HISAKOの美容通信2005年4月号
ケミカルピーリング
ケミカルピーリングは、それだけでも、ニキビ・ニキビ跡の治療の他、小ジワの改善や美白等に効果があります。
でも、ホントの事言うと、マイルドなピーリングは、他の施術やお薬と組み合わせるとぐ~っと効果が相乗的にUPする、正にお料理の隠し味的存在なのです、実は。
エンビロンでお馴染み(美容通信2004年11月号)のフェルナンデス先生の第21回日本美容外科学会総会 特別公演”ケミカルピーリングと東洋人の肌”の概要の抜粋。これ、1998年とちょっと古いんだけど、日本の形成外科医の間で急速にケミカルピーリングが拡がり始めた頃の、謂わば、啓蒙と言うか教育講演なんです。だから、ケミカルピーリングって何?って言う超初心者の貴女にとっても、した事はあるけど系統だって理解を深めたいって貴女にも、この講演はとっても分かり易いかなと思います。HISAKOの補足付だよ。(そうそう、本文で私ってなっているのはHISAKOではなくて、講演者のフェルナンデス先生です。お間違えなく!)
ケミカルピーリングの目的と問題点
最近、日本でもケミカルピーリングが広く行なわれるようになっているようです(註・1)が、ケミカルピーリングは、決して万能のスキントリートメント法ではありません。どのような種類の皮膚のトラブルにも効果がある訳ではないのです。特に皮膚の深層にまで及ぶ深いピーリングには、様々な問題点があります。
註・1 クレオパトラもやっていた!美人の秘訣~ケミカルピーリング
”面の皮を剥いで美人になろう!” 歴史を紐解くと、ケミカルピーリングを実践して美人になったor美人に磨きをかけたお話が山積しています。例えば、古代エジプトのクレオパトラは、ロバのミルク風呂に入っていました。これは乳酸の効果。ローマ帝国時代のご婦人方は、ワインで洗顔していたそうです。これは葡萄の酢酸の効果。ブルボン王朝では、ポンパドール夫人がシャンパンで顔を洗っていたって話は有名で、これも酢酸の効果。彼女達の様な超有名人でなくても、果物や野菜のパックは古くからどこの地方でも行なわれており、フルーツ酸の美顔効果はおばあちゃんの知恵袋として伝わっています。
参考までに、フルーツ酸(AHA)の代表選手を列挙しておきましょう。
酢酸:葡萄に含まれています。
クエン酸:蜜柑・オレンジ等の柑橘類に。
リンゴ酸:リンゴ。
ピルビン酸:パパイヤ。
グリコール酸:サトウキビ。
乳酸:牛乳。
AHAは多くは果物の中に存在しているので、フツーツ酸と呼ばれています。が、実際問題として、果物から抽出するのは、技術的に難しく、結構コストも嵩んでしまう為、特にグリコール酸は人工的に合成したものが殆ど。乳酸にも、天然物と養殖物ならぬ合成物の2種類が出回っていますが、お魚ならずともお値段と味(効果)の違いは明確。後で又その事については触れますが、HISAKOのクリニックでは、基本的にHISAKOが自分の顔にしたいor現にしているものだけが選択の基準(笑)なんで、天然のL-乳酸だけを使ってます。
ピーリングというものは、普通の日常生活を送りながら受けることが可能な、とてもマイルドな皮膚の改善方法でなければならないというのが、私の信念です。ですから、私の考えでは、ピーリングの目的は、大切な線維芽細胞を傷付けることなく、コラーゲンの生成を優しく促すことにあります。
アメリカでは、シワやシミを改善するために、トリクロロ酢酸(TCA)を使用した比較的深い層まで効果が及ぶピーリングが良く行なわれています。TCAよりも刺激の弱いフルーツ酸(AHA)によるピーリングも行なわれていますが、殆どの人はより高い効果を求めて、より強い酸を使用するピーリングを求める傾向があります。
深いピーリング(註・2)の原理は、表皮を一度はぎ取ることによって真皮上層に炎症反応を引き起こし、皮膚の防衛機能を利用して新しい表皮を再生させようというものです。この方法によって、白色人種の肌では素晴らしい効果が期待できるのです。しかし、有色人種の場合には、色素異常がしばしば見られるなど、トラブルが起きやすいようです。
註・2 ピーリングの深さ
ケミカルピーリング剤のお肌への深達度を、纏めてみるとこんな感じかな。当院で行なっているのは、赤字で示した表皮角質層までの非常に浅いピーリングです。
表皮角質層までの非常に浅いピーリング
例)Jessner’s solution・10~50% glycolic acid・10% TCA・10~35% salicylic acid・0.01~0.1% retinoic acid・azelatic acid・5~30% lactic acid
表皮顆粒層~基底層の浅いピーリング
例)10~25% TCA・50~70% glycolic acid
表皮~真皮乳頭層の中程度のピーリング
例)35% TCA+Jessner’s solution・35% TCA+carbon dioxide(solid)・35% TCA+70% glycolic acid・30~45% TCA
表皮~真皮乳頭層~真皮網状層の上部までの深いピーリング
例)Baker-Gordon phenol formula・88% phenol・50% TCA or higher
ピーリングって言葉を聴いただけで、身の毛が弥立つ人もいるのは事実です。貴女や貴女の周りの家族や友人にも、そんな人がいるかも知れません。ちょっと歴史と共に、そんな怖い話をしておきましょうか。
所謂ピーリング剤を使用した記録で残っている最も古いものは、古代エジプトに遡ります。パピルスには、老人を若返らす為にに、と言ってもあの頃のお話ですから精々40~50代だったに違いありませんが、ピーリングを行なった所、大成功だったとの記載があります。ですが、何故かそれ以降、歴史の表舞台から消えてしまいます。再び日の目を見たのは、19世紀末。1950年代まで続けられたフェノールによるピーリングです。これが、ピーリング恐怖伝説の元凶です。
フェノールは、皮膚の毛根や汗腺まで即時に破壊してしまう乱暴物。非常に深いピーリングです。イメージとしては、自転車で坂を頭から転げ落ちて膝小僧を擦り剥いた感じかな。皮膚が上がるには10日位掛かってしまうので、とてもそんな顔で外になんか出られたものじゃない。必然、引き篭もりになっちゃいます。ですが、厚く積もっていた角質が無くなり、ペラペラで薄っぺらな表皮と、真皮の深層まで深く傷つけた代償として得た分厚く付着したコラーゲンのおかげで、まるでばら色の蝋人形(若しくはケロイド人形-笑)のように見えたそうです。でも、一年もすると‥、不自然を通り越して道行く人は皆凍りついたとか。それにフェノールには心臓に対する毒性もあったんです。
フェノールの次に登場したのが、サリチル酸。少量程度に留めておくと抜群の効果を示してくれるので今でも結構愛用されてこのピーリング剤の欠点は、多量に使うと耳鳴りや吐き気が出る事。
内科的な副作用に嫌気が差した形成外科医が、次に目を付けたのがTCAでした。これも皮膚の表皮から真皮上層部まで可也深く破壊しますが、フェノールの比ではありません。ですから、社会復帰も1週間程度に短縮されました。
この後1990年代に入り、レーザーピーリングと共に、アメリカでは刺激が軽く皮膚に与える損傷も殆どないAHAが大流行。特に、50~70%の濃度のグリコール酸を短時間塗る方法が好評を博しました。1994年にこの動きを無視出来なくなった当時の厚生省は、AHAの輸入を許可。日本に晴れて上陸したAHAが、次第に足場を固めていった過程は皆さんもご承知の通りです。
しかしもちろん、白色人種の場合でも、深いピーリングには皮膚を傷付けてしまう危険性がいくつもあります。例えば、何かの事情で予定よりも深いピーリングが行なわれてしまった場合に、表皮が再生するまでに数週間から数ヶ月もかかってしまうことになり、皮膚が不均一に盛り上がってしまうというようなこともあるのです。
ピーリングでよく使用されるTCA液には、液が透明なために、施術中、すでに塗ってある部分が分りにくくなって重ねて塗ってしまうというミスが起きやすいという問題点があります。そうなるとピーリングの深さをコントロールすることができなくなり、皮膚を予定していたよりも深く傷付けてしまうこともあるのです。
濃いTCA液を使用した場合には、従来のフェノールを使用したピーリングと同じように、もちろんその結果には違いがありますが、皮膚が再生されるまで、おおよそ10日前後は人前に出ることはためらわれるでしょう。現代人にとって、10日間を無為に過すことは苦痛以外の何ものでもありません。10日間もあれば素晴らしい休暇を楽しむこともできるでしょう。あるいは美容外科の手術を受けることもできるでしょう。
繰り返しますが、ピーリングというものは、線維芽細胞を傷めることなくコラーゲンの生成を促すピーリングであるべきだと、私は思っています。そのような適切なピーリングは、ほんの少し皮膚がかさかさしたり乾燥したりする事はあっても、日常生活にはほとんど影響がありません。
適切なピーリングは安全です。心配したり恐れたりする必要はまったくありません。しかし、普通の生活のリズムを壊すような強いピーリングには、私は賛成できません。
東洋人の皮膚と欧米人の皮膚の違い
言うまでもなくピーリングは、欧米で発展しました。そしてそれがアジアでも行なわれるようになったわけですが、欧米のピーリングを、そのままの形で東洋人の皮膚に行なうことには問題があります。それは、日本人を初めとする東洋人と白色人種の間には、皮膚の違いがあるからです。
東洋人は、一般に白色人種よりも厚い皮膚をしています。その皮膚にはベータカロチンがたくさん含まれています。このベータカロチンの量が皮膚の色にも影響しているわけですが、ベータカロチンをたっぷり含んだ厚い皮膚をしているために、東洋人の皮膚はシワができにくくなっているのです。
欧米でピーリングが進展した理由は、白色人種の皮膚が薄くて光老化に弱いため、シワができやすかったからです。強いピーリングは、シワの多い肌には非常に優れた効果があります。
一方、東洋人の皮膚の光老化は、シワよりもむしろシミとなって現れます。ところがこのシミには、ピーリングはあまり効果がありません。従って当然のことですが、白色人種の皮膚のために開発された欧米のピーリング、つまりそれは強いピーリング剤と言い換えてもいいのですが、それをそのまま東洋人の皮膚に使用することは問題があります。効果がないというよりも、かえって弊害を生みやすくなります。東洋人に強いピーリングを行なうと、皮膚がローソクのような生気のない色になったり、逆にシミができやすくなるのです。
ではどのようなピーリングが東洋人には適しているのか? それを後で具体的にお話しますが、その目的は、軽いピーリングを行なうことによって、皮膚のビタミンの浸透性を高め、そのビタミンの働きによって皮膚の問題を改善するということです。そして、東洋人に多いシミなどの改善には皮膚のより深い層までビタミンを送り込まなければならないので、皮膚の浸透性を一層高めるために、ピーリングとともにイオントフォレーシス、ソノフォレーシスを併用します。そうすればよりよい結果が得られるのです。
一般論として、シワの改善には強いピーリングが効果的だとはいえますが、そうは言っても、欧米人のシワの改善のための強いピーリングの成功率は、おおよそ8割に止まっています。成功しなかった人が2割もいるということです。ですから私は、その2割の同情すべき人たちを作り出さないためにも、欧米のピーリングにも、この新しい考え方が必要だと考えています。
水彩画から生まれた私のピーリング-弱酸の重ね塗り
ピーリングについての私のコンセプトは、私の趣味である水彩画の描き方から生まれました。水彩画では、その鮮やかな美しい色は、薄い色素を何層にも重ねてゆくことによって表現します。その時の色素を、酸性ピーリング剤に例えることができます。酸の場合、都合のよいことに、弱酸を何層も重ねていったとしても、そのときの刺激は、弱酸が持つひりひり感よりはるかに弱いものなのです。
私は1992年にpH0.4という強酸を使ったクリームを開発しましたが、すぐにそれをクリームではなくジェルにした方がひりひり感が少なくなるということに気付きました。なぜなら、ジェルから水分が蒸発して皮膚を冷やしてくれるからです。私は幸運にも自由に使える実験室を持っているので、TCAのジェルとAHAのジェルの両方を作ってみました。このジェルなら、少しずつ重ね塗りをしてゆくことによって、目的とするちょうど良い深さのピーリングを行なうことができるのです。あるいは、ある部分だけを他より深くピーリングすることもできます。さらに、この方法がより強いピーリング剤を塗るより安全であることはいうまでもありません。
しかし、この方法では治療効果が出るまでに時間がかかります。それは、非常に軽いピーリングなので、週に1回のペースであれば10週程度、1ヶ月に一度であれば6ヶ月程度かかるのです。どれでもより強い酸による強い刺激を皮膚に与えるよりは優れた方法です。ただし、ピーリングは継続して行なわなければならないので、途中で止めたり間隔を開け過ぎたりしないようにする必要があります。
治療に時間はかかるけれども、安全で適応範囲の広いピーリング法。それが、水彩画から生まれた重ね塗りのピーリングです。
皮膚は軽いピーリングを受けると、ピーリングの効果で浸透力が高まります。その結果、浸透した成分の働きで線維芽細胞のコラーゲン生成能力が高まります。同時に、健康でない角化細胞(ケラチノサイト)は、健康な角化細胞に比べて酸への耐性が弱まっていると考えられ、そのせいで酸による皮膚の治療を受けると、正常な細胞だけが生き残るという自然の淘汰の原理が働くのです。
これまでケミカルピーリングは、それ自体が効果のあるスキンケアの一つだと考えられていました。しかしいま私は、ピーリングは効果的なビタミンによるスキンケア・プログラムと組み合わせて行なわれるべき(註・3)だと思っています。私のこれまでの研究によれば、ピーリングにビタミンA、抗酸化ビタミン(ビタミンC、ビタミンE)、それにベータカロチン(註・4)を組み合わせると、もっとも効果的なスキンケア・プログラムになります。これらのビタミンは、角化細胞を刺激してその分化を早めたり異常角化を防いだりすることができます。さらに色素異常を防いだり、メラノサイトの活性レベルや線維芽細胞によるコラーゲン、エラスチンの生成をコントロールすることができます。私たちはケミカルピーリングを、こうした働きを持つビタミンの浸透を促進させるための手段として利用すべきなのです。
いまお話したビタミンはすべて、日光にさらされると不安定になり、皮膚の中で日々壊されています。ですから、スキンケア・プログラムには、毎日のスキンケアとして、十分な量のビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ベータカロチンを皮膚に使用する必要があるのです。さらにビタミンAには、ピーリング前の準備として使用しておけば、ピーリング後の皮膚の回復がより早くなるという働きもあると、私は考えています。
ピーリングの適応
言うまでもないことですが、健康で何の問題もない皮膚にピーリングは必要ありません。では、どんな場合にピーリングを行なうと効果的(註・5)なのでしょうか?
註・5 AHAの作用とは
箇条書きにしてみました。AHAのお肌への効能書きです。でも、皮膚の構造が分んないと何言ってんだか!になっちゃうので、もう一度復習ね。 右の図を見ながら、読んで下さいませ。
1.AHAで、老害を排し皮膚の構造改革を断行する。
AHAは、表皮の角質層を自然に剥離します。
右の図を見ると、角質細胞はヒゲヒゲでお互い繋がってますよね? セメント状と言うか糊状の物質でアルカリ結合してるんですが、AHAはこれを溶かします。足枷が無くなる訳ですから、自立心の強い角質細胞は早く自由の身になりたくて、どんどん心太方式に剥がれて行きます。干からびた先輩である角質表層が卒業すれば、当然、新しく、より水分たっぷりで瑞々しい細胞が育って来て、藁らかく滑らかなお肌を実感出来るようになります。政治も皮膚も、会社の組織も同じ。老害を排して、組織の風通しを良くし、活性化を図る。それを構造改革と小泉さんは呼びます。故に、”AHAで、老害を排し皮膚の構造改革を断行する”と言い換えても良いかな。
2.AHAは、教育は、子供を伸ばす環境作りからと考えています。
AHAには、基底細胞の成長を促進する働きはありません。つまり、所謂学校の先生ではないんです。でも、子供が学び易い環境を整える事は出来ます。AHAは、自分がゆとり教育の概念を実践しているとは思ってないかもしれませんが、センター街に出入りする様な教育上望ましくないお子ちゃまはコミュニティーから追い出して、自然の中で自分が興味を持てるもの、例えばちょうちょの自由研究でノーベル賞を貰うのが夢ですと語れるような心身ともに健全な子供を育てる事をしてくれます。
不健康な上皮細胞は酸に対する抵抗力が低いので、淘汰されます。ですが、健康な上皮細胞は酸に対して抵抗力があるので、相対的に多数派となり、より勢力を拡大出来るようになるんです。分ったかな?
3.シミを目立たなくさせる。
貴女のお肌の上で好き勝手に散在する色素沈着は、確実に減ります。でも、その能力や微々たる物で、到底ビタミンAには及びません。
4.AHAに刺激され、お肌の血の巡りも良くなります。
5.AHAは、富国強兵政策を国民ならぬ線維芽細胞に強います。
線維芽細胞に命令して、コラーゲンの原材料であるハイドロキシプロリンを一杯作らせます。それだけじゃなくて、コラーゲンやエラスチン線維の周囲を満たしているプルンプルンのゼリーみたいな細胞外間質(ゼリー状の物質!)も、富国強兵、増産体制を強要します。コラーゲンはお肌の張り担当者、細胞外間質はお肌の潤い担当者ですから、当然お肌は若返ります。
6.お肌の保湿力も上がりま~す。
それを私は、次のようにまとめてみました。
- きめの粗い皮膚を滑らかにするために用いる きめの粗い皮膚の場合には、滑らかな角質層の形成を促してバリアー機能が十分働くようにする必要があります。そのためにはピーリングとともにビタミンAが重要です。ビタミンAの働きによって、角質層を滑らかに保つことができます。
- 小じわの除去に用いる
- 日光角化症に用いる
- ニキビに用いる(註・6)
ピーリングとビタミンA療法を組み合わせると、真皮でムコ多糖体、コラーゲン、エラスチンがたくさん作られるようになります。その結果、皮膚はふっくらと張りが出てシワが目立たなくなり、滑らかになります。ピーリングは、小じわを取るにはとても効果的です。私自身、目の周囲の小じわにマイルドなピーリングを6回行なって、とてもよい効果が得られました。
日光角化症には、酸によるピーリングがとても効果的です。ただし同時に、ビタミンAに、日光角化症にならないようにDNAを正常化する働きがあることも覚えておいて下さい。ビタミンAを使用して、日光角化症の増加を防止できたという報告はたくさんあります。
ピーリングで治療できる病気の中でもっとも重要な病気がニキビかも知れません。オーソドックスな治療では大した効果がなかった患者さんに対しても、ニキビのできている部分にだけ、フロスティングが現れるまで弱いピーリング剤を繰り返し塗ると効果があるでしょう。弱いピーリング剤による施術を週に1回、皮膚に負担をかけない程度に数回治療を行ないます。フロスティングは、不健康な細胞が酸によって壊され、冬の霜のように見える状態のことです。この場合も、ホームスキンケアでビタミンAクリームを一緒に使った方がいいと思います。また私は、AHAまたはBHAに、オーストラリアン・ティーツリーオイルを配合したニキビ用ジェル(美容通信2004年11月号 [ch0])をホームスキンケア用の軽いピーリング剤として用いると、ニキビ治療に非常に効果があることも気付きました。
註・6 ニキビの治療
通常のニキビの治療として皮膚科医が漫然と出す薬、つまり、ビタミン類、抗生剤や抗炎症剤の内服や外用。これで限界を感じたらケミカルピーリングを考えるのも良いかも知れません。ですが、ピーリングをプラスするだけで全てが解決するかって言うと、それは無理。原因と状況に合わせて、色んな方法の夫々の長所短所を鑑みつつ、コンビネーション治療をするのが今時の形成外科医の常識。例えば、カビによる脂漏性皮膚炎()も併発していれば、先ず皮膚炎の改善が最優先ですが、それと同時にカビが育たない環境作り(食生活も含む生活一般)やカビを殺す薬の外用、場合によっては脱毛をしてあげる事の方が、ニキビにとってより良い治療法だったりもします。赤ニキビが気になって仕方が無い(それ故にコンシーラや髪の毛で隠してしまう)のに、従来のバイ菌殺しの薬や炎症を抑える薬だけを処方されて、医者に隠すからだ!と怒られたって‥、従いたくても従えない。それなら、フォトセラピーを併用して赤みを早く消褪させる方法を合わせて選択するべきでしょう。又、原因がホルモン系のアンバランスにあるのなら、ホルモン剤の投与は必要です。‥貴女のお肌にあった治療法を組み合わせて医者と二人三脚で行くのが、ニキビ脱却には確実な近道なんです。(美容通信2003年11月号 [ch0])ピーリングと色素沈着
ピーリングは色素沈着の治療に効果的か?
一般に、色素沈着にピーリングが効果があると考えられていますが、私の考えは違います。私は色素沈着に対するピーリングの効果は、非常に軽いピーリングによって色素沈着を改善する効果のある有効成分(例えばビタミンA、ビタミンC、アザレイン酸など)を皮膚によく浸透させることができるだけだと考えています。シミを始めとする色素沈着を、ピーリングによってのみ治療しようとするべきだとは思いません。
色素沈着に対する治療の原則
- 極力UVAを防ぐこと。紫外線を遮断するには、UVAもUVBもほぼ完全に遮断する化合物として、酸化亜鉛と二酸化チタンが好ましいでしょう。 しかし、これらの化合物は白色なので、そのままの形で日常生活で使うのは難しいでしょう。生活の中で使用できる日焼け止めクリームを作るには、人工的に肌色を着ける必要があります。
- メラニン色素の生成をできる限り抑制すること。しかし、これは大変難しいことです。
東洋人の皮膚のためのソフトで安全なピーリング
では最後に、東洋人の皮膚へのピーリングについて、私がおすすめしたい手順をお話しておきましょう。
乳酸によるピーリング(註・7)
東洋人の皮膚にピーリングを行なう場合には、使用するAHAはグリコール酸よりも乳酸の方がいいでしょう。その理由は、まず効果の面で、乳酸は皮膚の水分保持機能を高め、メラノサイトに対するチロシナーゼ活性を抑制するという二つの点でグリコール酸より優れています。次に、皮膚への刺激の面でも、人体に存在する天然の乳酸をL-乳酸(乳酸のL体)と言いますが、このL-乳酸の皮膚への刺激は、まったく同じ濃度で同じpH値のグリコール酸よりも低いレベルで、ひりひり感が少ないのです。
クレオパトラが愛して止まなかったロバのミルク風呂。この中には、AHAの一つである乳酸が含まれていた事は前述の通りですが、絶世の美女に乳酸が好まれたのは、あくまでもHISAKOの勝手な憶測ですが、グリコール酸等の他のAHAよりもお肌の保湿性を高め、メラニンの配列に良い影響を与えてくれたから。メラニンが不規則に凝集すると、それはシミです。日本人はシミが世界一許容出来ない人種~世界に誇る日本のホワイトニングの技術は、この国民性の賜物!~と言われますが、クレオパトラにとっても恐らくシミはあるまじき物であったに違いありません。メラニンの配列をコントロールしてくれる乳酸は、貴重なAHAです。更に興味深い事に、乳酸はグリコール酸と違って、私達の体にとって無くてはならない構成員でもあるんです。第一、一日約120gの乳酸を、貴女自身の体が作っているなんて知ってました?
HISAKOのクリニックでピーリングに使用しているのは、天然物のL-乳酸だけ。ちょとこれを説明しておきましょう。
乳酸には、L体と呼ばれる人体内の天然の乳酸と、D体と呼ばれる天然の乳酸がイオン転換した光学異性体が存在します。養殖物ならぬ工場で生産される合成物は、このL体とD体を混ぜ合わせた代物。天然の乳酸は細胞内でより早く代謝され、お肌に対しても刺激が少なく、硬く荒れた肌をふんわり柔らか~に仕上げをしてくれるんです。
補足までに、乳酸の効果をセラミドでテストしてみると、断トツぶっちぎり1位はL体の乳酸。最下位はD体。合成物はその中間だそうです。これは凄く大事! だってセラミドはお肌を滑らかにして、皮膚顆粒層の防水機能の改善を助けてくれるんですもの。って事は、私達のお肌のセラミド濃度が激減してしまう冬にこそより威力を発揮して、バサバサの乾燥肌を撃退してくれる訳。乾燥肌に悩むか弱い子羊達の強い味方でしょう。それに何でかは分んないんだけど、天然物は合成物よりマイルドで、勿論グリコール酸に比べると遥かに!、皮膚への刺激が少ないんです。HISAKOが御指名する気持ち、分るでしょ?
ピーリング前のスキンケア
ピーリングを行なう少なくとも3週間以上前から、ビタミンAによるスキンケアをしておきます。ビタミンA(註・8)の種類は、レチノール酸(ビタミンA)である必要はありません。パルミチン酸レチノールか酢酸レチノールで十分ですし、レチノール酸に比べて皮膚の刺激感も少ないので、ピーリングを受けようとする人にとっても使いやすいでしょう。
では、乳酸による具体的なピーリングの手順について、次にお話します。
註・8 ビタミンAは、こんなに凄い!
詳しくは、美容通信2005年2月号をクリックしましょ♪
ピーリングの手順
- まず最初に皮膚をていねいに清浄します。洗顔剤で化粧や汚れをしっかり落としてください。
- 次にマイルドなグリコール酸か乳酸を含むローションをコットンに含ませて、ピーリングを行なう部位をさらに清浄にします。 これはできる限り丁寧に、完全に清浄になるまで2度か3度は行なう必要があります。エーテルやアセトンを使う施術者もいますが、使用感はあまり良くありません。
- そしてまず、20%の乳酸(場合によっては30%の乳酸を使うこともあります)を塗ります。
- 顔のピーリングの場合には、ピーリング中に団扇や小さなファンなどで風を送れば、もしひりひりした感じがあっても和らげることができます。
- 予定したピーリング効果が得られたら、ピーリングした皮膚を中和剤で中和して洗い流します。
- ピーリング後には、皮膚の保湿に十分注意し、ビタミンAや抗酸化ビタミンを補います。紫外線はもちろん遮断しなければなりません。
そこにさらに20%あるいは10%の乳酸を重ね塗りしてゆきます。この重ね塗りの回数によって、ピーリングで溶かす表皮の深さをコントロールします。東洋人の場合には、フロスティングが現れる前に終えた方がいいでしょう。
ピーリング後のスキンケア
ピーリング後のスキンケアで忘れてはならないことは、ピーリングによって少なくとも角質層は取り除かれてしまうので、その下の表皮も真皮も、紫外線からダメージを受けやすくなっているということです。ですから、そのピーリング後には、できる限り紫外線を遮断できる遮光剤が必要になります。ところが、ピーリングを受けた皮膚は浸透性が高まっているので、皮膚に吸収されやすい化学物質が高濃度に含まれた遮光剤では、かえって危険だということも、あわせて覚えておいて下さい(註・9)。
日焼け止めに悩んだら、美容通信2003年8月号を読んでね。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
新世紀のスキンケア-イオントフォレーシス
スキンケアには、様々な考え方が可能でしょうが、私は、スキンケアとは、表皮基底層や真皮といった、皮膚組織の深層にある細胞にメッセージを送ることだと考えています。ですから、イオントフォレーシスのような、皮膚の浸透性を高める技術には大変魅力を感じます。ピーリングの場合でも、イオントフォレーシスを利用すれば、酸のイオンをより深い層の細胞まで浸透させることができるのです。しかも素晴らしいことに、表皮はほとんど破壊されないままなのです。そればかりか、イオントフォレーシスは皮膚の色素性病変をより安全に治療できるのですから、その重要性と可能性の大きさは明らかです。 私はこれまでの研究と経験から、イオントフォレーシスを行なうのに理想的なピーリング剤は、ジェルタイプの乳酸だと考えていましたが、同じようなタイプのジェルで作ったグリコール酸とTCAも、乳酸のジェルと並ぶ、理想的なピーリング剤になりました。これらのジェルによるピーリングは、私の知る限りもっとも刺激が少なく、素晴らしい効果が期待できるピーリングになると確信しています。 (講演・了)
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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来月号の予告
来月号から3ヶ月連続で特集する「漢方薬」です。
来月は先ずは基礎講座から。
お楽しみにね。