汗の意味と発汗異常の病気

近年では、汗にのみ存在する抗菌ペプチドが発見されたり、多汗症や無汗症のみならず、アトピー性皮膚炎やコリン性蕁麻疹、アミロイド苔癬、掌蹠膿疱症、異汗性湿疹等の多くの病気に於いて、その発症に、発汗異常が関与しているらしい事が分かって来ました。
また、この十数年間の急激な発汗学の進歩により、再生機能、免疫機能、保湿機能等の多くの機能を有した重要な器官の一つとして評価されるようになりました。

 高が汗、されど汗。今月号は、汗の基本的なお話と併せて、最新トピックスについて記載しています。

汗の基本的なお話

3種類の汗腺

 汗腺には、エクリン汗腺、アポクリン汗腺、アポエクリン汗腺の3種類があります。

■エクリン汗腺

 私達人間様では、エクリン汗腺は、ほぼ全身に広く分布していますが、包皮内板、陰茎亀頭、陰核、爪床、唇には存在しません。エクリン汗腺の総数は約300万個ですが、その分布には差があり、手のひらや足の裏に600個/cm2と最も多く、次いで前頭部、足背、前腕、体幹、上腕、大腿の順に分布しています。

 エクリン汗腺の機能は、大きくは、①体温調節、②保湿作用、③感染防御の三つと考えられています。

■アポクリン汗腺

 人間では、アポクリン汗腺は、腋窩、肛門周囲、乳輪、外耳道、外陰部と言った限られた部位にしか存在せず、汗腺の数や大きさ、形態は、人種や個人、部位により大きく異なります。人間とチンパンジー以外の、かろうじて猿類では混在するか、若干アポクリン汗腺が多いかなって程度ですが、殆どの哺乳類では、汗腺の殆どをアポクリン汗腺が占め、エクリン汗腺は犬や猫の足の裏、豚の鼻板等の限られた部位にしか存在しません。

 アポクリン汗腺は、人間では殆ど体温調節に関与しませんが、馬やロバでは、体温調節に深く関わっています。アポクリン汗腺は動物の芳香腺に相当する組織なので、私達人間社会に於いても、強烈なフェロモン、つまり一種のセックスアピールとしての機能を果たしているのではと推測はされていますが…、実際、どうなんでしょうかねぇ。…HISAKOですか? まあ、イケメン限定でのお話として聞いて下さいね(笑)。腋の下の匂いを嗅ぐのは、決して嫌いではないですけど、敢えてしたいかと問われると…ねぇ、って感じです。

■アポエクリン汗腺

 思春期以降の、人間の腋の下に出現します。エクリン汗腺分泌部が、アポクリン汗腺様に変化して出来たものと考えられています。

 

体温調節

 私達人間は、猛暑日の高温環境下や運動時に、体温が上がり過ぎて熱中症にならない様に、エクリン腺からの発汗→蒸散性放熱で、体温を調節しています。類人猿も、私達と同様に、エクリン腺からの発汗で体温調節の一部!を依存しますが、他の哺乳類の様に、喘ぎや冷所への移動、身体不活動、水浴等を行わずとも、暑熱環境下で発汗による体温調節を行えるのは、人間様だけです。(←正確には、馬や驢馬の他、駱駝や羊、牛は、エクリン汗腺からではなく、アポクリン汗腺!から発汗し、体温調節を行っているそうですが…。)

 エクリン腺は、人間に於いて、皮膚の最大の付属物です。1個当たりの重さが35μg、体の表面全体で300万個=100gの重量です。蒸散性放熱は最も効率の良い放熱法で、汗1gを蒸散させると、0.58kcalの放熱が行えるんだそうです。健常成人男子の最大発汗量は、汗腺1個当たり1分間に約10nL(10-9L)或いは1時間に0.6nl(mg)とされているので、0.6×10-6×3×106=1.8L。この量は、放熱量に換算すると、1044Kcal。ハーフマラソンのエネルギー消費量に相当するんだそうです。

 あ、前述の3種類の汗腺のうち、体温調節に関与するのは、人間ではエクリン腺のみです。悪しからず。

■発汗のメカニズム

 体温調節には、脳が重要な働きをしています。視床下部の視索前野には、温度の変化に反応して活動が変化する、温度感受性ニューロンがあります。深部温度の上昇は、この温度感受性ニューロンを刺激し、汗を搔かせます。皮膚の表面温度が上がっても、体表面知覚受容体からの求心性インパルスにより汗を搔きますが、深部温度上昇の方がより強い発汗誘導刺激になるようです。補足のコーナーでも触れますが、前者の環境温により温め若しくは冷やされた血液が視床下部に伝わり、夫々のニューロンを刺激するものを潅流性経路、後者の皮膚の温冷受容器に温冷情報が神経情報として伝わるものを神経性経路と呼び、私達人間が温度を感じる経路は、大きく分けてこの2つです。

 発汗刺激は、視床下部から延髄→脊髄を経て、交感神経節に伝えられます。交感神経節→交感神経節後線維→エクリン汗腺に発汗刺激がドミノ倒しの様に伝わります。交感神経終末からアセチルコリンが分泌されて、エクリン汗腺のムスカリン受容体に結合して、汗分泌が起こります。

 因みに、多汗症に対してボトックス注射(美容通信2003年10月号)が良く行われますが、アセチルコリンの放出をブロックする事で、汗を搔かないようにするものです。

「手に汗握る。」のは、進化の証!?

 有毛部に於ける発汗は、体温調節に関わる温熱性発汗なのに対し、手のひらや足の裏の様な無毛部に於ける発汗は、精神的緊張で起こるので、精神性発汗と呼ばれます。精神性発汗は全身で起こり、温熱性発汗は有毛部で起こります。つまり、両者の多くは重複しており、重複しない=精神性発汗のみが起こるのが、手のひらと足の裏。その為、精神的緊張≒手に汗握るイメージが定着してしまったと言うのが、本当のところです。

 私達人間には、他の哺乳類と異なり、①神経性経路を使用して温度感覚を生じ、体温調節をする経路”精神性発汗”と、②潅流性経路を使用して体温を調節する経路”温熱性発汗”の2種類の経路があります。後者の温熱性発汗は、系統発生学的に元々あったシステムなのですが、フィードバック/帰還制御なので、体温調節までにそこそこ時間を要します。論文によれば、交感神経活動の賦活化が起きてから、核心音(深部体温、鼓膜温)がピークを迎えるには、平均で7~10分掛かり、これが循環し、深部温度が有意に上がるには、更に5分くらいの時間を要するんだそうです。これじゃあ、「かったるく(←北海道方言;「かいだるい(腕弛)」の転で、もどかしいとか、じれったいって意味です)て、やってらんねぇ!」と、①の、より迅速な対応が可能な神経性温度伝達システム、フィードフォワード/予測制御を利用するに至った(発達した)と考えられています。

 私達は、他の哺乳類と異なり、この様な神経性伝達による体温の予測制御により、より迅速な体温調節が可能になり、様々な過酷な!環境でも生き抜く力を得て、活動領域を広げ、文明を築き上げる事が出来たって、オチです。「手に汗握る。」、万々歳なのです。

汗の成分と役割り

 汗の大成分は、殆どが水分であり、最も重要な生理的機能は体温調節です。最近の研究結果から、微量ながらも重要な機能蛋白質や、生理活性物質を含む事が分かって来ました。又、汗の成分は天然保湿成分(natural moisturing factor;NMF)(美容通信2003年12月号)(美容通信2015年2月号の構成成分として重要であり、保湿面でも貢献しています。汗腺は、分泌器官でもあるので、特徴的なkallikrein-kinin系も分泌しています。しかしながら、今の時点では、この酵素が血管に対する様に、汗管にも働きその拡張に作用しているのかはまだ分かっていませんが…。今後、これ等の因子の存在のみならず、汗腺に於ける生理機能についても研究が進む事を、臨床家のHISAKOは心より願ってま~す❤

汗に含まれる蛋白分解酵素(プロテアーゼ)

 蛋白分解酵素(プロテアーゼprotease)は、ペプチド結合(-CO-NH-)を加水分解する酵素の総称です。汗の中には、様々な蛋白分解酵素が含まれており、分泌器官地特徴的なプロテアーゼであるカリクレインや、プラスミノーゲンアクチベーター、ウロキナーゼ、トリプシン、カテプシンB・H様のシステイン蛋白分解酵素、カテプシンD等のアスパーティック(酸性)プロテアーゼ等があります。

 しかしながら、未だこれ等の蛋白分解酵素の役割は分かっておらず、後述のインヒビターと併せ、角層の剥離、若しくは汗管が蛋白により閉塞するのを防ぐ等々の役割を担っているのかも知れません。

■カリクレイン(kallikrein)及びカリクレイン様酵素(kallikrein-related peptidase;KLK)

 近年、様々な組織・細胞から多くのトリプシン様酵素が発見され、カリクレインとの構造的類似性から、カリクレイン様酵素(KLK)と呼ばれています。これ等の組織カリクレンには、15個の遺伝子が存在し、カリクレインファミリーとして、KLK15までの番号が夫々に与えられています。

 KLK1は、昔から良く知られているカリクレインで、腺性カリクレイン、キニノゲナーゼとも呼ばれ、血圧降下に関する蛋白質分解酵素です。唾液腺から多量に分泌されますが、汗にも存在し、汗腺や汗管の一部からも分泌されます。汗のカリクレイン-キニン系が、血管への作用と同様に、汗腺の拡張に働いているのかどうか、又、他の生理作用を有するものなのかは、未だ報告はありません。

 KLK1以外の多くのKLKファミリーメンバーも、又、汗に含まれ、恐らく汗の分泌や機能の維持に関与していると考えられています。しかし、これ等のメンバーに、男女差、部位差がある理由については、未だ解明されていません。

 

汗のプロテアーゼ・インヒビター

 汗の中には、プロテアーゼだけでなく、その調節因子であるプロテアーゼ・インヒビターも含まれています。シスタチン等のシステイン酵素阻害剤の他、SPINK5(LEKT1)、SPINK6等があります。例えば、汗に含まれるシスタチンAは、プロテアーゼ活性を有するダニ抗原(Der p1/Der f1)の抑制物質として同定されていますし、LEKT1は、角層剥離だけでなく、NMF産生にも影響しているようです。

 

天然保湿成分(natural moisturing factor;NMF)の供給源としての汗

 汗には、アミノ酸、pyrrolidone carbonic acid(PCA)、乳酸、尿素、ナトリウムやカリウムと言った、NMFとして重要な因子を含んでします。

 実に興味深い事に、汗に含まれるNMFに含まれる成分について、アトピー性皮膚炎の患者さんの無汗部位と発汗部位を比較した論文によると、アミノ酸やPCAの含有量については両者に差が認められなかったものの、乳酸や尿素、ナトリウム、カリウムが低下をしている事が分かりました。つまり、これ等の因子は保湿にとって非常に重要な役割を果たしており、NMFの供給源として、汗はと~っても大事な存在って事を意味します。

 

その他の蛋白成分

 多くの種類の蛋白が、汗の中には含まれています。汗の蛋白量は約20mg/dlですが、主な蛋白は分子量10000以下の蛋白です。汗に含まれる蛋白質としては、IgG、IgA、トランスフェリン等があります。アトピー性皮膚炎の患者さんの汗からは、IgEが認められる!事もあるそうです。

 最近注目されているものとしましては、細菌等に対する防衛機能としての、抗菌ペプチドの存在です。謂わば、自然免疫の役割を果たしてくれる、心強い蛋白(ペプチド)です。デルマシデイン(dermcidin)、デフェンシン(defensin)、カセリシデイン(cathelicidin)等があります。アトピー性皮膚炎の患者さんの汗では、デルマシデインが減少しており、これがアトピー性皮膚炎に於ける易感染性の原因の一つと考えられています。因みに、デルマシデインのプロセッシングに、前述の蛋白分解酵素の一つであるカテプシンDが関与している事は良く知られており、DCD-1L(デルマシデインの前駆体)にカテプシンDを作用させて生じるペプチドの、少なくとも一つは、E. coliに対し、DCD-1Lよりも遥かに強い殺菌作用を有しています。

 汗腺の細胞にはサイトカインの発現は認められてはいますが、汗そのものに含まれているかは不明です。唯、例え含まれていたとしても、表皮や角層機能に対して生理活性を持つ可能性は…非常に低いと考えられています。

 α-galactose、N-acetylgalactosamine、fucose、sialic acid等の糖の成分も、エクリン汗からは同定されています。これ等の汗中に含まれる糖蛋白の機能は未だ解明されてはいませんが、汗管内腔面の保護作用やバリア機能への関与が考えられています。唯、汗中の糖蛋白が汗管を閉塞しちゃうと汗湿になっちゃうので、まあ、世の中の事象は皆そうだとは思いますが、完全なる善はなく、その時々に良し悪しってところでしょうか。

発汗活動とヒスタミン

発汗

 汗には、体温調節、皮膚の表面を潤す保湿効果の他に、抗菌ペプチドや分泌型IgAと言った含有成分による感染防御効果もあります。この為、汗は皮膚の恒常維持にはなくてはならない存在です。

 生理的な発汗は、多量の分泌可能なエクリン汗腺が、主に担当します。エクリン汗腺は、コリン作動性交感神経の支配を受け、神経線維が腺体の周囲を網の目状に包囲しています。汗は、アセチルコリンによって発汗し、反対にアトロピンによって抑制されます。

■ロクに汗も出ない(乏汗の!)病気達

image1235 こんな大事な汗ですから、汗がロクに出ない乏汗症は、大事件になります。乏汗の原因は、大きく以下の3つに分けられます。①薬剤や身体因子を始めとする外的要因、②皮膚疾患に伴う先天的或いは後天的な異常、③中枢神経或いは末梢神経の異常に伴う神経原性の変化です。それらの原因としては、アセチルコリン作用阻害、汗腺の器質的障害、体温調節異常或いは神経学的異常が考えられます。

  • 薬剤や身体因子を始めとする外的要因

   薬剤としては、抗コリン剤やボツリヌス毒素(美容通信2003年10月号)によるアセチルコリン抑制作用、オピオイド剤やα受容体拮抗・作動薬による体温調節の変調、バルビタール剤による汗腺の壊死。

   身体因子では、熱傷、放射線照射後、手術瘢痕等の外相後の後遺症。

  • 皮膚疾患に伴う先天的或いは後天的な異常

   先天性のものと後天性のものがありますが、両者共に汗腺の萎縮が原因で起こります。後天的な疾患としては、シェーグレン症候群や全身性強皮症等が有名です。

アトピー性皮膚炎の乏汗機序から考える、抗ヒスタミン薬の効用

■アトピー性皮膚炎に於ける乏汗機序

image1236 左の図を見て下さい。汗腺の構造です。真皮内のエクリン汗腺腺体には、毛細血管が、まるで悪魔の手毬唄の如くに絡み付いています。神経線維(コリン作動性交感神経支配)もまた、エクリン腺体の周りに網目状に分布しています。

 アトピー性皮膚炎では、発汗量が低下し、これが皮膚の恒常性を損ない、症状を悪化させています。つまり、発汗すべき時に、少しずつ、それもまばらにしか汗が出ないので、皮膚に熱が籠り、乾燥し、病原体への抵抗性が下がります。

 アトピー性皮膚炎で発汗量の低下が起こる原因としては、①汗孔の角栓形成に伴う閉塞、或いは汗管から組織内への漏出による汗の排出異常、②自律神経の失調や発汗誘発因子であるアセチルコリンへの反応低下による、汗腺からの汗の産生及び分泌の異常の二つが挙げられます。

 実際、アセチルコリンへの反応性の低下については、定量的軸索反射性発汗試験(QSART)で詳細な評価が可能です。論文によれば、軸索反射性発汗量は、アトピー性皮膚炎で少なく、健常人の約半分しかなかったそうです。更には、アセチルコリン投与から発汗までの時間が、アトピー性皮膚炎の人達は、健常人の人達よりも時間を要したそうです。アトピーっ子は、発汗すべき時に、少しずつ、それもまばらにしか汗が出ないと言う事が証明された訳です。

■抗ヒスタミン薬は、一兎追う者は、二兎どころか、三兎目が出てくる系!?

 ヒスタミンは、アセチルコリン誘導性発汗を抑制します。室田らの論文によれば、ヒスタミンは、H1受容体を介して、汗腺細胞からの汗の分泌を阻害しており、抗ヒスタミン薬は、少なくとも、このヒスタミンの関与する乏汗については改善する効果が期待出来る!んだそうです。唯、まあ、実際問題として、ヒスタミンがアトピー性皮膚炎でみられる乏汗にどれくらい関与しているかについては懸案事項です。しかし、後天性突発性全身性無汗症に対して抗ヒスタミン剤で治療を行ったところ、日常生活に支障がないレベルにまで発汗が改善したとの報告もあります。まだまだ未知の病態が隠されている突発性の無汗・乏汗症ですが、今後の研究の結果が待たれるところですね。

発汗異常とアレルギー

 皮膚には、様々な炎症性疾患があります。が、意外に、その発症に発汗異常が関与している事を明らかにした報告は、と~っても少ないのが現状です。古くは、汗疹、汗疱、汗疱状湿疹。近年になり、減汗性コリン性蕁麻疹やアトピー性皮膚炎等に於ける発汗異常が報告されるようになったくらいで…今一つ。唯、これは不幸にして、病気として完成してからの生検の結果を踏まえたものでしかなく、発症初期の段階での組織生検であれば、また違った評価だった、つまり発症に発汗異常の関与が証明された可能性が高く、抗炎症効果の強いステロイド外用剤一辺倒ではない、別の治療を選択する可能性を拡げたかも知れません。

 

アトピー性皮膚炎

 非常に興味深い論文があります。アトピー性皮膚炎の患者さんでは、発汗の反応は全体的に低下をしますが、一部の汗管からは、その代わりと言っては何ですが、著明な発汗が認められたんだそうです。しかし、この様な代償性の発汗促進で、少しでも穴埋めしようとする健気な姿勢は、アトピー性皮膚炎の炎症が発症して日の浅い、つまり5年以内の患者さんでは認められます。唯、それ以上経過した年季の入った患者さんでは、汗腺も先の見えない足掻きに疲れ果てしまうのか…完全に諦めモードになってしまい、代償性の発汗は消失します。やる気満々の能動的な汗腺や汗管は著しく減少し、汗管1個当たりの発汗量も減少してしまいます。この様に、アトピー性皮膚炎の患者さんにありがちとされる発汗異常は、発症から年月を追うごとに、代償発汗亢進期から減汗期へと移行していきます。

 実は、汗の成分も、アトピー性皮膚炎の角質水分量を担う大切な構成要因です。その為、この様な発汗反応の低下は、皮膚の乾燥に拍車を掛ける事になります。

 ところが、アトピー性皮膚炎の患者さんは、(;´Д`)を搔くと痒い!ので、なるべく汗を搔かないどころか、極力汗を避ける傾向にあります。更には、臨床でアトピー性皮膚炎の治療を行っている医者の殆どは、患者さんに汗を搔かないように指導を行なっているのも事実です。しかし、これ等が、実は曲者で、発汗する機会の減少→汗腺や汗管のやる気の消失(能動的汗腺・汗管の低下)に繋がった最大の要因ではないかと考えられています。また、ステロイド外用薬の存在も、悪影響を及ぼします。ステロイド外用剤は、汗腺や汗管の機能に対しても抑制的に作用し、長期間に渡る使用により、著明な発汗反応の低下に関与した可能性は高いと思われます。実際、ステロイド外用剤により皮疹が軽快しても、発汗反応は正常化しません。しかしながら、運動や入浴等で、寧ろ発汗を促す様な生活指導を行っただけで、治療方法を変えずとも、勝手に?皮膚の炎症が改善するのは、良く臨床では目にするところです。

 アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2012に於いては、汗は発症・悪化因子として、ど~んと明記されています。コリン性蕁麻疹の章でも触れていますが、Fukunagaらの報告によると、アトピー性皮膚炎の患者さんの自己汗に対する皮内反応は、陽性率54.2%です。ですから、汗アレルギーがあるのは紛れもない事実でしょう。しかし、発汗反応の低下自体は症状の増悪を招くので、発汗そのものを否定するのではなく、発汗を促す生活習慣を心掛けながら、皮膚の上に必要以上に汗が停滞するのを避ける。つまり、汗を搔いたら、とっとと拭けよ!って事ですかね。それも、擦らずに、さらっと汗を抑える程度に留めつつ。

 

扁平苔癬

 扁平苔癬の病変部には、全く発汗の認められないcold spotが多数存在しますが、一見正常に見える周囲の皮膚にも存在し、汗管周囲性の細胞浸潤が認められます。従って、この扁平苔癬と言う病気は、そもそもが汗管周囲性で、汗の漏出によりリンパ球が局所に呼び集められた挙句に起こった免疫反応でないかと推測されています。

 似たような炎症性角質異常症の病気として、乾癬(美容通信2008年4月号)が挙げられます。乾癬にもcold spotがありますが、扁平苔癬と異なり、病変の周辺にある健常部には存在しないのです。…と言う事は、扁平苔癬に於ける発汗異常は、角化異常の結果として起こったのではなく、寧ろ原因と考える方が無難だ!って事を意味します。

 

アミロイド苔癬

 アミロイド苔癬の極く初期の段階では、丘疹が一定の間隔に配列し、毛嚢或いは汗管に一致して生じているのでは?と、つい、疑いの眼差しで見てしまいます。しかし、病態が完成してしまうと、あれはきっと他人の空似、思い過ごしだったんだぁと思う程に、関連性を疑わせる所見は消え失せます。

 しかし、論文によれば、発汗を誘発するヘパリン類似物質を、2週間、ODT(お薬塗って、サランラップで密閉!)するだけで、病変部の丘疹は平坦化するだけでなく、治療前には全く発汗が認められなかったにも拘わらず、治療後は中央に汗管が開口し、それと共に病変が平坦化しちゃったんだそうです。組織を切り取って、顕微鏡で見ても、治療前には仰山あったアミロイドの沈着も、あたかも汗と一緒に体外に排泄されちゃったんじゃないの!?と納得せざるえないのですが、治療後にはきれいさっぱりとアミロイドが消失していたそうです。

コリン性蕁麻疹

 コリン性蕁麻疹は、摩訶不思議な病気です。病態については、様々な説がありますが、様々な説が乱立するって程に分からない!と言うのが、正しい表現。汗アレルギー説、汗管閉塞説、二大分別説、更にはアセチルコリン受容体発現低下説まで提唱され、正に百花繚乱(笑)の様相です。

 コリン性蕁麻疹、特に、「謎に包まれた!」「キツネに抓まれた?」と表現される減汗性コリン性蕁麻疹は、日本に多い疾患です。「日本の研究者よ、奮起せよ!」と、エールだけ送る臨床家のHISAKOです。

コリン性蕁麻疹とは

 コリン性蕁麻疹は、確かに範疇としては蕁麻疹なんですが、所謂ところの通常の蕁麻疹(美容通信2006年4月号)とはちょっと趣が異なっていて、左図の如くに、夫々の個疹って奴が、点状の小さな膨疹なんです。運動やお風呂なんかの、所謂体が温まった時だけでなく、緊張のあまり、じと~っと冷や汗を搔く?手に汗握る?なんて状況に陥った時、つまり発汗が促される様な事態に直面すると、起こる。鶏の羽を毟ったみたいな細かい皮疹が、汗腺の開口部に一致してブツブツと生じます。

 アセチルコリンを皮内に注射すると、発汗と同時に、同様の蕁麻疹が発生するので、コリン性蕁麻疹はアセチルコリンを介する蕁麻疹と考えられています。

 

コリン性蕁麻疹の汗アレルギー説

 一番有名な説が、この”汗アレルギー”説です。汗に敏感で、つまり汗の中に蕁麻疹を惹起させるような物質が含まれていて、且つ、汗が真皮内で汗管から漏出する、つまり汗が漏出せざる得ないような状況、汗管閉塞や破壊って意味ですが、これ等を伴っていないと、起こりようがありません。

■自分の汗に対する即時型反応

 汗アレルギー論が取り沙汰される病気と言えば、アトピー性皮膚炎とコリン性蕁麻疹です。

 自己汗の皮内反応は、運動等で搔いた汗を採取し、濾過滅菌後希釈(生理食塩水にて100倍希釈!と、希釈度は結構高い)し、それを皮内注射して判定します。アトピー性皮膚炎の患者さんでは、報告により差がありますが、95.6~54.2%の陽性率だそうです。因みに、まあ、普通は希釈汗では反応を示さない健常人と言えども、原液を皮内注射すれば、陽性を呈する事はありますって程度です。

 Fukunagaらの報告によると、アトピー性皮膚炎の患者さんの陽性率54.2%に対し、コリン性蕁麻疹では64.7%の陽性率を示したそうです。加えて、好塩基球からのヒスタミン遊離試験でも、58.8%が陽性だったそうです。

■汗管閉塞

 コリン性蕁麻疹の皮膚を生検して調べてみると、汗管周囲にリンパ球浸潤があり、汗管が閉塞している事が観察されています。唯、リンパ球の浸潤が、即、=閉塞に繋がるとは考え難く、汗管壁の何らかの損傷による汗の漏れ出し程度なのかも知れません。唯、炎症がなくても閉塞が起こる可能性もあり、炎症は必須の要件ではないのかも知れません…。分かりません。

 

減汗性コリン性蕁麻疹と言う謎の存在

 無汗anhidrosis或いは低汗hypohidrosisを伴うコリン性蕁麻疹が、減汗性コリン性蕁麻疹で、日本人に多い疾患です。しかしながら、今もって、この疾患の病態は謎に包まれたままです。

 この減汗性コリン性蕁麻疹には、上記の汗アレルギー説や汗管閉塞説を覆すに足るだけの、2つの衝撃的な事実が分かっています。先ず、減汗性のコリン性蕁麻疹の患者さんには、自己汗に対する皮内反応が殆ど陰性だった…。つまり、汗アレルギー説の最大の前提である、汗アレルギーを有してないんです。そして、二つ目は、蕁麻疹は無汗部には起こらず、低汗部にしか生じない。汗管の閉塞と汗の漏出が機序ならば、無汗のエリアにも生じてしかるべきなのに、です。

 アセチルコリン受容体発現低下説の、登場です。通常のコリン性蕁麻疹でも起こっていてしかるべき説なので、発症機序解明の一助となるかも知れません。

■病態の仮説

 コリン性蕁麻疹は、無汗部には起こらず、低汗部にしか生じません。

 アセチルコリン受容体には、ムスカリン受容体とニコチン受容体があり、発汗に関わるのはムスカリン性の受容体です。汗腺に於いて、発汗に関わる、このムスカリン性アセチルコリン受容体の表出が低下していれば、当たり前ですが、汗は出ません。

 汗腺の極々くご近所関係にあるのが、肥満細胞です。ご近所の好かどうかはわかりませんが、肥満細胞は、汗腺上皮と同様に、無汗エリアではアセチルコリン受容体の発現が認められませんが、低汗部では、受容体が低いとは言え、発現しています。アセチルコリンは、膨疹の出現には大いに関係していて、肥満細胞に直接働き、ヒスタミン分泌を刺激し、膨疹を誘発します。ですから、蕁麻疹の出現って意味では、アセチルコリンの受容体の出現の有無は、汗腺上皮よりも遥かに肥満細胞の方に多大な影響を及ぼします。

 繰り返しになりますが、汗腺と肥満細胞は、隣組と一括りにしても構わないんじゃないかって位の、深い隣人関係にあります。運動等によって、神経から分泌されたアセチルコリンは、通常なら恙なくアセチルコリン受容体と結合し、取り敢えずはお役御免になります。ところが、無汗領域では、汗腺上皮の受容体がそもそもロクに出現していない、謂わば、お相手がそもそもいない婚活市場みたいなものですから、あぶれるアセチルコリンが大勢出てきます。ご近所の肥満細胞のお庭にまで侵入して始めます。頑なな無汗エリアの肥満細胞と異なり、低汗エリアの肥満細胞は、少ないとは言え、受容体を発現し、来客の受け入れ態勢を整えているので、ついついその侵入を許し、好む好まざるとに関わらず!、アセチルコリンと結合してしまいます。何か、こんな風に書いていると、押しに弱い、お股の緩いお姉ちゃんのエロ話みたいですが、実際、そもそも結合する理由もない訳ですから、似たようなものでしょう(笑)。結合すれば、脱顆粒が起こり、ヒスタミンが放出されます。受容体発現が低いレベルであっても、脱顆粒は十分起こり得るのです。

 因みに、減汗性コリン性蕁麻疹の人は、アトピー性皮膚炎を患っている事も多く、何らかの体質的なモノが根底にはあるのかも知れません。

異汗性湿疹

 手のひらや足の裏、指の側縁、指の腹側等々に小水疱や紅斑を生じる、原因不明の難治性湿疹病変。夏に多く発症し、又、汗っ搔き💦にも多いので、勝手に「汗が溜まったんじゃないの?」と誤解され、dyshidrosisiとまで命名されてしまった病気です。後に、病理組織的検討により、表皮内汗管と水疱形成との間に関係はなく、そもそも汗の貯留は認められない!と濡れ衣を晴らす事は出来たものの、名前はそのまま過去の誤解を引き摺っている可哀そうな奴と陰口を叩かれていました。ところが、最近になって二転三転(笑)。汗管の閉塞の挙句の水泡なんだか、はたまた、汗管の断裂による汗の染み出しによる湿疹なのか、まあ、何が原因なのかは分かんないけど、兎に角、汗管と水疱には何らかの関連性があるらしいって話になり…、理由はないんですが、何となく「人間万事塞翁が丙午」って青島幸男の小説(第85回直木三十五賞(直木賞)受賞作品)の題名が、脳裏を過ぎってしまうHISAKOです。

掌蹠膿疱症

 掌蹠膿疱症は、手のひらや足の裏に、水疱/膿疱を主体とした特徴的な皮疹が多発し、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、ダラダラと遷延化して、あたかも男女の腐れ縁みたいな様相を呈する、慢性・難治性の病気です。

 現時点では、病因は完全に解明はされていません。唯、扁桃摘出や金属除去、禁煙等により、決して治りませんが、症状は一時的にでも改善するので、恐らくは増悪因子として、病巣感染(扁桃炎、歯周病・根尖膿瘍、胆嚢炎etc.)、金属アレルギー(歯科金属)、喫煙、糖尿病(耐糖能異常)等は、ほぼ確実視されています。

掌蹠膿疱症の小水疱とエクリン汗腺

  掌蹠膿疱症については、以前特集(美容通信2006年5月号)しましたが、あれから4年後の2010年に、水疱の中にエクリン汗由来の抗菌ペプチドが2種類(dermcidin、cathelicidin(hCAP-18/LL-37))同定され、病変皮膚は、非病変皮膚に比して平均発汗量が低下している事等から、表皮内汗管が病変の主座である事が明らかになりました。

 前述の汗の成分の章でも触れましたが、エクリン汗或いは表皮角化細胞由来の、蛋白分解酵素であるKLK(カリクレインkallikrein)が、掌蹠膿疱症の異常な角化及び表皮剥離現象に関わっている可能性が極めて高いと思われます。

 つまり、手のひらや足の裏に非常に多くのエクリン汗腺が分布しています。エクリン汗腺は、単なる体温調節の為の装置としてしか、長らく認識されていませんでしたが、実は、自然免疫・後天免疫系を含んだ多機能臓器であるが故に、エクリン汗システムの障害は、掌蹠膿疱症の病態生理にそのまま直結するものと思われます。

 


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

 

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