血液中のNAD+濃度を「見える化」する検査
NAD+テストは、採血した血液を特殊なろ紙に吸着させ、抽出したサンプルから、血中NAD+濃度を測定する検査です。嘗ては宇部興産、日立造船と共に「三和御三家」と呼ばれていた日本の大手化学メーカー「帝人」から技術移管を受けたMiRTELが行う信頼性の高い検査(液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置)で、そんじょそこらの怪しげな検査ではありません(笑)。NAD+は、生体の酸化還元反応で中心的な役割を果たす補酵素であると共に、老化(美容通信2024年1月号)、代謝、概日リズム(美容通信2020年5月号)(美容通信2019年10月号)、炎症(美容通信2024年3月号)、分化等の多彩な生物学的局面に於いて重要な役割を果たしています。結果が出るまでには約4週間要しますが、NMN点滴やNAD+点滴、NMN内服(サプリメント)、NMN点鼻薬等の効果判定が的確に出来ます。
NMNやNAD+点滴、NMNサプリメント、NMN点鼻薬等の効果は耳にするし、HISAKOも、なんだかんだと申しましてもNAD+ PROを含めると、NMN系のサプリメント愛飲歴は約4年弱。実際使ってみると、悪い気はしない。つまり、恐ろしく若返ったって気もしないけれど、HISAKOの生物各年齢が、思いの外、若かった(炎症の総合商社みたいな病歴なのに、暦年齢よりも18歳も若い!)のは、実はNMNのお陰なのかも知れない。しかし、本当に効果が出ているのかと問われると、良く分からないんです(笑)。けど、周りの医者連中と同様、怖くて、NMNの内服を止められないんですよね。…まあ、この曖昧模糊さが、昨今のアンチエイジングと言うかレジュビネーション(若返り)治療の欠点と言えば欠点でした。皮膚へのアプローチと違って、見えないし、触れないし、まあ、未来への投資とはそんなもんだと言われると…、未来だもんなと、変に納得して、なかなか反論の仕様もありませんでしたしね。最近は、そんなフラストレーションに対処すべく(?)、否、様々な治療と称する介入をより的確に評価する方法として、テロメア検査や、Akkermansia muciniphila等の長寿菌等の腸内細菌叢の検査(便検査)、生物学的年齢をDNAのメチル化から推測したりする方法等々が、臨床現場でも色々試みられています。まだ、完璧な検査の域には達してはいませんが、NAD+テスト検査もそのひとつです。
老化研究で注目のNAD+
NAD+の復習
NAD(美容通信2022年6月号)(美容通信2023年7月号)は、エネルギー代謝や遺伝子発現等に関与する重要な補酵素であり、サーチュイン(美容通信2021年12月号)という老化防止酵素の活性化にも必要です。サーチュインは、血糖値を下げたり、脂肪や糖の代謝を促進したり、神経細胞を守ったり、行動や記憶を制御したりするetc.と、老化や寿命のコントロールに非常に重要な役割を果たしています。
具体的な効果としては、マウスやヒトの一部で以下のようなものが報告されています。
- 代謝機能の向上:体内の脂肪を効率的に燃焼させることで、肥満や糖尿病の予防や改善に効果があるとされます。
- 筋肉の再生促進:筋肉の分解を抑えて筋肉の合成を促すことで、筋力や運動能力の維持や向上に効果があるとされます。
- 神経保護作用:神経細胞の損傷や死滅を防ぎ、神経伝達物質の分泌を促すことで、認知機能や記憶力の維持や向上に効果があるとされます。
- 視力回復作用:網膜細胞の損傷を修復し、視神経の伝達を改善することで、視力低下や失明の予防や改善に効果があるとされます。
■私達人間様!の体内でのNAD+合成経路は3つ
NAD+は、細胞透過性がなく、私達人間様を含めて哺乳類ではトランスポーターも存在しない事から、栄養素として直接吸収・取り込みは出来ません。その為、生体内で生合成が行われています。
上図の如く、哺乳類のNAD+の生合成には、①トリプトファンを出発物質としたde novo経路、②ニコチン酸を利用するPreiss-Handler経路、③ニコチンアミド(NAM)を利用するサルベージ経路の3つがあります。特に、哺乳類に於けるNAD+レベルの維持には、SirtuinによるNAD+の消費に伴い産生されるNAMを再利用する、③のサルベージ経路が重要と考えられています。
サーチュインが関与する疾患
サーチュインとは、細胞の老化を防ぐ働きをする酵素の総称で、サーチュイン遺伝子と呼ばれる遺伝子によってコードされています。サーチュイン遺伝子は、カロリー制限(美容通信2021年6月号)やレスベラトロール等によって活性化されます。サーチュインが活性化すると、細胞のDNA修復やミトコンドリア(美容通信2017年7月号)の機能維持等が促進され、細胞のストレス耐性や代謝機能が向上します。その結果、さまざまな病気の予防や改善に効果が期待出来ます。
下記の疾患の発症に、サーチュインが関与していると考えられています。
- 認知機能の低下やアルツハイマー病(美容通信2019年4月号)等の神経変性疾患:サーチュインは脳内の神経細胞を保護し、神経伝達物質の分泌を促進します。
- 難聴や視力低下等の感覚器官の老化:サーチュインは感覚器官の細胞を修復し、神経伝達を改善します。
- 脂肪肝や糖尿病等の代謝異常:サーチュインは脂肪や糖の代謝を促進し、インスリン感受性を向上させます。NAD+前駆体投与により、サーチュイン活性化を介した様々な代謝制御が試みられています。動物実験では、NMNやNRの投与による耐糖能異常や肥満の改善も報告されています。
- 心血管疾患や動脈硬化等の循環器系疾患:サーチュインは血管内皮細胞を保護し、血管拡張物質の分泌を促進します。
- 癌や免疫不全等の免疫系疾患:多くの癌細胞では、有酸素下での嫌気的解糖が亢進している事が知られており、多くの癌腫に於いてNamptが過剰に発現しています。又、様々な研究から、NAD+代謝の阻害が、癌治療のターゲットになる可能性も示唆されています。また、サーチュインは免疫細胞の分化や増殖を調節します。
- 肥満や筋肉減少(美容通信2019年2月号)(美容通信2018年9月号)等の筋骨格系疾患:サーチュインは筋肉細胞の分解を抑えて筋肉合成を促進し、筋力や運動能力を向上させます。
■NMNと美容
NMNが美容にも効果が期待される理由は、サーチュインが肌細胞の老化を防ぐ働きをするからです。サーチュインは、細胞のDNA修復やミトコンドリアの機能維持等を促進するので、細胞のストレス耐性や代謝機能が向上します。その結果、シワ、たるみ、シミ、くすみといった老化によって起こる様々な肌の衰えを抑えます。
■NMNと運動
運動は、筋肉や心臓などの組織でエネルギーを消費する事で、NADの合成を促進する効果があります。特に、負荷の高いレジスタンストレーニングは、筋肉中のNAD合成酵素であるNAMPTの量を増やし、結果としてNADの量を約2倍に増加させる事が報告されています。この様に、運動はNADを増やす自然な方法ですが、HISAKOの様に加齢や疾患等によって運動能力が低下している場合は、その有用性を十分に理解しながらも、十分な運動自体が出来ません。しかしながら、NMNを摂取する事で、運動能力が低下しているHISAKOのお仲間さんでも、NADの量を増やす事は可能です。諦めてはいけません(笑)。実際に、臨床試験では、高齢男性が1日あたり250mgのNMNを12週間摂取した場合、歩行速度や握力等の運動機能が改善し他との報告があります。また、ランナーが1日あたり500mgのNMNを4週間摂取した場合、有酸素能力(筋肉の酸素消費量)が高まり、持久力が向上したとの報告もあります。
以上のように、NMNと運動は相乗効果的な側面があり、NMNを摂取する事で、運動能力や持久力が高まるだけでなく、運動自体がNMNからNADへの変換効率をも高めてくれます。ですから、NMNと運動を組み合わせは、より効果的な老化防止や健康寿命延伸に繋がる可能性があります。
老化研究で注目のNAD+を測定する意義
NAD+を測定する意義
繰り返しになりますが、NMNとは、ニコチンアミドモノヌクレオチドの略で、全ての生物に自然に存在する分子です。NMNは、生体内でエネルギーを作り出す為に必要な補酵素、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の前駆体です。NAD+は、老化や寿命に関係する酵素であるサーチュインの活性化にも重要な役割を果たしていますが、加齢やストレス等によって、皮膚、肝臓、脳みそ等の臓器だけでなく、血漿や血球でのNAD+の量は減少し、それに伴い、サーチュインの働きも低下してしまいます。老化に伴うNAD+減少の背景には、様々な関連酵素の発現・活性の変化が関与しておると考えられています。例えば、代表的なNAD+分解酵素であるポリADPリボースポリメラーゼ1の酵素活性は、老化に伴うDNA損傷の蓄積により、様々な臓器で亢進されます。更には、もう一つの主なNAD+分解酵素であるCD38も、老化に伴って臓器に浸潤する免疫担当細胞に於いて高発現し、また、老化そのものがマクロファージや血管内皮でのCD38の発現を増加させます。また、サルベージ経路に於いて、NAD+合成の律速酵素であるNAMPTも、老化と共に様々な臓器での発現量の低下が知られています。この様に、老化に伴うNAD+減少の理由は様々な要因が挙げられます。
NAD+の減少に対し、NMNは緑黄色野菜や牛乳等にも微量には含まれているとは言え、食品から摂取するだけでは十分な量にはなりません。その為、点滴やサプリメント、点鼻薬により、NMNを摂取(美容通信2022年7月号)する事でNADの量を増やし、サーチュインの活性化を促進し、老化防止や健康寿命延伸を図ると言う治療がアンチエイジング医療の分野では人気です。
因みに、以前美容通信でも触れましたが、NMNの点滴と、NAD+点滴、どちらが効果的かと言うと、未だ決着すら付いていません。NMN点滴は、体内に取り入れられたNMNは、酵素の働きによってNADに変換されます。しかしながら、この過程では、CD38という酵素によってNMNやNADが分解されて、謂わば目減りしてしまう可能性が否定出来ません。このCD38は、加齢や肥満等によって増加するので、加齢と共にNMNからNADへの変換効率は低下してしまいます( ;∀;)。一方、NAD点滴では、この代謝過程がなく、直接体内にNADを取り込む事が出来るので、無駄がありません。実際、海外の報告ではNAD+点滴の方がNMN点滴より体感を得やすいというデータがあります。しかしながら、NMN点滴推進派は、NAD+は細胞膜を通過で出来ないんだから、再度NMNに代謝されてから細胞内に取り込まれる回り道をする羽目になるので、ロスの塊!と主張しています。つまり、NAD+が細胞内に取り込まれるメカニズムは、まだ解明されていないんです。…単に(どうしてって機序は別にして)、血中濃度がどちらが上がりやすいかは、まあ、血中濃度を測定すれば良いだけの話なんでしょうけど(笑)。
NAD+の測定は、老化の進行度合いや健康状態を評価するのに非常に有用な方法で、NMNの効果や個人差を確認するサービスが、様々な企業から提供されるようになって来ました。今回ご紹介するMiRTELによるNAD+テスト(液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置)もそうですが、NMNの摂取前後にNAD+の測定をする事で、NMNの効果や個人差を客観的に確認が可能になるだけでなく、他の生活習慣や食事等がNAD+に与える影響も把握する事が出来ます。
NAD+テスト検査
NAD+テストの特徴
NAD+は、抗老化ビタミンとも呼ばれる生体内で作られる成分です。加齢により産生量が減少する事が知られています。最近の研究では、NAD+を維持する事で、身体機能・認知機能の維持・向上、若返りの効果が期待出来る事が明らかになっています。
■天下の帝人!からの技術移管を受けた確かな技術
ミルテルのNAD+テストは、天下の三和御三家の一つ帝人株式会社から報告された、ヒト全血中のNAD+測定に関する論文「Stabilization and quantitative measurement of nicotinamide adenine dinucleotide in human whole blood using dried blood spot sampling」(Analytical and Bioanalytical Chemistry(2023)415:775-785)の技術に基づいており、2022年に帝人株式会社から正式に技術移管を受けています。
■本測定法の特徴
従来、ヒト全血及び赤血球中のNAD+及びその前駆体は非常に不安定であり、直ぐに分解されてしまう為、検体採取後直ちに測定が必要であったり、特殊な処理を施す必要があり、非常に難易度が高く、相応の設備が必要で、とてもHISAKOのクリニックなんかでは手が出る代物ではありませんでした。
NAD+テストでは、DBS(Dried blood spot)法を採用しています。DBS法は、特殊な濾紙に規定量の血液検体をスポットして乾燥させる事で、簡便にも拘らず、少量の検体で安定した測定が可能になりました。
NAD+テストの検査の流れ
■検体採取から測定までの流れ
1.検体採取と提出
EDTA-2K採血管にて採血後、マイクロピペットを使用して濾紙(DBSカード)に5μlづつ、4点スポットします。検体をスポット下DBSカードは、所定の保存用パウチに入れ、冷蔵便で検査会社に送ります。
2.検査会社が、責任をもって濾紙からサンプルを抽出し、LC-MS/MS(質量分析計)を用いて、NAD+濃度を測定します。結果の報告まで約1ヶ月間かかります。楽しみにお待ち下さいませ。
■報告書
この検査は、血中のNAD+濃度を測定する検査です。検査結果にはNAD+濃度の絶対値が表示されます。これまで、血液中のNAD+濃度の測定方法に関しては、ゴールデンスタンダードとなるような測定方法がありませんでした。その為、血液に於けるNAD+濃度について、理想的な数値や基準値と呼ばれるものはまだ定まっていません。これまでの研究から、血中NAD+濃度には個人差があり、現時点では、各個人の変動を観察する事が重要と考えられています。
HISAKOの検査結果
HISAKOの検査結果は、66.4μMでした。
NAD+濃度には、そもそも基準値が無い為、経時的に測定し、その変動を見るのが肝要とされています。非公式のミルテルのデータでは、男女差は多少ありますが、NMN系のサプリメントを全く服用していないと思われる同年代では、10~50μMだったそうです。ですから、HISAKOの今回のデータはまずまず。しかしながら、NAD+ PROを含めると、HISAKOのNMN系のサプリメント愛飲歴は約4年弱。今の量を持続しても、年齢と共にじり貧なるのか可能性は十分あります。少なくとも、これ以上下げない様に飲むしかないか。
NAD+テストに関する素朴な疑問
- NAD+を血液で測定する理由
NAD+は全ての細胞に含まれており、その多くはミトコンドリアに存在します。その一方で、血液中に存在するNAD+の殆どが、赤血球に存在しています。細胞での測定方法は既に確立されており、様々な研究に活用はされていますが、お手軽に外来のクリニックで出来る血液での測定方法は、これまで確立されていませんでした。近年では、サプリメントや点滴等によるNMNの補充療法が一般的になって来ましたが、その効果を知る上で、全身の臓器を巡る血液中での動態を知る事は、非常に重要です。
- NAD+テストを受ける最適な時間帯
食事には、極く微量のNAD+やNMNしか含まれていないので、食事による検査に対する影響は殆ど考慮する必要はないとは考えれれていますが、正確に身体の状態を評価する為には、通常の健康診断時と同様に、検査当日の食事は摂らずに検査を受けて下さい。
- NAD+を測定する意味
NAD+は、全ての細胞に於いて必要なエネルギーを産生する為に、生体になくてはならない物質です。その濃度は、様々な生体機能のパフォーマンスと関連しています。しかしながら、これまで血液中のNAD+濃度を正確に測定する方法自体がなく、詳しいその動態については未だに不明です。これからの解明に乞うご期待ですね。
- NMNを摂取する理由
NMNは、NAD+の前駆体であり、体内では速やかにNAD+に変換されます。NAD+は、全身の全ての細胞に於いて、エネルギー産生に必須の物質です。NAD+は腸で分解される為、直接的にNAD+としての吸収は難しいと考えられており、その前駆体のNMNを摂取した方が効率が良いのではと考えられており、サプリメントとしては、NR(ニコチンアミドリボシド)若しくはNMNが主流です。
- NMNは何歳からの摂取が推奨される?
NAD+は、全ての細胞のエネルギー産生に必須の物質なので、年齢を問わず、全ての人に推奨される物質ですが、年齢と共に低下する為、お子ちゃまにはあまり有難みは感じられないかも…。しかし、スポーツ等の激しい肉体運動をしている場合は、通常よりも多大なエネルギーを必要としており、NAD+の消費量が増大します。NMNの摂取により、NAD+を高め、身体機能や認知機能の維持・向上が期待されています。また、NAD+は、抗老化因子であるサーチュインを活性化する事から、老化抑制効果も期待されています。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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