ケロイドと肥厚性瘢痕 | 旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2017年11月号

ケロイドと肥厚性瘢痕

image1233最近の知見では、ケロイドと肥厚性瘢痕は、「物理的刺激によって、炎症が持続・拡大する事による、皮膚の秩序だった線維性増殖疾患、即ち真皮網状層の過形成である」。そう考えると、ケロイドや肥厚性瘢痕の予防や治療は、メカノセラピーとして、如何に物理的な刺激を避けるかに尽きると言っても過言ではありません。また、老化や癌等の慢性疾患同様に、ケロイドや肥厚性瘢痕の増殖のエネルギーが嫌気性の回路(解糖系)で賄われていると言う事実は、オゾン療法等の新たなアプローチの方法の可能性を示唆するものでもあります。

 ケロイドと肥厚性瘢痕についての、最近の知見をまとめてみました。医学は、日々、進歩!

ケロイドと肥厚性瘢痕は、一つ穴の狢なのか?

 HISAKOが30年程前に形成外科医になった頃、教科書には、ケロイドと肥厚性瘢痕は似て非なる病気と記載されていました。「両者共、赤く隆起する瘢痕ではあるが、ケロイドは創の範疇を越えて広がる瘢痕であり、肥厚性瘢痕は創の範囲に留まるものである」と教えられ、組織病理学的にも、硝子化した太い膠原線維束が認められればケロイドで、認められなければ肥厚性瘢痕と、しっかり区別されていました。

 でも、外来に来る患者さん達の中には、どう診ても境界不鮮明と言うか…混在しているとしか思えない症例や、全身ケロイド体質と言いながら、全身何処も彼処も傷が悉くケロイドになる訳でもなく、緊張の掛らない部位、つまり弁慶の泣き所や頭の天辺や上目蓋なんかに出来ている人なんか殆ど見掛けた事なぞなかったし、同じケロイドの一塊なのに、その塊の中ですら、ケロイドの勢いが違う。更には、ケロイド、ケロイドと言いながら、行う治療は肥厚性瘢痕と基本的には同じだし、治療を行えばそれなりに、まあ、治療を行わなくてもそれなりに(笑)、盛りは過ぎて落ち着くのを見ると、「やっぱ教科書には別物とは書いてあるけど、単に程度の差なんじゃないかなぁ」と漠然と思ってました。…今では、ケロイド・肥厚性瘢痕の研究も進み、両者は連続した病態であり、病勢の違い、炎症の強さや持続時間の違いによって生じる病態の違いである可能性も示唆されています。

 つまり、ケロイドと肥厚性瘢痕を明確に区別する事はそもそもナンセンス以外の何物でもなく、「物理的刺激によって、炎症が持続・拡大する事による、皮膚の秩序だった線維性増殖疾患、即ち真皮網状層の過形成である」とも言えるかも知れません。部位や皮膚の厚さが影響する張力等の局所因子に加え、体質を規定するとされる一塩基多型(single nucelotide polymorphysms:SNPs)の関与や、高血圧や女性ホルモン等の重症化に関わるリスク因子、炎症の強さや持続時間が影響を受け、その表現型が、軽傷から重症までスペクトル状に広がっている可能性があります。

 

局所的因子

■物理的刺激

image1221 ケロイド・肥厚性瘢痕の原因として、近年注目をされているのが、この物理的刺激(力学的刺激、機械的刺激)です。ケロイドに特徴的とされる蝶型、ダンベル型、カニ爪型等の形状は、皮膚に於ける張力の分布(力学的な刺激分布)と密接に関係しています。胸部や肩甲骨部等の様な張力の強い部分や、関節等の周期的な運動が加わる部位では、常に強い力で引っ張られているのと同じ訳ですから、炎症がず~っと継続します。毛細血管が拡張し、膠原線維の過剰増生・増殖が生じます。反対に、張力があまり掛からない中央部分では、炎症は下火か…殆ど鎮火状態です。発赤・隆起が減少し、成熟瘢痕化する傾向が認められます。前述の弁慶の泣き所や頭の天辺や上目蓋等は、張力が元々掛りようもない、代表的なケロイド・肥厚性瘢痕の非好発部位です。

 ケロイド・肥厚性瘢痕の非好発部位について、少し補足をします。これ等の部位に共通して言える事は、①日常生活の動作によって、皮膚が殆ど動かない部位(頭の天辺や弁慶の泣き所)、或いは②日常生活によって、皮膚が進展・収縮はしても、緊張が殆ど生じない部位(上目蓋)だって事です。例えば、胸は、腕をぶん回さずとも、動かしただけで、常に横方向に皮膚の緊張が生じます。お腹は、立ったり座ったりする度に、胸の時とは反対に縦方向に皮膚に緊張が生じます。しかしながら、頭の天辺も弁慶の泣き所も、幾らimage1234歩き回ったところで、如何にしかめっ面をしようと、当たり前ですが、微動だにしません。頭の天辺には、皮下に広くて硬い帽状腱膜と頭蓋骨が控えています。弁慶の泣き所は、脂肪組織が少なく、脛骨が皮膚のすぐ下にあるので、皮膚は伸びようにも伸びれません。皮膚が既に固定されている場所とも言えます。又、上目蓋も、瞬き等で絶えず動いてはいても、目を開けようが閉じようが、皮膚は常にのんべんだらりんと弛緩していて、緊張と言う言葉はありません。つまり、皮膚が伸展しない、緊張が掛からない部位は、ケロイド・肥厚性瘢痕は、なりたくても成れない=非好発部位に甘んじるしかないのです。

 メカノバイオロジー(Mechanobiology)とは、張力や剪断応力、静水圧や浸透圧と言った物理的刺激(機械的刺激、力学的刺激)が、細胞や組織、臓器にどの様な影響を与えるかを研究する学問です。昔から、「ケロイドは、皮膚の緊張が強い場所に出来る」と言われていましたが、メカノバイオロジーという理論から考えると、実にすとんと納得がいきます。物理的な刺激こそが、ケロイド・肥厚性瘢痕の根本的な原因と断言しても構わないのかも知れません。つまり、従来の様にケロイド・肥厚性瘢痕を線維増殖性疾患として考えるのではなく、皮膚にある種々の細胞の物理的な刺激に対する反応、つまりメカノバイオロジーや、物理的な刺激によって持続する炎症をどう阻止するかが、これからのケロイド・肥厚性瘢痕治療法の主流となっていくのでしょう。

■その他

 炎症の原因としての、ピアス着脱時に繰り返す感染、毛嚢炎や痤瘡の反復、更に異物による炎症の遷延等々の、リスク因子があります。しかしながら、弁慶の泣き所や頭の天辺や上目蓋等の、物理的刺激が生理的に加わり難い部位には、例え、毛嚢炎等の炎症や小さな傷が出来ても、それがケロイドや肥厚性瘢痕にまで育つ事は殆どありません。体中ケロイドだらけの患者さんだったとしても、です。

全身的因子(体質)

20042top_pic_1 ケロイド・肥厚性瘢痕の全身的因子として注目されているのが、一塩基多型(single nucelotide polymorphysms:SNPs)です。2009年に、日本人に於けるゲノム上の4領域のSNPsが、ケロイドの発症に関与していると報告があり、この4領域のうち、rs8032158は、ケロイドや肥厚性瘢痕の重症化に関与している可能性が示唆されています。

 高血圧も、ケロイドの重症化に関与しているとの報告もあります。

 妊娠も、明らかなリスク因子です。女性ホルモンが血管系に作用、例えば、エストロゲンの血管拡張作用がこれに相当するのですが、ケロイド・肥厚性瘢痕の悪化を招くと考えられています。婦人科疾患で偽の閉経治療を行った患者さんでは、ケロイドも鎮静化する事からも、女性ホルモンもリスク因子として考えても問題がなさそうです。

メカノバイオロジーから、ケロイド・肥厚性瘢痕を考える。

メカノバイオロジー

 皮膚や軟部組織には、自然の状態で張力を始めとする、様々な力が働いています。頭を机の角にぶつければ、傷口はぱかっと開きますが、モーゼの奇跡の様に、ヘブライ人が渡りきったところで海(傷)が元に戻る訳ではありません。これは、普段から皮膚には張力が掛かっているからです。皮下組織にも圧が生じており、リンパ浮腫(美容通信2011年2月号)や蜂窩織炎(美容通信2011年1月号)等では、組織圧が高くなる事により、血行障害等の様々なトラブルに見舞われます。

 物理的刺激が、創傷治癒過程(美容通信2004年5月号)(美容通信2013年4月号)に大きな影響を担っている事が、最近分かって来ました。この物理的な刺激は、組織から細胞、細胞膜から核内へ、様々な構造を通じて感受され、物理的信号に変換されながら、シグナル伝達経路に影響を与えます。例えば、皮膚や傷をびよ~んと引っ張って伸ばしただけでも、細胞はその刺激を感じて遺伝子発現が変化する事は、実験的にも示されています。つまり、瘢痕を治療するにあたって、その構成する細胞を弄繰り回せばそれで事が済むかと言うと、決してそんな単純な事柄ではなく、先ずは瘢痕組織の物理的な環境を整える事が、最優先されるべきと思われます。

■メカノセンサー

image1222 細胞には、”物理的刺激を感受して、核内に化学的・電気的信号を伝える”種々の構造があります。メカノセンサーです。細胞膜に存在するインテグリン等の接着分子、インテグリンと細胞内で連結しているアクチンフィラメント等の細胞骨格、更には細胞骨格と連結しているイオンチャンネル等が、これに相当します。

 線維芽細胞等の接着細胞は、細胞膜の接着分子を介して、細胞外マトリックス(足場)に接着しています。同時に、細胞同士も接着しています。皮膚を押したり引っ張ったりと、何らかの揺さぶり(物理的な刺激)を掛けると、細胞外マトリックスはその影響をもろに受けます。ところが、心に秘めて置くなんて芸当の出来ない細胞外マトリックスは、その揺らぎのままを、インテグリン等の細胞膜の接着因子を介して、(接着因子と)細胞内で結合しているアンチフィラメント等の細胞骨格に伝達してしまいます。アクチンフィラメントは、細胞膜のイオンチャンネル等とも繋がっていますから、後述するメカノシグナル伝達経路mechanosignaling pathwaysが活性化し、核内に信号として伝わります。In vivoに於ける実験でも、伸展刺激によって毛細血管が増殖したり、細胞の基底膜細胞が分裂を開始する事が分かっています。つまり、機械刺激シグナル伝達系は、ケロイドや肥厚性瘢痕の発生に関与していると推測されます。

■メカノシグナル伝達経路

 細胞が、イオンチャネルや細胞骨格、細胞接着分子等のメカノセンサーを通じて、外部からの力学的刺激を感じると、それに伴って、種々のシグナル伝達経路が活性化されたり、抑制されたりする事が、様々な研究から分かって来ました。これが、多くの疾患の原因に関係しています。

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  現時点では、物理的な刺激が、化学的・電気信号的に変換される機構として、TGF-β/Smad、インテグリン、MAPK/G蛋白、TGF-α/NFκB、Wnt/βカテニン、インターロイキン、カルシウムイオンチャンネル伝達経路等が関与すると考えられています。これ等の経路を押したり引いたり(促進/抑制)…つまりまあ、調整?小細工?を弄して、創傷治癒や組織再生を早めたり、過剰な瘢痕形成にブレーキを掛けたりと、思いのまま操れる日も遠くはないかも知れません。

  特に、TGF-β/Smadシグナル伝達経路等は、大昔から線維化や瘢痕に関与するらしいと噂さされていましたが、これが物理的な刺激で活性化される!となると、中々面白い話に展開しそうな予感です。

■メカノレセプター

 組織レベルでは、末梢神経も重要な物理的刺激に対する侵害受容器の一つ、メカノレセプターと考えられています。皮膚に刺激が加わると、私達は末梢神経を通じて張力!を実感し、脊髄後角に伝わった神経が神経伝達物質を産生→末梢神経から放出! 神経原性炎症等の生物学的変化が組織内に起こります。

 最近では、表皮に発現しているトリップtransient receptor potential(TRP)チャンネルが、まず最初に物理的刺激を察知し、それが神経に伝達される!なんて報告もちらほら見掛けるようになって来ました❤

 歴史を振り返れば、生命が誕生したのが約35億年前。単細胞生物から多細胞生物へと進化するには、細胞分裂は必須以前の前提です。唯、分裂して増えてしまった細胞達を、てんでんばらばらに放置しておくわけにはいきません。細胞‐組織-器官‐個体と言う高次多細胞体制として統率する為には、細胞同士を繋げる接着システムが必要になります。この進化の過程で、接着分子等の細胞膜の分子が発達し、物理的な刺激を更に感受出来るように精進を重ね、細胞機能に重要な役割を獲得してきた…。まるでモノ作り大国・日本を髣髴とさせるようなお話です。

image264 物理的刺激そのものは極めて原始的ではありますが、私達の細胞の機能を調節する為には必須の存在です。皮膚に傷がついてしまうと、それまで絶妙な均衡を保っていた物理的な環境は破綻しますが、その穴埋めとして、硬い瘢痕と言う名の異物が形成されてしまうと、より激しい周囲と組織との摩擦(物理的刺激)が生じます。つまり、メカノシグナル伝達経路に異常が起こります。…欧州難民危機と比較するのは不謹慎かも知れませんが、それと似たような現象とも言えます。

瘢痕予防・治療の為のメカノセラピー

メカノセラピー概論

 メカノバイオロジーからケロイド・肥厚性瘢痕の治療を考えると、「傷から、如何に物理的な刺激を排除出来るか?」と言う一事に尽きます。大昔から、少なくてもHISAKOが医者になった30年前から、医者は患者さんに対して、「傷は出来るだけ動かさないように」と口を酸っぱくして説明してましたが、この経験的治療は、実に理に叶ったものだったんです。

200705image623 過剰な瘢痕形成に悩む、ケロイドや肥厚性瘢痕の予防や治療として、手術に際して、切開の方向(場合によっては、Z形成術やW形成術等を含む)や縫合方法、皮弁等の手術自体の方法と言った方法論だけではなく、術後の傷の安静・固定を考えるのもメカノセラピーです。そして、過剰形成の反対で、寧ろ、創傷治癒や組織再生を進めたい慢性下腿潰瘍や床ずれ(褥瘡)では、適度な物理的な刺激、例えば、陰圧閉鎖療法や対外衝撃波なんかがそうですが、創傷治癒を促進します。アンチエイジング系の美容皮膚科で行われる施術は、ケミカルピーリング(美容通信2005年4月号)やフラクセル(美容通信2007年2月号)、フォトフェイシャ(美容通信2003年5月号)、YAGシャワー/トーニング(美容通信2013年9月号)等々、須らく基本は、物理的刺激を加える系。メカノセラピーの考え方に則したものなんですね。

 あらゆる臓器は須らく、物理的刺激が加わる事によって、その形態・機能を維持していますから、臓器、組織、細胞そして細胞内の分子構造への物理的刺激のコントロールは、メカノセラピーとして、ケロイドや肥厚性瘢痕の治療だけでなく、再生医療や美容医療、抗加齢医療等の幅広い領域に応用される事でしょう。

 

瘢痕予防・治療の為のメカノセラピー

 傷が出来ると、その傷を修復する為に炎症が生じ、線維が形成されて、硬くなり(美容通信2004年5月号)ます。この硬さは、周囲の皮膚の伸展の妨げとなり、周囲皮膚に過剰な力が掛かり、それにより炎症が増悪し、傷はますます頑なに硬くなります。つまり、悪循環。これを打開する事が、ケロイドや肥厚性瘢痕の予防と治療には必須です。

 ケロイドや肥厚性瘢痕に対し、昔は、つまりHISAKOが形成外科医になったばかりの頃は、「肥厚性瘢痕は手術をしても良いが、ケロイドは手術をしてはいけない」が常識とされていました。今では、昔の常識は、今の非常識とまでは言いませんが、今では発生機序や術後併用療法への理解が深まり、ケロイドを含めたあらゆる瘢痕に対して、外科的な治療の適応が広がりつつあります。

■切開の方向を考える

image1224 前述の通り、コンピューターのシミュレーションから、皮膚が伸展する方向に切ると、両端に力が加わり、ケロイドや肥厚性瘢痕が生じるリスクが高くなります。例えば、ケロイドは切開線の両端に力が加わるから、柔らかいお餅をぐい~んと引き延ばした時の様なダンベル型に炎症が拡がります。ですから、これを避ける為に、皮膚の伸展方向に対して90°の向きに切開したり、縫合するのが基本です。
image1227 例えば、胸部正中の場合は、大胸筋が横方向に走っているので、胸部の皮膚は横方向に伸展・収縮します。なので、横に切開しちゃうと、典型的な蝶々型のケロイドになりやすいんです。ですから、瘢痕形成って意味では、ど真ん中に縦方向の正中切開は理に叶った方法です。

 反対に、お腹は横方向に切ります。腹直筋の働きで、上下(縦)方向に伸展・収縮が加わります。だから下っ端腹は帝王切開であろうと、子宮癌の手術であろうと、皆横方向に切ってくれれば…と形成外科医は思うのですが、臨床現場では、視野の確保の問題が最優先されてしまうので、中々そうもいきません。

 シワ(美容通信2004年4月号)は、皮膚が弛む事で出来るので、皮膚の伸展方向と90°、直角に存在しています。ですから、ざっくりとは、負荷が掛からない方向≒シワの方向と考えても大丈夫です。唯、場所によっては、皮膚の厚みだとか、皮下の構造物の硬さ、複数の筋肉が勝手に自己主張してきたりと、複雑怪奇。体のど真ん中(正中)やシワでない部分については、まあ、ケースバイケースで考えろ!ってところでしょうか、はい。

image1225 尤も、そうは言っても、取り除かなければいけない腫瘍や病変部のご都合って奴が、最優先事項になります。そんな時には、左図の様に、猫じゃらし的選択ではありますが、Z形成術やw形成術で力の分散(方向転換)を図ったりします。しかし、その効果は、猫じゃらしを遥かに凌駕します(笑)。

■縫合方法を考える

 先ずは、非常に目から鱗の論文「有限要素法による縫合法の最適化」(瘢痕・ケロイド治療ジャーナルNo.8 2014)から。

 ケロイドや肥厚性瘢痕は、常に真皮の深い層である網状層から生じます。しかしながら、手術等の際には、減張・創閉鎖を目的として、真皮の単埋没縫合が一般的に行われます。つまり、真皮に減張作用を期待したこの広く流布した方法は、真皮網状層に炎症を起こさせる原因以外の何物でもなく、減張作用が持続しないとか、縫合部乖離と言った弱点だけではなく、縫合糸を真皮に掛けた所からケロイドが発生する!そもそもの原因でもありました。最近は、メカノセラピーの概念から、減張作用を真皮ではなく、強固な構造物である浅(・深)筋膜に求める筋膜縫合法が、形成外科医の間では、ゴールデンスタンダードになりつつあります。
 下の図を見て下さい。真皮縫合のみと、真皮縫合+浅筋膜縫合、真皮縫合と浅筋膜と深筋膜の両方を縫合した場合の、真皮に掛かる応力を比較したものです。

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 論文によれば、真皮縫合のみを行った際は、真皮の狭い範囲に非常に大きな応力(4700Pa)が掛かったそうです。それに対し、真皮縫合に浅・深筋膜の両方の縫合を加えた場合は、真皮に掛かる応力は697Paと非常に小さかったそうです。真皮と浅筋膜を夫々縫合しだけでも、真皮に掛かる応力は573Paと、一手間かけて深筋膜まで縫合したのと殆ど変わんないじゃないか!と不公平感に胸が震える人もいるかと思います。確かに真皮の応力は殆ど変わりませんが、浅筋膜に掛かる負荷が全然違います。

 まあ、唯、全員が全員、浅・深筋膜の両方の縫合が必須かと問われると…、患者さんの体格や年齢でも浅筋膜の厚さは異なるので、筋膜の性状、閉創に掛かる張力の大きさで、ケースバイケースとならざる生えないのが実情だとは思います。ですが、少なくとも、真皮縫合に筋膜縫合って一手間を加えるだけで、随分と真皮に対する物理的な刺激は軽減出来ます。

■手術方法を考える

 瘢痕や腫瘍を単純切除しても、そのサイズが大き過ぎれば、当然、縫縮出来ない事だってあります。そんな時には皮弁とか植皮の登場です。しかしながら、植皮は二次的に収縮が起こる可能性が高く、植皮した周囲にケロイドや肥厚性瘢痕が出来やすいので、特にケロイドや肥厚性瘢痕の切除時には、皮膚茎皮弁の様な伸展性の高い皮弁での再建が好まれます。

■創の安定・固定を考える

image1229 目立たない成熟瘢痕を作るには、術後や外傷後に主がどの様に動き回っても、傷だけはガチンコ動けないが理想です。毛細血管が消失し、完全に白くなるまでの治療後1~5年間程度は、後療法や自己管理がお約束

 簡便で安価な3Mのマイクロポアや、透明で目立たないアトレスケアは、HISAKOのクリニックでも人気の商品❤ 線状の瘢痕には最適ですが、テープは、性状的に、接触性皮膚炎や表皮損傷も無きにしも非ずってところが欠点かな。

 image258CICA-CAREの様なシリコンジェルシートやポリエチレンジェルシートは、ドカンと広範囲に安定性が保ちやすいので、多方面からの収縮力を受けやすい、面状の瘢痕に適しています。

 実は、シリコン材には、上記の様なジェルシートだけではなく、シリコンクッションやシリコンクリーム、シリコンジェルの形状の物があります。作用機序としては、陰性電荷の関与、物理的刺激の除去、湿潤効果等が考えられていますが、シリコンクリーム、シリコンジェルには、湿潤効果以上のものは殆ど期待出来ないと言うか…期待する方が間違っています(笑)。それ故、肥厚性瘢痕の消褪促進効果は、他のシートやクッションと比して可成り劣りますが、存在を否定するまでには至りません。

 腕や足なんかでは、いっそ、サポーターや包帯等で、360°固定してしまう潔さも必要かも知れません。

 勿論、これ等のツールを使いこなすのも大事ですが、それだけに頼るのは×です。激しい運動や仕事を余儀なくされる事は、人間生きてりゃあ、そりゃあ、あるでしょう。人生なんて、所詮、不条理の塊ですから(笑)。そんな時は、黙って、何時もの固定に加えて、摩擦等の刺激からの保護も必要です。下着の金具が擦れる、衣服のボタンが擦れる、靴で擦れる、耳が枕に擦れる等々…摩擦は立派な物理的な刺激で、傷の成熟を妨げます。

ケロイド・肥厚性瘢痕のエネルギー代謝

 ケロイドや肥厚性瘢痕の、この飽くなき増殖のエネルギーは、一体何処から来るのでしょう? 探してみると面白い論文を発見! それによれば…

細胞エネルギー(ATP)の測定

 細胞ってものは、須らく、ATPがアデノシン二リン酸(Adenosine diphospate : ADP)とリン酸に加水分解される際に遊離するエネルギーで生業を立てています。

ATP + H2O → ADP(アデノシン二リン酸) + Pi(リン酸)

ΔG°’ = −30.5 kJ/mol (−7.3 kcal/mol)

■ケロイド・肥厚性瘢痕の成熟によるATP値の変化

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 ケロイドや肥厚性瘢痕の組織のATPを調べると、10年以上経過したケロイドでもATPの値は物凄く高値を示し、肥厚性瘢痕段階では時間の経過、即ち成熟が進むにつれてATP値は減少傾向を呈したそうです。

■蛋白含有量で補正したATP値

 ATP値を蛋白含有量で補正して、より客観性を高めて、パンク魂炸裂って感じにも燃えさかってる赤い肥厚性瘢痕、盛りの過ぎたピンク色の肥厚性瘢痕、枯れた?達観した?白く萎縮した瘢痕の3種類で比較したところ、ピンク色と白い瘢痕は、赤い肥厚性瘢痕の約1/10のATPしか持ち合わせてなかったそうです。

 

ケロイド・肥厚性瘢痕の乳酸値

 生体でATPを産生する方法は、2つ。このお話については、何度も特集(美容通信2017年7月号)(美容通信2017年4月号)(美容通信2016年11月号)をしているので、そちらを参考にしてね。一つは嫌気性の反応で、酸素がなくても大丈夫だけど、1分子のグルコースを乳酸に分解する方法で、2分子しかATPが合成出来ない。それに対し、もう一つの方法は、非常に効率が良く、38分子ものATPが合成出来できます。この方法は、ミトコンドリア内で酸素を使って行う酸化的リン酸化反応で、グルコースは炭酸ガスと水に完全に分解されます。

 ATPの出所は、乳酸値の測定すれば、それが嫌気性の反応によるものか、好気性の反応によるものなのかが一発で判明します。論文によれば、ケロイドが一番乳酸値が高く、次いで赤とピンク色の肥厚性瘢痕。白い萎縮性の瘢痕では、更に低値を示したそうです。つまり、ケロイドでは、癌や多くの慢性疾患や老化と同様に、嫌気性な状況でエネルギー産生(解糖)を行っていますが、瘢痕が成熟するにつれ、嫌気的な状態は改善されるようです。

 

酸素分圧やATP、解糖系から見たケロイド・肥厚性瘢痕のメカニズム

201212image8 Sloanらは、熱傷瘢痕の内部に電極をぶっ刺して、酸素分圧を測定しました。幼若な瘢痕ほど、酸素分圧は低下していたそうです。

 Kischerらは、ケロイドや肥厚性瘢痕の組織を電顕で超拡大して見たら、組織内の微小血管内皮細胞が異常増殖をしており、内腔が狭窄。虚血環境を呈していたんだそうです。Steinbrechらは、ケロイド患者さんの線維芽細胞を無理やり虚血状態に追い込むと、vascular endothelial growth factor(VEGF)が強く誘導される事から、”ケロイドの線維芽細胞によって産生されたVEGFこそが、毛細血管の内皮細胞を増殖させ、(血管の)内腔を更に狭くし、それが虚血状態を引き起こし、そしてそれがまた…と言う悪循環を引き起こしている!”って仮説を唱えました。

 更には、上田らによると、ケロイドに於ける血管密度は、肥厚性瘢痕に比較して低く、血管内腔は扁平化しており、その傾向は中心部で顕著である事から、周囲の膠原線維による重圧‼で血管が押し潰されていると言う物理的な事情も関与しているのではないかと推測しています。興味深い事に、前述のVEGFですが、血管内皮細胞や線維芽細胞の蛋白質分解阻害作用のあるplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)を活性化する作用があるんだそうです。つまり、このPAI-1が、ケロイドで盛んに産生される細胞外マトリックスの分解を抑制しちゃってるので、これまた、重圧化して、物理的に血管を押し潰す事に加担しているんですね。本当に…踏んだり蹴ったりの悪循環なんですね。

 まとめます! ケロイドの中心部では、繊維芽細胞が盛んに膠原線維と細胞外マトリックスを合成しています。これ等の合成にはATPを必要としますが、解糖系を利用する事により、酸素がなくてもATPを賄う事が出来ちゃいます。膠原線維と細胞外マトリックスの過剰産生により、毛細血管は押し潰され、閉塞し、更なる低酸素状態に陥ります。しかしながら、老化や癌等の慢性疾患同様に、ケロイドは壊死に陥る事無く、繊維芽細胞は増殖をし続ける…。

 オゾン療法(血液クレンジング)だけで、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療をするのは流石に無理がありますが、ケロイド体質なら、アンチエイジング兼でするのもありでしょうし、既に出来てしまったケロイドや肥厚性瘢痕、そこまでいかない傷跡にも、オゾン化オイルを日々塗布するのもありだと思います。

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*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

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