閉経関連泌尿性器症候群GSMと下部尿路関連疾患・性交痛旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2025年2月号

閉経関連泌尿性器症候群GSMと下部尿路関連疾患・性交痛

GSM(genitourinary syndrome of menopause/閉経関連泌尿器性器症候群)とは、閉経に伴う、外陰、膣の乾燥、灼熱感、痛み症状だけでなく、尿意切迫感や尿失禁、繰り返す膀胱炎症状と言った排尿障害を含む、症状・病態の概念です。GSMは、中年以降の女性の約半数が罹患しているとの報告があり、2025年にはGSM関連の訴えを持つ50歳以上の女性が、世界で11億人を超えると予測されています。

 GSMと似て非なる概念としては、骨盤底障害があります。骨盤底障害とは、元々遺伝的に骨盤底が弱い女性が、妊娠や分娩、加齢による筋肉量の低下、GSM、便秘や喫煙などの望ましくない生活習慣等により、腹圧性尿失禁や過活動膀胱(美容通信2022年1月号)、骨盤臓器脱等の症状を来してしまう状態です。

 因みに、骨盤底障害の予防には、骨盤底筋トレーニングと下半身の筋力トレーニング。GSMの予防に必要なのは、保湿!です。

GSMの病因・診断

症状・徴候

 GMS(美容通信2021年7月号)は、閉経、即ちエストロゲンの減少に伴い、大陰唇/小陰唇、クリトリス、前庭、膣、尿道及び膀胱に、様々な症状及び徴候が現れます。症状と徴候の関係性については、明確なものがありませんが、膣内の点状出血や膣襞の消失、尿道脱の徴候の他、デリケートゾーン(最近は、フェミゾーンと呼びます)の乾燥、灼熱感、刺激、潤滑不足、不快感や痛み等の膣外陰部症状、性交時痛や性欲減退等の性機能障害、尿意切迫感、排尿困難、反復性尿路感染等の尿路症状が挙げられます。しかしながら、最初に変化が出てくるのは尿道です。そして、小陰唇は、肛門側から無くなっていきます。ですから、小陰唇の縮小術美容通信2023年12月号)は、最近は、頓により小さく可愛くの傾向が強くはなっていますが、年を取ってから、あら!まあ!とならない為には、クラシック?古風?と誹られようとも、最低1cmは残すのが無難な選択と言うものです。

 日本に於けるGSMの3徴は、下記の通り。

  1. 陰部の乾燥・違和感(イガイガ感)
  2. 尿トラブル(再発性膀胱炎・頻尿・尿漏れ)
  3. 性交痛他のセックストラブル:GSMの悪化(局所)は性欲の低下(全身)を齎し、性欲の低下(全身)はGSMの悪化(局所)と言う悪循環に。

   発生率は、閉経後女性の15~45%で、症状は進行性。

 日本では、40歳以上の女性を対象とした大規模調査では、約45%に性器ないし尿路症状が認められ、性的に活発な女子ほど性器症状が、性的に不活発なほど泌尿器症状があったとされています。

 

発症のメカニズム

 エストロゲン欠乏に起因します。エストロゲンは、主に卵巣で産生され、生殖可能年齢に於いては、月経周期に応じて増減はあるものの、基本的に高い血中濃度が維持されます。しかし、閉経時には、卵巣から卵胞が消失する影響により、卵巣からのエストロゲン分泌は減少し、体内循環ホルモンとしての機能はなくなり、閉経後の大人女子では、エストロゲン作用の原動力は、男性と同様に、テストステロン等のアンドロゲン前駆体の循環源からのエストロゲン生合成に依存するようになります。

 エストロゲンは、乳房、脳、骨、脂肪等の外分泌部位で合成され、パラクライン(細胞間に於けるシグナル伝達のひとつで、特定の細胞から分泌される物質が、血液中を通らずに、組織液等を介して、その細胞の周辺で局所的な作用を発揮する事)または、イントラクライン(作られたホルモンが、血流に放出される事なく、合成されたその場で作用する事)因子としての局所作用に留まります。組織学的にはエストロゲンの膣外陰部に於ける主な役割は、膣外陰部の完全性、それに不可欠な膣潤滑に必要な血管形成、及び膣上皮と間質(コラーゲン線維、エラスチン、平滑筋から構成)の維持にあります。

 エストロゲンの欠乏により、膣外陰部の粘膜上皮細胞が失われ、粘膜上皮細胞が失われ、粘膜上皮の血行低下や分泌液減少が起こり、更には間質でのコラーゲン線維のヒアリン化(膠原線維が融合し、均質に好酸性に染まる所見。硝子化とも言う)が進み、結果として、膣外陰部組織の菲薄化や弾力性低下、更には保湿力も低下します。それらが、乾燥、刺激、潤滑不足、不快感、性交時痛と言ったGSM症状発現の要因となります。膣粘液分泌量の低下により、膣内のpHレベルも上昇する為、正常膣内常在菌の75~95%を占めるLactbacillus属による膣内細菌叢が変化し、尿路感染症や炎症を起こしやすくなります。

 しかしながら、以前もお話ししたように、更年期を境に低下するのは、女性ホルモンだけではありません(美容通信2010年12月号)。甲状腺のホルモン(美容通信2015年3月号)然り、男性ホルモン(美容通信2023年2月号)然り、DHEA(美容通信2015年4月号)然り、成長ホルモン(美容通信2018年9月号)然り、メラトニン(美容通信2015年8月号)(美容通信2017年1月号)然り。

性ホルモン 生殖可能年齢 自然閉経 外科的閉経
エストラジオール(女性ホルモン) 50-300 10-15 10
プロゲステロン(黄体ホルモン) 50-10000 500 50
テストステロン(男性ホルモン) 400 290 110
アンドロステジオン 1900 1000 700
DHEA 5000 2000 1800
DHEAS 3000000 1000000 1000000

 

 特に、後述する閉経後の女子に於ける男性ホルモン欠乏症は、GSMの直接的な原因ではありませんが、GSMの治療の足を引っ張る大きな要因です。

■女子の男性ホルモン欠乏症候群

 女子の男性ホルモン欠乏症候群の診断基準は、下記の通り。

  1. 生きる意欲の減退
  2. 持続する全身倦怠感
  3. 性機能の変化
  4. 女性ホルモン補充後
  5. フリーテストステロンが生殖年齢の女子の1/4にまで減少

 生きる意欲の減退とか、持続する全身倦怠感、性機能の変化…正に、男性更年期障害(美容通信2014年7月号)の症状と一緒ですね! 

 性的意欲/興奮障害を始めとする、女子の男性ホルモン欠乏症候群に対する治療としては、男性ホルモン補充療法が一番効果があります。以前美容通信でも触れましたが、HISAKOは、自然閉経ではなくて、子宮癌に対する広汎全摘後に生じた外科的閉経後に対して、性的な問題と言うよりは、著しい寒がり(美容通信2014年10月号)!の解消の為に、甲状腺ホルモンと併せて、男性ホルモンの外用治療(美容通信2010年9月号)を、もう20年位かな?ずっと続けています。一般的な男性ホルモン補充療法としては、下記の表をご参考下さいませ。

投与経路 製剤名 投与方法 使用方法
筋肉注射 テストステロンエナント酸エステル(合成ホルモン製剤エナルモンデポ他) 4週毎・62.5mg

初回と2回目のみ125mgで効果を判定。

効果的な場合は、62.5mgを継続。

経皮投与 テストステロン(合成ホルモン製剤グローミン・天然ホルモン製剤T10 ProGEL他) 男性の1/4量が目安/日

尿道や膣前庭部に痛みや違和感がある場合は、局所投与。

無ければ、大陰唇や手首、デコルテ等の無毛部に塗布。

内服 DHEA(天然ホルモン製剤) 25~50mg/日

空腹時服用。

長期服用の場合は、25mgに減量可。

性的意欲を低下させる製剤(SSRI、SNRI、低用量ピル、その他睡眠薬、降圧薬、胃腸薬、痛み止め(特にオピオイド)等)を中止、又は減量してみる。

註1・SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors):選択的セロトニン再吸収阻害物質。神経細胞の興奮伝達を果たしたセロトニンが元の細胞に再び吸収・貯蔵されるのを阻害し,神経細胞間のセロトニンを増加させる。抗鬱こううつ薬として用いられる。
註2・SNRI( Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors):セロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害薬。抗うつ薬。シナプスに於けるセロトニンとノルアドレナリンの再吸収を阻害する事で、これらの神経伝達物質の濃度を増加させる。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がセロトニンのみの再吸収を阻害するのに対して、SNRIではさらにノルアドレナリンの再吸収を阻害することによって、興奮神経を刺激する。その為、興奮に起因した不眠症のような副作用も生じやすい。

 

201007image577 因みに、天然ホルモン製剤(美容通信2010年8月号)とは、人様の体内で自然に作られるホルモンと全く同じ化学構造をした、生物学的同一ホルモンBio-Identical Hormones(ヒト固有ホルモン)の事です。これに対し、合成ホルモンとは、天然のホルモンに激似してはいるものの、明らかに異なる分子構造を持った新しい物質です。分子構造が異なるので、天然ホルモンの様に、体の中できちんと代謝してくれる酵素がありませんから、癌化や肥満、血栓等の様々なトラブルに繋がる可能性があります。その為、特に、この円安環境では為替相場の影響(←HISAKOのクリニックで使用している天然ホルモン製剤は、全てアメリカからの舶来品!)により、国産の合成ホルモン製剤よりもお値段は断然…高くなりますが、体思いの立場からは、天然ホルモン製剤が推奨されます。

GSM鑑別疾患

 GSMは、更年期障害に伴う外陰部及び泌尿器系症状の診断と管理を簡便にする為に提唱された疾患概念(症候群)です。

硬化性萎縮性苔癬

 男女比は、1:10で女性に多く、婦人科受診者の1.7%に認められたとの報告があります。多くは、外陰部に発生し、局所の痛みや痒みを訴えます。後述する性交痛の原因の一つでもあります。

 原因は不明ですが、境界明瞭な白色硬化性局面が特徴とされます。治療の第一選択は、強ステロイド軟膏の外用です。

 

扁平苔癬

 皮膚や粘膜の慢性炎症によるもので、免疫反応に原因があると考えられています。前述の硬化性萎縮性苔癬と臨床症状も類似しており、後述する性交痛の原因の一つでもあります。硬化性萎縮性苔癬も、扁平苔癬も、両者共に、有棘細胞癌になる可能性が指摘されており、確定診断は生検です。

 治療の第一選択も、硬化性萎縮性苔癬と同じく、強ステロイド軟膏の外用です。ですが、「ここが痛い!」と患者さんがポイントで指差し出来たら、レーザーで患部を切り取ってしまう方が手っ取り早い!です、はい。

 

外陰部悪性腫瘍

 外陰部・膣に於ける悪性腫瘍も、稀ですが、あります。

 

陰部神経痛

 陰部神経痛では、通常、外陰部、膣、直腸と言った陰部神経の分布領域に灼熱感を呈します。痛みは、陰部神経が支配する領域全体を含む事もあれば、狭い領域に限られる事もあり、まちまち。一般的に症状は、陰部神経の圧迫が影響する為、座っている時に症状が強く現れ、横になっている時や立っている時には緩和されます。

 外傷や出産がその圧迫原因となりますが、過去に受けた骨盤内手術も原因となります。特に、陰部神経は仙棘靱帯の背側を走行している為、骨盤臓器脱に対する経膣メッシュ手術(仙棘靱帯固定を行うもの)は、運が悪いと、神経圧迫を起こす可能性があります。他には、単純ヘルペス感染(美容通信2005年7月号)、腫瘍による圧迫や炎症、子宮内膜症等が挙げられます。

 有髄線維のうち最も細いものをAδ線維、無髄神経をC線維と呼びます。C-線維には、感覚神経(求心性神経)と交感神経節後線維が含まれます。感覚性のAδ線維終末には、痛み及び冷感覚情報を伝える感覚受容器(夫々、侵害受容器、冷受容器)があります。感覚性のC線維には、痛み感覚、痒み感覚、快感を起こすような(sensual)触感覚、温感覚を伝えており、その終末は、特別な小体構造を造らない自由神経終末であり、感覚受容器になっています。上図の如くに、C-fiberからの刺激が脊髄後角の細胞変異を起こし、更に視床下部の細胞を変性させます。放置すると、全身が痛む線維筋痛症にまで発展してしまうかも…。

 治療としては、薬物療法の他、陰部神経ブロックや陰部神経減圧術、ボトックス注射等があります。原因がヘルペスならば、真菌に対する長期治療は必須です。粘っても中々難しい場合は、レーザーで切除出来る部位があれば、切除してしまうと発想の転換してしまうのもありです。

■神経障害性疼痛に対する薬物療法アルゴリズム

 三環系抗うつ薬剤+末梢神経障害性疼痛治療で、8割方の除痛が出来たら、運動療法の本格始動です。

  • 第一選択薬(複数の病態に対して、有効性が確認されている薬剤)

   三環系抗うつ薬は 5mgから開始して、必要に応じて徐々に増量(25mg)します。場合によっては、これにリリカやタリーゼ等のCaチャンネルα2δリガンドを加える事も。リリカをプラスする場合は、25mgから併用開始し、MAX300mgまで増量可。タリージェを併用する場合は、2.5mgからスタートし、少しずつ増量します。

    • 三環系抗うつ薬(TCA):アミトリプチリン・イミプラミン
  •     アミトリプチリン塩酸塩は、元々間質性膀胱炎でうつ病を併発している患者さんに対して、トリプタノールを使用したところ、間質性膀胱炎の症状が改善した為に使用されるようになった!って経緯があります。 特に間質性膀胱炎の症状悪化には精神的なストレスが関係しており、アミトリプチリンの抗不安作用も有用と考えられています。
  •     また、 アミトリプチリンは、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを抑制する事で、中枢神経の痛み刺激伝達を抑制(下行性疼痛抑制系の賦活)し、鎮痛作用を発揮すると考えられています。合併症として、軽度の傾眠傾向があります。
    • Caチャンネルα2δリガンド:ミロガバリン(タリージェ)・プレガバリン(リリカ)・ガバペンチン

      電位依存性カルシウムチャンネルに結合して、カルシウムイオンの流入を阻害し、グルタミン酸の興奮性神経伝達物質の放出を抑制し、神経障害性疼痛による痛みを軽減させると考えられています。

 *下記の病態に限りTCA、Caチャンネルα2δリガンドと共に、第一選択薬として考慮します。

    • 帯状疱疹後神経痛(PHN):ノイロトロピン
    • 有痛性糖尿病性ニューロパチー
      • セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):デュロキセチン
      • 抗不整脈薬:メキシレチン
      • アルドース還元酵素阻害薬:エパルレスタット
  • 第二選択薬(一つの病態に対して有効性が確認されている薬剤)
    • ワクチニアウイルス 接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン)
    • デュロキセチン
    • メキシレチン
  • 第三選択薬
    • 麻薬性鎮痛剤:フェンタニル・モルヒネ・オキシコドン・トラマドール・ブプレノルフィン

      因みに、トヨタ自動車前常務役員のジュリー・ハンプが麻薬取締法違反の疑いで逮捕(辞職後、2022年6月に復帰)された原因である錠剤は、「オキシコドン」。彼女は、外国人且つ女性と言う、トヨタが進めるダイバーシティの象徴的な存在として注目を浴びていた最中だっただけに、就任2ヶ月後の逮捕は衝撃的でした。日本のニュースでは、オキシコドンは「麻薬」の一種と報道されている事が多いですが、アメリカでは医師の処方箋があれば普通に手に入る強い鎮痛剤として一般的に知られています。


 *三叉神経痛だけは、特殊な薬物療法が必要です。

  • 第一選択薬
    • 三叉神経痛:カルバマゼピン
  • 第二選択薬
    • 三叉神経痛:ラモトリギン・バクロフェン

■行動療法

 陰部神経痛のみならず、排尿の調子が悪い時の行動療法としては、精神的サポート、食事療法、骨盤底筋のリラクゼーション等があります。これらの治療はエビデンスとしては高いものではありませんが、副作用らしい副作用も見当たらないので、試してみるのはありだと思います。

【食事療法】

  1. コーヒー、緑茶、ウーロン茶、紅茶、コーラ等のカフェイン含有飲料は控える。ご存じの通り、カフェインには利尿作用があります。
  2. アルコールも控える。
  3. ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、トマト、酢の物等の酸っぱい物も減らす。
  4. チョコレート、ナッツ、豆乳等の豆加工品を控える。
  5. 唐辛子等の辛い物を避ける。
  6. なるべく加工品を避け、新鮮な物を食べる。
  7. 飲水量は1lから1.5lは飲む。但し、夜間頻尿が強い時は、水分摂取のタイミングも大事。水分を均等に摂ると、比較的気温の低い夜の方が、発汗及び不感蒸泄も少なくなり、相対的に夜間の尿量が増えます。又、夜は寝ている時間が長くなる為に、下半身への水分貯留が減少し、静脈還流量が大きくなり、夜間の尿量が増えます。従って、夜間頻尿がある場合には、お昼の3時以降は、あんまり水分は摂らない方が無難です。勿論、塩分の摂り過ぎは、結果として水分を多く摂取する事に繋がるので、塩分控えめ!

 しかしながら、症状を増悪させる食品は個人によっても異なり、また、調子が良い時は、その有難みを感じる事も少ないのも事実。また、キャラによっては、制限し過ぎが却ってストレスになる事もあるので、様子を見ながらが基本です。

 

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群

 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群とは、膀胱に関連する慢性の骨盤部の疼痛、圧迫痛又は不快感があり、尿意亢進や頻尿等の下部尿路症状を伴い、混同し得る疾患(膀胱の感染症、悪性新生物、結石、過活動膀胱等)がない状態と定義されています。

 間質性膀胱炎と過活動膀胱(美容通信2022年1月号)の鑑別としては、前者が骨盤部の疼痛、圧迫又は不快感を必須症状とし、過活動膀胱では尿意切迫感を必須とする事で区別しろ!と教科書には書いてはありますが…。「おしっこを我慢すると、どの様な感じになりますか?」との問いに対し、間質性膀胱炎の患者さんが、「下腹部に不快感や痛みが生じたり、生じそうになる」と答えるのに対し、過活動膀胱の患者さんは、「おしっこが漏れたり、漏れそうになる」と答えるとされています(←模範解答)。しかしながら、実際の臨床現場では、そんなにクリアカットに鑑別出来る代物なんかではなく、治療の反応を見ながら考えるなんて事が多いです。

 

 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は日本では非常に稀な疾患とされて来ましたが、最近になり、それ程稀ではないとの認識が広まって来ており、大規模疫学調査(2002年)では、膀胱痛が1日1回以上起こる頻度は1.0%で、この中には間質性膀胱炎患者が相当数含まれていると推測されています。罹患率には性差があり、女性は男性の約5倍。線維筋痛症、膠原病、過敏性腸症候群、関節リウマチ、精神疾患等との関連が指摘されています。

■膀胱鏡・病理所見

 膀胱鏡で、特徴的な糜爛性病変(ハンナ病変)があるものを間質性膀胱炎、ハンナ病変がないものを膀胱痛症候群と、定義されています。

 ハンナ病変とは、平坦若しくは軽度に膨隆した境界鮮明な発赤病変で、出血を伴っていなければ、色調は淡い色で、明確な好発部位はありません。病変の周囲には瘢痕や血管の増生がしばしば認められ、それらの血管や瘢痕は病変に収束しています。間質性膀胱炎の病理所見では、ハンナ病変以外の膀胱粘膜に於いても(つまり、膀胱全体!に)、ほぼ必発で強い慢性炎症が認められますが、感染を示唆する様な好中球優位の炎症はありません。炎症に関連する分子の遺伝子発現も亢進しています。難病指定の疾患です。

 これに対し、非ハンナ型である膀胱痛症候群では、優位な炎症所見が認められない事が殆どで、上皮も良く保たれています。実際、生検検体では、正常膀胱と区別が付かないものが大多数を占めています。

■治療

 主な治療としては、手術療法(膀胱水圧拡張術、経尿道的電気凝固術等)、保存的治療(行動療法等)、薬物療法、ボトックスやジメチルスルホキシド、ヘパリン、リドカイン等の膀胱内注入療法等がありますが、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する確立した根治的な治療はありません。

 薬物療法については、前述の神経障害性疼痛に対する薬物療法も参照して下さい。抗うつ薬、アレルギー治療薬、NSAIDs、オピオイド薬等の様々な内服薬物治療がなされていますが、特効薬はありません。

GSM治療

 GSMは、主にエストロゲン刺激の低下に起因する外陰部や下部尿路症状の総称であり、閉経後の女性の最大50%が罹患するとされ、症状は一般的に進行性で、原因を鑑みれば当然の話ではありますが、自然治癒する可能性は極めて低いと考えられています。

 GSMの治療法は、症状の改善、進行の緩和目的で行われ、局所的・全身的なホルモン補充療法(美容通信2010年8月号)(美容通信2010年9月号)(美容通信2015年11月号)の他に、プラセンタ注射(美容通信2009年2月号)やエクエル(美容通信2016年8月号)、漢方薬(美容通信2005年6月号)、生活習慣の改善(美容通信2018年12月号)や保湿剤・潤滑剤の使用、骨盤体操、膣外陰部レーザーやハイフ等の照射(美容通信2022年4月号)(美容通信2022年1月号)、ヒアルロン酸の注入(美容通信2022年3月号)等の非ホルモン治療があります。

■ospemifene

 オスペミフェ(ospemifene)は、エストロゲンアゴニスト/アンタゴニストで、米国では、閉経後の女性の外陰部・膣萎縮による、中等度から重度の性交疼痛症の治療薬として、FDAに承認されている唯一の経口薬です。子宮内膜への増殖作用が少ないとされています。唯、ジェネリックがないので、天然ホルモン製剤(バイエストロゲン)以上に…高い。

■Hygeena

 Hygeenaは、前述のオスペミフェ(ospemifene)の純粋な意味での代用品ではありませんが、膣萎縮、膣乾燥、性交痛を経験している女性に推奨の、100% 天然成分配合の膣錠です。エストロゲン、プロゲステロン、化学物質、薬物は一切含まれていないので、ホルモン剤を避けたい女性に最適です。

 Hygeenaは、1瓶15個入りです。推奨されるご使用は就寝前ですが、他の時間帯でも可。日中に使用する場合は、軽度のおりものが出る可能性があるので、パンティライナーの着用をお勧めしています。

 重度の膣障害がある場合は、毎日1回を1週間続けていただき、その後は症状に応じて週に2~4回程度使用します。

【成分】(1錠当たりの含有量)

  • プエラリア・ミリフィカPueraria Mirifica:50mg

   乾燥して粉末にしたプエラリア・ミリフィカの塊根は、女性と男性の両方の若々しさを促進する若返りのハーブとして、タイの伝統的な民間療法で国内消費された歴史があり、現在政府が規制しているタイの伝統医学の実践の中で広く使用されています。プエラリア・ミリフィカには、デオキシミロエストロール、ダイジン、ダイゼイン、ゲニスチン、ゲニステイン、クメストロール、クワフリン、ミリフィシン、β-シトステロール、スティグマステロール、カンペステロール、ミリフィキュメスタン等の、様々な植物性エストロゲンが含まれています。

  • ヒアルロン酸hyaluronic acid:55mg
  • ω7(sea buckthorn):25mg

   小林源文の漫画作品シリーズで、日本の架空特殊部隊「オメガ」と、その隊員達の活躍を描いた軍事フィクションが有名ですが、Hygeenaに含有されているのは、不飽和脂肪酸の分類の1つで、天然に存在する2つの代表的なω-7脂肪酸は、パルミトレイン酸とバクセン酸です。保湿性を有する為、化粧品に広く利用されています。

  • 天然ビタミンE:50mg
  • silve biotic:25mg

   免疫ケア。

  • アロエベラ:25mg

性交痛

 草食化の傾向が特に著しいとされるお国柄、性交痛自体を訴えて受診する患者さんは少ないですが、根底に性交痛が存在する事は、GSMの悪化(局所)は性欲の低下(全身)、性欲の低下(全身)はGSMの悪化(局所)と言う悪循環を考えた時に、GSMの治療の妨げになります。

性交痛とは

 性交時に感じる痛みの総称です。

■GSM以外の性交痛の治療

  • 膣前庭痛症候群の治療

   慢性疼痛症として、前述の様な三環系抗うつ薬+末梢神経障害性疼痛治療薬+骨盤底リハビリテーションが鉄板。しかしながら、レーザーで切除出来る部位があれば、切除してしまうのもありです。少なくとも、患者さんが「ここ!」と痛い部位をピンポイントで指摘出来るのなら、切ってしまった方が早いのも事実。

  • 膣周囲に200単位、ボトックス注射を打つ。
  • ヘルペス、真菌の長期治療。
  • 扁平硬化性苔癬の診断と治療。
    • 生検
    • 強ステロイド軟膏塗布
    • レーザー治療の可能性
  • 処女膜切開

   処女膜は、膜ではなく、単なる襞にしか過ぎません。現代社会では、存在自体の重要性は殆ど皆無とはされていますが…、HISAKOが研修医だったその昔、韓国の大学病院の助教授だった先生が医局に留学していたんですが、彼はソウルに自身のクリニックを持っていて、そこでの治療の大半は、結婚が決まったので処女膜を再生をする!手術だったそうです。40年くらい前でも、処女じゃないと離婚されても文句は言えないし、莫大な違約金?が発生するから大問題。とっとと処女膜再生して、過去は証拠隠滅してしまわないといけなかったんです(笑)。元々、韓国では、初夜はひとに見せるものなんだそうです。新房(シンバン)の扉をおおっぴらに開けたりはしませんが、村の人々や若い親戚の者が、障子に指で穴を開け、中をそっと覗く。旧式結婚では、これは興味本位なスケベな行為ではなくて、鬼神の嫉妬から新婚夫婦を守る為の大切な儀式なんだとか。

   処女膜切開術(美容通信2023年12月号)は、処女膜の肥厚により、挿入時の疼痛があり、性交渉が困難な症例、挿入が物理的に困難な症例の症状改善を目的に行う手術で、切開を入れる事で、性交渉時の疼痛を解除する方法が最も一般的で、安全とされています。小指が入るならば、単に切れ目を入れれば良いだけですが…、ピンホールの場合は、膣内の解剖学的奇形が背景にある場合があり、安易に手を出すと、膜の密林地帯に迷い込み、そこからの脱出が不可能になりかねません。開業医レベルでは経験豊富な小児婦人科がある大学病院を紹介するのが鉄則とされてはいますが、旭川医科大学病院にはあったかなぁ?



*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

 

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来月号の予告

一昔前までは、認知症には修正可能な因子はないとされていました。

しかし、違います。

2020年のLancet(世界で最もよく知られ、最も評価の高い世界五大医学雑誌の一つ)では、12個の危険因子を修正出来れば、認知症の発症が40%抑制される可能性があるとの報告が掲載されています。

良く知られている生活習慣や生活習慣病ではなく、難聴・頭部外傷・社会的孤立・大気汚染の観点から纏めました。

<修正可能な認知症危険因子からのアプローチ!>