しわ・たるみ
シワの発生・そのメカニズム
「まあ年をとっちゃったからしかたがないね。人生を重ねてきた年輪だと思って……」で、かたづけられるほど心が広い人は見たことがない! そう、シワのお話です。どうしてシワができてしまうのか?について、まず見ていきましょう。 シワの発生には、大きく分けて外的負荷と内部負荷の2つの要素が関係しています。 まず、外的負荷について。 たとえば、桃を指で押すと、そこがそのままへこんでしまいますが、人間の皮膚に同じことをしても桃のようにへこんでそのまま傷んでしまうようなことはありません。これは、皮膚には、指で押された力(外力)を局部で負担せずに迅速に拡散させ、細胞の外へ熱として逃がす(もしくは吸収する)システムがあるからです。 ところが年を取ってくると、皮膚の構造が硬直化して、この(外力の)拡散機能が働かなくなってきます。 皮膚はいくつかの層(角層、マルピーギ層、表皮真皮接合部、結合組織内線維、細胞外基質)が重なり合ってできているのですが、それぞれの層の間での伝達障害が起こり、外力のエネルギーを上手に拡散できなくなってしまうのです。そのため、衝撃をダイレクトに受けてしまいます。外力を受けた部分は押しつけられて変形し、シワになるのです。 次に内的負荷です。 シワは外からの力だけでなく、筋肉を動かすことなどの内からの力も原因となります。 顔のシワの原因となる代表的なものといえば表情筋です。眉間にシワを寄せ(皺眉筋)て物事を真剣に思い悩む。額にシワを寄せ(前頭筋)て、眉を上げて驚きを表現。口をすぼめ(口輪筋)てキス顔。目を細めて笑う(眼輪筋)と目尻にカラスの足跡がくっきり。これらはすべて内部負荷です。 筋肉と皮膚の間には、浅筋膜(せんきんまく)というクッション機能を持つ部分があり、筋肉の力をソフトに減衰させて皮膚に伝えてくれています。この浅筋膜は弾力線維に富んでいるので、皮膚と筋肉をかなりルーズに繋いでいます。そのため表面の皮膚と内部臓器は自由に“ズレることができる”のです。 しかし年を取ると悲しいことに、皮膚がゆるんできます。これはつまり、浅筋膜による力の拡散が充分機能しなくなり、皮膚と筋肉の間の“あそび”がなくなるため、内部臓器の力がダイレクトに皮膚にかかってしまうということです。だからシワになります。 特に力の逃げ場のない粘膜開口部(眼・口・肛門etc.)は、内部負荷をそのまま受けてしまうので、シワになりやすいのです。 内部からのシワを減らすには、内部変形の力を浅筋膜から上の層の皮膚に均等に分散できるようにする、フェイスリフトが一番です。これに脂肪吸引を組み合わせるとさらに効果的です。 外科的に皮膚を切除して皮膚面積を小さくし、これにさらに脂肪吸引をかけて内部臓器との密着度を高め、同時に皮膚そのものを緊張させるからです。 ボトックス注射も元から原因を絶つ意味では効果的ですが、筋肉の動きを止めてしまうので、適応の範囲は限られます。
結合組織の経年変化
シワの発生原理を見てきたところで、皮膚を構成する層の一つである結合組織内線維に焦点を当ててみましょう。 皮膚を構成する層の中でも外側にあるものを合わせて表皮、その内側にあるものを真皮と呼びますが、この真皮を形作っているのが結合組織内繊維(コラーゲン繊維とエラスチン繊維)です。 ロープ状のコラーゲン繊維がネット構造を作り、弾力性のあるエラスチン繊維がそれをサポートする形で表皮を支えています。 まずは、加齢による結合組織内線維の変化からご説明します。 ●生まれたての赤ちゃんの結合組織 この時期の特徴は、コラーゲン線維が直線ではなくコイル状になっていることです。これは、真皮結合組織が張力を負担していないことを示しています。お母さんがお腹の中で支えてくれているからです。 しかし、生まれくると急に支えがなくなってしまうので、自立しなくてはなりません。そのため生まれて間もなくは、胎児時代の柔らかいコラーゲン線維から伸縮性は乏しくてもしっかりしたコラーゲン線維に方針を大転換して、工場をフル稼働させて増産します。 これに対してエラスチン線維は、直線的な網目構造を生まれるまでに完成させます。ゴムひもで区画したマス目のようなものです。 ●思春期(成長期)の結合組織 思春期は“伸びざかり、太りざかり”です。皮膚は内側から縦にも横にも伸展されるので、コイル状だったコラーゲン線維は引き伸ばされてまっすぐに伸びます。太さも太くなってこちらも成長期です。 皮膚は縦と横の2方向の力を受けるので、コラーゲン線維は2方向に配列され、互いに重なり合う層状構造をとなります。つまり成長という試練を受けて初めて、充分な強さと配列を獲得するのです。 これに対してエラスチン線維は、パンツのゴムのように伸びます。チェック柄の風船を膨らませると、チェックのマス目が大きく引き伸ばされるのと同じ伸び方をします。 ところが、コラーゲン線維がメキメキ勢力を拡大して組織を占拠し始めると、エラスチン線維は負けてしまいます。強力なコラーゲン繊維が林立する中で、柔らかいエラスチン線維はその柔軟性のために引き伸ばされ、変形しながらも、真っ直ぐに行きたいと、元の最短状態に戻ろうとします。そのため、成長期が完了した時点が一番収縮力が強い時期となります。 若者の弾ける肌は、緊張したコラーゲン線維と伸張したエラスチン線維の賜物なのです。 ●お年寄りの結合組織 年を取ると、体格の急激な変化はなくなるため、線維系の構築も殆ど変化しなくなります。コラーゲン線維は棒のように突っ張って組織を占拠したまま、エラスチン線維も曲がったまま、柔軟性を失って、元に戻らなくなってしまい、エラスチン線維は本来の収縮力が発揮できません。 しかしそれでは困るため、新たに仲間を作ります(代償性の産生)が、コラーゲン線維がガンとしてつっぱているので、互いの間に摩擦が起こります。もともとあるエラスチン線維自体も、頑固なコラーゲン繊維と新たに合成された仲間の隙間に新天地を求めざる得ないので、曲がって生えてしまいます。しかし曲がって生えた線維では収縮能力に欠けるため、更に新しいエラスチン繊維を作る、こうして雪だるま的に状況は悪化していきます。 屈曲してしまったエラスチン繊維は、本来の組織の長さより長い伸びきったパンツのゴムのようなものです(新たに合成される分子は、現存する分子列に沿って沈着するからです)。組織を収縮させる能力に欠けています。そのため、皮膚は重力にあらがうことはできず、内部臓器(筋肉)から離れてたるみます。 エラスチン線維は、コラーゲン線維の隙間を縫うようにして、新たな仲間を増やしてきました。新たに仲間として加わったエラスチン線維は、既存のコラーゲン線維に絡みつき、曲りくねってツタのようになっています。つまり、コラーゲン線維(内部臓器を一定の長さの中に封鎖する為の緊張系)もエラスチン線維(ゴムのような収縮系)も独立してちゃんと機能することができず、ひいてはそれが組織の柔軟性を失わせることになってしまいます。変形(外的負荷及び内部負荷)を拡散する機構が充分機能しなくなるのです。 これが、シワをつくる大きな原因のひとつです。
紫外線の影響
紫外線によるお肌への悪影響は、周知の事実です。シワについても、紫外線の浴び過ぎは真皮結合組織のエラスチン線維を増加させてしまいます。増加というと良いことのように聞こえますが、屈曲してできたエラスチン線維は弊害にしか過ぎないのです。医学的に表現すると、この状況は「日光弾力線維症」といいます。 紫外線(特にB波)により、エラスチン線維の断裂と崩壊が起こります。ただでさえ加齢と共に痛んでいるエラスチン線維にダメージが加わることで、代償性のエラスチン線維がどんどん生産されるわけです。が、それは前述の通りお肌には悪影響を及ぼす繊維にすぎません。 真皮結合組織のエラスチン線維の不規則な彎曲として始まった老化は、次第に斑状、帯状にエラスチン線維成分の沈着をきたし、事態は悪化していきます。
シワの治療、対策
ボトックスは、シワの下にある表情筋の活動亢進(収縮)を弱める、または麻痺させることで、シワを目立たなくするものです。特に従来は有効な治療法に乏しかった顔の上1/3の部分に劇的な効果をもたらします。眉間の縦ジワだけではないんですよ。 額の横ジワ(俗称、猿皺)の原因は、前頭筋の収縮です。前頭筋は眉を上げる筋肉でもあるので、これを完全に麻痺させると、眉が下がって疲れた顔になってしまいます。特に年配の方は、瞼の皮膚のたるみを前頭筋を働かせて眉を上げることでカバーしているので、額を麻痺させてしまうのは機能的に少し問題があるかもしれません。 ー目尻のシワ 目尻のシワは、目を囲む眼輪筋線維の活動亢進だけでなく、長時間にわたる日光による損傷も大きな原因です。ボトックスでは、当然前者しか改善できません。また、少し内出血しやすい部位でもあるので、注意が必要です。 ー眉を上げて若々しく 眉毛を下に引き下げる眉毛下制筋(眼輪筋の内側線維)をボトックスによって麻痺させることで、女性の理想とも言われる山型眉を実現できます。眉を引き下げる方向に働く力が無くなれば、眉を上げる前頭筋の働きを邪魔するものはなくなります。上眼瞼の皮膚も引っ張られ、年齢と共に皮膚が被って狭くなってしまった二重も、少し広がった状態になります。とってもお手軽なこめかみのリフトのようなものですね。 眉をさらにアーチ型から、末広がりのフレア型にしたい場合は、更にボトックスの注入が必要になります。 ー下眼瞼のシワを改善、ついでに目もぱっちり ボトックスを下眼瞼に注射すると、シワが改善されるだけでなく目もぱっちりします。併せて目尻側にも注射すると、さらに効果が上がります。
- ●フォトフェイシャル(IPL)
- IPL(Intense Pulsed Light : 増強パルス光)を使うフォトフェイシャルは、浅いシワに効果的です。下眼瞼のちりめんジワや目尻のカラスの足跡のようなシワにぜひお試しください。 ただし、額や笑いジワのような深くなってしまったシワには効果が出にくいので、他の治療法や治療の併用が必要です。
- ●ファイブロペン
- 皮膚の内側から直接高周波を照射するファイブロペンは、世界初のIntra RF システム、シワに直接アプローチします。ボトックスのように表情が乏しくなったり、ヒアルロン酸注入のように盛り上がったりする心配がないのが最大の特徴です。額のシワや目尻のシワ、首の横ジワなどに効果的です。
- ●レチノイド
- レチノイドはビタミンAの誘導体の総称で、強力な皮膚のターンオーバー促進作用があります。シワやシミを改善する目的で、美容皮膚科系のクリニックでは、定番中の定番の外用薬(クリーム)です。
- ●その他の治療
- 深くなってしまったシワには、コラーゲンやヒアルロン酸の注入が効果的です。また、首にできてしまったシワなどに効果的なエクササイズの指導もしています。 浅いシワ・小ジワには、各種成長因子の使用や、肌を再生する細胞再生注射、肌本来の治癒力・再生力を活用したフラクセル(フラクショナルレーザー)などが効果的です。
シワ対策の生活習慣
予防のために大切なのは、まず皮膚に過度の運動負荷をかけないことです。お喋り、笑い過ぎ、悩み過ぎ、怒り過ぎ、驚き過ぎはいけません。心は常に平常心、感情の起伏を抑えて・・・能面のようにというのは現実的には難しいですが、シワ予防のためには大切なことです。 次に、外的負担をかけないこと。横を向いて寝ず、仰向けで低めの枕を使わず(または低めの枕で)寝るのがおすすめです。顔を洗う時は、タオルでゴシゴシ拭かない、ファンデーションはスポンジで擦らずに軽くのせるようにつけましょう。 また、短期間で激太りするのも、健康のためだけでなくシワの原因となって良くありません。皮膚が急激に伸びるので、急にダイエットして痩せるとたるんでしまいます。 そして、紫外線を避けること、栄養に気をつけることも大切です。肉をたくさん食べると老化が早まってしまいます。野菜中心の食生活を心がけましょう。