鏡下仙骨膣固定術があります。最近は、ロボット支援下仙骨膣固定術も保険適応になりました。
骨盤臓器脱に対する手術後に腹圧性尿失禁が悪化、若しくは術前に認められなかった腹圧性尿失禁が新たに出現する事があります。後述の尿失禁の項で詳しく説明しますね。
ペッサリー
骨盤臓器脱に対するペッサリー治療は、端的に表現すれば、縁の下の力持ち。膣の中にリング状やドーナツ型のペッサリーを挿入し、弛緩下垂した臓器を押戻し、下から子宮を支える方法です。有史初期から行われており、種々の形状の物が考案されています。ペッサリー治療は非常に有効性の高い治療方法で、70%以上の骨盤臓器脱患者に適合させる事が可能です。しかし、ペッサリーの持続的な長期使用で、膣壁の糜爛を来し、性器出血や痛み、膣内感染症が問題となる為、自分で朝に装着し、夜に抜去する”自己着脱”によるセルフコントロールが推奨されています。欧米では、自己着脱が一般的に行われています。
自己着脱の場合、ペッサリーを挿入するタイミングは、臓器がきちんと膣に納まっている事が多く、挿入しやすい、起床時がお勧め。活動前に入れてしまうのがコツです。抜くタイミングは、そのままペッサリーを洗う事が出来るので、入浴時がお勧めかな。
ペッサリーの自己管理に於いて重要なのは、入れてない時間帯の確保です。入れっ放しでは、トラブルが増えるだけです。ですから、下垂症状が気にならない日、外出しない日、仕事が休みの日等、ペッサリーが必要ない日は、敢えて、休肝日ならぬ、休ペッサリー日を設ける事も大事です。
ペッサリーの種類
HISAKOのクリニックで使用しているMilexペッサリーは、生体適合性に優れた、安全性の高い医療用のシリコン製で、症状に合わせた9種類と豊富なサイズ展開が魅力なCooperSurgical社のものです。常温で柔らかく、臭いや分泌物を吸収せず、お手入れが簡単なので、自己着脱に適しています。耐熱性に優れ、オートクレーブ滅菌が出来るのも嬉しいところ。
■基本のリング
軽度の骨盤臓器脱であるStageⅠ及びⅡに、適応があります。右図の様に、リング・サポート・ノブ付きには2か所の凹みがあり、この部分で簡単に半分に折り曲がります。その為、挿入時に腟口に疼痛がある場合や、手指の握力が弱いと、挿入に難渋してしまうので、このリングタイプがお勧め。
- リングタイプ
軽度から中程度のStageⅠ及びⅡの子宮脱に適しています。
- サポートタイプ
軽度の腹圧性尿失禁を伴う骨盤臓器脱に適しています。軽度の膀胱瘤を併発している症例や、子宮頸管がリングに落ち込んで痛みを伴う症例には、しっかり面で支えてくれるサポート型が最適なんです。でも、とっ始めからサポートタイプを選択する事は殆ど皆無で、先ずはリング型からトライします。外径:44~108mm。
- ノブ付きタイプ
ノブ部分が膀胱ネックを抑える構造になっているので、軽度の腹圧性尿失禁を伴う症例に適しています。外径:44~108mm。
■ドーナツタイプ
リング型と比べて、少し重症度が高い、StageⅡ、Ⅲに適応があります。特に後壁が弱い人(直腸瘤を伴うとか会陰靱帯が弱い)に最適です。ドーナツ部が腟円蓋部にフィットして、下りてくる子宮の重みをしっかり支えてくれます。両サイドから手で挟んで圧縮します。
■ゲルホーンタイプ
更に重症度が高いStageⅢ、Ⅳや、子宮摘出後でリングタイプでは脱落する症例に適しています。サポートタイプやドーナツタイプでは、歯が立たない症例が適応で、それ故に、最終兵器とも呼ばれています。子宮頸部が円形ディスク部の後方にしっかりと収まり、密着するので、子宮がしっかり支えられます。 4本の指を使って突起を傾けて挿入しますが、入れるのは簡単ですが、外すのは可なり難儀するので、自己管理は難しいですが、出来ない事はありません。尻尾の部分を人差し指と中指でがっつり掴んで、引き摺り出します。放置すると、密着度が高い分、膣炎が起りやすくなります。もし、自己抜去が難しい場合は、クリニックに来て下さい。尻尾の真ん中に穴が開いているので、生理食塩水を注入して、密着を解除して取り出します。外径:38~95mm 。ステム長:42mm(レギュラー) 、28mm(ショート) 。ショートは、TVL≤6cm 。日本人には、軸の短いショートタイプが合うとされていますが、これで下垂感があれば、レギュラータイプを使います。
■キューブタイプ
ゲルホーン同様に、更に重症度が高いStageⅢ、Ⅳが適応となります。 6つの圧力点から膣壁が崩壊するのを防ぐという点で、子宮脱・膀胱・直腸瘤の全てに適し、特に膀胱尿道脱を合併した完全子宮脱に対しては、現状では、唯一効果が期待出来る形状とされています。立方体の6個の各側面は、膣壁に付着する凹状の吸引カップ状になっており、骨盤内臓器の支持を回復させるのを助けます。また、凹面に被さった粘膜が陰圧を創りだし、その陰圧による吸引によって保持される構造です。サイコロ面が吸盤の様になって膣内に貼り付いてはいますが、位置は体動により常に動いているので、膣炎や膣壁の糜爛にはなり難いのが嬉しい特徴です。また、指で押し入れるだけで挿入は容易ですし、外すのも簡単と言うか…簡単に脱落してしまう(笑)。自己着脱には、却ってそれ位が扱いが良いんですが、ね。通常はテープ状の紐を付けておくと、引っ張るだけで外せるので、握力が弱い高齢者にも扱いが楽な形状なんです。
穴ありと穴なしがありますが、前者の穴ありは廃液が出来るメリットがありますが、吸引機能が失われるので、固定力が落ちます。 もし、キュープ本体の容積・カサだけで脱・腟壁を支持出来るのであれば、穴ありで十分です。
欠点は唯一、尿失禁には予防効果がないって事でしょうか。
外径:立方体の対角が25~57mm。
ペッサリーの選択は、トライアンドエラー。そして、サイズも進化するのが原則。
■サイズ選択
排尿、排便後に砕石位で、測定を行います。サイズの選択は、①先ずは指を子宮円蓋部まで深く挿入し、指をVサインして、円蓋の端から他端まで膣内で横に広げ、2指間距離をペッサリー外径とします。②診察指を深く挿入し、中指が後膣円蓋に達した時の、恥骨結合に当たる人差し指の根元の位置を確認、中指先端から人差し指の根元の距離を測定します。
装着には何度かやり直して、最適な形状と大きさを決定します。1回の試着で45%は適合しますが、通常は1~3回の受診で、平均2~3個試着して、最適なものを選ぶもので、ペッサリーの選択はトライアンドエラー。最適なペッサリーを一発で決める事なんて、土台無理なお話です。
■タイプの選択
膣口に十分な支持力が得られれば、リング型で十分です。膣口の支持力の低下・弛緩している場合は充填型を選択します。
■入れ方
簡単に言うと、ペッサリーを縦方向から1時の方向に挿入します。膣内に入ると、ペッサリーは勝手に納まりが良い状態に落ち着き、水平になります。最後の仕上げは、ペッサリーの手前側を恥骨後面方向に押し上げて、終了。違和感がある場合も、これで改善します。
- リングタイプ
- ドーナツタイプ
- ゲルホーン/ゲルホーン ショートタイプ
- キューブタイプ
挿入後は、軽く息んでも、ペッサリーが外に落ちて来ない。しゃがんだり、歩き回ったり、階段を上り下りして、違和感や痛みがないか、脱落がないかを確認します。この時点で合わないなぁと感じるようであれば、サイズダウンやタイプを変更します。
■出し方
自己着脱は、左図の如くに会陰部を押し下げ、人差し指を膣内に突っ込みます。ノブ付きリングの場合、指でノブ部を膣口に向く様に回転させます。ペッサリーを指で引っ張って取り出します。挿入時と同様に、折り曲げても大丈夫です。キューブタイプの場合は、蛸の吸盤で貼り付いているような状態なので、膣粘膜とペッサリーの間に指先を入れて吸引を開放し、親指と人差し指でキューブを潰して取り出します。キューブに付属している紐は、引っ張る為の物ではなく、単なる目印なので、強く引っ張ると…千切れます。
抜けない時は、パニックになると泥沼ですから、先ずは動揺しまくりの猫みたいに、毛繕い(笑)しましょう。と言っても、人間は毛物ではないので、舐めて気持ちを落ち着かせる訳にはいかないので、例えば、お風呂でゆったりリラックスする。体からふっと力が抜けて、ポロンと勝手に落ちる事もあります。他には、腹圧の掛かりやすい体勢、例えば、ヤンキー定番のうんこ座りや四つん這いになると抜けやすくなる事もあります。また、軽く腹圧を掛けると、ペッサリーが下に下がるので、取り出しやすくなります。それでも、取り出しに中々難渋するようなら、お手製の紐を付けて、タンポンみたいに引き抜く。紐は、何も特別なものである必要はなく、タコ糸やデンタルフロスで十分です。唯、紐は毎日新しい物を付け替えましょう。
何処でどう外すのが良いのかは、患者さんの自由です。負担がない状態で外して下さい。
■お手入れの方法
ペッサリーは、中性異洗剤を使用して洗浄し、その後は流水で十分に洗い流して下さい。後は、水気を拭き取って、自然乾燥します。乾燥後は、タオルに包むか、通気性の良いタッパー等のプラスチック製の容器で保管します。しかし、ペッサリーにも寿命があるので、1年に一回は新品に交換しましょう。
■装着当日チェック
挿入後に、軽く息んでも外れて落ちてこないか、先ずはチェック。大丈夫そうなら、クリニックの中や外を、しゃがんだり、歩き回ったり、階段を上り下りしたり、おしっこしたりして、フィッティングをチェックします。違和感や痛み、脱落等の不都合があれば、サイズダウンやタイプの変更を検討します。
■装着後の外来受診予定
- 初回挿入の数日以内に診察。
- 再診間隔は、半年~1年毎。
- 再診時;有害事象のチェック。
- [問診]疼痛、違和感、下部尿路症状、おりもの、出血、自然脱落の有無
- [診察]サイズの適合や整復の良否、分泌物・膣管の状態、残尿
- 使用継続の意思確認
ペッサリーから手術に移行する
膣後壁脱出StageⅢ・Ⅳや手術希望の強い群では、ペッサリーは手術までの繋ぎとして使用します。しかし、高齢者(カットオフ値65歳以上)では、ペッサリー使用を希望する傾向があります。また、子宮全摘術後の骨盤臓器脱に対するペッサリー使用では、膣腔長7.3cm未満の症例では、どうしても脱出が多く、手術療法に移行せざる得ない事が殆どです。
手術療法に切り替える場合は、2~4週間前にペッサリーをSTOPし、膣エストロゲン投与で膣粘膜の状態を改善して、手術に臨みます。
骨盤底サポーター
頻尿、下腹部の違和感を伴う尿トラブル等の、骨盤臓器下垂症状の改善・予防として、ペッサリーと併用して、又は単独で、手術の前後の期間に使用する医療器械です。会陰全体を持ち上げて、膣を閉じ、深部で臓器の下垂を防ぎます。
下記は、膀胱瘤stageⅡ~Ⅳ 6名(46~86歳)の患者さんに適用した際の、効果の評価(国立大学医学部付属病院/第29回 老年泌尿器科学会より引用抜粋)です。【下図:膀胱造影による評価(POP-QstageⅢの例)】
骨盤底サポーター着用により、臓器の下垂が留まっており、怒責時も効果が持続出来、骨盤底サポーターは、「効果的かつ安全な骨盤臓器脱保存療法の新しい選択肢である」と評価されました。
- 下着のパンツの上に穿くので、衛生的で、丸洗い可(手洗い/陰干し)。
- 面ファスナーを止めるだけなので、脱いだり穿いたりと着脱が簡単なので、急なトイレも安心にゃん。
- 体の動きにフィットして、ずれ難い。
- メッシュ素材なので、猛暑でも爽やかな履き心地(⋈◍>◡<◍)。✧♡
但し、この効果を実感する為には、大き過ぎるサイズでは不適切。クリニックで、ちゃんと測定して、発注します。
適応範囲 | A(腰囲)(cm) | |||
75~85 | 85~95 | 95~105 | ||
B(後股上)(cm) | 24以上 | 80N | 90N[平均サイズ] | 100N |
24未満 | 80K | 90K |
A(腰囲)=骨盤周りの長さ:前腸骨棘の高さで、ウエストではありません! 肥満体形で、骨盤周りの長さに比べてお尻が特に大きい場合は、ヒップ周りの長さをきつめに測定。腰囲が、ちょうどサイズの境界線上の時は、大は小を兼ねないので、小さい方のサイズを選択します。
B(後股上)=肛門から骨盤上端(標準的な下着のパンツのゴムライン)までの長さ。背中の脂肪が厚く、骨盤上端の位置が分り難い場合は、付近の脂肪層のくぼみの位置から肛門までの長さで代用。また、腰が曲がっている場合は、後股上が24cm未満であっても、深めのNを選びます。
■使用方法
臓器の下垂を整復した上で、下着のパンツの上から重ね穿きします。臓器の下垂が十分に整復されてないままに着用すると、骨盤が支えられている感じがしません。仰向けに寝て、腰を持ち上げた状態で、下垂が戻るのを数分待ってから、着用を試みましょう。
120cc以下の薄手の尿漏れ(吸水)パットや吸水ショーツの上からでもOKです。唯、パットを付けてだと、効果が今一つって時には、裏技があります。パットに縦の折り目を付けて、ストラップが入り込みやすくする。着用後に、ストラップをおケツの割れ目に喰い込ませる。パットの付ける位置を少し前方にずらす。パットを薄いものにチェンジする。等々です。
お尻側は深く、お腹側は浅い設計です。両端の面ファスナー(マジックテープ)を持って、上に5cm引き上げて留め、背面の緩みを取って着用します。
お腹の膨らみより下の、腰パンならぬ、骨盤底サポーターは骨盤で穿くものです。あまり強く上に引き上げなくても、白いタグが隠れる程度(約5cm)持ち上げれば、十分です。引き上げ過ぎると、お腹の部分がきついだけです。また、サポータの効果に影響するのは、上に引く力のみで、横に引っ張る力は影響しないので、面ファスナーを左右にきつく締めあげても、お腹の部分がきついだけで何の足しにもなりません。単なる徒労です。サポーターがずり落ちない程度に、軽く引いて留めるだけで十分です。
左図の様に、お尻側を深く穿いて、腰回りに親指を差し込んで、軽く後ろから扱いて緩みを取ります。ストラップがピンと張る様にします。例えば、汗を掻いている時に穿くと、緩みが残りやすく、骨盤が支えられている感じがしません。
特にお尻側がずり落ちるような場合は。お尻側が十分に深く穿けていないか、着脱部を持ち上げ過ぎている可能性があります。前側はお腹よりも低い位置で留める。つまり、前はW字の部分は、前腸骨棘の高さより下に位置していなければいけないんです。フツーのガードル感覚でお腹側を引っ張り上げてしまうと、背中側の布が必然的に前側に引っ張られて、ケツ出し状態になります。ストラップと着脱部の継ぎ目は、ちょうどお尻の穴辺り。後ろ深めの、前浅と覚えておいて下さい。しかしながら、似て非なる現象に、浅穿きがあります。実は、約半数の人がお尻側を深く穿いても、骨盤の上端まで届かないんです。唯、ストラップと着脱部の継ぎ目が、ちょうどお尻の穴辺りにさえあれば、全体に浅穿きになっても問題はありません。。
外陰部に喰い込みがあって、痛い! そんな時は、お股のロール状に丸まっている生地を広げる様にして、穿いてみて下さい。外陰部にフィットして、あたりが柔らかくなります。しかし、サポーターの力が、おケツの穴じゃなくて、陰部に掛かっている!と感じる時は、とどのつまりは「あんたの穿き方が悪い」か、サイズが合ってないのかも。大き過ぎても小さ過ぎても、喰い込みます。
HISAKOもそうですが、私達人間にも、出っ張っているかそうでないかは別にして、尻尾があります。ストラップには切れ目が開いていて、尻尾を圧迫しない構造になってますので、当たると感じる方は、是非、尻尾をスリットの中に来る様に調節して下さい。
寝る時は、脱ぐ。寝ている時にも穿いていると、体表面のリンパの流れを悪くして、ロクなことが無いです。
洗濯の際は、面ファスナーを留めて手洗いし、タオル等で水気を切って、陰干しします(脱水機、高温、直射日光を避ける)。ゴミの部分が伸び切ってしまったら、寿命です。新しいのを買って下さい。白タグは、単なる目印なので、千切れてしまったら、それはそれで仕方がありません。
稀に、下記の症状が出る場合があります。
- 腰痛持ちの腰痛悪化
マジックテープを留める際は、左右に強く引っ張らずに、ずり落ちない程度に留めてるだけでも、腰回りを締め付け過ぎによる血流が悪化を防ぎ、腰痛悪化を防ぐ事が出来ます。これでも改善しない場合は、使用を中止し、他の治療法を模索すべき。
- 下痢
大腸が過敏な人では、サポーターの着用が刺激となって、下痢になっちゃう事も。消化器内科の先生に一度相談して、対策を考える必要があります。
尿失禁
骨盤臓器脱に多く認められる尿失禁
骨盤臓器脱は、高率に下部尿路症状(美容通信2025年2月号)を合併します。特に問題となるのが、合併する腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁です。高度な骨盤臓器脱では、溢流性尿失禁を認める事があります。骨盤臓器脱の根本的な治療は、手術療法しかありません。しかし、後述の通り、手術により、前者の腹圧性尿失禁が軽快する事(約30%)もあれば、却って増悪する場合(約30%)もあります。誰が尿漏れパットから解放され、反対に誰が”開けて悔しい玉手箱”になる(ババを引く)かを、予め予見する事は出来ません。後者の切迫性尿失禁ですが、手術により約半数が消失します。しかし、新たに過活動膀胱(美容通信2022年1月号)を発症してしまう事(約12%)もあります。
骨盤臓器脱と尿失禁の合併頻度
腹圧性尿失禁は、骨盤臓器脱と同様に、骨盤底筋の弛緩が原因となり、尿道支持機構が破綻する事で発症します。その為、骨盤臓器脱の患者さんでは、高率に腹圧性尿失禁を合併しており、質問票を用いた大規模疫学調査では44%との報告もあります。しかしながら、骨盤臓器脱が悪化すると、尿道が屈曲し、閉塞傾向が強まる為、却って、腹圧性尿失禁の合併頻度が下がる事も知られています。
また、過活動膀胱に伴う切迫性尿失禁も、骨盤臓器脱では高率に認められます。骨盤臓器脱の患者さんの、過活動膀胱の有病率は55~86%で、下部尿路閉塞に伴う自律神経の除神経、筋細胞の脱電位の不安定化等の排尿筋自体の変化、脊髄自律神経反射の変化等、下部尿路閉塞が契機になっているとは考えられてはいますが、今もって詳細は不明です。抗コリン薬等の薬物療法の有効性は低いですが、骨盤臓器脱の治療で多くは改善します。Tomoeによると、脱をガーゼでパッキングするだけで、28例中18例で過活動が消失したんだそうです。また、骨盤臓器脱の手術により、術前に認められていた切迫性尿失禁は46%の患者さんで消失との報告もあります。しかし、Cochrane reviewによれば、骨盤臓器脱の手術後に12%に、新たな過活動膀胱が発症してしまったそうです。術後に過活動膀胱がが残存する場合は、原因が骨盤臓器脱ではない、若しくは特発性の可能性もあります。
骨盤臓器脱の手術後の腹圧性尿失禁について
骨盤臓器脱に対する手術後に腹圧性尿失禁が悪化、若しくは術前に認められなかった腹圧性尿失禁が新たに出現する事があります。何故、術後に新たに腹圧性尿失禁が出現してしまうのでしょうか? 左図は、臨床泌尿器科(Vol.76 NO.12)から拝借した図ですが、とても分かりやすい図なので、先ずはこれを見て下さい。この様な患者さん達は、元々、腹圧性尿失禁があったのですが、高度な骨盤臓器脱だと、その重みに耐えかねて、尿道が折れ曲がってしまっていた為、症状が出るに出られなかったのが真相です。手術により頭の上の重しが外れ、尿道が折れ曲がりが無くなり、顕在化しただけなんです。
丁か半か…手術前にどっちに転ぶかを判定する確実な方法は、残念ながらありません。ガーゼやペッサリー等で脱を修復した状態で、咳テストを行って、腹圧性尿失禁の有無を確認するなんて方法もある事にはありますが…。テストが陰性だと、術後の腹圧性尿失禁のリスクは低くなるとはされています。
また一方で、術前に腹圧性尿失禁を認めた骨盤臓器脱の患者さんの29%で、手術後に腹圧性尿失禁が消失したとの報告もあります。ですから、術前に腹圧性尿失禁があるからと言って、術後の重症化を恐れて、画一的に腹圧性尿失禁の手術を同時に行ちゃうなんてのは、単なる蛮行との誹りを免れません。まあ、同時に手術を行うかどうかは、あくまでもケースバイケースなんですけどね。
[術後に初めての腹圧性尿失禁デビューした患者さん]/[手術前には腹圧性尿失禁がなかった患者さん]の比率は、約30%です。術式によって大きな違いがなかったって報告もあれば、差があったって報告もあり、未だ真相は闇の中です。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
*使用中や使用後、刺激またはアレルギーによる赤み、かゆみ、痛み、腫れ等の異常が現れた場合、使用を中止し、医師に相談してください。
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