性差医学旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2026年11月号

性差医学

動脈硬化は、その発症・進展に於いて、女性ホルモンの関与が明らかで、性差の非常にはっきりしている病態です。先月の美容通信は、腎臓に於ける加齢とオートファジーの関係(美容通信2026年10月号)についての特集でしたが、動脈硬化だけでなく、腎臓を始めとする色々な臓器の疾患(薬物代謝も含む)についても、性差が認められています。

1980年代半ばから、米国を中心に性差医学の概念が提唱されました。日本でも、女性では、閉経によりホルモン環境が激変する為に、動脈硬化リスク、心血管イベントリスクが上昇する事が広く知られるようになった1999年以降、急速にその概念が広まりました。今月号は「性差医学」と称して、男女の様々な差異に基づいて発生する疾患や病態の違いについて、特集してみました。

心臓に於ける性差

  女性ホルモンには心血管系に対する種々の保護作用がある事が知られており、女性は閉経によりホルモン環境が激変する為に、動脈硬化リスク、心血管イベントリスクが上昇します。急性心筋梗塞を始めとする虚血性心疾患の発症率は、男性と比較して女性では低いですが、一旦発症した際の予後は女性が約2倍不良である事が知られています。男性と比べて、女性の心不全患者は、高齢で多くの合併症を認めると共に、左室駆出率が高いと言った特徴があります。

冠危険因子に於ける性差

 冠危険因子には、加齢、冠動脈疾患の既往、喫煙、高血圧、肥満、耐糖能異常、高コレステロール血症、高トリグリセライド(TG)血症、低HDLコレステロール血症、メタボリックシンドローム、精神的・肉体的ストレス等があります。女性は、虚血性心疾患を男性に比べ約10年遅れて発症しますが、これには内因性エストロゲン減少が関与しています。

 エストロゲンには、様々な心血管系に対する直接的保護作用と間接的保護作用があります。

 直接的な心血管保護作用としては、血管平滑筋弛緩作用、脂質代謝改善作用、抗酸化作用、線溶系改善作用、一酸化窒素(NO)(美容通信2025年9月号)合成酵素発現誘導がありますが、それ以外にもエストロゲンには、血管収縮、血管肥厚、動脈硬化促進、心筋肥大、心筋収縮力の増大作用のあるアンジオテンシンⅡの受容体である、AT1受容体の血管平滑筋細胞に於ける発現を抑制する事が最近明らかになりました。エストロゲンの影響を受ける青壮年期に於いて、女性は男性よりも血圧が低い傾向にあるが、閉経の起こる更年期以降は急激に上昇し、70代には明らかな性差は認められなくなります。

 エストロゲンの間接的な保護作用としては、肝臓や末梢組織LDL受容体数及び活性を増加させ、肝性トリグリセリドリパーゼも活性を抑制する事で、血中LDLコレステロールを低下させます。一般的には、総コレステロール値は40歳代までは男性が高いが、50歳代以降は女性で高くなります。この原因の一つとして、閉経後女性ではエストロゲン減少から、その間接的保護作用が減弱化する為に、肝臓のLDL受容体活性が低下し、LDL異化が抑制され、血中のLDLが上昇する事が関与しています。更に、高TG血症の合併により、small dense LDLが生み出され、動脈硬化が促進します。また、虚血性心疾患に対する糖尿病のリスクは、男性よりも女性で大きく、相対危険度は約1.5倍になるそうです。

 

虚血性心疾患の発症頻度と臨床的特徴に於ける性差

 1980年代の米国では、政府の健康施策展開により、死因第1位の心血管死が男性では減少に転じたにも関わらず、女性では逆に上昇し続けた事から、性差医学・医療が注目されるようになりました。1986年のFramingham Heart Studyから、女性は男性に比べて虚血性心疾患の発症が約10年遅れる事や、幾つかの異なる臨床像を呈する事が報告されました。更には、1990年代以降になると、閉経後ホルモン補充療法の心血管イベント抑制効果に関する検討等、多くの介入研究や疫学研究が展開され、性差についての多くの知見が得られました。

 急性心筋梗塞の発症率は、日本人は世界的にみても低く、男性患者の凡そ20~30%程度と少なくなっています。しかし、近年、急性心筋梗塞の診断基準を満たすにも拘らず、緊急冠動脈造影で有意狭窄を認めないMINOCAと言う概念が注目されています。プラーク破綻・糜爛、冠動脈血栓塞栓症、冠動脈自然剥離、冠動脈機能異常等が原因として考えられていますが、冠動脈自然剥離は、50歳未満の若年女性に於ける急性心筋梗塞の主要な発生機序と考えられています。また、微小血管狭心症は、労作性狭心症や冠攣縮性狭心症とは異なり、閉経前後の女性に多く認められます。胸痛は労作時のみならず、安静時も生じ、10分以上持続する事も多く、ニトログリセリン舌下投与の効果が乏しいのが特徴とされており、冠微小血管の拡張反応異常により、冠血流の増加が十分に起こらない冠微小循環障害や、微小血管の収縮性が著しく亢進している冠微小血管攣縮による心筋虚血が本態と考えられています。

 

虚血性心疾患の予後に於ける性差

 女性は男性よりも虚血性心疾患の発症率は低いですが、一旦発症すると予後不良である事が知られています。この理由としては、女性患者は高齢で合併症が多い事に加え、primary PCI施行率が低く、非定型的な症状を呈する為に、診断や治療が遅れる為とされています。更には、心破裂等の急性心筋梗塞に伴う機械的合併症の発症率は、女性が男性の約1.5倍以上高い事もあります。

 因みに補足ですが、急性心筋梗塞は、心電図でST上昇を伴うST上昇型心筋梗塞(STEMI)と、ST上昇を伴わない非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)に分類されます。STEMIは、冠動脈の血栓閉塞により心筋に貫璧性虚血が生じており、発症から再灌流達成までの時間が心筋梗塞の大きさや予後に影響を与える為、一刻も早い再灌流療法(冠動脈の血流を再開通させる)が必要です。ガイドライン上、発症12時間以内のSTEMI患者に対しては、血栓溶解薬による血栓溶解療法を先行させるのではなく、当初からカテーテルによる経皮的冠動脈形成術(PCI)を選択するprimary PCIが、強く推奨されています(ClassⅠA)。

 

心不全の発症頻度と臨床的特徴に於ける性差

 急性心不全の女性患者は約48%であり、発生頻度に明らかな性差はありません。一方、心不全患者では、女性は男性よりも高齢であり、高血圧症、弁膜症、貧血、腎機能障害と言った多くの合併症を認めており、基礎心疾患としては、冠動脈疾患が少なく、弁膜症が多いとされています。

 心不全の病態としては、女性は男性と比較して、左室駆出率がより高く、また収縮機能が保たれた心不全HFpEFの割合が多い事が知られています。この理由としては、女性の方が求心性リモデリングによってHFpEFになりやすく、拡張障害を来す事が多いと言う、性別によるリモデリング様式の違いがあります。また、エストロゲンは、心血管系に対して保護作用を有するが、閉経によりこの作用が失われると、レニン-アンジオテンシンーアルドステロン系の活性化やNO-cGMP経路(美容通信2025年9月号)への影響によって、HFpEFの発生に関与すると考えられています。

 

心不全の予後に於ける性差

 女性心不全患者の生命予は、一般的に男性よりも良好とされています。

呼吸器疾患に関わる性差

 免疫に係る複数の遺伝子がX染色体上に存在し、免疫応答は女性に強い傾向があります。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)重症化の性差や、肺炎の重症化リスクの性差にも影響しています。但し、肺非結核性抗酸菌症の結節・気管支拡張型は女性に多いですし、上気道の解剖学的な性差やプロゲステロンによる換気の刺激によって、閉経前の女性では睡眠時無呼吸が少ないとされています。また、女性で咳反射が亢進して、慢性咳嗽は女性に多い傾向があります。気道過敏性も女性の方が亢進していて、成人の喘息患者数は女性の方が多くなっています。また、肺の画像解析からは、男性では気腔の拡大傾向が認められますが、女性では気管支内腔が狭く、喫煙が気流閉塞を来す可能性が高いと考えられています。…等々と、呼吸器疾患の背景にある病態の性差を考える必要があります。

免疫系の性差

 呼吸器感染症の性差の背景には、免疫系の性差が強く関与しています。免疫系の顕著な性差の原因の一つは、免疫に係る多くの遺伝子がX染色体上に存在する事によります。更に、これ等の遺伝子は不活化されないと考えられており、単純に言えば、女性は男性の2倍の物質量で免疫の一部が働いています。例えば、Tol様受容体7(TLR7)は、一本鎖RNAを認識する自然免疫の受容体で、その遺伝子はX染色体上に存在します。TLR7は、新型コロナウィルスの様なRNAウィルスに暴露した時に、重要な役割を担っています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の重症化率が、一貫して男性で高かった事からも窺われます。

 免疫系の性差は、呼吸器を始めとする、様々な病気のリスクの性差に影響しています。膠原病の様な自己免疫が関わる疾患は、女性に多く、女性生殖器が関与しない癌は、男性に多い傾向があります。ワクチンの副反応は、女性に強い傾向があります。

 細菌性肺炎でも、男性である事は肺炎の重症化因子の一つです。しかし、肺非結核性抗酸菌症は、男性よりも女性に多く、特に痩せ型の中高年女性に多い傾向があります。しかし、この性差の原因は分かっていません。

 

睡眠時無呼吸の性差

 睡眠中の10秒以上の呼吸停止を睡眠時無呼吸、10秒以上の有意な気流低下を睡眠時低呼吸と言います。睡眠中の無呼吸が20回/時間以上で、日中の眠気等の症状がある症例は、持続陽圧呼吸管理等による治療が検討されます。

 睡眠時無呼吸の回数にも明らかな性差がみられ、睡眠時無呼吸は男性に多い(美容通信2025年9月号)(美容通信2023年2月号傾向があります。これは体重差や飲酒習慣だけの影響ではなく、軟口蓋が大きく、上気道が縦方向に長いと言う解剖学的な特徴も関与しています。プロゲステロンが換気を刺激するとの報告もあり、女性では閉経後に睡眠時無呼吸低呼吸が増加します。

 

咳反射及び気道過敏性の性差と喘息

 咳反射に性差があるかは、未だ分かってはいません。しかし、3か月以上続く咳嗽(慢性咳嗽)患者さんで、肺に異常陰影がなく、喀痰もない場合の原因としては、咳喘息やアトピー咳嗽、胃食道逆流、感染後咳嗽等が挙げられますが、原因が異なっても、何れの疾患も女性に多いのが特徴です。咳反射が女性で亢進している事が関与していると考えられていますが、同時にこれは肺炎を予防し、女性の長寿に貢献している可能性が指摘されています。

 気道過敏性は女性の方が亢進しており、これが成人以降の喘息患者数が、男性よりも女性に多い理由と考えられていますが、喘息は病型は様々で、気道過敏性だけでなく、アスピリン喘息、高齢発症喘息、肥満合併喘息は女性に多く認められます。また、女性特有の喘息病態としては、月経喘息があり、呼吸機能や呼吸器症状が月経前に増悪します。

 

呼吸機能の性差

 女性は胸郭が小さくて呼吸筋が弱い為、同じ年齢、身長、体重でも、全肺気量は小さく、残気率も高くなります。しかし、この様な呼吸機能の性差が、肺疾患への脆弱性に関わっているかどうかは不明です。

 肺拡散能は、若い頃は男性が高いですが、高齢になると女性で高くなります。肺胞の表面積が大きい程、肺の拡散能は高くなります。加齢変化に於ける性差は、肺野に於ける低吸収域の性差の特徴と一致し、男性の方が加齢に伴う気腔の拡大が顕著に進行すると考えられています。

 

気道の解剖学的性差と慢性閉塞性肺疾患(COPD)

 肺は、生理的に加齢と共に気腔が拡大し、老人肺と呼ばれる状態になりますが、男性では老人肺の進行が顕著になります。

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、煙草を中心とする有害物質の吸入により気流閉塞を来す疾患で、喫煙歴との関連が非常に強い為、男性に多いとされています。しかし、喫煙により気流閉塞を来すリスクは、男性よりも女性で高くなります。

 

その他の肺疾患に於ける性差

 肺癌にも重要な性差が認められます。日本人の非小細胞肺癌の30~40%に、EGFR(epidermal growth factor receptor)遺伝子の異常があり、この頻度は女性の非喫煙者で多いとされています。EGFR遺伝子異常があれば、進行肺癌でも分子標的薬が奏功します。

 間質性肺炎は、その病型によって性差がみられます。特発性肺線維症は、喫煙がリスクであり、男性に多く認められます。非特異性間質性肺炎は、膠原病に合併し、その素因を有する者に発症する事が多く、発症頻度の性差は少ないとされています。リンパ脈管筋腫症は、殆ど女性のみに発症します。

消化器疾患に於ける性差

 消化器疾患に於いても、罹患率や成員、病態、予後等に性差があります。明らかに男性に多い消化器癌は、食道癌と分化型胃癌、肝癌です。性別により発症の危険因子が異なる可能性が報告されているのは、食道癌、機能性ディスペプシア、未分化型胃癌、非アルコール性脂肪肝炎、膵癌です。症状に明らかな性差があるのは、過敏性腸症候群で、下痢型は男性に、便秘型は女性に多くなります。下痢型の過敏性腸症候群の治療薬である5‐HT3受容体拮抗薬では、女性の至適容量は男性の半量です。また、女性は男性よりも短期間の飲酒で、アルコール性肝障害やアルコール性膵炎になりやすい傾向があります。一方、女性に多いとされて来た胆嚢結石の様に、生活習慣等の変化により、罹患数の男女比が逆転する事もあります。

食道疾患

 胃食道逆流症には、胃酸が食道に逆流する事で食道に糜爛や潰瘍を認める逆流性食道炎と、食道粘膜に異常を認めないが、逆流による煩わしい症状を引き起こす非糜爛性胃食道逆流症があります。後者は、逆流性食道炎に比べて女性に多く、食道裂孔ヘルニアの合併が少なく、低体重の人が多いと言う特徴があります。特に、高齢女性に重症者が多く、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折等で円背となりやすく、腹圧が上がり、胃酸が逆流し易い事が関係していると考えられています。また、近年、食道に異常な酸の暴露が無くても、食道の知覚感受性が亢進して、少量の酸の逆流や非酸(弱酸)の逆流で症状が出現する事が明らかとなり、女性では食道知覚過敏が起きやすい可能性も指摘されています。

 食道癌の年齢調整罹患率の男女比は、5.2:1と男性に多く、危険因子である喫煙習慣や飲酒習慣が多くみられる事が一因と考えられています。しかし、疫学的な調査により、性別によって危険因子に違いがある事も指摘されています。

 

胃疾患

 Helicobacter pylori感染者では、胃粘膜に好中球やリンパ球が浸潤し、次第に胃粘膜の萎縮性変化と腸上皮化生が生じます。腸上皮化生とは、上皮組織の変質(化生)で、通常、胃に腸と似た組織を発生させるものでです。当初は、変性した上皮は小腸に似たものとなり、後の段階では大腸に似たものとなります。杯細胞の出現と共に特徴付けられ、腺癌に変化するリスク要因であると考えられています。Helicobacter pyloriの感染率や感染者の胃粘膜に於ける炎症細胞浸潤の程度には性差はありませんが、萎縮性変化や腸上皮化生の程度は、50~60歳代までは男性の方が高度で、高齢になるとその差が無くなります。萎縮性変化の性差には、喫煙や飲酒などの生活習慣に加え、性ホルモンが関与している事が知られています。

 胃癌は男性に多いのは、腸上皮化生を伴う高度の萎縮性胃炎を背景とする分化型胃癌が、男性に多いから。Helicobacter pyloriの除菌は、胃癌の発生を減少させる事がランダム化比較試験やメタ解析により明らかとなり、2013年には除菌の保険適応が認められ、急速に除菌が世に広がりました。しかしながら、除菌で胃癌の発生を完全に抑える事は出来ず、近年は胃癌に占める除菌後胃癌の割合が高くなっています。この除菌後胃癌の危険因子としては、男性である事、除菌時の高年齢、高度胃粘膜萎縮、高度腸上皮化生、除菌前の多発胃癌等が知られています。

 一方、未分化型胃癌は分化型胃癌と比して少ないですが、進行例で見つかる事が多く、女性に多いとされています。

 機能的ディスペプシアは、症状の原因となる器質的疾患、全身性疾患、代謝性疾患がないのにも関わらず、慢性的に、心窩部痛や胃もたれ等の心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患です。その原因としては、胃からの排出異常や胃適応性弛緩異常等の胃・十二指腸の運動機能不全や知覚過敏、心理的要因、胃酸、H. pylori感染、遺伝的要因、飲酒・喫煙・不眠等の生活習慣の乱れ等が指摘されています。女性に多く、胃排出時間の遅延が一因と考えられています。また、これはフランスの検討ではありますが、女性では、BMI25kg/m2をボトムにUカーブを示したのに対し、男性では有意な関係は無かったそうです。

 

下部消化管疾患

 過敏性腸症候群とは、腹痛とそれに関連した便通異常が慢性、或いは再発性に現れる状態で、且つその原因が、悪性腫瘍や炎症性腸疾患等の器質的な消化器病ではないものを指します。男性に比べて、女性に多い事が知られています。過敏性腸症候群には、下痢型、便秘型、混合型、分類不能型の4つのサブタイプがありますが、下痢型は男性に、便秘型は女性に多いとされています。

 神経伝達物質のセロトニンは、腸の活動を活発にして排便を促進し、下痢を引き起こします。セロトニンが作用する5-HT3受容体の拮抗薬が、過敏性腸症候群の下痢型の治療として用いられますが、女性の至適量は男性の半量とされており、性別で至適容量が明確に区別されています。

 慢性便秘症は20~60歳では女性が明らかに多く、60歳以降は男女共に加齢に伴って増加して、80歳以上では性差が無くなります。慢性便秘症の機序には、腸管狭窄等の器質的障害と、便排出障害や大腸通過時間の遅延等の腸管の機能的障害があります。便排出障害の原因として、直腸圧低下は女性に多く、肛門管の弛緩不全は男性に多いとされています。大腸通過時間が男性に比べて女性で長いのは、女性の腸管収縮圧が低いだけでなく、黄体ホルモン(プロゲステロン)が中枢性に腸管蠕動運動を抑制し、腸管の刺激感受性を低下させる事も関係すると考えられており、プロゲステロンが高値となる排卵後から月経前までは便秘傾向になります。

 炎症性腸疾患のうち、潰瘍性大腸炎の発生頻度に性差は認められませんが、クローン病は男性に多い疾患です。共に、若年層に好発します。

 

肝疾患

 未だ、平和通りが賑やかだった頃、よく街頭放送で流れていたのが、お猿のかごや(←何故か、夜の7時になると流れ、恐怖でしかなかった…)と、帰って来たヨッパライとブルー・シャトウ。HISAKOは、このヨッパライの歌が大好きで、幼稚園でいつも歌っていました。飲酒運転で交通事故を起こして死亡した東北弁を話す主人公が、長い雲の階段を通って天国へ登るが、その天国でも酒と美女に浮かれてばかりだった為、関西弁を話す「怖い神様」からの「お仕置き」で天国を追い出されて生き返る顛末を、テープの高速回転による甲高い声と伴奏で語る歌で、ラジオ関西で放送されると、早回しのテープと奇想天外な歌詞で反響を呼び、「アングラ・フォーク」のブームを生み出した曲でもあります。

 帰って来たヨッパライの歌は男性が主人公ですが、飲酒量が例え同じだったとしても、女性は男性に比べて速やかにアルコール性肝障害が進展し、肝硬変になる事が知られています。胃粘膜のアルコール脱水素酵素活性の性差や、エストロゲンがアルコールによる腸管由来のエンドトキシンの門脈移行を促進し、クッパー細胞のエンドトキシン感受性を増大させている事が原因と考えられています。また、経口避妊薬(美容通信2007年11月号)や女性ホルモン製剤の乱用!により、短期間或いは少量の飲酒で、アルコール性肝硬変に進展する事もあります。女性と体重過多は、アルコール性肝硬変及びアルコール性肝炎発症の独立した危険因子とされています。

 非アルコール性脂肪性肝疾患は、男性では30代をピークに加齢と共に減少するのに対し、女性は50代から上昇し、60代をピークとしており、肥満の分布と類似していますが、閉経後に急増しているかのようにも見えます。

 自己免疫性肝炎と原発性胆汁性胆管炎は、女性に原発性硬化性胆管炎は男性に多い傾向があります。しかし、化学物質や抗生剤等の発症の誘因となる環境因子への暴露の増加により、近年は3疾患共に増加傾向にあります。

 

胆道疾患

女性の胆石保有率が男性の2~3倍であり、妊娠や妊娠回数、ホルモン補充療法、経口避妊薬の使用が胆石形成のリスクを増大させる等の報告から、長らく、女性ホルモンが胆石形成の危険因子とされて来ました。エストロゲンは、胆汁酸分泌低下と胆汁中コレステロール濃度の上昇に、また、プロゲステロンは胆嚢平滑筋を弛緩させ、コレシストキニンの作用を抑制するからです。しかし、近年、この男女比が逆転しました。カロリーや動物性脂肪の過剰摂取等により、成人の肥満人口、特に男性で増加している事が原因ではないかと推測されています。

 また、従来、女性に多いとされて来た胆嚢癌の発症数の性差も縮小しており、生活習慣等の変化が性差に影響を及ぼしていると考えられています。

 

膵臓疾患

 慢性膵炎は男性に多く発症しますが、その成因であるアルコール性については、女性は男性よりも短期間の飲酒で発症する可能性が高い事が知られています。

 膵癌は、男性がやや多いとされていますが、危険因子には性差があり、男性はBMIが30kg/m2以上、女性では中心性肥満と30g/日以上の飲酒とされています。

メンタル疾患

 主なメンタル疾患の中で、鬱病、社交不安症を除く不安症、適応反応症、心的外傷後ストレス症(PTSD)、神経症痩せ症、神経性過食症は、女性に多い疾患です。鬱病は有病率だけでなく、その臨床像等に於いても性差が認められます。女性のライフサイクルに於いて、内的なエストロゲン量が大きく変動する周産期や更年期は、鬱病の発病リスクが高くなります。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症、アルコール依存症やギャンブル行動症は、男性に多く認められます。妄想症、統合失調症、双極Ⅰ型症、社交不安症、病気不安症に於ける有病率については、有意な性差は認められません。しかし、統合失調症は、その臨床像に於いては明らかな性差があります。

鬱病

 ストレスによって、鬱病になると誤解を受けやすいですが、実はそんな単純なものではなく、生物学的要因の他、心理・社会的要因、不安症や甲状腺疾患等の併存症等も関与しており、それらの要因が複合的に作用していると考えられています。

 生物学的な要因としては、脳内の炎症性サイトカインが鬱病の重要な誘因とされていますが、この免疫システムの反応の性差が、鬱病の性差に影響を及ぼしていると考えられています。思春期以前では、鬱病自体の有病率は低く、性差も殆ど認められません。しかし、思春期以降、女性の鬱病の有病率は男性の約2倍となり、性ホルモンの変動が何らかの影響を及ぼしていると考えられています。つまり、性ホルモンの変動が、神経伝達系(グルタミン受容体、GABA系、セロトニン系、ドパミン系、アドレナリン系)に影響を及ぼし、鬱病への脆弱性を齎しているようです。それ故に、女性のライフサイクルに於いて、内的なエストロゲン量が大きく変動する周産期や更年期は、鬱病発症のリスクが高い時期になります。また、女性に多い不安症や甲状腺疾患の併存も、脆弱性の一因になります。

 心理・社会的な要因としては、所謂、社会的逆境の違いが発症の危険因子の性差に関与しているとされ、女性では男性と異なり、パーソナリティや対人関係上のストレスが危険因子となる可能性が指摘されています。

 鬱病の亜型としては、非定型的と季節性鬱病がありますが、どちらも女性に多い傾向があります。

老年医学に於ける性差

 高齢者になると、性差は小さくなるどころか、それまでの生活史を反映して個人差が大きく、医学的には性差は寧ろ若年者よりも大きくなります。

要介護の性差

 要介護期間は、男性で約9年、女性で約12年と、女性が男性よりも3年長く、その結果、要介護高齢者の7割は女性になります。要介護の原因としては、男性では脳心血管疾患が、女性では認知症、関節疾患、骨折・転倒、高齢による衰弱で、男性の方が致命的な疾患に罹りやすく、女性では認知症以下の、致命的ではないが心身機能を低下させ、要介護に陥りやすい疾患に罹りやすいと言う、疾患発症の性差が背景にあります。

 

フレイルの性差

 フレイル(美容通信2019年2月号)は、高齢期に生理的予備能が低下する事で、ストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡等の転帰に陥りやすい、まあ、健常と要介護の狭間的な状態を指します。早期に介入すれば回復する可能性がある、可逆性と言う名の希望が未だある状態とも言えます。しかし、筋力の低下により、動作の俊敏性が失われて転倒し易すくなる等々の身体的問題のみならず、認知機能障害や抑鬱等の精神・心理的問題、独居や経済的困窮等の社会的な問題を含む概念です。

 フレイルの評価法として最も代表的なものは、日本版CHS基準と言う5項目(体重減少、倦怠感、身体活動量、握力、歩行速度)で判定する方法です。罹患率が上昇してくる70歳以降では、男性よりも女性でフレイルが多くなっており、身体的、精神・心理的、社会的側面の何れも、女性で顕著な問題となっています。

 

認知症の性差

 アルツハイマー病は、年齢に関わらず女性に多い疾患です。血管性認知症は、動脈硬化の性差を反映して、中更年期までは男性の方に多いですが、80歳以降になると女性の罹患率の方が高くなります。他の病型の性差は、明確ではありません。

 アルツハイマー病の前段階である軽度認知障害の段階では、認知機能の悪化速度は、男性に比べて女性で明らかに速い事が報告されています。また、脳の萎縮も、男性よりも年に1~1.5%早く進む事が知られています。

 認知症、特にアルツハイマー病が女性に多い理由は分かってはいませんが…、男性はアルツハイマー病の前段階である軽度認知障害の段階で、併存疾患の悪化等で早期に淘汰されてしまいますが、女性はアルツハイマー病に進行するまで生き残っているからではないか、と考えられています。まあ、あくまでも仮説ではありますが。認知症の危険因子の中でも寄与率の高い抑鬱の有病率は、一般的に女性の方が男性よりも高くなっており、治療薬の悪影響も含めて関係している可能性もあります。また、低身体活動もアルツハイマー病の重要な危険因子とされていますが、女性の方が各年代を通して、通勤等の身体活動が少ない事が知られており、更には、身体活動の阻害要因である骨粗鬆症やサルコペニア、身体的フレイルも女性に多い事も悪影響を与えていると考えられています。閉経後の女性では、アンドロゲンのみならず、エストロゲンも男性以下のレベルに低下するので、性ホルモンの枯渇が長期に及ぶと、脳機能に影響が出る可能性があります。

 女性では、内因性エストロゲンが様々な疾患に対して保護的に作用し、認知症についても、少なくとも内因性エストロゲンは予防的に働くと考えられています。実際、エストロゲンの補充療法を実施している女性に認知症発生が少ないとの観察研究や、小規模介入研究による認知機能改善効果が幾つも報告され、ホルモン補充療法に期待が集まりましたが、大規模介入試験WHIでは、何れもエストロゲンの効果を否定するものでした。更年期のホルモン補充療法には予防的な効果は期待出来ても、高齢女性に対する認知症の予防又は治療目的でのエストロゲンの補充は、寧ろ認知症の発生を増やすとの報告もあり、推奨されていません。しかし、最近は、アンドロゲン補充による認知機能改善作用を示す多数の報告があり、今後の研究に期待が持たれるところです。

 

余談・コロナ感染で2年分“脳の老化”が進む?

 「コロナ感染で2年分“脳の老化”が進む」――そんなことを示唆する研究報告がありました。余談になりますが、今ホットなお話なので、記載します。

■見えない敵が進行させる脳の老化

 今回取り上げる研究は、英国の大規模なデータ「UK Biobank」から、コロナに感染した626例と、年齢・性別・人種などを厳密にマッチングしたコロナに感染していない626例の計1252例を対象にしています。その方達から、パンデミックの前後で採取した血液を比較しました。注目したのはアルツハイマー病に関連する「バイオマーカー」です。

 この研究で用いられた検査では、脳内に溜まるアミロイドβの前駆物質である「Aβ42」と「Aβ40」、そして「pTau-181」という値を測定しています。COVID-19感染が、これらの値にどう影響するかを調べました。簡単に補足をしておくと、Aβ42とAβ40は、どちらも蛋白質を切り出した産物なのですが、このAβ42とAβ40の比が小さい程、即ち、後者の比率が多い程、脳で蛋白質の異常な沈着が進んでいる(即ち、アルツハイマー病で起こる変化が脳で起こっている)と解釈出来る事が分かっています。また、pTau-181は、神経細胞内でタウ蛋白が過剰にリン酸化されたもので、こちらもアルツハイマー病の初期から上昇する事が知られています。

■血液が教える認知機能への警告サイン

 本研究では、感染後にこのAβ42とAβ40の比率が平均で2.0%低下し、年齢による変化で言えば、約4年分に相当する事を明らかにしました。更に、入院を要した重症例では、非入院例の2倍以上(5.5%)の低下を示していました。加えて、pTau-181の増加も同様に見られており、特に、高齢者や高血圧がある方等の脳のダメージを受けるリスクの高い人程、感染後のpTau-181増加やAβ42とAβ40の比率の減少が顕著でした。

 こうした変化は、実際の認知機能にも現れています。UK Biobankの認知テストから算出された「全般的認知能力スコア」は、感染していない人と比べコロナ感染者で平均1.99%低下しており、これは年齢による低下に換算すると、約2年分に相当していました。また、自己申告による「全体的な健康状態」の評価も感染者で2.39%悪化していました。

 こうした研究結果は、コロナ感染とアルツハイマー病の因果関係を保証するものではありませんが、帯状疱疹ワクチンの認知症予防に関する最近の研究等と共に、「感染症が認知症を近づけ、ワクチンがそれを遠ざける」という仮説を、更に強固にするものだ考えられます。

■私達に出来る事

 私達が知っておくべき重要な点は、例え軽症や中等症のCOVID-19であっても、こうした「目に見えにくい脳の老化プロセス」が加速するリスクがある点、そしてそれが重症な程、より認知症が近づくかもしれないという点です。それを防ぐのは、ワクチンの定期接種やマスク着用、こまめな手洗いといった感染症予防です。それが感染予防だけでなく、認知症予防にも繋がる可能性があります。

薬物動態

 薬物動態とは、薬物が体内に投与されてから排泄されるまでの過程を指し、吸収、分布、代謝、排泄の4つの過程があります。これ等の過程には性差が存在し、男女では生理学的過程や分子機構が異なります。薬物動態の性差は、薬物の効能や副作用の発現に影響します。飲み薬については、男子の消化管通過時間が短く、P-glycoproteinの発現が高いので、男子に比して私達女子の方が薬物の吸収効率が高くなる傾向にあります。吸入系では、男子の方が概してガタイがデカい分、肺の表面積も大きいので、薬物の血中濃度は高くなる傾向があります。薬物の分布、代謝、排泄過程でも性差が認められ、特にシトクロムP450(CPY)酵素の活性や腎排泄の速度に違いがあります。最近では、膜プロテオミクスやシングルセル解析等の新技術が導入され、性差のメカニズムが少しずつ明らかになりつつあり、将来的には性差を考慮した薬物治療が進展し、より適切な医薬品の使用が期待出来るようになると思われます。

医薬品の有害事象に於ける性差

 体内に投与された薬物は、投与経路ごとに吸収され、血液を通して体内組織に分布し、主に肝臓で代謝され、主に腎臓・胆汁から体外に排出されます。この複雑な薬物動態の過程により、薬物血中濃度は時間依存的に変化します。成人では、医薬品による有害事象の報告件数全体は、男性よりも女性の方が多い事がメタ解析の結果からも知られています(但し、重篤な有害事象の報告数に限ると、何故か理由は分かっていませんが、女性に比べて男性が多くなります)。女性に偏って副作用が引き起こされる医薬品のうち、88%のケースでは薬物動態が関連しているとの報告もあり、薬物動態の性差が副作用の発現に影響すると考えて間違いはなさそうです。

 

投与経路ごとの吸収過程に於ける性差

 薬の吸収には、投与経路ごとに薬物の物理化学的性質及び製剤の特徴が影響します。静脈内投与以外は、薬物は細胞を通過して体循環に到達する必要がある為、組織・細胞の特徴に於ける性差が重要になります。

■経口投与の場合

 経口投与に於ける性差の要因として、男性の平均消化管通過時間は44.8時間であるのに対し、女性は2倍の91.7時間と長い事が挙げられます。この時間は、食物繊維の摂取で短くなりますが、理論的には女性の方が薬物を吸収し易い傾向があります。それ故に、漢方薬の様に空腹時に服用するお薬の場合、食事と薬の間隔を長く取る必要があります。更には、多剤耐性ATPaseトランスポーター(P-gp)の発現が、男性に比べて女性では低い点も指摘されています。P-gpは消化管からの薬剤の排出を仲介し、体内への薬物吸収を抑制します。それ故に、肝臓でのP-gpの基質であるキニジンやジゴキシンの排泄半減期は、女性では長く、総じて薬物の血中濃度が高くなり易くなります。プロゲステロンがP-gpを阻害するとの報告もあり、ホルモン補充療法との併用には注意が必要とされています。胆汁酸の組成にも性差が認められており、様々な薬物の溶解性に影響する可能性があります。

■吸入薬の場合

 吸入薬は、薬物が肺から直接取り込まれます。薬物が肺から直接取り込まれる。薬物がどれだけ効率的に肺胞に到達し、吸収されるかが薬の有効性に関わって来ます。肺胞の表面積が大きい程、薬物が吸収される面積も増える為、薬物の吸収効率が高まります。女性に比べ、男性の方が肺胞の表面積が約15%大きいですが、体重との相対的な差はないとされています。男性の方が、同じ薬物投与量で女性よりも高い薬物血中濃度を示すと考えられていますが、臨床エビデンスは限定的です。

■その他の投与経路の場合

 経皮投与については、その吸収速度や程度に性差は報告されていません。投与方法によって、性差の現れ方に違いがあります。

 

分布過程に於ける性差

 一般的に男性は女性よりも体が大きく、体内水分量、循環血量や総分布容量も大きい傾向があります。成人男性の体内水分量は体重の60%を占め、一方で女性は約50%を占めます。これは女性が男性比べ体脂肪率が高い為です。水溶性の薬剤と脂溶性の薬剤の分布容量については、水溶性薬物は血液中や細胞を囲む体液中に留まる傾向がある一方、脂溶性薬物は脂肪組織に集積する傾向があります。従って、筋弛緩剤や降圧剤アテノロールの様な水溶性薬剤の分布容積は、女性よりも男性で大きくなります。逆に、オピオイドやベンゾジアセピン等の脂溶性薬物の分布容積は、女性の方が男性よりも大きくなります。これ等の脂溶性薬物を慢性的に投与すると、体脂肪に蓄積して、副作用を引き起こす可能性があります。高齢者では、体脂肪率が増加する為、脂溶性薬物の投与には注意とされています。

 

代謝過程に於ける性差

 薬物の代謝過程は非常に複雑で、個々の薬物の代謝には多くの要素が関与します。その中でも代謝酵素による反応は、標的となる薬物の親水性を向上させ、体外への排出を促進する重要なステップとなります。代謝反応は、第Ⅰ相と、第Ⅱ相の2つに大別されます。第Ⅰ相反応では、主に肝臓のシトクロムP450(CYP)を介して、薬物の化学構造が変化し、水溶性が向上します。薬物代謝の大部分ではCYP1、CYP2、CYP3によって媒介されます。第Ⅱ相反応では、ウリジン二リン酸(UDP)、グルクロン酸転移酵素(UGT)、硫酸転移酵素、N-アセチルトランスフェラーゼ、メチルトランスフェラーゼ等の酵素を介して、グルクロン酸、硫酸、アセチル等の極性基を付加し、腎排泄を促進します。薬物代謝に関連する遺伝子発現に於ける性差については、未だ未だ分かっていない事の方が断然多く…、例えば、下記に列挙しますが、性差が報告されている例がある程度なんです。

 第Ⅰ相反応の酵素ですが、男性ではCYP1A2活性が高く、女性ではCYP3A4の活性が高くなっています。CYP1A2はオランザピンやクロザピン等の抗精神病薬の代謝に係わっています。女性ではCYP1A2活性は男性に比べ低いので、これ等の薬剤の代謝が遅れます。その為、精神症状は良く改善はしても、肥満や生活習慣病等の有害作用も頻発する可能性があります。妊娠中や経口ピルの服用により、更に、CYP1A2活性が低下する事は知られています。CYP3A4は、肝臓で最も多く発現するCYPで、女性で活性が高い事が知られています。シクロスポリンやエリスロマイシン等の多くの薬剤を基質とし、これらの薬剤のクリアランスは女性では早くなります。それ故に、大半がCYP3A4が担っているゾルピデムの代謝には男女差があり、米国等の多くの国では用量が男女で異なっています。しかし、CPY酵素の活性だけでは説明が付かず、それ以外にも多くの要素、女性の方が男性よりも体重が少ない等も関係していると思われます。

 他の代謝過程については、鎮痛薬、抗うつ薬、β遮断薬、抗不整脈等の代謝に係わるCYP2D6が、遺伝子多型によってその代謝活性が阻害され、その遺伝子背景によって大きく影響を受ける事を意味します。性差については、代謝型のCYP活性は男性よりも女性で高いかとされてはいますが、CYP2D6の遺伝子変異の種類は多く、人種差が大きく関わっています。

 第Ⅱ相反応の酵素については、主にUGTによって代謝される薬物のクリアランスは、男性の方が早い事が報告されています。例えば、抗レトロウィルス薬の主な代謝経路の一つにグルクロン酸抱合があり、HIV感染症の薬物治療に性差が生じる可能性があります。また、アセトアミノフェンは、グルクロン酸抱合によっても排除される事から、女性でのクリアランスが遅い可能性があります。しかし、UGTは、妊娠による女性ホルモン上昇や経口用ピルの併用により、発現が誘導されて活性が上がる為、性差は相殺されてしまうようです。

 

排泄過程に於ける性差

 体内から薬物が消失するには、代謝と排泄の過程が、単独或いは共同で関与します。一般的な排出経路は、うんことおしっこ。このうち、おしっこに薬物の排泄をする腎臓(美容通信2026年10月号)では、糸球体濾過、尿細管分泌、尿細管再吸収の何れの過程にも性差がある事が知られています。体表面積で標準化すると、腎血流、糸球体濾過、尿細管分泌、尿細管再吸収の全てに於いて、男性の方が女性よりも大きく、それ故に、腎排泄型の薬物が体内から消失する時間は、男性よりも女性で長くなる傾向があります。腎臓に於ける性差には、アンドロゲン等の男性ホルモンによるトランスポーター遺伝子の発現調節も関与していると考えられています。

関連ページD

関連するHISAKOの美容通信をピックアップしました。

 
 

来月号の予告

子宮内細菌叢の結果不良な女子におススメの漢方薬<人参栄養湯>

新概念GSMとしてみた性器・尿路愁訴におススメの漢方薬<ウチダの八味丸M>