HISAKOの美容通信2013年4月号
傷(跡)のキレイな治し方
傷(跡)は、なるべく綺麗に治したい。
昔は傷は乾燥させて治すのが常識でしたが、近頃はもっと良い方法があるぞぉって訳で、色んな説が花盛り。
例えば、創傷被覆材。傷パワーパットやラップ療法に代表される湿潤(しつじゅん)療法は実に有益な方法ですが、健康保険適応外なので金額が非常に嵩んだり、使い方を間違えると、開けてびっくりバイ菌(感染)天国なんて笑うに笑えない事も。
又、「消毒は悪いとネットに書いてあったから、止めてくれ。」「ガーゼは…」etc.と、確かにそういう面もありますが、物事は須らくケースバイケースでして(-_-;)。
「ガーゼは百害あって一利なし」とか、「消毒は悪である」とか、昨今センセーショナルな論調で語られる”創傷治癒(傷の治り方)”ですが、実際のところはケースバイケース。最近は、状況によってですって断り書きを入れますが、ガーゼよりも良い製品がラインナップされていますし、昔の様な外科のお約束でもあった盲目的な消毒は不要って事も分って来ました。でも、だからと言って、これらを完全否定するのは如何なものかと思います。ガーゼの、変幻自在に形を変えて傷に入れる事が出来る簡便性、そしてそのドレナージ効果。そしてポビドンヨードの優れた殺菌力は、状況によっては何物にも代えられない絶大な効果を齎してくれます。
勿論、栄養状態(美容通信2007年3月号)やホルモン状態(美容通信2011年10月号)等の全身状態は大いに関与しますが、「どうすれば傷が早く治るか」、「どうすれば傷が綺麗に治るか」について、局所的なアプローチについて考えてみようと思います。題して、”綺麗な傷の治し方”。
傷の治り方
一般的に、傷の治り方は、1次治癒、2次治癒、3次治癒の3種類に分けられます。下の図を見て下さい。
- 1次治癒 「切り傷がそのまんまくっ付いて治った」的な治り方。
- 2次治癒 大きな欠損があったり、縫って治すには感染があって危険なのでそのまま放置プレイに持ち込まれてしまったりすると、欠損部を埋めるモノは最早瘢痕しかなく…、大きな傷跡として残ってしまいます。傷が塞がるまでに時間が掛かる事が多く、更に収縮して治癒するので、ひきつれ(瘢痕拘縮)を生じるなんて結末もあり。
- 3次治癒 2次治癒の途中で方向転換を図ったって奴です。例えば、バイ菌に感染してしまった傷は、当然ながら縫い合わせる事は出来ないので、毎日気長に洗浄するって対応をします。バイ菌が下水道に流れて、取敢えず問題がないレベルにまで減少したので、まあ、傷をそのまま治す2次治癒もありだけど、汚い組織を切り取って、フレッシュな傷にして縫い合わせちゃえ~っ!!が、この3次治癒です。
綺麗な傷の目標は、どれだけこの1次治癒に近づけられるか勝負なんです。
消毒、塗り薬、そして創傷被覆材。
手術をせずに治す、つまり保存的治療には、傷を乾燥させて治す”dry dressing”と、湿気った環境にしておく”wet dressing(湿潤療法)”の2つの選択肢があるとされています。しかしながら、”dry dressing”の挙句出来た瘡蓋は、結局は瘡蓋の下を湿潤な環境に保つものに過ぎず…、つまりは傷が癒えるには、癒すに必要な細胞が増殖出来る最低限度の湿潤な環境がなくてはならないものなのです。どうでも良いと言っては失礼!ですが、何をしてもと言うか、正しくはなくをしなくても治る様な些細な小さな浅い傷なら、”dry dressing”もありでしょう。でも、そうじゃないのなら、”wet dressing”は基本です。
まあ、”dry”でも”wet”でも、傷を洗うのに止めて消毒するのかしないのか、塗り薬を使うのか使わないのか、被覆材を使のかどうなのか、使うとするとどんな創傷被覆材なのか、ケースバイケースです。
消毒液で、消毒をする。
傷の治りを妨げるモノに、バイ菌の存在があります。全くこやつらが存在しない傷を、”無菌創”とか”非汚染創”とか、一応は名前を付けたりして、あたかもある様な言い方をしていますが、実際問題としてあり得ない! 理想としてはあり得ますが、単に机上の空論です。リアルな社会では、バイ菌の状態によって、汚染、定着、感染があるだけです。
汚染とは、単に傷にバイ菌がいるだけの…、まあ、通りすがりのバイ菌さん状態。熱が出たりとか、傷の周りが赤くなったりとかはありません。基本、洗うだけで十分で、消毒までは必要ありません。
ところが、バイ菌さんが「結構棲み心地が良いかも♪」って、定住を決意し、家族をせっせと増やし始めると、定着って表現になります。この状態になると、恐ろしい事に、バイ菌はバイオフィルムを作って化膿止めのお薬に対して抵抗する為、中々飲んでも根こそぎバイ菌を殺せない…なんてもどかしい羽目に。実力行使で、強行突破するしかありません。つまり、傷の表面をブラッシングしたり、ハサミで切り取ったりとかの下拵えが必要で、その上での洗浄・消毒となります。
しかしながら、それだけではバイ菌の勢いに歯止めが掛けられない事態にまで事が進展しまうと…、要塞陥落。遂に、バイ菌共が体内に侵入し始めます。これを感染と言います。こうなると、熱は出るは、傷は赤く腫れ上がるはで、感染源となっている死んだ(壊死)組織を取り除いて、洗浄、消毒に加え、抗生剤の全身投与は必須となります。イソジン(ポビドンヨード製剤)等は、持続的な消毒効果があり、この様な難治性の頑固な傷にはとっても有効です。でも、バイ菌を殺す位の威力があるって事は、即ち正常の傷を治してくれる細胞だって根こそぎ殺しちゃう威力だってあるって意味で、場合によっては、消毒後洗浄を行って最低限のダメージに抑えるなんて苦肉の策も取らざるえない事だってあります。まあ、つまりは、小賢しい小娘みたいに、バイ菌を減少させる必要性と消毒液の毒性を天秤に掛け、その上消毒を適宜行う必要があります。
下記に、代表的な消毒液について載せときますね。
- ポビドンヨード(イソジンetc.) 一部の芽胞を除いて、殆どの病原体に有効。MRSAにだって有効なんですよ!!!!!
- クロルヘキシジン(ヒビテンetc.) 刺激が少なく(粘膜以外)比較的幅広い抗菌作用を有する万能派。但し、殆どのウィルスや芽胞の前には…無力。
- 塩化ベンザルコニウム(オスバンetc.) 刺激が少ない界面活性剤で、比較的幅広い抗菌作用を有する万能派。但し、殆どのウィルスや芽胞の前には…これまた、無力。
- アクリノール(リバノールetc.) グラム陽性菌が得意中の得意!
- 過酸化水素水(オキシドールetc.) バブルパワーで嫌気性菌を破壊します。特に、グラム陰性菌に対して猛威を振るう。
- 塩化メチルロザニリン(ピオクタニンetc.) MRSAを含むグラム陽性菌には高飛車に出るけど、グラム陰性桿菌にはからっきし弱いどころか、全くの無能。
[適応]MRSA感染創や深い褥瘡等
[適応]手の指、皮膚の消毒、術野の消毒、(粘膜以外の)創傷部全般
[適応]手の指、皮膚の消毒、術野の消毒、創傷部全般
[適応]浅い感染創etc.
[適応]深い感染創etc.
[適応]褥瘡や潰瘍etc.
所謂、塗り薬って代物達。
塗り薬には、軟膏とクリームの2種類があります。びらんや潰瘍がない皮膚には、軟膏よりもクリームの方が、じと~っと浸み込み易いって特徴があり、効果が高いモノとされています。しかし、ジグジグと汁(浸出液)が浸み出して来る様な、びらんや潰瘍部にクリームを塗ると、成分である乳化剤が刺激となって、却って悪化の憂き目に(笑)。更には、感染を伴う創にクリームを塗ると、折角体の外に排出したバイ菌を、もう一度傷に浸透させてしなうなんて、笑うに笑えない状況が起こってしまいますから、軟膏がお約束の形状です。
活性のない壊死組織の化学的デブリードマン
- ブロメライン軟膏 超強力で周りの皮膚に付くと被れちゃうって代物だけど、馬鹿とハサミは使いよう的に良い仕事をしてくれる軟膏。干物状態に硬くなってしまった壊死組織に突破口を開けたい時に、オススメ。
- ゲーベンクリーム 自己融解によるデブリードマン促進するのと同時に、抗菌作用があるので、安心の逸品。抗菌作用のある塗り薬の中で、一番深くまで到達するモグラ能力に長けたお薬です。
感染や炎症の制御
- ユーパスタ、イソジンシュガーパスタ等 HISAKOも大学病院で働いていた頃は、褥瘡(床ずれ)回診なるものがあり、随分とこの手のヨウ素を徐々に放出する系のお世話になりました。持続的な殺菌力と、多過ぎる浸出液を吸収してくれる能力は、他の追随を許さず、四半世紀たった今でも健在です。
- カデックス軟膏 前者のポビドンヨード・シュガー製品よりも、ポビドンヨードの濃度が高い。つまり、殺傷能力に優れるって意味です。
不適切な湿潤環境の改善
- アクトシン軟膏 局所血流改善作用とか肉芽形成作用、マクロゴール基材による浸出液の吸収作用と、とっても良いお薬なんだけど…、不適切な湿潤環境を改善し過ぎるので、乾燥している創に使うのはちょっと難しいかも。
- 亜鉛華単軟膏
上皮化の遅延の改善
フィブラストスプレーは、創傷治癒過程の炎症期から再構築期まで広く作用します。特に肉芽形成期には血管新生作用と線維芽細胞増殖促進作用により、新生血管に富んだ良性の肉芽を形成させます。その作用機序は血管内皮細胞や線維芽細胞のFGF受容体を直接刺激することにより効果を発現します。また、表皮細胞に対する効果も期待出来ます。一方、プロスタンディン、アクトシンなどの従来の薬剤の主な作用機序は、血管の拡張作用で、創面の血流を増加させて間接的に肉芽組織の増殖を促す事にあります。
このように、フィブラストスプレーは従来の薬剤とは全く異なり、直接作用により血管新生作用及び肉芽形成促進作用、表皮細胞増殖作用を発揮する事から、創傷治癒促進剤として位置付けられます。
- オルセノン軟膏 強い肉芽形成作用があり、感染創に対しても、同じ基材のゲーベンクリームとタグを組んでの積極的戦も得意。浸出液が多いと、ちょっと手間取るところが微笑ましい。
- フィブラストスプレー 強力な血管新生作用・肉芽形成作用があるので、HISAKOは結構大好きなんですが、成分であるbFGFは、細菌までも増殖させちゃう猪突猛進!タイプ(笑)なので、幾らゲーベンと組ませたからと言っても、流石に高度の汚染創や感染創には使えません。
- プロスタンディン軟膏 局所血流改善作用、肉芽形成作用、表皮形成作用が特徴で。中でも局所血流改善作用に優れ、血流の悪い皮弁状の傷にも良いんですが…、過ぎたるは猶及ばざるが如しと言うべきか…、出血しちゃう事も。
過剰肉芽の抑制、過剰な炎症の抑制
創の治る経過で、まるで熟れたラズベリーみたいな過剰な肉芽が増殖してしまうなんて事はままあります。こんな時には、水戸のご老公の印籠ではありませんが、局所の血管を収縮させてくれるステロイド軟膏が一番。ヤケド(熱傷)の様に、過剰に炎症が起こる傷の初期治療にも最適なんですが、局所の免疫抑制作用があるので長期間の使用は出来ませんが、まあ、総じて、世間が敵視する以上に良いお薬です。
創傷被覆材
近頃の創傷被覆材は、日進月歩。兎に角、凄い進化を遂げています。浸出液を適度に吸収したり、細菌が増殖し難い環境の整備に努めたりと、正に至れり尽くせりのコンシェルジュ。傷パワーパットが有名ですが、分類上”医療材料”に過ぎないので、当然ながら健康保険の適応はないにも拘らず、結構お値段もお高い。更には、貼りっ放しにしておくと、取り替える時に悪化してたりと、ビックリ箱的な面もあるので、過信せず、貼っている間も注意が必要です。
フィブラストスプレーについての、補足。
お肌の若返りや育毛分野に於いて、成長因子を利用した治療は今は美容系では常識ですが、勿論、お堅い保険治療業界でも同じです。プラセンタ(美容通信2009年2月号)やACR(美容通信2006年12月号)、AAPE(美容通信2009年3月号)、ベネブ(美容通信2012年6月号)、リジェンスキンマスクパック(美容通信2009年8月号)等の特集でも触れましたが、bFGFは、数ある成長因子(サイトカイン)の1つです。強力な血管新生作用・肉芽形成作用により、傷がとっとと治るので、後述する肥厚性瘢痕や瘢痕拘縮の予防にとっても効果的とされています。
何で、効果があるの?
先ずは、右の図を見て下さい。フィブラストスプレーの主成分であるbFGFは、正式なお名前がヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth facter)と言うんですが、その優れた血管内皮細胞や線維芽細胞、表皮細胞の増殖促進作用により、傷をとっとと治す事を生業としております。
フィブラストスプレーが、創傷治癒過程に重要な肉芽を形成しているのが分ります? それも、不良な肉芽じゃなくて、新生血管に富んだ良性の肉芽なんです。エライですね。更に、再構築期に於いては、表皮細胞増殖作用により上皮化を促します。
- 上皮化促進作用⇒潰瘍面積の縮小
- 線維芽細胞増殖作用⇒肉芽形成の促進
- 血管新生作用
- マトリックス分解酵素の活性化
- 血管内皮細胞の遊走
- 血管内皮細胞の増殖
- 血管腔の形成
創傷治癒過程で見る、図説フィブラストスプレー
フィブラストスプレーを使用した場合と、使用せずに傷の治りが悪くなってしまっている場合では、創傷治癒過程でどんな違いが起こっているのでしょう。
纏めると、左図の様になります。創傷は、上図の如くに、炎症期、増殖期、再構築期の過程を経て治癒に至り、各期は互いにオーバーラップしながら進行します。この過程の中では、初期反応である炎症期と血管新生及び肉芽形成が行われる増殖期が最も重要とされています。しかしながら、強欲なフィブラストスプレーは、炎症期&増殖期のみならず、創傷治癒過程の全ての時期に作用する製品です。炎症期には炎症性細胞の浸潤、遊走を促進し、増殖期には血管新生作用と肉芽形成促進作用を示し、再構築期には、表皮細胞を増殖させて表皮形成を促進と、その持続力には頭が下がる気がします。
優等生の肉芽の形成に必要な血管新生について
ウサギの角膜を用い、血管新生作用を検討する方法を示しています。この写真はウサギの眼にトラフェルミン(フィブラストスプレー)を染み込ませたペレットを埋め込んだ際のものです。
【方法】トラフェルミンを染み込ませたペレット(矢印部)を白色ウサギの角膜実質内に埋め、輪部よりペレットに向かって伸びる新生血管の長さを測定しました。
【写真解説】
[左] ペレット(トラフェルミン1μg含有)埋め込み4日後。周囲(輪部)からペレットに向かう新生血管が確認出来ます。
[右] ペレット(トラフェルミン1μg含有)埋め込み8日後ですが、以前にも増して、著明な血管新生が認められます。
次に、トラフェルミン(フィブラストスプレー)の血管新生作用を褥瘡・皮膚潰瘍治療剤の既存薬の有効成分と比較検討してみました。
【方法】トラフェルミン及び各種薬剤を染み込ませたペーパーディスクをラットの背部皮下に埋め、7日後にディスクを取り出し、その周囲に形成された血管新生の指標として肉芽中のヘモグロビン量を測定しました。
【結果】トラフェルミンのみ、対照群に比べ有意なヘモグロビン量(新生血管の指標)の増加を示しました。更に、トラフェルミンは他の薬剤に比べても有意にヘモグロビン量を増加させました。この様に、トラフェルミンは現在臨床の場で使用されている褥瘡・皮膚潰瘍治療剤と比べ、強力な血管新生作用を有することが明らかになりました(←どうだ! 凄いだろ!)
*この図は、2つの試験結果を1つにまとめたものです。即ち、申請時にはトレチノイントコフェリル、ブクラデシン、塩化リゾチーム、白糖・ポビドンヨード配合製剤との比較試験(左部分)を実施し、その後アルプロスタジルアルファデクスとの比較試験(右部分)を追加しています。
優等生の肉芽自慢をさせて下さい。
左の写真はラットの背部皮下にトラフェルミン(フィブラストスプレー)を染み込ませたペーパディスクを埋め込み、そこに絡み付いた肉芽組織を取り出したものです。
【方法】トラフェルミンを染み込ませたペーパーディスクをラットの背部皮下に埋め、7日後にディスクを取り出し、その周囲に形成された肉芽組織の乾燥重量を測定しました。
【写真解説】トラフェルミン投与により用量依存的に肉芽形成促進作用が認められています。0.3μg以上のトラフェルミン投与群で、統計学的に有意差が認められました。
性格が悪いと誹りを受けそうですが、トラフェルミン(フィブラストスプレー)の肉芽形成作用を褥瘡・皮膚潰瘍治療剤の既存薬の有効成分と比較検討しました。まあ、肉芽自慢って奴です。
【方法】トラフェルミンおよび各種薬剤を染み込ませたペーパーディスクをラットの背部皮下に埋め、7日後にディスクを取り出し、その周囲に形成された肉芽の乾燥重量を測定しました。
【結果】トラフェルミンは、対照群に比べて有意に肉芽乾燥重量を増加させました。塩化リゾチームには残念ながら負けてしまいましたが、他の有効成分よりは全然マシな結果だったぜぃと胸を張って生きています(笑)。強引な結論ではありますが、トラフェルミンは現在臨床の場で使用されている褥瘡・皮膚潰瘍治療剤と比べ、強力な肉芽形成促進作用を有することが明らかになりました(←凄いだろう!)。
*この図は、2つの試験結果を1つにまとめたものです。即ち、申請時にはトレチノイントコフェリル、ブクラデシン、塩化リゾチーム、白糖・ポビドンヨード配合製剤との比較試験(左部分)を実施し、その後アルプロスタジルアルファデクスとの比較試験(右部分)を追加しています。
創傷治癒過程が大幅に短縮するだけじゃなく、綺麗に治る!
bFGFの増殖前期モデルに於ける創収縮に対する作用についての実験結果です。コラーゲンゲルに線維芽細胞をばら撒いて、創傷治癒の初期段階に於いて、どんな風に傷が収縮するのかを再現してみました。bFGFはコラーゲンゲルを収縮させるんですが、その効果は、bFGFが多けりゃ良いって単純なお話ではなくて、1ng/mlの濃度の時が一等賞だったんですって。へぇ~。
今度は、bFGFの線維芽細胞運動に関わる命令系統を解明するぞ~って事で、色んなお偉い先生方が鳩首会議をしたそうです。PI-3kiaseインヒビター(LY294002)、Rhoインヒビター(C3 exotransferase)、Rho kinaseインヒビター(Y27632)で抑制された事から、bFGFは、PI-3kiase→Rac→Rho→Rho kinaseインヒビターの経路を介して、線維芽細胞を活性化してる事が判明致しました。「だから~ぁ?」なんて、言わないで下さいね。
昔から、別に理由はないんですが、bFGFの表皮角化細胞に対する作用なんて有るんだか無いんだか…って程度にしか思われていませんでした。まあ、結構、侮られていたんです。ところがどっこい、実は、ヒト角化細胞がⅠ型コラーゲン上に接着している場合には、bFGFによりラメリポディア(仮足)の形成が認められ、Racの活性化を介して遊走能を亢進させたんです。
この事から、bFGFはコラーゲンを足場とした表皮角化細胞の遊走能のお尻を押してくれる、強力なサポーターって事が判明しました。
筋線維芽細胞を用いて、bFGFが及ぼすゲル収縮能を検討しました。bFGFは、筋線維芽細胞含有コラーゲンゲルの収縮を促進しませんでした。創の収縮に関与すると考えられるミオシン軽鎖のリン酸化について、線維芽細胞と筋線維芽細胞の両者間で比較したところ、bFGFは線維芽細胞に対してミオシン軽鎖のリン酸化を促進したが、筋線維芽細胞についてはこの効果はみられなかった。つまり、bFGFは、創傷治癒過程晩期の創収縮に重大な影響を及ぼす、筋線維芽細胞による創収縮を促進しない。これは分り易く言うと、皆が困っちゃチャンと考えている肥厚性瘢痕、瘢痕拘縮等を起こし難くしているって事なんです。す、凄~い!!
今回の試験は、従来の薬剤(オルセノン)とフィブラストスプレーとの比較しています。患者の危険要因を一定にし、体圧分散マットレスや看護体制を一定にした条件下で実施しています。即ち、純粋に薬剤の効果のみを評価することになります。この症例は、危険要因3点、体圧分散マットレスは高機能タイプのビッグセルを使用しています。
左の症例は、投与8週後に完治しています。投与4週後の写真のように、肉芽形成とともに上皮形成も促進されています。
一方、右の症例は従来の薬剤、オルセノンの使用例です。患者の背景は、フィブラストスプレーの場合と同様で危険要因3点、体圧分散マットレスを使用しています。このように、条件を一致させた環境下で行っています。投与1ヶ月後までほとんど変化がなく、2ヶ月後より創面の収縮がみられ、治癒までは5ヶ月かかっています。
*危険要因とは、褥瘡の発症に関与している意識状態、病的骨突出、浮腫、拘縮の4つの要因を言います。各項目の程度を点数化し、その合計点数を危険要因としています。
本研究結果は、現在進行中のフィブラストスプレーの大浦自主研究の中間結果です。中間の内容となっていますが、5月の国際創傷治癒学会(アメリカ)および8月の日本褥瘡学会で発表しております。
この研究は、フィブラストスプレーの褥瘡対する効果を新しい評価法で実施しています。以下に、「褥瘡の新しい評価法」とそれを用いたフィブラストスプレーの臨床効果について説明します。
「褥瘡の新しい評価法」
褥瘡の薬物治療の評価には、患者の管理(体圧分散マットレスの使用の有無、基礎疾患の管理、栄養管理、体位変換など)、患者の背景因子並びに褥瘡の状態などが非常に効果に影響を及ぼすことが分かってきています。そこで、この試験では患者の危険要因、環境要因(体圧分散マットレス、体位変換など)などを一定にして、薬剤の効果のみを検討することを目的としています。
「フィブラストスプレーの臨床効果」
今回の試験は、フィブラストスプレーの処方群と非処方群の2群間の比較を行っています。また、患者の背景のバラツキを最小限にするために、両群各症例の危険因子や環境因子を一致させています(ペアリング)。今回は、100症例の内で23組(フィブラストスプレー群:23症例、対照群:23症例)の解析結果を報告しています(現在、症例を追加しています)。投与期間は6週間を基本として最大8週間としました。また、観察項目は「滲出液の料」、「壊死組織」、「深さ」、「肉芽組織」、「創辺縁」、「上皮形成」、「ポケット」、「潰瘍の表面積」(各項目のスコアは、PUHP(大浦)によります)です。
このグラフは、8項目の結果を主成分分析により総合評価を行っています。その結果、フィブラストスプレー投与群はコントロールに比べ治癒期間を1/2に短縮しました。即ち、コントロールで6週間で得られた治癒効果はフィブラストスプレー投与群では3週間で得られていることになります。この結果は、フィブラストスプレーは治癒までの期間の短縮をエビデンスとして発表した最初のものです。
新しい傷 Vs 古い傷
傷には、新しい傷と古い傷の2種類があります。新しい傷の中でも比較的軽微なものは、ある意味何にもしなくても、つまりはあれ、放置プレイって奴ですが、勝手に治ってしまいます。この様な傷は、以前の”創傷治癒”(美容通信2004年5月号)でも触れましたが、組織損傷、出血、凝固、炎症、増殖、再構築と言う創傷治癒の過程が滞りなく進むので、多くは3週間以内に治癒します。挫創、裂創、擦過創、熱傷等々がこれに該当するとされてはいますが、感染等の何らかの障害(創傷治癒阻害因子)が発生し、創傷治癒過程が恙無く進行しなくなると、傷の治りが悪くなり、つまりは慢性創傷に容易に豹変!してしまいます。
今まで、”創傷治癒”と言えば、新しい傷(急性創傷)の傷の治り方を基に、理論が構築されて来ました。ところが、石を投げれば爺婆当たる!と揶揄される超高齢化社会の到来と共に、やれ糖尿病だ!、床ずれだ!、何だかんだと茶茶が入り、急性創傷とは病態生理学的に異なる傷の治り方をする慢性創傷の存在がクローズアップされる様になって来ました。
新しい傷の治り方と古い傷の治り方
新しい傷ってもんは、傷を負っても、とっとと治ります。急性炎症が起こり、マクロファージの活性化により、増殖因子が増加して、細胞増殖、線維増殖、血管新生が起こり、組織が再構築されて治癒に至ります。ところが、古い傷は、何らかの創傷遅延リスクファクターが治癒過程で働き、炎症が何時までも収まらず、炎症性のサイトカインが垂れ流し状態のまま長期間に亙って続くと共に、細胞外基質プロテアーゼが必要以上に増加し、プロテアーゼインヒビターが低下します。これにより、過剰な増殖因子分解、上皮化の障害が起こり、傷が何時までも治らないなんて悲しい羽目に陥ります。
何がソナタを古い傷に貶めたのか?
古漬けのような慢性創傷にだって、初々しいフレッシュな傷の時代もあったはず。それなのに、何が道を誤らせてしまったのか。女性週刊誌ならずとも、とっても興味がありますよね。
”創傷治癒阻害因子”には、局所的な要因と、全身的な要因の2種類があります。
局所的な要因
- 壊死組織 バイ菌の温床となるだけでなく、壊死組織自体からエンドトキシンなる毒ガスを放射して、とっても有害!
- 汚染そして感染 バイ菌は、ホント、始末に悪くて、定住して子作りをし始めると、もうバイオフィルムなる核シェルターを形成して、消毒液から身を守ります。
- 低酸素 過度の圧迫や低体温、血栓や糖尿病…。酸素もロクにない環境で、コラーゲン沢山作って、傷をとっとと治せと言われても…ね~ぇ。
- 腫瘍 出来物がありゃ…、そりゃ邪魔だわなぁ。挙句、それが潰瘍化した日には…、浮かばれない!
- 乾燥 乾かして、瘡蓋なんぞが出来てしまうと…、傷の縁の方から表皮細胞が侵入する妨げになる。
全身的な要因
- 糖尿病 糖尿病を患っている患者さんは、赤血球の変形能が低下しているので、血液粘稠度が増し、組織に十分な酸素が行き届きません。更に、好中球マクロファージの機能低下があるので、バイ菌に付け込まれ易く、気の毒ですが、Wパンチで底なし沼の予感すら漂う…。
- 低栄養・ビタミン微量元素不足 栄養療法は基本中の基本だぁ! 創傷治癒の増殖期には多量の蛋白質が必要で、充分な蛋白質量を確保出来なければ、当然の事ながら、外力に対して脆い瘢痕組織にしかなれない。ビタミンAは表皮形成に必須だし、Cや銅はコラーゲン合成過程になくてはならない栄養素。亜鉛に至っては、無いと肝心要なDNAの合成すら出来ない。
- ステロイド ステロイドの過剰投与は、炎症期、増殖期、再構築期に夫々影響を及ぼし、創傷治癒の足を引っ張ってしまいます。が、ステロイド事態を目の敵にして、全てを排除するなんて過激な拒絶は却って損で、適量の使用は創傷治癒に有害な過剰な炎症を抑制する作用がある為、傷の治りを早めてくれるんですよ。
古い傷をとっとと治す為に~”WBP”って概念について
古傷の病態生理的観点から考えると、以下の様な要因が考えられます。
- 角化細胞の問題 角化細胞が肝心要の創のど真ん中まで遊走して来れない。つまり、足止めを喰った細胞達が、傷の辺縁でもこもこと異常増殖を繰り返し、土手が出来る…。
- 線維芽細胞の問題 古い傷の線維芽細胞は、悲しい事に、もう老いぼれで反応に乏しく、傷を治す為に必要なフィブロネクチンを始めとする接着性糖蛋白の合成がロクに出来ない…。
- 浸出液の問題 後でも述べますが、過剰な浸出液も曲者です。①細胞増殖抑制・細胞有害作用、②炎症性サイトカインが高値継続、③蛋白分解酵素による上皮化の遷延を起こします。
- 低酸素・代謝障害等の問題 細胞や浸出液が正常でも、供給される血流が低下して低酸素を生じたり、代謝異常が起これば、当然、傷の治りは遅くなります。
その浸出液、善玉? 悪玉?
右図を見て下さい。TIMEコンセプトに於けるMは、moisture imbalance(湿潤のアンバランス)の調整です。干物と見紛う様な乾燥状態も、水没してふやけ切った状態も、過ぎたるは猶及ばざるが如しで、何事も中庸、程良い湿潤バランスが大切です。その為に、前述の様な創傷被覆材を多用したりします。
そもそも、”湿潤創傷治癒(moist wound healing)”って概念が導入されるようになったのは、1962年のウィンタース博士の動物実験報告からです。そこで、湿潤な環境の創の方が、乾燥した環境の創よりも2倍早く治る事が証明されたんです。更に、1985年になると、Eaglsteinが、浸出液で湿潤環境が保たれると、創は40%早く治る事が証明され、ブームに一段と加速が付く様になりました。
ところが、その勢いに陰りが見える様になったのは、2000年頃から。どうもこの湿潤神話は、古い傷には当て嵌まらないらしいって事が盛んに指摘されるようになって来ました。浸出液の質が問われる時代に移って来たのです。
新しい傷の浸出液は、所謂、善玉浸出液と言われるもので、PDGF TGF-b、INF-a、IL-1等のサイトカインが多量に含まれ、傷の治りを強力に推し進めてくれます。ところが、古い傷の浸出液は、言ってしまえば悪玉浸出液以外の何物でもなく、細胞外マトリックスや成長因子をぶち壊し、炎症期を遷延化し、細胞の増殖を抑制します。ですが、悪玉だからって排除し過ぎると…、傷が乾燥し、治りが遅くなってしまいます。つまり、古い傷に於いては、浸出液は多過ぎず少な過ぎず、程よいバランスを保つ事が肝なんです、はい。
スキンケア
怪我や手術後のスキンケアは、とても重要です。抜糸したら傷は治った!なんて早とちりをする輩が、一般ピープルの大多数を占めている様ですが、実はこれは大間違い。創傷治癒過程は、抜糸時期である受傷後1週間程度で完了するものではなく、瘢痕の成熟には、更に1年近くの年月を要するものなのです。ですから、その期間は半来はスキンケアをちゃんと行う事が、”綺麗な傷”への最短ルートなはずなのですが、残念ながら、経過途中で何らかの問題、例えば肥厚性瘢痕だとか、ケロイドを形成して、初めて治療をしなきゃ!と思い立ち、行動に移場合が殆どです。スキンケアは、傷があってもなくても、病気の予防やアンチエイジングの観点から、受傷後半年から1年なんてケチな料簡は起こさず、永続的に行うのが本来の姿なんですけどぉ。
術後の、若しくは受傷後のスキンケアとしては色々挙げられますが、四天王と言えば、①局所の安静(テーピング、ドレッシング)、②保湿、③紫外線防御、④禁煙でしょう。健全な創傷治癒過程が進行する事が、”綺麗な傷”の第一歩なのですから。
局所の安静
”局所の安静”が、何故重要か? Huntの創傷治癒に関する因子のうち、「緊張」を解除する事が先ず一つとして挙げられます。更に、緊張の掛かった傷は、緊張の掛かっていない傷より血流が悪い。つまり血流面でも安静は有利なんです。
局所の安静の方法としては、テーピングやサポーター、シリコンジェルシートがあります。シリコンジェルシートは、安静のみならず、次章で述べる保湿の観点からも効果的♪
保湿
傷あとって代物は、経皮的水分喪失量(transepidermal water loss:TEWL)が増大しております。Suetakeらによると、瘢痕組織に於いては、受傷後400日、即ち1年以上も水分喪失量が正常皮膚よりも多かったんだそうな。ほ~ぉですよね。まあ、傷跡(瘢痕組織)に保湿剤を塗付するって事は、皮膚が失う水分を補給する、或いは角層のバリア機能を補充するって意味があります。クリニックでは、エンビロン(美容通信2004年11月号)やAKクリームの他、ひつじ★みず(美容通信2004年11月号)、バイオイル(美容通信2013年6月号)等の取り扱いをしています。
紫外線防御
紫外線に当たると、傷の治りが悪くなるのは周知の事実。線維芽細胞によるコラーゲンの産生が紫外線によって抑制されるんなら、そりゃそれで過剰な瘢痕が出来なくて良いんじゃないかいなんてふっと心の迷いを感じるかも知れませんが、実は、そうはどっこい。紫外線を傷に照射しても瘢痕の産生量は変わらず、又過剰に産生されちゃった肥厚性瘢痕を抑制する効果もありません。寧ろ、色素沈着を来して傷が目立ってしまう羽目に陥ります。
Haedersdalらは、マウスの皮膚にレーザーを照射して穴を開け、レーザー照射前又は後に紫外線を照射して、傷を病理組織的に検討したんだそうです。レーザー照射後に紫外線を照射した群は、レーザー照射の前に紫外線を照射した群&何にもしない群と比べて、明らかに傷の治りが悪かったんだそうです。更に、可哀相な事に、高度の線維化が認められ、色素沈着も強かったんだとか。も~っ、踏んだり蹴ったりの紫外線の悪影響ですね。
紫外線の性悪話については、光老化(美容通信2003年7月号)(美容通信2003年8月号)の特集を読んで頂くとして、クリニックでは、塗る日焼け止め(美容通信2004年11月号)とUVカットのシールに飲む日焼け止め(美容通信2012年10月号)の併用、ハイドロキノン入りのコンシーラー等で対応をしています。
禁煙
煙草は、局所の血液循環を抑制し、傷の治りを悪くします。禁煙(美容通信2008年7月号)(美容通信2006年10月号)しましょう!
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
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