ドライシンドローム | 旭川皮フ形成外科クリニック旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2018年12月号

ドライシンドローム

 最近、増加の一途を辿るドライシンドローム(乾燥症候群)には、ドライアイ(乾性角結膜炎)、ドライマウス(口腔乾燥症)、ドライスキン(乾皮症)、ドライヴァジャイナ(萎縮性膣炎)以外にも、鼻の孔(鼻腔)、耳等々の所謂臓器だけではなく、心の渇きも含まれます。ドライシンドロームは、超高齢社会に於いて、加齢に伴う組織や器官の退行性変化による分泌障害だけでなく、若年・中高年層でも、VDT(Visual Display Terminals)作業や、生活環境の著しい変化も関与しています。社会的な環境要因も含め、この様な多くの原因によって発症し、夫々が複合的に重複している場合が多いだけでなく、ドライシンドローム自体の発症が二次的な病態を引き起こす誘因にもなっています。それ故に、眼や口の単独の疾患としてだけではなく、ドライシンドロームとしての総合的な対応が求められます。

 乾いてませんか? 昔は、目が乾くから、眼科に行こう。口が乾くから、歯医者に行こう。膣が乾くから、婦人科だ。心が乾いたら、新興宗教だ。いや、最近は、SNS?…等々と、別々の科に出向いて、薬を処方って言うのが一般的でした。でも良く考えれば、目だけ、口だけ乾くって事はありません。トータルで、症候群としての総合的な考え方が重要です。

 と言う訳で、今月のお題は、<ドライシンドローム>です。

水を科学する。

私達の体の中を循環する水。

 私達の体重の7割近くを、お水が占めています。面白い事に、地球上のどの生物でも、水の比率は7~8割。殆ど同じなんですね。しかしながら、このお水、体の中で常に同じ水分子が停滞している訳ではなくて、体内に於ける流れや体内外での入れ替わりが、ダイナミックに且つ精巧に営まれています。体重50Kgの大人が、1日に外から摂取するお水は2.1L。体内の代謝水が、約0.2L。合計2.3Lの水が入り、その同等分の水が、おしっこや汗なんかで体の外に出て行きます。

 私達は、特に意識することもなく、お水を飲んだり、おしっこしたり、汗かいたりと、体内の水分量を一定に保とう保とうと働いています。このお水の収支決算が崩れると、ろくでもない災いに見舞われてしまうからです。体のお水の15%が、多いでも少ないでも、どっちでも構わないんですが、どっちかに傾いちゃうと、もう、生命の危機!に陥ってしまいます。…この緻密な水の管理を誰が行っているのか? つい最近になって漸く、アクアポリンの発見により、そのメカニズムが解明されつつあります。

■アクアポリンの役割~細胞と水

 等浸透圧では、細胞内外のお水の出入りは、細胞膜を介しての拡散により、常に交換が行われています。

 浸透圧に格差がある。貧富の差と同じで、それは平等の精神に反します!から、netの水の移動をしてでも、その格差を是正しなければいけません。つまり、是正の結果、細胞は、水を取り込んでデカくなったり、反対に萎んだりするものなのですが、実際問題、どう是正をしているのかと言いますと、やはり、細胞膜で隔てられた細胞の中と外の話ですから、細胞膜を介しての拡散しかありえません(笑)。しかし、等浸透圧下と異なり、この拡散には、①単純拡散と、②アクアポリンを介する促進拡散の、2種類があります。

 単純拡散は、膜の流動性によるところが大きく、温度依存性です。これに対し、アクアポリンによる促進拡散は、膜の流動性や温度等の外野の声に煩わされないようにと、しっかり耳栓をした作業員が水を誘導するので、その作業は非常に効率的です。会社側にとっても、このアクアポリンは、雇っている作業員の人数や作業時間を細かく調整(チャンネル活性の制御)出来るので、と~っても管理しやすいシステムなんですね。腎臓に於ける尿の濃縮機構や、様々な組織に於ける体液の分泌・吸収に、と、と~っても重要な任務を担っています。

■様々なアクアポリンが、私達の体の組織に分布している。

 哺乳類には、13種類のアクアポリン(AQP0-AQP12)が確認されています。これ等はほぼ全身にありますが、夫々のアクアポリンは、その特有の生理的な意義に従ったとしか考えられない、非常にユニークな!組織分布を示しております。因みに、アクアポリンファミリーは、そのアミノ酸配列の相同性と機能から、大きく2つのグループに分けられます。水分子のみを通過させるグループ(アクアポリン)と、グリセリンや尿素等の小物質を透過させるグループ(アクアグリセロポリン)です。

  • AQP0:目のレンズ(繊維細胞)にしか発現しておらず、レンズの透過性に関与しているものと考えられています。白内障と関連。
  • AQP1:赤血球膜や腎臓の近位尿細管細胞膜、その他、様々な組織の毛細血管内皮細胞で発現が認められているにも関わらす、遺伝的に欠損していても全然問題がない健常人がいたりして、まだまだ、こ奴の存在意義は何?????????????????状態。
  • AQP2:腎臓の集合管細胞に存在し、抗利尿ホルモンによって調節され、尿濃縮機構に直接関与しています。AQP2遺伝子に異常があれば、生まれながらの尿崩症になります。しかし、躁鬱病の治療でリチウムを長期に亘って服用していると、AQP2が激減。二次的な尿崩症になってしまいます。反対に、妊娠に伴う浮腫や高血圧、うっ血性心不全等では、AQP2の発現が増加。
  • AQP3:AQP3は、表皮の一番内側に存在している基底細胞、及び皮脂腺に良く発現しています。水もグリセリンも、両方比較的に良く通してしまうユニークなアクアポリンで、アクアグリセロポリンに属しています。このアクアポリンが、どの様なシステムで、皮膚の水分含有量をコントロールしているのか、詳しい事は分かってはいませんが、皮膚の保湿に重要な役割を果たしているのは間違いないでしょう。関連する疾患としては、乾燥肌(美容通信2003年12月号)が有名で、実際、AQP3欠損マウスでは乾燥肌になってしまいます。更に、AQP3は、皮膚損傷後の再生プロセス、まあ端的に言えば傷の治り(美容通信2004年5月号)(美容通信2013年4月号)(美容通信2017年11月号)って奴ですが、これにも関係があるみたいです。
  • AQP4:中枢神経系(神経細胞ではなくグリア細胞)に主に分布。脳のリンパ液との関連が示唆されており、脳浮腫を始めとする様々な疾患の病態生理に於ける役割も徐々に解明されて、正に最近の注目株なんです。
  • AQP5:涙腺、唾液腺、肺胞上皮に分布しており、涙液や唾液の分泌等に関与しています。口腔内乾燥症(美容通信2018年1月号)と関連。
  • AQP7:主に脂肪組織で発現が認められますが、このAQP7遺伝子欠損があると、年と共に肥満が顕著になり、2型糖尿病に発展していく事が、マウスの実験モデルでは確認されています(美容通信2008年2月号)。AQP7は、脂肪細胞からグリセリンを放出する経路となっていますが、この経路が塞がれると、恐ろしい事に、グリセリンが脂肪細胞内に異常に蓄積されちゃうんだそうです。そうすると、二次的に糖代謝まで被害が波及して、延焼ではありませんが、肥満のみならず、糖尿病って超嬉しくないオマケがもれなく付いて来る!羽目に陥ります。現在、欧米のみならず日本でも、肥満を伴う糖尿病の患者さんが問題となっていますが、このAQP7欠損マウスモデルが新薬の開発に一助となってくれればと思います。
  • AQP9:肝臓に発現。特に、飢餓時の脂質代謝に関与してるんだそ~な。

 

角層に対するトレハロースの保湿・保水効果

■皮膚の役割と保湿

 体の表面全体を覆う皮膚は、成人で体重の約16%をも占める巨大な組織です。皮膚は外界と直接接するので、①水分の喪失や透過を防ぐ、②体温を調節する、③物理化学的な刺激や微生物から生体を守る、④感覚器としての役割を果たす等の様々な機能を駆使して、私達の体の恒常性を保つバリアとして働きます。「万里の長城」が、北方の異民族が侵攻してくるのを迎撃するのを建前としながらも、ちゃっかり、長城沿いに交易所を幾つも設けて盛んに取引を行っていましたが、皮膚も、バリアと称しながら、内実は似たようなものなんですが、ね(笑)。

第二師団が北の防衛最前線を自認する北鎮師団なら、皮膚組織の中でも最も外側に存在する角層は、水分保持即ち保湿にとっての最重要部隊です。健康な角質には20~30%の水分が含まれており、これが皮膚に張りとしなやかさを齎してくれます。ところが最強の第二師団とは言え、常に昔はロシア(ソ連)、今(2017年12月現在ですが!)は北朝鮮籍の難破船の相次ぐ漂着に曝されており、皮膚も乾燥や紫外線等の絶え間ない外敵により、角質水分維持機能が低下してしまいます。例を挙げると、冬場のからっ風。私達のぷりぷりのお肌を、ガサガサの荒れたささくれた婆肌に一変させてしまう破壊力に満ちていますよね。角質の水分量の低下に伴い、その柔軟性も損なわれてしまうので、表皮への打撃をさらっと躱す事が出来ず、ガラス細工の様に脆くも崩れてしまいます。

■角質の構造と保湿の様式

 角質は、角質細胞と細胞間脂質とで構成されています。

 角質細胞は、表皮のターンオーバーにより、表皮角化細胞が分化して生じます。角化細胞は平べったい形をしていて、これがナポレオンパイのミルフィーユ部分みたいに層状に堆積し、その間隙を、甘さ控えめだけど風味豊かなカスタードクリームならぬ細胞間脂質がびっちり埋めています(←あ、これだと、肝心なイチゴがないか!?)。これにより、柔軟で強固な角層が出来上がり♬

 角質細胞と細胞間脂質は、一体としてナポレオンパイとして私達に至福の時を与えてくれますが、両者の保湿に対する寄与の様式は全く異なります。角質の保湿様式は、おおきく3つに分けられ、①皮脂による油膜形成、②角層バリア機能による水分蒸散抑制、③天然保湿因子の水和作用による、皮膚組織内の水分保持です。

  • 皮脂による油膜形成

   皮脂が毛包より分泌されて、皮膚表面に油膜を形成します。体表からの水分蒸発を防いではくれますが…、保湿への貢献度は、後述の2つに比して劣ります。

  • 角質バリア機能による水分蒸散抑制

   細胞間脂質が、主たる立役者。細胞間脂質は、どこぞの国のお家芸であるマスゲームを髣髴とさせる、高度に秩序化された層状のラメラ液晶構造をとり、生体内外を遮蔽します。また、細胞間脂質との界面には、図の様なコーニファイドエンベロープ(CE)がありますが、このCEの強固な膜構造も、角層バリア機能にとって、更なる強力な補強剤として働きます。バリア機能こそが、生体からの水分蒸散を抑えると共に、有害物の侵入を防ぎ、皮膚に物理的な強度を齎します。

  • 天然保湿因子(natural moisturizing factor:NMF)の水和作用による、皮膚組織内の水分保持

   角質細胞内部にも、実はNMFが存在しており、水分を保持する事で、角層の水分が保たれます。前述の通り、角層が柔軟且つしなやかであり、また十分な機能を発揮する為には、適度な水分が必要です。NMFは、アミノ酸類、ミネラル類、尿素、有機酸、糖質等水和性の高い分子です。

 因みに、角層細胞間脂質のラメラ層内について、相反する報告、つまり、水分が保持されるって報告と殆ど存在しないって報告の、両方があります。後者の場合は、細胞間脂質は、前述のバリア機能で角質細胞からNMFの流出を防ぐ事で、角層内の水分保持に寄与する事になります。

■トレハロースの保水作用

 トレハロースは、Wikipediaによれば、1832年にウィガーズがライ麦の麦角から発見し、1859年、マルセラン・ベルテロが象鼻虫(ゾウムシ)が作るトレハラマンナ(マナ)から分離して、トレハロースと名付けたんだそうです。

 このトレハロース、実は、「命の糖」との異名がありま

す。干乾びて仮死状態に陥っている、シダ類植物の一種であるイワヒバや緩歩動物のクマムシがいるとしましょう。仮死状態の彼らの体の中には、莫大な量のトレハロースが蓄積されています。ここにお水をぶっかけると、おどろき、もものき、にゃんこのき。あれよあれよと、元の生きた姿に戻るんだそうな。

 冷凍や乾燥等のストレスに対するトレハロースの生態保護効果に関しては、分子レベル及び細胞レベルでの研究、例えば、蛋白質の変性抑制作用や脂質膜の安定化作用、細菌や酵母の死滅抑制作用の研究が進んでいるそうです。この性質を利用して、トレハロースは医薬部外品や化粧品の保湿素材として汎用されている他、医薬品用途にはドライアイに対する効果も確認され、点眼液として実用化もされています。昔は、抽出が難しく高価なのが難点でしたが、デンプンを素材とした安価な大量生産技術が岡山県の企業林原によって確立され、爆発的に用途が拡大したって経歴の持ち主です。

  • トレハロースの保水作用

   トレハロースは、水和作用による角層の水分保持機能だけでなく、細胞間脂質との相互作用を介したバリア機能の強化によっても、角層の保湿作用に寄与しています。

   特に後者の補足になりますが、トレハロースが脂質膜の構造に与える効果は、生体保護の鍵となる現象で、今一番ホットな研究分野でもあります。トレハロースは、セラミドやコレステロール等と水で構成される、ラメラ構造の形成を促進します。更には、トレハロースには、量依存性に、脂質の水平方向の拡散係数を低下させる作用があり、膜の強度を上げる事が、分かっています。角層の細胞間脂質も似た構造なので、トレハロースは細胞間脂質を強化し、角層のバリア機能をUPされる!と考えても間違いなさそうです。実際、界面活性剤で肌荒れを起こす実験で、トレハロースを界面活性剤と同時に塗布すると、肌荒れによる経表皮水分蒸散量の増大を抑制したんだそうです、はい。

 

脱水

 脱水とは、体全体の水分量が減っちゃった状態の事を言います。普通は、大汗搔いたとか、吐いて下痢したとか、ヨットで太平洋を横断中に真水が尽きてとか…明らかな原因ありきで、原因が解消されれば、症状も自ずと改善しちゃうものです。が、恐ろしいのは、無意識のうちに、慢性的な脱水を来たしてしまっている場合。塩辛い物ばっか食べてたり、お水を全然飲まない、利尿剤を飲んでいる等々。

 眼や口の渇きと言ったドライシンドロームの症状が、眼だとか、口だとかのどっか1つの臓器の渇きのだけ、つまり「局所」だけの時もあります。が、実は、脱水が起こっていて、全身の臓器が皆干乾びていいるにも拘らず、単に自覚が眼だけ、口だけって事もあります。特に、爺婆になると、赤ん坊の頃は体重の80%もお水が占めていたのに、それが55%くらいに激減してしまいます。お水の貯蔵庫である筋肉量が減る(美容通信2018年9月号)にも拘らず、脂肪組織が増え、皮膚の皮下脂肪が減少してしまっているからなんです。備えがなければ、簡単に脱水に傾きます。ドライシンドロームの症状も出現します。

 

サーカディアンリズムと外分泌腺の障害

 生体には、サーカディアンリズムを始めとする、様々な生体リズム(周期的変動)がありますが、その周期は、長いものから短いものまで様々。渡り鳥や熊さんの冬眠を司ってるのが、1年を周期とした年周リズム(季節的リズム)。約1ヶ月を周期とするのが、例えば、女の子の周期、つまり月経周期に伴う女性ホルモンの分泌を司る、月周リズム。血圧等は、1週間(7日間)を周期とする週周リズムです。1日(24時間)の周期が、日周リズム。別名サーカディアンリズムで、唯一分子基盤が分かっている生体リズムとされています。90分リズム(ウルトラディアンリズム)は、睡眠は浅い眠りと深い眠りが約90分周期で繰り返されており、この周期の代表格とされています。

 約24時間周期で自律振動する「体内時計」によって、私達人間様だけでなく、キタキツネもエゾリスも、皆、朝目覚めて、お昼間は、お仕事したりお散歩したりハンティング/収穫したりと…活動に勤しみ、夜はとっとと寝る!って1日のリズム『サーカディアンリズム(美容通信2017年1月号)』に支配されています。この様に、睡眠/覚醒のサイクルは勿論、体温や血圧、ホルモンの分泌、代謝、心身の活動、食事と言った様々な生理現象だけでなく、サーカディアンリズムの乱れによって、睡眠障害や生活習慣病、うつ病等の精神神経疾患、歯痛等の、様々な心身の症状や病気の発症に関与している事が分かっています。

■サーカディアンリズムと時計遺伝子

 サーカディアンリズムの制御システムには、時計遺伝子達の関与が分かっています。哺乳動物の時計電子としては、Period遺伝子、Bmal遺伝子、Clock遺伝子、Cryptochrome遺伝子、albumin site D-binding protein(Dbp)遺伝子、E4BP4遺伝子、Npas2遺伝子、Rev-erb遺伝子等多数知られています。これ等の遺伝子は、時計の中枢である視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus:SCN)のみならず、末梢の組織でも発現し、夫々の組織(臓器や細胞!)のサーカディアンリズムに重要な働きをしています。つまり、所謂ダブルスタンダードとは違いますが、末梢組織にも独自に振動する「末梢時計」があり、生体リズムは、各組織や細胞中の末梢時計は独自の振動しながらも、同時に、中枢時計の支配を受け、生物(生体)としての協調性を保つ。…日本国に於ける、地方自治体としての旭川市みたいなもんですし、その破綻例が、スペインに於けるカタルーニャ共和国!とも言えるかも知れませんね。

■サーカディアンリズムと口腔機能・唾液分泌

 唾液は、顎下腺、舌下腺、耳下腺の三大唾液腺と小唾液腺から分泌されます。唾液の産生と分泌が十分でないと、口腔内衛生を保てません(美容通信2018年1月号)。分泌される唾液の量や構成成分は、サーカディアンリズム、腺の種類や大きさ、刺激の有無、その種類や時間、食事、薬、年齢、性別、妊娠、月経、環境因子、生理学的条件等々と、様々な要因に依存しています。

 1971年のDawesらの報告によると、朝6時頃に最低値、お昼の12時から夕方にかけて最高値を記録するって報告があります。唾液腺の機能の日内変動が、私達の生活の活動期と休止期にピッタリ符合しているんです。実に合目的と言えば合目的なんですが、この日内変動が不幸にも障害されると、今度は虫歯や歯周病と言った歯科疾患に影響が出てしまうんですね。

■サーカディアンリズムと涙腺分泌

 涙腺から分泌される涙君は、目の表面の保護や視力の維持にと~っても大事な存在(^^♪ ですから、この分泌の量や質に問題が生じると、ドライアイに直ぐ直結してしまいます。眼を閉じたり開けたりと、その瞬目の状況で涙の量が大きく変わり、開閉する事のない夜間の睡眠時は、涙の分泌量はぐ~んと低下してしまいます。また、涙の成分も日内変動があり、朝目覚めたばっかりの時が一番涙液貯留量が多いんだとか。

ドライシンドローム医学

酸化ストレスとドライシンドローム

 フリーラジカル、ROSによる酸化ストレス(美容通信2017年4月号)(美容通信2016年11月号美容通信2018年7月号は、私達の体を構成する分子達を容赦なく酸化し、生体膜の損傷、蛋白質及び核酸の変性等の小さなロクでもない現象が、雪だるまの様に膨らんで、糖尿病や動脈硬化、高血圧症等の生活習慣病だけでなく、脳梗塞、認知症、神経変性疾患、病的な加齢の原因となります。最近の研究によれば、ここに、ドライアイやドライマウス等のドライシンドロームも!含まれる事が分かって来ました。

■ROS

 私達は、呼吸、つまり酸素を吸い込んで、効率良くミトコンドリア(美容通信2017年7月号)でエネルギ―をGETします。この過程で数%ではありますが、ROMが発生します。一般的にですが、ROMは不安定で寿命が短く、反応性に富む酸素由来の分子種です。ROMは、ざっくり2種類に大別(美容通信2017年10月号され、①最外殻軌道に対にならない、つまり、おひとり様仕様=不対電子を有しているROMで、根っからのフリーラジカル体質♬の連中と、②不対電子を有さないので、フリーラジカルには属さない?属せない?連中がいます。①の前者には、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2●-)やヒドロキシラジカル(HO)があり、②の後者には、過酸化水素水(H2O2)や一重項酸素(1O2)があります。

  • スーパーオキシドアニオンラジカル(O2●-

   酸素が1電子還元されて、片側だけに不対電子を有する(フリーラジカル)ROSで、生体に対する酸化力は、どちらかって言うと些細な部類に属します。ミトコンドリアや、炎症時に働く白血球(NADPH oxidase)、核酸合成過程で尿酸を産生するxanthine-oxidase等から産生されます。

  • 過酸化水素水(H2O2

   前述のO2●-が、更に、1電子還元されて生成されるので、フリーラジカルではありません。他のROS連中とは一線を画し、生体内でも抜群の安定性を誇り、抗酸化酵素のカタラーゼ、若しくはペルオキシダーゼしか、こ奴を消去出来ないんです。酸化力は弱いですが、生体内の金属(鉄、銅イオン)と反応し、バリバリのやんちゃなヒドロキシラジカル(HO)に進化します。

  • ヒドロキシラジカル(HO)

   H2O2まで辿り着いても、まだまだ先が(笑)。前述のH2O2が1電子還元され、片側に不対電子を持つ(フリーラジカル)ROSです。酸化力が強く、酵素蛋白質や細胞骨格蛋白質、脂質、糖質、核酸(DNA、RNA)等と、相手構わずの非特異的な反応をします。更に始末が悪い事には、HOは、無敵。つまり、生体内には消去する抗酸化酵素が存在しないんです。

  • 一重項酸素(1O2

   酸素が光等のエネルギーを吸収し、励起状態になる事で生成されます。HOと同様に反応性は強く、ヒスチジン等のアミノ酸、リン脂質、多糖類、核酸等がお気に入りのお相手です。紫外線によって主に皮膚下組織に発生しやすいので、美容皮膚科的には超有名過ぎるROSとも(笑)。アンチエイジング系の記事の常連さんで、マスコミの恰好の餌食なんですね。

 生体に対する作用の中で、最も問題視されているのが、生体を構成する細胞の膜(細胞膜)に含まれる脂質を酸化する作用で、この反応は連鎖的に起こります(脂質過酸化反応)。ROSは、主として脂質過酸化反応により、細胞膜を変性→細胞障害!を起こし、様々な病気の引き金となります。

■酸化ストレスと抗酸化システム

 私達だって、単に手をこまねいて、ROSに酸化されるままの”させ子”ではありません。ROSを消去する為のツールをもっています。スーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)、CAT(catalase)、グルタチオンペルオキシターゼ(glutathione peroxidase:GPX)(美容通信2018年7月号)等の抗酸化酵素、尿酸、アルブミン、グロブリン等の、アイテム(生体内抗酸化物質)(美容通信2014年11月号を色々と駆使して、戦います。

  • SOD

   スーパーオキシドアニオンラジカル(O2●-)の代表的なスカベンジャーで、O2●-不均化させて、H2O2とO2に変換する酵素。細胞質やミトコンドリア内に存在していて、銅(Cu)や亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)を含む金属酵素。

   2O2●-+2H+→H2O2+O2

  • CAT

   代表的なH2O2のスカベンジャーで、H2O2を不均化させて、O2とH2Oに変換させるヘム蛋白酵素。

   2H2O2→O2+2H2O

  • GPX

   生体内抗酸化物質として重要なグルタチオン(GSH)(美容通信2018年7月号)の存在下で、H2O2を、H2Oと酸化型グルタチオン(GSSG)に変換する酵素。グルタチオンペルオキシターゼ(glutathione peroxidase:GPX)は、セルン(Se)を活性中心とする金属酵素。

   H2O2+2GSH→2H2O+GSSG

 抗酸化システムに於いては、これらの抗酸化酵素だけではなく、抗酸化物質も忘れてはいけない重要な隊員達です。例えば、体内で言えば、尿酸やアルブミン、グロブリン等の蛋白質が相当します。食べ物で摂る(美容通信2009年11月号美容通信2009年12月号、若しくはサプリメントで摂る(美容通信2016年6月号)のならば、ビタミンCやE、カロテノイド等の抗酸化ビタミンがオススメ。ROSを直接消去する能力があります。特に、目には、カロテノイドであるルテインが重要な抗酸化物質ですし、ビタミンEは、ROSによる連鎖的な脂質過酸化反応を止めるには必須の抗酸化物質でもあります。

 一般的に、若年者や健康な時は、ROS産生と抗酸化システムの生体内のバランスが云々と、取り沙汰される事はありません。が、両者のバランスが崩れ、酸化ストレス側に傾いてしまうと、例えば、老化を始めとする癌や糖尿病、動脈硬化やアトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患、慢性疲労、肥満等の慢性疾患に侵されるようになります。ドライアイやドライマウス等のドライシンドロームも然りです。唯、ドライシンドロームの発症と分子メカニズムに関しては、SOD1ノックアウトマウスを用いて、酸化ストレスの蓄積が涙腺、結膜、マイボーム腺に影響を与え、加齢性ドライアイの発症に繋がった等の報告ぼちぼちありますが、まだまだ研究が緒に就いたばかり。

 

代謝異常症とドライシンドローム

 糖尿病や肥満等の代謝異常症のある患者さんに、ドライアイ、ドライマウス等のドライシンドロームの合併が多い事は良く知られており、どうやら、両者の間には共通するパスウェイがあるみたいです。

■代謝異常に伴うドライシンドロームの臨床

 内臓脂肪型肥満とドライマウスには関連が認められ、肥満例では歯科的問題を抱えている例が多いとの報告があり、実際、口腔内の衛生状態を改善すると、それだけで耐糖能も改善するそうです。糖分(美容通信2011年4月号)を多く含む間食を良くする習慣の所為ばかりとは、一概に片付けられないんですね。

 ドライスキン(美容通信2003年12月号)は、皮膚のバリア機能の低下を齎し、特に下肢の皮膚トラブルの引き金となります。研究によれば、750人の糖尿病患者のうち、79.2%に皮膚の何らかの病変が認められ、ドライスキンは26.4%。その頻度は、男女比約1:2と、女性に多いんだそうです。糖尿病腎症や神経障害を合併している患者さんの方が、合併症がない患者さんよりも、糖尿病足病変等の皮膚病変を多く有していたんだそうです。

■治療の要は、細小血管障害の発症・進展の抑制にあり

 代謝異常症にドライシンドロームが合併する病態を考えると、糖尿病細血管合併症と同様の病態が関与していると考えられます。慢性の高血糖によるポリオール経路の亢進、ヘキソサミン経路の亢進、protein kinase C(PKC)経路の活性化、終末糖化産物(advanced glycation and products:AGEs)(美容通信2015年10月号)、微小循環障害、酸化ストレス等が挙げられます。

  • ポリオール代謝の障害

   高血糖が細胞を障害する機序としましては、ソルビトール代謝の異常が挙げられます。非リン酸化ブドウ糖は、アルドース還元酵素によって還元されると、ソルビトールになり、更にはソルビトール還元酵素によって、フルクトースに転換されます(ポリオール経路)。ポリオール経路の活性化は、細胞内遊離ブドウ糖濃度で調整を受けており、高血糖はソルビトールの蓄積を齎し、細胞障害に繋がります。

  • AGEs(最終糖化産物)

   生体内蛋白質、特に代謝回転の遅いコラーゲン等は、長期間に亘り糖質に曝されると、非酵素的反応(メイラード反応)を起こし、リジン基やアルギニン基等が修飾されます。これは、糖化(glycation)(美容通信2011年4月号)と呼ばれ、糖化の後期段階に生成したモノがAGEsです。AGEsは、糖化された蛋白質の分解低下や機能変化、細胞機能の変異、活性酸素種を発生させ、血管合併症を引き起こします。AGEsは、組織に沈着し、臓器障害を齎すだけでなく、受容体(AGE受容体)を介してシグナル分子としても作用し、病態を悪い方へ悪い方へと導く悪の伝道師です。

  • 微小循環障害

   微小循環に於ける血行力学的変化も、細小血管障害の発症に影響を及ぼします。単神経障害では、神経を栄養する血管が詰まってしまう事が、そもそも発症の原因になります。

 代謝異常に伴うドライシンドロームの治療には、その根底にある糖尿病細小血管障害の発症・進展の抑制が鍵になります。細小血管障害の危険因子としましては、不良な血糖コントロール、長期に亘る罹病期間、高血圧症、喫煙、飲酒等が挙げられますが、中でも最も重視されるのが、血糖のコントロールです。厳格な血糖の管理下に置くと、それだけで、合併症の発症やその進展は抑制可能です。

 因みに、糖尿病神経障害の治療薬としては、アルドース還元酵素阻害薬(aldose reductase inhibitor:ARI)がありますが、これは前述の発症機序の一つであるポリオール代謝の亢進を抑制してくれるので、神経障害の進行が抑制されます。興味深い事に、アルドース還元酵素は角膜にも発現を認めており、高血糖下での眼合併症の発症に関与しています。実際、アルドース還元酵素を内服投与すると、糖尿病の患者さんの角膜知覚及び涙液産生が回復する事は周知の事実です。

 自律神経障害は、発汗異常(美容通信2017年12月号)(美容通信2004年5月号)によるドライスキン、起立性低血圧、消化管運動異常(下痢と便秘を繰り返すetc.)、膀胱の機能異常、性機能障害を引き起こします。特にドライスキンは、形成外科領域に於いては、下肢の皮膚潰瘍(美容通信2013年4月号)及び外傷性切創のリスクとなり、爪の処置(美容通信2008年12月号)や靴の選び方(美容通信2004年6月号)を含めたフットケア(美容通信2009年6月号)(美容通信2014年6月号)が大切になります。

 また、ドライシンドロームが加齢と共に発症する事を考えると、エイジングの表現型の一部とも考えられます。過食等の生活習慣の乱れから発症する代謝異常症は、まさしく加齢性変化を加速させる最大の因子、”メタボ・エイジング”であり、ドライシンドロームの病態に於けるエネルギー代謝の視点からのエイジングの意味を考える必要があります。

 

男性ホルモンとドライシンドローム

 ちょっと混乱する患者さんがいるので、最初に補足しときますが、アンドロゲンはステロイドホルモンの一種で、男性ホルモンとも呼ばれます(美容通信2014年7月号)。テストステロンは、アンドロゲンに属するステロイドホルモンで、その大多数派を占めるホルモンです。このテストステロンが、皆さんお馴染みの5αリダクターゼにより、ジヒドロテストステロン(DHT)へと代謝され、若ハゲ(美容通信2013年2月号)(美容通信2005年12月号)の原因となる事は周知の通りですかね。

 ドライシンドロームの中でも、ドライアイとドライマウスについては、大昔から、アンドロゲン(男性ホルモン)との関連が囁かれています。眼球の多くの組織(涙小管、マイボーム腺、角膜、眼球結膜、水晶体上皮)がアンドロゲン受容体陽性で、テストステロンの標的臓器と考えられています。唾液腺にもアンドロゲン受容体が多く分布しており、インテグリンやCRISP-3遺伝子を介し、テストステロンの低下美容通信2010年9月号)(美容通信2015年6月号がドライマウスの発症に強く関わっているようです。その為、最近では、ドライマウスを、テストステロン低下のサロゲートマーカーと考える向きもあるくらいです。

 

女性ホルモンとドライシンドローム

 女性ホルモン≒エストロゲンと称される程に、エストロゲンは女性にとって重要なホルモンです。生理が始まるちょっと前頃から分泌が増加し、所謂女盛りとされる性成熟期には、月経周期内で変動するものの、一定のレベルには保たれています。ところが、閉経を境に、大きくその分泌は下がり、眼や口、皮膚、鼻の孔、膣等々の乾燥感、つまり、ドライシンドロームに悩まされるようになります。ホルモン補充療法美容通信2010年8月号により、ドライマウスや、ドライスキン、ドライヴァジャイナの改善には有効とされながらも、何故か、ドライアイやドライノーズに対しては、コンセンサスが得られていない?んだそうです。

■エストロゲン

 私達の体の中で合成される活性の高いエストロゲンとしては、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)が知られています。その活性比率は、E1:E2:E3≒10:100:1で、前2者が殆ど大部分を占めています。この2つのホルモンは行ったり来たりはしますが、若い頃は、断然E2優位です。

 エストロゲンの産生の場としましては、卵胞周囲に存在する顆粒膜細胞と脂肪・皮膚・筋肉等に存在するアロマターゼによるアンドロステンジオンからの変換がありますが、若い頃のメインは卵巣由来です。ところが閉経後は、エストロゲンは、全体量が減るだけでなく、その内訳もE1が主体となり、エストロゲン全体の活性は閉経前の約1/10以下になります。

 エストロゲンは、エストロゲン受容体を介しての発現形式を取ります(美容通信2018年9月号)。エストロゲン受容体には、α、βの2種類があり、生殖器以外の全身に分泌しており、これがエストロゲンが女性の心身を護る守護神!と称される所以です。

 エストロゲンの作用としては、乾燥については、①組織に於ける水分保持、②弾力性の維持、③血流改善、④(分泌)腺の活性化、⑤心理面・知覚面への作用が考えられます。エストロゲンは、ナトリウムと塩素の保持により、水分の体内保持作用を有すると共に、真皮に於いては、線維芽細胞に作用して、コラーゲンや酸性ムコ多糖類、ヒアルロン酸等の水分保持に役立つ物質の産生を促す作用を持ち、結果的には組織の水分の保持、弾力性の維持に寄与します。

 水チャンネルとして知られる、前述のアクアポリンに関しては、外分泌腺に広く存在するアクアポリン5の遺伝子には、estrogen-response elementが確認されています。マウスの子宮では、アクアポリン5が、エストロゲンによる調節を受けているそうです。又、私達人間でも、月経周期に伴うホルモンの変動に伴い、子宮内膜でのアクアポリンの発現が変化します。子宮内膜以外の他の場所でも、エストロゲンがアクアポリンの発現を制御しているものと推測されます。

 血管に対しては、NOを介した血管内皮改善作用があります。血管内皮型の一酸化窒素(NO)合成酵素(eNOS)を活性化し、NO放出を促進します。更には、エストロゲン自らが身を挺して、その抗酸化作用により、NOが活性酸素の餌食となる事を阻止もします。加えて、血管拡張作用、接着因子発現抑制作用、脂質プロファイル改善作用等の、抗動脈硬化作用があり、血管を拡張して血流を改善します。

 エストロゲンは、右上図の様な、乳腺を始めとするエストロゲン受容体を有する腺に直接働き、分泌を促進します。それだけでなく、乾燥を感じている中枢や末梢神経にも作用し、心理的に、若しくは知覚的にって、別経路のアプローチも仕掛ける二段構え派です。

■エストロゲンとドライシンドローム

 エストロゲンには水を保つ働きがありますが、その効果は一律ではなく、組織によって異なります。

  • ドライアイ

   ドライアイは、男性よりも圧倒的に女性が多く、特に、妊娠中や授乳中、経口避妊薬(美容通信2007年11月号)服用時、閉経後に多い等々と、エストロゲンとの関係が昔から噂はありました。マイボーム腺や涙腺にはエストロゲンの受容体がありますし、閉経後、重症のドライアイに悩む高齢のご婦人と言えば、軒並みそうじゃない同年代のご婦人と比較しても、実際、エストロゲンレベルは低値を示しています。でも、涙腺の機能には、アンドロゲンの方がず~っと重要性が高いんです。閉経後は、女子と言えどもアンドロゲンも低くなる時期だし…、ホルモン産生の経路からも明らかな様に、そもそも、エストロゲンはアンドロゲン変換されて産生されるものだし…、エストロゲンはやっぱ関係ないじゃ~んって意見も多数あるのも事実。それどころか、エストロゲンはマイボーム腺や涙腺の炎症を増長する!等々と、逆風吹き捲りのご時世です。

   「エストロゲンをの投与で、ドライアイは改善するか?」については、2013年までの報告のまとめでは、改善12、不変4、悪化4論文と、コンセンサスは未だない!のが現状です。実際、ホルモン補充療法(HRT)、特にエストロゲンの単独投与でドライアイの罹患率が上昇した!って大規模疫学研究から、「症状が改善した。涙液分泌が増加した。」って報告もあるし、それどころか植物エストロゲンのサプリメントでもドライアイが改善するなんてランダム化比較試験まであります。まあ、この様な結果の相違は、恐らくはHRTのレジメン、つまり、エストロゲンの投与が、口からなのか、塗ったのか、注射したのかとか、どれ位の量をどれ位の期間使用したのかとか、子宮がある女性に対し、子宮体癌予防の為に黄体ホルモンを併用する事が良くありますが、この黄体ホルモンの種類や量はどうなのか等々によるばらつきなんだろうとは推測はされてはいます。

   が、つまり、現在のところ、エストロゲン投与によるドライアイの明らかな有用性は示されていないって言うのが現状なんです。

  • ドライマウス

   エストロゲン受容体は、顎の骨だけじゃなくて、歯周組織や唾液腺にも存在するので、エストロゲンの分泌低下は、様々な口腔関連の愁訴を誘発します。Wardropらの報告によれば、閉経前には6%に過ぎなかった口腔関連の愁訴は、閉経後は43%に急上昇し、最も頻度の高いものがドライマウスだったんだそうです。エストロゲンの分泌低下により、細菌叢の変化や毛細血管の拡張・透過性亢進を来たし、細胞角化やコラーゲン産生の抑制が起こるだけでなく、免疫応答の低下も低下します。

   ホルモン補充療法は、閉経後の唾液分泌を改善します。投与開始4周目で有意な増加が認められ、施行期間が延びるに従い、と言っても永遠に伸びる訳ではなく、半年で上限にはほぼ達してしまうようですが、分泌量は増え続け、口腔乾燥感も消失するそうです。つまり、ドライマウスにはエストロゲンが有用なんですね。

  • ドライスキン

   エストロゲンの標的の中で、一番面積が広い臓器と言えば、それは皮膚です。閉経によりエストロゲンが激減すると、皮膚のコラーゲン量が減少し、皮膚のバリア機能回復が捗らなくなるだけでなく、角質構造も脆くなりますから、角質水分量も引き摺られてどんどん減ってしまいます。閉経後にドライスキンに悩まされるご婦人は、ナント、36.2%って統計もあります。

   ホルモン補充療法は、皮膚の水分保持量を増加させます。改善の機序としましては、保水に関するムコ多糖類やヒアルロン酸の産生への関与、皮膚厚の増加が考えられています。皮膚の乾燥感に対する改善もあります。

  • ドライノーズ

   鼻の中については、エストロゲンの受容体が肥満細胞や粘膜下腺にもありとはされていますが、データが少ないのが現状。モルモットのお話ですが、卵巣を取って閉経を強制的にさせちゃうと、鼻の中の胚細胞数は減少し、エストロゲンの関与は示唆されています。

  • ドライバジャイナ

   膣乾燥感については、エストロゲンレベルの低下が最も大きな要因とされており、逆にホルモン補充療法で改善する事は周知の事実ですよね~。

ドライシンドロームへの漢方医学的アプローチ

 ドライシンドロームには、ドライアイやドライマウスを始めとする、皮膚の乾燥(美容通信2016年10月号)、老人性膣炎等が良く知れれていますが、実は、気道の乾燥による空咳等も含まれ、実は漢方薬の良い適応とされています。漢方医学では、こうした乾燥に対する治療は昔から行われていて、所謂西洋医学的アプローチが無効!な時に、是非ともトライしてみる価値ありなんです。

 漢方医学では、ドライシンドロームは幾つかの病態に分類されます。

  • 血虚

   血液の運ぶ栄養素が不足した状態。皮膚が乾燥(美容通信2006年7月号)したり、爪の変形(美容通信2004年3月号)、脱毛(美容通信2008年5月号)、白髪、過少月経、こむら返り等になります。アトピー性皮膚炎(美容通信2007年4月号)等は、ベースにこの血虚がある事が多く、この状態を改善する事=症状の改善へと繋がります。

  • 水毒

   体の中の血液以外の水分が、偏在する事で起こり、全身性にも局所性にも起こりうる病態です。この状態には、①水が過剰にある(狭義の水毒!)場合と、②不足する場合(亡津液)があります。

   前者の、有り余る水に溺れる、狭義の水毒って奴ですが、これが全身に起これば、浮腫み。ナスだと、泉州の水ナス。頭を中心に水が偏在すると、頭が重いとか、立ち眩み、眩暈になります。消化管の随分が過剰だと、嘔気や下痢になります。子供なんかの風邪にありがちな、水を飲むと、直ぐに勢い良く吐いちゃうのは、この典型例ですかね。

   後者の、水分が足りない!系の亡津液では、全身の場合は、喉の渇きが酷く、水ばっかゴクゴク飲んじゃうようになります。局所だと、その部分がかっさかさに乾燥します。

 これらの血虚、亡津液の原因の一つには、爺婆化(加齢)があります。漢方では、腎虚と呼び、爺婆化に伴う腰痛や目のかすみ、難聴、排尿障害等の症状を来たします。

 漢方の治療では、西洋医学の様に臓器別ではなく、生体をシステムとして俯瞰します。後述する麦門冬湯は、正にこれを体現する様な漢方で、ドライアイからドライマス、慢性咳嗽等、幅広い効果が見込めます。

 

皮膚の乾燥

  • 四物湯:滋潤作用を持つ漢方治療の代表格。当帰飲子や温清飲等の元になってます。
  • 当帰飲子:老人性の乾皮症と言えば、これ。ファーストチョイスです。
  • 温清飲:掻痒感が強い乾皮症やアトピー性皮膚炎等に最適♬
  • 黄連解毒湯:痒みを抑えるのなら、先ずはこれを選ぶべし!
  • 八味地黄丸・牛車腎気丸:爺婆化に伴うドライスキンでは、良く処方されるお薬。牛車腎気丸は、八味地黄丸に、牛膝、車前子を追加したお仲間系。

 皮膚の乾燥と言えば、その代表格が爺婆の乾皮症です。脂っ気がなくなって、特に冬場の乾燥する時期は最悪の状態になります。又、痒いので、一度搔きだすと、負の連鎖に突入し、自分で自分の首を勝手に絞めちゃう羽目になります。

 血虚の代表的な病態が乾燥ですから、四物湯をベースに処方を行います。当帰、芍薬、川芎、地黄の4種類の生薬からなるので、四物湯ってベタなお名前。ですが、これをベースにした当帰飲子は中々の実力者で、しっかり入浴後の保湿等のスキンケアを併用するだけで、殆どの爺婆の痒みは制覇出来ます。

 温清飲は、四物湯に、痒みに強いとされる黄連解毒湯を加えたもの。なので、爺婆だけでなく、全ての悩める子羊達に適応がある漢方です。が、名前の通り温まるので、却ってそれで痒みが増しちゃうタイプのアトピーさんには、単体での黄連解毒湯って処方になります。

 四物湯繋がりでは、八味地黄丸や牛車腎気丸が、爺婆系の症状改善には強いとされていますが、痒み自体を抑える効果は今一つ。でも、長期に飲み続ける事で、皮膚が潤うので、結果的にはドライスキンの味方になります。

 

ドライマウスとドライアイ

  • 麦門冬湯:シェーグレン症候群や二次性シェーグレン症候群では、ファーストチョイスの漢方薬。
  • 人参養栄湯:COPD等に伴う、ドライマウスやドライアイに。
  • 滋陰降火湯:慢性呼吸器系炎症を伴う、ドライマウスやドライアイに。
  • 八味地黄丸・牛車腎気丸:爺婆化に伴う皮膚の乾燥には、定番の漢方薬。

■ドライマウス

 ドライマウスの一番の原因とされるシェーグレン症候群は、自己免疫疾患です。ですから、まともに働いてくれる唾液腺がどれくらい残っているかが全ての肝で、そこそこ以上に機能が保全されていれば、漢方薬も効きます。麦門冬湯は、第一選択薬です。

■ドライアイ

 ドライマウス同様に、麦門冬湯や八味地黄丸・牛車腎気丸が治療には使われますが…、う~ん、まとまった報告すらないのが現状で…。

 

ドライバジャイナ

  • 竜胆瀉肝湯:老人性膣炎よる違和感には、これ!
  • 温経湯:冷え、のぼせ、手の火照り、ドライマウスまで揃っている時に。
  • 桂枝茯苓丸:唇の色や舌が黒ずんでいるだけでなく、これにのぼせもあるご婦人に。
  • 加味逍遥散:神経質で、不眠等の精神症状が主な時。

 

空咳(慢性咳嗽)

  • 麦門冬湯:風邪症候群等の後の、慢性咳嗽。加齢に伴う空咳には、第一選択。
  • 人参養栄湯:COPD等に伴う慢性咳嗽等に。
  • 滋陰降火湯:慢性呼吸器系に慢性炎症を伴う時。
  • 八味地黄丸・牛車腎気丸:爺婆化に伴う慢性咳嗽に。しばしば、八味地黄丸と麦門冬湯の合わせ技も。

 気管支炎等の炎症中だけではなく、それが癒えた後にも、延々と長引く咳に悩まされる事があります。痰も出ない、謂わば気道がからっからに乾燥した挙句の空咳は、時には、私達から安眠をも奪います。一旦空咳が始まると、もうその爆走を止めようもなく、顔を真っ赤にして、唯ひたすらに咳込み続けるしかありません。

 麦門冬湯は、空咳を鎮める大明神です。

 


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。


※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

 

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