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HISAKOの美容通信2021年7月号

おしもの話|閉経関連泌尿生殖器症候群

「閉経関連泌尿生殖器症候群」ってご存知ですか? ①性器症状(膣乾燥感、外陰・膣部掻痒感/灼熱感等)、②性機能関連症状(性交痛、潤滑不足、性欲低下等)、③下部尿路症状(尿失禁、尿意切迫感、排尿時痛、反復性尿路感染症等)の3つの症候群からなります。慢性且つ進行性の疾患で、明らかに生活の質を損なうにも拘らず、閉経後の半数以上の女子が罹患しているとの報告があります。以前は、骨盤底筋の自主トレーニングか、手術か的な極端な治療方法の選択しかありませんでした。抗コリン薬一辺倒だった過活動膀胱の薬として、10年前にβ3作動薬であるミラベグロンが、世界に先駆けて日本で承認されたり、ハイフHIFUの様な保存的な治療にも関わらず、手術にも劣らない結果を出す理学療法と言った新しい治療の選択肢が広がっています。大人女子に多い骨盤臓器脱にも、これ等の理学的療法は効果があります。ホルモン補充療法、栄養療法等の補完療法等、アンチエイジングの手法を併用する事で、更なるQOLの向上が見込まれます。

 浜松町駅と言えば、コスプレ大好きな小便小僧が有名ですよね。Wikipediaによると、1952年(昭和27年)10月14日の鉄道開通80周年に際して、当時の浜松町駅長の椎野栄三郎が、何か記念になるものはないかと新橋駅の嘱託歯科医だった友人の小林光氏に相談し、小林氏の長男誕生記念に作られて診療所の庭に置かれていた白い陶器製の小便小僧が寄贈されたのが最初だったんだそうです。このホームは当時未供用で、1956年(昭和31年)の山手線と京浜東北線の分離運転開始で、漸く利用が開始されたそうです。1955年(昭和30年)5月にプラットホームの改修工事が行われ、小林氏から新たにブロンズ製の小便小僧が寄贈されました。これが今の、二代目小便小僧です。当初は衣装はなく、裸の状態だったそうです。ある寒い日に、女の子が毛糸の帽子を被せたのが衣装を着せた最初でした。その後、浜松町の会社に勤務していた田中栄子さんが、衣装を作成して着せるようになったそうです。1955年のブロンズ製の像の除幕式でも、田中さんの作ったキューピッド姿で出席しました。その後30年あまりに渡って、田中さんが200着以上の衣装を作り続けてきましたが、田中さんの死去により再び裸になってしまったそうです。転機が訪れたのは、1986年(昭和61年)。東京消防庁芝消防署から、防災PR用に小便小僧に着せる消防服を作って欲しいとの依頼が、港区の手芸グループ「あじさい」にありました。それを契機に、同年11月から再び着せ替えが始まり、それ以降は「あじさい」により衣装が毎月変更されています。像は動かせないので、人間のように衣服を着用出来ません。仮縫いまで済ませた服を持ち込んで、現地で縫い合わせると言う、実に大変な手間と労力と愛情が籠ったコスプレ姿なんですね。

 今月号は、おしもの話です。確かに、下ネタと言う言葉通り、大声で語り合うのは憚られる話ではありますが、より良い大人女子ライフを考えるなら、避けては通れない話でもあります。

閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)と言う新しい概念

 更年期以降の性ホルモンの減少による膣・外性器と下部尿路に生じる問題を包括的に診断する目的で、国際女性性機能学会と北米閉経学会が閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary synderom of menopause:GSM)と言う用語を提唱しています。①性器症状(膣乾燥感、外陰・膣部掻痒感/灼熱感等)、②性機能関連症状(性交痛、潤滑不足、性欲低下等)、③下部尿路症状(尿失禁、尿意切迫感、排尿時痛、反復性尿路感染症等)の3つの症候群からなります。ですから、外陰膣萎縮症(vulvovaginal atrophy)(以前は、萎縮性膣炎とか老人性膣炎とも呼ばれてました!)は、この閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)の一部になります。

 この閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)は、慢性で、且つ進行性の病気で、ナント、閉経後の半数以上の女子が罹患しているとの報告があります。この病気によってクオリティ・オブ・ライフ(QOL)、つまり生活の質が明らかに損なわれており、鹿児島弁で言うと「でげんかせんといかんばい!」(=積極的な治療介入が必要)なんです。

 治療としては、性ホルモン剤(美容通信2010年8月号)(美容通信2015年7月号)(美容通信2015年11月号)の全身投与や局所投与、更には美容皮膚科領域ではお馴染みのフラクショナル炭酸ガスレーザー(美容通信2007年2月号)やハイフ等が行われていますが、勿論、骨盤底の血流や筋肉量を維持する為の、骨盤底筋の訓練がベースにある事は忘れてはなりません。…ん? これって、お肌や髪の毛の治療と広い意味で全く同じじゃん? そうなんです。根っこは同じアンチエイジングの考え方なんですよ。

過活動膀胱

 最近良く耳にする過活動膀胱は、2002年に定義された尿意切迫感を必須症状として、頻尿、切迫性尿失禁を伴う症候群です。私達女子に多い尿漏れ(尿失禁)には、この切迫性尿失禁の他に、腹圧性尿失禁、溢流性尿失禁等の他、フレイル高齢者(美容通信2019年2月号)(美容通信2018年9月号)では機能的尿失禁が起こり易くなります。

 

過活動膀胱とは

 正常な下部尿路機能は、①尿を排泄する排尿機能と、②尿を膀胱に蓄える畜尿機能から構成されており、それらの機能が損なわれると、夫々排尿症状、畜尿症状が出ます。これに、③排尿後症状である残尿感を併せた症状三兄弟を、「下部尿路症状」と泌尿器科業界では呼んでいます。

 その中で、特に尿意切迫感等の畜尿症状を有するものを、新たなグループとして定義したのが「過活動膀胱」です。約20年前に提唱された、割に新しい疾患概念です。乃木坂46内には、サンクエトワールとか女子校カルテットとか幾つかのユニットがありますが、立ち位置的には、これらと同様のユニットと考えると分かり易いのではないかと思います(さし坂とかこじ坂とか乃木坂AKBの様な、コラボユニットではありません。悪しからず!)。つまり、過活動膀胱とは、尿意切迫感!を必須とした症候群であって、切迫性尿失禁はあってもなくても…まあ、どっちでも良いんです。通常は、頻尿と夜間頻尿を伴います。

 因みに、右図はnetkeiba.comから引用したサンクエトワール。フランス語で「五つ星」という意味です。乃木坂46のメンバーではなく、新冠町生まれの競走馬で、歌は歌いません。踊りも踊りません。

 過活動膀胱は、性別では断然女子に多く、失禁を伴うものに至っては、殆ど女性専科と言っても過言ではありません。過活動膀胱症状は経時的な変動も大きく、発症率は10~40%。リスクファクターは、肥満、排尿症状の併存、鬱症状等です。

 過活動膀胱は、年齢と共にその有症状率は上昇し、日本では80歳以上の高齢者の37%に達するとの報告があります。自然寛解もあり得ますが、過活動膀胱に起因した症状の有症状率は経過と共に増加し、尿失禁へと増悪する事が多いとされています。この背景には、下部尿路そのものの問題だけではなく、下部尿路を支配している中枢神経系の異常や生活習慣病の罹患率増加等も関与していると考えられていますが、最近、特に疫学領域では、フレイルとの関連が注目されて来ています。あくまでも主観的な症状症候群である過活動膀胱が、身体的なフレイルを測定する為の客観的な指標とされる、歩行速度やバランスの低下と有意に相関が認められています(←因みに、後述する腹圧性尿失禁との間には、相関は認められません)。過活動膀胱もフレイルも多因子疾患であるのと同時に、原因として共通する要素が多い事も知られており、フレイル関連疾患として、新たな切り口でのアプローチが今後期待出来るかも知れません。

 

過活動膀胱の診断

 日本発の診断ツールとしての過活動膀胱症状スコアは、診断、重症度評価、治療効果判定に用いられています。下図の如く、この1週間の状態に最も近いものを選んで印をつけるだけの、と~っても簡単な質問票です。尿意切迫感スコア(質問3)が2点以上且つ合計スコアが3点以上で過活動膀胱と診断され、合計スコア5点以下を軽症、6~11点を中等症、12点以上を重症と判定します。

質問 症状 点数 頻度
1 朝起きた時から寝る時までに、何回くらい尿をしましたか 0 7回以上
1 8~14回
2 15回以上
2 夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をする為に起きましたか 0 0回
1 1回
2 2回
3 3回
3 急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日に1回くらい
4 1日2~4回
5 1日5回以上
4 急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日に2~4回
5 1日5回以上
合計点数

 鑑別疾患としては、悪性腫瘍(膀胱癌、前立腺癌、その他の骨盤内悪性腫瘍)、尿路結石(膀胱結石、尿道結石、下部尿管結石)、下部尿路の炎症性疾患(細菌性膀胱炎、尿道炎、前立腺炎、間質性膀胱炎)、子宮内膜症等の膀胱周囲の異常、多尿、心因性頻尿、薬剤の副作用etc.があります。

 

過活動膀胱の分類と病態

 明らかに神経疾患に起因する神経因性と、それ以外の非神経因性の2つの機序に大別出来ます。

 神経因性過活動膀胱を来たす疾患としては、脳出血や脳梗塞等の脳血管障害やパーキンソン病等の脳疾患の他、椎間板ヘルニア等の脊髄疾患、腰部脊柱管狭窄症や糖尿病性末梢神経障害等の馬尾・末梢神経疾患等が挙げられます。

■非神経因性

  • 男女共通の発症メカニズム

   メタボリック症候群或いは肥満との強い相関があるとの報告が目白押しですが、実際的には、肥満と言うよりもメタボリック症候群の構成要素、つまり、高血圧、脂質異常、耐糖能異常に関連する血管内皮機能障害、内臓脂肪由来の炎症性サイトカインの増加、自律神経系の活動亢進が病態として重要と考えられています。正しく言えば、メタボリック症候群より、それを引き起こす生活習慣病が問題(美容通信2021年1月号!って事です。

   ①膀胱血流障害;血管の老化には、酸化ストレス、インスリン・シグナリング、炎症等が関与します。

   ②自律神経系の活動亢進;肥満、メタボリック症候群、食塩過剰摂取が加わると、交感神経系が活性化されます。交感神経の活性化は、血圧上昇や動脈硬化の進展等の心血管系の影響だけでなく、臓器を流れる微小血管の収縮→血流障害に繋がります。

   ③膀胱の加齢;年を取るに従い、膀胱平滑筋を支配する骨盤神経節後神経からの、アセチルコリンの分泌が減少します。反対にアデノシン3リン酸(ATP)の放出は増加します。アデノシン3リン酸(ATP)は収縮の開始に関与するので、もしかすると、尿意切迫感等の過活動膀胱を引き起こしているか・も?

   ④膀胱の炎症;過活動膀胱の患者さんの6割に、膀胱上皮若しくは上皮下に、慢性の炎症が認められています。血清C反応性蛋白質(CRP)の高値(美容通信2021年4月号)が認められます。膀胱の炎症が、過活動膀胱の発症に関与しているかも?

  • 女性に於ける発症メカニズム

   主に、女性ホルモン、骨盤底弛緩・骨盤臓器脱の2点が挙げられます。

   ①女性ホルモン;更年期に伴うエストロゲンの低下は、尿生殖器の萎縮変化を引き起こし、頻尿、尿意切迫感、夜間頻尿、切迫性尿失禁等の下部尿路症状や再発性尿路感染症の要因になります。

   ②骨盤臓器脱;骨盤臓器脱を伴う方が、骨盤臓器脱を伴わない場合よりも、過活動膀胱の頻度が高い。どうも、閉塞が過活動膀胱の発症に関わっているようです。

  • 男性に於ける発症のメカニズム

   ①膀胱出口部閉塞;前立腺肥大症の様な膀胱出口部分の閉塞があると、2次的に膀胱機能の変化が生じ、それに伴い過活動膀胱も発症するらしい。

   ②内分泌環境の変化;下部尿路症状を呈する加齢男性性腺機能低下(LOW)症候群、まあ俗に言う男の更年期(美容通信2014年7月号)(美容通信2015年6月号)(美容通信2017年1月号)(美容通信2017年2月号)って奴ですが、テストステロンの補充によって、排尿症状のみならず畜尿症状も改善するようです。唯、テストステロンの低下が過活動膀胱を誘発してしまった可能性はありますが、テストステロン値と畜尿症状との間に有意な相関が必ずしも認められてはいないところが、痛し痒し。

 

過活動膀胱に対する行動療法

 行動療法は、尿意切迫感に対する反応、排尿習慣、尿失禁予防方法の習得等に於ける患者さんの行動を変える事で、膀胱のコントロールを改善させるもので、治療の第一選択とされています。生活指導(体重減少(美容通信2011年10月号)(美容通信2017年7月号)(美容通信2010年4月号)、運動療法(美容通信2012年7月号)、禁煙(美容通信2008年7月号)(美容通信2006年10月号)、食事(美容通信2020年5月号)/アルコール/飲水指導、便秘(美容通信2014年1月号)(美容通信2007年10月号)の治療)や膀胱訓練(尿意の我慢)、骨盤底筋訓練(今流行りの膣ハイフの様な理学療法も含む)等が推奨されています。

■骨盤底筋訓練

 骨盤底筋の収縮により、排尿筋の収縮が反射的に抑制される事で、過活動膀胱に効果があります。自主トレの有効率は60~80%と比較的良好なんですが…、効果発揮まで時間が掛かるので途中で心が折れてしまったり、骨盤底筋の収縮の要領をどうしても習得出来ずに脱落してしまうのが欠点。自主トレだから、当たり前ですが、金額も0円なんですが…、駄目な人は駄目です。だからと言って、いきなり手術!って選択を下せない迷える子羊達に、最近メキメキと人気急上昇なのが、ハイフHIFUの様な理学療法達。単体でもそれなり以上の効果がありますし、薬物療法と併用する事で、薬の量を減らす事だって可能になります。

  • ハイフHIFU(高密度焦点式超音波治療法)

 因みに、ハイフHIFUとは、高密度焦点式超音波治療法の略で、超音波を一点に集束させて組織に熱損傷を与える治療です。世の中的にはハイフと言えば、美容皮膚科領域のたるみ治療とか痩身のイメージが強いですが、泌尿器科領域では、前立腺がん治療にも用いられています。最近は、膣・尿失禁・骨盤臓器脱治療として人気上昇中。ハイフの治療原理は、レーザーよりも更に深い層、筋層までアプローチが可能で、照射深度の異なるカートリッジを複数併用する事で、ほぼ膣全層を網羅出来ます。施術範囲は膣の最深部から膣開口部まで尿道周囲も含めた360℃全周。ですから、各層が点状に加熱される事でコラーゲンが縮み、膣全体の収縮が照射直後から起こります。その後、約2~6ヶ月に渡る創傷治癒過程=熱で縮んだコラーゲンを治そうとする働きが起こり、新しいコラーゲンの生成に拍車が掛かり、膣の弾力が増すのと同時に、膣壁自体が肥厚するので、膣の弛みが改善します。その結果、子宮や膀胱等の骨盤内臓器の下降(骨盤臓器脱)が抑制されるだけでなく、尿道の可動性も改善し、尿失禁が軽快するって仕組みです。ですから、手術しか選択枝のなかった重症の骨盤臓器脱や尿失禁の方にとって、新たな治療の選択肢として人気急上昇なんですね。

  • エムセラ(高密度焦点式電磁(ハイフェム))

   筋トレ界の王者・エムスカルプトの、骨盤底筋群の強化バージョン。ですから、適応は尿失禁治療(腹圧性・切迫性・混合性)と性機能障害の改善で、骨盤臓器脱の治療には使えません。しかし、ハイフが膣の中にカートリッジを挿入して照射をするのに対し、まあ、洋服を着たまま椅子に30分くらい座ってるだけなので、楽っちゃ楽です。炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、ハイフ(HIFU)、高周波(RF)、超音波(US)等の、(手術程ではないにしろ)ちょっとだけ侵襲的な治療の前座(非侵襲的)的な立ち位置です。

 

過活動膀胱に対する薬物療法

 性ホルモンの低下は、男女共に発症のメカニズムの一つとして挙げられますから、生活習慣の改善や行動療法等の保存的な治療と併せて、ホルモン補充療法を行った上で、抗コリン薬やβ3作動薬を中心とした薬物療法を考えるのが、筋と言えば筋。ですが、ホルモン補充療法は健康保険の対象でない事も多く、悩ましいのも事実。

■抗コリン薬

 抗コリン薬は、膀胱のムスカリン受容体に於けるアセチルコリンの働きを阻害する作用(抗コリン作用)により、膀胱の過剰な収縮を抑え、過活動膀胱等による尿意切迫感や頻尿等を改善するお薬です。

 爺婆と称される高齢者、特に日常生活に於いて身体機能や認知機能が衰えている健康状態が脆弱な(フレイル)高齢者では、抗コリン薬の副作用が出やすく、又、重篤になる頻度が高いので、要注意! 最も多い有害事象は口内乾燥で、他に便秘、霧視、排尿困難、残尿量の増加があります。そして近年、特に注意喚起をされているのが、認知機能障害。中枢神経系に分布するムスカリン受容体は、記憶や覚醒、注意力等を制御しているので、抗コリン薬で中枢神経系のムスカリン受容体が遮断されると、せん妄や認知機能障害が生じる可能性があります。近頃、抗コリン薬使用と認知症のリスク増加や脳の萎縮との関連を示唆する報告が相次いでいますが、我が国のガイドラインでは、軽度認知症なら大丈夫とは記載がされてはいます。…が、12週間程度の比較的短期の影響しか調べられていないので、ど~なんでしょうって気もしないでもないですが…。

 因みに、後述のβ3作動薬と抗コリン薬、どちらが過活動膀胱のファーストチョイスの薬かと問われると…、う~ん、難しい。効果的には概ね同等か、ちょっとだけ抗コリン薬の方が優れているんですが、認知機能への影響を考えると…β3作動薬に軍配? でも、抗コリン製剤には貼り薬があるから、有効血中濃度を安定的に長時間維持し易いし等々と、悩ましい。しかし、AUA/SUFU Guideline(2019)では、非神経因性過活動膀胱への治療に際し、前述の行動療法が効果を示さない場合の2ndラインセラピーとして、β3作動薬を提示しています。

■β3作動薬

 β3作動薬の先駆けであるミラベグロンは、日本で創製・開発された過活動膀胱の新しいお薬です。2018年にはビベグロンも発売され、これから破竹の勢いが期待される、要注目!のお薬です。排尿筋には「アドレナリンβ3受容体」が存在しており、排尿筋の収縮・弛緩に関与しています。作用機序としては、アドレナリンβ3受容体を特異的に刺激(作用)して排尿筋を弛緩させる≒膀胱容量が大きくなるので、尿意切迫感等の症状改善が期待されると言うものです。

 ミラベグロンの投与により、65歳以上、75歳以上共に尿失禁回数、排尿回数が改善しており、高齢者に多い口腔乾燥や便秘等の副作用も軽微で、忍容性も良好だったそうです。

 β3作動薬では循環器系の副作用が危惧されますが、実際的には脈拍・血圧・心電図変化等は認められていません。しかし、心血管障害を有する患者さんに対しては、循環器系の副作用に注意が必要とされています。また、動物実験(ラット)で生殖器系への影響が認められた為、生殖可能な年齢層への投与は出来る限り避けるようにとの注意喚起がなされています。

■抗コリン薬とβ3作動薬の併用

 抗コリン薬とβ3作動薬の併用療法は、各単独による治療よりも、過活動膀胱の症状改善に効果的とされます。通常は、初回治療から2剤の併用療法を行う事は少なく、どちらかを単体で先行投与し、その後にもう一方を追加する追加併用療法が一般的で、長期的に良好な改善効果が得られます。併用による有害事象は、抗コリン薬単独によるものと同等ですが、高齢者ではその発生頻度が高くなる可能性があります。

 

過活動膀胱に対するその他の治療

 神経変調療法(電気刺激療法・磁気刺激療法・仙骨神経刺激療法)や外科的療法(ボツリヌス毒素(美容通信2003年10月号)(美容通信2012年12月号)膀胱内注入法)があります。

 美容皮膚科・美容外科領域でお馴染みのボトックスですが、過活動膀胱の治療にも適応があり、既に90か国以上の国と地域で行われています。Leongらの報告によれば、約80%の症例に有効で、排尿回数は12~53%、尿失禁回数は35~87%減少したそうです。しかしながら、このボツリヌス療法は、当たり前ですが、一生モノではなく、まあ効果は4~8ヶ月の命。皺や肩こりと同じです。

尿失禁

 尿失禁とは、自分の意志とは関係なく、おしっこしたくない時や場所でおしっこが漏れてしまう状態です。日常生活に於いて、極めて不快・不自由でし、生活の質(QOL)がダダっと下がってしまいます。報告によりばらつきがありますが、尿失禁は女子に多く、男子の2倍の頻度です。年齢と共にその頻度は増加しますが、特に男子では60歳以上が大半を占めるのに対し、女子では若・中年にもかなりの頻度で起こっています。治療の対象にならない軽度なものを含めると、大人女子の約40%が尿失禁を経験していると考えられています。

 尿失禁は、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁等に病態によって分けられます。特に女子に多いのが腹圧性尿失禁(49%)で、次いで混合性尿失禁(腹圧性と切迫性の合併型!)(39%)、切迫性尿失禁(21%)の順になります。男子では、前立腺肥大症を伴った切迫性尿失禁や溢流性尿失禁が見られます。

 

尿失禁の種類と病態

 高齢・神経疾患・手術後状態等の特殊な場合を除けば、女子の尿失禁の殆どが、腹圧性か切迫性、又はその両者が組み合わさった混合性です。

■腹圧性尿失禁

 腹圧性尿失禁とは、膀胱におしっこが貯留した時の咳、くしゃみ、階段の上り下り、テニスやジョギング等の運動時に、瞬間的に腹圧が掛かる事で、膀胱内圧が尿道閉鎖圧を上回り、膀胱収縮を伴わずにおしっこが漏れちゃう状態です。尿道閉鎖圧の低下を引き起こす病態としては、①尿道過可動と、②内因性括約筋不全の2つの病態が関与します。

 β2作動薬のクレンブテロールが、主に薬物治療として使われます。膀胱や尿道括約筋にはβ2アドレナリン受容体が分布しており、これが活性化すると膀胱が緩み、尿道括約筋が引き締まるという働きがあります。β2刺激薬は、β2アドレナリン受容体の働きを高める事で、膀胱が緩んで尿を溜める余裕が広がり、且つ尿道括約筋がしっかり締まるので、腹圧が掛かっても尿が漏れにくくなります。しかし、腹圧性尿失禁、並びに保存的治療で切迫性尿失禁は改善はしたが、腹圧性尿失禁が残ってしまった混合性の尿失禁の場合は、尿道スリング手術等の手術療法が適応となります。

  • 尿道過可動

   多くが経産婦、特に閉経後に良く認められます。理由は諸説ありますが、妊娠及び経膣分娩が骨盤内支持組織や神経の過伸展・損傷を招きます。年齢と共に更に尿道の裏打ちが弱くなり、腹圧負荷時に尿道が膣側に下垂して逃げるようになります。そうなると、腹圧が全て膀胱に集中しますが、尿道は加圧されないという状況になるので、当然、尿漏れが起こります。

  • 内因性括約筋機能不全

   尿道粘膜が菲薄化して、尿道が密着する事が出来ない為、低い腹圧でも尿漏れが起きます。以前は、尿失禁の手術後とか放射線療法と言った特殊な状態と考えられていましたが、現在では、多くの場合、尿道過可動と内因性括約筋機能不全が併存していると考えられています。特に、閉経後の女子では、低エストロゲン状態が続き、尿道の菲薄化が進みやすい事が要因として挙げられます。

   一般的には、内因性括約筋機能不全を伴う場合は、「立つと、ジャ~ッと漏れる」「椅子に座っていると、おしっこで濡れてる」と言った重症度の高い訴えが多いとされています。

■切迫性尿失禁

 普通の状態では、膀胱におしっこが溜まっていても、内圧は上昇しません。おしっこしたい!って意思(指令?)によって、初めて排尿筋が収縮して、おしっこが出ます。ところが、この切迫性尿失禁って代物は、おしっこしたいって先立つ尿意(指令!)ってものがないままに、勝手に(不随意な)排尿筋の収縮(排尿筋過活動)が起こり、急激に強い尿意(尿意切迫感)と同時に、若しくは直後に、おしっこを漏らしてしまうものです。…あれ? 何か聞いた事があるような、ないような? そうです。切迫性尿失禁は、過活動膀胱の症状の一つなんです。2002年に国際禁制学会ICSが定めた用語標準化報告の中では、尿意切迫感を伴う畜尿障害を過活動膀胱oversctive bladder:OABと定義され、切迫性尿失禁は過活動膀胱に伴う尿失禁でOAB wetと呼び、尿失禁を伴わない場合をOAB dryとされる事になりました。

 切迫性尿失禁の症状は、「不意にトイレに行きたくなり、おしっこするまでに間に合わない!」「水仕事してると、急に尿意が沸き上がって来て、漏れてしまった…」と言った予測不可能な失禁です。前述の腹圧性尿失禁が、まあ、どちらかと言えば予測可能な失禁であるのに対し、切迫性尿失禁は予測不能な尿失禁であり、それが故に、生活の質は正にダダ下がりしてしまいます。

 問診のみで診断可能で、その補助として、前述の過活動膀胱症状質問票が用いられます。

■混合性尿失禁

 腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の2つの病態が混在したもの。高齢女子に多く見られます。

■溢流性尿失禁

 残尿が多く、その為に尿が漏れ出てしまうもの。一般的に尿失禁と言えば畜尿障害なんですが、この溢流性だけは排尿障害が原因となります。排尿筋収縮不全(排尿筋低活動)によるものが多いとされています。女子ではα1遮断薬のウラピジルが使われますが、効果は限定的?

■機能性尿失禁

 膀胱・尿道機能は保たれているんですが、認知障害や運動障害で、トイレ以外の場所で尿失禁してしまうもの。高齢者に多く、他のタイプの尿失禁を合併している事も多々見受けられます。

骨盤臓器脱

 女子のおしもの悩みとしては、前述の尿失禁、過活動膀胱だけでなく、骨盤臓器脱等の骨盤底機能障害の疾患が多いのが特徴です。

 骨盤臓器脱は、端的に言えば、「骨盤底のヘルニア」。女性の骨盤底支持に関わる靭帯組織や筋膜構造の弛緩が要因となり、骨盤底臓器である膀胱、子宮、直腸、小腸等が、膣壁と共に膣内を下垂して、膣口から脱出する状態です。しかし、膀胱だけとか、子宮だけとか、単独の臓器だけが下垂するのは稀な為、十把一絡げで、骨盤臓器脱と呼んでいます。骨盤臓器脱は、しばしば尿漏れや排尿困難、頻尿等の排尿障害を伴いますが、時には排便障害や性交障害を伴う事もあり、QOLを著しく損なう疾患です。一般的なリスクファクターとしては、①妊娠、②経膣分娩、③加齢、④重量物の持ち上げ作業、⑤慢性便秘、⑥肥満、⑦人種、⑧喫煙、⑨閉経、⑩遺伝的な要因、⑪結合組織病等、複数指摘されています。

 日本ではまだ正確な疫学調査データはありませんが、米国の調査によれば、50歳以上の女子で、閉経後何らかの骨盤臓器脱を有する罹患率は39.7%と非常に高く、高齢化社会を迎えた日本に於いては、人口比等から推測しても10万人以上の罹患者さんがいると推測されています。海外では、骨盤臓器脱を専門に診る女性泌尿器科や泌尿器婦人科等が既に確立していますが、日本ではまだまだと言うのが現状です。

症状

 骨盤臓器脱では、殆どの患者さんが「長時間立っていたり、重い物を持ったりすると、何かが下がってくる感じがする」と言った下垂感や「排便の為にいきむと、膣から何か変なものが出て来る」「風呂場でしゃがんだ時に、股間に何か触れる」等と言った臓器脱出を自覚しています。

 しかし、その他の症状は脱出する部位によって異なります。前膣壁の性器脱では、「おしっこが出にくい」「いきんでも、チョロチョロとしかおしっこが出ない」と言った排尿障害や、「おしっこをした後でも残った感じがする」「おしっこをしたばかりなのに、又直ぐにおしっこに行く」「おしっこが近い」と言った残尿感や頻尿、逆に「咳やくしゃみ、運動をすると尿が漏れる」と言った尿失禁等の排尿障害の訴えが多くあります。後膣壁が下垂した場合は、「出ている部分を押し上げて排便をする」と言った排便困難が多く、時には「無意識のうちに、便が漏れる」「知らないうちに、下着が汚れている」と言った便失禁も伴います。

 他には、骨盤臓器脱の為に性交を控えるようになったり、性交時に違和感がある等、性交障害を訴えたりする場合もあります。

 

診断

 骨盤臓器脱の診断には、問診と診察のみでほぼ診断は可能です。

 

成因

 骨盤臓器脱は、膣管の支持不良による骨盤部のヘルニアです。つまり、腹圧が掛かると、特に立位では骨盤開口部の最も弱い部位である膣管に圧が掛かります。膀胱や子宮、直腸等の臓器自体には支持力がありませんから、他力本願的!と申して良いのかどうか分かりませんが、膣管により間接的に骨盤内に保たれているんです。つまり、骨盤臓器脱は、臓器自体の損傷ではなく、膣管を支持している靭帯や筋膜、筋肉の損傷、脆弱化によって起こるんです。

 先天的な因子もなくはないですが、後天的な要因が大きく、分娩による組織障害や骨盤底筋の神経損傷、体重増加や便秘、CODP等の慢性的な腹圧上昇、及び年齢によるホルモンレベルの変化等が挙げられます。

 

治療

 治療は、その成因からも明らかな様に、膣管の減弱してしまった支持力をどうサポートするかです。性ホルモンの低下は要因の一つですが、脱出臓器の表面の糜爛や乾燥を軽快させてくれるので、違和感の改善に繋がりますが、これだけでは支持力の補完には至りません。あくまでも、QOLの向上の為にプラスするって位置付けです。

■保存的治療

  • ペッサリー(リングペッサリー)

   ポリ塩化ビニル製の輪っか(ペッサリー)を膣の中に入れて、下垂した膀胱や子宮を支えると言う、超シンプル且つ安価にも拘らず、その場で効果が直ぐ実感出来ると言う優れモノ。ですが、長期間膣内に異物が入れっ放しにしておくと、おりものは増えるし、悪臭や出血、膣の糜爛や潰瘍形成を起こしたり、運が悪いと、膀胱膣瘻、直腸膣瘻にまで発展してしまう事もあるので、多くの病院では3ヶ月に1回の診察、ペッサリーの洗浄、交換を行っているようです。自己着脱(起床時に装着し、就寝時に外す)が出来れば、トラブルの回避に有効だけじゃなく、Hも出来る!んですが…高齢者では中々難しい面も。

  • ハイフHIFU

   超音波の膣内照射により、膣管自体に本来の支持力を回復させよう!と言うもので、立ち位置としては、着脱不要のペッサリーってところでしょうか?  手術しか選択枝のなかった重症の骨盤臓器脱や尿失禁の方にとって、新たな治療の選択肢として人気急上昇中です。

  • 骨盤底筋訓練

   骨盤底筋訓練は、軽い尿漏れ(特に腹圧性)に関しては非常に効果的ではありますが…、骨盤臓器脱に対しては、予防的な側面はありますが、治療効果は殆ど皆無。

■外科的治療

 根本的な外科的治療はなく、現時点では膣管の支持組織(結合組織)を補強するのが手術の基本とされています。最近は、経膣メッシュ(人工素材)手術は、長中期的な成績でも、解剖学的な再発率が低く、安定した術式とされていますが、ブラインド操作や穿刺、メッシュの露出等の特有の合併症から、米国食品医薬局(FDA)から2008年、2011年と警告が出され、欧米では急激に減少する傾向にあります。これに代わり、近年では、腹腔鏡下仙骨膣固術に大きく選択がシフトしているようです。また、非メッシュ手術(膣式子宮摘出術+膣断端固定術etc.)も、主観的な再発率が決して高くない事から、再度脚光を浴びているようです。


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。


*ハイフ等の女性泌尿器科の理学的治療については、2023年開業予定の提携クリニックでの提供になります。2021年7月現在、旭川皮フ形成外科クリニックでの提供はありません。フェイシャルに対するハイフのみの提供です。


※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

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