HISAKOの美容通信2015年12月号
爪水虫の塗るお薬(爪白癬外用治療薬)「クレナフィン」
日本で初めて、爪水虫(爪白癬)の塗り薬が、科研製薬から発売されました。 ”クレナフィン爪外用液”です。 厚い鎧を身に纏った爪水虫に対しては、局所的な病気にも拘らず、従来の塗り薬では歯が立たず、爪を引っ剥がして直塗りするか、爪の上からYAGレーザー治療(美容通信2013年9月号)で灼熱砲撃を食らわせて殺すしか、局所的なアプローチはありませんでした。
後は…、体のほんの小さなエリアの水虫退治の為に、肝臓のご機嫌を伺いながら、飲み薬を飲む。 つまり、全身投与って方法くらい(パルス療法を含む)。 意外に、選択肢が少ない(笑)。 ”クレナフィン爪外用液”が、全てを解決する様な素晴らしい薬かと問われれば、やっぱ、「ノン」です。 治癒率は、高が17.8%。されど17.8%です。 でも、「肝臓が悪いから仕方ないよね~」って、ドS根性丸出しのHISAKOに生爪を剥されるより、どう考えてもましってもんでしょう、ははは。
面倒臭いので(笑)、”クレナフィン爪外用液”の製品情報概要から、[開発の経緯]を抜粋しておきましょうね。
”クレナフィン爪外用液”は、科研製薬株式会社において創製された新規トリアゾール系化合物であるエフィナコナゾールを有効成分とする日本初の外用爪白癬治療剤です。
爪白癬は、皮膚糸状菌に分類されるTrichophyton rubrumやTrichophyton mentagrophytesを主な原因菌とする爪の感染症であり、爪の混濁、肥厚、変形、落屑といった外見上の変化のみならず、爪の肥厚に伴い靴を履く時の痛みや歩行困難等が出現するなど、患者には肉体的・精神的な負担がかかります。また、治療せず放置することで、家族内感染等周囲への感染の拡大を招いてしまうことも問題点です。
本剤承認前において、日本国内で承認されている爪白癬治療薬は経口抗真菌薬のみであり、「皮膚真菌症診断・治療ガイドライン」でも同薬による治療が原則です。しかし、経口抗真菌薬には肝障害等の副作用や薬物相互作用がみられることがあり、特に高齢者や合併症により複数の薬剤を服用している患者では使用が制限される場合があります。そのため、安全性に対する懸念が少なく、爪白癬に対し外用で有効性が期待できる新たな治療薬が望まれていました。
クレナフィンは、何故、爪水虫に効くの?
クレナフィンは、トリアゾール系化合物であるエフィナコナゾールを有効成分とする、日本初!の外用爪白癬治療薬です。
エフィナコナゾールって、耳慣れない成分名だと思いますが、まあ、当たり前で、水虫界では新参者。科研製薬株式会社って会社で創製されたこのエフィナコナゾールは、①爪白癬の原因真菌(皮膚糸状菌)に対して高い抗真菌活性を有する、②ケラチンとの親和性が低く、爪甲での透過性に優れるって特性が確認され、外用剤として爪表面に塗布することにより、爪甲内・爪床において高い抗真菌活性を発揮するんじゃないか!ニッチ!ニッチ!て事で、製品開発に至ったお薬です。 [有効成分に関する理学的知見]
- 一般名:エフィナコナゾール(JAN)、Efinaconazole(JAN)
- 化学名: (2R,3R)-2-(2,4-Difluorophenyl)-3-(4-methylenepiperidin-1-yl)-1-(1H-1,2,4-triazol-1-yl)butan-2-ol
- 分子式: C18H22F2N4O
- 分子量: 348.39
- 融 点: 86~89℃
- 構造式:
- 性 状: 本品は白色~微黄色の結晶、結晶性の粉末又は塊である。アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール(95)、無水酢酸又はジエチルエーテルに溶けやすく、水にほとんど溶けない。
作用機序
上図の様に、クレナフィンはケラチンとの親和性が低く、爪甲での浸透性に優れるので、爪の中や下にまでしっかり浸透! 効果を発揮するのが特徴です。
どれ位、ケラチン親和性があるかと申しますと、下の図を見て下さい。
ケラチンを懸濁した緩衝液に薬物を添加し、振盪後、遠心分離した実験です。上清液中に含まれるケラチン非吸収薬物量をLC-MS/MSで測定し、ケラチンへの吸着率を次式で算出しました。 吸着率(%)=吸着薬物量/添加薬物量×100
因みに、アモロルフィン塩酸塩、シクロピロクスオラミンは、所謂ネイルラッカー剤。海外では、ナント、爪真菌症の適応を取得してるんですよ!
次に、ケラチンからの遊離率をみてみましょう。
試験方法は、薬剤吸着ケラチンに0.2mol/L Tris塩酸緩衝液(pH7.4)10mLを加え、37℃で10分間振盪(75回/分)後、遠心分離して、上清と沈殿を得ます。本洗浄操作を5回繰り返し、各回の上清中の薬物濃度をLC-MS/MSで測定し、上清中に含まれる遊離薬物量に換算しました。各回の遊離薬物量を合計し、累積遊離薬物量としました。ケラチンからの累積遊離率を次の計算式により算出しました(n=3)。 累積遊離率(%)=累積遊離薬物量/吸着薬物量×100
クレナフィン(有効成分:エフィナコナゾール)は、断トツに、爪甲での透過性に優れているんですね。
成分自体は、万能ではない。
クレナフィンは、真菌細胞膜のエルゴステロール生合成経路上に於けるラノステロールの、14位メチル基の脱メチル化反応を阻害し、抗真菌作用を発揮します。
爪白癬の原因となるTrichophyton rubrumやTrichophyton mentagrophytes、Candida albicansに対して、高い抗真菌活性(MIC)を示してくれるんです。
下記は、臨床新鮮分離株に対する抗真菌活性(in vitro)を調べた結果です。
菌種 | 株数 | MIC50/MIC90(μg/mL) (MICの範囲) |
T. rubrum | 130 | 0.002/0.008 (0.001-0.015) |
T. mentagrophytes | 129 | 0.004/0.015 (0.001-0.03) |
C. albicans | 105 | 0.004/>025 (≦ 0.0005->025) |
又、クレナフィンは、T. rubrumやT. mentagrophytes以外の、Trichophyton属、Microsporum属、Epidermophyton floccosumを含む皮膚糸状菌に対しても、高い抗菌活性を示しています。
皮膚糸状菌に対する抗真菌活性(in vitro)は、以下の通り。あっ! *は、適応外!菌種。「な~んだ。皮膚の糸状菌には効く、効くと言っておきながら、この結果はないだろm9(^д^ )プギャー」と嘲笑されない様に、セコイと言うか、用意周到と言うかは、まあ、患者さんと製薬会社と見解の違いでしょう(笑)が、太文字でパンフレットには”承認された適応菌種は皮膚糸状菌(トリコフィトン属)って記載されています。全てについては、万能ではない…。
菌種 | 株数 | MIC又は幾何平均MIC(μg/ml) (MICの範囲) |
|
皮膚糸状菌 | Trichophyton ajelli | 2 | 0.044 (0.031、0.063) |
T. schoenleinii | 1 | 0.0039 | |
T. tonsurans | 1 | 0.016 | |
T. verrucosum | 1 | 0.0039 | |
Microsporum canis* | 2 | 0.18 (0.13、0.25) |
|
M. cookei* | 1 | 0.50 | |
M. gypseum* | 3 | 0.010 (0.0039-0.016) |
|
Epidermophyton floccosum* | 3 | ≦0.0050 (≦0.0020-0.0078) |
クレナフィンの効果自慢(笑)
ちょっと、前章では貶めたので、今度は持ち上げて見る事にしました(笑)。性格悪いって? イエ、イエ、男に対するのと同じで、HISAKOは小心者なんです、元来。
日本、そしてアメリカ、ついでにカナダ
基剤対照二重盲検比較試験として実施した第Ⅲ相試験(国際共同及び海外試験)に於いて、本剤の爪白癬に対する優れた臨床効果が確認されました。
試験デザイン:多施設共同、無作為化、二重盲検、基剤対照、並行群間比較
対象:第Ⅰ趾(対象爪)の感染面積が20~50%である軽度~中等度のDLSO(遠位・側縁部爪甲下爪真菌症)患者870例(日本人患者234例を含む)
方法:対象を、クレナフィン群又は基剤群に3:1で無作為に割り付け、1日1回就寝時に48週間塗付した。その後4週間追跡調査を行い、有効性(52週目の完全治癒率・真菌学的治癒率・健康領域の新たな伸長)及び安全性を評価した。
まあ、下記を詳しく見て貰えれば分るように、まあまあの結果ですよね。唯、48週までしか投与していないので、48週を超えて使用した場合に、何が起こるのかは誰も知らない(笑)。だから、それ以上は患者さんに「塗り続けたいよ~ン」と懇願されても、「保険のお薬の決まりだから、まあ、縁がなかったもんと思って諦めなよ。処方出来ないものは、出来ないしさぁ」と、HISAKOは突き放す事しか出来ません。その程度の薬なんですから、致し方ありませんよね?
完全治癒率(52週目)
クレナフィン群は基剤群と比べ、有意に高い完全治癒率を示しました(p<0.001、解析センターを層とするCochran-Mantel-Haenszel検定)と、小冊子には書いてあります。製薬会社の営業担当者はこのグラフを指し示し、ドヤ顔で、クレナフィンの効果を強調します。高が17.8%。されど17.8%(笑)。「肝臓悪くて薬が飲めないから、生爪剥ぐしかないのよねぇ」と、まるで拷問?を強要されるより、世の中的にはマシなんでしょうねぇ。HISAKO的には、ヘビの生殺しなんじゃないかと思わぬ訳でもないけれど…。
真菌学的治癒率 ・ 臨床的有効率 ・ 完全又はほぼ完全な治癒率 ・ 健康領域の新たな伸長(52週目)
クレナフィン群は基剤群と比べ、有意に高い真菌学的治癒率、臨床的有効率、完全又はほぼ完全な治癒率を示しました(p<0.001、解析センターを層とするCochran-Mantel-Haenszel検定)。
また、クレナフィン群は基剤群と比べ、有意な健康領域の新たな伸長を示しました(p<0.001、塗布群と解析センターを因子とする二元配置分散分析)。
感染面積の変化量(ベースライン時の感染面積-各評価時期の感染面積)
クレナフィン群は基剤群と比べ、塗布後全ての評価時期に於いて有意な感染面積の減少を示しました(52週目;p<0.001、塗布群と解析センターを因子とする二元配置分散分析)。
日本人のあなたには、日本人のデータ♪
「だから、何?」ってツッコミはしないんで欲しいんですが、日本のお国柄ってもんもあるでしょう。毛唐じゃないんだから(笑)。
完全治癒率(52週目)~日本人抽出データです。
日本人抽出データにおいて、クレナフィン群は基剤群と比べ、有意に高い完全治癒率を示しました(p=0.009、解析センターを層とするCochran-Mantel-Haenszel検定)。
真菌学的治癒率 ・ 臨床的有効率 ・ 完全又はほぼ完全な治癒率 ・ 健康領域の新たな伸長(52週目)
日本人抽出データにおいて、クレナフィン群は基剤群と比べ、有意に高い真菌学的治癒率※1、臨床的有効率※2、完全又はほぼ完全な治癒率※3を示しました(※1 p<0.001、 ※2 p=0.002、 ※3 p=0.013、各解析センターを層とするCochran-Mantel-Haenszel検定)。また、クレナフィン群は基剤群と比べ、有意な健康領域の新たな伸長を示しました(p<0.001、塗布群と解析センターを因子とする二元配置分散分析)。
クレナフィンの上手な使い方
1日1回の塗付で十分♪ ですが…、1年間(48週間)使い続けて駄目なら、諦めも肝心(笑)。 刷毛と一体化したボトルで、「思いの外、先っぽが微妙に扇状になった刷毛の形状、そして硬過ぎず柔らか過ぎずの感触が優秀で、塗り拡げ易い!
爪白癬の薬だけじゃなくて、恥ずかしくて隠したくて、それでペディキュア塗りまくって、爪水虫を拗らした経緯があるだけに、せめて可愛い色味を付けてくれたら…、多少の薬の効きの悪さには目を瞑れるのに、残念。乙女心が分ってないんだよなぁ、薬屋さんて」と、患者さんからは微妙に評価髙し。下図の如くに、爪甲及びその下の皮膚に薬剤が行き渡る様に、皮膚との境界部も含めて、爪全体に十分に塗布します。
後述しますが、この薬剤の最大の副作用は、皮膚炎。まあ、爪なんて分厚い鎧を突き抜けてぬくぬくとその下で平安を貪っている水虫菌を殺す位の威力ですから、皮膚のケラチンなんてなんのその(笑)、皮膚に薬液が付着すれば、肌荒れ起こして当たり前。己の皮膚が可愛ければ、皮膚に着いた薬液は、とっとと綺麗に拭き取りましょう。
クレナフィンのいらないオマケ達~副作用
第Ⅲ相試験(国際共同及び海外試験)における安全性評価対象例1,227例(日本人患者184例を含む)中、副作用(臨床検査値異常を含む)の発現症例は78例(6.4%)でした。その主なものは、適用部位にみられ、皮膚炎26例(2.1%)、水疱18例(1.5%)、紅斑9例(0.7%)、そう痒、異常感覚、腫脹、疼痛、皮膚剥脱各7例(0.6%)、爪甲脱落4例(0.3%)等でした。なお、日本人患者(184例)での副作用発現症例は17例(9.2%)であり、その大部分は適用部位の皮膚炎15例(8.2%)でした。(承認時)日本人データを抽出して解析したクレナフィン群の副作用発現症例率は、9.2%(17/184例)。主な副作用は、適用部位皮膚炎15例(8.2%)等でした。又、基剤群では副作用は発現しませんでした。ちゃんちゃん。 まあ、豪快に塗らずに、気を付けて塗って下さい。はみ出したら、ちゃんと拭き取ってね。そしたら、殆どトラブルなく使える、安全なお薬です。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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