経口爪白癬治療薬|ネイリン | 旭川皮フ形成外科クリニック旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2022年11月号

経口爪白癬治療薬|ネイリン

ネイリンは、約20年ぶりに承認された経口爪白癬の治療薬です。1日1回1カプセルを12週間飲むだけで、OK。約6割と言う、完全治癒率を誇ります。従来の経口爪白癬の治療薬であるラミシールやイトリゾールと比べて、特に治癒率が高い訳ではありませんが、副作用が少ない(肝機能障害や血液障害等)のが特徴です。プラス、他の薬では治療の対象ですらなかった(!)75歳以上の高齢者に於いても、有効性と安全性が確認されています。高齢者にとって、爪水虫問題は、見た目の問題はさておき、進行すると爪の変形による痛みから靴がはきづらい、歩くと痛いなどの症状を引き起こし、QOLの大幅な低下を引き起こす、一大事なんです。これを解決してくれるネイリン、地味に凄いんです。

 爪水虫の治療は難渋する事が多いです。爪白癬は、痛くも痒くもないけど、見た目が悪い事を気に病んでいるうちはまだしも、進行すると爪の変形を来たし、肥厚した角っこが靴に当たって痛い。歩くと痛い。高齢者に多いとされる爪白癬、これが原因で外出が億劫になる→下肢機能の低下→歩行困難や転倒→寝たきり!? この様な75歳以上の高齢者の爪水虫に対し、ネイリンは有効性と安全性が確認されています。

約20年振りの新薬・ネイリンは、何が進化したのか?

爪白癬とは

  爪白癬は、白癬菌が手足の皮膚を介して爪の中に侵入することによって、爪の混濁や肥厚、爪周辺の角質増殖などの症状をきたす真菌感染症です。日本人の10人に1人、約1,100万人が罹患していると報告されています。痛みやかゆみを伴わないため放置されやすい疾患ですが、進行すると爪の変形による痛みから、靴がはきづらい、歩くと痛い等の症状を引き起こし、患者さんの多くはQOL(生活の質)の低下に悩まされています。実際、HISAKOのクリニックでも巻き爪で歩けない!と訴えて受診をする患者さんの殆どが、爪水虫です。更には白癬菌は、スリッパやバスマット等を共用する事で、家族(大事なお孫さんにも!)に移してしまう可能性だってあります。

 因みに、左図の写真はWikipediaから拝借した物。トリコフィトン・トンズランス(Trichophyton tonsurans)は、爪ではなくて主に頭部白癬(美容通信2007年7月号)の原因菌ですが、培養日数の経過につれ、菌株が噴火口状に陥没する特徴があります。形状以外にも、(個人的には)興味深い菌なのでちょっと触れておきますね。皮膚表面の角質層にあるケラチンを栄養にして寄生するこの菌は、1960年代にキューバから米国へ、1990年代にはヨーロッパにも広がったとされています。1960年代と言えば、キューバ危機。196210月から11月にかけて、旧ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚し、アメリカ合衆国がカリブ海でキューバの海上封鎖を実施しました。これを機に、米ソ間の緊張が一気に高まり、核戦争寸前まで達した一連の出来事のことですが…この時期に何で、柔道やレスリングの様な選手同士の濃厚な接触で感染するカビが、キューバから米国に拡がったのか、摩訶不思議と言えば不思議です

■足爪異常による転倒のリスク

 高齢女性82名(正常群35名、足爪異常群15名)を対象に、足爪異常の転倒への影響を調査した報告(山下和彦他:電学論C 2004: 124(10). 2057-2063)があります。それによれば、足爪異常群では、過去1年以内に転倒歴があると回答した人は46%、転倒に関する不安感・恐怖感があると回答した人は31%だったそうです。

 

約20年振りの新薬・ネイリン

 1997年にテルビナフィン(ラミシール)、1999年にイトラコナゾール(イトリゾール)の爪水虫の薬が発売されました。約20年の空白を経て2018年に承認されたのが、ネイリンです。

 効果効能って点では、約6割の完全治癒率と、他の先発の2つの薬を凌駕する程の代物では決してございません。が、ネイリンの卓越した点は、ふたつ。ひとつは、ラミシールやイトリゾールと比べて、肝機能障害や血液障害等の副作用が少ない。肝臓がぶっ壊れている人には当然使えませんが、副作用の心配が随分軽減されたのは事実です。そしてもうひとつは、75歳以上の高齢者に於いても、有効性と安全性が確認されたって点です。実は、ラミシールやイトリゾールは、75歳未満の患者さんを対象にしたお薬で、そもそも75歳以上の高齢者には適応がありませんでした。ですから、臨床試験で検討すらされてなかったんです。それ故に、ロクにどころか、殆ど効かない(←失礼!)塗り薬(美容通信2015年12月号)しか手がなかったのですが、実は、高齢者こそ、サルコペニアの予防(美容通信2018年9月号)(美容通信2019年2月号)の為には歩いてもらわなければなりません。爪水虫なんぞに、高齢の患者さんのQOL(生活の質)を下げられては、堪ったもんではありません。ネイリンは、年齢に関わらず、早期に、より積極的に使用する事が推奨されるお薬です。

ネイリン

主成分は、ホスラブコナゾール

 主成分であるホスラブコナゾールは、ラブコナゾールの水溶性を高める事で、生物学的利用率を向上させたプロドラッグです。

 真菌細胞膜の膜成分であるエルゴステロール生合成を阻害する事により、抗真菌活性を示すんだそうです。

 

ネイリンによる治療

 爪水虫のお薬ですから、爪水虫かどうかの検査が必須です。先月号の美容通信でデルマクイック爪白癬(美容通信2022年10月号)について特集しましたが、皮膚科の定番であるKOH直接鏡検をしても、明らかな水虫ちゃんが見つからなかったけど、でも、ど~考えても爪水虫(爪白癬)としか考えられない…。臨床現場では、そんな悶々とした状況に陥る事も無きにしも非ず。そんな時は、デルマクイック爪白癬で白黒付けるか、日和って、見切り発車的に、ラミシールやイトリゾールと言った爪水虫の薬を処方してしまう事があります。ところが、新薬のネイリンは、直接鏡検若しくは培養等で(!)確定診断がなされてないと、保険での処方が出来ません。厳格な分効果があるかと言いますと…、微妙は微妙ですが(笑)。

 1日1カプセルを12週間服用します。食事に関係なく飲めるのが、有り難い特徴のひとつです❤ 唯、飲み忘れの無いように、なるべく毎日同じ時間に1日1回1カプセル服用できるように、服用時間の設定をしてくださいね。

 また、他の経口爪白癬治療薬と異なり、併用注意薬はありますが、併用禁忌のお薬がないのも嬉しいところ。ネイリンはCYP3Aを中等度阻害するので、併用注意薬としてCYP3Aにより主に代謝される薬剤(シンバスタチン、ミダゾラム等)、その他にワルファリンがあります。

 肝臓が悪い人にはそもそも適応はありませんが、服用を開始してから4~8週目頃に、肝機能の検査をして、継続可能かどうかの判断をします。

 普通の人でも足の爪は、1月に精々1mmしか伸びない。水虫に冒されていれば、尚の事、伸びは期待出来ません。最短でも、綺麗な健康な爪が根元から先っぽまで生え替わるには、1年以上を要します。つまり、内服期間は3ヶ月間ですが、その後は、黙って、爪が伸びるのを一喜一憂しながら見守るしかありません。…これが、建前です。しかし、水虫の身になって考えてみて下さい。うかうかと殺されるのを、1年間も黙って待ってるはずもありません。逆襲します。そりゃあ、勿論、素直に殺されてしまう輩もいますけどね(笑)。一進一退の攻防戦を制する為には、ネイリン内服終了後3ヶ月経過したら、作用機序の異なるラミシールやイトリゾールをぶつけるのもありだし、再度ネイリンに挑戦するのもあり。大して効かない外用薬で、時間を稼ぐのも…まあ、ありかな(笑)。(敵の顔色を伺いながらも)手綱を緩めないのが、爪白癬の克服の極意なんです。

 サクッとまとめますと、治癒率約6割と、他の先行する経口の水虫薬と比して、特段優れた値ではありません。が、言葉を変えれば、同等の効果にも関わらず、副作用(肝機能障害や血液障害等)が少なく、薬漬けと揶揄されがちな75歳以上の高齢者にも、併用禁忌薬がなく、安心して使えるお薬です。唯、当たり前ですが、妊婦さんや授乳中のママ、お子ちゃまには、何が起こるのかは、そもそも調べていないので、適応はありません。

 

国内第Ⅲ相臨床試験成績

[試験概要]

  • 目的:爪白癬患者に対するネイリンの有効性、安全性について、プラセボを対照とした二重盲検並行群間比較試験により検討しました。
  • 対象(FAS、安全性解析対象症例):第Ⅰ趾爪に爪甲混濁部面積比25%以上の病変を有し、直接鏡検で皮膚糸状菌が確認された、満20歳以上75歳未満の爪白癬患者153例(ネイリン群:101例、プラセボ群:52例)。
  • 方法:ネイリン®カプセル100mg(ラブコナゾールとして100mg)又はプラセボを1日1回食後に12週間経口投与し、その後、36週間を無治療で観察しました。
  • 評価項目・解析計画

   ①主要評価項目 (検証的解析項目):投与開始48週後の完全治癒率

    【解析計画】主解析対象集団をFASとし、投与群ごとに頻度集計、割合、及びその95%信頼区間を算出した。また、投与群間の比較は、Fisherの直接確率計算法を用い、有意水準0.05(両側)とした。中止・脱落例は非治癒として算出した。

   ②副次評価項目:投与開始12週、24週、36週、48週後の有効性評価、直接鏡検による菌陰性化率 等
    【解析計画】主解析対象集団をFASとし、投与群ごとに頻度集計、割合、及びその95%信頼区間を算出した。中止・脱落例は除外して算出した。

   *FAS(Full Analysis Set):最大の解析対象集団

■主要評価項目(検証的解析項目):投与開始48週後の完全治癒率〈FAS〉は、約6割!

 ネイリン群の投与開始48週後の完全治癒率は59.4%であり、プラセボ群に対する優越性が検証されました。これを高い治癒率と思うかどうかは…全く別個の問題だとは思いますが。

■副次評価項目:有効性評価〈FAS〉

 ネイリン群の著効率及び有効率は、プラセボ群と比較して投与開始24週後から有意に高い値を示し、投与開始48週後では83.1%及び94.4%でした。

■副次評価項目:直接鏡検による菌陰性化率〈FAS〉

 ネイリン群の直接鏡検による菌陰性化率は、プラセボ群と比較して投与開始24週後から有意に高い値を示し、投与開始48週後では82.0%でした。

■安全性について

 国内第Ⅲ相臨床試験に於いて、101例中、24例(23.8%)に副作用が認められました。主な副作用は、γ-GTP増加16例(15.8%)、ALT(GPT)増加9例(8.9%)、AST(GOT)増加8例(7.9%)、腹部不快感4例(4.0%)及び血中Al-p増加2例(2.0%)でした。重大な副作用として、肝機能障害、多形紅斑が報告されています。


※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

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