妊婦と薬 | 旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2009年9月号

妊婦と薬

image892妊娠中は、出来ればお薬を使いたくないのは人情。
でも、妊婦と言えども、病気と無関係で過ごせるとは限らず、薬を服用せざる得ない状況だって出現します。
湿疹・皮膚炎だって、蕁麻疹だって、ニキビだって等々と、罹るもんは罹る。
どんな薬なら大丈夫?
ステロイドの副作用も含め、そこら辺の気になる話を、皮膚科の病気を中心にお話しちゃいます。

  <数の子>とは、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、語源は「かどの子」の訛り。近世までニシンを「かど(カドイワシ)」と呼んでいた事の名残です。メスの腹から取り出した卵の塊を天日干し又は塩漬けしたものを食用とします。ニシンの卵一粒一粒は細かいですが、無数の卵が相互に結着して全体としては長さ10cm、幅2cm前後の細長い塊となっています。価格が高く、黄金色をしていることから、”黄色いダイヤ”との別名があります。日本では、正月の御節料理や結納に於いて、数の子の粒の多さが子孫繁栄を連想させることから、良く縁起物として用いられます。

 今月号は、「ママとママたま(妊婦)の病気と薬~皮膚科編」です。

 妊娠を考えてる妙齢のご婦人から、妊娠中の所謂ママの卵(ママたま)と、授乳中のママの素朴な疑問にお答えします。

病気の治療には、お薬が付き物。でもぉ‥と二の足を踏みたくなるママたま達へ

 ママたまだって、病気になる。お腹の中の赤ちゃんの為には、ある程度の我慢が要求されるのは仕方がない事ですが、我慢は美徳かというと、決してそうではありません。例えば、痒くて痒くて気が狂いそうな10ヶ月間を只管耐えに耐える事が、お腹の赤ちゃんの胎教に望ましいかと問われれば、誰もそうだとは即答出来ないはず。例えば、喘息。お腹の赤ちゃんの為に良かれと、喘息のお薬を中断する方法を選んだとします。ママたま自身は、繰り返す喘息発作により、ある程度の低酸素状態に慣れっ子になっている事が多いんですが、お腹の赤ちゃんには降って沸いた災害。致命的な事だってあり得ます。
 そして、もう一つ留意しておかなければならないのは、お薬とは全く関係のない、所謂、自然の奇形発生と言うものがあり、この率を増加させるお薬かどうかです。日本母性保護産婦人科医会の統計によると、妊娠中にお薬を全く飲んでいない元気なママたまであっても、約1%の赤ちゃんにぱっと見ただけでも分る外表奇形が出るそうです。生まれてから暫く経たないと分らない内臓系の奇形等も含めると、少なくとも2~3%の赤ちゃんに先天的な異常が生じると考えられています。
 ‥ある意味、ママたまの投薬は、飲み薬であれ塗り薬であれ、ケースバイケースとお考え下さい。

お薬の影響は、お腹の中の赤ちゃんの発達段階によって違うんです。

 先ずは、下の図を見ながら、解説を読み進めて下さいな。あ、因みに産婦人科って所は独特の数え方ってもんがあって、一般人は結構用語自体に面食らっちゃう事もしばしば。妊娠の経過を計算する場合、28日周期の女子を基本にして考えています。妊娠週数は、最終月経の開始日を0週0日とし、1週間は7日間ですから、週の終わりは0週6日! 次の週は1週0日~1週6日、‥、分娩予定日は40週0日となるんです。つまり、28日周期の女子が排卵するのは普通生理の14日目位。って事は、妊娠1週6日目とは申せ、この日までは受精すらしていないんですよ!
image893  まあ、Hした瞬間(排卵-受精)から2週間目までの期間、つまり妊娠2ヶ月の初め頃までの期間は、どんなお薬だってお腹の中の赤ちゃんには影響なし! これは、”All or Noneの法則”って言って、厳密には、お薬の影響がない訳ではないんですが、影響が強ければ、そもそも着床すら出来ずに流れて御仕舞い。つまり流産しちゃうんです。でも、これに打ち勝って卵が生き残ったとすれば、完全にお薬の影響から回復して、後遺症は赤ちゃんには残らないんです。

 ところが、受精2週間後(妊娠2ヶ月の初め)から、妊娠4ヶ月の終わりまでは、赤ちゃんの将来を左右する、超大事な時期。お腹の中の赤ちゃんの脳みそだとか、心臓、消化器、手足なんぞの、重要臓器が発生・分化する時期なんです。それ故に、赤ちゃんが五体満足に生まれて来れるかどうかの瀬戸際って意味から、感受期とか臨界期と呼ばれています。

 その中でも、特に、最初の妊娠2ヶ月頃に受けたダメージは、結構重大な問題に発展するので、要注意!
image898  この事を象徴するのが、”サリドマイド事件”。歴史の教科書で習ったってママたまが殆どじゃないかと思うんですが、さらっ復習。1957~1962年、ドイツ(西独)のグリュネンタール社が、妊婦にも安全な睡眠薬♪として開発・販売したのがサリドマイド。商品名「コンテルガン」は世界で爆発的に売れ捲くり、日本でも、大日本製薬が独自の製法を開発し、1958年、「イソミン」の名称で販売を開始。1959年には胃腸薬「プロバンM」に配合して市販しました。ところがこのサリドマイド、実は、妊婦に安全どころか、妊娠初期の妊婦が用いた場合に催奇形性があり、四肢の全部あるいは一部が短いなどの独特の奇形をもつ新生児が生まれちゃう事が判明。日本では諸外国に比べ、製品の回収が大幅に遅れた為、被害が拡しました。‥戦後の薬害の原点となる事件だったんです。
最初にサリドマイドと奇形の関係を明らかにしたLenz W博士は、1992年の講演の中で、こう述べています。「サリドマイドを、最終月経から34日目までだけ、若しくは50日目以降にだけ服用した場合は、奇形は生じない。35~49日が感受期で、この時期に服用すると、35~37日目では耳の欠損と聾(つんぼ)、39~41日目では上肢の欠損、43~44日目では3指のあるPhocomedia、46~48日目では3関節がある母指の様な奇形を生じる」と。最終月経から35~49日は、妊娠週数で言えば、ほぼ5~7週(月数で言えば2ヶ月)に相当します。つまり、サリドマイド以外のお薬でも、器官分化に影響するお薬系なら、この期間に服用すると、五体不満足の赤ちゃんが生まれてしまう可能性が非常に高いって事なんです。

 最終月経から50日目以降、つまり妊娠3~4ヶ月は、まあ、感受期とか臨界期であるのは事実なんですが、赤ちゃんの重要な臓器の形成は既に終了してしまっているので、どちらかと言うと、奇形は奇形でも、生物的には深刻度の薄らぐ時期かな。でも、おちんちんやおまんこと言った性器の分化が起こったり、真っ二つに割れていた上あご(口蓋)が左右からダイナミックな地殻変動で合体(閉鎖)するのがこの時期ですから、決して侮ってはいけません、が。例えば、子宮内膜症や乳腺症の時に処方されるダナゾールってお薬は、妊娠8週を超えて飲み続けていると、女の子のあそこ(外陰部)が、オカマみたくなっちゃう(男性化する)って事。まあ、お年頃になれば真剣に悩むでしょうが、生命維持に別段支障のあるレベルではないので、教科書なんかは、”広い意味で言えば”催奇形性が問題となる時期と、平気で記載しております。

 妊娠5ヶ月以降は、既に赤ちゃんの原型は出来上がった状態なので、今更、前述のサリドマイド児の様な形態的異常(malformation)は起こり得ません。ちゃんと育つかだけが、大問題なのです。つまり、胎児毒性(fetotoxicity)。例えば、赤ちゃんの臓器障害、羊水量の減少、陣痛の抑制や促進、新生児期への薬剤の残留等が上げられます。唯、お腹の赤ちゃんへの被害は、概して、出産真近かになればなる程大きくなる傾向が‥。
 この段階で問題となるお薬の代表格が、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)。インドメタシンが有名ですが、妊娠の後期に、飲んだりお尻の穴に突っ込んだりすると、赤ちゃんがオシッコを出し渋る様になるので羊水が激減したり、胎児心拍出量の半分以上が通過する動脈管ってバイパスがあるんですが、インドメタシンはこれを閉鎖してしまうので、心臓の右心室から送り出された血液は行き場を失い、路頭に迷った挙句、心臓をぶっ壊したり(右心不全)、肺高血圧症を惹起したりと、暴徒と化してしまうんです。‥薬が危険なのは妊娠初期♪って言うのが、暗黙の了解としてママたま間では広く認識されているようですが、実は、非ステロイド抗炎症薬に関しては、妊娠初期の方が安全性が高いんですねぇ。まあ、妊娠初期だと、自然流産の可能性が高くなるって報告もあるので、どちらにしろ、飲まないのに越した事ない訳ですが、ね。
 ママたま進行形&授乳中のママ族にも関わらず、ど~しても解熱鎮痛剤が必要!って差し迫った事情が発生したら、アセトアミノフェンを病院で処方してもらうのが無難。製品名としては、アセトアミノフェン、ナパ、アスペイン、ピリナジン末etc.です。

お薬の性悪度は、どう決めるんでしょう?

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 ママたまは勿論、HISAKOを含めた医者の誰もが、お薬の性悪度に関する正確な情報を、喉から手が出る位に欲してはいます。ですが、妊婦を手当たり次第に狩り集め、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で、思う存分生体実験が出来るのならいざ知らず、実際問題としてそんな事は到底無理。仕方がないので、催奇形性の発現機序に関する基礎実験や、動物を用いた生殖試験、薬物の胎盤透過性etc.の基礎情報、臨床で得られる薬物曝露症例の出産結果、催奇形に関する疫学調査etc.の臨床情報を総合的に判断せざる得ないのが実情なのです。

 日本でママたまのお薬危険度の公的評価とされているのが、医療用医薬品添付文書って奴。まあ、簡単に言うと、能書き。ここには、”理由”に基づいて”注意対象期間”と”措置”が記載されています。
例えば、爪水虫のお薬として定番的に処方されるイトリゾールの能書き。抜粋致しますと、1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しない事。[動物実験(ラット、マウス)で催奇形性が報告されている。] 2)授乳中の婦人には本剤投与中の授乳を避けさせる事。[ヒトで母乳中へ移行する事が報告されている。] 1)は、「動物実験(ラット、マウス)で催奇形性が報告されている」(理由)ので、「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には」(注意対象期間)、「投与しない」(措置)と解釈をします。2)は、「ヒトで母乳中へ移行する事が報告されている」(理由)ので、「授乳中の婦人には」(注意対象期間)、「本剤投与中の授乳を避けさせる」(措置)となりますよね。
 お役所文章ですから、この”措置”も書式が決まっていて、厳しい度が高い順に、「投与しない。」「投与しない事が望ましい。」「治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与する事。」「減量または休薬する事。」「大量投与を避ける事。」「長期投与を避ける事。」等。基本的に、ママたまには、「投与しない。」「投与しない事が望ましい。」と”措置”の欄に記載されているお薬は、ペケ。

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 でも、じゃあ、出来ちゃった!って事実を知らずに、「投与しない。」「投与しない事が望ましい。」と分類されているペケ薬を飲んでしまったママたまの皆さん、慌てて、取り返しの付かない選択(人工妊娠中絶)をしてはいけません。
確かに、ペケ薬の中には、お腹の赤ちゃんに災いを齎す事が実証済み♪って代物はあります。例えば、非ステロイド抗炎症薬を長い期間飲み続けなければいけない様な場合、偶に、お薬の影響で、胃潰瘍や十二指腸潰瘍になっちゃう事ってあるんですが、その時に飲むお薬であるミソプロストール(Prostaglandine E1製剤)。血圧を下げるお薬の一つであるACE(angiotensin Ⅰ-converting enzyme)阻害薬とか、血管内で血液が固まるのを防ぐワルファリンも、同じ穴の狢。札付きのワルに分類されます。
 ですが、実は、悪ガキは寧ろ少数派。”何で腹の中に赤ん坊がいるのに、態々ピル飲むんだ~ぁ?”的な意味不明系や、”クラビットの様なキノロン系抗菌剤を態々ご指名しなくたって、もっと素直で可愛くて安全な女の子が他に大勢いるじゃない?”系、”私達人間では証明されていない and/or 催奇形性がないと考えられてはいるんだけどぉ、動物実験では奇形児が産まれちゃったのよねぇ”系、”あの~ぉ、僕、面倒な事は嫌いなんで、うちのメーカーの薬を別に使ってもらわなくても構いませんから、取り合えず妊婦には処方ししないでくれる?”と製薬会社が処方を希望しない系etc.の、赤ちゃんには人畜無害な!お薬が、殆どの構成要員なんです。

 だから、ある意味、医療用医薬品添付文書って能書きは、飲んでしまったママたまには、あんま役に立たない。故に、一般的には、総合点数制による危険度の判定の為の数式なるモノが存在し、これで評価を行ないます。

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お薬自体の危険度点数

評価条件 危険度点数

疫学調査で催奇形があると確定的に考えられている。又は動物生殖試験の結果、人間様にも催奇形があると確定的に考えられている。

5点

疫学調査で催奇形を示唆する報告がある、又は否定と肯定報告があり、どちらかと言えば肯定的。疫学調査で催奇形を示唆する報告と否定的報告があり、どちらかと言えば否定的、又は疫学的調査は行なわれていない、及び人間様での催奇形に関する信頼性の高い症例報告が複数ある。

4点

及び、動物生殖試験で催奇形の報告があるが、その結果人間様での催奇形はあると言えない。又は、疫学調査は行なわれていないが、人間様での催奇形の症例報告がある、又は、否定と肯定の報告があり優劣付け難い。

3点

疫学調査は行なわれていない、及び人間様での催奇形性を肯定する症例報告はない。しかし動物生殖試験で催奇形の報告がある、又は否定と肯定の報告があり優劣付け難い。

2点

疫学調査は行なわれていない、及び人間様での催奇形性を肯定する症例報告はない。及び動物生殖試験は行なわれていないか、又は催奇形性は認められていない。又は局所に使用するもの及び漢方薬。

1点

疫学調査で催奇形の傾向はない、及び人間様での催奇形を肯定する症例報告はない。及び動物生殖試験は行なわれていないか、又は催奇形は認められていない。又は食品として使用されているもの。

0点

 ここで、聡明なママは不思議に思うはず。「お薬の能書きの文言と、評価条件の文章って‥、違くない?」 そうなんです。困った事に、微妙に違うんです。皮膚科領域で使用される飲み薬のお薬の殆どは、「治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与する事」と、能書きに記されてはいます。一般的な解釈としては、危険度数1点に相当すると考えられています。例えば、蕁麻疹やアトピー性皮膚炎、花粉症等の際に処方される抗ヒスタミン薬の殆どは1点です。ですが、ステロイドの内服だけは、同じ「治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与する事」と記されていても、2点です。

 参考までに、皮膚科で登場する可能性のあるお薬で、催奇形性が問題となるのは、チガソンCap(エトレチナート)、チョコラA錠(ビタミンA:但し、大量投与時のみ)、ミノマイシン錠(ミノサイクリン)位でしょうかねぇ。

お薬の飲んだ時期による(服用時期)危険度点数

最終月経開始日からの日数

評価点

0~27日<無影響期>

0点

28~50日<絶対過敏期>

5点

51~84日<相対過敏期>

3点

85~112日<比較過敏期>

400

113日~出産日まで<潜在過敏期>

500

総合得点判定とママたまへの通信簿

総合得点

判定

コメント

20~25点

危険

お薬を飲んでしまった事で、お腹の赤ちゃんに問題(奇形)が発生する可能性は、飲まなかった場合と比べて明らかに高くなります。これを理由に、人工妊娠中絶と言う悲しい選択をママたまがしても、決して全員ではないですが、一部の専門家はまあ致し方ないだろうと考えてくれます。

12~19点

警戒

お腹の赤ちゃんが奇形児として生まれてくる可能性は、低いながらもあります。どれくらいかと言われると‥、お薬を飲んでいなくても赤ちゃんが奇形児として生まれてくる確率を1%とすると、これが2~3%程度に上がるかもって位。だから、神に祈るだけで、これを理由に人工妊娠中絶をする事が妥当と考える専門家は誰もいない。

7~11点

注意

お薬の所為で、お腹の赤ちゃんが奇形児として生まれてくる可能性は、絶対ないとは言い切れません。でも、お薬を飲んでいようと、飲んでいまいと、赤ちゃんが問題を抱えて生まれて来る(奇形)確率は、同じか、それと殆ど変わらないかなんです。お薬が市販後間もない新薬であったり、人間様では否定的ではあるが、一部の動物実験で催奇形作用が報告されている為、安全と断言が出来ないだけで、先ずは安全と考えられています。

0~6点

無影響

お薬による赤ちゃんへの催奇形性は、全く考えられませ~ん。赤ちゃんに何か起こる確率は、お薬を全く服用しなかったママたまと同じで~す。

 つまり、お薬自体の危険度点数が0点 or 1点なら、もしママたまが服用しても、取り敢えずは安心って事になりますよね。


 唯、あくまでも、この数式は目安でしかありません。お薬の飲んだ時期による(服用時期)危険度点数を例にとっても分る様に、27日目と28日目のたった1日で、危険度が0点から5点に跳ね上がります。又、赤ちゃんの発育には、個体差ってものもあります。ママたまが飲んでしまったお薬の量や、飲まざる得ない状況に至らしめた元々の病気、不安等の背景にもよってニュアンスを補正する必要もあります。ケースバイケース。不安な場合には、担当の産婦人科の先生にもじっくりと相談して下さい。

 まあ、ビタミンC等の点滴療法(美容通信2008年11月号)や栄養療法(美容通信2007年3月号)、Dua Light(美容通信2006年3月号)、スーパーライザー(美容通信2003年12月号)、保湿(美容通信2007年12月号)を始めとするスキンケアを含めた生活指導等で基礎をがっちりコントロールしつつ、どうしてもって時には、同じ危険度点数が1点なら、その中でも安全性が高いとされる漢方薬や塗り薬で、症状増悪時には対処したいのが、HISAKOの本音かな。

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 生殖器を除いて男と女を差別しない‥と言うか区別すらしない西洋医学に対し、漢方薬は年期の入り方からして違います。2000年以上前より女の子を意識した方剤が誕生し、約1700年前に著されたとされる”金匱要略(きんきようりゃく)”では、25章中3章(”婦人妊娠病脈証并治”・”婦人産後病脈証并治”・”婦人雑病脈証并治”)が産婦人科疾患に割かれています。日本でも、約250年前には女性病学の礎である”血の道”の考え方が確立し、バランス重視の漢方療法は、ホルモンサイクルの変動の中でバランスを保たねばならない女の子にとって、正に、最適な療法の一つとも言えるのです。更に、漢方薬は催奇形性については殆ど問題とならず、この点でも、ママたまの心強い味方です。でも、手放しに漢方薬ならいつ何時でも、何でもござれかと言うと‥、決してそう言う訳ではありません。漢方薬と言えど、薬物は薬物。基本的な細胞分裂が盛んな器官形成期に当る妊娠12週までは、なるべく使わない方が望ましいとされています。
更に、生薬の中には、ママたまには望ましくないとされるものもあります。例えば、桂枝茯苓丸(25)に含まれる牡丹皮や桃仁。これらは、流早産の危険性があるので、添付文書にも、「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しない事が望ましい」と記載がされています。他に、牛膝、紅花、大黄、芒硝、附子末の7つの生薬を含む方剤も、同様に考えられています。しかしながら、従来は、子宮の収縮を齎し、流早産の原因にもなる事があるので望ましくないお薬の筆頭と上げられていた大黄ですが、ママたまの頑固な糞詰まり(便秘)には、やっぱ、無いと無理。比較的作用がマイルドな桂枝加芍薬大黄湯(134)で歯が立たなければ、大黄甘草湯(84)や、うんこを柔らかにしてくれる麻子仁丸(126)等を使っちゃう方が、却ってママたまの負担を軽くしてくれるので◎とされています。
まあ、どちらにしろ、紀元前200年頃に著された最も古い漢方医学書”黄帝内経素問”にも、”症状半ばにして止めるべし”と記載されていますしね。何でも程ほど、深追いせずにが、ママたま漢方の鉄則です。主に、ママたまに使われる皮膚科的漢方薬には、こんな物があります。湿疹や蕁麻疹、ニキビetc.‥万病に効く!

 ママたまは、いつも以上に、湿疹や蕁麻疹、ニキビetc.がどうしても出来やすくなっちゃうんです。妊娠中は大概浮腫みが生じて、謂わば水毒の状態になっているので、これを改善するだけでも、湿疹や蕁麻疹、ニキビ等も良くなるんですねぇ。だから、当帰芍薬散(23)は、全ての病気に効く万能薬であると同時に、ファーストチョイスのお薬♪

 マタニティブルーっぽい蕁麻疹とか、鯖に当った系の食べ物による蕁麻疹とかアレルギーの病気(アトピー性皮膚炎etc.)には香蘇散(70)。

妊娠掻痒症

 妊娠掻痒症とは、皮膚には全く発疹がないにも拘らず、腹や背中等に激しい痒みを覚え、ママたま達が七転八倒する病気。多くのママたまは、理性をかなぐり捨て、欲望の赴くままに血が出るまで掻き毟るとされています。原因は、肝コレステロール症やエストロゲンに関連するとか、肝内胆汁うっ滞の軽症にしか過ぎないとか、胆道圧迫による胆汁うっ滞とか、妊娠中毒症の部分現象とか‥色々諸説ありますが、未だ解明されておりません。さり気なく痒いんなら、当帰飲子(86)。痒くて痒くて死にそうなら、黄連解毒湯(15)。

冷え性・霜焼け

 四物湯(71)・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)

貧血

 貧血の多くは、お母さんの鉄を、お腹の赤ちゃんが洗い浚え根こそぎ搾取した事で起こった、鉄欠乏性貧血。唯、保険で処方出来る鉄って、超吸収率の悪い非ヘム鉄しかないから、カネゴンじゃない普通のママごんだと、結構胃腸障害を来たしちゃうんですよねぇ。それ故に、半夏瀉心湯(14)や六君子湯(43)を鉄剤と一緒に飲んでもらうって作戦です。

便秘

 前述の通り。桂枝加芍薬大黄湯(134)・大黄甘草湯(84)・麻子仁丸(126)・当帰芍薬散(23)

不眠症

 酸棗仁湯(103)・甘麦大棗湯(72)

飲み薬編

性器ヘルペス美容通信2005年7月号

 この性器ヘルペスって病気については、以前特集を組みましたが、問題は、お母さんサイドじゃなくて、お腹の赤ちゃん。新生児ヘルペスって病気が問題となります。凄く稀な病気なんですが、皮膚や目、口腔の病変だけではなく、中枢神経系や内臓の障害、精神遅滞を起こしたり、最悪の場合死に至る事も。統計では、新生児ヘルペスの2、3割の赤ちゃんが死の転帰をとるとの報告もあるんですよ。

 赤ちゃんが感染するルートは幾つか考えられます。お母さんのお腹にいる時に胎盤経由でとか、破水した時に感染しちゃう、生まれる時に産道を通る、つまり経膣分娩の場合なんだけど、此処で感染してしまう等です。

 赤ちゃんへの影響は、お母さんが何時感染したかによって変って来ます。考えられるケースは3つ。

  • 妊娠前に感染していた

 お母さんの体の中で既に抗体が出来ているので、これが胎盤から赤ちゃんに移行して、分娩時に単純ヘルペスから赤ちゃんを守ってくれるの。だから、殆ど新生児ヘルペスの心配をする必要なんてないわね。

  • ~妊娠29週までに感染した

 性器ヘルペスによる先天異常児の報告は、極めて稀。初感染で、重症化した場合、約1割が自然流産するとされています。

  • 妊娠30週からの感染!

 結構、ヤバイです。特に初感染したお母さんの体の中では必死に抗体が作られてはいますが、間に合わない。赤ちゃんをウィルスから十分に守ってあげる事が、出来ないんです。初感染の性器ヘルペスでは、ウィルスの排泄量も多く、正に垂れ流し状態。当然産道も汚染されていますから、経膣分娩の場合この中を通って生まれてくるでしょう? 非常に危険ですよね。だから、一般的には分娩前4週以内の初発、若しくは2週間以内の再発の場合は、帝王切開がお約束。

    因みに、こんな統計も出ています。再発型の妊婦さんから生まれた赤ちゃんの新生児ヘルペス発症率は3%。これに対し、初感染ママの赤ちゃんは30~50%と非常に高率! 周産期の初感染では、赤ちゃんも一緒に、抗ウィルス剤の全身投与が望ましいとされています。データ上、ゾビラックス(抗ウィルス剤)投与に対する催奇形性作用は殆どないとされているし、ね。まあ、産婦人科の先生と相談しながら、抗ウィルス剤については決める事になると思います。抗ウィルス剤の全身投与をママたまが望まなかった場合は‥、塗り薬と併せて、抗ウィルス作用を期待して高濃度のビタミンC点滴療法を行なう場合もあります。唯、ビタミンCの点滴は、瞬発力はあるんだけど、持久力が極めて乏しいのよねぇ‥。ウィルスを捻じ伏せるまで、一定の血中濃度を保っていて欲しいのに‥、難しい!

 年に数回繰り返す性器ヘルペスに対し、再発抑制療法が数年前より日本でも認可されていますが、これについては妊娠を考えた時点で、内服は終了。つまり、出たとこ勝負。神頼みって事ですかねぇ。

帯状疱疹美容通信2006年8月号と水疱瘡(みずぼうそう)

image897 何故かは不明ですが、まず、妊娠中にはならないとされているのが、この帯状疱疹。1万人に1.5人位頻度が極めて少ない上に、帯状疱疹にママたまが罹ったところで、余程免疫力が落ちたヨレヨレ状態のママたまでもない限り、お腹の赤ちゃんに特に問題が起こるなんて事は、まず、なし(と論文に記載されている)。ママたま自体も、重症化したり重篤な合併症を起こすなんて事は、殆どありえないんだそうです。

 それ故に、治療の主軸は寧ろ、痛み対策。勿論、ママたまのお約束事項として、普通は塗り薬がファーストチョイス♪となります。でも、表面的にキシロカインゼリー等の局所麻酔薬を塗ったところで、ホントの話、大して効かない。(←でも、効かないのを承知で、処方する医者も結構多いんですよねぇ(笑)) 帯状疱疹の痛みはもっと奥深く、壊れた神経がささくれ立って痛むのですから、これが修復されない限り、痛くて当然。HISAKOは、ビタミンB12等の内服や、マイヤーズカクテル等の点滴療法(美容通信2008年11月号)に、スーパーライザー(美容通信2007年11月号)を加えて、壊れた神経の修復を図りつつ、抗ウィルス薬の塗り薬を、”どんだけ~っ!?”って心の中では思いつつも、”効果抜群よ!”と暗示を掛けながら塗り込みます。‥これで痛みが止まんないようなら‥、神経ブロックを併用します。この方法は大昔から良く行なわれていて、ママたまでも全く問題なし♪って事が知られています。

 でも、帯状疱疹と同じウィルスが原因でも、超性悪なのが水疱瘡。遥かに頻度が高い上に、流産や死産したり、お腹の赤ちゃんが奇形児になっちゃったりと、兎に角、問題が多い。どうして同じウィルスなのに、性格が天と地かと申しますと、帯状疱疹は完全なる地元民(ジモピー)性格で、遠出は大嫌い。それに対し水疱瘡は、元気な中高年ヨロシク、ホント、旅行が大好き。血流に乗って何処までも、胎盤を乗り越えて、お腹の赤ちゃんまで出掛けちゃうんです(ウィルス血症)。それ故に、お母さんとお腹の赤ちゃんを1セットとして、抗ウィルス薬の全身投与を積極的に行なう事が望ましいとされています。そうなると、産婦人科の先生と、数ある抗ウィルス剤の中でも、一番催奇形性作用がなく安全度が高いと考えられているゾビラックスの全身投与を、行なうかどうかって相談になると思います。唯、抗ウィルス剤の全身投与をママたまが望まなかった場合は‥、抗ウィルス作用を期待して高濃度のビタミンC点滴療法を行なう位しか手はないのかもと思うのですが、前述の通り三擦半野郎。ウィルスって生命体相手とのバトルを考えると‥、ねぇなのです、ねぇ!!

アトピー性皮膚炎美容通信2007年4月号や蕁麻疹美容通信2006年4月号等の痒い痒い病気

 抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の内服は、ステロイド等の外用療法と併せて良く行なわれる、まあ、定番中の定番のアトピー性皮膚炎の治療方法。でも、同じ痒みを伴う病気でも、蕁麻疹って奴は、アトピー性皮膚炎のストロイドを塗って治る、つまり局所的なアプローチで治る病気なんかではないので、痒くて死にそうなんて状況に直面しちゃうと、途方に暮れちゃいます。

 前述の何でもかんでも効く万能薬の漢方薬・当帰芍薬散(23)‥って消極的選択もありますが、帯に短し襷に長し系? 痒くて痒くて死にそうだと‥、掻かない様に、緊縛師に縛り上げてもらうなんて究極の選択もあります。が、一部の好事家か介護施設いざ知らず、中々一般人には踏み込めない団鬼六ワールド(笑)。どうしても、高濃度のビタミンCの点滴(美容通信2008年11月号)とか、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の内服の様な全身投与を考えざる得ない場合も出て来ます。

 抗ヒスタミン剤は、胎盤やお腹の赤ちゃんの脳-血液関門を、楽々と突破します。それ故に、時に、抗ヒスタミン剤の内服により、赤ちゃんが多動や興奮etc.の禁断症状が出現するなんて事も。動物実験では催奇形性や胎児毒性がありますが、人間様では明らかに証明された報告はありません。お薬の性悪度に関する章でも触れましたが、薬剤危険度は殆どの抗ヒスタミン剤が1点です。その中でも、ママたまにとって比較的安全性が高いのは、ポララミン。反対に、2点と考えられている例外的な抗ヒスタミン剤には、レスタミン、アタラックス-P、アタラックス等があります。

 抗アレルギー剤の薬理作用は、抗ヒスタミン剤よりも複雑で、安全性も確立されているかと問われると、今一つ、二つ、三つって感じ。性悪度も、セルテクト、リザベン等、2点のお薬が多いのよねぇ。まあ、抗ヒスタミン剤のポララミンでお手上げって時に、抗アレルギー薬の中でも、動物実験でも催奇形作用や発育障害がないザジテンを選ぶのがお約束かな。

 皮膚科領域で、性悪度が2点であるステロイドの内服をママたまに処方する事は殆どないんだけど、使わざる得ない状況が発生した場合は、胎盤を通過し難いプレドニンが一番ましと考えられています。

塗り薬編

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 塗り薬であっても、製薬会社ってもんはコスト削減~営利主義、責任回避主義なので、添付文書では当然の事ながら、その安全性を保障していません。更に、事なかれ主義が蔓延する日本では、リスクを客観的に評価した基準すら示されていないのが現状で、外国の資料を参考にするしかないんです。

 唯、飲み薬と塗り薬と両者を天秤に掛けると、皮膚科領域で使用する塗り薬なんてもんは、血中移行率は微々たるもので、安全性が高いと考えられています(但し、プロトピックは禁忌!)。特に、ママたまが嫌悪感を露に呈するステロイドの塗り薬だって、同じ。拗らせてしまうより、寧ろ、とっとと使って炎症を早急に沈静化させ、肌のバリアを確保した方が賢明な選択! Dua Light(美容通信2008年11月号)やプラセンタ注射(美容通信2009年2月号)etc.って、心強いステロイド外用剤の援軍だって大勢いますしね。後は再発させない様に、生活指導と併せて、中(栄養療法や点滴療法)と外(保湿)から維持を考えましょうね。


 参考までに、ステロイド外用薬の副作用に関する補足を載せておきましょう。妊婦に対するデータではありませんが、読み方としては、”局所的副作用”=ストロイド外用薬を塗ってママたまのみが被る被害、”全身的副作用”=塗る量が非常に大量な為、内服に準じる。つまり、ママたまとお腹の赤ちゃんに何らかの問題があるかもって、まあ、ちょい乱暴ですが、そう解釈していただけたらと思います。

ステロイド外用剤連用で、局所的副作用が発生し得る予想期間

 *主な局所的副作用:にきび、毛細血管拡張(ステロイド潮紅)、皮膚が薄っぺら、毛がモジャモジャ生える、細菌・真菌・ウィルス性皮膚感染症etc.

 局所作用の強さの分類

予想期間

Ⅰ群(デルモベート・ジフラール・ダイアコート等)

4週間以上

Ⅱ群(フルメタ・アンテベート・トプシム・リンデロンDP・マイザー・ビスダーム・テクスメテン・ネリゾナ・パンデル

6週間以上

Ⅲ群以下

・Ⅲ:エクラー・メサデルム・アドコルチン・ボアラ・ザルックス・ベトネベート・リンデロンV・プロパデルム・フルコート等

・Ⅳ:リドメックス・レダコート・ケナコルトA・アルメタ・キンダベート・ロコイド・グリメサゾン・オイラゾン等

・Ⅴ:プレドニゾロン等

8週間以上

    *上記のうち、青字で記載されたパンデル、プロパデルム、リドメックス等は、局所では生物活性が高く作用するが、吸収され体内に入ると代謝されて不活性化し、全身的な副作用が少ないとされる”アンテドラック”。

ステロイド外用剤連用時の安全期間の目安

部位

局所副作用の強さの分類

安全期間

顔面、頚部、陰股部

全群

2週間以内

その他の部位

Ⅰ群

2週間以内

Ⅱ群

3週間以内

Ⅲ群以下

4週間以内

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 大量投与でも2週間程度の投与期間であれば、例え副腎機能に抑制が来たところで、一過性。塗るのを止めれば速やかに回復するので、ママたまでさえなければ心配ないんですが‥、ママたまなら大事を取って、下記の安全外用量の目安以内に留めておく方が無難ですかね。え? 

gで表示されても量がピンと来ない? じゃあ、左の図を見ておくんなまし。

 Ⅰ群に分類されるデルモベート軟膏なら、1日に10g塗布した場合、血清コーチゾール値を指標にすると、リンデロン錠(0.5g)を1錠飲んだのと同じと考えられています。

ステロイド外用剤塗布で副腎皮質機能抑制が発生し得る予想量

  副腎皮質機能抑制作用の強さの分類

予想量

成人

小児

Ⅰ群

10g/日以上

5g/日以上

Ⅱ群

20g/日以上

10g/日以上

Ⅲ群以下

30g/日以上

15g/日以上

安全外用量の目安

  副腎皮質機能抑制作用の強さの分類

予想量

成人

小児

Ⅰ群

5g/日以上

2g/日以上

Ⅱ群

10g/日以上

5g/日以上

Ⅲ群以下

20g/日以上

7g/日以上


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

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