HISAKOの美容通信2026年6月号
赤ら顔治療に於ける漢方薬~ニキビ/酒皶
ゴキブリホイホイの餌みたいな匂いがすると、食わず嫌いの患者さんも多いですが、従来の内服や外用に加えて、スキンケアの徹底、フォトフェイシャル(IPL)やレーザー治療、ケミカルピーリング等を行う標準治療薬だけでは難渋する痤瘡(ニキビ)や酒皶(酒さ)等の赤ら顔の治療に、漢方薬をプラスすると言う選択があります。漢方薬だけでは確かに改善は難しいですが、+αの治療として、意外に以上の効果があります。
白虎加人参湯は酒皶(酒さ)の際に、良く処方される漢方薬です。
白虎は、中国の伝説上の神獣である四神の1つで、西方を守護しています。白は、五行説では西方の色とされています。日本では、奈良県の薬師寺金堂の本尊台座や、明日香村のキトラ古墳の石槨内壁の西側壁にも白虎が描かれています。その他、神田明神、秩父神社など多くの場所で四神の彫像や絵を確認出来ます。因みに、東京都港区虎ノ門には嘗て門があり、江戸時代江戸城西に位置した為、虎ノ門と呼ばれたそうです。
赤ら顔治療に於ける漢方薬
漢方薬で中々結果が出ない時に疑うべき点として良く挙げられるのは、①漢方薬を使う必要がない、②証が合ってない、③腸内細菌叢のディスバイオシスがある、の3つです。①は、まあ、置いておいて(笑)、②の証があっていないと、薬が却って毒に働く事があります。例えば、実と虚は体格だけでは判断出来ません。病気と闘う力の強弱と考えた方が分かり易いかも知れません。③の腸内細菌叢は非常に重要なお話で、漢方薬の効果は腸内環境によって変わる事が良く知られています。HISAKOのクリニックではキリンの便検査MicroBioMe(美容通信2024年8月号)の結果を踏まえて、アトピー性皮膚炎や尋常性痤瘡(ニキビ)、脂漏性皮膚炎等の肌の様々なトラブルに対し、腸内環境を整える治療を並行して行っています。しかし、腸内細菌叢が異なる日本人と米国人では、漢方薬の効果や安全性の違いに大きく影響する事が分かっており、未だ未だ攻略が難しいのが腸内細菌叢の世界です。
赤ら顔の悪化因子
東洋医学に於ける赤ら顔は、酒皶(酒さ)やアトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎等の全てを含む、大らかな概念です。悪化因子は、下記の5分類出来ます。
■熱感・炎症には、清熱剤
漢方には、標治と本治と言う考え方があります。標治は症状に応じた治療を行うもので、例えば、赤いものに清熱剤を用いるのがこれに当たります。しかし、標治だけを行っても治らない、つまり、赤い顔ばかりを診ていても治らない時は、足の冷えを治すと赤味が治るとか、消化管機能を改善すると、皮膚の症状が改善する事があります。東洋医学では皮膚と消化管は親子の様な関係とされ、子から親を辿り、親を正す事で子も治る。これを本治と呼んでいます。
話は少し脱線しますが、『わからないので面白い-僕はこんなふうに考えてきた』(著:養老孟司 編集:鵜飼哲夫/中央公論新社)からの引用抜粋です。
これって、漢方の標治と本治を彷彿とさせる…。そう思うのは、HISAKOだけ?
酒皶(酒さ)の治療の際に頻用される白虎加人参湯と越婢加朮湯ですが、両者は全く異なる処方です。
強い抗炎症作用と利水作用を有する越婢加朮湯の目標は、湿潤・浮腫です。構成生薬の麻黄、蒼朮、大棗は水の偏在を除く作用が強く、酒皶(酒さ)の浮腫を伴う赤味だけでなく、帯状疱疹(美容通信2006年8月号)(美容通信2021年2月号)の急性期に於ける水泡に対しても処方されます。
それに対し、潤す作用を有する石膏を15gも配合されている白虎加人参湯は、乾燥(口渇)・火照りと、越婢加朮湯と正反対。顔面の紅斑を有するアトピー性皮膚炎の患者に対する白虎加人参湯の効果を検討した夏秋の報告では、服用の1時間以内には、もう、顔面中心の皮膚温低下が認められたそうです。白虎加人参湯の口訣では、のぼせが強いだけでなく、口渇を伴う症例に奏効するとされています。
しかし、白虎加人参湯は痒みを抑える生薬が配合されていないので、痒みのある症例には効果がないと言うか…不向きです。こんな時は、黄連解毒湯がお勧め。強い抗炎症作用を有する生薬(黄連、黄芩、黄柏)が配合されているので、熱感を伴う痒みには有効な漢方薬なんです。
■微小循環障害・毛細血管拡張を改善する駆瘀血剤
瘀血は皮膚に現れやすく、血管拡張(赤ら顔、下肢静脈瘤)、苔癬化、線維化、目の周りのクマ・くすみ、炎症後色素沈着、肝斑等の所見があります。気・血・水に於いて、血の巡りが悪い瘀血に対しては駆瘀血剤が第一選択とされますが、実証向けの駆瘀血剤は瀉する処方が多く、HISAKOの様な下痢っぴにゃんにゃんには不向きとされています。また、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、当帰芍薬散は、婦人科3大処方と称される漢方薬ですが、この理由は、ターゲットとする女性器が小さな骨盤内にぎゅうぎゅうに詰め込まれている為に、微小循環障害を来しやすいからと考えられています。しかし、瘀血は、微小循環障害だけでなく、血液の性状や血管壁の構造の不安定化にも関わっています。桂枝茯苓丸が重宝される理由としては、桂枝茯苓丸とその活性物質のペオニフロリンが、炎症性サイトカイン(MIF、IL-6、IL-8、TNF-α)の産生を有意に抑制し、血管内皮細胞の炎症を抑制するからと考えられています。
酒皶(酒さ)に対する十味敗毒湯と駆瘀血剤の併用療法は、所謂、標治と本治のW戦略って奴ですが、紅斑、丘疹・膿疱、熱感・火照り、乾燥の改善が知られています。
■自律神経の乱れを改善する柴胡剤
柴胡剤は、ストレスマネージメントの第一選択であり、使用目標は胸脇苦満です。
柴胡剤には内因性ステロイドを誘発する作用があり、ステロイド酒皶に於いて、ステロイド薬の離脱の際に付き物であるリバウンドを回避する為に使用される事があります。また、ケロイド・肥厚性瘢痕(美容通信2017年11月号)にも効果があるとの報告があり、硬結を伴う痤瘡(ニキビ)治療にも使用されます。
補中益気湯は、疲労倦怠感等の際に頻用される漢方薬ですが、皮膚の炎症を抑える生薬を含有していません。しかし、睡眠不足になると顔の赤みが増悪するような場合には、気虚の病態なので、これを改善する柴胡剤は効果があります。気虚症状を呈するアトピー性皮膚炎の患者に対し、補中益気湯を併用すると、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬(美容通信2020年12月号)の使用量が有意に低下したとの報告もあります。
■血虚の改善が、乾燥肌の改善に繋がる
血虚とは、気・血・水の血が不足している状態で、四物湯、十全大補湯、温経湯、加味逍遙散、人参栄養湯、当帰飲子、当帰芍薬散等の処方を行います。
温経湯は、唇や手が荒れやすい人に最適です。排卵誘発作用もあり、婦人科領域では不妊治療の際に頻用される漢方薬でもあります。
■内分泌バランスを整えて、脂性肌を改善
芍薬甘草湯は、こむら返りや頭痛等のお薬として有名ですが、抗アンドロゲン作用があり、皮膚科領域では、月経前の痤瘡(ニキビ)のアンドロゲンコントロールに用いられる事があります。しかし、甘草の含有量が多い為、1日服用量の半量程度を月経前にのみ服用する飲み方が一般的で、2週間程度で皮脂分泌が抑制され、生理前の悪化が起こり難くなります。しかし、十味敗毒湯等の甘草を含有した漢方薬との併用は、甘草の増量に繋がる為、両者を切り替えて処方する等の工夫が必要になり、結構、面倒…。十味敗毒湯にも皮脂合成抑制作用があり、痤瘡(ニキビ)と皮膚炎があり、痒みも伴うなんて時には、幅広い年齢層の患者さんに長期投与も出来る十味敗毒湯だけで十分な事が殆どです。
尋常性痤瘡(ニキビ)の保険治療の問題点
尋常性痤瘡の治療に於いて、重要視されるポイントとは?
キーワードは、①抗炎症、②慢性期、③耐性菌です。
■ニキビは、脂腺性毛包の単純な感染症ではなく炎症である。
尋常性痤瘡(ニキビ)は、単純な感染症ではありません。つまり、ナパーム弾で敵であるC. acnesを殲滅!させる事(抗菌作用)も確かに重要と言えば重要ではありますが、それ以上に、脂腺性毛包に於ける抗炎症、面皰予防の為の角化異常の是正が、治療上大切なポイントになります。
例えば、過去の遺物として扱われがちなミノマイシンですが、MIC(Minimum Inhibitory Concentration:最小発育阻止濃度 )以下の極く少量のミノマイシンで、炎症性痤瘡が良くなるって経験は臨床上頻繁に目にしますが、これは、偏にミノマイシンの抗菌作用ではなく、その抗炎症作用による事が知られています。ミノマイシン以外にも、炎症性痤瘡に頻用されるエリスロマイシン、塩酸テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン等の抗菌薬には、活性酸素産生抑制作用があります。即ち、ニキビは単なる感染症ではなく、脂腺性毛包の炎症と言えます。
■治療の標的は、急性期だけではない!
ニキビ治療のゴールは、ニキビ跡と色素沈着の予防で、短期間に達成出来るような代物ではありません。多くの患者さんは、赤いニキビばかりを気にしていますし、2~4週間程度で卒業するのが当たり前と、漠然と幻想を抱いています。同業者が(皮膚を)見れば、可なり下品な(不自然な)仕上がりと蔑まれ事はありますが、まあある意味、急性期を取り敢えず力ずくで捻じ伏せるのは、決して難しい事ではありません。しかし、ニキビ跡と色素沈着等に代表される慢性期の治療は難渋します。急性期の治療に於いては、寧ろ、ニキビ跡と色素沈着を最小限する為の治療を並行して行う必要があります。
ネズミさんとその回復力を争う位に傷の治りが良い白人種と違い、黄色人種の私達は、黒人腫程ではないにしろ、90.8%の患者さんは軽症でも、早い時期から非常に小さな瘢痕が認められます(美容通信2004年5月号)。つまり、例え軽症例であっても、早期からの抗炎症介入が必要だって事です。
■尋常性痤瘡(ニキビ)治療を巡るガイドラインの論点
「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では、抗菌剤単剤の長期使用は耐性菌の観点から推奨せず、急性期治療のみならず、慢性期の瘢痕・色素沈着予防を見据えるべきとされています。しかし、患者さんのアドヒアランスは可なり不良であり、多くの患者さんが治療から脱落しているのが現状とされています。
因みに、アドヒアランスとは、HISAKOはこのガイドラインを読むまでは、お恥ずかしながら全然知らなかったのですが、病気に対する治療方法について、患者さんがが十分に理解し、服用方法や薬の種類に十分に納得した上で実施、継続する事を指んだそうです。医師や薬剤師が主体となって決定された治療方法を、患者さんが守るというコンプライアンスの考え方が改善されたものであり、患者さんが治療法について積極的に参加する事で、治療の中断や不規則な使用が減ると考えられています。また、アドヒアランスは、医師と患者さんの関係が良好であるほど、継続出来る可能性が高くなるとされています。
- 抗菌薬の耐性の増加
ピーリング(美容通信2023年5月号)もレーザー治療も、アクネビット(美容通信2023年8月号)やASVC(美容通信2009年10月号)、尿中トリプシンインヒビター(羊水)(美容通信2013年6月号)の様な有効な化粧品もなかった大昔は、ニキビに対する治療と言えば、長らく抗菌薬の単剤による治療しかなく、未だに、耐性菌に対する配慮は希薄です。恐らく、ニキビ治療に用いられている抗菌薬のC. acnesに対する耐性菌の増加が、今尚続いている事は想像に難くありません。
薬剤の耐性については、組織内の薬剤濃度が高く、MPC(Mutant Prevention Concentration:耐性菌出現阻止濃度)であれば、耐性化は起こりません。しかし、塗布や服用忘れ等のアドヒアランスの不良により、組織内の薬剤濃度が低下すると、MSW(Mutant Selection Window:耐性菌選択濃度域)となり、耐性菌が増殖します。基本的には、抗菌薬を規則正しく塗布している分には、薬剤濃度がMPCを保っているので、耐性化は起きません。
耐性菌対策って意味では、ガイドラインでも推奨されているBPO配合剤(過酸化ベンゾイル:ベピオゲル)は良いお薬ではありますが、毛唐!の様な肉食獣ではない黄色人種では、赤い!とか、痒い!とか、乾燥する!とか、皮がべろ剥けするとか…中々使いこなせない症例が多い(美容通信2011年4月号)のも事実ですが。
- アドヒアランスの向上
Pawin Hらの報告では、ニキビに対する知識がない患者さんはアドヒアランスが低く、又、15歳未満ではアドヒアランスが低く、そしてアドヒアランスが低いと、改善度・満足度共に低い事が分かっています。
尋常性痤瘡(ニキビ)と十味敗毒湯
ガイドラインに於ける漢方薬の位置付け
ニキビ治療にエビデンスがあるとされている漢方薬としては、下記の表の通り。
推奨度 | 漢方薬 | |
炎症性皮疹に対して | C1 | 荊芥連翹湯(保険適応)・清上防風湯(保険適応)・十味敗毒湯(化膿性皮膚疾患) |
C2 | 黄連解毒湯・温清飲・温経湯・桂枝茯苓丸 | |
面皰に対して | C1 | 荊芥連翹湯 |
C2 | 黄連解毒湯・十味敗毒湯・桂枝茯苓丸 |
ガイドラインの推奨文では、「炎症性皮疹に他の治療が無効、或いは他の治療が実施出来ない状況では、荊芥連翹湯、清上防風湯、十味敗毒湯を選択肢の一つとして推奨する」とされています。但し、推奨の根拠になった試験は、何れも抗菌薬との併用で行われている為、ピンで勝負を掛けられるような代物なんかでは決してなく、併用を前提とする治療と考えてスタートする方が無難です。
サクッとまとめ~クラシエ十味敗毒湯の作用
十味敗毒湯(美容通信2022年5月号)は、抗酸化作用、C.acnesに対する好中球の炎症応答抑制作用、皮脂合成抑制作用、エストロゲン様作用を有しています。ニキビ治療に対する報告では、皮膚所見の改善効果は勿論の事、アダパレン外用治療のアドヒアランスの向上に寄与したとの報告や、(お肉をあんまり食べない!私達黄色人種に於ける)BPO配合剤(過酸化ベンゾイル:ベピオゲル)外用による紅斑も軽減したとの報告もあります。
秘密兵器は、桜皮
十味敗毒湯は、クラシエとツムラという2大漢方メーカーから販売されていますが、HISAKOがニキビの治療で使うのは、専らクラシエです。
クラシエは、旧カネボウ製薬です。カネボウなんて、若い人は知らないかも知れませんが、カネボウ株式会社(旧東京綿商社、旧鐘淵紡績、旧鐘紡、英文社名:Kanebo,ltd.)は、嘗て存在した日本の大企業です。多額の債務超過で経営危機になり、2004年以降の会社再建に伴って事業譲渡が行われ、最終的に2008年11月、トリニティ・インベストメント株式会社へ吸収合併。法人格も消滅してしまいました。空前の高度成長期だったHISAKOの子供の頃は、日本が豊かになり、多くの国民は衣食住足りて、贅沢品に金を使う余裕が生まれるようになります。おしゃれ対しても同様です。今でこそコーセーの子会社になって「カネボウ化粧品」のブランド名こそ残ってはいますが、当時は資生堂とカネボウと言うの2大化粧品メーカーの、俗にいう10年戦争と称される熾烈な広告宣伝活動の始まりでした。化粧品のキャンペーンCMと、タイアップ ソングという新たなカルチャーの誕生です。CM用に歌詞を変えたりすること無く、キャッチコピーに基づいて化粧品CMとして世に出たのは、1976年の「揺れるまなざし」でした。「時間よ止まれ」。「Mr.サマータイム」。…これ等の商業主義の権化とも言える大手メーカーのキャンペーンには、大手広告代理店の仕切りでコピーライター、フォトグラファー、デザイナーを始めとする名うてのクリエイターが集結していました。その多くは「キャッチコピーありき」で、タイトルにやたらと「、」や「。」が付いていて、これを提示されてから作詞作曲するのは、かなりハードルが高く、苦労した。断った。というエピソードは穿いて捨てる程あったんだとか(笑)。
話は昔話に脱線してしまいましたが、クラシエの営業がHISAKOの好みの可愛い男の子だからって理由以外にも、クラシエとツムラでは含有している生薬の種類が若干違います、どちらも10種類の生薬を使っていますが、ツムラは樸樕を使用しているのに対し、クラシエは桜皮を使っています(美容通信2016年10月号)。
桜皮は、基原がヤマザクラの樹皮であり、効能は排膿促進、解熱・解毒です。更には、皮膚線維芽細胞のエストロゲン増殖作用、皮脂合成抑制作用、抗菌作用を有する事が報告されており、見るからに美人の近道を示唆する作用が盛り沢山。因みに、樸樕は、基原がクヌギの樹皮であり、効能は止瀉、駆瘀血です。
因みに、『櫻の樹の下には』は初出時、4つの断章で構成された作品であったそうですが、刊行本『檸檬』収録時に最終章(冒頭部近くにある〈剃刀の刃〉の話に対応している後半部分)は削られました。しかし、ここを何故、梶井基次郎が削除したかの理由は明らかではありません。
■美肌に効く秘密
- 桜皮及び桜皮成分のエストロゲン受容体β結合能
桜皮の成分分析結果から、桜皮の含有成分として、サクラネチン、ナリンゲニン、ゲニステイン(美容通信2025年5月号)、ゲンクワニン等の8種類の成分が検出されています。これ等の成分とエストロゲン受容体β(ER-β)への結合能(美容通信2025年4月号)について評価したところ、桜皮エキスは、ER-βの結合能を示し、中でも、ゲニステインの結合能が最も高い事が確認されました。一方、樸樕エキスは、ER-βへの結合能を示しませんでした。
一般的に、エストロゲン受容体(ER)は、男子よりも女子に多く存在し、又、皮膚ではαとβの2つの受容体のうち、ER-βが多く発現する事が知られています。エストロゲンが線維芽細胞のER-βに結合する事により、細胞増殖因子であるTGF-β1、上皮細胞増殖因子(EGF)を誘導し、線維芽細胞が増殖促進される為、エストロゲンが相対的に増加すると推定されます。
- 桜皮の皮脂合成に対する作用
更には、桜皮のエストロゲン分泌に及ぼす効果を検討した報告では、線維芽細胞に桜皮エキスを添加した際の、17β-エストラジオール産生量は有意に増加しており、桜皮の皮膚線維芽細胞からのエストラジオールの分泌促進効果が認められました。
次に、桜皮の皮脂合成に対する作用を検討したところ、テストステロンを添加した皮脂腺細胞では、皮脂合成量は有意に増加しました。しかし、更に桜皮エキスを添加すると、テストステロン添加で増加した皮脂合成量が抑制されました。
男性ホルモンからジヒドロテストステロン(DHT)(美容通信2026年2月号)(美容通信2024年12月号)を介して、皮脂腺を活性化し、皮脂を分泌する経路に於いて、エストロゲンは5α-リダクターゼ活性(美容通信2007年11月号)(美容通信2005年12月号)を抑制して、DHTの代謝を抑制すると考えられており、この点からも、桜皮のエストロゲン様作用による美肌効果が期待出来ます。
- 桜皮エキスの老化皮膚に対する作用
桜皮エキスを含有する化粧水や乳液を連用塗布した場合の老化皮膚に対する効果のお話で、飲んでどうとかの話ではないのですが、皮膚の深い皺が2ヶ月の連用で浅くなり、不鮮明だった皮溝、皮丘が1ヶ月の連用で鮮明に認められるようになり、肌理が細かくなったとの報告があります。
- 高脂肪食摂取マウスの皮膚機能に対する十味敗毒湯の薬効評価
食生活は皮膚のバリアの機能性に影響します。摂取する脂肪酸のω-6/ω-3(美容通信2010年6月号)の比が高いと、経皮水分蒸散量(TEWL)は上昇しますし、高脂肪食負荷に伴い、TEWLが上昇し、皮膚のバリア機能が低下する事が知られています。
十味敗毒湯には、紫外線暴露に伴う皮膚バリア機能の低下を回復するとの報告があります。高脂肪食負荷により皮膚のバリア機能を低下させたマウスに、十味敗毒湯を投与し、その効果を評価したところ、非投与群ではTEWLの増大が認められましたが、投与群では有意に抑制されたそうです。また、脂肪食負荷マウスでは、表皮層の角化細胞の分化マーカーであるケラチン類(Krt5、Krt10、Krt14)の遺伝子発現量が低下しています。しかし、十味敗毒湯投与群では、減少傾向にあったKrt10の遺伝子発現量が有意に増加したそうです。
つまり、十味敗毒湯は脂質のバランスに左右されず、皮膚のバリアを強固に維持する作用や、皮膚バリア機能の損傷を回復する作用があると考えられます。その機序としては、角化の乱れを正常化するからではないかと考えられています。
十味敗毒湯には、季節や乾燥、食事やストレス、ホルモン、睡眠等で皮膚バリア機能に不調や乱れが生じた、所謂「ゆらぎ肌」をサポートする作用があると思われます。
十味敗毒湯とアダパレンの共闘物語
■アダパレンの作用・副作用
アダパレンは、レチノイド様の作用を有するナフトエ酸誘導体で、皮膚刺激性を改良した第三世代レチノイドです。日本では尋常性痤瘡(ニキビ)の外用薬としての推奨度は高く、商品名ディフェリンは日本で2008年に承認された処方箋医薬品です。レチノイン(美容通信2005年2月号)よりも皮膚刺激、発赤といった副作用の点で改良されてはいますが…、それでも、副作用発現頻度は56.0%! トレチノインと異なり過酸化ベンゾイル(殺菌剤)と併用はOKで、2016年にはアダパレンと過酸化ベンゾイルの合剤がエピデュオゲルとして発売されています。光による分解の心配が少ない為、日中でも使用出来るのが強みです。
しかしながら、改良されたとは申しても、肉食獣ではない黄色人種の多くは、ビタミンAの相棒である亜鉛が不足(美容通信2011年4月号)しがちな為に、皮膚が乾燥して、赤くボロボロになって、痒い。挙句ちょっとした刺激にも過剰に反応するし、兎に角、不愉快な状態に陥りがちなのは事実です。
■アダパレンの副作用を軽減する十味敗毒湯
ICR(雄)8週齢マウスの背部を除毛し、アダパレンを塗ると言う副作用モデルに於いて、十味敗毒湯の効果を検討した論文があります。
それによると、皮膚水分量はアダパレン塗布で有意に低下しましたが、十味敗毒湯を投与する事で、その低下は有意に抑制されました。また、掻破回数も、アダパレン塗布で有意に増加しましたが、十味敗毒湯の投与により、その増加は有意に低下しました。紅斑も、アダパレン塗布で指標の数値が有意に増加しましたが、十味敗毒湯の投与により、その上昇が有意に抑制されました。
つまり、アダパレンによる皮膚の乾燥や、痒み、赤味は、流石に無かった事にするだけの威力はありませんが、少なくとも軽減はしてくれます。
十味敗毒湯と過酸化ベンゾイルの共闘物語
■過酸化ベンゾイルの作用・副作用
過酸化ベンゾイルの作用は、抗菌作用と角層剥離作用です。副作用の発現頻度は37.3%であり、皮膚剥離、紅斑、刺激感、掻痒感、接触性皮膚炎等です。
■過酸化ベンゾイルに対する十味敗毒湯の効果
ヘアレスマウス(6週齢、Hos:HR-1)にテープストリッピング処理を行い、10%過酸化ベンゾイル塗布にて作成した副作用モデルによる動物実験の結果です。
水分蒸散量及び皮膚水分量については、十味敗毒湯の投与を行っても変化はありませんでした。過酸化ベンゾイルには角層剥離作用がありますから、所謂、毛を毟られた因幡の白兎状態には、当たり前ですが、十味敗毒湯ごときでは歯が立ちません。
紅斑については、過酸化ベンゾイル塗布により有意に上昇した紅斑指数ですが、十味敗毒湯の投与により有意に低下しました。紅斑に関係があるとされている皮膚中のIL-1αの濃度は、過酸化ベンゾイル塗布により有意に上昇しましたが、十味敗毒湯の投与により、その上昇は有意に低下しました。つまり、免疫系が反応→サイトカインが放出し、血管拡張や血管透過性の亢進が起こるのが、過酸化ベンゾイルによる紅斑の出現の機序ですが、十味敗毒湯はこのIL-1αを抑制する事で紅斑を抑制したものと推測されます。
■表皮角化細胞に於けるTRPチャンネルの発現に対する、十味敗毒湯の効果
皮膚に存在する温度感受性TRPチャンネルは、皮膚では表皮角化細胞と感覚神経細胞に発現しています。特に、敏感肌では、表皮細胞のTRPV1は刺激による痛み(刺激感)、TRPV4は刺激による痒みに関与しています。そこで、ヒト表皮角化細胞のTRPV1、TRPV4の発現量を調べたところ、過酸化ベンゾイル処理により有意に増加した発現量が、十味敗毒湯の投与により有意な増加抑制が認められたそうです。つまり、TRPV1に於ける痛みや刺激感、TRPV4に於ける痒みを、十味敗毒湯が抑制する事が示唆されました。更には、炎症性サイトカインのIL-1αの発現量についても、過酸化ベンゾイル処理により有意に増加しましたが、十味敗毒湯の添加により、濃度依存的な増加抑制が認められました。
酒皶(酒さ)の保険治療の問題点
そもそも本態自体が分かっていない、酒皶(酒さ)
酒皶(酒さ)(美容通信2025年8月号)は、顔面の紅斑を来す赤ら顔の代表格で、気候の変化や日光照射等の種々の環境因子や、情動的ストレス等によって、周期的に増悪します。好発年齢は30~50歳代で、男性よりも女性に多い疾患です。我が国では、約12万人が罹患していると類推されてはいますが、実際は更に多くの患者さんの存在がいると思われています。臨床症状としては、顔面の丘疹、膿疱や一過性の紅潮、毛細血管拡張が主要所見であり、主要症状は火照り感やチクチク感、熱感、皮膚の乾燥等です。病型は、我が国では、紅斑血管拡張型(95%)、丘疹膿疱型(30%)、鼻瘤型(6%)、眼型(1%)に分類されています。
しかしなから、「酒皶(酒さ)って何?」と問われても、そもそもその本態自体が未だ解明されている訳ではありません。遺伝的な背景があり、自然免疫炎症反応系刺激により発症・誘発する多因子性慢性炎症性皮膚疾患らしいんですが…。
酒皶(酒さ)の診断と治療の現況
酒皶(酒さ)は、環境要因に対する自然免疫の亢進が主因であり、その為に寛解と増悪を繰り返す慢性の難治性炎症性疾患です。ですから、治療に於いて最も重要な事は、増悪因子の回避とスキンケアの一言に尽きます。内服治療では、世界的には、テトラサイクリン系抗菌薬が標準治療とはされてはいますが、日本では承認外。外用治療としては、ロゼックスゲルが漸く日本でも承認されましたが、丘疹膿疱型酒皶には比較的早くに改善が認めらますが、95%を占める紅斑血管拡張型には時間を要すると言うか…、殆ど効果がありません。標準的な治療ではコントロールが困難な症例も多く、漢方薬やビタミンB2、トラネキサム酸の内服の他、IPL(美容通信2023年4月号)やレーザー治療、アゼライン酸配合の化粧品(美容通信2025年8月号)等を含めた、プラスαの治療を要します。
因みに、酒皶と酒皶様皮膚炎の違いは、端的に言えば、後者は日本ではステロイド酒皶とほぼ同義語。酒皶の素因が無ければ、ステロイドの塗布を止めれば、それだけでほぼ完治しますが、酒皶の素因があると中々治療に難渋します。例えば、アトピー性皮膚炎(美容通信2007年4月号)や接触性皮膚炎等の際に、患者さんの赤ら顔にステロイド薬を塗布すると、あっという間に潜んでいた酒皶がメキメキと頭角を現すじゃないな…躍り出るか(笑)のが、素因を有する「隠れ酒皶」って奴です。教科書には、ステロイド外用薬を赤ら顔に処方する場合は、酒皶の素因の有無を見極めてとさらっと一行記載しているだけの事が殆どで、そもそもその本態自体が未だ解明されていない隠れ酒皶の存在には難渋します。
以前も美容通信に記載しましたが、参考までに、下記に、日本皮膚科学会:尋常性ざ瘡・酒皶治療ガイドライン2023.日皮会誌,133(3),407-450,2023 を掲載しておきます。
外用療法[推奨度] | 内服療法[推奨度] | 理学療法・外科的治療 | |
紅斑毛細血管拡張型 | スキンケア[C1] | 漢方薬*[C2] |
パルス色素レーザー(595nm)*[C1] Nd:YAGレーザー(1064nmロングパルス)*[C1] IPL*[C1] |
丘疹膿疱型 |
メトロニダゾール[A] アゼライン酸*[C1] スキンケア[C1] イオンカンフルローション[C2] |
ドキシサイクリン*[C1] ミノサイクリン*[C1] テトラサイクリン*[C1] イベルメクチン*[C2] メトロニダゾール*[C2] 漢方*[C2] |
レーザー治療*[C2] |
腫瘤型 |
外科的切除*[C2] 炭酸ガスレーザー*[C2] Nd:YAGレーザー(1064nmロングパルス)*[C2] |
- A:行うよう強く推奨する
- A*:行うよう推奨する(Aに相当するも副作用などを考慮)
- B:行うよう推奨する
- C1:選択肢の一つとして推奨する
- C2:十分な根拠がないので(現時点では)推奨しない
- D:行わないよう推奨する
白虎加人参湯による酒皶(酒さ)の漢方治療
傷寒論は、後漢末期から三国時代に張仲景が編纂した伝統中国医学の古典。内容は、伝染性の病気に対する治療法が中心となっています。これによると、ハナスゲの根茎である知母、石膏、粳米、甘草からなる白虎湯には、体内の水分を保持して潤し、口渇を止める作用があります。ここに人参を加える事で、熱による体力の消耗(疲労感)を改善し、津液を補う事から、疲労感や脱力感、火照り、顔面紅潮がある症例、乾きがある症例に最適とされています。
この漢方薬の名前にある「白虎」とは、四神の一つで西方を守る神のこと。石膏の色が白い事から名付けられたと言われています。炎症や熱を取ることに注力した漢方ですので、冷え性の場合には向きません。冷えの症状が酒さ症状を悪化させている場合には、別の漢方を検討した方が良さそうです。白虎加人参湯が向かない人は、虚弱体質、冷え性、胃腸が弱い。肝機能障害がある人です。
長期使用により、偽アルドステロン症、ミオパチー等が起こる可能性があるので、定期的な血液検査を行う必要があります。
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