HISAKOの美容通信2026年12月号
更年期以降の婦人科のお悩みに応える4つの漢方薬|人参栄養湯/ウチダ八味丸M/加味帰脾湯/抑肝散加陳皮半夏
更年期以降のご婦人のお悩みに応える漢方薬を、4つ提案します。1つは、人参栄養湯。閉経によりエストロゲンの分泌低下し、私達の膣内の健康を守ってくれるラクトバチルス乳酸菌の数が激減すると、性行為感染症や膣カンジダ症、尿路感染症、骨盤内炎症等を繰り返すようになります。人参栄養湯は、子宮内/膣内の細菌叢の正常化を助けてくれます。2つめは、GSMの性器尿路愁訴に対する、ウチダの八味丸M。3つめが、加味帰脾湯。抑うつ不安を合併しためまいで、睡眠障害を伴う症例の改善に効果的とされています。4つめが、日中の堪らない眠気に、抑肝散加陳皮半夏。
更年期にみられる症状は、非常に多彩で個人差がある為、症状に合わせてホルモン補充療法、漢方製剤、抗うつ薬等が選択されます。中でも、漢方製剤は、様々な生薬が組み合わさっている為、一つの製剤で複数の症状の改善が期待出来ます。漢方から見た更年期の特徴としては、月経が不順から停止する事により瘀血、加齢に伴う腎虚、自律神経失調に伴う気逆、自分の事を後回しにして頑張ってしまう事により血虚が生じやすいとされています。
子宮内/膣内細菌叢がラクトバチルス優位ではなかった( ;∀;)時に:人参栄養湯
乳酸菌は、様々な発酵食品の製造に用いられてきました。主なものとしては、ヨーグルトや乳酸飲料等の発酵乳製品、キムチや一部の漬物、ピクルス、ザワークラウト、テンペ、味噌等の発酵植物製品、塩辛、鮒寿司等のなれ寿司etc.が挙げられます。乳酸菌による発酵は、これらの食品に酸味を主体とした味や香りの変化を与えると共に、乳酸によって食品のpHが酸性側に偏る事で、腐敗や食中毒の原因になる他の微生物の繁殖を抑えて食品の長期保存を可能にしています。そう考えると、子宮内や膣内の細菌叢に於けるラクトバチルス乳酸菌の役割が、良く理解出来ます(笑)。
因みに、左上図は、ナポレオンチーズ。チーズの名前の由来は、熟成庫から見える山の名前である「ネ・ド・ナポレオン」で、フランス皇后のジョゼフィーヌとは関係がないので、ブルーチーズではなくセミハード系のチーズです。HISAKOは未だ頂いたことはありませんが、ハード系ならではのしっかりと身の詰まった食感に対して、柔らかな羊乳の香りのコントラストがなんとも絶妙なんだとか。
子宮でも膣でも、ラクトバチルスが劣勢だと、碌な事はない…。
従来、子宮内は無菌と考えられていましたが、1989年に子宮内膜を採取・培養し、ラクトバチルス等を分離したと言う報告や、1995年に摘出後の子宮から得られたサンプルを培養し、子宮内にも細菌叢が存在する事を証明した報告等、現在は子宮内にも細菌叢がある事が知られています。
子宮内細菌叢については比較的新しい研究分野であり、未解明の部分も多く、膣内と子宮内の細菌叢は関連するとも一致しないとも言われています。つまり良く分かっていません。膣内細菌叢では、ラクトバチルスが産生するD-Lactic acidが膣内のpHを下げて、膣炎の起炎菌の発育を抑制します。しかし、膣内細菌叢が、ラクトバチルスではなく、他の細菌が優位な状態では、性行為感染症(HIV、淋菌、クラミジア、トリコモナス、HSV、HPV、梅毒等)や膣カンジダ症、尿路感染症、骨盤内炎症、早産のリスクが高まるとされています。
子宮内細菌叢については、2016年に不妊治療に於ける妊娠転帰に影響し得る事が初めて報告されました。その報告では、ラクトバチルス優位ではない不妊患者さんは、ラクトバチルス優位の患者さんに比べ、着床率・妊娠率・出生率の全てに於いて有意に低値だったそうです。日本に於ける子宮内細菌叢と不妊症に関する最初の報告は2018年で、ラクトバチルス優位な子宮内細菌叢を持つ患者さんの割合は、体外受精の患者さんで38%、非体外受精患者さんで73.9%、健康ボランティアで85.7%でした。ラクトバチルスの割合が低い患者さんでは、細菌叢を正常化させる事で妊娠率の改善が期待出来るとされています。
ラクトバチルスが劣勢なHISAKOの同類は、こんな人だ!?
しかし、膣内細菌叢や子宮内細菌叢の研究では、どの様な人がラクトバチルスの割合が低くなるのか、食事内容や睡眠時間等の生活習慣に関連しているのか…等々は、分かっていません。実際に、ラクトバチルスの割合が低かったHISAKOの仲間達の生活習慣を聴取しても、睡眠時間も様々で、一定の傾向もなく、食生活も、食事を殆ど摂らない酷いものから、和食中心で発酵食品も積極的に取り入れている完璧な食生活の人まで様々だったそうです。
救済策
ラクトバチルスは、膣を健康に保つ為に必要な乳酸菌ですが、更年期になると、エストロゲンが減少し、グリコーゲンの量が低下するので、ラクトバチルス乳酸菌の数も必然的に減少てしまいます。これが、更年期を境に、繰り返す膀胱炎を始めとする尿路感染症や、細菌性膣炎、膣カンジダ症等々のおしもの悩みが急増する理由でもあります。また、最近は、子宮内細菌叢の乱れは、不妊治療に於ける妊娠起点にも影響する事が報告されるようになり、その正常化が妊娠率の改善に繋がる可能性も示唆されています。ラクトバチルスが90%以上ある状態が妊娠しやすく、生児獲得率も上昇するとの報告があります。因みに、日本の不妊外来での検査報告なので、エストロゲンが激下がりの更年期以降の女子は除外されていますが、ラクトバチルスが0%と非常に不良な結果だったのは、932件のうち109件だったそうです。しかし、ラクトバチルスが0%の人が、正常化するには時間が可成り掛かります…。
デリケートゾーンの正しいケアによって、膣内環境は改善しますから、デリケートゾーン専用化粧品であるest’re(エストール)(美容通信2026年7月号)のも解決策の一つです。デリケートソフトウォッシュ(大切な善玉菌であるラクトバチルス乳酸菌を残して、汚れのみを優しく落とす泡状洗浄剤)、デリケートソフトジェルクリームやデリケートリッチオイルセラム(還元発酵乳酸菌®が善玉菌をサポートしてくれるだけでなく、乾きがちな膣をしっかり保湿)、そして、ラクトバチルス乳酸菌や乳酸、ヒアルロン酸配合を配合したインナージェルで構成されています。ラクトバチルスを直接腟内投与をする方法は、非常に有効との報告が最近は散見されます。最近クリニックでも取り扱いを始めたfem-in fir proは、乳酸菌だけでなく、葉酸、コラーゲン、ヒト脂肪幹細胞培養液、EGFを配合したスペシャルなインナージェルです。
そして、サプリメントの併用。最近発売されたユテラの他、「女性のフローラから考えたラクトフェリン」で、ラクトバチルスに餌を与えて、間接的にラクトバチルスを育てたり、臨床的なデータを持つ4つの生きた乳酸菌、ビフィズス菌を使用し、腟内環境と腸内環境のどちらにもアプローチしてくれるTHER-BIOTICTMFemme Flora(美容通信2026年7月号)を選択する方法もあります。
勿論、これ等との人参栄養湯の併用もありです。
■人参栄養湯
HISAKOの様な子宮内・膣内フローラ検査(美容通信2026年9月号)の結果不良の輩に、お勧めの漢方薬が人参栄養湯です。
人参栄養湯の内服で、子宮内細菌叢がより早期に正常化する傾向が認められており、これは子宮内細菌叢の悪化が免疫力の低下と関係している事を示唆しています。腸内細菌叢については、腸管免疫のみならず、全身の免疫系に影響しており、更には臓器間でのクロストークが知られています。膣内/子宮内細菌叢も、詳しい事は全く分かってはいませんが、恐らく、免疫との何らかの関係があるのでしょう。
少なくとも、人参栄養湯を服用して、体調の改善を自覚した症例では、さん再度採卵した時に、以前よりも受精卵のグレードが改善しているそうです。
【配合生薬(成分・分量)】
- 成人1日の服用量3包(1包1.5g)中
- 人参養栄湯エキス粉末…3350mg
(ニンジン1.5g、トウキ・ジオウ・ビャクジュツ・ブクリョウ各2.0g、シャクヤク・チンピ・オンジ各1.0g、オウギ0.75g、ケイヒ1.25g、ゴミシ・カンゾウ各0.5gより抽出。)
添加物として、ヒドロキシプロピルセルロース、乳糖を含有する。
GSMの性器尿路愁訴:ウチダの八味丸M
GSMとは
GSM(genitourinary syndrome of menopause/閉経関連泌尿器性器症候群)とは、閉経による性ホルモンの分泌低下によって生じる、尿路生殖器の萎縮等の形態変化、及び不快な身体症状や機能障害の総称で、従来の萎縮性膣炎と言う単語に比較して、症状・病態を包括的に説明する概念とされています。3徴としては、①陰部の乾燥感・不快感、②性交痛他のセックストラブル、③尿トラブル(頻尿・尿漏れ・再発性膀胱炎)です。
GSMは、慢性且つ進行性の疾患であり、中年以降の女性の約半数が罹患しています。
GSMとの症状と西洋的な治療方法
GSM患者さんの自覚症状は、尿路及び生殖器に関するもので、外陰部乾燥感・灼熱感・掻痒感の様な外陰部の皮膚症状や、排尿困難感・頻尿や尿意切迫感・反復性尿路感染症等の尿路系症状、更には性交渉の機会がある場合は、膣分泌液の減少・性交痛・オーガニズム障害・性交後出血と言った性機能に関する症状です。症状は一つの事もあれば、複数の症状を訴える場合もあり、様々。まあ、ざっくり3徴とまとめてしまえば、①陰部の乾燥感・不快感、②性交痛他のセックストラブル、③尿トラブル(頻尿・尿漏れ・再発性膀胱炎)なんですが。
西洋的な治療方法としては、女性ホルモン局所若しくは全身投与(美容通信2021年7月号)(美容通信2025年5月号)、テストステロン局所投与、ハイフやレーザー照射等(美容通信2022年1月号)(美容通信2022年4月号)があります。保湿剤や潤滑剤(美容通信2026年7月号)、加えて骨盤底筋トレーニングも有効です。
八味丸は、GSMの治療兼予防薬となるか?
先ずは、鈴々舎馬風の艶笑噺、「大名道具」をお楽しみ下さい。
「大名道具」は、神罰により、殿様と家来の「槍持ち河内」の「道具」(=男根)が入れ替わる。殿様が「道具」を酷使すると河内が「腎虚」で倒れるってバカバカしい小噺ですが、精力減退として有名な腎虚は、一部で男性機能の終わりという意味で用いられる事があります。古くから男性の射精は回数が決まっているという迷信があり、一生のうちに決められた量の精液を出し尽くすと、男性は死亡するとされていました。この死因が、腎虚です。
しかし、この腎虚のお薬として時代劇でもよく登場する八味丸ですが、実は、夜間尿・口渇を訴える、冷えて血色の良くない高齢者の健康維持薬でもあります。漢方復興に尽力した大塚敬節は、『漢方診療30 年』に、歩行不能の下肢麻痺の若年男性に、八味丸が劇的に奏功した症例を書き記してます。
因みに、サルコペニア等の筋力低下は、従来の漢方の考え方では、腎虚概念に含まれていませんでした。しかし、大阪大学大学院先進融合医学共同研究講座は、サルコペニアを腎虚の一症状と考え、認知記憶障害のモデルマウスとして知られるSAMP8を使って、牛車腎気丸の骨格筋への薬理効果を明らかにしています。
一般的には、赤味が強く、乾いていて、舌苔が薄い患者さんが適応とされ、長期の内服継続可能とされています。反対に、湿っていて舌苔が厚い患者さんでは、胃腸障害が起こりやすく、長期の内服は難しいのが実情です。
心因性めまいに:加味帰脾湯
心因性めまい
加味帰脾湯は、精神不安、不眠症等に用いられる漢方薬で、心療内科の友とされています。
心因性めまいは、純粋に心因のみによって起こる狭義のものと、耳鼻咽喉科領域に於ける機能的又は器質的疾患があり、更には、心因によって症状が悪化している広義のものがあります。狭義のものでは、めまいを発症する精神疾患は、鬱、不安症、身体症状等が原因となります。広義のものでは、耳鼻咽喉科的機能的又は器質的なめまい疾患に、鬱や不安を併発しており、耳鼻咽喉科的疾患の治療のみではめまい症状の改善に至らない事も多く。併発する精神疾患の治療も必要となります。
めまい患者さんが併発する精神疾患の改善目的で、向精神薬に加味帰脾湯を併用する事で、向精神薬の離脱・減量が可能であり、薬物依存の回避に有用とされています。
加味帰脾湯
抑鬱不安を合併しためまいで、睡眠障害を認める症例が、加味帰脾湯の一番得意とするところ。加味帰脾湯は、貧血、精神不安、不眠症等に用いられる漢方製剤で、心療内科の友とも称され、漢方薬の安定剤とも言えます。
帰脾湯に、柴胡と山梔子を加えた処方で、虚弱体質で心身が疲れ、血色が悪い人の、貧血、不眠症、精神不安等の改善に用いられます。特に、寝汗、微熱、熱感等がある場合に向くとされており、生薬に柴胡と人参、黄耆を含む為、柴胡剤や参耆剤と呼ばれます。また、視床下部オキシトシンニューロンを介した、抗ストレス、抗不安作用が認められています。その為、加味帰脾湯は、抑鬱、不安を伴う心因性めまいに有効と考えられています。既に、睡眠薬、抗不安薬を処方されているような症例には、加味帰脾湯の効果が期待出来るとされています。「加味帰脾湯の有効例では、睡眠薬等がいらなくなる事が多いにゃん」と一言付け加えるだけで、睡眠薬が不要になる症例も多いんだとか。睡眠薬の処方の前に、試してみる価値大なんです。
【配合生薬(成分・分量)】
- 成人1日の服用量3包(1包1.5g)
- 加味帰脾湯エキス(1/2量)…2800mg
(ニンジン・ビャクジュツ・ブクリョウ・サイコ・サンソウニン・リュウガンニク各1.5g、オウギ・トウキ・サンシシ各1.0g、オンジ・タイソウ各0.75g、カンゾウ・モッコウ各0.5g、ショウキョウ0.25gより抽出。)
添加物として、ヒドロキシプロピルセルロース、乳糖を含有する。
ツェツェバエに刺されたのでは?と疑ってしまう日中の眠気に:抑肝散加陳皮半夏
ツェツェバエは、ハエ目ツェツェバエ科に属する昆虫の総称で、2001年現在、23種8亜種が確認されています。吸血性で、アフリカトリパノソーマ症(ヒトのアフリカ睡眠病・家畜のナガナ病)の媒介種です。雌雄ともに哺乳類や鳥類から吸血し、血液を栄養源として生活しており、一度の吸血で40~150mgの血液を摂取します。この点が、雌のみ卵巣発育の為の栄養源として吸血する、カやアブ、ブユ等との相違点です。アフリカ大陸の北緯15度から南緯20度の範囲のうち約1,500万km2の範囲にのみ分布し、ツェツェベルト地帯と呼ばれています。しかし、その化石はアメリカ合衆国コロラド州の漸新世の頁岩から得られており、嘗ては現在より遥に広い範囲に分布していたようです。
ツェツェバエと生息域が重複するシマウマは、体毛が極端に短く、吸血が容易であるにも関わらず、眠り病に殆ど罹りません。2014年には、カリフォルニア大学デービス校のティム・カロ博士らの研究チームにより、ツェツェバエは色彩が均一な面を好んで着地し、模様のある面は避ける傾向にある事が確認されました。つまり、シマウマの縞模様の効用は、従来から考えられて来たような温度調節や肉食動物からのカモフラージュだけでなく、ツェツェバエ等が媒介する感染症から身を守る効果もあるようです。しかし、ツェツェバエが縞模様を避ける理由は、未だ判明してはいません。
シマシマと言えば、赤と白のストライプのまことちゃんハウスが先ず頭に思い浮かぶと思いますが、この吉祥寺の楳図かずお邸は、シマウマのツェツェバエ回避戦略に似ています。当時恐怖漫画を執筆していた楳図の家に一人の女性が訪ねて来て、いきなり、「もう私のことを書くのをやめてください」と直談判。楳図にとってこの恐怖体験は非常にインパクトが強かったらしく、これを機に、恐怖漫画の執筆を止め、まことちゃんのようなギャグマンガに転向してしまいました。更には、家の外壁を派手にして、まあ、一種の魔除けハウスに昇華させたんだそうです。恐るべし、シマシマの効果効能。(余談ですが、HISAKOの大昔のハンドルネームは、yokoshima_kunでした(笑)。)
日中の眠気の原因
日中の眠気の原因は様々です。学生時代は、退屈な授業を受けるだけで睡魔に猛然と襲われました。電車に乗っても立ったまま寝られると言う特技は、今も健在です。女子の場合、それ以外にも、月経の随伴症状として、月経前や月経中に眠気に襲われ…意に反して屈してしまう事があります。
月経のある女性に於いて、排卵後に分泌される黄体ホルモンが、GABA受容体に間接的に作用して眠気を催させます。月経中の強い眠気は、貧血や血虚による脳虚血が原因と考えられています。
抑肝散・抑肝散加陳皮半夏
前述の様に、月経前と月経中の眠気の原因は異なりますが、どちらにも効果的なのが、抑肝散加陳皮半夏です。
■抑肝散
1556年に出版された小児医学書「保嬰撮要」(薛鎧著、薛己注釈)の急驚風門に挙げられた処方で、お子ちゃまのひきつけに用いられた処方です。平肝熄風、気血双補。平肝熄風とは、肝気が昂って神経過敏となり、怒り易く、イライラして性急となり、興奮して眠れないと言う、神経の興奮を鎮静化させる事です。また、血の不足により、ストレスに対する耐性が低下すると、ちょっとしたストレスでも気の巡りを阻害し、イライラ、怒りっぽい等の症状に繋がります。特に、気の巡りが悪く、その怒りが強い場合は、所謂、感情を抑えられない、物に当たると言った行動に走りがちです。この血と気を補って巡らせるのが、気血双補です。元来は小児向けの処方ですが、(量を調節すれば)同じ様な症状がみられる成人が服用しても問題はありません。近年の研究から、進行した「アルツハイマー型認知症」で起こる妄想や、徘徊、暴力等のBPSDと呼ばれる病態の改善にも効能がある事が知られています。 また、ADHDや鬱病にも効能があります。
この様に、肝気が昂った者の興奮を抑え、鎮静させるところから抑肝散と名付けられた処方が、一見すると真逆とも思える日中の眠気にも非常に効果的なのが、と~っても興味深いお薬でもあります。
■抑肝散加陳皮半夏
日本での臨床知見を基に、健胃作用のある陳皮半夏を加えたのが、抑肝散加陳皮半夏です。自律神経系の調節をしながら、血を補い、気血を巡らせる処方です。癇症・神経症・不眠症・乳幼児のひきつけ・脳血管障害後遺症・パーキンソン病・歯ぎしり等が適応になります。
釣藤鈎・柴胡・当帰・川芎・白朮・茯苓・甘草・陳皮・半夏の9つの生薬で構成されています。主薬は釣藤鈎と柴胡で、鎮静・鎮痙作用を持ち、自律神経機能を調節します。釣藤鈎には、中枢性の鎮静作用と抗痙攣作用の他に、降圧作用があります。柴胡・甘草には、疏肝解鬱の効能があり、鎮静・鎮痙に働きます。当帰は、川芎と共に、上焦の血管拡張・循環促進に働きます。更に、川芎は、頭痛に奏功します。
ストレスによる緊張や不安が、頭頚部領域に血流障害を起こす事が知られていますが、釣藤鈎・柴胡による鎮静・鎮痙作用で、緊張や不安を軽減する事で、頭頚部領域の血流障害が緩和され、更に、当帰・川芎による血管拡張・循環促進作用が加わり、脳虚血が改善する事で、眠気が改善するのではないかと推測されています。
貧血や虚血がある場合は、効果がみられるまで時間を要すだけでなく、患者さん自身の実感もやや乏しい傾向にあります。しかし、貧血や虚血がない場合は、速やかな効果が発現し、効果の実感も強いとされています。その為、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏の効果を最大限引き出す為には、鉄欠乏性貧血があり場合は鉄剤の投与を、血虚がある場合は補血剤の併用を行うのが望ましいと考えられています。
このお薬、実は、生理が上がった閉経後にも効果があり、月経随伴症状として出現する眠気以外にも、原因・性別・年齢どころか、日中の眠気にも夜間の不眠にも効果があります。何故にこんな万能なのかと申しますと、中枢性に緊張を緩和し、脳虚血を改善する事で、脳の機能がより正常に機能する様に調節しているから。日中の眠気に対して有効とされている中枢神経刺激薬(日本の法律上の覚せい剤を含み、日本ではアンフェタミン、メタンフェタミン、及びその塩類が覚醒剤取締法の対象薬物です。このうちメタンフェタミンの塩酸塩である塩酸メタンフェタミンは、日本薬局方に収められており、医療的利用が認められています)や麻黄剤、カフェイン等は、有効量を投与すると、動悸や震え、興奮、不眠等の副作用が出現する可能性があり、実際問題として、月経前症候群PMSや更年期症候群の患者さんに対して適切に使用するのがと~っても難しいんです。そう考えると、イライラや昂りを抑え、昼間の眠気だけでなく、夜間の不眠にも効果がある抑肝散加陳皮半夏は、安全で効果的なお薬なんです。
【配合生薬(成分・分量)】
- 成人1日の服用量3包(1包1.5g)中
- 抑肝散加陳皮半夏エキス(1/2量)…2300mg
(トウキ・センキュウ・チンピ・チョウトウコウ各1.5g、ソウジュツ・ブクリョウ各2.0g、ハンゲ2.5g、サイコ1.0g、カンゾウ0.75gより抽出。)
添加物として、ヒドロキシプロピルセルロース、乳糖を含有する。
付録・抑肝散加陳皮半夏は、成人期の注意欠如多動症ADHDにも有用
注意欠如多動症Attention-Deficit Hyperactivity Disorder(ADHD)は、12歳以前から認められる発達水準に不相応な不注意、多動・衝動性を特徴とする神経発達症です。誰もが多少はその傾向は否めないものですが、同年代、同程度の知的能力の人と比較して、通常の範囲から明らかに逸脱しており、それが職業的・社会的機能低下に繋がっている。そして、この症状の少なくとも一部は、小児期から綿々と連続して存在している。これが、ADHDの診断基準になって来ます。学齢期の子供の有病率は3~7%、成人期では1.2~7.3%で、国によって違いが大きい事が知られています。
成人期ADHDの治療に於いては、環境調整や心理社会的治療を実施しても、それでも尚且つ日常生活上の困難が持続する場合に、初めて、ADHD治療薬の適応が検討されます。我が国では、メチルフェニデート塩酸塩徐放錠(コンサータ)、アトモキセチン塩酸塩(ストラテラ)、グアンファシン塩酸塩徐放錠(インチュニブ)が用いられます。しかし、ADHD治療薬が合わない人や、飲みたくない!って拒絶反応を示す人もいます。また、治療薬は内服が出来ても症状がすっきり改善されなかったり、二次障害までカバー出来ない症例も多数あります。
抑肝散加陳皮半夏
大昔、アメリカのホラー映画にエクソシストってありました。悪魔に憑りつかれたリーガンが十字架で自慰行為をし、止めに入った母親のクリスを殴りつけ、首を180度後ろに向けてクリスの男友達であるデニングズの声で嘲笑った…。今思い出しても恐ろしい映画でしたが、リーガンに憑りついた悪魔の正体は、恐らく夜驚症。これは、主に子供に見られる睡眠障害の一つで、睡眠中に突然おびえたように叫び声を上げ、目を見開いたり、起き上がったりする事がありますが、本人は目覚めていません…。抑肝散は、明の時代に中国で、夜驚症の子供の悪魔払いの薬として創薬され、不機嫌、不安定な感情、チック等の様々な精神神経症状に用いられて来ました。幾つかの加味方がありますが、そのうちの一つである抑肝散加陳皮半夏は、江戸時代に日本で日本人に合わせて創薬されたとされ、悪心・嘔吐・胃内停水等の消化器症状の改善作用を有する陳皮と半夏を加味した処方です。
抑肝散加陳皮半夏は、揺り篭から墓場までと全年齢層に於いて、認知症の行動心理症状、睡眠障害、月経前症候群・月経前不快気分障害、慢性頭痛、慢性疼痛、アトピー性皮膚炎等に用いられる漢方薬です。基礎研究では、マウスに於ける攻撃行動の抑制作用、セロトニン神経系を介した抗不安作用、海馬神経新生促進を介した抗鬱作用、抗ストレス作用、GABA作動性経路を介した不眠改善作用が報告されています。抑肝散加陳皮半夏内服によって、不安、イライラ、易怒性、睡眠障害の改善が期待出来ます。
他のADHD治療薬と比べて、副作用の発現は極めて少なく、併用される向精神薬等の減量にも繋がります。赤ちゃんが欲しい女子や、運転や機械操作等の眠くなるとヤバい仕事に従事している等の場合にも、問題なく処方が可能です。また、ADHDでは、その特性から、服用が不規則で合ったり不適切であったりする事が多く、飲み忘れが起きやすいとされています。その点でも、1日2回の服用で済む漢方薬は有用な選択とも言えます。
抑肝散加陳皮半夏は、ADHDの治療の主剤とはなり得ませんが、環境調整や心理社会的治療を補助し、不安、イライラ、易怒性、睡眠障害や二次障害を改善し、併用薬を減らす事に繋がります。
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