マクロファージ新時代:あらゆる疾患を制御する機能的多様性が、今解明されつつあります旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2024年3月号

あらゆる疾患を制御する機能的多様性|マクロファージ

マクロファージ(貪食細胞)は、俗称・掃除屋とも呼ばれ、体内に侵入した異物やごみを分け隔てなく!処理する細胞です。近年まで、獲得免疫系の細胞とは異なり、細胞の多様性はないと考えられていました。しかし、最近の研究により、マクロファージは貪食細胞と言うシデムシ稼業だけでなく、生体の恒常性の維持や、慢性炎症、損傷後の組織修復の制御にも重要で、機能的に極めて多様性に富む細胞だって事が分かって来ました。

 あらゆる疾患を制御する機能的多様性から、今、アンチエイジングの業界で注目を浴びまくっているのが、マクロファージです。題して、「シン・マクロファージ」。彼は、単なる掃除屋ではなかったんです。先日の日本抗加齢医学会総会のセクションの題名が、実はこれ。…だから、何?って問われると、新時代が開けたばかりで、未だ、何者にもなっていないんで…、正直困るんですが(笑)、超大物になってからだと、いきなり知識が追い付かないじゃ寂しいので、青田刈り的意味合いで特集してみましたってだけなんです。

 因みに、この、シン・の意味は何かと問われると…、シン・ウルトラマンの場合は、意味は4つあるんだとか。①親愛の親、②身体の身、③真実の真、④主人公の名前(神永新二)の新二の新。シン・ゴジラの場合は、①新、②真、③神などの様々な意味を重ねて、「シン」というカタカナ表記を採用したんだそうです。シン・エヴァンゲリオンについては、邪推?も含めて諸説あり、主人公である碇シンジが「真」の覚醒をする物語なので、真。また、タイトルにある「:||」が意味するものとして、「“反復”こそがエヴァの物語の“終わり”となる」「新劇場版=テレビアニメ版・旧劇場版のループ後の世界」といった解釈もあります。更には、「進」(すすむ)という意味の「シン」は、繰り返しの物語の先にある「前進」という結末を想像させるものと、まあ色々。ところが、「シン・マクロファージ」のシン・は如何に?と、不純な好奇心から受講したHISAKOには、不勉強のなせる業か…結局、この落ちは分からずじまいでした(笑)。

脂肪酸によるマクロファージ機能制御

脂肪酸不飽和化の促進による、炎症収束形質の獲得

 マクロファージは組織によって性質が異なり、脳ではミクログリア、肝臓ではクッパー細胞、骨では破骨細胞と呼ばれる固有のマクロファージがいます。皮膚には組織球と呼ばれるマクロファージが存在していて、創傷治癒や感染症に於いて重要な役割を果たしています。これらは、大きくは炎症促進型(M1様)と炎症収束型(M2様)の2種類に分けられますが、その両者の発現バランスを握っているのが食事由来の脂質であり、炎症による組織微小環境の変動を介して、マクロファージの機能を炎症促進型(M1様)から炎症収束型(M2様)へと劇的に変化させます。実際、炎症刺激を受けたマクロファージでは、炎症応答の初期に不飽和脂肪酸の多くが一斉に低下しますが、後期にはω-3,6,7,9不飽和脂肪酸が増加に転じると言う、特徴的な二相性パターンを取る事が知られています。

 炎症刺激を受けて活性化されたマクロファージでは、一過性にエイコサノイド(美容通信2007年4月号)合成が増加します。アラキドン酸を起点として、プロスタグランジンやロイコトリエン等の生理活性物質が盛んに産生されますが、炎症応答の後期にはスフィンゴ脂質やコレステロール合成が増えます。

 炎症応答の初期には、マクロファージは、Th1サイトカインであるIFN-γやTLR(Toll-like receptor)4リガンドの活性化を受けて、炎症促進型(M1様)の形質獲得します。HIF-1αやNF-κB等の転写因子が活性化されるので、その結果解糖系が亢進し、脂質合成は抑制されます。これにより、炎症により酸素レベルが低下してしまった虚血環境に於いても、その活動性を損なわず、殺菌作用の維持が期待出来ます。

 ところが、刺激から12~24時間が経過した炎症反応の後期には、組織のリモデリングや修復を司る炎症収束型(M2様)マクロファージに自ら!置き換わります。脂肪酸の代謝を調節するSREBP1(sterol responsive element binding protein 1)が活性化され、脂肪酸の不飽和化が一転して増加します。合成されたエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)等の不飽和脂肪酸(美容通信2010年6月号)とその代謝産物は、マクロファージに於いて抗炎症活性を示し、炎症応答を適切に収束させます。アトピー性皮膚炎等の炎症性皮膚疾患の際に、定番的にEPAやDHAは処方されるお薬ですし、HISAKOのクリニックでも、「皮膚炎を治したければ、魚を喰え!」と魚屋の回し者じゃないのかと思わず疑ってしまう言動で、皆さんも(辟易?)周知の通りかな。炎症収束型(M2様)マクロファージでは、エネルギー産生(ATP産生)系は、酸化リン酸化や脂質代謝が主体となります。

 

脂肪酸は、何処からやって来たのか?

 泡沫化マクロファージの様に細胞内に脂肪滴を蓄えた場合は、その脂肪滴中の中性脂肪の中にも脂肪酸が含まれていますが、これは例外的で、普通は、脂肪酸の殆どが細胞膜やオルガネラ膜を構成するリン脂質に存在していて、遊離脂肪酸として存在しているのは極々僅かしかありません

 実のところ、マクロファージの炎症応答を主導している不飽和脂肪酸が、細胞内の何処からやって来たのか、その由来については未だ解明されていません。しかし、お魚や処方薬のEPA等の不飽和脂肪酸は、組織に常在するマクロファージのリン脂質に取り込まれ、エピゲノム変化を介して、マクロファージ機能を変化させる事までは分かっていますが…。

 補足ですが、EPAやDHA等のω(最近はnと表現するらしいが…HISAKOは古い人間なので、つい、ωって言ってしまう)-3不飽和脂肪酸は、更に代謝されてレゾルビンやプロテクチン、リボキシン等の抗炎症性脂質メディエーターの産生源になります。脂質メディエーターの原料となる脂肪酸は、ホスホリパーゼA2(PLA2)(美容通信2016年7月号)ファミリーに属する酵素によって、膜リン脂質から切り出されます。また、ホスホリパーゼA2(PLA2)の活性も、マクロファージの炎症応答と密接に関連しています。

腸内細菌叢とマクロファージ

 腸内細菌とその代謝産物が、マクロファージの分化や活性を制御している事が、近年次第に明らかになって来ました。腸内細菌叢の異常は、炎症性腸疾患や大腸癌等の消化器の病気だけでなく、糖尿病、肥満、関節リウマチ、自閉症、非アルコール性脂肪性肝炎等の多彩な病気との関係が指摘されており、腸内細菌‐マクロファージの相互作用に注目が集まっています。

腸管マクロファージの分化・局在制御に於ける腸内細菌の役割

 腸管組織は、腸内細菌や食事成分が存在する管腔、上皮組織、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、外筋層により構成されています。粘膜固有層、粘膜下層、外筋層には、機能や起源の異なる多様なマクロファージが存在します。腸管マクロファージには、①骨髄から遊走して来たCCR2+Ly6C+単球由来のマクロファージと、②胎仔期若しくは新生仔期由来の前駆細胞から分化した自己再生可能な長寿命のマクロファージに大別されます。粘膜固有層内マクロファージは、Ly6C+単球由来です。粘膜下層や外筋層では、大部分が胎仔期若しくは新生仔期由来の細胞を起源としています。

  • 腸管粘膜固有層

   腸内細菌依存的に、制御性T細胞の誘導、3型自然リンパ球(ILC3)への誘導、細菌の貪食、血管内への細菌侵入阻止に機能するマクロファージに分化します。

  • 粘膜下層・外筋層

   外筋層内マクロファージは、BMPを産生し、神経細胞を活性化します。神経細胞はCSF1を産生し、マクロファージの分化を誘導します。細菌感染時には、外筋層内のコリン作動性神経細胞が分泌するアセチルコリンが、抗炎症性マクロファージを誘導し、過剰な炎症応答を防いでくれます。

 

腸内細菌代謝産物によるマクロファージの活性制御

 腸内細菌は、宿主にとって難消化性成分である食物繊維を発酵/分解し、酢酸、酪酸、プロピオン酸等の短鎖脂肪酸や中間産物である乳酸やピルビン酸を細胞外へ分泌します。酢酸は、GPR109aを介した腸管マクロファージの抗炎症作用を誘導します。腸内細菌由来のピルビン酸と乳酸は、GPR31を活性化して、マクロファージの樹状突起伸長を誘導します。更には、肝臓で宿主由来の酵素によりコレステロールから合成されるコール酸と毛のデオキシコール酸(一次胆汁酸)は、その大部分が回腸上皮細胞に取り込まれた後、一旦粘膜固有層に排出され、門脈を通って肝臓に戻ります(腸肝循環)(美容通信2017年8月号)が、回腸上皮細胞に吸収されなかった5~10%の一次胆汁酸は、大腸の腸内細菌によりデオキシコール酸やリトコール酸(二次胆汁酸)に変換されます。この二次胆汁酸によるTGR5シグナルを介して、抗炎症性のマクロファージが誘導されます。

 

炎症性の腸の病気に於けるマクロファージの変化

 正常な私達人間の腸管粘膜固有層には、単球由来の短命(3週間以内)なマクロファージ(HRA-DR+CCR2+CD14+CD11c+)と自己再生する長寿命(6~52週間)のマクロファージ(HAR-DR+CD14+CD163+CD11c)の両方が存在します。粘膜下層、外筋層には、自己再生する長寿命のマクロファージだけが局在しています。HLA-DR+CD14+CD163highCD160highマクロファージは、Treg細胞の誘導を介さずに、エフェクターT細胞の増殖を抑制します。

 ところが、クローン病の患者さんでは、腸内細菌依存的に、炎症性サイトカインをぎょうさん垂れ流しして、Th1/Th2細胞を誘導するマクロファージが増加します。

神経ガイダンス因子によるマクロファージ機能制御

マクロファージ免疫代謝とセマフォリン

 繰り返しになりますが、刺激に応じて、マクロファージの細胞内で免疫代謝と言う劇的な代謝変容が起こり、炎症促進型(M1様)マクロファージや炎症収束型(M2様)マクロファージに分化します。

神経ガイダンス因子であるセマフォリン分子群は、細胞内代謝を抑制する事で、炎症収束型(M2様)マクロファージの分化を促進します。例えば、Sema6Dは、PPARγを介して、脂肪酸β酸化(fatty acid oxidation:FAO)を亢進させ、炎症収束型(M2様)マクロファージの分化を促進します。Sema7Aも、mTOR(mechanical target of rapamycin)及びAKT2の活性化を介して、脂肪酸β酸化及び酸化的リン酸化を亢進させ、炎症収束型(M2様)マクロファージ分化を進めます。

 

組織マクロファージに於けるセマフォリンの機能

■ミクログリアとセマフォリン

 ミクログリアは、中枢神経系に於ける組織常在性マクロファージであり、シナプス貪食やサイトカイン産生を介して神経活動を制御しています。

 左図を見て下さい。Sema4D-Plexin-B1シグナルは、リンパ球-ミクログリアの相互作用を介して、炎症を惹起させます。また、一部のミクログリアはSema4Dを発現しますが、このミクログリア由来のSema4Dも、アストロサイトのPlexin-B2を介して炎症を増悪させます。

■脂肪マクロファージとセマフォリン

 マクロファージは、脂肪組織の恒常性に於いても重要な役割を担っています。

 通常、白色脂肪組織(美容通信2018年8月号)のマクロファージは、大半が炎症収束型(M2様)マクロファージです。しかし、デブちん(肥満)の脂肪組織では、炎症促進型(M1様)マクロファージが浸潤し、腫瘍壊死因子α(tumor necrosisi factor α:TNFα)やIL-6等の炎症性サイトカインを分泌しており、インスリン抵抗性を引き起こします。クラス3セマフォリンの一つSema3Eは、マクロファージの機能制御を介して、デブちん(肥満)の病態形成に関わっています。脂肪細胞では、p53依存的に発現誘導されるSema3Eは、Plexin-D1を介して、炎症促進型(M1様)マクロファージの浸潤を推し進め、インスリン抵抗性を増悪させます。

■腫瘍マクロファージとセマフォリン

 腫瘍細胞には、多くの腫瘍随伴マクロファージ(tumor-associatedmacrophage:TAM)が浸潤・集積していますが、その大部分は炎症収束型(M2様)マクロファージで、腫瘍免疫を抑制し、腫瘍増殖を促進します。腫瘍随伴マクロファージ(TAM)は、Sema4Dを高発現していて、血管内皮細胞のPlexin-B1を介して血管新生を促進し、結果として腫瘍増殖を引き起こします。Sema7Aは、腫瘍随伴マクロファージ(TAM)に於けるポドプラニンの発現を増加させ、リンパ管新生を促進し、腫瘍の増殖を促します。

■破骨細胞とセマフォリン

 破骨細胞は、単球/マクロファージ系前駆細胞に由来する骨吸収を担う細胞群で、骨形成を担う骨芽細胞と交互に機能制御を行いながら、骨組織の形成を担います。

死細胞由来リガンドによるマクロファージ活性化

 老化(美容通信2024年1月号)は勿論、自己免疫疾患や癌、神経変性疾患、動脈硬化やメタボリックシンドローム、アトピー性皮膚炎(美容通信2024年2月号)、脂漏性皮膚炎、尋常性乾癬、小皺や肝斑に至るまで、様々な非感染性の慢性疾患に共通の病態基盤として、慢性炎症(美容通信2021年1月号)が注目されて久しくなります。この慢性炎症のトリガーとして、死細胞が注目されています。正常な組織では、死細胞は貪食細胞によって、とっとと処分?廃棄?されます。しかし、慢性炎症では、様々な理由から、例えば、死細胞数自体が増え過ぎて手が回らないとか、ネクローシス型の細胞死が惹起されてしまったとか、貪食細胞に機能障害が起こっている等々の不幸な事態が重なり、死細胞のクリアランスが低下します。これが慢性炎症の引き金を引くと考えられています。細胞死には、炎症抑制的に働くアポトーシス型と、炎症促進的に働くネクローシス型がありますが、前者のアポトーシス型では、カスパーゼ依存的に細胞内代謝が変容し、産生された代謝物が細胞外に放出される事で、周囲の免疫細胞に対し炎症抑制的に働くとされています。しかし、後者のネクローシス型では、詳細は未だ不明ですが、死細胞から放出されるメッセージ(DAMPs或いはdanger signal)(美容通信2021年8月号)が免疫細胞を活性化する事が明らかになって来ました。

Mincleとは

 Mincleとは、結核菌や病原性真菌に対する病原体センサーで、細胞膜上で、病原体の構成成分(糖脂質)を感知すると、炎症性サイトカインやケモカインの発現を誘導し、生体の感染防御に働いています。また、生活習慣病等の後天的な要因で生じる非感染性の慢性炎症に於いても、死細胞センサーとして働き、炎症慢性化の起点となります。Mincle活性化により、マクロファージによる死細胞貪食が強力に抑制されるだけでなく、TGF-βやPDGFの産生を誘導し、線維芽細胞の活性化や増殖を促進する等、Mincleは炎症の慢性化や線維化の中心的な役割を果たしています。

 

肥満とMincle

■脂肪組織の慢性炎症

 ライフスタイルの欧米化に伴い、我が国でも肥満やメタボリックシンドロームが増加し、様々な生活習慣の誘因(美容通信2021年1月号)となっています。脂肪組織は、余剰のエネルギーを中性脂肪として貯蓄(代謝機能)し、またアディポカインと総称される生理活性物質を産生・分泌(内分泌機能)する事により、栄養変化に対する生体の恒常性を維持しています。

 おデブの脂肪組織にはマクロファージが集まっている!事は、昔からデブ(肥満)の謎として知られていましたが、現在では、「肥満は、脂肪組織の炎症」との概念が定着しています。つまり、脂肪組織の炎症が、脂肪組織の機能である代謝機能と内分泌機能を変容させ、これを起点として全身臓器に慢性の炎症が波及・拡大し、様々な生活習慣病を発症・進展するようです。

■Mincleによる脂肪組織の線維化

  肥満の脂肪組織では、死細胞を核としてマクロファージが集結!するユニークな組織像(crown-like structure)が有名ですが、これは慢性炎症が始まる合図です。

 実は、上図の如く、肥満(脂肪細胞)と急性腎障害(腎臓)では、臓器や病態が全く異なるにも拘らず、マクロファージの由来や死細胞センサーは同じですし、死細胞からスイッチが入ると言う細胞応答の一連の流れも一緒です。

 急性腎障害にいては後述する事にして、crown-like structureの内部には、肥満に伴う代謝ストレスのあまり死んでしまった脂肪細胞があり、これを貪食・処理する為に集まったマクロファージがぐるっと周りを取り囲んでいます。巨大化した脂肪細胞は直径150μmにも達する為、それを取り囲むとなると、組織切片上でも10個くらいの大勢のマクロファージが動員する羽目になります。興味深い事に、Mincleは、crown-like structureの構成メンバーであるマクロファージだけに発現していて、これが死細胞(脂肪細胞)を感知するセンサーとして働いていると考えられています。このMincleが活性化したマクロファージからは、TGF-β(transforming growth factor-β)やPDGF(platelt-derived growth factor)が産生されており、crown-like structureの周囲には、これ等におびき寄せられた活性化線維芽細胞が集まり、線維化が進みます。様々な慢性炎症疾患のなれの果ては、所謂臓器線維化で、脂肪組織も例外ではありません。脂肪組織の線維化が進むと、脂肪細胞の肥大化を制限してしまうので、本来貯蔵庫として働くべき脂肪組織の脂肪蓄積能が下がってしまう。つまり、行き場を失った脂肪達は、遊離脂肪酸として血中を彷徨い、肝臓に流れ流れて、異所性脂肪(脂肪肝)となり…挙句にはインスリン抵抗性を惹起します。

 

急性腎障害とMincle

■Mincleによる急性腎障害の慢性化

 急性腎障害は、様々な原因により数時間から数日の間に腎機能が低下する状態で、従来、急性腎障害は一過性で、約半数は腎機能が回復すると考えられていましたが、実際には腎臓にダメージが蓄積しており、その後の経過中、高率に慢性腎臓病や末期腎不全に進行する事が明らかになって来ました。

 急性腎障害が慢性化する機序としては、以下が考えられています。急性腎障害では、急性期に大量の尿細管壊死が起こります。尿細管内に凝集した死細胞は、Mincle発現マクロファージによって取り囲まれ、crown-like structure様の組織像を呈します。壊死尿細管には、β-グルコシルセラミドや遊離コレステロールが蓄積し、これが内因性リガンドとして、Mincleを活性化します。その結果、マクロファージの炎症性サイトカイン産生が高まる一派腕、死細胞クリアランスが抑制され、炎症が慢性化します。残存する健常尿細管が減少してしまっているので、腎臓は萎縮し、慢性腎臓病に移行します。

抑制化レセプターによるマクロファージの機能制御

 マクロファージは、体内に侵入してきた微生物を貪食によって除去するだけでなく、抗原提示やサイトカインの産生により、獲得免疫の成立にも重要な役割を担っています。更には、マクロファージは外来性の異物だけでなく、アポトーシス細胞等の自己の不用な細胞を貪食によって除去する細胞でもあり、ホメオスタシスの維持に寄与しています。

 自己の不用な細胞をマクロファージが消去してしまう分子メカニズムは、「eat me」シグナルと「don’t eat me」シグナルの2つに大別出来ます。「eat me」シグナルとは、貪食すべき細胞表面上に「廃棄処分!」って白旗旗を立てる行為です。マクロファージはこれを目印に、お掃除を粛々と敢行します。これに対し、「don’t eat me」シグナルは、端的に表現すると、正常細胞には刻印されている「重要につき、処分すべからず!」って判子。マクロファージは、この刻印の意味が分かっているので、間違っても廃棄処分にしたりしません。「don’t eat me」シグナルが剥がれてしまったり、文字が擦れて読めなくなってしまったものを、非自己とみなし、貪食します。近年、悪智恵が発達した癌細胞連中が、この「don’t eat me」シグナルを悪用してマクロファージの貪食を制限すると言う、免疫逃避を行っている事が明らかになって来ました。

皮膚の病気とマクロファージ

皮膚のマクロファージ

 皮膚のマクロファージは組織球と呼ばれ、骨髄由来です。強い貪食作用を有し、貪食した抗原の蛋白質をプロテアソームによってペプチドまで分解し、その抗原情報をMHC classⅡに乗せてT細胞に提示します。また、炎症の際に増殖し、局所に遊走して様々なサイトカインを遊離し、病原体の食細胞や感染細胞の障害を引き起こします(美容通信2021年1月号)(美容通信2021年8月号)。組織球同士が合体!して巨細胞を形成する事もあり、慢性の炎症に於いては肉芽腫を形成する中心的な細胞でもあります。

 私達人間の皮膚のマクロファージは、CCR1陽性、MERCO陽性、TREM2陽性の3種類に分類出来ます。

  • CCR1陽性:CXCL1、CXCL2等のケモカイン発現が高く、所謂M1(炎症促進型)マクロファージに相当します。
  • MARCO陽性:C1QA、C1QBと言った補体の受容体や、葉酸受容体であるFOLR2、凝固因子であるF13A1、ヒアルロン酸受容体であるLYVE1の発現が高く、所謂M2(炎症収束型)マクロファージに相当します。血管周囲に存在し、血管透過性の調節、皮膚内への細胞遊走の調節に働いています。
  • TREM2陽性:他の2つに比して数は少ないですが、脂質代謝に係るFABP4やNR1H3、ステロイド合成に係るCYP27A1等の特異的な遺伝子を発現しています。

 

アトピー性皮膚炎とマクロファージ

 アトピー性皮膚炎(美容通信2007年4月号)(美容通信2024年2月号)と乾癬の皮疹部の皮膚では、F13A1陽性のMARCO陽性マクロファージが増加していますが、治療により減少します。しかし、皮疹がない部位の皮膚を調べてみると、乾癬ではF13A1陽性のMARCO陽性マクロファージの増加は認められませんが、アトピー性皮膚炎では皮疹部と同様に増加を認めたそうです。つまり、免疫学的な影響があるものと推測されています。

 

尋常性乾癬とマクロファージ

 尋常性乾癬(美容通信2008年4月号は人口の約0.1%に発症し、欧米の2~3%の発症頻度に比べると低いとされていましたが、近年は食生活の欧米化の影響か、増加の傾向にあります。

 皮疹部では、CCR1陽性マクロファージの数が増加しているだけでなく、CCR1陽性マクロファージ自身も、IL1BやIL23と言った尋常性乾癬の発症に関与する炎症性サイトカインを産生し、乾癬の病態に関与している事が分かっています。

 

肉芽腫性疾患

 肉芽腫は刺激物質に対して、生体防衛機能を発揮する為の新たな組織形成の一つで、マクロファージ、リンパ球、好酸球、形質細胞等から構成されます。肉芽腫中で、マクロファージは、炎症の発生から治癒、線維化の全過程に関与します(美容通信2004年5月号)(美容通信2017年11月号)。類上皮細胞性肉芽腫の出現する疾患としては、結核、サルコイドーシス、種々の真菌症、異物肉芽腫(美容通信2013年4月号)等があります。

■皮膚感染症とマクロファージ

 結核感染を例に取って解説します。

 先ず、結核菌が組織に侵入すると、組織マクロファージに取り込まれます。しかしながら、結核菌だってマクロファージにみすみす殺されるなんて真っ平御免ですから、あの手この手を駆使して殺菌の手を掻い潜り、少しでも仲間を増やそうとします。手を焼いたマクロファージは、敵対勢力に抗する為にマクロファージ仲間を呼び集め、最終的には肉芽腫になります。

 2~3週間後には、遅延型過敏反応が成立し、菌体成分由来の物質やサイトカイン、細胞障害性T細胞の作用により肉芽腫内に壊死が生じると、ここぞとばかりに、マクロファージや類上皮細胞達が壊死組織を取り囲んで、病変を抑え込みます。

 炎症が極期を過ぎると、マクロファージやリンパ球によって炎症巣内の老廃・壊死物は処分され、一気に再建が進みます。マクロファージや血小板等から産生される増殖因子を介して、線維芽細胞の増殖や血管新生が促され、細胞外マトリックスも産生されます。メタロプロテアーゼも分泌され、マトリックスの分解・吸収が進みます。また、間葉細胞から分泌されるtissue inhibitor metalloproteinase(TIMP)は、プロテアーゼ活性を抑制して過剰分解を調節します。完全に敵の息の根を止める事が出来れば、病変は縮小・消失し、無かった事にしてしまいます。治癒って奴です。しかしながら、その痕跡である変性・壊死に陥った組織を完全に削除してしまう事は難しく、肉芽組織で置き換えられ、最終的には線維化巣として残ってしまいます。

 この様に、肉芽腫内で、マクロファージは炎症の発生から治癒、線維化までの全ての過程に関与します。

 しかしながら、肉芽腫の中で八面六臂の働きをするマクロファージの種類については、未だ分っていません…。唯、ハンセン病の患者さんでは、TREM2陽性のマクロファージが病原菌の貪食に関わっているようですし、また、TREM2は、抗酸菌の細胞壁を認識するパターン認識受容体として働いているという報告もあるので、もしかすると?

■サルコイドーシスとマクロファージ

 サルコイドーシスは、多臓器に類上皮細胞肉芽腫を発症する疾患で、胸郭内や眼病変に次いで皮膚病変の頻度が高く、全患者の10~30%に皮膚病変が認められます。しかしながら、サルコイドーシスで、どの様に肉芽腫が出来るのかはまだ分かっていません。遺伝的素因、環境因子(常在菌)、免疫学的素因等が複雑に絡む病気ではありますが、少なくとも免疫学的な素因については、Th1タイプの過敏性免疫反応に起因するのではないかと考えられています。

 

強皮症とマクロファージ

 強皮症は、全国に2万人以上いる、免疫異常、線維化、血管障害を引き起こす疾患です。マクロファージが、強皮症に於ける線維化のドライバーと考えられており、M1(炎症促進型)とM2(炎症収束型)の両方のマクロファージが増殖しています。夫々のマクロファージが局所の環境により分化して、病態の形成に関わっているようです。