HISAKOの美容通信2010年7月号
子宮頸がん予防ワクチン
子宮頸がんは、ウィルスによる感染症です。
つまり、予防ワクチン接種で癌の予防が出来るって事なんです。
ガーダシル、サーバリックス等のワクチンをクリニックではご用意しております。
子宮頚癌の予防ワクチンが、昨年の末から国内でも接種可能になりました。
‥HISAKOが子宮癌になったのは、28歳の時。ちょっと進行形だったのもあって、手術の所見からも、病理の組織からも、頚癌だか体癌だか分らない。つまり、原発巣が何処だったのかは分らず終いだったので、果たしてこのワクチンを接種していれば100%子宮癌の、そして続発するリンパ浮腫(美容通信2003年9月号)の発病を防げたかどうかは、本当のところ分りません。が、しかし、もしも、中学生前後の小娘の頃にこのワクチンを接種していたならば、ひょっとして‥と思うと、後悔然り。転ばぬ先の杖であって、転んでからじゃ杖は役に立たないですもんねぇ(笑)。
子宮頚癌は、インフルエンザやイボと同じく、ウィルス感染症である。
子宮頚癌の原因となるヒトパピローマウィルス(Human papillomavirus:HPV)は、パピローマウィルス科に属するウィルス一つ。ヒト乳頭腫ウイルスとも言われ、パピローマまたは乳頭腫と呼ばれる”イボ”を形成することから名付けられました。
先ずは、HPVの似顔絵を大公開!
HPVは世界中どこにでも存在するごく一般的なウイルスで、大きさは50~55nm。エンベロープ(外被)を持たず、正二十面体のカプシド(DNAを含んでいる部分)で覆われています。まるで、そのお姿は紫陽花の花みたいでしょう?
現在分っているだけでも、HPVは100種類以上と結構大所帯。ですが、一族郎党、全員が同じ性向かと申しますと、人間様と同じで、蓼食う虫も好き好き。好きなタイプも違いますし、性悪度も違う(笑)。例えば、上皮が大好きな上皮型は、HPV1・5・8・14・20・21・25・47型。粘膜型は、HPV6・11・16・18・31・33・35・39・41・45・51・52・56・58・59・68・70型です。性悪度が低いとされる低リスク群は、6・11・40・42・43・44・54・61・70・72・81・CP6108型。反対に、極悪人揃いとされる高リスク群は、16・18・31・33・35・39・45・51・52・56・58・59・68・73・82・(26)・(53)・(,66)型です。
まあ、一般的には上皮フェチな輩が多く、夫々種類によって生じる病気も異なります。
- 尖圭コンジローマ:主にHPV6・11型が原因。
- 子宮頚癌:欧米では主にHPV16と18型が原因。日本ではHPV 52型・58型。
- イボ(美容通信2007年6月号):所謂”イボ地蔵”で有名な、皮膚に出来るイボ。ウイルスの種類により、形状・発生場所が異なるんだそうな。
子宮頚癌になれるのは、1%に満たない選ばれた人達だ!
確かに、パーセントで言えば、HPVに感染して、それから子宮頚癌にまで至れる人って、1%にも満たない。ですが、1%にも満たない、つまり滅多にお目に掛かれないウィルスに偶々遭遇して、百発百中のヒットとなるのと違って、ピラミッドの頂点としての1%未満は、ウィルス自体に感染する裾野は極めて広いんです。統計によると、女子の8割が生涯に一度はHPVに感染するとされています。そして、その頂点に立つ子宮頚癌患者のうち、世界中では約2分間に1人が死に、日本では1日に約7人の大和撫子が死んでいます。
当たり前ですが、一種の性行為感染症である以上、一生涯処女を貫けば、子宮頚癌にはならないと言うか、なれません。ですが、子宮頚癌を恐れる余り、所謂フツ~のHを避けてオーラルセックスを励めば、子宮頚癌にはならないかもしれませんが、昨今のアメリカの様に、口腔癌や舌癌、咽頭癌etc.に罹るやも知れません。少子化だって一層進み、更に日本の医療制度が崩壊します(笑)。
建設的且つ常識的選択は、”ワクチン”と”コンドーム”と”検診”の三種の神器を駆使して、如何に楽しいセックスライフを爺婆まで送るかって事ですかね。
HPVが頂点を極めるまでの、険しい道程
HPVに感染するのは、実は、結構大仕事なんです。子宮頸部に於ける主な感染部位は、扁平上皮の基底層です。ここでは細胞分裂が殆ど起こっていないので、ちょっと表皮及び中層の細胞にウイルスが侵入した位では、感染まで漕ぎ着けられないからです。だから、女子の8割が生涯に一度はHPVに感染すると言う事実は、ウィルスの感染力が特に強いからって訳ではなく、単に、非常にありふれたウィルスが故の、下手な鉄砲も数打たら当ちゃった♪の、証明でしかないんです。
下の図を見ながら、HPVが頂点を極めるまでの厳しい道程を辿ってみましょう。
HPVが基底層に感染しても、やがて粘膜組織の新陳代謝と共に、細胞が剥離してしまいます。つまり、例え感染が成立したとしても、その9割は、感染から2年以内に、体の免疫作用によって体の外に自然に排除されちゃいます。その為、CIN1までの”軽度異形成”なら、癌にまで進行するのは5%以下なので、この段階までは治療を要さず、2年に1回、出来れば1年に1回の検査を行いながら、経過観察するのが一般的です。
因みに、CIN1とは、組織学的には扁平上皮の1/3以内に増殖性変化が観察されるもので、HPV感染によって引き起こされた一種の形態変化と考えられています。
選ばれし残りの1割の女子は、ウィルスを体外に排除出来ず、長期感染が続きます。つまり、複数の相手とHをしたらしただけ、関係者が更にその別の関係者へと、ウィルスを介した兄弟・姉妹の輪が拡がる無限の可能性を秘めてます。‥まあ、ありふれたウィルスですから、当然の事ながら、持続感染者だからと言って別に罪悪感を覚える必要なんて全くないんですけど、日本もアメリカの様に、ワクチン接種の適応を女子だけでなく男子まで拡大してくれればねぇ‥と思ってしまうのは、HISAKOだけでしょうか。でも、必殺仕分け人の蓮舫大臣に、コストパフォーマンスの悪さを指摘され、レッドカードは必須でしょうけど(笑)。
性悪な(ハイリスクタイプ)ウィルスに感染したCIN1の3~6%は、3年以内にCIN3に進行します。”高度異形成”と呼ばれるこの段階に達すると、所謂”癌”って奴になっちゃう可能性が、15~20%に跳ね上がります。こうなると、腫瘍性性格を有する細胞群が増殖した前癌病変と考えられるので、婦人科に御紹介。精密検査を受けて確定診断の下、婦人科の先生の指示に従って下さい。
用語の解説になっちゃいますが、組織学的には、CIN2は扁平上皮の基底膜側から2/3以内に、CIN3は上皮2/3以上から全層に増殖性変化が観察されるものです。CIN 2の30~60%がCIN 3に進行すると考えられ、この進行に要する期間は50歳以上では70~80ヵ月、25歳以下では54~60ヵ月なんだそうです。
そして、最後の仕上げが、浸潤癌。組織学的に基底膜を越えて増殖性変化が観察される段階です。浸潤癌の発生は、多くの場合HPV感染から10年以上が経過しています。つまり、癌の成長がゆっくりなので、定期的に検診さえ受けていれば、酷い目に遭わずに済むって事ですかね。
近頃噂の、性悪な”腺癌”
近頃は、世相の悪化に伴って、子宮頚癌界にも、性悪度がずば抜けて高い”腺癌”が増えてるんだそうです。HISAKOの医学生の頃は、試験で子宮頚癌の組織型を挙げよと出題されれば、何の躊躇もなく扁平上皮癌とだけ書けば十分でした。ところが、1960年代には4%前後に過ぎなかった超マイナー系の腺癌が、何故か2002年には21.5%にまで増加! この腺癌、検診では早期発見され難いので、見付かった時は、もう手遅れとは言わないまでも、進行癌。
この性悪な腺癌は、 数ある発癌性HPVの中でも、18型の検出頻度が高い事が特徴とされています。早期発見と治療が、子宮頚癌の組織型を問わず重要とは言え、検診の目をすり抜ける確率が高い腺癌である以上、この18型をターゲットの一つとするワクチンの予防的接種の意義は高い!?
子宮頚癌の予防ワクチンが、昨年の12月に漸く日本デビュー!
昨年の12月、漸く日本でも、グラクソ・スミスクライン社から子宮癌予防ワクチン”Cervarix(サーバリクス)”が発売されました。唯、このCervarixは、全知全能の予防ワクチンではなく、約100種類あるHPVのうちの、子宮頚癌の原因の6~7割りを占める16型と18型をターゲットにしています。有効性認可はありませんが、HPV31・45型などの他の腫瘍性HPV型に対しても、予防効果も示唆されています。
そして、現在承認申請中のものには、万有製薬の”GARDASIL(ガーダシル)”があります。Cervarixと異なり、GARDASILは、尖圭コンジローマと子宮頚癌の原因ウィルスであるHPVの6型、11型、16型、18型の4型をターゲットにした製品です。
両製品共に、欧米では、子宮頸癌予防に大いに貢献出来ると期待されているワクチンではあります。が、欧米ではHPV 16型と18型の割合が多いのに対し、日本ではHPV 52型、58型が多いとされています。ちょっと下のグラフを見て下さい。日本に於ける子宮頚癌から検出されるHPV遺伝子の検出率です。
欧米では、16型と18型の2つが約70%を占め、それ以外の型の検出頻度は高くありません。日本でも、確かに世界の趨勢を反映して(?)、やっぱ16型、18型は多いです。が、欧米に比べると16型の検出率がやや低く、それに対し、52型、58型の頻度が高くて、この4型で72.5%を占めています。更に続く上位の33型、31型、35型を加えた7型を網羅出来れば、ホントは大和撫子も安泰なのですが、ねぇ。因みに、日本に多いHPV 52型、58型も含む九価型ワクチンの販売は、後発のグラクソ・スミスクラインに先を越され、GARDASILの承認すら受けられない万有製薬にとって、未だ未だ治験が始まったばかりで、何時承認されるんだか分んない遠い未来のお話なんだそうです。ちゃんちゃん♪(←あ、2010年7月時点では認可されていませんでしたが、今は認可されてま~す。)
まあ、日本でどの程度欧米型のCervarixが有効なのか、お手並み拝見ってところでしょうか(笑)。
あ、因みに、子宮頚癌だけをターゲットとしているCervarixは、女子限定。これに対し、アメリカを始めとする海外では、尖圭コンジローマも対象疾患としているGARDASILは、男子も門戸を開放! 男子は子宮がない以上子宮頚癌になり得ないとは言え、病気自体が性行為感染症である以上、ピンポンゲームを阻止する為には、本来なら相手である男子のウィルス感染も予防するのが筋ってもの。GARDASILの本家・米国メルク社(万有製薬の親会社)が、きちんと筋を通したのか、はたまたオーラルセックスやアナルセックスがお盛んなアメリカの国情を考慮した為なのか、それとも本当に建前の尖圭コンジローマが適応拡大の唯一の理由なのかは‥、HISAKOには分りません。
子宮頚癌の予防ワクチンの父・Harald zur Hausen博士
子宮頚癌の予防ワクチンの父と呼ばれるのが、右の写真のHarald zur Hausen博士です。子宮頚癌を引き起こすHPVを発見した功績を評価され、2008年ノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツの偉い先生です。彼が、子宮頚癌組織からHPVの16型、18型を分離しなければ、予防ワクチンの開発の道は拓かれなかったとさえ言われています。
もし彼が、ドイツ人ではなくて日本人だったら、日本人に多い52型、58型もカバーしたワクチンが先に承認されたかもなんて、不遜なHISAKOは思ってしまうのですが‥。日本の若き研究者よ、2位でも良いなんて仕分けされずに、ナンバー・ワン目指して頑張ってくれ!
[Harald zur Hausen博士の業績]
- 1980年 尖圭コンジローマからHPV6型・11型を分離。
- 1983年 子宮頚癌からHPV16型を分離。
- 1984年 子宮頚癌からHPV18型を分離。
ワクチンのここが開発の肝!
「一度ウィルスに感染したら、抗体が出来て、再感染なんかしないんじゃないの?」と思う楽観主義者もいるかもしれません。ところがどっこい、帯状疱疹の様なウィルスと違って、この発癌性HPVってウィルスは、近頃の若者気質とそっくりで、広く浅い交友関係が基本。一見人当りは良いんですが、実、は深い関係を構築するのが超苦手で、相手との距離感が上手く掴めず、思い込みからストーカー殺人に発展しちゃうタイプなので、前述の通り、上皮細胞にしか感染しません。つまり浅い、表層の付き合いでしかありませんから、例え自然感染しても、再感染を防ぐ程の獲得免疫を得られません。それ故に、何度でも、同じ型のウィルスにだって感染するんです。懲りないって言えば、懲りないんですよねぇ(笑)。
参考までに、痛い目に遭ってもいつも同じタイプに惚れちゃうHISAKO的性格を、徹底図解しちゃいましょう。下の図を見て下さいね。
つまり、HPVの抗体が自然感染では産生し難いのは、
- ウィルスは、ちっちゃな傷から潜り込みますが、血中には侵入しない節度ある子である。
- 炎症を起こさない。つまり、感染細胞を破壊しない物静かなウィルスなので、間抜けなランゲルハンス細胞に気付かれない。
- 局所の感染に留まっているので、抗原提示細胞との接触機会が殆どない。
そうすると、「ウィルスに感染して子宮頚癌になるなら、感染しなきゃなれないだろう!」と一種開き直るには、この問題をクリアしなければなりません。
そこで、Cervarixの血の出る様な努力を、興味本位で覗いてみましょう(笑)。
Cervarix(サーバリックス)は、こんなワクチンだ!
Cervarixの基本戦略は、パッと見だけはHPVと全く区別が付かないけど人畜無害のそっくりさんを潜入させ、騙して抗体を作らせる。そして、その抗体がすぐへたらない様に、根性と体力を叩き込み、半永久的な忠誠を誓わせる。‥まるで、北朝鮮の工作員を髣髴とさせる戦略です。
Cervarixは血が滴る肉の塊に注射(筋肉注射)するので、抗原提示細胞が十分に反応する事が出来、HPV 16とHPV 18に対する高い抗体価が得られます。血液中に高濃度に存在する中和抗体は、血液中を流れ流れて子宮頸部にも滲出し、ウイルス粒子と結合する事で感染を防御します。但し、お零れとまでは言いませんが、全身性に投与して、体の臓器の極く一部でしかない子宮頚部の粘膜に辿り着く為、1回の接種では十分な抗体価が得られません。3回の接種が必要です。
工作員・Cervarix(サーバリックス)の潜入-洗脳テクニック
Cervarixは、HPV16型と18型の外殻の主な成分である、L1蛋白質から成るウイルス様粒子(virus-like particle:VLP)を隠れ蓑として潜入を図ります。VLPは、元もとのHPVと似ていますが、単に外ズラ(外殻)だけで、その内部に遺伝子がありません。つまりVLPは、HPVのウイルス抗原としての特徴を有しながらも、増殖出来ない為に、全く無害なのです。
下の図を見て下さい。VLPは、中身が空っぽのフェイクでしょ? だから、悪さ(感染)も出来ないんです。
イラクサギンウワバ。学名:Trichoplusia ni 鱗翅目ヤガ科 Last modified。左図の、ちょっとと言うか‥かなりキモいモスラみたいな我が、このハリボテ野郎の核心部分です。イラクサギンウワバは、欧米諸国では古くから害虫として認識されていましたが、日本では発生自体が少なく、これまで害虫として問題視される事はありませんでした。しかし、近年西南日本を中心に、被害が拡大! 一部の有機リン剤やIGR剤による殺虫効果が著しく劣るなど,薬剤感受性に特徴を示すんだそうです。
ですが、捨てる神あれば、拾う神あり。グラクソ・スミスクラインの社員総出で、近くの農家から厄介者のイラクサギンウワバの幼虫を、害虫駆除と称して掻き集め、夜な夜な人目を避けて秘密工場に運び込んでいるんだそうです。グラクソのMRは絶対口を割らないので、HISAKOが勝手に想像しているだけなのかもしれませんが、ね(笑)。
工場の一角では、恐ろしい事に、いたいけなイラクサギンウワバの幼虫を生餌としてバキュロウィルス(Baculovirus)に与え、せっせと繁殖させています。バキュロウィルスは、右の図の様なぬぽ~っとした癒し系のルックスに反し、組換え蛋白質生産の発現系として広く使用されているウィルスです。HPVの外殻の主な成分であるL1蛋白質は、16型、18型夫々、型別に組換えバキュロウイルス発現系を用い、無血清培地を使用して製造します。それ故、ニワトリの有精卵も哺乳動物の培養細胞も使っていないので、鶏卵アレルギーに対するアナフィラキシーのリスクもないし、哺乳動物由来のウィルス感染症のリスクもありません。また、昆虫培養細胞の方が有精卵よりも計画生産が容易なので新型インフルエンザのように緊急性のある生産にも適しています。下の図を見て下さい。
イラクサギンウワバ由来細胞内でL1をコードする組換えバキュロウイルスが増殖すると、細胞質中にL1蛋白質が発現します。そしたら、細胞を破壊してL1蛋白質を遊離させ、一連のクロマトグラフィー及び濾過によって精製するんです。そして精製工程の最後に、L1蛋白質は会合してウイルス様粒子(VLP)を形成するって仕組みなんです。
根性と体力を叩き込め!
ぽっと出の、精製された非感染性のVLPのままでは、任務を遂行出来るだけの根性と体力に欠けます。AS04アジュバントが、強力な免疫増強作用、つまり決して屈しない大和魂をVLPに吹き込むのです。
具体的には、精製されたVLPを、AS04アジュバント複合体及び賦形剤と配合して調製します。Cervarixの製造元のグラクソ・スミスクライン社によると、このAS04って代物は、グラクソの独自開発のアジュバントで、グラム陰性菌(Salmonella minnesota)の外膜の成分を無毒化し、抗原に対する免疫応答を増強する3-脱アシル化-4′-モノホスホリルリピッドA(MPL)と、水酸化アルミニウムからなるんだそうです。ですから、 AS04を含むワクチン(Cervarix)は、Al(OH)3(アルミニウム塩)のみを使用しているワクチン(GARDASIL)より、有意に高い中和抗体価(GMT)を示すんだそうです。データによると、自然感染の12倍以上の抗体価を長期間維持するんだとか。
Cervarixの予防効果は、現時点では、成人女性では最長6.4年間(平均では5.9年間)までが続く事が確認されています(上図:海外臨床試験成績)。ですが、ワクチンを接種する側としては、「6.4年間、それは分った。でも、それ以降はどうなんだ!?」って事が一番の懸案事項なんじゃないかと思います。特に、公費を支払ってでもと言うか、公費を支払う以上、費用対効果が優れるHデビュー前が大半を占める、つまり未感染のガキんちょが大多数を占める小学5、6年生に、欧米各国をはじめとする多くの国ではワクチン接種を行っています(因みに、日本では中学3年生まではHしちゃいました♪率10%以下に対し、高校生になると流石に20%以上に急増しちゃうんです、はい)。12の子供が7年経ったって、未だ19です。65歳の年金受給開始世代なら7年後は現役してるかどうか‥と躊躇するかも知れませんが、19ならバリバリ現役。お盛んなお年頃です。
ですが、予防効果が認められる期間を直接測定する方法なんて、当然ながらありません。ですから、ここからは机上の論理。統計マジック!? 先ずは、下記のグラフ”海外データに基づいたシュミレーション”を見て下さい。
現在進行中のフェーズⅡ試験の6.4年間に亘るデータを基に、3つの統計モデルを用いて、抗体価の持続期間を推計したのが上図です。3つの統計モデルとは、下記の通り。
- power-lawモデル⇒時間経過により抗体価が低下すると仮定したモデル。
- modifiied power-lawモデル⇒抗体の残存と免疫記憶の影響を考慮したpower-lawモデル。
- piece-wiseモデル⇒ワクチン接種後7~12ヶ月、12~21ヶ月、21ヶ月以上の3つの期間に分けて抗体価の推移を検討したモデル。
Cervarix(サーバリックス)を接種しよう。
10歳以上の、Hをしてる若しくは将来Hをするかも♪って全ての女子がターゲットです。現役から身を引いた女性や、一生神に身を捧げると誓った修道院在住の聖処女は、感染する可能性がない以上、金の無駄使いなので対象外となっております。つまり、平たく言えば、一度子宮頚癌に罹患して円錐切除を行っていても、Hを継続する以上、ワクチンを接種する価値はあるって事です。
ですが、繰り返しますが、Cervarixは、万能の神ではありません。子宮頚癌発症のリスクが特に高いとされる16型と18型のHPVの感染を予防しますが、全ての発癌性HPVの感染を予防出来る訳でもありません。それに、単に感染を予防するワクチンでしかないので、接種前に感染している発癌性HPVを排除したり、発症している子宮頸癌や前癌病変の進行を遅らせたり、治療する事は、当たり前ですが出来ません。ですから、ワクチン接種後も、定期的な子宮頸癌検診は必要です。
通常、1回0.5mLを0、1、6ヵ月後に3回、上腕の三角筋部に筋肉内接種します。偶に、いたいけない少女が殆どなんですけど、気分が悪くなっちゃう女子がいるので、30分くらいクリニックでお休みしてから、お帰り下さいね。
たったこれだけで、HPV16型と18型の持続感染、16型もしくは18型が関与する前癌病変(CIN2+、CIN3+)の発症を92.3~100%予防してくれるんだから、多少の筋肉注射の痛みは我慢しないとね。
補足
- 後述で述べる細胞診で、「完全無罪!」ではなくて、執行猶予の判決が下りていたとしても、HPV 16型と18型の両方に同時に感染している可能性は低く、殆どありえな~い! それ故に、16型に感染している人でも18型への予防効果が、18型に感染している人でも16型への予防効果が期待出来るんです、はい。
- 発癌性HPVに感染している人に対してCervarixを接種しても、症状の悪化などは報告されていないので、大丈夫♪
- 他のワクチン製剤との接種間隔は、生ワクチンの場合は27日以上開けてなら、接種OKです。 不活化ワクチンなら6日以上開けてね。
- もしも、Cervarixの接種を開始してから、より対象とするウィルスが多いGARDASILや9価ワクチン等の承認が下り、そちらを希望する場合は、Cervarixの3回の接種を終了後、それらのワクチン接種行なう事は、勿論可能ですし、Cervarixがカバーする16型&18型以外の発癌性及び尖圭コンジローマのウィルスに対する効果も期待出来ます。 単にコストパフォーマンスだけの問題ですので、希望者はスタッフまでお問い合わせ下さい。(←あ、これ2010年7月現在の話で、今は認可されているので、お好みのワクチンをご指定下さい。近頃は、皆、より対象とするウィルスが多いガーダシルが人気だけど。)
- 繰り返しますが、本剤の接種は定期的な子宮頸癌検診の代わりとなるものではありません。
Cervarix接種に加え、子宮頸癌検診の受診やHPVへの曝露、性感染症に対し注意する事は重要です。当院でも、子宮頸癌検診、HPV検査、性感染症の検査等は随時行っております。
- ママたま予備軍及びママたまへ 臨床試験では、ママたまに接種したからって、自然流産とか奇形の発生率は、対象群或いは自然発生群と比較しても、特に有意な違いはなかったんだそうです。ですが、現在のところ、十分なデータが揃ってるって胸を張れる程ではないので、ママたまには申し訳ありませんが、妊娠終了まで接種を延期する方が望ましいとされています。接種後に妊娠が分ったからと言って、別に堕す必要なんてありません。一旦接種を中断して、赤ちゃんが生まれてから、残りの分のワクチン接種を再開するので十分です。
- 授乳中のママについては、安全性が確立されていないので、日本では授乳終了まで待ちましょうと言うのが、厚生労働省の方針。 因みに、アメリカでは接種可能となっています。
ワクチンは万能に非ず。定期健診は重要だ!
繰り返しますが、注意しなければならないのは、ワクチンは子宮頸癌等の定期健診を不要にするものではありません。GARDASILなら6・11・16・18型、Cervarix なら16・18型にしか効果が無く、当然、それ以外のウィルスが原因の癌に対しては、全く抑止力として働きません。そして、ワクチン接種前に既に感染してしまったウイルスによる病変にも、無効。だから、接種後も定期健診は重要なんです。
前述の通り、癌自体の成長がゆっくりな為、早期発見が出来れば、別に子宮頚癌と言え怖くなんてありません。少なくても2年に1回検診を受けていれば、出来れば年に1回、例えばお誕生日は検診の日としてもらえればそれに越した事はないですが、例え1度見逃したとしても、癌になる前に発見が出来、それで命を落とす事は無いとされています。
子宮頚癌の検診は、こんな事をする。
細胞診(PAP検査・スメア検査)
HISAKOのクリニックで行うのは、一次検診って奴で、癌や前癌病変のスクリーニングのみです。子宮頚部及び頚管内をスクレーバーで擦過して、検体を採取する方法で、一般に細胞診(PAP検査・スメア検査)と呼ばれるものです。
細胞診の結果は、べセスダシステム2001に準拠した報告様式で行われます。理解に苦しむところではありますが、産婦人科って科は独特の閉鎖社会で、同じ病態に対し複数の呼び名が平然と混在するカオス・ワールド。HISAKOの様な一般ピープルにはちょっとどころか可なり難解なので、一緒に判定結果と略語、推定される病変(病理診断)、旧日母分類も併記しちゃいました。
- 陰性[NILM(Negative for intraepithelial lesion or malignancy)]
- 推定される病理診断:非腫瘍性所見、炎症
- 従来のクラス分類:Ⅰ・Ⅱ
- 模式図:201007image574.jpg
- 運用:異常なし⇒定期検査
- 意義不明な異型扁平上皮細胞[ASC-US(Atypical squamous cells of undetermined significance))]
- 推定される病理診断:軽度扁平上皮内病変疑い
- 従来のクラス分類:Ⅱ-Ⅲa
- 運用:要精密検
- HSILを除外出来ない異型扁平上皮細胞[ASC-H(Atypical squamous cells cannot exclude HSIL)]
- 推定される病理診断:高度扁平上皮内病変疑い
- 従来のクラス分類:Ⅲa-b
- 運用:要精密検査⇒コルポ、生検
- 軽度扁平上皮内病変[LSIL(Low grade squamous intraepithelial lesion)]
- 推定される病理診断:HPV感染・軽度異形成(CIN1)
- 従来のクラス分類:Ⅲa
- 模式図:image584.jpgimage582.jpg
- 運用:要精密検査⇒コルポ、生検
- 高度扁平上皮内病変[HSIL(High grade squamous intraepithelial lesion)]
- 推定される病理診断:中等度異形成(CIN2)・ 高度異形成(CIN3)・上皮内癌(CIN3) 従来のクラス分類:Ⅲ・Ⅲb・Ⅳ
- 模式図:image580.jpgimage579.jpg
- 運用:要精密検査⇒コルポ、生検
- 扁平上皮癌[SCC(Squamous cell carcinoma)]
- 推定される病理診断:扁平上皮癌
- 従来のクラス分類:Ⅴ
- 模式図:201007image575.jpg
- 運用:要精密検査⇒コルポ、生検
- 異型腺細胞[AGC(Atypical glandular cells)]
- 推定される病理診断:腺異形成又は腺癌疑い
- 従来のクラス分類:Ⅲ
- 運用:要精密検査⇒コルポ、生検、頚管及び内膜細胞診又は組織診
- 上皮内腺癌[AIS(Adenocarcinoma in situ)]
- 推定される病理診断:上皮内腺癌
- 従来のクラス分類:Ⅳ
- 運用:要精密検査⇒コルポ、生検、頚管及び内膜細胞診又は組織診
- 腺癌[Adenocarcinoma]
- 推定される病理診断:腺癌
- 従来のクラス分類:Ⅴ
- 運用:要精密検査⇒コルポ、生検、頚管及び内膜細胞診又は組織診
- その他の悪性腫瘍[other(Other malignant neoplasms)]
- 推定される病理診断:その他の悪性腫瘍
- 従来のクラス分類:Ⅴ
- 運用:要精密検査⇒病変検索
・陰性:1年後に細胞診とHPV併用検査
・陽性:コルポ、生検
②HPV検査を行わない場合は、6ヶ月以内に細胞診検査
もう一度、上図を見て下さい。浸潤癌になる手前の上皮内腫瘍は、従来、「軽度異形成」、「中等度異形成」、「高度異形成」、「上皮内癌」の4つに分けて表記されていました。ですが、「高度異形成」と「上皮内癌」の両者は混在する例が多く、形態学的な鑑別は必ずしも容易ではなく、表層分化の有無の解釈が難しい等々の言い訳を散々した挙句、”これ1個でOK!”って用語を編み出しました。それが、”子宮頚部上皮内腫瘍(CIN:cervical intraepithelial neoplasma)です(笑)。
SILは、子宮頸部細胞診の報告様式のガイドラインを定めたベセスダシステムで採用された用語ですが、最近では組織診断でも用いられるようになって来ています。軽度扁平上皮内病変(LSIL:low-grade SIL)と、高度扁平上皮内病変(HSIL:high-grade SIL)に分類されるんだそうです。HPV感染による細胞変化とCIN1はLSILに、CIN2/3はHSILに相当します。
HPV検査
- ハイブリッドキャプチャー法 細胞診でASC-USだった場合、先ず行うのが、ハイブリッドキャプチャー法。子宮頚癌の見逃しを減らして、より確実性を目指すなら、細胞診と併せて最初から行います。Cuzick先生(Lancet. 2003; 362: 1871-1876)及びLorincz先生(Arch Pathol Lab Med. 2003; 127: 959-968)の論文によると、細胞診だけだと子宮頚癌の発見率は約7割ですが、細胞診にHPV検査(ハイブリッドキャプチャー法)を検診の際に加えると、発見率が9割を超え、見逃しが極めて少なくなるんだそうです。
- PCR法 マニアを目指したいなら、同じHPV検査でも上級者編のPCR法がオススメ。前述のハイブリッドキャプチャー法の13typeに67型をプラスした14typeについて型の特定を行う検査です。
高リスク型とされる13typeのHPV、つまり、16型、18型、31型、33型、35型、39型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型に感染しているかどうかを調べる検査です。アメリカでは、上記の細胞診に加えて、HPV検査(ハイブリッドキャプチャー法)が一次検診の項目として入っていますが、日本では保険未収載。この方法では、型は特定出来ません。
子宮頚癌になってしまったら‥戦うしかない![治療編]
子宮頚癌にまでなってしまったら‥、皮膚科・形成外科を標榜するHISAKOのクリニックでは、もうお手上げ。腕の良い婦人科の先生を御紹介しますので、とっとと手術されちゃって下さい。
”上皮内癌”と呼ぶ初期に見付かれば、ほぼ100%治ります。国内では子宮頚癌の約半数が、この”上皮内癌”で見つかっているんだそうです。手術は基本的に日帰り。子宮頚部だけを円錐状に取り除く処置なので、精々10~20分程度で終了。勿論、手術をしたからって、赤ちゃんを諦める必要はありません。妊娠も出産も可能です。
ですが、癌が3mm以上粘膜の中に入っている場合は、子宮を摘出する必要があります。癌の広がりが大きければ、子宮の周りの組織やリンパ節も取り除かねばならないので、オシッコがし難くなったり、リンパ浮腫が起こって象さんの足になったりと、兎に角碌な目に遭わない。更に進行すると、放射線治療と化学療法を組み合わせる、ほぼフルコースメニューとなり、髪の毛はなくなるは、飯は吐くは、それでも漸くシャバに出られたと思ったら、やれ白血球が少ないからとクリーンルームに引き戻されるは、足は浮腫むは、挙句蜂窩織炎を繰り返すはと、HISAKOの様に踏んだり蹴ったり状態に!?
まあ、HISAKOは、Adeno-Squamous cell carcinomaって奴で、癌が分った時には赤ん坊の頭位の大きさに成長していて、原発巣が子宮頚癌なのか体癌なのかすら分らなかったし、第一、主治医の教授がこの組織型を治療した経験がなく、症例報告を持って来て、「これでやってみようと思うけど、どう?」 「私も、こないだ図書館で同じ論文、コピって持ってます。」でした(笑)から、論文通り、”先に音を上げるのは、癌か? 患者か?”的治療だったのもあるんですけどね。それで命拾いした訳ですから、文句は言えませんけど。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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アンチエイジング医療に於ける<総合ホルモン検査と治療について>です。