修正可能な認知症危険因子からのアプローチ|難聴・頭部外傷・社会的孤立・大気汚染旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2025年3月号

修正可能な認知症危険因子からのアプローチ|難聴・頭部外傷・社会的孤立・大気汚染

一昔前までは、健康寿命を短縮させる原因疾患の代表格である認知症には、修正可能な因子はないとされていました。しかし、違います。2020年のLancet(世界で最もよく知られ、最も評価の高い世界五大医学雑誌の一つ)では、12個の危険因子を修正出来れば、認知症の発症が40%抑制される可能性があるとの報告が掲載されています。良く知られている生活習慣や生活習慣病ではなく、難聴・頭部外傷・社会的孤立・大気汚染の観点から、修正可能な認知症危険因子からのアプローチ!について纏めました。

 The Lancetは、週刊で刊行される査読制の医学雑誌で、世界で最も良く知られ、最も評価の高い世界五大医学雑誌の一つです。1823年に、イギリスの外科医トーマス・ウェイクリーによって創刊されました。誌名をつけたのは彼で、手術用メスの一種であるランセット、及び光を取り入れるを含意するランセット窓に因んでいます。Wikipediaによれば、1974年のメル・ブルックスのコメディ『ヤング・フランケンシュタイン』では、ジーン・ワイルダー演ずるフレデリック・フランケンシュタイン博士が列車に乗って『ランセット』を読んでいるシーンがありますし、シャーロック・ホームズものの一話『白面の兵士』でも、19世紀末を代表する医学雑誌としてホームズが言及しています。つまり、医学雑誌の代名詞的な存在なんです。


 アルツハイマー病の治療に関して、現在承認されている幾つかの疾患修飾薬もありますが、その臨床症状の進行抑制効果は限定的です。ですから、現時点では、発症してから治すよりも、発症させない予防に重点が置かれています。しかしながら、この認知症の発症を予防する、予防出来ると言う概念自体は、比較的最近認知され始めた新しいもので、それまでは、修正可能な因子はないと考えられていました。2020年のLancetでは、12個の危険因子を修正出来れば、認知症の発症が40%抑制される可能性があるとの報告が掲載されています。

 修正可能な危険因子は年代ごとによって異なります。45歳未満の若年期では、低学歴・知的好奇心の低さ7%。45歳から65歳の中年期では難聴8%、外傷性脳損傷3%、高血圧2%、アルコール過剰摂取1%、肥満1%。66歳以上の老年期に於いては、喫煙(美容通信2008年7月号)5%、社会的孤立4%、うつ病4%、運動不足2%、大気汚染2%、糖尿病1%。残りの60%は、まだ分かってはいない危険因子ですが。

 因みに、親ガチャとは、日本が誇るインターネットスラング。生まれ持った容姿や能力、家庭環境によって、人生が大きく左右されるという認識に立ち、「生まれてくる子供は親を選べない」事を意味します。現代ビジネスで配信された土井隆義の記事で、一気に市民権を得てからは、2019年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選出、同年の大辞泉が選ぶ新語大賞では大賞を受賞しました。ガチャの由来は、ゲームセンター等によく置かれている、ハンドルを回した際に景品が出てくるガチャガチャで、ハンドルを回した際に「ガチャガチャ」という音がする事から、ガチャガチャ呼ばれています。しかし、このガチャガチャは、商標登録の関係上、チャガチャの他、ガシャココ、ガチャポン、ガシャポン、ガチャ、ピーカップなど、時代や地域や販売メーカーによって様々な名称が存在します。

難聴

 Livingstonらは、認知症の40%は予防可能で、その中でも、難聴が8%と最も大きな因子であると、Lancetに報告しています。難聴は、認知機能の低下のみならず、後述する社会的孤立、うつ・不安障害、転倒との関連も報告されており、その対策が喫緊の課題とされています。難聴の原因は、加齢に伴う加齢性難聴が最多で、日本ではその罹患者数は1,500万人以上と推計されています。

加齢性難聴の病態と危険因子

 悪口なんてものは、概して、声高らかにではなく、(低い)ヒソヒソ声で交わされるものですから、お姑さんには悪口しか聞こえません。加齢性難聴は、高音域が優位に障害される感音難聴です。悪口しか聞こえないのは、年寄りの僻みではなく、末梢の感覚器(内耳)や聴覚中枢の機能低下が原因です。

 音の受容は、空気振動(物理的エネルギー)を伝達・増幅する外耳・中耳を経て、内耳(蝸牛)に伝達されます。蝸牛の内腔は前庭階、蝸牛管、鼓室階の3つに分かれており、前庭階と鼓室階は外リンパ液で満たされています。蝸牛管は、内リンパ液で満たされ、その外側に位置する血管条が、内リンパ液を高K+に維持しています。蝸牛管の中にはコルチ器があり、聴覚の感覚細胞である内・外有毛細胞が含まれます。蝸牛に伝わった音は、コルチ器にある内有毛細胞により、物理的エネルギーから電気エネルギーに変換され、蝸牛神経を刺激し、聴覚中枢へと信号が伝達されます。

 蝸牛は加齢により、有毛細胞の脱落、蝸牛神経の変性・消失、血管条の萎縮と言った変化が生じるだけでなく、内有毛細胞と蝸牛神経間のシナプス数が加齢により減少し、特に雑音下での聞き取りが悪くなるcochlear synaptopathyと言う病態も起こっている事が分かって来ました。このシナプス数の減少は、蝸牛の有毛細胞の脱落に先行し、聴力の閾値は正常であっても、特に騒がしい場所では会話が聞き取り難いと言う症状が、難聴に先行して起こります。この様な末梢感覚障害に加え、中枢聴覚路の機能低下が起こると、大きな声でも会話の内容が聞き取り難い、早口が聞き取れない、雑音下での会話が聞き取り難い、NHKのアナウンサーは分かるが、民放の、特にバラエティー番組のお笑い芸人連中の言う事は聞き取れない(笑)。因みに、日本での2,082人を対象にした縦断研究では、難聴を生じると海馬の容積が小さくなるとの報告があり、認知機能低下の一因と考えられています。

 加齢性難聴の危険因子には、遺伝的要因、後天的要因、環境因子があります。予防可能な後天的要因及び環境因子としては、これまでの疫学調査から、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患、脳血管障害、喫煙、騒音暴露等が挙げられています。これらの因子は、所謂生活習慣病と一致しており、動脈硬化等による血管条の障害が、難聴悪化の一因と考えられています。また、騒音暴露も重要な危険因子で、近年、スマートフォンを含む携帯型音楽プレーヤーの普及により、日常的に音響暴露されていると、若い頃は何ら弊害を感じなくても、年を取ってから後悔一頻り…。その他にも、騒音、薬剤、動脈硬化等により産生されるフルーラジカルの過剰(美容通信2017年10月号)(美容通信2024年10月号)により、ミトコンドリア機能(美容通信2022年6月号)(美容通信2017年7月号)が悪化し、アポトーシス(美容通信2024年3月号)が生じると考えられています。フルーラジカルを除去する薬剤等の効果が期待されていますが、私達人間に対するエビデンスは確立していません…。

 

難聴への介入による認知機能への効果

 現時点での、加齢性難聴に有効な薬物療法はなく、補聴器や人工内耳と言った人工聴覚器の使用が必要になります。メタアナリシスに於いても、難聴へのこれ等の人工聴覚器による介入により、認知機能低下のリスクを軽減させる事が報告されており、難聴の早期発見、早期介入の重要性が指摘されています。

 Huangらの、アメリカの70歳以上の高齢者2,413名を対象にした横断研究によれば、中等度~重度の難聴のある人では、聴力が正常の人と比較して、認知症の有病率が61%高かったそうです。しかしながら、補聴器を使用していた人は、していなかった人と比較して、認知症の有病率が32%低く、補聴器の使用により認知症のリスクを抑制出来る可能性が示唆されました。イギリスの437,704名を対象にした前向きコホート研究でも、補聴器を使用していない難聴の人は。難聴のない人と比較して認知症の発症のリスクが有意に高いが、難聴があっても補聴器を使用している人では、難聴のない人と同等の認知症発症頻度であり、適切な難聴への介入により、認知症発症のリスクを軽減する可能性を示唆しました。Bucholcらは、難聴を有する2,114名を対象とした縦断研究にて、補聴器の使用が軽度認知機能の低下から認知症への発症を有意に抑制すると報告しています。

 補聴器では効果が得られないような高度難聴者には、人工内耳が使用されます。人工内耳でも、補聴器と同様に、装着により認知機構の温存、悪化予防の効果があるとされています。

 

日本に於ける難聴対策の現況と問題点

 JAPAN TRAK 2022によると、日本に於いて難聴を自覚しているのは人口の約10%。そのうち、補聴器を所有しているのは、約15%に過ぎません。難聴者での補聴器所有率は、欧米では30~50%なのに対し、日本の補聴器所有率は低値です。理由としては考えられるのは、日本では、欧米の様な公的補助が普及しておらず、日本で補聴器購入の助成をを受けたのは僅か8%で、補聴器購入に平均15万円/台と高額な自己負担が必要です。また、難聴者の38%しか耳鼻科医やかかりつけ医に相談しないだけでなく、成人の聴覚検診の必要性認識率が14%(欧米では35~42%)と低く、難聴とそのリスクに関する認知度の低さが挙げられます。因みに、人工内耳の累計手術数の人口割合は、オーストラリア0.08%、アメリカ0.04%に対し、日本は0.01%と低率です。

頭部外傷

 頭部外傷は、頭部への物理的な衝撃によって引き起こされる、脳組織の損傷及び機能障害を総称する病態です。世界中で約6900万件/年の頭部外傷が発生しているとされています。頭部外傷は、認知症の最も重要な危険因子の一つであり、社会的な取り組みにより、予防やリスクの軽減が確実に期待出来る因子です。しかしながら、旭川市を例に挙げると、クリニックが面している3-4の仲通りと買物公園の交差点は、冬季間は転倒名所です。滑って、転んで、動けず→救急車の出動!なんて、日常茶飯事。先日は、30秒足らずの超短時間に、3人転倒している人を目撃してしまいました…。今津寛介市長、除雪も勿論大事ですが、長期の視点な立って、認知症対策としての路面凍結改善もお願いします!

単発頭部外傷とアルツハイマー型認知症

 単発の重度頭部外傷は、アルツハイマー病の環境リスク因子である事は、昔から良く知られていました。単発重度頭部外傷は、アルツハイマー型認知症の罹患率を高め、発症年齢を早めます。単発軽度頭部外傷は、若者ではリスク因子にはなりませんが、高齢者では認知症のリスク因子になります。反復性軽度頭部外傷は、慢性外傷性脳症を引き起こします。

 単発の重度頭部外傷に於ける重症度と認知症との間には、用量依存的な関係があり、特に、アルツハイマーの遺伝的な要因も含めた危険因子の大規模多施設研究MIRAGE studyによれば、意識消失の既往がある頭部外傷では、意識消失の既往のない頭部外傷よりも、認知症発症のオッズ比が約2倍との報告があります。

 単発重度頭部外傷は、認知症の引き金となる原因ではなく、受傷前からある認知症病態や加齢性変化を加速させる促進因子と考えられています。カリフォルニア州の約52,000人の頭部外傷患者と、112,000人以上の頭部外傷を伴わない外傷患者を対象集団として比較した研究では、中等度から重度の頭部外傷を経験すると、全年齢(55歳以上)で認知症リスクが増加し、軽度頭部外傷では高齢者(65歳以上)のみで、認知症のリスクが上昇しました。つまり、頭部外傷による認知症のリスクは、年齢が上がる程上昇する傾向がありました。また、スウェーデンの双生児レジストリを用いた研究でも、受傷年齢が上がるにつれて認知症の危険度が上昇しました。Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiativeのデータっを用いた検討でも、頭部外傷の既往がアルツハイマー病の発症を2年程度早める事が示されています。これらの研究から、加齢と共に、損傷からの回復能が低下するだけでなく、既に脳内に蛋白質蓄積症等のアルツハイマー病の病態があるが、発症はしていないpreclinical ADの顕在発症時期を、単発重度頭部外傷が早めていると推測されます。

 

反復性軽度頭部外傷によって引き起こされる、慢性外傷性脳症

 脳震盪等の意識障害を伴わない様な軽度頭部外傷に繰り返し暴露した場合に、数年から数十年経過して、進行性の認知機能障害、精神症状、運動症状等を呈する遅発性脳障害が引き起こされる場合があります。最近は慢性外傷性脳症と呼ばれていますが、嘗ては、ボクサー脳症と呼ばれていた病態です。

 

 慢性外傷性脳症とは、何度も繰り返す軽度頭部外傷の既往から数年以上経過した後に、神経細胞やグリア細胞にリン酸化タウ凝集体が蓄積する神経変性疾患。主に、脳溝深部の小血管周囲に病変が多発するのが特徴です。左図は、プロボクサーの死後脳で確認された神経原線維変化です。大昔は、慢性外傷性脳症とアルツハイマー病は同じと考えられてはいましたが、タウ蓄積部位が他のパウオパチーとは異なるパターンを示す事、クライオ電子顕微鏡を用いた検討によりタウ線維体の立体構造がアルツハイマー病と異なる事から、現在では異なる神経病理学的病態であるとされています。

 慢性外傷性脳症の病理学的進行度と重症度には一定の関係性が認められ、病理診断のステージが上がるにつれ、認知機能低下、高次脳機能障害、精神症状、抑うつ、運動症状が段階的に加わり、最重症のステージⅣではほぼ全例が認知症に至ります。しかしながら、その進行は緩徐で、認知症になる前に死に至る症例も少なくないとされています。

 神経変性疾患である慢性外傷性脳症は、繰り返す軽度の頭部外傷がなければ、起こりえない病気です。ですから、認知症の危険因子ではなく、原因。因みに、世界最大の慢性外傷性脳症ブレインバンクを有するボストン大学は、NFL選手の死後脳の99%で、何らかの慢性外傷性脳症神経病理所見が見出された事を報告しており、反復性軽度頭部外傷に暴露した場合、慢性外傷性脳症病理が引き起こされる割合は高いと言えます。

 

早期診断法

 各種の認知症病態は、HISAKOのクリニックでは行ってはいませんが、脳内の蛋白凝集体に結合するPET薬を用いた検査によって、生前に!脳内病理を検出する事が可能です。アルツハイマー病に関しては、アミロイドPETで診断が可能であり、またより負担の少ない体液バイオメーカー検査も高い精度でPET所見と一致します。慢性外傷性脳症については、現時点では確定診断は死後脳によってのみなされますが、中核病理である脳内タウ蓄積はPETでの検証は可能です。

 右図は、コンタクトスポーツに長期に亘って従事し、遅発性脳障害の症状を呈した症例の、F-florzolotauによるタウPET画像。何れの症例も、アミロイドPETは陰性で、症例毎に異なる限局的な集積分布所見を呈しています。

 

慢性外傷性脳症の治療と予防

 アルツハイマー病に対しては、lecanemab等の中核病理を標的とする疾患修飾薬が承認され、脳内のアミロイド病変を劇的に減少させる事が知られています。しかしながら、臨床症状の進行抑制効果は限られており、アルツハイマー病の克服には、未だ程遠いのが現状です。抗タウ抗体による進行抑制効果が期待されていますが、前駆期ないし軽症の50~80歳のアルツハイマー患者を対象にした研究では、Semorinemabの投与での進行抑制効果は認められませんでした。タウ凝集抑制作用を有するメチレンブルー派生体も、アルツハイマー病への進行抑制効果は認められていません。しかしながら、アンチセンスオリゴヌクレオチドであるBIIB080が、アルツハイマー病のタウ病変を減少させる事がPETで視認され、タウを標的とする最初の疾患修飾薬となるかも知れません。現時点では、BIIB080が慢性外傷性脳症に効くんだかどうなんだかは不明ですが、アルツハイマー病とは違い、繰り返す頭部外傷が原因ですから、より早期からの介入が可能で、より高い発症抑制効果を得られる可能性があります。

 唯、アルツハイマー病にしろ、慢性外傷性脳症にしろ、根本的な治療法が未だ確立していない現状では、頭部外傷への暴露を可能な限り減らす事が最も重要で確実な対策です。単発重症頭部外傷によるアルツハイマー病に於いては、単発重症頭部外傷の重症度と罹患率が密接な関係にあり、頭部を保護するデバイスが重要です(←HISAKOは、父親が、ツルハ薬局の濡れた床で滑って転倒して、頭の皮を切ってしまった(立派な頭部外傷だ!)事故を受けて、ダウンのもこもこ帽子を彼にプレゼントしたのですが…お洒落じゃない!との理由で却下されてしまいました…)。慢性外傷性脳症に於いては、脳への総打撃量とタウ蓄積とに用量依存的な関係がある事から、コンタクトスポーツ選手や兵士等の脳震盪のリスクの高い職業では、頭部へのダメージをモニタリングし、暴露量を可能な限り減らす事が求められます。プロテクターは、直達外力による脳損傷のリスクを軽減が出来るので、無いより全然マシではありますが、回転加速度による剪断損傷を防ぐ事は難しく、根本的な解決方法とは言えません( ;∀;)。

社会的孤立

 社会的孤立は、66歳以上の高齢者の認知症危険因子として二番目に堂々ランクインではありますが、修正可能な危険因子でもあるのです。

社会的孤立の定義

 社会的孤立とは、社会的な関係性が失われ、孤立し、社会的な居場所がなくなっている状態です。年寄りがぼっち生活を謳歌していると、確かに社会的に孤立しやすい状況ではありますが、家族や友人・知人等と社会的な交流が途絶えていなければ、社会的孤立とは言いません。反対に、家族と例え同居していても、家族の中で会話がなく、家族以外の人との交流がない引きこもり老人状態ならば、それは立派な社会的孤立です。

 

高齢者の社会的孤立

 社会的孤立は老若男女を問わず、全世代で問題となります。日本は類稀なる超高齢化社会で、団塊ジュニア世代が50歳を迎える事で、日本は2024年に歴史上初めて50歳以上の人口が5割を超える国になりました、多分(←実は、この美容通信の原稿を書いているのが、2024年のお正月休み中なんです(笑)。部屋の窓から遠く桜島を眺めつつ、左手に猪口、右手に黒ヂョカを持って薩摩焼酎を楽しんでおります。タブレットは勿論、床入力です)HISAKOの様に行き遅れてそのままぼっち街道をまっしぐらの輩には想定内の必然的末路ではありますが、そうでなくても、相方を亡くして一人暮らしなんて(新婚当時には思いもしなかった、所謂、想定外!の)高齢者も、めきめき増殖しています。高齢者の一人暮らしでは、他人と話す機会自体が激減し、その傾向は男子に於いて顕著で、週に1度も人間と会話をしていない人が多いんだとか。男性高齢者は、その昔仕事人間だったツケと言うか…、退職してしまうと、全く友達と呼べる友達がおらず、挙句無趣味!とくる為、「亭主元気で留守がいい!」をモットーに強かに人生を楽しんで来た女性陣と比べると、地域での人間関係の構築が出来ず、孤立してしまう事が多いとされています。

 

社会的孤立は、何故、認知機能に悪いのか?

 認知症の予防の観点からは、高齢者に出来るだけ出不精にならず外出をして、日頃目にしない光景を楽しんだり、色々な人と会話を楽しむ事がお勧めとはされていますが、HISAKOの様な歩行が困難な障碍者手帳保有者には、それがなかなか難しい。皆、望むと望まざるとに関わらず、年と共に何らかの、それも想定外の!足枷が増えてきますしね。若い頃の青写真通りになんて行きません(笑)

 HISAKOは、自分の父親には、「死ぬまで、兎に角、(毎日)店を開けて、働け!」と言っています。これは今のところ実行出来ているけど、伊勢丹メンズ館に行こうとか、新幹線のグランクラスに乗って駅弁を食べようとか、神宮に野球観に行こうとか、目先を変えた人参を鼻先に振りかざして誘ってみるけど、こちらは、中々、お尻が重い…。

 社会的に孤立をしている人は、外出の機会が減り、家に閉じこもり、一日中誰とも話をせずに過ごす事が多いとされています。その結果、脳への刺激が著しく少ない状況となり、認知機能が低下します。哺乳類は、

元来、新奇性を好む動物なんですから!

 

認知症予防の為の、社会的孤立対策

 対策としては、出来るだけ外出の機会を作り、人とのコミュニケーションを増やしていく事が大事とされています。唯、だからと言って、HISAKOの様に「外出しなさい。外出しなさい」と、選挙カーの様に連呼をしてみたところで、改善には繋がりません。そもそも、何故外出の機会が減ったのかの理由を考える必要があります。例えば、家族の強い要望に折れて、自動車の運転免許証を自主返納して、外出の手段が無くなってしまった。田舎では、公共交通機関が乏しく、あっても便数が少なく、ローカル路線バス乗り継ぎの旅を地で行くレベル。背中を押されて、一心発起で家を出たのは良いけれど、乗り慣れていない身には、あまりにも大雑把な行先表示で、どの電車、どのバスに乗ったら良いのか分からない。駅員さんに尋ねようにも、肝心の駅員さんが人員削減?人手不足?でいない。考えあぐねた末に乗り込んだバスは、目的地とは全く違う方向に。諦めて、バスを降りて、そこからタクシーで家に帰ろうにも、スマホを振ってもふるくる圏外。半日程度の気軽な非日常トリップのはずが、1日がかりの散々な疲労困憊旅に暗転。こんな酷い思いをするのなら、家にいる方がず~っとましだ! …HISAKOの父親の出不精の原因は、正にこのパターン。安心して外出できるプランを提案して、安心して外出が出来る機会を作りましょうとアドバイスされても、中々、父親のトラウマ(←JTBの旅物語)を拭い切れないのが一人娘の苦悩です。言うは易く行うは難し…。

 交通機関を利用しなくても良い近場でも、友達がいない、若しくはいなくなってしまった(≒亡くなってしまった)、趣味の活動等がない、若しくは90過ぎてラグビーは流石にプレーは無理(しかしながら、友達の90歳の父親は、昨年も旭川のハーフマラソンを完走したそうです。凄い!)等々と外出の機会が乏しくなります。周囲の人間が、外出の機会を作ったり、活動に誘う事も重要です。教科書には、ゲートボールやグランドゴルフ等は高齢者にも馴染みやすいスポーツとの記載がありますが、まあ、ケースバイケースかな。

 しかしながら、人間は、全員が全員、社交的と言う訳ではなく、他人と交わる事が苦手な人もいます。その様な人を無理やり外に引っ張り出す事は、却って逆効果。引きこもりのぼっち愛好家には、その人に適した、お家で出来る認知症予防のアドバイスをしてあげるのがお約束。例えば、アロマセラピー。幾つかの報告によれば、昼間は、嗅覚・認知機能改善効果が期待出来るローズマリー・カンファーと檸檬をブレンドした香りを、アロマペンダントで。夜間は、睡眠の改善効果がある真正ラベンダーとスィートオレンジをブレンドした香りを、アロマディフーザーで拡散させるのが推奨されるそうです。

 因みに、博報堂生活総合研究所によれば、2023年に25~39歳男女に対して「ひとり意識・行動調査」を実施し、1993年の調査結果と比較したところ、ぼっちを志向する生活者が大幅に増加し、その意識と行動に大きな変化が起きている事が分かったそうです。 2023年の調査では、「ひとりでいる方が好き」な人は56.3%にのぼり、1993年からは+12.8ポイント増加して過半数を超えました。また、「意識してひとりの時間をつくっている」人の割合は1993年の27.3%から49.1%に大幅に増加。「ひとりで没頭できる趣味を持っている」人は58.1%から74.8%に、「趣味・遊びは、みんなよりひとりでやる方が好き」な人も31.9%から44.2%に増加した。 また、行動の違いも顕著に表れています。「ひとりで行きたい場所」については、「喫茶店・カフェ」が20% から53.4%、「ファストフード」が20.9%から46.7%、「映画館」が18.1%から37.5%になり、30年前と比較して2倍以上に増加。以前は誰かと一緒が多かった場所でも「ひとりで行きたい」が大幅に増えました。 「喫茶店・カフェにひとりでいてもつらくない時間(待ちあわせ以外)」について、「120分以上」の割合は7.2%から42.7%に大幅に増加。平均時間も49分から114分とほぼ倍に増えた。 年代別で見ると、1993年の比較で全ての世代で「ひとりでいる方が好き」が増加し、20代後半で53.3%、30代前半で59.5%、30代後半で56.0%となりました。性別でも男女とも10ポイント以上増加したんだそうです。

大気汚染

大気汚染と認知症

 大気汚染(及び粒子状汚染物質)には、脳に対する潜在的な影響がある可能性が指摘されています。動物モデルでは、大気中の粒子状汚染物質が、脳心血管疾患、アミロイドβの沈着、アミロイド前駆体蛋白質のプロセッシング等を通じて、神経変性プロセスを加速させる事は知られています。

 2017年に発表されたカナダのトロント大学のChenらの研究では、オンタリオ州に住む人々(約6600万人)の認知症やパーキンソン病等の発症率と排ガスについての関連性が調査されました。調査対象は、主要道路から居住地域までの距離が50m未満から300m以上は難れたエリアに居住する住民です。認知症発症の調整ハザード比でみると、50m以内に住んでいる場合は、1.07、50~100mの場合は1.04、101~200mの場合は1.02、201~300mの場合は1.00と、主要道路から距離が近い程認知症の発症率が高い結果でした。詳細な分析では、都市部、特に大都市に住む場合には、所要道路から50m以内の住人では、認知症の発症率が最大で約10%程度増加するとの結論でした。

 

代表的な大気汚染物質PM2.5と認知症

 大気汚染物質として最近の注目株と言えば、微小粒子状物質2.5(particulate matter 2.5=PM2.5)です。PM2.5とは、直径2.5μm(1μm=0.001mm)以下の小さな粒子の事です。従来、人間の健康を保護する上で維持される事が望ましいとされる環境基準としては、10μm以下の粒子浮遊粒子状物質を指すsuspended particulate matter 10:SPM10)を基に対策がなされて来ました。しかし、PM2.5はSPM10に比べて肺の奥深くまで到達しやすく、呼吸器系への影響に加え、循環器系への影響も懸念されています。

 アルツハイマー型認知症は、原因物質の一つであるアミロイドβと称される異常蛋白質が、脳内に蓄積する事によって発症します。大気汚染のうち、PM2.5の濃度とアミロイドβの蓄積には関連性があるとの報告が既になされています。

 APOE遺伝子は、アミロイドβの蓄積や凝集を司る物質で、APOEε4の保有者は、非保有者に比べてアルツハイマー病の発症リスクが高くなります。Cacciottoloらは、米国48州の65~79歳の高齢女性を対象に、米環境保護庁が設定した微小粒子状物質の基準を超えた汚染地域に住む高齢女性は、アルツハイマー病を含む認知症になる確率が92%高い事を報告しました。特に、APOEε4を2つ保有する場合は、更にリスクが高くなり、認知症の発症率は295%高くなるとも報告しています。大気汚染物質が、高齢女性に於ける認知症リスクを上昇させるのは、明白な事実なようです。同時に行ったマウスの実験結果から、都市大気中の微粒子に曝される事で、アミロイド蓄積と神経変性を高まるとの可能性が示唆されました。これらのデータは、空気中のPM2.5による神経変性作用が、脳の病的老化とアルツハイマー病の主要な遺伝的危険因子であるAPOEε4と相互に関係している可能性を示すものであり、年を取ったら、大気汚染の少ない場所に住む事が認知症の発症予防にも繋がると推測されます。

 

その他の大気汚染物質と認知症

 PM2.5以外の大気汚染物質で、認知症との関連が疑われるものとしては、2023年のメタアナリシスから、二酸化窒素、窒素酸化物、オゾン等が候補物質として報告がなされていますが、いずれもデータ不足もあり、有意な説明因子ではありません。


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。