HISAKOの美容通信2011年1月号
リンパ浮腫の運動療法他
リンパ浮腫の治療に於いて、結構大事なポジションにあるのが運動療法です。
ところが、どんな運動をしたら良いのか意外と分ってない人が多いんですよね。
付録で、リンパ浮腫に合併し易い、急性皮膚炎や蜂窩織炎、線維化、脂肪組織の増大炎等についても載せときます。
新年、明けましておめでとうございます。
皆さん、元旦をどうお過ごしですか? HISAKOは、大晦日、増上寺の紙風船が除夜の鐘と共に舞うカウントダウンを見物に行ったので、ゆっくりお寝坊。つまり、目が覚めたら年が明けてた!
さあ、雑煮食べたら、正月三が日は、初詣と称して、神社を地味~に徒歩でハシゴするぞぉ!
前回リンパ浮腫の特集を組んだのが、2003年(美容通信2003年9月号)でした。治療の基本的な概念は変わりませんが、ちょっと紙面の都合上触れられなかった内容も多々あり、補足を加える事にしました。題して、”リンパ浮腫・補足Ⅰ~運動療法と、それにまつわるエトセトラ”です。
リンパ浮腫の治療概念
リンパ浮腫の治療は大きく分けると、外科的な治療と保存的な治療の2つに分けられます。ですが、両者は相反する治療方法ではなく、保存的な複合療法のサポートとして、外科的な治療が存在すると言うのが今の現状で、新しい術式若しくは治療法、例えば遺伝子や万能細胞を用いたリンパ管の再生医療等でも開発されない限り、術後に保存的治療の補助は必須です。リンパ浮腫治療法のゴールドスタンダードとしての複合的理学療法の地位は、1995年に国際リンパ学会(ISL)実行委員会の統一見解として発表された頃と、殆ど変わっていません。「手術的治療は未だに不完全であり、強力に施行された複合的理学療法には及ばない。」
現在HISAKOのクリニックでリンパ浮腫の治療として行っているのは、複合的保存療法です。(1)圧迫、(2)マッサージ、(3)スーパーライザー(美容通信2007年12月号)やプラセンタ(美容通信2009年2月号)のツボ注射(美容通信2009年4月号)、マイクロウェルダーを組み合わせた理学療法、(4)栄養療法(美容通信2007年3月号)、(5)高濃度ビタミンC等の点滴療法(美容通信2008年11月号)、(6)ホルモン療法(但し、ホルモン依存性の癌が現疾患の場合は適応外)(美容通信2010年12月号)(美容通信2010年9月号)(美容通信2010年8月号)、(7)内服、(8)運動慮法を含む生活指導等を組み合わせて行っています。これは、外科的治療を行なった場合でも、術前術後に関わらず、内容的には全く同じです。
つまり、手術(リンパ節の隔清)や放射線照射etc.で、今まで老廃物(蛋白質)を効率良くリサイクルセンターに運んでいた高速道路(リンパの本幹)が不通になってしまった‥。ですが、腕や脚と言った末梢組織は、本部からどんどんと送られてくる酸素や栄養の単なる消費の現場であしかありません。不法投棄しまうって選択肢は今時あり得ません(昔は、手術で強制排出しちゃってた様ですけどぉ‥。超過激!!)から、何時か高速道路が再び開通するかも知れないその日まで、建前上は、使用済みの老廃物をちゃんと倉庫に保管しとかなくちゃいけません。が、元々倉庫でもなんでもない一介の末梢組織(笑)ですから、屋外に野晒し状態で積み上げておくしかありません。でもそんな事をすれば、雨水を吸った老廃物は化けモンみたいに勝手に膨れ上がる(=リンパ浮腫)し、運が悪いと虫が湧く(=蜂窩織炎)。
リスクを負って保管し続けるのは、誰だって嫌です。高速道路が駄目なら、一般道でも、農道でも、獣道でも、リサイクルセンターに続く道(=バイパス)があれば、否、道がなければ道路を造ってでもと、考えるのが人情です。(3)の理学療法は、謂わば道路工事です。磁気と振動と温度をファジーに外側から加えるのがマイクロウェルダーなら、血流を改善し、交感神経をブロックし、現場の棟梁に的確な指示を出させるのが、スーパーライザーであり、プラセンタのツボ注射です(後述の様に、他にも仕事はしてるけど!)。冷たく硬く浮腫んだままでは、幾ら圧迫した所で、細くなりようがないんです。中と外から温めるのが、道路工事(理学療法)の基本です。
工事を少しでも恙無く進行させる為には、十分な材料を供給する必要があります。(4)の栄養療法です。元々、リサイクル用の蛋白質が末梢組織に溜まっていて使えない状態がリンパ浮腫ですから、低蛋白の患者さんが非常に多いのが現状です。HISAKOも、必死に毎朝プロテインを飲んでいるんですが、ちょっと気を抜くとスッコ~ンって感じで検査値が圏外に転落しちゃいます。その他にも、採血すると、やれ鉄が少ないとか、亜鉛が少ないとか、ボロボロ不足する材料が露見する事が多いです、ホント。
(5)点滴療法は、小回りの効く栄養療法のサポートとして働く事も多いですが、例えば高濃度のビタミンCの点滴(美容通信2008年11月号)は、コラーゲンを産生する時の必須の栄養素として働くだけでなく、癌の再発予防として、更には濃度を挙げる事で癌の治療の助っ人として行います。プラセンタ点滴は、乳癌で抗癌剤(ホルモン治療)を行っていて、明らかに女性ホルモン減少による他の諸症状に苦しんでいる患者さんにとっては、ホルモンもどきとして症状の緩和に繋がります。
そして、大事なのは、現場の効率を考え、人足の手配から材料の調達・配送、工程の調整、後片付けまでと、細かく仕切る中央指令センター的な存在。それがホルモンです。例えば、甲状腺ホルモン。代謝を高め、体温を上げてくれる効果があり、理学療法(道路工事)の大いなるサポーターです。ですが、唯でさえ爺婆化と共に減少するのに加えて、恐ろしい事に、プロゲステロンって名の女性ホルモンが低下する事で、T3がT4に変換が難しくなり、実際に働いてくれる活性を持ったT3の不足に陥ってるなんて事態も。因みに、プロゲステロンは、更年期が終わる頃には、完全に干上がって殆どゼロになりますし、HISAKOの様に子宮癌で子宮も卵巣も摘出されている患者さんでは、副作用の多い合成のプロゲステロンしか処方薬がない日本の保健医療体制(美容通信2010年8月号)では、若くして欠乏症に陥っています。天然ホルモンでの補充は、出来れば是非欲しいところ。余談になりますが、ホルモン依存性の癌に対する再発に対するリスク検査も、尿中の女性ホルモンの代謝産物を測定知る事で可能ですし、そもそも癌化の切欠ともなった活性酸素による細胞の損傷の受け易さ等も、遺伝子を調べれば分るので、ベースとしてのサプリメントや点滴等による弱点の補強(美容通信2010年10月号)も可能です。
ですが、こうして頑張って頑張って造った道路ですが、高速道路とは程遠い、バイパス(側副路)。まあ、所詮代用品ですから、例え道幅の狭い悪路であろうと文句は言えません。大容量を積載可能なトラックを諦め、リヤカーを引いて老廃物を運ばねばなりません。リヤカーのお尻を押して手助けしてあげようって言うのが、自宅やクリニックで行う(2)のマッサージです。
そして、忘れてはならないのが、(1)の圧迫。在庫調整です。正確には、老廃物が雨水を吸って膨れ上がらない様にするって事なんですが、大量に在庫が膨らめば、当然、幾らリヤカーで運び出したって間に合いませんものね、ははは。平成20年の4月からですが、お国も重い腰を上げて、弾性着衣(弾性包帯とかストッキング、スリーブetc.)も医療保険からの給付を認めましたしね。リンパ浮腫治療上、絶対必須のアイテムです。
排液効果を高めてくれる運動を極める
日々の日常生活の指導として、排液効果を高めてくれる運動療法は欠かせない重要アイテム。ポイントは、弾性包帯や弾性着衣を装着した状態で、如何に運動を行うかって事なんです。
リンパ浮腫は、何度も繰り返しますが、表皮から筋膜までの間に水分が溜まる事で起こる浮腫みです。ですが、どこも同じ金太郎飴的な平板な皮膚の状態って言う訳では当然なくて、硬くなっている所や柔らかい所が斑というか大陸状に混在する、不均一ワールド♪ ですから、こんな状況に、むやみやたらに圧迫療法と称して包帯をぐるぐる巻きにして圧迫を加えたって、不公平感が募るだけで、結果が出るはずありませんよね。理学療法(プラセンタのツボ注射、スーパーラーザー等を含む)やマッサージを加えて、カチンコチンに冷たく硬くなった皮膚や皮下組織を柔らかく解し、局所のうっ滞液を正常な循環に誘導するのが、最大の前提。その上での、圧迫療法であり、その効果をupさせるのがお家でする運動療法なのです。まあ、クリニックでは、希望者に対してのみの追加メニューですが、理学療法やマッサージ等の後、最後の〆的に行っています。
左の図を見て下さい。元々リンパ管には、尺取虫みたいに自分でリンパ管の壁を収縮させて、と言っても1分間に約10回と超ゆっくりペースですが、リンパ液を運搬する、謂わば”自動運搬システム”が備わっています。ですが、このペースは固有ってモンではなくて、必然性があれば、UPする。落ち目の女優さんが、「必然性があれば、脱ぎます」と言い放つのとはちょっと意味合いが違うけど、刺激すればいつもの10~20倍位は平気でイケちゃうモノなんです。動脈の拍動リズム、呼吸や消化管運動、筋肉の収縮(筋ポンプ)、関節運動、マッサージ、そして弾性包帯や弾性着衣等々の外圧を加えられると、菅総理の様な柳腰(弱腰?)対応をするのではなく、リンパ管は俄然ハッスルして流れを速めるんです。つまり、運動による筋収縮と弾性包帯によるダブル外圧で、排出効果を高めるのが運動療法の真髄なのであります。特に、下肢のリンパ浮腫では、下垂する事による重力の悪影響を受け易いですしね、圧迫下での運動療法は必須です。
リンパ一族の家系図
ここで、皆さんの頭がウニにならないように、少し復習になりますが、リンパ一族の主従関係について、もう一度纏めておきましょう。
毛細リンパ管
皮膚や色んな組織の組織間隙にぐ~の握りこぶし(盲端部)を突き出して、ドサクサに紛れて、リンパ液を拉致って来る係。謂わばぱしり的存在ですが、その中には上下関係(=弁構造)がなく、寧ろ横の繋がりが細かい網の目状に延々と拡がってる感じかな。吸収されたリンパ液は、皮膚の表面と並行に、極々浅い層を、頭の先っぽから足の先っぽまで、上にも下にも右にも左にも、あらゆる方向、つまり360度流れるものなのです。それ故に、ここをリンパ浮腫改善の為の側副路と位置付ける以上、マッサージは基本的にどっちの方向であっても大丈夫なんですねぇ、実は。因みに、昔、顧問の大熊先生の論文ですが、続発性のリンパ浮腫の患者さん達を3群~マッサージを上方向に行った群、下方向に行った群、ぐるぐる円を描いた群に分け、治療効果を比較したモノがありましたが、当然結果はどの群も一緒でした。
前集合リンパ管
毛細リンパ管から吸収された上納金(リンパ液)を集めて、更に上層部の集合リンパ管に運ぶ中間管理職的存在。役職が付いた分だけちょっと偉くなって、弁構造が出現し、逆流を防いでいますが、ちょっとしか偉くないので、HISAKOの様な続発性リンパ浮腫に見舞われると、簡単に職務を放棄し、側副路に身を転じる(笑)。皮下脂肪を掻き分けて、皮膚と平行或いは垂直方向に走る線維組織内を主に走行しています。
*HISAKOの様な術後(and/or放射線照射後)の続発性リンパ浮腫では、集合菅が切断されてしまった為、行き場を失ったリンパ液が、警察官(弁)の抑制を振り切って今流れて来た道を逆走。表層まで達したリンパ液は、毛細リンパと前集合リンパ管をバイパスにして、中枢側への再チャレンジを図るんです。がぁ、バイパスが細々としか存在しない場合、当然リンパ浮腫を発症しますが、結構太いバイパスの持ち主は、リンパ浮腫になれないんです。
集合リンパ管
所謂「リンパ管」と呼ばれている連中は、実はこの集合リンパ管の事。毛細リンパ管-前集合リンパ管から受け取ったリンパ液を、次のリンパ節や集合リンパ管に向けて運搬する幹部連中です。逆流防止の為の弁が多数存在しているのが特徴で、静脈にとっても良く似たルックスの持ち主。
リンパ浮腫の患者にとっては、「筋ポンプ作用」の機序は断片的! だから‥。
「筋ポンプ作用」なんて言葉は耳慣れないと思うので、少し補足しておきましょう。
右下の図を見て下さい。一般的には、筋の収縮によりリンパ管が圧迫され、これにより弁が開く方向にリンパ液が移動します。ですが、逆方向は弁が閉じる為に基本的には逆流出来ないので、リンパの運搬は皮膚表面から圧迫する事で、効果が強まります。
ですが、HISAKOの様に、腹の中の子宮だとか卵巣、リンパ節等々を根こそぎ取り除かれてしまったり、挙句放射線療法で駄目押しなんかされていると‥、弁が存在しないところでの勝負も加わってくるので、確かに、その分ちょっと効果が落ちます。でも、山崩れで閉鎖された区間以外はなるべく高速道路を使った方が早いし、閉鎖区間は、謂わば弁がない一般道である側副リンパ路(バイパス)を使えば良いんです。一般道の走行中も、軽い筋ポンプ作用で、後ろから後押しと言うかマッサージ効果が加わる方が、リンパの流れは良くなります。
ですから、圧迫下に於ける運動療法は、主に筋や関節の屈伸運動を取り入れた、ゆっくりとした動きに留めておかねばなりません。ウサイン・ボルトばりの瞬発力も、過度の筋伸張も、強い刺激も、過度な内側からの圧迫となり、細々とながらに流れている一般道の閉鎖を来たすだけです。同様に、無理して小さいサイズの弾性ストッキングを穿いたりする事も、関節部などで、捻れて喰い込んでボンレスハム状態の原因になるだけで、寧ろ害になるだけです。(因みに、補足になりますが、ストッキングでもスリーブでも、130~140%伸ばした状態で着用するように設計されているんです。ですから、小さいサイズを無理に伸ばして着用すると、安静時での着圧に問題がなくても、肘や膝etc.の可動域が大きい部位では、体を動かした時に極端に高い数値になり、超・不適切に!)
それ故に、HISAKOのクリニックで行うマッサージは、TVみながらとか、友達とおしゃべりしながら出来るながら系をモットーとし、最終的に末梢から中枢に向かえば良いじゃ~んと、結構好い加減。運動も、下記の如くに、マッサージの後に、包帯やストッキング、スリーブを着けた状態で、なんとな~く全身の筋肉を動かせれば良いんじゃな~ぃ(笑)なんです。‥生真面目な患者さんの中には、肩透かしを喰らった様な気がする方も多いと思います。でも、ちゃんと包帯やストッキング等を自分でキチンと穿く事が出来る事。その状態で行う運動の意味を理解し、苦にならずに楽しく毎日実践が出来る様にコーチング(美容通信2010年2月号)を行う事。そして、運動によりズレたり、緩んだり、喰い込んでしまった弾性着衣を自分で適切な状態に直す事が出来る事。この3つを、HISAKOのクリニックでは「運動療法」として位置付けているので、こんなもんだと思って臨んで下さいな。
足の浮腫み
下記の運動は、クリニックで行っているメニューの一例です。基本はお家でのマッサージの後に患者さん自身で行ってもらう、謂わば日常生活指導の一環としての位置付けですが、希望者に対してのみの追加メニューとして行っています。 クリニックの実際の手順としては、繰り返しにはなりますが、患者さんに自分がいつも装着している弾性包帯若しくは弾性着衣を持参してもらった上で、実際に装着してもらい、不適切な箇所があればスタッフが指摘、修正する所から始まります。その後、圧迫下での運動療法を行ないます。終了後は、運動により乱れた弾性包帯や弾性着衣を、患者さん自身に整えて頂き、それを再度スタッフがチェックして、全てのその日の治療メニューが終了となります。纏めると、兼圧迫療法チェックってところですかねぇ。 ごろ寝編としては、「足指ぐ~ぱ~」・「足首パタパタ」・「足首グルグル」・「寝たまま足踏み」・「寝たまま蛙開き」・「寝たままブリッジ」・「横向き横蹴り」・「横向き膝蹴り」・「前屈」・「寝たままチャリ漕ぎ」等。立って編としては、「アキレス腱伸ばし」「スクワット」「その場で駆け足」{段差で上下」等があります。
寝たまま足踏み
寝たままブリッジ♪
手の浮腫み
基本の考え方は、足と同じ。「おいでおいで」「キラキラお星様」「結んで開いて」「フレーフレー、応援団」「手玉に取る」「お~まいごっと」「ピンクレディーのUFO♪」「深呼吸」「附小音頭」「土人の礼拝」「エアダンベル」等々があります。
プールにGO!
クリニックで行わないと言うか行なえない運動療法で、自宅ストレッチ以上に人気があるのが、この水中ウォーキング。まあ、五反田のちょい危ない遊楽街側だけだって、コナミとティプネスの2件もある時代です。週に1,2回でも続ける為には、ご近所って要因は結構侮れません。
水中ウォーキングの利点として、先ず最初に挙げられるのが、外傷が蜂窩織炎の切欠になり易いHISAKOの様なリンパ浮腫患者にとって、陸の上で飛ぶとか跳ねるより、水の中の方が怪我とかの危険度が低い事。更には、それにも拘らず、同じ事を陸の上でするより、全身の代謝率をUP出来ちゃうって事でしょうか。つまり、流れるプールでぼけ~っと突っ立っているだけで、その流水速度の2乗(2倍じゃないですよ!)の抵抗を受けるんです。流れに逆らって歩けば、当然、運動量はUPします。それに、プールの水と言っても、ペンギンや白熊の流氷プールではないので、皮膚温(約33.5℃)より当然高い。体温は更に上昇し、それは更なる代謝のUPにも繋がります。ですから、例え、手の浮腫みであっても、一般の水中ウォーキング用の腰までの深さのプールで十分。何も患肢を無理して水に漬けなければいけないって代物ではないんです。
唯、プールから上がったら、即行、シャワールームへGO! 塩素や雑菌を十分に流水で洗い流すのは、お約束。勿論、その後のスキンケアと圧迫の再開もお忘れなく!
困ったリンパ浮腫のオマケ
基本は、確かに、”手や足が浮腫んでいる以外は、超元気♪”なのがリンパ浮腫の特徴と言えば特徴。でも、実は空元気的なところもあって、一筋縄ではいかないのが実情です。
例えば、怠けてるわけじゃないけど、疲れ易い。まあ、浮腫んだ手足に老廃物だとか乳酸etc.を溜め込んでいる訳ですから、当然と言えば当然の話。それに片側だけ重くても、真っ直ぐ生きなければいけないのが人生。バランスを取ろうとするあまり、支える筋肉に余計な負担が‥。更には、踏んだり蹴ったりの話ではありますが、体液の循環が滞っている為に、免疫力が低下しており、バイ菌の餌食になり易いんです。局所的に、小さな切り傷や虫刺されから”蜂窩織炎”にまで発展し易いだけでなく、全身的にも、風邪などに罹っても治り難い等々、碌でもない災いに!?
それ故に、どんなに大バーゲンでお買い得が積み上げっていようとも、重い物は持つなとか、昨年の様な猛暑で熱中症で何人もの人が死のうと、弾性着衣は身に付けろとか‥、転ばぬ先の杖的に、日々の厳重な生活管理を私達リンパ浮腫患者は要求される訳です。ですが、それでも掻い潜って来る災いってもんもあります。
急性皮膚炎
リンパ浮腫を患う患者さん達が軒並み恐怖する”蜂窩織炎”と良く間違えられがちなのが、これ。リンパ浮腫が発症した初期の頃とか、急激に浮腫みが増悪する時なんかに良く起こるもので、教科書に書かれているより、臨床の現場では軽度なものも含めると、結構多いって印象。
”蜂窩織炎”の様にバイ菌に餌食にされた挙句のお話ではないので、全身的にお熱がば~んなんて上がる事もなく、見た目的には、患肢である足とか腕が、割りと広範囲に、何とはなしに赤くて熱を持っていている程度の地味さ加減。しかしながら、急激に溜まった大量のリンパ液で皮膚が引き伸ばされて起こる為、ちょっと重苦しい様な、鈍痛っぽい、張った感じがず~っと続くので、患者さんの苦痛度は意外にデカイ。‥こんな苦痛が何時まで続くか、って? ダムの決壊による鉄砲水と一緒で、ある意味、溜まるだけ溜まったら、勝手に症状は落ち着きます(*)。が、イコール浮腫の増悪の結末となるので、なるべく早めの決着をつけたいのが本音です。
治療は、繰り返しますが、バイ菌が原因ではないので、当然、抗生物質を飲んだところで良くならない。兎に角、鉄砲水をせき止めるだけの十分な圧迫を、出来るだけ早く、早期に行うのが鍵となります。HISAKOは、急性皮膚炎になると、何時も以上にしっかり圧迫に留意して、ロキソニンの様な消炎鎮痛剤を飲んで、只管、診療の合間をみてはマッサージを根気良くし続けます。シャラシャラと、薄氷が春先に溶けるみたいな音がして、リンパが流れるのを感じると、「あ~、急性期は過ぎた!」って、ホッとします(笑)。
唯、症状が改善するまでは、過激な事はしないに越した事がないので、HISAKOは、オールナイト(飲み会)とか、椅子に座って足を下げ放しにせざる得ない勉強会(講習会)とか、実家に帰る(=飛行機)とか、うさぎ跳び(笑)とかは、避けます。登山は高尾山レベルでも避けますが、お散歩(例:五反田→中目黒→原宿→青山→広尾→品川→五反田一周コースとか、品川~銀座往復とか起伏が少ないコース)はします。上記で触れたレベルの運動療法もします。基本、皮膚が包帯なんかで過剰に擦れたりしない様に気を付ける事は、お散歩や運動療法を行う際の必須な条件ですが、ね。
つまり、何でこんな事をうだうだ書いているかと申しますと、クリニックでの治療を開始した直後に、軽度の急性皮膚炎を呈する患者さんが偶にいるからです。因みに、HISAKOは、余りにも糞暑いので、弾性ストッキングを穿かずに、当時嵌っていたビリーズブートキャンプをしたら‥、一発でなりましたね、ははは。まあ、これは、当然と言えば当然な成り行きで、安穏と天下泰平を決め込んで蓄積していたリンパ液が、急に尻に火が付いて民族の大移動を始める訳ですから、混乱が起きます。割りに太いバイパスが既に整備された患者さんであれば、幹線道路道路が閉鎖されていても、迂回路にスムーズに移行が出来ます。ですが、そうでない人=バイパスが細い患者さんでは、幹線道路は更に酷い玉突き事故状態になるわ、混乱を避けて迂回して来たバイパスはそれにも拘らずパンク寸前って状況が起きるからです。ですが、ここで、治療を中断してはいけません。確かに、何もせずに放って置けば、火事騒ぎで一旦は家から飛び出して来た人が家に戻るのと同じで、リンパ液が長らく安穏を貪っていた場所に戻りますから、先に述べた(*)様に、炎症は何れ終息します。でも、それでは、元の木阿弥で、肥大した手足は細くはなりません。混乱を踏み越えてでも、新天地に移動してもらわないと、駄目なんです。しっかりと面で圧迫を行って帰る場を無くし、マッサージで少しでもバイパスを通って新天地に移住をしてもらわねばなりません。いつものマッサージ効果を更にupさせる理学療法や、何時もよりも緩い位の運動療法であれば、別に構いませんが、くれぐれも、過激は禁です。無理をしない事が何よりも重要です。
因みに、どうしてこんな羽目に陥っちゃうのかは、全くもって不明。溜まっちまったリンパに含まれるリンパ球etc.の免疫系が関与しているって噂はあるけど、本当のところ良く分んないんです。実際、血を採ってみても、白血球の数も炎症反応も正常ですし、精々血中の蛋白質が(溜まった分だけ)下がってたり、貧血が認められるのが関の山ですしねぇ。
蜂窩織炎
蜂窩織炎は、怖い。HISAKOは2度やっちゃったんですが、本当に突然、襲い掛かってきます。
一度目は、旅行先で泥酔した挙句にホテルの風呂に入ったまま寝てしまって‥、激しい吐き気と悪寒で目が覚めたんです。「やべ~っ!!」と思って風呂から出ようとしたけど、体が思うように動かない(笑)。リンパ浮腫の酷い方の足がパンパンに張って、熱く、痛いんだけど、それ以上に寒くて寒くて震えが止まらず、吐きたいんだけど吐けない。天井が果てし無くグルグル回っていた‥。翌日の観光は、当然キャンセル。手持ちの抗生物質と消炎鎮痛剤とポカリスエットをがぶ飲みする以外は、只管毛布に包まって寝ていたら、翌日の夕方に少し動けるようになり‥、本当にそれが好転の切欠に変じた理由かどうかは分んないけど、実は蜂窩織炎の原因じゃないかと疑っていた埋没糸を抜去したんです。膿が申し訳程度に流れ出て、患部をありったけのビールやジュースをタオルに包んで冷やしながら一晩寝たら、翌日には熱も下がって気分爽快♪ 楽しくミャンマーツアーを続行!しましたと、さ。
二度目は、ちょっと風邪気味だったのは事実ですが、一度目と違って原因は不明。唯、前日風呂で転寝しちゃったんですよねぇ。何となく、朝、ダルイなぁと思ってクリニックで着替えてたら、急に気持ちが悪くなって、発症。激しい嘔吐と眩暈と42℃超えの高熱が2日間続き、隣の隣の隣の内科で、只管抗生剤の点滴と患肢を冷やし続けて寝ていたら、ある日ストンと熱が下がって、突然治った。(正確には、「明日まで待って熱が下がらなかったら、強制入院だ」と主治医に宣告され、HISAKOの入院嫌いがバイ菌を捻じ伏せた!?)
‥蜂窩織炎って、こんな感じ。まあ、発症を切欠にど~んとリンパ浮腫が増悪しちゃうって点では同じですけど、症状自体は、前述の”急性皮膚炎”と全然違うでしょ? ある日突然、患肢に熱感と腫脹を伴う真っ赤な薔薇も顔負けの赤い斑点や広範囲の発赤が、出現します。痛みを伴う事もあれば、二度めのHISAKOの様に殆ど痛みを伴わない事もあります。38℃以上の高熱が続き、嘔吐や悪寒等、リンパ浮腫のある足や手を見ない限りは、インフルエンザじゃね~かとも疑いたくなる様な症状が目白押し。
原因の殆どがバイ菌(細菌感染)ですが、侵入経路を確定出来ない事も多いです。患肢を不用意に露出していた事による虫刺されやヤケド、剃刀で剃る等の毛の不適切な処理、水虫、乾燥肌なんかが良く挙げられますが、必ずしも患肢とは全く関係のない、虫歯や歯槽膿漏、膀胱炎や膣炎、慢性気管支炎なんかが原因となっている事も。特に子宮癌の術後は、上手く腹圧を掛けれないとオシッコが出ないので、残尿が残り易く、雑菌も多く検出されがち。
クリニックでは、最大限の予防策として、生活指導(美容通信2003年9月号)と併せて、水虫(美容通信2007年7月号)(美容通信2004年7月号)や巻き爪・陥入爪(美容通信2008年12月号)、アトピー性皮膚炎(美容通信2007年4月号)(美容通信2006年7月号)、虫刺され(美容通信2007年1月号)があれば治療をしたり、ドライスキン対策(美容通信2009年2月号)、フットケア(美容通信2009年6月号)(美容通信2004年6月号)、ハンドケア(美容通信2004年3月号)等は行います。が、それでも完璧な予防なんかは出来る訳もなく‥、せめて患者さん自身が切欠となった事を覚えていて、それを繰り返さないって注意も必要です。例えば、HISAKOは上記のエピソードを読んでもらえば分る様に、浴槽内での転寝と、埋没糸(術前の化学療法の為に太腿のバルブを設置してたんですが、これを抜去した際に縫合に使用した中縫いのナイロン糸が皮膚の上から触ってたんです。「抜糸しなきゃ、しなきゃ」と思いながらも、気付いたのが旅先だったので放置していた‥)です。
採血をしても、余程の重症度もない限り血液中から細菌が検出される事はなく、細菌感染にありきたりの白血球や炎症反応が高値を示す程度です。
HISAKOの過去を引き合いに出すまでもありませんが、蜂窩織炎は、ある日、ある時、突然に、やって来ます。そしたら、最寄の外科系の医者の所に、駆け込んで下さい。駆け込める状態でなければ、タクシーでも救急車でも呼んで下さい。病院では、単に抗生物質を処方され、安静を指示されるだけかも知れませんし、入院を強制されるかも知れません。兎に角、異議を唱えずに、従う事が重要です。蜂窩織炎の治療は少しでも早く開始出来れば出来るほど、被害を最小限に食い止められます。炎症自体の症状然り。リンパ浮腫の症状も然りです。
もし、HISAKOの初発の時の様に旅行先でどうしてもって時は、予め主治医からもしも用の抗生物質を処方されていれば先ず、服用。患肢を少し高めに上げ、幹部を冷やしながら、兎に角、安静第一で寝る。水分は、リンパ浮腫を増悪させるかもなんて邪念を抱かず、たっぷり摂る。圧迫も、マッサージも、運動療法も全て中止し、只管嵐が過ぎるのを頭を垂れて待ちましょう。完全に赤味が引いてからも、数日間は大人しく準・軟禁状態に甘んじて下さい。リンパ浮腫の治療の再開は、その後です。
その他
下記の様な肌自体のトラブルには、ホルモン系の全般の加齢による減少に加え、女性ホルモンの低下(若しくは阻害)が関与しているのも事実です。スキンケアと共に、場合によっては、プラセンタ(美容通信2009年2月号)の様な女性ホルモンもどきや、女性ホルモン(美容通信2010年8月号)を含む他の、加齢と共に減少する複数のホルモン、と言っても天然型(ヒト固有ホルモン)()(美容通信2010年12月号)限定ですが、併用すると効果美容通信2010年9月号が上がります。勿論、栄養状態(美容通信2007年3月号)が悪ければ、そちらの改善が優先ですが、ね。
線維化他
原因不明のオマケ。本当に何故だか分んないんですが、線維芽細胞が増殖しているんだそうです。組織液中の蛋白質濃度が正常組織よりも高くなると、増殖した結合組織が変性して、皮下の組織の線維化が進みます。この状態が長期間に亘り続くと、段々と皮下組織が硬くなり、皮膚を軽く押しても圧痕が残り難くなります。上記の様な局所の感染に伴って、サイトカインやヒスタミンと言った炎症を促す物質の産生が増えると、その刺激で線維化がより進み易くなると言われています。つまり、炎症を起こしたら、起こした回数だけダメージが大きくなるってイメージです。
治療としては、ツムラの25(美容通信2005年6月号)は悪くないなんて論文はありますが‥、微妙な気はする。でも、象皮病って、象さんの足みたいな状況にまで進行してしまっても、リンパ浮腫の症状が治療により改善すると、脱皮するみたいにボソボソと落ちて、元の状態の殆ど戻るとされています。なので、スキンケア(栄養療法、ホルモン及びホルモンもどきを含む)を行いながら、ちゃんとリンパ浮腫本体の治療に専念すれば良いんじゃないですかねぇ。
皮膚のカサカサ・ゴワゴワ(乾燥・硬化・角化)や毛深くなっちゃうのも、同様の治療で改善します。つまり、結構可逆的な反応なんですよ。
脂肪組織の増加
つまり、部分デブ。毛細リンパ管や前集合菅は、脂肪畑を縦横無尽に走る農道みたいな存在。農道のキャパを超えて溢れ出したリンパ液は、お節介にも脂肪細胞の増加を唆しているんだとか! HISAKOの様なデブの遺伝子の保有者(美容通信2010年3月号)(美容通信2010年4月号)は、要注意!! 一緒にCoQ10飲んで、ケツにカルニチンを注射しようぜぃ♪
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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来月号の予告
リンパ浮腫・補足弟2弾は、基本中の基本である圧迫を極める。