HISAKOの美容通信2013年9月号
ロングパルスヤグレーザー~脱毛etc.
波長1064nmのロングパルスNd:YAGレーザーは、色素に吸収されるレーザーの中では最も波長が長く、深達度が高いと言う特性があります。それ故に、従来の脱毛レーザーと比較して、色の濃い部分(I/V/Oラインや乳輪)、色黒の人(ダークスキン)、男性の青々としたヒゲに対し、安全で効果的な照射が可能となりました。
又、メラニンとヘモグロビンの両方に吸収されると言う、他のレーザー機器にない特性を持っているので、色々と楽しい使い道があります。
例えば、一般ところとしては、リフトアップやスキンタイトニング、赤ら顔の改善等が有名ですが、爪水虫や尋常性疣贅、ケロイド・肥厚性瘢痕なんかにも使えます。
クリニックに新しい脱毛の機械がやって来ました。GentleMax Proと言います。従来のロングパルスアレキサンドライトレーザーにロングパルスヤグレーザーを搭載した器械です。 でも、実はオマケ的に搭載されているにも拘らず、意外に働き者のロングパルスヤグレーザー。今月号は、脱毛だけじゃない魅力についても、言及したいと思っております。
ハイパワーヤグレーザーで脱毛
GentleMax Pro(右図)は、従来のロングパルスアレキサンドライトレーザーにロングパルスヤグレーザーを搭載した器械です。本来Nd:YAGレーザーは、手術用のレーザー装置として連続発振にて凝固・蒸散・切開目的に使われていましたが、1064nmの波長は、①深達性に優れており、皮下組織まで光が到達する、②メラニンへの吸収度はアレキサンドライト、ダイオードよりも低い為、表皮メラニンへのダメージが少なく、安全である、③色素レーザーには劣るものの、血液中の酸化ヘモグロビンにも吸収される等の特徴があり、これらの特性を最大限利用すべく、ロングパルスのヤグレーザーが皮膚科・形成外科領域でも盛んに使われるようになって来たのです。
レーザー脱毛に関して言うと、表皮でのロスが少なく、より深部までレーザーエネルギーを伝達する事が可能なので、従来のロングパルスアレキサンドライトレーザーによる脱毛(美容通信2006年2月号)に比べ、ちょいハゲ隠しでスキンヘッドを希望するおっさんにも、髭の剃り跡が妙に青々しい髭男子、若しくはおらが村のカールおじさんの様なクマ面に、より安全で効果的な脱毛が可能となりました。勿論、色黒さんや、黒ずんだおケツの穴周り(Oライン)、恥ずかしいアソコの辺りの陰毛ちゃん(Iライン・Vライン)、乳輪周りの剛毛…等々にもバッチリ!です。
キャンデラ社提供の症例を供覧しますね。
HISAKOのクリニックでは、2003年の開業当時より代替わりしながらも、ず~っとこのGentleLASE。大昔、日本で最初に導入されたLPIRと異なり、Dynamic Cooling Device(DCD)と言う強力な冷却装置が付いているのが特徴的な機器です。この冷却装置は、DCD40/20msecならばレーザー照射前に40m秒間冷却ガスが噴射され、その後20m秒遅れてレーザー光が照射されると言う、謂わばプレクーリングの装置です。これにより、治療効果を損なうことなく表皮を冷却出来るようになり、ヤケドの危険性が著しく低下しました。
②ダイオード
有名どころとしては、LightSheer(波長800nm)やSoprano XL(波長810nm)かな。後者は、通常の1回照射による脱毛治療が行えるシングルショットモードの他、SHRと言う独自の照射モードを持っています。SHRは毛自体のメラニン色素によらず、レーザーの熱で毛包を変性させ、脱毛効果が得られるって、理論なんだそうです。この方式では、毛包そのものをターゲットにするので、毛周期や毛の太さに影響され難く、産毛、白髪、金髪にも非常に高い効果を得られるんだそうですが、作用機序は不明な点が多いのも事実。
③Nd:YAGレーザー(波長1064nm)
HISAKOのクリニックに新顔として登場したGentleMa Proは、①のアレキサンドライトレーザーと、③のNd:YAGレーザーの両者を搭載したレーザー機器。 Nd:YAGレーザーは、波長が最も長い為、皮膚の深部にまで光が届くが、メラニンへの吸収性は低い為、高出力を要します。しかし、メラニンへの吸収性が低い事は、即ち、皮膚色の濃い人若しくは部位に安全に脱毛が行えることを意味します。GentleLASE時代のDCDって強力な冷却装置も健在だし、後述の様な中空照射モードによるお肌の若返りや血管病変の治療にも使える汎用性の高さがウリのレーザーです。
レーザーシャワーで、リフトアップ・スキンタイトニング・スキンリジュビネーション
皮膚の赤味や肌質改善、毛穴開大の軽減を目的とした治療の1つに、ロングパルスヤグレーザーを中空照射する方法があります。真皮乳頭層に熱を加え、コラーゲンの産生を促し、キメを整え、お肌のハリ感がUPします。又、真皮上層部の微細血管に作用するので、大人女子に付き物の赤ら顔の改善効果って付録にも御期待下さい。
治療は4週間毎に行います。基本的には、6回で1クールになります。1回の治療は10~15分で終了。お肌のハリや、ふっくら感は照射直後から実感出来ますが、単発だとその場限りのお話になってしまいます。他の施術と一緒にでも単独にでも構いません。兎に角繰り返すのが肝要です。
治療直後はほんのりとした赤味が出ますが、数時間で消褪する事が殆どです。ダウンタイムがないので、これだけでお化粧をしてすぐ帰っても○だし、他の施術のお通しとしても使える優れものです。
以下は、キャンデラ社からの提供の症例写真です。唯、白人は中空照射ではなく、接触照射が主流です。それ故に、アメリカのレーザー医学会等では、RFと同等若しくはそれ以上の効果を期待出来るとの報告が多数寄せられている訳で、中空照射だと後述の日本人の症例をご覧下さいになりますです、はい。あ、接触照射は、マジに痛いので、麻酔なしでは不可能です。悪しからず。
日本人の症例は、中空照射なので、白人程には目に見えた差は無い気がするが…、まあ、悪くはないんじゃないかと思う。赤ら顔にはいいね♪
ロングパルスヤグレーザー(ロングパルスNd:YAGレーザー)は、今までは脱毛やスキンリジュビネーション(皮膚の若返り)等の美容皮膚科領域のレーザーってイメージが強かったんですが、最近は一般皮膚科治療の分野まで適応が広がりつつあります。
爪白癬(水虫)の治療
爪水虫(爪白癬)は、確かに若い人も罹るが、爺婆化に伴いじわじわと蔓延する、謂わば老人のお茶友的意味合いの強い疾患。多くは、足の水虫から始まり、皮膚から爪へとグレードアップするものなんです。爪が混濁・肥厚するので、見た目は確かに悪い。しかしながら進行すると、靴の中で圧迫され、歩く時にズキズキ痛い。酷くなると、布団の重みさえも耐え難い苦痛となり、更には周りの皮膚にも炎症を起こし、本当にロクな結末にはならない。
以前も水虫で特集(美容通信2004年7月号)(美容通信2007年7月号)しましたが、治療は内服が基本。唯、この飲み薬、肝臓の悪い人の肝臓は更に尻馬に乗って悪くするなんて性悪な所があるので、肝臓の悪い人はそもそも門前払いだし、勿論妊婦も適応外。まあ、肝臓に問題がない場合でも、結構薬に抵抗して決着が付かない輩もと言うか…輩の方が多かったりする(笑)。塗り薬は…、生爪を剥ぐなんて拷問を課さない限り、爪の上から塗ったって効果は上がらない。
ロングパルスヤグレーザーによる爪水虫(爪白癬)の治療は、近年では米国の足専門医の間でブームとなっており、先発のキュテラ社のジェネシスLaser Genesisは、2011年4月にアメリカのFDA(米国食品医薬品局)で承認されています。
実際の照射方法は左図の通り。爪甲全体と、両側辺縁部は側爪廓より2mm程度、近位部は後爪廓より4mm程度の皮膚にもレーザーを均一に中空照射します。照射中に多少の熱感を感じる以外は、疼痛や火傷を起こしたなんて例もなく、色素沈着等の副作用の報告もありません。過去に内服療法を行うも改善なく、放置されていた症例にも効果があったとの報告もあり、単独でも効果が認められますが、従来の内服療法や生爪剥しとの併用も可能で、更なる相乗効果を期待出来ます。「まあ、好い加減腐れ縁だし、痛くないんなら、やってみるかぁ」的に御検討下さいってスタンスですかね。
作用機序は、全て解明はされていませんが、爪甲に多量の熱を加える事で、熱にと~っても弱い水虫菌(←だって、50℃以上の熱で死滅するんだも~ん)が、死ぬ。同時に、熱刺激で爪甲の伸びが早くなると考えられています。治療は1~4週間隔に、1~3回が目安とされています。
尋常性疣贅(イボ)の治療
イボ(美容通信2007年6月号)の治療も、結構難渋します。ブレオマイシン局注法や5-FU軟膏等による外用療法、或いは液体窒素による冷凍凝固法や炭酸ガスレーザーによる蒸散、ハトムギ等を飲む、イボ地蔵詣で等の様々な方法がある。つまりは決定打がない(笑)って事です。
イボ(尋常性疣贅)の原因は、ヒト乳頭腫ウィルス(HPV)が、表皮基底細胞に感染する事から始まります。この縁も所縁もない余所者のイボのウィルスを養う為に、お人好しの私達は、せっせと真皮から栄養血管って名前の特別ルートを態々新設し、これを介して、イボ様に御馳走を貢ぎ続けます。何かどっかの霊能者にマインドコントロールされたタレントの話を髣髴とさせますが、ワイドショーで人の不幸を笑っている場合ではありませんね。ロングパルスヤグレーザー照射は、この真皮からの栄養血管を熱凝固させ、イボを兵糧攻めにする方法です。
しかしながら、爪水虫(爪白癬)と違い、レーザーは、空中照射ではなくて、表面に血が滲むまで削った患部(周囲1mmの辺縁の皮膚まで)に接触照射するので、痛いです。局所麻酔をしてまでって患者さんの方が多いので、クリニックでは麻酔をしない事の方が多いですが、痛がりさんなら予め麻酔薬を塗付しておいた方が無難かも。まあ、我慢出来ないって程の痛みではないって程度です。でも、”液体窒素等の従来の方法と比較してより効果の高い方法だ!”との報告も多数あり、痛みを我慢してでもやってみる価値は大いにありかな。勿論、従来の方法との併用も可能です。
韓国での臨床データによると、尋常性疣贅、爪周囲の疣贅、足底の疣贅(合計369部位)に対して、最高4回(平均治療回数1.49回)のロングパルスヤ グレーザーの治療を行い、治癒率は96%であったと報告されています。尋常性疣贅が最も良く効いており、1回の治療でも治癒率は72.6%。照射後3~4日で瘡蓋になり、1~2週間でこれが脱落します。主な副作用は、血腫が7%、色素沈着が5%、色素脱失は4%、その後の経過観察で(2~10ヶ月)によって再発したケースは3.3%だったとの報告です。
治療は4週間隔で、1~4回が目安とされています。
肥厚性瘢痕・ケロイドの治療
従来の内服や外用、ステロイドの局注、圧迫等の治療(美容通信2004年5月号)(美容通信2013年4月号)に、更に加えると効果的な一品。作用機序としては、ロングパルスヤグレーザー照射による熱上昇が、血管透過性亢進、MMP産生、コラーゲン線維束分解を起こして、ケロイド・肥厚性瘢痕の容量を減少させると考えられています。
肥厚性瘢痕やケロイドの治療に於いて、主に真皮内、コラーゲン線維塊上にある毛細血管層の赤い色に如何に効率良く吸収されるかが、大事なポイントです。このターゲットとなる血管は表面から0.25~1.0mm程の深さに存在し、更に深い所に存在するコラーゲン塊部分には血管成分が少ないとされていますし、ケロイド表皮下に存在する血管径は約10~25μmしかありません。クリニックで行っている様なロングパルスヤグレーザーによる低出力の中空照射では、最も熱エネルギーの変化が現れる深さは0.5~1.0mm程度との論文があり、これは正に毛細血管の多く存在する層=治療の目的部位に一致します。しかしながら、これは同時に、この層の周りだけって限局した範囲しかコラーゲ線維束分解が起こらない。つまり、深いコラーゲンの塊には歯が立たない(笑)。それ故に、分厚い肥厚性瘢痕やケロイドに対しては、プラスαの併用療法が必須になっちゃいます。
それ故に、正常の色に近く、所謂”赤い”組織が存在しない場合は、レーザーによって期待される熱の上昇が認められない為、適応にはなりません。
因みに、ロングパルスヤグレーザーの効果を具体的な数字で表す事は難しいですが、ケナコルト局所注射を3とすると、レーザーは1~3位の効果と言われています。
爪水虫の治療と同じ中空照射なので、熱いだけで痛くはありません。治療間隔は2~4週間。8週間以上治療間隔が開いてしまうと、一旦は改善傾向が認められていた瘢痕が元に戻る事が多いので、必要がなくなるまで続ける的な執拗さが要求されます(笑)。
但し、怪我による瘢痕で、異物が瘢痕内に残っているような場合は、適応がありません。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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