HISAKOの美容通信2022年10月号
爪水虫(爪白癬)の診断の補助検査|デルマクイック爪白癬
所謂、皮膚科の定番であるKOH直接鏡検をしても、明らかな水虫ちゃんが見つからなかったけど、でも、ど~考えても爪水虫(爪白癬)としか考えられない…。臨床現場では、そんな悶々とした状況に陥る事も無きにしも非ず。そんな時にこそ、このデルマクイック爪白癬! KOH直接鏡検の補助検査が健康保険の適応になりました。イムノクロマト(法)を爪白癬診断の新たな一手に!が合言葉です。
日本の爪水虫の患者さんは、約1200万人(人口の約10%)と推計されています。
爪水虫は、他の爪の病気、例えば、カンジダ性爪真菌症、爪乾癬、厚硬爪甲、外傷等)に、見た目がと~っても似てるんです。それ故に、見た目だけで白黒をつけるのが難しい時は、真菌検査がお約束です。しかしながら、爪水虫(爪白癬)の主要な検査方法であるKOH直接鏡検法って奴は曲者(笑)で、100%白黒の決着が付けれない症例もそこそこあるんです。疑わしいけど、いない。採取した部位にたまたま水虫ちゃんがおらず、お隣のエリアに棲息してた!だけなのかも知れません。つまり、水虫がたまたまそこにいなかった≠水虫に感染していないので、場合によっては、見切り発車で爪水虫(爪白癬)の治療のスタートを余儀なくされてしまいます。そんな曖昧模糊な事態を回避したい!って、満を持して登場したのが、爪中の白癬菌由来抗原をイムノクロマト法により検出する「デルマクイック爪白癬」って補助検査です。
簡便なイムノクロマト法を用いた爪白癬抗原検出キット
デルマクイック爪白癬は、簡便な操作で、爪中の白癬菌抗原の有無を、患者さんと一緒に確認が出来る、大人の化学の付録ちっくなキットです。抗白癬菌モノクローナル抗体を固相化したニトロセルロースメンブレンを用いた、イムノクロマト法キットです。KOH直接鏡検法との全体の一致率が79.7%?と、超高精度を誇る簡易検査なんだそうです(←HISAKO的には微妙な気がしない訳でもありませんが…)。
■特徴
- 本邦初!のイムノクロマト法による爪白癬の診断キットで、迅速・簡便に水虫菌の検出が可能になりました。
病巣の爪検体を用いて検査します。専用の抽出液が白癬菌由来の成分を抽出し、5分から30分以内に結果判定出来ます。
陽性の場合、紫色のテストラインが現れます。何処でも、つまり、特殊な器機を使わないので、路上でも、訪問先でも、レストランでも、クリニックでも、患者さんと一緒に検査結果を確認する事が出来ます。ですから、水虫だと認めたくないと頑なになている患者さんにも、揺るぎのない現実を突きつけ、治療を受け入れざる得ないんだ…と観念してもらえます。勧善懲悪の定番時代劇「水戸黄門」で格さん(たまに助さん)が懐から出して見せる、葵のご紋の印籠みたいなもんです。「この紋所が目に入らぬか。ここにおわす御方をどなたと心得る。恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ。皆の者、頭が高い。控えおろう。」(笑)
- KOH直接鏡検法の診断を補助します。
KOH直接鏡検法をもってしても、診断に悩む事はあります。顕微鏡を見ながら、「な、何で、いない????」と冷や汗を搔いたら、即、このキットの登場です。適切な爪白癬の診断の補助が出来ます。それどころか、KOH直接鏡検法が実施出来ない環境下でも、爪水虫の適切な判断を補助してくれます。つまり、途中ほとんど集落や救護施設のないサハラ砂漠を縦断する、嘗ての過酷なパリ・ダカールラリーの様なレースの最中でも、診断は可能だって事です。
測定原理
テストストリップの構成
左図を見て下さい。テストストリップは、サンプルパッド、試薬紙、判定紙、吸収パッドから構成されています。試験紙には、金コロイド標識抗白癬菌マウスモノクローナル抗体が乾燥状態で保持されています。判定紙のテストライン部には抗白癬菌マウスモノクローナル抗体、コントロールライン部には、エオシンBが乾燥状態で固相化されています。
エオシンBとは、pH約4以上で桃色を呈する色素です。デルマクイック爪白癬の抽出液は、pHが約7の為、エオシンBを桃色に変色させます。
測定原理
- サンプルパッドに浸透した抽出検体は試薬紙に移動し、抽出検体中の白癬菌由来抗原と、金コロイド標識抗白癬菌マウスモノクローナル抗体が反応し、免疫複合体を形成します。
- 免疫複合体が、毛細管現象により判定紙上を移動し、テストライン部に固相化されている抗白癬菌マウスモノクローナル抗体に捕捉され、金コロイド粒子由来の紫色のテストラインが現れます(陽性の場合)。但し、抽出検体中に白癬菌由来抗原が存在しなかった場合は、免疫複合体が形成されないので、テストラインは現れません。
- 陽性陰性に係わらず、免疫複合体を形成しなかった金コロイド標識抗白癬菌マウスモノクローナル抗体を含む抽出検体は、テストライン部を通過します。コントロールライン部に固相化されている色素(エオシンB)を桃色に変色させて、コントロールラインが現れます。
検体採取方法
白癬菌由来抗原の原理
白癬菌の細胞壁にある多糖を界面活性剤のミセルで包み、水相に可溶化して、抽出します。これが白癬菌由来抗原になります。
検体採取方法
- 皮膚真菌症診断・治療ガイドラインに従って検体を採取し、キット付属のテストチューブに加えます。採取器具は、清潔なニッパー型の爪切りとか外科用のはさみ(剪刃)を使います。ですから、お家から持参した検体は使えませんので、お持ち帰り下さい。
- 検体は、1mg以上の量を採取させていただきます。ピンと来ないって? 右の図を参考にして下さい。爪検体1mgは、およそ爪1mm3に相当します。
■遠位側縁爪甲下爪真菌症
爪甲剥離部位や爪の先端部を除去し、出来るだけ爪の基部に近いところで、深部(爪床に近い部位)を検査材料にします。爪の奥深くを採取出来ない場合は爪甲剥離の下に存在する皮膚の表面(実際は爪床)を採取して検査材料にします。
■表剤型白色爪真菌症
白濁した爪の表面をメスで削り取って、それを検査材料にします。
操作方法(用法・用量)
検査数分のテストストリップ、テストチューブ、攪拌棒、抽出液を用意します。室温(1~30℃)で、以下の手順で検査を行います。
■注意事項
- テストストリップの袋を開けたら、粛々と検査を続行します。「たんま!」(←石川県の方言らしいが…北海道出身のHISAKOは普通に使っていました。「ちょっと待って」という状況をストップしたい時、もう一つは「やめて」という行為を止めてほしいときに使います)は、なしです。
- テストストリップは折り曲げてはいけません。
- テストストリップのサンプルパッド部は手で触れたり、傷を付けてはいけません。不用意に触ってはいけない、神聖?なものなんです、はい。
- テストチューブへの抽出液の添加は、多過ぎても少な過ぎても×です。適量が大事です。
- 一度使ったテストストリップ、抽出液、テストチューブ、攪拌棒は、当たり前ですが、再利用は出来ません。
- 操作方法に記載の測定時間は遵守しましょう。5分以上30分以内で、コントロールラインが出現していれば、判定は可能です。30分を経過してからの判定は✖。但し、5分以上経過していれば、30分以内でも、テストライン部及びコントロールライン部にラインの出現が確認出来た時点で、陽性と判定出来ます。同様に、5分以上経過していれば、30分以内でもテストライン部にラインが出現せず、コントロールライン部にラインが出現していれば、陰性と判定出来ます。
測定結果の判定方法
5分以上30分以内に、コントロールライン部分に桃色のラインが出現しない場合は、検査無効となります。
5分以上30分以内にコントロールラインが出現し、30分を経過してからテストライン部にラインが出現した場合は、陰性と判断します。
■参考
左図を見て下さい。テストライン部の紫色は、抽出検体中の抗原濃度によって濃さが異なります。薄くてもラインが出現すれば、「陽性」です。勿論、ラインの一部が途切れていても、濃さにムラがあっても、ラインはライン。有効です。
[注意事項]
- 採取した爪試料中に白癬菌が少ない場合、陰性になる可能性があります。診断は、他の検査結果や臨床症状に基づいて、総合的に判断します。この検査は、悪までも、補助検査の域を出ない事をご了承下さい。
- 白癬菌以外の真菌類であるAspergillus属やPenicillium属に交叉性があります。これ等の菌は、土壌中その他の環境中にも存在し、免疫力が低下した患者さんの皮膚等に巣くっている(感染)!事もあります。
臨床研究
臨床性能試験
[デルマクイック爪白癬とKOH直接鏡検法の判定結果との比較](マルホ社内資料:臨床試験の試験成績に関する資料)
対象/方法:視診により爪白癬が疑われる患者222名(計11施設)を対象に、足、若しくは手の爪から皮膚真菌症診断・治療ガイドラインに基づいた方法で爪検体を採取し、粉砕して3つに分け、夫々をデルマクイック爪白癬のキット、KOH直接鏡検法及びPCR法(デルマクイック爪白癬のキットとKOH直接鏡検法が不一致だった検体のみ)に供しました。検体採取、KOH直接鏡検法、デルマクイック爪白癬、PCR法の実施者は全て異なり、又、盲検化しています。
KOH直接鏡検法 | ||||
陽性 | 陰性 | 合計 | ||
デルマクイック爪白癬 | 陽性 | 163 | 38 | 201 |
陰性 | 7 | 14 | 21 | |
合計 | 170 | 52 | 222 |
- 陽性一致率:95.9%(163/170例)
- 陰性一致率:26.9%(14/52例)
- 全体一致率:79.7%(177/222例)
- 陽性的中率:81.1%(163/201例)
- 陰性的中率:66.7%(14/21例)
デルマクイック爪白癬とKOH直接鏡検法が不一致だった45検体のうち、PCR法に供試可能であった40検体について、PCR法により白癬菌の検出を行ったところ、デルマクイック爪白癬にて陽性、KOH直接鏡検法陰性であった35検体のうち、白癬菌遺伝子が検出されたのは33例。デルマクイック爪白癬にて陰性、KOH直接鏡検法陽性であった5検体のうち、白癬菌遺伝子が検出されなかったのは1例でした。
不一致例の原因は、確実に感染している部位から検体採取出来なかった可能性があると考えられています。
性能
- 感度試験・正確性試験:陰性管理試料の測定時、陰性と判断。弱陽性試料及び陽性管理試料の測定時には、陽性と判断されました。
- 同時再現性試験:陰性管理試料の4回測定時、全て陰性と判断。弱陽性試料及び陽性管理試料の4回測定時、全て陽性と判断されました。
- 最小検出感度:白癬菌Trichophyton rubrum乾燥菌体重量05μg/ml相当。
- 較正用基準物質:白癬菌Trichophyton rubrum乾燥菌体
交叉反応性
Aspergillus属やPenicillium属等と、交叉反応が認められました。しかしながら、同じカビはカビでも、Candida属、Malassezia furfur等には反応しませんでした。勿論、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Staphylococcus aureus、S. faecalis等の皮膚にありがちなバイ菌ちゃん達(細菌類)には、反応しませんでした。
白癬菌との反応
一般的な白癬菌とされる、Trichophyton mentagrophytes、T. rubrum、T. tonsurans、T. violaceum、T. verrucosum、Microsporum gypseum、M. canis、Epidermophyton floccosumには、全て反応しました。
薬剤の影響
抗真菌薬(テルビナフィン、イトラコナゾール)について、各抗真菌役の最小育成阻止濃度になるように、陰性管理試料、陽性管理試料、弱陽性試料(陽性管理試料を陰性管理試料で100倍希釈)で調整し、測定した結果、これ等の薬剤の影響はありませんでした。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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