巻き爪治療の新局面!リネイルゲルを塗って柔らかくした巻き爪を、巻き爪マイスターで形を整え(矯正)、そのまま固める。旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2023年10月号

巻き爪マイスターの友「リネイルゲル」

近年の巻き爪治療の主流は、矯正具を装着する事によって過度な彎曲を改善させる矯正治療ですが、治療期間が数週から数ヶ月かかり、厚くて硬い爪にはしばしば有効性が低く、短期間で再発しやすいのが難点でした。
その欠点を改善すべく、マルホ株式会社から巻き爪マイスターの友「リネイルゲル」が発売されました。有効成分のアセチルシステインが、24時間限定で、頑固なまでに治療に抵抗する固い爪を軟化させ、巻き爪マイスターによって矯正されやすい従順な爪にします。勿論、24時間後に薬液を洗い流せば、爪は矯正された形状で再硬化しますから、装具を外しても、矯正された良い形状を維持出来るって寸法です。大幅に治療期間が短縮し、巻き爪マイスターを始めとする爪矯正具単独に比べ、大幅に再発率が低下します。

 頑固な巻き爪には、如何に強力なバネを内蔵した巻き爪マイスター(美容通信2021年11月号)と言えども難渋します。リネイルゲルは、世の中に横行する手作りバレンタインチョコを彷彿とさせる、殆どずるっこみたいな薬液ですが、恋愛成就。結果良ければ全て良しなのです。

 私は、手作りバレンタインチョコは、作った事も貰った事もありません。が、チョコを湯煎して、溶かして、ハートの型に流して、固めれば、恋が叶うんですよね? リネイルゲルも原理は同じ。お手軽に、巻き爪から卒業しましょう。

リネイルゲル

 リネイルゲルは、爪の軟化に着目し、巻き爪矯正の補助を効能・効果とする外用薬です。つまり、医療機器である、巻き爪マイスターの様な爪矯正具と併用する事を前提とした薬液です。つまり、単体で使用したところで、全く矯正効果はありません。

 リネイルゲルは、後述の通り、皮膚に対する刺激性があります。塗るのは、あくまでも巻き爪マイスターを装着した爪だけです。爪周囲の皮膚に付着しないように細心の注意を払って取り扱いをする必要があります。

 リネイルゲルの前提と言うより、巻き爪マイスターの装着に耐えられないような脆弱な爪には、そもそも使えません。亜鉛や鉄、蛋白質等の材料の補充(栄養療法)(美容通信2007年3月号)から始めなければならないなんて人も、実は多くいます。靴(美容通信2004年6月号)や歩き方や筋肉のアーチの状態等(美容通信2014年6月号)も巻き爪の大いなる原因ではありますが、そんなものに屈してしまう軟弱な爪である、つまり曲がる事でしかその靴と折り合いを付けられない…。あっ、爪水虫(美容通信2022年11月号)の存在も原因になりますが、これは、巻き爪マイスターの前にクリアしておくべき疾患と言うか…、爪水虫の所為で巻いているので、爪水虫が治ったら、巻き爪が気にならなくなる事が殆どだし(笑)。

 つまり、回りくどい言い方をしましたが、理由があるから、爪は巻くんです。巻き爪マイスターを外しても、リネイルで正しい形状に再硬化して整えられた部分の爪が、暫くは(見えない)爪矯正具として働いてくれます。しかし、爪は伸びます。新しく生え伸びて来た爪が曲がらざる得ない理由が改善されていなければ、ある日を境に、再発します。リネイルゲルは、巻き爪を根本的に治す治療方法ではなく、時間稼ぎの道具でしか過ぎませんが、非常に画期的で、有用な道具なんです。

 臨床試験では、後述の様に8日後に矯正具を外していましたが、通常は、2週間から4週間後に矯正具を外します。巻き爪マイスター単独では半年から、場合によっては1年近くも矯正に要した期間が、半減以上に!短縮が可能です。まあ、ぶっちゃけてしまえば、それ以上矯正具を着けていても、改善の見込みがあまりないので、爪が割れたりしても困るだけなので、取り敢えず外そうってだけなの話なのですが。

薬効薬理

■作用機序

 リネイルゲル10%の有効成分であるアセチルシステインは、爪のケラチンに含まれるシスチンのジスルフィド結合を還元して開裂し、爪の微細構造や強度に影響を与える事で、爪を軟化させます。軟化した爪に矯正具が作用し、頑固に巻いた爪が容易に平に伸びます。リネイルゲルを24時間後に洗い流すと、ピーンと真っ直ぐに矯正された状態を保ったまま、爪が再硬化。巻き爪に対し、持続的な治療効果が期待出来るって寸法です。

■爪軟化作用(in vitro

 10%及び30%アセチルシステインゲルを、3時間、6時間、24時間塗って、爪の軟化作用がどうなるかを評価しました。

 爪の最大荷重(爪の硬度の指標)は、下記の通り。

 

 又、塗布24時間後に爪切片から製剤を除去し、軟化した爪の再硬化を24時間ごとに経時的に評価した結果は、下記の通りでした。

国内第Ⅲ相試験:検証試験

■試験概要

【目的】第1趾の巻き爪を対象に、本剤と爪矯正具(巻き爪マイスター)を併用した際の有効性の検証と安全性の評価。

【対象】同意が得られた12歳以上で、評価対象である第1趾の巻き爪の遠位爪幅狭小化率が20%以上、50%以下の患者79例(リネイル群40例/プラセボ群39例)。

*狭小化率:巻き爪の重症度判定を客観的に行う為に考案された評価法。爪甲表面に沿って計測した横幅(実寸幅)に比べて、彎曲によって実際の横幅(爪甲遠位での両側縁幅)がどの程度狭小化しているかを示す事で、彎曲の程度、即ち巻き爪の重症度を数値化。下図は、日皮会誌. 2016(崎山とも 他)より引用。

【方法】第1日に評価対象の第1趾に、巻き爪に爪矯正具を装着後、巻き爪周囲の皮膚を指定のマスキング剤で保護しました。巻き爪の爪甲全体に割り付けられた治験薬約0.5gを塗布後、指定の被覆材の不織布部分を爪甲に合うように乗せて、爪甲を含む第1趾を覆うように被覆材を貼付しました。治験薬は、24時間後に除去し、第8日に爪矯正具を取り外しました。

■有効性の評価結果

  • 第8日に於ける狭小化率70%の達成率(検証的解析結果)

   第8日に於ける狭小化率70%の達成率は、リネイル群で47.5%(19/40例)、プラセボ群で25.6%(10/39例)でした。群間差は21.9%であり、プラセボ群と比較してリネイル群が有意に高く、リネイルの有効性が検証されました。

  • 第8日に狭小化率が70%に到達し、矯正具を外した患者(リネイル群18例/プラセボ群10例)を対象に、狭小化率が再度50%以下になる、つまり、再発してしまうまでの日数と再発率

    狭小化率50%以下になるまで、要した日数のグラフは右図の通り。

   また、狭小化率50%以下、つまり再発してしまったのは、リネイル群で11.1%(2/18例)、プラセボ群で60.0%(6/10例)でした。

■安全性の評価結果

  • 治験薬と関連あり

   本試験に於いて、リネイル群での治療薬に起因する副作用は報告されず、プラセボ群では、爪の破損、適応部位の損傷、疼痛、感染症等の副作用があり、15.4%(6/39例)でした。

  • 爪矯正具と関連あり

   本試験に於いて、リネイル群で認められた爪矯正具と関連があった副作用は、15.0%(6/40例)であり、主な副作用は、適用部位損傷及び適応部位の疼痛で、いずれも5.0%(2/40例)でした。プラセボ群で認められた爪矯正具と関連ありの副作用は38.5%(15/39例)であり、主な副作用は爪破損20.5%(8/39例)、疼痛7.7%(3/39例)、適応部位の損傷5.1%(2/39例)でした。

リネイルゲルは、巻き爪マイスター限定の友?

 先ずは、リネイルゲルを塗る前に、爪矯正具(巻き爪マイスター)の装着を行います。他の爪矯正具との併用もありなんでしょうが、なんせ、囲い込みを旨とするマルホ株式会社は、そもそも、巻き爪マイスター以外の爪矯正具と併用して臨床試験を行ってすらいないので、その効果については不明です。それどころか、リネイルゲルは、金属を腐食して、ニッケルを溶出させる可能性があるアセチルシステインを主成分としています。金属溶出が高値を示した爪矯正具が直ちに使用不可と断言は出来ませんが…、どう考えても望ましくないのはご推察の通り。話題のチャットGTPで質問すると、回答は以下の通り。優秀だわぁ。使える! 「ニッケルは、接触した皮膚に対してアレルギー反応を引き起こすことがあります。また、ニッケルの蒸気を吸い込むと、呼吸器系に影響を与えることがあります。さらに、長期的な曝露によっては、肺がんや鼻腔がんのリスクが増加する可能性があるとされています。」 

【試験概要

  • 目的

   巻き爪治療に使われる医療機器のうち、代表的な爪矯正具を併用した場合の変化を評価しました。爪矯正用ワイヤー(ソルブ)(美容通信2008年12月号)は、以前HISAKOの美容通信でも特集したので、馴染みが深いかも。凄く粗野と言うか…構造がシンプルなので、条件が揃わないと装着の適応にもならない巻き爪マイスターと違い、適応範囲が恐ろしく広いのが強みかな。クリニックでも、巻き爪マイスターを留めるだけの爪に余裕がない時は、迷わずワイヤーです。

  • 方法

   リネイルゲルに、32℃で24時間、爪矯正具を浸漬させ、本剤の色調及びニッケル(Ni)の含有量を確認しました。事前検討の結果から、Ni以外の溶出を殆ど認めなかった為、対象元素はNiのみとしました。

  • 結果

   リネイルゲルの色調は無色で、浸漬前後で変化はありませんでした。Ni含有量は、巻き爪マイスター、巻き爪ブロック(ファインハーツ)、巻き爪クリップ(レキットベンキーザー・ジャパン)、巻き爪リフト(JPS)及びマルチワイヤー(多摩メディカル)については、参考濃度限度値(3.5μ/g)を下回る値でした。ネイルエイド(ひまわりコーポレーション)は参考濃度限度値を上回り、爪矯正用ワイヤーについては規格毎に何故かNi含有量が異なり、0.35mmと0.5mm以外の他の規格(0.4mm・0.45mm・0.55mm・0.6mm)については上回りました。

 また、リネイルゲルが、爪矯正用ワイヤー等を固定する際に使用する接着剤等にどのような(悪)影響を及ぼすかも分かっていません。まあ…、どっちにしろ、リネイルゲルは、巻き爪マイスター限定にしておくのが無難って事です。

リネイルゲルの使い方

 リネイルゲルの使用前及び使用中の爪に、ペディキュア等の化粧品を使わない事が、大前提。

 巻き爪に巻き爪マイスターの様な爪矯正具を装着後、爪甲全体に適量を塗布し、約24時間後に水又はお湯で洗い流します。リネイルゲルは、皮膚刺激性がある薬液なので、塗布部周囲の皮膚等に付着しないように、テープ等を使用し、皮膚を保護する必要があります。

 また、12歳未満のお子ちゃまでの臨床試験自体行われてないので、大人だけに許されたお薬とご理解下さいませ。

 

塗布の方法

リネイルゲルによる副作用発現防止の為、Aテープ(マスキング材)で爪の周囲を保護してから、リネイルゲルを塗ります。

1.爪矯正具(巻き爪マイスター)装着に伴う処置をします。(角質除去等)
2.爪矯正具(巻き爪マイスター)を装着します。爪矯正具(巻き爪マイスター)の装着方法については、以前特集した巻き爪マイスター(美容通信2021年11月号)を参考にして下さいね。
3.Aテープ(マスキング材)を切り取り線で切り離し、リネイルゲル付着防止の為、爪の周囲ぎりぎりまで貼って、爪周囲の皮膚を隙間なく保護します。


4.リネイルゲルを、爪矯正具(巻き爪マイスター)を装着した爪甲全体に塗布します。使用量の目安としては、第1趾につき1包(0.5g)です。爪周囲の皮膚等にリネイルゲルが付着しない様に、注意して塗って下さい。

5.リネイルゲルを塗布した爪の上に、Bテープ(被覆材)を貼ります。この際、Bテープを強く巻き過ぎると、薬剤が流出する恐れがあります。特に下線部の処置では、ふんわりと巻き付けるのがポイント!


6.24時間、放置プレイ! ですが、大事なポイントが、この間、治療部位は、絶対、水や湯に濡らさない事。もし、万が一、濡らしてしまったら…、濡らしてしまった時の対処法をご参照下さいませ。
7.リネイルゲル塗布の約24時間後、爪矯正具は外さずに、そろっとA・Bテープを外して、水や湯で爪周囲だけでなく爪甲表面にも薬液が残留しない様に、良く洗い流します。
8.爪が矯正され再硬化するまで、爪矯正具は外さないで下さいね。

 

想定外の事態に、慌てない為に

■リネイルゲルを塗ってから24時間までの間に、水に濡れた場合の対処方法

 Aテープ(マスキング材)・Bテープ(被覆材)がきちんと装着維持されていないと、爪周囲のマスキングがされていなので、リネイルゲルが周囲の皮膚を刺激する危険性があります。これらのテープをとっとと外して、水や湯で洗浄して下さい。それでも何かしらの症状がある場合は、直ぐにクリニックにご連絡の上、来院下さい。
 唯、リネイルゲルの再投与に関する情報自体は、ありません。爪の軟化や巻き爪の矯正具合、リネイルゲルの有効性および安全性を考慮の上で、まあ、ケースバイケースの対応になると思います。

【参考情報】in vitroにて、ヒト爪資料にリネイルゲルを塗布した場合、24時間まで時間依存的に軟化作用を示したそうです。

■リネイルゲルを塗ってから24時間経つ前に風呂に入るのは、×

 処置当日は、出来るだけ入浴は避けましょう。リネイルゲルを塗布しているところを水や湯で濡らすと、リネイルゲルが漏れ出して、折角の効果が落ちたり、カブレる等のトラブルを起こしてしまうかも。風呂に1日くらい入らなくても、大丈夫! それでも、せめてシャワーだけでもと泣いて懇願されたら…、決して推奨はしないけれどって前置き付きで、治療部位を濡らさないようにビニール等で保護して浴びるかなぁ。

■リネイルゲル治療後に、ナント、爪矯正具が外れてしまった!

 爪矯正具(巻き爪マイスター)を、もう一度装着して巻き爪治療を継続するかどうかは…、巻き爪の矯正具合、爪の再硬化を踏まえて、これまた、ケースバイケース。
 参考までにですが、第Ⅲ相試験では、爪が再硬化するまでの期間を踏まえて、リネイルゲル治療から7日間は矯正具による治療を継続しており、リネイルゲル塗布7日後以降に巻き爪の改善が見られた時点で、爪矯正具(巻き爪マイスター)を外しています。
 またin vitroでの24時間塗布し、リネイルゲルを除去した後の爪の再硬化は、除去後96時間で塗布前の70%程度まで回復しています。

■リネイルゲルを塗布してから24時間までの間に、テープが剥がれた!

 テープ(マスキング材)・Bテープ(被覆材)がきちんと貼れていないと、爪周囲のマスキングが出来ず、リネイルゲルが周囲の皮膚を刺激してしまう可能性があります。速やかにテープを剥がし、水や湯で洗浄しましょう。それでも何かしらの症状がある場合は、直ぐにクリニックにご連絡の上、来院下さい。
 また、リネイルゲルの再投与に関する情報はありません。爪の軟化や巻き爪の矯正具合、リネイルゲルの有効性及び安全性を考慮の上で、どうするのが最善の策かを検討する必要があります。

■使い終わったAテープ(マスキング材)・Bテープ(被覆材)の廃棄方法

  リネイルゲルを使用した後のAテープ、Bテープは、家庭ごみとして廃棄出来ますが、基本は、各市区町村の収集方法に従って下さいね。

■正規品ではなく、他のテープ類で代用可能!

 他のテープで代用は可能ですが…、その際は防水性の高い正規品と同等以上の性能である事が求められます。

■リネイルゲルを塗布してから24時間後にテープを外して治療部位を洗い流す時に、爪矯正具が外れないようにするにするコツ

 爪矯正具(巻き爪マイスター)が外れないように指で押さえながら、Aテープ(マスキング材)・Bテープ(被覆材)をゆっくり外します。この際、A・Bテープを爪先側に引っ張って外そうとすると、爪から爪矯正具(巻き爪マイスター)が外れてしまいます( ;∀;)。外す方向にもご注意下さい。水や湯で洗い流す時に、指やブラシ等で強く擦るのも禁です。
  テープを自分で剥がす自信がない場合は、施術の24時間後にクリニックにお越し下さい。自分でちゃんと剥がせるようなら、2週間から4週間後の再診で十分です。
 
 

 

*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

*治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

 

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