褐色脂肪が、体脂肪を燃やす | 旭川皮フ形成外科クリニック旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2018年8月号

褐色脂肪が、燃える。

糖尿病や高血圧などの生活習慣病の原因の一つは、肥満とされています。肥満とセットで語られる(体)脂肪は、白色脂肪組織です。ところが、私達の体には、白色脂肪の他に褐色脂肪があります。
褐色脂肪は、「私達人間は大人になると、殆ど消失し、もし仮にあったとしても極く微量で、その生理的役割は殆ど無視出来る」と考えられていました。ところが最近、この定説が覆され、「ある程度の褐色脂肪は大人になっても存在し、エネルギー代謝や体温、体脂肪の調節に寄与している」事が明らかになりました。更には、「褐色と白色の両細胞共に、共通の脂肪前駆細胞から分化する」と言う従来の考え方に対し、「褐色脂肪細胞は、骨格筋細胞と共通する前駆細胞に由来する」事も明らかにもなりました。新しい発見続々の、褐色脂肪に関するトピックスも交えて、「燃える!褐色脂肪組織」特集です。

 『脂肪の塊』(しぼうのかたまり、原題: Boule de Suif )は、ギ・ド・モーパッサンが1880年に発表したフランスの短編小説。モーパッサンの出世作であり、その数多い短編小説の中でも最も有名な作品の一つである(Wikipediaより)。

 飯倉の交差点のそばに、脂でギトギトのアンドゥイエットを供するフレンチの店があります。脂は旨い。再来月号では、脂身そのものである白色脂肪組織に焦点を当てます。今月号は、もう一つの脂肪である褐色脂肪についての特集です。今月号と再来月号併せて、白と褐色の脂肪!特集です(笑)。

褐色脂肪組織の一般常識

哺乳類の脂肪組織は、大きく2種類に分けられる

 哺乳類の脂肪組織は、白色脂肪組織と褐色脂肪組織の二種類に分けられます。前者の白色脂肪組織は、私達にとって余分なエネルギーを、中性脂肪って形で細胞内に溜め込んでおいて、いざって時に、その必要性に応じてエネルギーを全身に供給する、謂わば備蓄庫みたいな組織です。これに対して、全く正反対の機能を有する、つまり燃えさかるストーブみたいな存在が、褐色脂肪組織Brown adipose tissue(BAT)です。

 460年ほど前に、コンラッド・ゲスナーらによって、冬眠動物のモーマットから見出されました。褐色脂肪組織も脂肪組織の一員である以上、白色脂肪組織同様に、細胞内に多量の中性脂肪を蓄えていますが、細胞内に存在する熱産生機構を利用して、余剰エネルギーを積極的に消費します。最近になって、白色脂肪組織の癖に、褐色脂肪みたいな行動を取るベージュ細胞!なるものも発見されました。褐色と白の中間だからベージュ…。見たまんまの名前っちゃあ、名前です(笑)。

■褐色脂肪組織の見た目

 白色脂肪組織は、皮下や消化管、生殖器等の周囲に、大量にベタ~っと貼り付いています。それに対し、褐色脂肪組織は、肩甲骨の辺りや腎臓の周囲、胸部大動脈の周囲等ですかね、本当に限られた部位に、それも申し訳程度にちょろんとへばり付いてます。

 褐色脂肪細胞は、単一の脂肪滴が含まれている白色脂肪細胞とは対照的に、多数の小さな脂肪滴を含んだ多房性の構造で、物凄~い数のミトコンドリアが含まれています。その呼吸色素蛋白質シトクロムの所為で、特有の褐色に見えるんです。

 褐色に見える理由はそれだけではなくて、良く発達した毛細血管の血液の色も関係しています。褐色脂肪組織は、熱産生/エネルギー消費の場ですから、豊富な血流によって多量な酸素や栄養素が供給されなければなりませんし、同時に、発生した熱で温められた血液が全身に速やかに拡散!する必要があるから毛細血管が発達しているんですね。

 褐色脂肪組織には、交感神経が密に張り巡らされています。交感神経は寒冷刺激等で活性化され、褐色脂肪組織に直接作用。熱産生の引き金を引きます。

 

褐色脂肪組織に於ける熱産生

  褐色脂肪組織は、新生児や冬眠動物では特に豊富にあります。この脂肪組織があるおかげで、動物や新生児は体を震わせないで体の熱を生成する事が出来ます。

  ノルアドレナリンが褐色脂肪細胞上のβ3受容体に結合すると、UCP1(脱共役タンパク質)(美容通信2014年11月号が生成され、ミトコンドリアで脱共役が起こり熱が産生されます。この熱産生の主な熱源は、褐色脂肪細胞内に蓄積されている中性脂肪から分解遊離される脂肪酸です。脂肪酸は、結合蛋白質(H-FABP)によってミトコンドリアに運ばれ、酸化分解されます。ですから、冷凍庫に閉じ込められたままとか、極寒の旭川の買物公園に長時間洲巻状態で放置されたりすると、熱産生も長丁場になり、褐色脂肪組織の中性脂肪はどんどん激減し、それに従い、組織自体の色も濃い赤褐色に変わって行きます。

 しかしながら、こんな燃焼が長期間に亘ると、遂には熱源(褐色脂肪細胞内の中性脂肪)が尽きてしまうのでは?と不安に思う方がいるかも知れません。大丈夫♪ 細胞外(血液中)のリポ蛋白質中の脂肪酸やら、白色脂肪組織由来の遊離脂肪酸も取り込んで、どんどん燃やしてしまいます。褐色脂肪自身も、グルコースからの脂肪酸合成をUPさせ、自らも細胞内に中性脂肪の蓄積を補充するようにバージョンアップ!しますしね、余計な心配、杞に過ぎません。

 因みに、日本人を含めた黄色人種では、このβ3受容体の遺伝子に遺伝変異がある人が多く、熱を産生する事が少ない反面、カロリーを節約して浪費を慎む!ので、この変異した遺伝子は節約遺伝子美容通信2010年3月号と呼ばれています。HISAKOが、ぽっちゃりを通り越してデブと称されるのは、実はこの節約遺伝子の賜物?なんです。

 

褐色脂肪組織に於ける熱産生の調節

■ストーブのスイッチを入れるのは、脂肪酸の存在

 褐色脂肪組織にUCP1があろうとも、当たり前ですが、それだけで熱産生のスイッチが入るものではありません。ストーブのスイッチを入れる=UCP1活性の抑制を解除するモノが必要です。長鎖脂肪酸が、最も効果的な解除シグナルです。

■交感神経-βアドレナリン受容体系によって、リパーゼが活性化されて…それで、脂肪酸が遊離する。

  褐色脂肪細胞の中とはいえど、通常は、細胞内の遊離脂肪酸の濃度は低く保たれていて、UCP1を活性化するにはあまりにも役不足です。

 褐色脂肪組織に密に張り巡らされている交感神経が、寒冷刺激等を受けて興奮すると、その神経終末から、大量のノルアドレナリンが分泌されます。これ脂肪細胞膜上のβアドレナリン受容体に作用すると、まあ、ちょっとした紆余曲折!があって(笑)、ホルモン感受性リパーゼが活性化。これにより中性脂肪の加水分解が驀進し、大量の脂肪酸が遊離します。

 実は、ノルアドレナリンは白色脂肪組織に作用すると、褐色脂肪組織に対するのと同様、脂肪分解が起こります。が、脂肪酸は、白色脂肪細胞の中では殆ど分解がされず、血中に放出! エネルギー源として、筋肉や褐色脂肪組織で利用されます。ですから、この系全体が活性化すると、白色脂肪組織の脂肪が分解され、褐色脂肪組織で熱に変換・消費される寸法です。

 因みに、βアドレナリン受容体としては、β1、β2、β3の3種類が良く知られています。β1は心臓、β2は気管支等に豊富に存在しています。β3は、脂肪細胞にほぼ特異的に発現しているので、他の臓器や細胞に余計な迷惑を掛けずに脂肪細胞だけにアプローチするなら、白にも茶色にも効くβ3選択制作動薬でデブを改善!するのが、理論上は◎って事ですよね。…唯、マウスやラット、犬の抗肥満効果は認められてはいるにもかかわらず、β3アドレナリン受容体の構造が動物種間での差が大き過ぎて…、人間様用のお薬の開発には、まだまだ道半ば以下のようです。

 

褐色脂肪組織の使い道

■体温調節

 冬眠動物の場合は、冬眠から覚める時の迅速な体温上昇には不可欠です。

 ラットやマウスを寒冷暴露すると、褐色脂肪組織が活性化して、体温低下を免れます。暴露じゃなくて長期間の放置プレイすると、UCP1遺伝子の発現はUPするし、ミトコンドリアも増加。褐色脂肪組織そのものも、増生・肥大するんだそうです。

 まあ、唯、これだけが寒冷環境下での体温維持に必要かと問われれば、そりゃあ、骨格筋の不随意運動による(ふるえ)熱産生との兼ね合いもあるし、皮膚からの熱放散の抑制も関与しますしね。中々一筋縄ではいきませんですニャン。

■病的発熱

 感染や炎症時の発熱feverにも、褐色脂肪組織が関与すると言われてます。が、褐色脂肪組織が殆どなくなってしまった大型の哺乳動物でも病的な発熱は起こるので…何か他の代謝的熱産生メカニズムはあるんでしょうねぇ…。

■食事後の熱産生

 ご飯を食べると、エネルギー消費が数時間に亘って増加する現象を、「食物の特異動的作用」とか「食事誘導熱産生」と言います。この熱産生は、消化管の運動や、消化液の分泌、消化産物の吸収、アンモニアの解毒等に要するエネルギーで、食事エネルギーの約10%とされています。この食後の熱産生の一部にですが、褐色細胞が関与しています。

 食事、それも美味しい食事は、口腔咽頭部を刺激し、交感神経‐褐色脂肪を活性化し、食後の熱産生を高める事が分かっています。実際、ラットの実験でも、流動食を口から食べさせるのと胃に直接流し込むのでは、前者の方が交感神経‐褐色脂肪を活性化します。つまり、美味しい物をゆっくり噛んで食べる(=早食いを避ける!)だけでも、褐色脂肪は頑張れる!って事です。

■エネルギー消費の自動調節

 ご飯とは別に、スナック菓子等の嗜好性が高い別腹系を好き勝手に食べれば、当然、誰だってデブ化します。人だけではなく、ラットやマウスにも同じ事が起こります。でも、激しくデブ化する系統とそうでもない系統がいるんです。何が違うって? 前者の超デブっちょ系統では褐色脂肪のUCP1が誘導されないのに対し、後者のあんまりデブにならない系統ではUCP1が増加します。つまり、過剰に摂取したエネルギーの、全部ではなく一部!ではありますが、積極的に消費・散逸させて、体脂肪として蓄積させないシステムが働いているのです。

 因みに、食べ過ぎとは反対の小食や絶食では、自ずとエネルギー消費を減らすエコ体質になりますが、褐色脂肪組織も不活性となり、組織自体も萎縮する事が知られています。収入が減れば、切り詰めて節約生活するし、収入が増えれば、それなりに消費は増える。まあ、私達の生活と、私達の体の中の褐色脂肪組織のする事は、似たり寄ったりって事なんですかね(笑)。

 

褐色脂肪の異常と病気

■私達人間でも、褐色脂肪は肥満に関わっている!

 私達人間様の褐色脂肪組織は、新生児期には認められますが、成長に伴って減少し、大人になるとないか、あったとしても極く微量で、その生理的な意義は無視出来ると、長らく定説とされておりました。が、最近の行術の進歩(FDG-PET/CT)に伴って、大人にもちゃんと褐色脂肪細胞がある!って事が明らかになって来ました。しかも、夏には褐色脂肪が検出されなかった人でも、冬になると検出されるようになったりと、褐色脂肪の消長は一方向性ではなく、条件次第で再び機能が高まる可逆的変化なんですね。つまり、条件を整えれば、そしてある程度の継続的な刺激で、褐色脂肪の再活性化・増量は見込めるって事なんです。

 人間でも、褐色細胞活性はデブっちょでは低下を示しており、マウス等の他の動物と同様に、低下が肥満の一因なのは確かなようです。年齢と共に褐色脂肪活性は下がり、反対に体脂肪は増えて、中年太りになる傾向はありますが、中高年でも活性が高い状態を維持している人にはデブはおらず、20歳代のスリムな体型を維持している事も分かっています。どうも、中年太りの様に、長期間に亘って少しづつ少しづつデブ化するものに関与しているみたいです。

■褐色脂肪とメタボの間接的および直接的関係

 肥満、特に内臓脂肪の過剰蓄積は、高血圧や耐糖能低下(インスリン感受性低下)、脂質代謝異常等の生活習慣病・メタボリックシンドロームのベースになっていますが、そもそもの肥満に褐色脂肪は関与しています。皆が、何となく知ってる間接的関与って奴ですね。

 最近は、糖や脂肪の代謝異常に、直接!褐色脂肪が関与しているのではないかと考えられています。動物実験ですが、寒冷に順化させて褐色脂肪を無理矢理活性化・増量させると、インスリン感受性が高まるだけでなく、褐色脂肪への血中中性脂肪やグルコースの取り込みがぐぐぐ~んと増加し、これ等の血中濃度の異常が是正される事が報告されています。人間でも何らかの応用が出来るかも知れない、これから発展性が期待出来る分野ですね。

■その他の病気

  • 褐色細胞腫
  • バセドウ病

   甲状腺ホルモンのうちのT3(美容通信2015年3月号)は、褐色脂肪細胞の分化やUCP1発現を促進するので、甲状腺機能亢進すると消費エネルギーは増大するんですが…、バセドウ病で褐色脂肪が増えたとか、機能低下症で減ったって報告は今のところないんですけど、ねぇ。

 

褐色脂肪を活性化して、デブ化を防ごう!

■冷や水を浴びせる?

 褐色脂肪を活性化する最も強力且つ生理的な方法と言えば、寒冷暴露に他なりません。が、動物実験レベルでは、抗肥満効果が証明されてはいますが、人間では極めて「?」。ネット等では、「背中の肩甲骨間に、冷水シャワー」とか「氷冷したペットボトルを両手に持つ」etc.の、な~んのエビデンスもないダイエット記事が氾濫しておりますが…、まあ、実際的に継続する事自体が困難だから、問題もないのか…と妙に納得(←おいおい、納得して良いのか(笑)?)。

■β3アドレナリン受容体を薬で刺激

 寒冷刺激の代わりに、褐色脂肪細胞を直接刺激💛 マウスやラットだけでなく、犬でもβ3アドレナリン受容体作動薬で痩せるところまでは研究が進んではいるのですが…、何せ、受容体の構造に動物種差が大きく、未だ人間様にヒットする薬の開発まで至らずって言うのが現状です。

■お手軽な褐色脂肪の活性化方法は?

 薬物や寒冷刺激って方法は、現実問題としては、かなり難しい面があります。代用品ではないですが、食品としては、私達人間でも、カプサイシンやそのご親戚のカプシノイドの様な香辛料で、交感神経や褐色脂肪の活性化・増量が十分期待出来ます。又、運動によっても、褐色脂肪の増生や白色脂肪の活性化が起こります。

最近のトピックス①~骨の髄から温まるとは

 褐色脂肪組織は、白色脂肪組織と違って、存在場所は可なり限局しています。私達人間様!では、鎖骨上部と傍脊椎部が主だった棲息場所です。

 まあ、褐色脂肪細胞のお里は、転写因子Myf-5を発現する筋芽細胞(骨格筋前駆細胞)です。Myf-5は、将来、背筋を形成する細胞群で発現しますから、褐色脂肪組織が、手足よりも体の中心部、腹側よりも背中側に分布が偏るのも頷けます。因みに、背筋は、抗重力筋の中でも一番赤身!で、毛細血管に富み、ミトコンドリアをわんさか飼育しているエネルギー燃焼性の高い細胞で構成されている等々と、褐色脂肪組織と実にそっくりなんです。兄弟だから、当たり前っちゃ当たり前なんですけど、ね。

 骨髄に白色脂肪細胞が存在は昔から知られていました。最近になって漸く、マウスの骨髄で褐色脂肪細胞の存在が報告され、加齢や糖尿病で減少する事が報告されました。健康人のボランティアのPET-CT検査では、鎖骨上部や傍脊椎部の褐色脂肪組織のブドウ糖取り込みが高い人(=褐色脂肪組織活性が高い人)ほど、骨髄(胸椎、腰椎)のブドウ糖の取り込みも高い事が確認されています。

 まとめると、骨髄には褐色脂肪細胞が存在していて、交感神経支配により、熱産生と造血制御を司ってるらしいっぞ!って事強く示唆されます。つまり、骨の髄から温まる事で、私達の健康が維持されてるって事なんですね。

最近のトピックス②~実は、貢君のマクロファージ

 マクロファージは、専門バカではなく、実に多彩な機能が備わった八面六臂な野郎です。自然免疫系の、先天的なって意味ですが、生体防御機構の一員として食細胞として働くと共に、炎症性サイトカインやケモカインを産生して、感染や組織損傷の起こった局所での危険因子を排除する、つまり炎症反応と言う現場では中心的な役割を果たします。更には、獲得免疫系と言う後天的な免疫系をも誘導する為の、抗原提示細胞でもあります。病原体として戦う時には、マクロファージは炎症性マクロファージに姿を変えます。インターロイキン4(IL-4)と言うサイトカインの刺激を受けると、免疫反応の調節、組織修復等の機能を有する抗炎症性マクロファージにもなります。凄い奴なんです。

 でも、それだけじゃないんです。「熱産生」って機能をも有している事が、最近の研究で明らかになりました。

 マウスを寒冷暴露すると、脳みそは神経系を介して、白色脂肪と褐色脂肪の両者に対してカテコールアミンって合図を送ります。このカテコールアミンに反応した白色脂肪から溶け出した遊離脂肪酸は、血流に乗って褐色脂肪に運ばれ、めらめら燃えます(熱産生)。しかし最近、抗炎症性のマクロファージ君が、カテコールアミンを産生する事が分かったんです。つまり、白色脂肪組織にも褐色脂肪組織にも存在しているマクロファージは、寒冷ストレスに対して、抗炎症性マクロファージに変化し、生産したカテコールアミンもまた、熱産生に関与するって構造です。念には念を、って感じですかねぇ。

最近のトピックス③~心理的なストレスで、体がカ~っと熱くなる。

 心理的なストレスを受けると、体温が上昇する。このストレス性体温上昇は、私達人間を含めた哺乳類の多くで認められる生理的な反応です。最近、この体温上昇に、褐色脂肪組織の熱産生が関与する事が分かって来ました。つまり、寒冷刺激や感染(発熱メディエーター)によって駆動される熱産生の神経回路が、心理的なストレスによっても活性化される!って事です。

 道産子も、腰にクマ除けの鈴を複数個着けて山に入ったとしても、運悪く、(難聴の!?)ヒグマに遭遇してしまう事があるかも知れません。戦うか? 逃げるか? fight or flightって状況に陥った時、どちらの選択肢を選ぶにしろ、とっとと体を素早く動かす必要があります。悴んだままにフリーズしていれば、喰い殺されます。体温が上がれば、筋肉や中枢神経も温まり、筋運動や神経機能のパフォーマンスも自ずと上がります。殆どの場合、体温の上昇と共に、脈拍や血圧の上昇も伴うものですが、筋肉や中枢神経系への酸素と栄養(エネルギー源)の供給を増やす為だからと思えば、「な~んだ、納得!」の世界です。

 尤も、道産子以外の人々がヒグマに遭遇する事は殆どないでしょうが、人対人の心理的なストレスでも、対ヒグマ時と同様に、体温や脈拍(ドキドキする!)、血圧の上昇は良く経験するところではないでしょうか?

最近のトピックス④~UCPファミリー

 脱共役タンパク質Uncoupling protein(UCP)(美容通信2014年11月号)は、約300個のアミノ酸からなる単一ポリペプチド鎖です。ミトコンドリア(美容通信2017年7月号)内膜に存在し、膜の内外にプロトン濃度勾配を形成する、まあ、端的に言えば、水力発電のダムみたいなものです。以前は、哺乳動物の褐色脂肪組織限定!とされていましたが、1990年代後半に、続々類似の分子が動植物で見つかっております。

 脊椎動物では、以下の5種類のUCP遺伝子(UCP1~5)が同定されています。

■UCP1

 褐色脂肪細胞にのみ発現するので、褐色脂肪細胞のマーカー分子とされています。ノルアドレナリンが褐色脂肪細胞上のβ3受容体に結合すると、UCP1が生成され、ミトコンドリアで脱共役が起こり熱が産生されます。

 ところが、日本人を含めた黄色人種(日本人では約16%)では、β3受容体の遺伝子に遺伝変異が起こっている事が多く、熱を産生が少ない反面、カロリーを節約し消費し難いとされています。この変異した節約遺伝子のお陰で、安静時代謝量が100kcal/日近く減弱しており、メタボリックシンドロームの誘因の可能性も指摘されています。

 因みに、UCP1は、後述するUCP2、UCP3と共に、いずれも私達の寿命に関与しています。UCP1のA-Cハロタイプが高齢者の生存に有利ですし、UCP2のrs660339は長寿遺伝子です。骨格筋に多く発現するUCP3のSNP(rs1800849)を有する人は握力が強く、握力の強い人は長寿である事が広くコンセンサスを得ています。

 こうしたUCPs効果は、uncoupling-to-survive仮説、しかもmild uncoupligによって説明されます。程々の抗酸化作用(ホルミシス(美容通信2017年10月号)(美容通信2016年11月号)により、酸化ストレスの情報伝達作用等の善玉部分が活性化される)に加えて、代謝効率がアップするからです。これは現在長寿をゲットする作戦として最も信じられている、「カロリー制限」とも重なる部分が多く、非常に魅力的です。化学的なアンカップラー(脱共役剤)の出現には、大いに期待大ってところですね。

■UCP2

 脂肪組織や筋肉、肺、脾臓、肝臓、消化管等の、殆ど全ての組織・臓器に、多かれ少なかれ発現しています。

 UCP2は、マクロファージに高発現していて、殺菌作用に重要な活性酸素とNOの産生を抑制する事で、免疫反応に関与しています。

■UCP3

 骨格筋や心臓等の筋組織や、褐色脂肪組織等に発現しています。ミトコンドリア膜電位の微調整や、活性酸素の産生調節等に関わっているとされています。が、UCP1の様な、通常条件下での熱産生が主な役割ではなさそうです。

■UCP4と5

 SLC25A27は”UCP4″ として、SLC25A14は”UCP5″ として知られています。

最近のトピックス⑤~SNP(一塩基多型)と中年太り、若しくはメタボ

 褐色脂肪に於ける熱産生を担うUCP1と、その制御に重要なβ3アドレナリン受容体(β3AR)3AR)の遺伝子にも、当たり前ですがSNP(一塩基多型)と呼ばれる個人差があります。特に、UCP1-3826A/Gやβ3AR64Trp/Argの関与については既に検証されており、HISAKOのクリニックで行っている遺伝子検査(美容通信2010年3月号)でも、肥満や減量療法効果関連で調べるのは主にこのSNPです。

 しかしながら、ここで注意をしなければならないのは、加齢に伴う肥満進展です。つまり、若い頃はSNPによるデブ度の差は殆ど認められず、中高年以降に漸く明白になるんです。日常生活に於いて褐色脂肪が行うエネルギー消費量は、多めに見積もっても、1日当たり20kcalくらいです。1年では7300kcal。体脂肪換算で、精々1Kgしかなりません。褐色脂肪細胞の機能低下では、直ぐにデブっちょになんかなれないんです。が、この微々たる差も、積もり積もれば山となります。数年後、十数年後に、初めてその差が贅肉として実感に至るのです。

最近のトピックス⑥~TRPチャンネル

 熱い、温かい、冷たい、寒い。そんな温度感覚は、transient receptor potential(TRP)チャンネルが感受します。私達は、トカゲちゃんとは違って、恒温動物ですからね。体温を一定に保つ為に、TRPチャンネルは非常に重要な役割を担っており、その反応の一つが褐色脂肪での熱産生です。

 TRPチャンネルには、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4、TRPM8、TRPA1等のサブタイプが存在し、脳みそや脊髄、感覚神経、皮膚、肺、胃、腸、肝臓等、全身に広く発現しており、それぞれ異なる温度帯の受容を担っています。

 食品によってTRPチャンネル刺激→褐色脂肪の活性化は、TRPV1についてはマウスのみならず人間も、TRPM8については現在のところマウスのみに認められています。TRPV1を刺激する食べ物としては、カプサイシン(唐辛子)とそのご親戚筋のカプシノイド、アリシン(ニンニク)、パラドール(ショウガ科植物種子)があります。TRPM8を刺激する食物としては、メントール(ミント、ハッカ)があります。

最近のトピックス⑦~卑弥呼の歯がいーぜ

 卑弥呼の時代は、1回の食事の咀嚼回数が約4000回だったんだそうな。1945年の敗戦前までは約1500回に減り、最近はそれも600回前後まで激減してしまっているのだとか。

 「卑弥呼の歯がいーぜ」と言う標語をご存知でしょうか? この標語の作成者の著書(齋藤滋:よく噛んで食べる 忘れられた究極の健康法, NHK出版, 東京)からの引用ですが、良く噛む事の8大効果が載っています。

  1. ひ:肥満の防止
  2. み:味覚の発達
  3. こ:言葉の発音がはっきり
  4. の:脳の発達
  5. は:歯の病気の予防
  6. が:癌の予防
  7. い:胃腸の働きを促進
  8. ぜ:全身の体力向上と全力投球

 厚生労働省の提唱する「噛ミング30(カミングさんまる)」のように、出来ればですが、30回は目指して下さい。

 良く噛むと、視床下部で、神経ヒスタミンと言う生理活性物質が量産され、満腹中枢を刺激します。交感神経を介して、白色脂肪を分解し、直接的にも間接的にも褐色脂肪を活性化します。ヒスタミンは血液脳関門を通過出来ませんが、その前駆アミノ酸のL-ヒスチジンを経口投与すると、脳内のヒスタミンが増えます! ヒスチジンは青背魚に豊富に存在します。

 因みに、噛む事は、デブ化を阻止してくれるだけでなく、脳みそも活性化(美容通信2018年1月号)してくれます。特に硬い物を噛む事は、脳みその血流を増やし、記憶の中枢である海馬を発達させてくれます。

最近のトピックス⑧~水中井戸端会議

 HISAKOは、金槌です。すぐ水中に沈みます。水温が体温よりも低ければ、水泳トレーニングが褐色脂肪組織を増大し、その機能を亢進させる事は良く知れらていましたが、HISAKOには関係がない事と諦めておりました。が、ごく最近、水に浸かってるだけ!でも、褐色脂肪が活性化し、メタボリックシンドロームの改善にも役立つとの論文が、一流の医学雑誌に複数掲載されておりました。ふ~ん、水の中に漬かっているだけで、それなりの効果(⋈◍>◡<◍)。✧♡ 実際、カナダでは水中井戸端会議なるものがあるんだそうな。

最近のトピックス⑨~楽しく遊んで、白色脂肪を褐色化

 運動は、食事と並んで肥満対策の柱とは言われておりますが、運動と褐色脂肪との関係については、意外や意外、知見が少ないんです。しかし最近、白色脂肪の褐色化と運動の関係について、興味深い論文が幾つか報告されたのでそれを紹介しますね。

 Bostromらによると、運動習慣がある人では、骨格筋から特殊なポリペプチドイリシン(irisin)が分泌され、それが白色脂肪を褐色化するんだそうです。この現象は、「白色脂肪の褐色化browing of white fat」と呼ばれ、典型的な褐色脂肪とは異なりますが、体脂肪の減少と密接な関係があるとされています。私達人間でもFDG-PET/CTにより検出される鎖骨上部の褐色脂肪は、寧ろこのベージュ細胞が主体ではないかと考えられています。

 また、Caoらによると、苦行としての運動より、楽しく遊んで、結果として運動したって方が、断然、白色脂肪は褐色化しやすいんだそうです。マウスの実験ではありますが、通常のゲージで飼育し、輪回し運動を自発的に自由にさせた群と、この輪回し運動に加え、迷路やトンネル等の様々な遊び道具満載の広々としたケージで飼育した群を比較したところ、後者の方が白色脂肪の褐色化が著しく、又、体脂肪自体も少なかったんだそうです。つまり、より豊かな環境で楽しく遊ばせる方が効果的だったって事です。

 やっぱ、楽しくお外で遊ぶのは、寿命も延びるし、スマートにもなるし、良い事ばっかなんですね(美容通信2018年6月号)。


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。


※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

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メディカルフードは、米国に於いて、医薬品と栄養補助食品の中間に位置します。

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