フレイル/サルコペニアと漢方薬 | 旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2019年2月号

フレイル/サルコペニアと漢方薬

健康長寿と漢方薬。心身の両面に於いて様々な病態が混在する高齢者にとって、多種類の生薬が含有され、多方面的アプローチが得意な漢方薬は、実に心強い味方です。
高齢者の自立を阻む大きな要因とされているのが、サルコペニアと、それを多くの誘引とするフレイルです。
サルコペニアとは、加齢と共に骨格筋量ならびに筋力が低下し、ヨタヨタし転びやすくなることです。所謂「ヨボヨボ」と昔から形容されてきた状態で、成長ホルモン/インスリン様成長因子やテストステロン等のホルモン分泌の低下、炎症反応の亢進、栄養状態の悪化等が関与しています。多くの老人が、サルコペニアから転倒や骨折し、悪循環の挙句に、ついにはフレイルに至ると言う経過を辿ります。
フレイルとは、加齢に伴う症候群(老年症候群)で、多臓器にわたる生理的機能低下やホメオスターシス(恒常性)低下、身体活動性、健康状態を維持する為のエネルギー予備能の欠乏をベースとして、種々のストレスに対して身体機能障害や健康障害を起こしやすい状態です。つまり、日本では機能障害≒要介護状態に至る前段階で、「自立」と「要介護状態」の間に位置します。

 

 超高齢社会に突入した我が国では、高齢者が総人口の 1/4 以上を占めています。75歳以上の後期高齢者は、ナント1/8以上。この高齢化は、全く衰えるどころか、更なる現在進行形で、2050年には後期高齢者の割合も1/4に到達すると考えられています。それに伴い、今までさほど注目されてこなかった疾病や病態、つまり認知症であり、また今回取り上げたサルコペニアやフレイルが俄然注目を浴びるようになってきました。

 要介護認定に至る経過で、フレイルが要因となるのは 13.4%と統計上は処理されてはいますが、実は骨折・転倒などもフレイルやサルコペニアと密接に関係しており、かなりの割合でフレイル・サルコペニアを経由して要介護状態に至るものと推定されています。自立と要介護の間にあるもの、それが、フレイルであり、サルコペニアです。自立と言う名の自由を手放したくない人達への、(漢方薬の)処方箋です。

フレイルとサルコペニア

フレイルとサルコペニア

 後述するフレイルとサルコペニアの予防には、エクササイズ♬ …と言いますが、それだけでは流石に…中々以上に!阻止が難しく、以前美容通信でも特集した米国FDA認可のメディカルフード「サルコトロピン舌下錠」(美容通信2018年9月号)や成長ホルモン、テストステロン(美容通信2015年6月号)、フィロルガ(美容通信2015年1月号)の様な細胞再生注射、ACE阻害薬の他、蛋白質(美容通信2017年9月号)や分岐鎖アミノ酸、ビタミンD(美容通信2013年3月号)(美容通信2018年6月号)の投与等があります。まあ、百花繚乱と言えば聞こえがイイですが、決定打となる治療方法が確立されていないだけとも言えます。

■フレイル

 フレイルとサルコペニア。あんまり聞き慣れない用語かと思いますが、フレイルは2014年に日本老年医学会より提唱された割に新しい用語で、介護前段階って意味です。つまり、爺婆化すると、どうしたってちょっとした事が切っ掛けで、あれよあれよという間に、当たり前の平穏無事な日常生活が損なわれてしまいます。この崖っぷちの危険性を孕んだ状態が、フレイルです。昔は、筋力低下等の肉体的な衰えが主なものと考えられていましたが、実はそんな単純なものではなくて、鬱や認知症等の精神的側面や、独居老人や高齢引きこもり等と称される社会的な側面をも有した事象とも言えます。

 炎症性サイトカインであるインターロイキン(interleukin:IL)-6値の上昇と、フレイルの間には、明らかな相関関係があります。慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や糖尿病等の病気も、フレイルに関与している事も良く知られています。ですから、フレイルは、厚生労働省研究班の言う様な「適切な介入や支援」ごときで「生活機能の維持向上が可能な状態である」と断じるのは…些か能天気過ぎなんじゃございません?が、臨床現場の素直な感想と言ったところでしょう。

■サルコペニア

 サルコペニアとは、爺婆になるにつけ、骨組みともなる筋肉量や筋力が、加速度的なジリ貧状態となる事で、前述のフレイルの肉体的要因となります。爺婆と言うと、遠い遠い未来にしか思えないかも知れませんが、実は、三十路を過ぎれば、誰しも筋肉量は10年間で3~5%低下します。つまり、全く自覚のない30歳の若造の時点から、サルコペニアは既に始まっているんです。唯、若い頃は筋肉量もしっかりあるので、単に自覚に至らないってだけなんです。だって、日常の生活には、筋肉の3割程度あれば十分だからなんです。しかし、地道且つ加速度的な筋肉量の低下の挙句に、若い頃の約50%にまで筋肉量が低下してしまうと、突然、今まで当たり前に出来ていた日常の動作が上手く出来なくなっちゃうんです。車からスムーズに乗り降りが出来ない。髪の毛を梳かす事ですら難しくなり、誰かに世話してもらわないと生きて行けない≒要介護になってしまいます。

 サルコペニアには、爺婆化に伴うホルモン分泌の低下(美容通信2010年12月号)、炎症反応の亢進(美容通信2017年4月号)、栄養状態の悪化(美容通信2017年9月号)(美容通信2018年1月号)等も関与します。サルコペニアから転倒や骨折、挙句に更なるサルコペニアの進行が、フレイルを誘導し…どんどんと、私達から自立に裏支えされた尊厳が、矜持が、損なわれてしまいます。

補腎剤とサルコペニア

老化と腎

 漢方医学では、生命が始まるところの物質を「精」と呼びますが、腎に納められているこの「精」のうち、特にお父さんやお母さんから受け継いだ「”先天の”精」、つまり生命力が擦り減ってしまった挙句の結果が、老化現象なんだそうです。腎の衰退によって齎される様々な症状は、まさに前述のフレイルそのものであり、漢方医学では「腎虚」と称します。

 

サルコペニアと牛車腎気丸(107)

 牛車腎気丸は、補腎剤の代表格である八味地黄丸に、牛膝と車前子の二つを加えて、更なるバージョンアップを図った漢方薬です。サルコペニア等の老化に伴う筋力低下に対し、骨格筋自体に対する作用だけでなく、サルコペニアやフレイルを進行させる大きな要因の一つでもある疼痛に有効に働きます。疼痛は、リハビリの遅れや運動量の低下を引き起こしますから、疼痛のコントロールは非常に重要な作用とも言えます。

■サルコペニアに対する分子薬理機序

 Bonaldoらは、牛車腎気丸を混餌で食べさせた8週齢の老化促進マウス(SAMP8)と、遺伝子背景が同一の正常老化マウスであるSAMP1を、38週まで飼育し、ヒラメ筋を用いて、両者を組織学的及び分子生物学的に比較検討しました(Dis Model Mech. 2013)

 牛車腎気丸投与をする事で、各群のマウスの摂餌量、体重変化には有意差は見られませんでしたが、左図の【A】に示す様に、SAMP8の筋委縮は、牛車腎気丸によって回復が認められたそうです(HE染色)。

 サルコペニアでは速筋の比率の低下が認められる事は知られていますが、筋肉の速筋に特有な抗SERCA-1抗体を免疫染色してみると、SAMP8では速筋の低下が認められたのに対し、左図の【B】に示す様に、牛車腎気丸の投与で改善が確認されたそうです。

 更にその分子薬理機序の解明の為に、筋委縮に関与するとされるインスリン/IGF-1シグナルの検討を行いました。右図の【A】を見て下さい。牛車腎気丸は、SAMP8の血清IGF-1を有意に上昇させただけでなく、右図の【B】の示す様に、PAS染色により筋肉中のグリコーゲンの合成が改善している事が認められました。

 牛車腎気丸は、筋中に於けるFoxO4リン酸化シグナル改善、MuRF1の発現低下による筋委縮の改善等のミトコンドリア機能(美容通信2017年7月号)の改善や、炎症性サイトカインであるTNF-αの発現を低下させる等の、複数のシグナルバランスを改善させる事で、サルコペニアに果敢に逆らう漢方薬なんですね。

■疼痛に対する分子薬理機序

 疼痛は、リハビリの遅れや運動量の低下を引き起こし、サルコペニアやフレイルを増悪させる、意外な落とし穴です。タカが疼痛!と侮ると、ホント、酷い目に遭います。

 漢方医学に於ける腎は脳を意味する髄海とも関連し、補腎剤は脊髄や脳と言った中枢神経系にも少なからず作用します。Nakanishiらの研究(Mol Pain. 2016)によれば、牛車腎気丸の、活性化ミクログリアからのTNF-α発現制御を介した、抗サルコペニア効果、更には高齢者の疼痛症の症状改善効果が明らかになったそうです。

 右図は、Nakanishiらの論文からの引用抜粋ですが、マウスの神経痛モデルchronic constriction injury model(CCI)を用いて、牛車腎気丸の疼痛抑制効果を検討したものです。免疫二重染色にて、CCI群では、脊髄後角の活性化ミクログリアに発現しているIba1とTNF-αの共発現が認められました。しかし、牛車腎気丸投与により、Iba1とTNF-αの共発現が有意に抑制されていますね。

六君子湯(43)の作用~グレリンを含めて

 爺婆では、栄養不良が、病気の治療や予後に大きな影響を及ぼし(美容通信2017年9月号ます。その最たる原因が食欲不振美容通信2018年1月号ですから、ある意味、食欲を制するものがサルコペニアやフレイルを制すると言っても過言ではないのかも知れません。

 所謂西洋のお薬には適切なものがありませんが、漢方薬には、補剤を中心とした爺婆の食欲不振に効くお宝がざっくざっく♬ 中でも、六君子湯は、摂食ホルモンであるグレリンを増加させ、その作用を増強してくれます。

 

グレリン

 グレリンghrelinについては、以前、美容通信(美容通信2018年9月号)でも特集をしましたが、Kojimaらによって発見された、28個のアミノ酸からなる消化管ホルモンです。

 グレリン受容体(GHSR1a)に作用して成長ホルモンの分泌を促進するだけでなく、食欲を強力に亢進します。このグレリンの食欲増進作用は、成長ホルモン分泌促進作用と全く別個のもので、関連はありません。絶食すると、グレリンの血中濃度は上昇し、反対にご飯を食べると、血中濃度は低下します。グレリンは、脂肪細胞が産生する抗肥満ホルモンであるレプチンに拮抗するホルモンで、グレリンを投与すると体重は勿論、脂肪組織だって増大します。胃から分泌されるグレリンの空腹と成長ホルモン分泌に関する情報は、求心性迷走神経を介して、脳みそ(視床下部)に伝えられます。
 その他、グレリンは消化機能調節等も有し、エネルギー代謝調節に重要な作用も有しています。

六君子湯

 六君子湯は、四君子湯と二陳湯の合方で、虚証の患者さんに対する代表的な漢方薬です。

 薬理作用としては、人間に対して、胃排出改善作用、胃適応性弛緩に対する作用があります。動物実験レベルには留まりますが、消化管運動亢進作用、胃適応性弛緩に対する作用、食道及び胃粘膜に対する保護作用、胃粘膜血流抑制作用、胃酸・ペプシンの分泌抑制作用、食欲増進作用等が挙げられます。又、抗ストレス作用もあり、精神面での作用も報告されています。

 しかし、近年の一番の注目株は、何と言っても、食欲や消化管運動を制御する消化管ホルモンであるグレリンの、分泌を促進したり、作用を増強させる事でしょう。

■グレリンシグナルに対する促進作用

 六君子湯により、生体のグレリンシステム全般が増強されます。

  • 血中アシルグレリン濃度増加

   ①アシルグレリン分泌亢進作用

    六君子湯の複数(13種類!)の成分が、5-HT2B2C等の受容体に拮抗し、末梢及び中枢のグレリン分泌を回復させて、食欲不振を改善します。

   ②アシルグレリン代謝阻害

    アシルグレリンは末梢で、脱アシル化されて失活しますが、六君子湯は、脱アシル化酵素を阻害してくれます。

  • グレリン抵抗性の解除

   レプチンが高いまんまのデブちんや爺婆の中には、外因性のグレリンに対する反応が悪い、所謂「グレリン抵抗性」状態に陥っている人もいます。又、何らかの疾患を原因とする栄養失調により衰弱した状態を「悪液質」と言いますが、この悪液質や神経性食欲不振症なんかでは、血中のグレリンの濃度が高くても、全然ご飯が進まない!≒グレリン抵抗性状態なんだそうです。六君子湯には、この様なグレリン抵抗性を解除する作用があります。

   ①ホスホジエステラーゼ3(PDE3)の阻害

    レプチン濃度が高いまんまのデブちんや爺婆の体の中では、一体何が起こっているのか?と申しますと、レプチンが、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)とPDE3を活性化して、大事な大事なグリシンの細胞内シグナルである「cyclic AMP」を、勝手に分解してしまうんだそうです。六君子湯には、PDE3阻害活性のある成分が含まれているので、グリシンシグナルが回復します。

   ②GHSR1aシグナルの増強

■六君子湯は、長生きだってさせちゃう!?

 右図のサルの画像は、あまりにも衝撃的でしたよね。図のAとBは、通常のサル。C、Dは、カロリー制限した猿です。2009年にアメリカの科学雑誌Scienceに掲載された論文(Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys)からの引用ですが、「30%のカロリー摂取制限をしたアカゲザルは、老化が抑えられて寿命が延びる。それどころか、毛並みや姿勢だって、若々しい」。

 カロリー制限とサーチュイン遺伝子、寿命の関係が最初に報告されたのは、1999年。レオナルド・ガレンテ博士らにより酵母の寿命遺伝子としてsir2が同定され、現在、哺乳類に於いては、Sirt1~7までの7種類の遺伝子が分かっています。中でもSirt1は、カロリー制限により誘導或いは活性化され、老化に伴う臓器障害に対して保護的に働らきます。酵母、線虫、ハエ、マウスで、長寿延命効果が確認されています。

 六君子湯は、グレリン受容体を介してSirt1を活性化します。in vitroの研究ですが、六君子湯が細胞内のcAMPを増加させ、CREBのリン酸化を介してSirt1蛋白を増加させるのが確認されています。更に、AMPキナーゼの活性を上げて、Sirt活性を上げる事も分かっています。未だ、動物実験レベル(3系統マウス)での確認でしかありませんが、人間でももしかすると以上の確率で、長寿を期待出来ちゃうかも知れません。

■六君子湯成分の薬物動態

 極々最近のお話なんですが、健常人に於ける、六君子湯経口投与後の血中動態が報告されました。32の代表的な六君子湯の成分のうち、18~21種類は血中若しくは尿中で検出され、特にその中でも非抱合体として検出された9種類の成分については、何らかの形で生体内グレリンシグナルを増強する作用があるようです。

 この事は、基礎実験で明らかにされた六君子湯のアンチエイジング効果が、私達人間でも十分に期待出来る!って事を強く示唆してるんですね。

フレイルと人参栄養湯(108)他

 日本では、生命寿命と健康寿命の差は、男性で9年、女性で13年。フレイルは、この生命寿命と健康寿命の差の大きな原因とされています。フレイルの有病率は高く、80歳以上では、30数%が該当していると言われています。…望むらくは、生命寿命が縮まって健康寿命と一致するのではなく、健康寿命が延びて生命寿命と一致したいものですね、ホント。

 右図はフレイルカスケードです。フレイルと言うと栄養障害のイメージが強いですが、実は、栄養過少、過多共に誘発因子です。フレイルは運動機能に重きを置きつつも、実は、抑うつ等の心身の多彩な病態を含むシンドローム的要素が強い病態です。身体的フレイル、社会的フレイル、精神・心理的フレイル等とも分けられますが、抑うつや認知障害は、原因であるのと同時に結果でもあります。治療の足を引っ張るだけでなく、副腎皮質ホルモン系の過剰分泌(美容通信2015年4月号)(美容通信2017年5月号)や極端な行動量の減少により、サルコペニアを増悪させます。

 サルコペニアが、爺婆化による成長ホルモン/インスリン様成長因子(GH/IGF-1やテストステロン(美容通信2015年6月号)の低下等のホルモン系の変化や、生活習慣や変形性関節症等による活動性の低下を基盤にしているのに対し、フレイルでは、疾患の集簇が認められ、より炎症性サイトカインの関与が指摘されている病態です。

 私達は毎日毎日、一日に三回も、肉や魚やお米やキャベツ等々、時には人によってはワニだとかカンガルーだとかゲテモノ系もありだとは思いますが、色んな食べ物を食べます。これ等の食材は、私達の体の血や肉(筋肉)や骨等々の身になる=合成されます。唯、例えば筋肉は、確かにボディビルダーの様なマニアックな輩にとっては、存在するだけで絶対的な意義(≒観賞用としての?)があります(笑)が、普通の人々にとっては、歩いたり呼吸したり心臓を動かしたりする為の、つまり筋肉なんてもんは単なる燃料の一つの形態で、分解されてエネルギーになってナンボのもんなんです。これらの一連の流れを代謝と言い、合成と分解で成り立っています。 お洒落な言い方をすると、これは、同化 (anabolism) と異化 (catabolism) と言い換える事が出来ます。同化とは、エネルギーを使って有機物質を合成する過程であり、例えば蛋白質・核酸・多糖・脂質の合成が挙げられます。反対に、異化とは、高分子等の有機物質を分解し、低分子化する事によってエネルギーを得る過程です。呼吸(嫌気・好気)が良い例です。

  腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)-αを始めとする炎症性サイトカインは、ユビキチン-プロテアソームシステムを活性化し、蛋白異化(美容通信2015年7月号)を促進します。一方、抗炎症性サイトカインやIGF-1は、筋蛋白の合成や筋線維の再生を促進します。ストレスや炎症性サイトカインで活性化されるコルチコトロピン放出因子(corticotropin releasing factoe:CRF)が、グルココルチコイドを介してIGF-1系を抑制する等、サルコペニアのメカニズムも、脳腸相関(美容通信2018年7月号)の立場からだんだん解明されつつあります。

 上図は、Amitaniらの論文(Int J Bichem Cell Biol. 2013)からの引用抜粋ですが、骨格筋萎縮のメカニズムも、脳腸相関の中で明らかになっているそうです。病気により放出される炎症誘発性サイトカインは、ユビキチンリガーゼを活性化し、筋を崩壊させます。CRF-グルココルチコイド系やインスリン抵抗性、テストステロンの低下がサルコペニアを促進します。また、胃から放出される空腹ホルモンであるグレリンやIGF-1は、筋に対してトロフィックに働きます。

人参栄養湯

 人参は生薬の中でも、古来より珍重されてきました。秦の始皇帝が求めた不老不死の生薬は、噂ではどうも高麗人参だって話ですし、日本には聖武天皇の時代に伝えられると、江戸時代には、重篤な疾患の回復には人参栄養湯!と鉄板処方されておりました。宋の時代に著わされた「和剤局方」には、人参栄養湯の適応を以下の様に記されています。過労・病気の為に衰弱し、四肢が重く、骨肉が激しく痛み疼き、息切れを起こし、行動喘啜、小腹拘急、腰背強痛、虚し怯え、喉が渇き唇は乾燥している、飲み食いしても味はなく、気・血・津液のバランスが崩れ、鬱々として多くを寝て過ごし、起きる事が少なくなる。長い人は何年かけて、急に進行する人は百日で骨と皮のように痩せ細ってしまう。五臓の気が尽き、回復が難しい状態を治す。また、肺と大腸がともに虚し、咳嗽下痢、嘔吐、痰涎の状態を治す。…まあ、今も昔も、気血両虚を補う最強の補剤なんですね。

■作用機序

 人参栄養湯には12種類の生薬が含まれており、これ等の多彩な作用により、フレイルに特徴的な身体機能低下や摂食・免疫・情動・認知等の心身の脆弱性を、総合的に改善してくれます。ですから、軽症例から重症のフレイルまで、守備範囲は膨大に広くて当たり前なんですね。下図は、Fujitsukaらの論文(Mol Psychiatry. 2016)より引用抜粋したものです。

 人参栄養湯の構成生薬のうち、人参の抗疲労効果は良く知られていますが、動物実験では、抗鬱効果、老化速度の減弱も指摘されており、その作用機序については興味にゃんにゃんと言ったところでしょうか。更には、人参由来のサポニン類(ギンセノシド)にも、多彩な作用があり、記憶障害の改善や神経保護作用の他、骨密度の低下を改善したり、酸化ストレスや破骨性サイトカインの抑制、動脈硬化の改善、インスリン抵抗性の改善が有名です。テストステロンによる前立腺肥大を抑制し、MAPキナーゼ系を介して前立腺癌の増殖を抑える効果も報告されています。

 これ以外にも、白朮や遠志の成分には、エネルギー代謝や認知・情動への効果があります。陳皮、茯苓、甘草や人参由来パナキサジオールは、グレリンシグナリングを改善し、食欲促進等の人参栄養湯の作用機序の一端を担うものと思われます。人参は、骨髄の造血系や間葉系幹細胞への刺激作用が知られ、臓器組織の修復再生に関わると考えられています。

■他の漢方薬との併用投与

 多彩な生薬成分を含む漢方薬は、心身のシンドロームであるフレイルの病状に、多面的に作用します。人参栄養湯は万能選手ではありますが、それでも、「もう一品!」欲しくなる事もあります。

認知症の周辺症状(BPSD)に対しては抑肝散(54)や抑肝散加陳皮半夏(83)、消化器症状には六君子湯(43)、誤嚥症状には半夏厚朴湯(16)を、もう一品として加えるのがオススメです。前立腺の症状には、補腎剤としての八味地黄丸(7)や牛車腎気丸(107)の併用が一般的ですが、どっちを選ぶかは、変形性関節症や脊椎症等の痛みや痺れの強いものには、附子量の多い牛車腎気丸。それ以外は、八味地黄丸って選択かしら。

 漢方薬の副作用は、西洋のお薬に比べて断然少ないとは言え、皆無ではなく、重ね合わせによりその確率は上がりますから、併用投与は2剤までがお約束でしょうか。


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。