HISAKOの美容通信2020年2月号
イボは、何故、再発するのか?治らないのか?
医学的なイボは、ヒト乳頭腫ウィルス(human papilloma viraus/HPV)の感染で起こる疣贅の事ですが、巷で言うイボは、ウィルス性のみならず、脂漏性角化症等の良性の腫瘍や痒疹等の炎症性の疾患までと、何でもかんでも十把一絡げ的に、皮膚から小さく突出していれば、”イボ”なんです。時には、有棘細胞癌もイボのお仲間に入っている事すらあります。
ウィルス性のイボは、時々治療に難渋する症例があります。中々治りませんし、治ったと思いきや、再発したります。が、時に勝手に自然消褪してしまう…全く自由奔放気まぐれな側面を持っています。
Wikipediaによれば、蛸薬師は、日本に於ける伝承信仰。京都や東京の蛸薬師が知られていますが、伝承自体は愛媛県、千葉県、神奈川県、福井県、兵庫県、大阪府、岩手県、埼玉県、栃木県、静岡県、山形県等々と全国各地に存在します。その由来は地方によって様々ですが、身の危険を感じると墨を吐く習性のある蛸は暗闇でも見える目を持つ生き物とされ、これにあやかって眼病を治すと言われたり、吸盤によって吹き出物や疣を取り払う効能があるとされています。
イボ(美容通信2007年6月号)って概念からは逸脱しますが、足底表皮様嚢腫やボーエン病の一部もHPV感染症ですし、ボーエン様丘疹やHPV陽性ボーエン病からは、子宮頸癌(美容通信2010年7月号)と同じHPV型が検出されます。つまり、これ等は皆、ざっくり言えば、病因を同じくする一つ穴の狢でしかないって事なんです。イボ達は、HPVの型によって、例えば、HPV3/10/28なら扁平疣贅、HPV6/11なら尖圭コンジローマ、HPV63なら点状疣贅(しろいぼ)等々と、色んな病型によってその臨床像が運命付けられ、夫々の時間経過や、何処に出来たか、患者さんの基礎疾患や免疫低下等により、非典型的だったり、重症化したり、なかなか治らない難治性、悪性化等の変化をしているに過ぎません。それどころか、一見正常にしか見えない皮膚や粘膜から、明らかな病変部位と変わらない多彩なHIV型が、それも高頻度に検出され、不顕性と言うより、最早、常在ウィルス的存在なんです。でも、同時に、免疫的機序により、HPV感染の、宿主による制御がここに掛かるので、自然にイボが治ってしまう(自然消褪)なんて事も往々にして起こるのです。
HPVの病原性
HPVは、各々のHPV型が非常にニッチな進化を遂げ、環境に最適なライフサイクルを築き上げたウィルスです。そして、その病原性と言うか…性悪度?極悪度?とでも言いますか(笑)は、ウィルス側因子(ウィルス遺伝子、更には、その遺伝子がコードする蛋白質の機能や発現制御の違い)で全てが決まる訳ではなく、宿主側の因子、つまり、宿主の遺伝的な背景、感染してしまった細胞や免疫能の違い等々にも大いに影響を受けます。
つまり、ある患者さんの、ある部位にイボが出来てしまったとします。それは、単にHPVに感染してしまった事だけではなく、イボの発症(感染の顕性化)を許してしまった=付け入る隙を提供してしまったと言う、宿主側要因もあるって事です。イボの治療に於いて、病変の成立を許した要因に対する介入なしに、治療は成り立たちません。
現在240種以上のゲノム配列が同定されているパピローマウィルス(PV)は49属に分類されていますが、そのうちの5属(HPV)しか、人間に感染する事が出来ません。つまり、人間限定でって進化してしまったので、今更、HPVは、サンショウウオにも猫にも感染出来ないどころか、夫々のHPVは、尋常性疣贅、扁平疣贅、尖圭コンジローマや子宮頸癌等々と、型ごとに異なる特徴(発症分布、感染標的細胞、臨床・病理組織学的形態変化や転帰etc.)を呈した感染病変を示します。
多様性と型特異性
イボの「多様性」と「型特異性」と言うとピンと来ないかも知れませんが、端的に言うと、トヨタ顔負けのかんばん方式(笑)。無駄を完全に排除して排除して…まあ、種の進化だけでなく、体毛や汗腺の発達等、極めてニッチな進化を遂げたって事です。
*カタカナ語の解説「ニッチ」とは ASCII.jpデジタル用語辞典の以下抜粋です。ニッチとは、「隙間」の意味です。大企業がターゲットしない様な小さな市場や、潜在的にはニーズがあるが、まだビジネスの対象として考えられていない様な分野を意味します。大企業は収益が低いとの理由から、ニッチに手を出さない事が多い為、中小企業やベンチャービジネスが参入し、確固たる地位を築く事が可能な領域と言われています。ニッチを狙って、利益を上げようとする戦略を「ニッチ戦略」といい、戦略に成功し、ニッチでトップシェアをとった企業を「ニッチ・トップシェア企業」と呼びます。 86って車をご存知でしょうか? トヨタ自動車がSUBARU(旧・富士重工業)と共同開発したFRレイアウトのスポーツカーです。トヨタとしてはスポーツ800(ヨタハチ)以来となる水平対向エンジンで、このグレードはエアコンや一部内装パーツ、更にバンパー塗装すら省かれており、他のグレードとは違い、写真のように購入後カスタムする事が前提の「素材」と割り切った商品でした。しかし、RCは兄弟車のスバル・BRZ(同様の「RA」は「R Customize Package」として内容を変更し存続)とは対照的に、既に消滅しており、ニッチ市場攻略の難しさの例として良く挙げられます。 |
また、イボのライフサイクルも、そのイボ達が選択した戦略によって様々です。比較的短時間に増殖性病変を形成した挙句に、大量のウィルスを産生したが故に、最終的には「出る杭は打たれる」…まあ、言うなれば自業自得型で、疣贅がこのタイプ。反対に、何らかの目障りな症状も呈さないまま≒無症候性に、長期に亘り、地味に少量のウィルスを生産し続けるというタイプまで、実に多彩。
部位によって性質は異なれど、上皮って限定された棲息場所に於いて、自らのニッチ(子孫繁栄に適応した微小環境!)として、異なった繁栄戦略を極めた結果の現れが、パピローマウイルスの「多様性」であり「型特異性」なんですね。
重層扁平上皮の分化と連動したライフサイクル♪
ニッチを極めたHPVですが、イボのお仲間である以上、お仲間の定義と言うか大枠は、全ての型で共通しています。重層扁平上皮が彼らの共通する舞台(感染標的)であり、そのライフサイクルは重層扁平上皮の分化(角化)に連動しています。
HPVの感染期間は、短いものでも数ヶ月、長いものは数年或いは一生涯に亘って感染し続けます。これは、HPVが狙うのが、そんじょそこらの下っ端なんぞではなくて、上皮基底層にある組織幹細胞的性質を有した、そこそこのお偉いさんでなければ出来ない芸当です。(しかし一説には、単なる基底細胞に憑りついても、その細胞がゾンビ化して寿命が延び、組織幹細胞的性質を有するんだとか…。真相はまだまだ闇の中です。)
まあ、どちらにしろ、感染した細胞が基底層にいるうちは、子宝に恵まれた子孫繁栄なぞ望まず、その細胞の分裂に応じた必要最小限のウィルスゲノムの複製を行って、家系が途絶えなければ良い位の、地味な状態を維持しています。しかし、一旦細胞が基底層を離れ分化が始まると、それを機に、ウィルスも突如として目覚め、ウィルスゲノムの増幅と子孫ウィルス粒子の産生を猛然と開始します。この様な細胞の分化に連動した複雑なライフサイクルは、比較的少数のウィルス遺伝子とライフサイクルの各ステージに応じた精密な発現制御によって行われています。
現行のHPVの分類は、実はまだまだ不完全!
現行のHPV分類は、単純なDNA配列によってなされていますが、大まかには、病原性との対応関係は明確に説明は出来ます。唯、「総論賛成・各論反対」の土壌の所為か(笑)、例えば同じ16型に感染したからと言って、全てが癌化する訳ではない(大部分は、宿主の免疫能によって排除されてしまいます!)し、感染場所が子宮頸部なのか皮膚なのかによっても、子宮頸癌かボーエン病かでは随分と異なります。…つまり、まだまだ、研究が進んでいる極く一部の型以外は、ウィルスゲノムのDNA配列以外は情報に乏しく、生物学的評価は殆どなされていないのが現状です。
多様性「明らかな(顕性)感染」と「全然感染している事すら気付かれない(不顕性)感染」と言う二面性
昨今のPCR/シークエンス技術の進歩に伴って、HPV-DNAが明らかなイボ!の様な病変部からだけではなく、一見何の変哲もない免疫能が正常な一般集団の皮膚や粘膜表面、毛包、うがい液等々からも検出される事が分かって来ました。つまり、肉眼では見逃してしまう程度の微小病変若しくは潜伏感染に由来するDNAであり、目に見えてイボ!と分かる様な増殖性病変を伴う感染は、HPV感染の中での一局面に過ぎないんですね。
HPVの病原性を規定する因子とは?
病原性とは、ウィルスに憑りつかれてしまった人(宿主)と病原体との間の、謂わば、綱引きで決まります。尤も、ウィルスの遺伝子型や感染標的細胞の種類、宿主の遺伝的な背景や免疫能等々の様々な要因が絡み合っており、中々一筋縄ではいかない綱引きではありますが。
■高リスク粘膜型HPV感染(子宮頸癌)
- ウィルス遺伝子の機能の違い
一部のHPVが子宮頸癌(美容通信2010年7月号)を生じさせる理由の一つには、ウィルス遺伝子のコードする蛋白質の機能の差があります。基本的に癌化したHPV感染病変で出現するウィルス遺伝子にはE6とE7があり、癌細胞の増殖自体、この2つの遺伝子に依存しています。ところが、同じウイルス遺伝子のE6、E7でありながら、高リスク粘膜型HPVと低リスク型HPVでは、その機能には大きな差があります。高リスク型では、E6、E7を発現させさえすれば、癌化に必要な多くのステップ(例えば、細胞の不死化、異常増殖、アポトーシスの抑制、分化抑制、免疫応答抑制、遺伝子変異の促進や蓄積の寛容etc.)を容易にクリア出来るのに対し、低リスク型のそれには、癌化させる機能がないか、若しくは不十分な形でしか持ち合わせていないそうです。
しかしながら、冷静に考えてみると、HPVとって癌化するメリットって何でしょうか? 分かりません。低リスクHPVは、癌化しなくったって、感染し、寧ろ高リスク型以上に子孫繁栄をしています。それどころか、癌化した病変は、一般に子孫ウィルスの産生を伴わない不全感染です。イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスは、「利己的な遺伝子」という仮説を唱えています。遺伝子の戦略は、私達を支配しつつ、殺せ、食らえ、セックスせよ、生み殖やせと命じ、そして私達とは、遺伝子そのものが生き延びて行く為に乗り継ぎ、乗り捨てられて行く、唯の乗り物に過ぎない、と。つまり、癌化する事は、唯一無二の使命とされる遺伝子の揺り籠≒子孫繁栄を妨げるものでしかなく、ウィルスにとってメリットがあると思えません。きっと、高リスク型HPVの持つ癌化に有利な諸機能は、癌化って目的の為に獲得したとは到底考え難く、未だ解明されていない真の目的が隠されているのでしょう。
- ウィルス遺伝子の発現制御の違い
高リスク型HPV感染と言っても、実は、ほぼ全ての人が一生に一度は感染する位のありふれた代物で、しかもその殆どは不顕性か、一過性の病変を生じても勝手に自然消褪してしまいます。癌化にまで至るものは、感染を持続出来る非常に少数派の一部にしか過ぎません。持続感染の過程で、「ウィルス遺伝子の発現がキチンんと制御され、子孫ウィルスの産生を伴う正常なライフサイクル」から、「E6、E7のみが異常高発現して、子孫ウィルスを産生しなくなる不全感染」に舵を大きく切って、初めて癌化への道が開かれるからです。
- 感染細胞の違い
HPVがどの細胞に感染したかも、重要な因子となります。子宮頸部には、感染するとウィルス遺伝子発現異常を起こしやすい特殊な細胞(cuboidal cells、reserve cells)が存在しており、これが癌へと進行し易い不全感染の発症母地になりうるのではないかと考えられています。
■疣贅状表皮発育異常症
AFP(2019年6月24日)によると、手や足に木の皮のような巨大なイボが生じ、「ツリーマン(樹木男)」と呼ばれるバングラデシュ人男性、アブル・バジャンダル(Abul Bajandar)さん(28)が24日、耐え難い痛みから解放される為に、両手を切断してほしいとの希望を明らかにしたそうです。バジャンダルさんは2016年以降、ダッカ医科大学病院で25回のイボ除去手術を受けました。担当医らは治療が成功したと考えていたが、突然イボが再発し、バジャンダルさんは昨年5月に病院から逃げ出していました。しかし症状が悪化し、中には大きさが5センチを超えるイボも出来た為、今年1月に再入院しました。バジャンダルさんはAFPに対し、「痛みにこれ以上耐えられない。夜も眠れない。少しでも楽になれたらと思い、両手を切ってほしいと医師らに頼んだ」と明かしました。バジャンダルさんの苦境は国の内外で報道され、これを受けてシェイク・ハシナ・ワゼド首相は、バジャンダルさんに治療費を無料にすると約束しているそうです。
最近話題になった「ツリーマン(樹木男)」も、この範疇に入る疾患です。一般的なフツ~の免疫集団では、無症候性HPV感染は良くコントロールされた感染状態を意味し、病原性を問われる事はありません。しかし、それはあくまでもフツ~の人の話であって、免疫不全患者さんや特殊な遺伝的背景の下では顕性化し、癌とも関連する事が分かっています。宿主側の要因と一刀両断してしまうのもなんですが…。
■再発性喉頭乳頭腫症
低リスク型でも、前述の「ツリーマン(樹木男)」の様な疣贅状表皮発育異常型と同じで、宿主側要因により、ウィルス遺伝子の発現抑制やライフサイクルのパターン変化に伴う病原性の変化と考えられています。
皮膚の感染防御機構
皮膚は、塞外!(外界)からの侵入者の侵入を阻止する、万里の長城の様なバリア組織です。2つのシステムで構築されており、1つが物理的なバリア。もう1つが免疫のバリアです。ですから、HPVが感染し、且つ感染し続ける為には、この2つのバリア機能を巧みに掻い潜る力量!がなければならないんです、ね。
皮膚の物理的なバリア
物理的なバリアは、3つの機構で構成されています。1つは、表皮最外層の”角層”で、20~30μm程の薄い膜ですが、生物が水中から空気中へと移動をした際に身に纏った鎧であり、皮膚の物理的バリアの最も重要な構成物でもあります。2つ目は、角層の内側にある顆粒層に存在する”タイトジャンクション”。角層が損なわれた際の第二の防波堤ですが、粘膜上皮や皮膚付属器(毛包脂腺系)では角層がないので、一次的な防衛ラインとして働きます。タイトジャンクションは、分子量1000以上の物質の侵入をブロックします。この2つの静的な物理的バリアに対し、第3のバリアが”表皮のターンオーバー”で、動的な制御をしています。物理的、化学的に細胞障害を受けやすい表皮では、どんどん新しい細胞に入れ替えるポイ捨て戦略、それも、細胞増殖するのは通常基底層のみですから、否が応にも、基底層から角層への一方通行の細胞の流れ(epidermal flow)が形成され、異物や病原体の排除に繋がります。
■物理的バリアとHPV感染
HPVが感染する為には表皮の基底層に、そして感染を維持する為には、その中でも幹細胞にウィルス粒子が到達しなければなりません。つまり、”角層”と”タイトジャンクション”の2つの物理的タックルを巧みに躱すだけの力量がないと、感染には至れないのです。
しかしながら、前述の通り、タイトジャンクションは分子量1000以下、角層では更にそれ以下の物質しか通過出来ません。HPVのウィルス粒子の大きさは直径55nm、分子量数100万以上ですから、どう考えても、正常な皮膚表面に付着したところで、ターゲットである表皮幹細胞まで辿り着き様がないんです。指先のさかむけや皮膚の擦り傷等の傷、つまり、角層だけじゃなく、タイトジャンクションまでの深さの損傷!がないと、話にならない事になります。…しかし、そんなに全部が全部、微小外傷部からだけイボが発生すると断言しちゃうのは…、流石に暴言以外の何物でもないでしょう(笑)。
更にですよ、掌や足の裏に出来るイボの中には、汗管から生じる輩がいます。そしてそのイボが成長し、角質細胞の剥離と共に周囲にウィルス粒子が飛散されると、再びその周囲の汗管から、続々新しいイボが発生して行きます…。ん? タイトジャンクションを突破出来る、何らかの裏技を実は隠し持ってるって事? …未だ、謎です(←今の医学は、ある意味そんな程度とも言えます)。つまり、物理的なバリアの面から有効な手(治療法)を打つには、未だ時期尚早って事なんですね。後述する、免疫バリアの活性化を利用した治療法の方が現段階では現実的で、実際、既に行われています。
皮膚の免疫的なバリア
HPVが感染ターゲットである表皮幹細胞に目出度到達しても、感染を維持する為には、今度は免疫バリア(自然免疫と獲得免疫)を掻い潜る必要があります。皮膚には様々な免疫細胞が常駐若しくはリクルートされ、物理的なバリアを突破して侵入して来た病原体を、捕捉、排除しています。HPV感染症は表皮内に限局した感染症なので、表皮内のランゲルハンス細胞及びHPVの感染ターゲットである表皮角化細胞(ケラチノサイト)の働きが、免疫バリアの初動に重要と考えられています。
免疫バリアの活性化を利用した治療法としては、イミキモド外用療法(美容通信2013年10月号)が代表的ですが、接触免疫療法や活性ビタミンD3(美容通信2013年3月号)製剤、レチノイド(美容通信2005年2月号)等を用いたイボ治療でも、恐らく局所の炎症を惹起する事や自然免疫の活性化を介して、ウィルスの排除に働いていると思われます。これ等の治療法がで、どの細胞がどういう分子メカニズムで活性化されているのかの詳細が分かれば、将来的に、より効率的な治療法の開発に繋がると思われます。
■自然免疫
自然免疫とは、免疫記憶に頼らずに、自己と病原体を区別する免疫システムです。
以下、用語解説になります。
- PRRs
PAMP(pattern-associated molecular patterns/病原体関連分子パターン)とは、自己にではなく病原体に共通してみられる事の多い分子パターンの事です。PAMPは、細胞表面やエンドソームの膜上に発現するC型レクチン受容体、Toll様受容体、細胞質に発現するNOD様受容体等の、PRRs(pattern recongnition receptors)によって認識されます。これにより、IFN-αやINF-β等のⅠ型インターフェロンの産生やインフラマソームの活性化が起こり、IL-1βの産生へと繋がります。HPVが、これ等のPRRs経路の活性化を、どの様に掻い潜っているかは未だ不明ですが、E6やE7等のウィルス蛋白質が、PRRs経路の下流にいるIRF蛋白に直接結合して、シグナル伝達を抑え込んでいる等々の行状を働いているようです。
- DAMPs
DAMPs(damage-associated molecular patterns/ダメージ関連分子パターン)とは、細胞死や細胞の損傷等、細胞のストレスに伴って放出される分子であり、ケラチノサイトサイトからの放出は、感染部位の免疫応答の開始に於いて、非常に重要なステップとなります。しかしながら、HPVは、ケラチノサイトの特性を上手く利用して、巧にこれ等のDAMPsの産生を回避しているのです。
■獲得免疫
獲得免疫とは、免疫記憶により、抗原特異的に迅速且つ強力な免疫応答を働かせるシステムで、獲得免疫の獲得!が大前提となります。ところが、獲得には活性化した樹状細胞によるナイーブT細胞への抗原提示が必須なんですが、HPVは、この樹状細胞の活性化に必要なPRRs経路の活性化を抑え、且つDAMPsを放出させないって、鉄板!の小細工をするんです。全くもって、小賢しい野郎です(笑)。これじゃあ、獲得免疫が発動しようもありません! …とは申しましても、何かの切っ掛け(←肝心のどんな切っ掛けが、が、未だ分ってませんが…)でスイッチが入って獲得免疫が発動されると、ウィルスの駆除や感染防御がなされます。自然消褪って奴です。
勝手に治る(自然消褪)
イボは、基本的に自然消褪する病気で、2~6ヶ月で35%、1年以内に35%、2年以内に67%の患者さんで自然消褪すると言うデータがあります。その一方で、数十年以上も変化が認められず、又、あらゆる治療に対し抵抗性を示す事もあり、個人差が極めて大きいとされる病気でもあります。近年、HPVの常在ウィルス的性格が明らかになって来ており、難治化や重症化の理由は勿論の事、イボを発症する事自体の理由(常在ウィルスが、時として病原性を発揮する!)も考慮する必要があります。
治療方法の如何に依らず、治療効果は、宿主自身の持つ細胞免疫を主体とした免疫学的感染防御システムが、いかに効果的に作動するかで決まると考えられており、自然消褪は、このシステムが極めて効果的に発動された時に起こります。この様な自然消褪のメカニズムを人為的に誘導する事が、イボ治療にとって非常に重要で、尖圭コンジローマ治療薬であるイミキモド外用療法(美容通信2013年10月号)や接触免疫療法を始め、シメチジンやヨクイニンエキス剤内服療法(美容通信2007年6月号)等が、これに相当します。広い意味では、液体窒素凍結療法、電気凝固法、レーザー療法や活性型ビタミンD3(美容通信2013年3月号)外用療法等も含まれます。
治療方法
イボの治療戦略
手や足の指にわんさかイボが出来る場合は、殆どが隣り合う指趾間の直接的な接触感染ですし、共用のスリッパを介して足裏のイボが拡がったとか、おむつ介助する人の多い高齢者介護施設では、尖圭コンジローマになる人が大勢いるとか等々、物を介しての間接的に被害が拡大します。因みに、自家接種とは、手足に出来たイボをいじくってた手で、鼻の孔ほじってたら感染ったって奴。
- HPVは正常皮膚粘膜上皮には感染しえない。つまり、付け入る隙間(微小外傷)がない事には始まらないんです。感染予防は、先ず、日頃のスキンケアです。
- HPVの潜伏期間は平均3ヶ月程度とされていますが、実際には数週から数年と一定していません。しかし、正常皮膚や粘膜に於いて、HPVの潜伏感染や不顕性感染が多いのも事実ですから、感染機会を特定するなんて、無理!無理!
- HPV感染標的や潜伏感染部位として、基底細胞以外に、毛包やエクリン汗腺等の皮膚付属器の可能性が指摘されています。イボの病変部分だけでなく、周囲の正常皮膚にも、実はHPVが潜伏感染しています。
取り残しなく基底層まで外科的に抉ったはずのイボが、いとも簡単に再発を繰り返すのは、一見正常と見える皮膚に潜んでいるだけでなく、下床の付属器に息を潜めて潜伏しているHPVが、再発病変の供給源になっているからなんですね。特に、液体窒素療法や、電気凝固、レーザー治療等の、創傷治癒機転(細胞増殖活性の亢進!)を必然的に伴わざる得ない組織破壊的治療では、ドーナツ疣贅と言う、原病巣のあった部位を取り囲むように、輪っか型に再発する事がままあります。
- 組織破壊的疣贅治療の治癒メカニズムには、目的の組織破壊的機序に加えて、組織破壊に伴う炎症反応(免疫賦活)が重要な役割を果たしています。
前述の様に、組織破壊的治療を行ったところで、潜伏感染を含むHPV感染の全てを排除するなんて出来ませんから、治療効果は、寧ろ、組織破壊のオマケとしての免疫賦活の程度次第って事になります。不十分な免疫賦活では再発を免れませんから、止めを刺す為には、免疫学的治療の併用もありです。
- 尋常性疣贅、扁平疣贅、尖圭コンジローマ等のイボの臨床病型の違いは、主に原因となるHPV型の違いによります。臨床病型の違いにより、好発年齢、感染経路、自然経過や治療に対する反応性が異なります。
幼少児に多いミルメシアは、どんな治療法に対しても良く反応するので、敢えて痛い液体窒素冷凍凝固法を選択する必要なんてありません。尖圭コンジローマやボーエン様丘疹症に至っては、性感染症でもあるので、性的パートナーも含めた治療を考えないと、感染(うつ)して感染(うつ)されてのエンドレスになりかねません(泪)。
- イボの臨床像には、免疫状態や発症部位等の宿主(患者)因子、病変の新旧、既治療等の様々な因子が影響します。
極端な多発例や重症例、難治例では、免疫不全を来たす基礎疾患が往々に隠れていたりします。
- 扁平疣贅に酷似する病変の疾患に、遺伝性高発癌性の疣贅状表皮発育異常症があります。ツリーマン(樹木男)です。
- HPVは表皮角化細胞の分化と連動したライフサイクルを有しており、感染力のあるウィルス粒子は分化の進んだ細胞でしか産生されなので、感染拡大の阻止には、ウィルス粒子の産生が活発化する前の、なるべく早期に行うべきなんですね。
- 治療後の再発は、足裏のイボの場合、液体窒素凍結療法で治癒!と判定した後、平均7.8ヶ月(1~26ヶ月)で19.6%が再発するそうです。尖圭コンジローマでは30%程度で再発しますが、25%は3ヶ月以内の再発だそうです。
- 疣贅の診断、鑑別診断や治癒判定には、ダーモスコピー(美容通信2008年3月号)が有用です。
治療によってイボが消失し、指紋や足紋等の皮膚紋理が復したのを確認して、取り敢えず!治癒とは判定します。が、前述の通り、羊の皮を被って(いや、ベルナール・アルノー会長ではありませんが、カシミヤを着た狼?)息を潜められちゃうと、流石のダーモスコピーでも、もうお手上げ。分かりません。
- 信じる者は、救われる(笑)。でも、ホント。
作用機序別にみた主なイボ治療方法
物理的治療法に分類される液体窒素凍結療法や、化学的治療法に分類されるグルタルアルデヒド外用療法は、免疫学的治療法にも分類されます。1つの治療方法が、複数の作用機序の合わせ技!なんて事は良くあり過ぎる話。それどころか、治療方法を複数併用する事すらあるんです。
因みに、保険適応には○印付いています。
■物理的治療法
メスやハサミを用いた外科的切除(イボ剥ぎ法含む)○、凍結療法○や電気凝固○等の温度効果、光線力学療法、超音波メスやレーザー等の有する物理的作用で除去する方法等。
■化学的治療法
サリチル酸○、グルタルアルデヒド、モノクロロ酢酸、トリクロロ酢酸やフェノール等の化学物質による、種よして蛋白変性作用(化学凝固)を介した組織破壊的治療法です。治療用剤は、極めて強い腐食剤や医療機器消毒薬、研究・工業用薬品で、本来は人間様に使う代物ではないのを、敢えて承知で転用しているお薬達です。
■薬理学的治療法
活性型ビタミンD3外用、ブレオマイシン局注、フルオロウラシル(5-FU)外用/局注、ポドフィリン/ポドフィロトキシン外用、レチノイド外用(美容通信2005年2月号)/内服(美容通信2011年4月号)、尿素軟膏外用等です。本来はイボ治療薬ではありませんが、その薬理作用を考えれば、イボ治療に十分応用が可能な物達です。
■免疫学的治療法
イボには自然消褪があり、主にそれは腫瘍免疫的機序によるものです。ヨクイニンエキス剤内服○(但し、尋常性疣贅と扁平疣贅のみ保険適応)、シメチジン内服、イミキモド外用○(但し、尖圭コンジローマのみ保険適応)、接触免疫療法、インターフェロン局注等が、免疫的機序の惹起目的に使用されます。これ等以外の多くのイボ療法と称される治療法も、多かれ少なかれ、免疫的機序の側面を有しています。
イボの治療の実際
イボの治療に対する反応は一種独特で、暗示でも治ってしまう(プラセボ効果)なんて事も結構ザラにあります。3ヶ月以上全然治る気配のない治療法を続けたところで、好転するなんて事はあまり考え難いので、治療方法を変えるっていうのも手です。しかし、その治療法が本当に合わないんじゃなくて、意外にも、施術者を変えるだけでも、その治療に反応するなんて事もあります。目先を変えるだけで、イボはちょろまかされちゃうって側面があるのです(笑)。…なんか…我が家の飽きっぽい猫連中の餌の話をしているような錯覚が…。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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