時間栄養学/時間運動学とアンチエイジング | 旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2020年5月号

時間栄養学/時間運動学とアンチエイジング

2017年のノーベル生理学・医学賞は、「体内時計」の研究に於いて、遺伝子レベルでのメカニズム解明に功績を残したアメリカの研究者3名に授与されました。この受賞で、体内時計の存在やその重要性が広く知られるようになり、一気に時間栄養学や時間運動学等の分野の研究が進みました。アンチエイジングの分野に於いても、最早、体内時計のメカニズムを無視して、効率良く成果を上げる事は出来ません。

 適切な生活リズムによって体内時計を正常に保つ事は、健康寿命の延伸に繋がるのは周知の事実ではありますが、同時に、この体内時計の基本的性質である周期、振幅、位相と言ったどの指標も、全て老化の影響を受けます。「鶏が先か、卵が先か」という因果性のジレンマに陥ってしまいそうですが、私達は哲学者ではないので、そんなもんだと漠然と受け止めて、取り敢えずは、今一番熱い分野とされる”体内時計”の研究成果の、良いとこ取りに焦点を合わせて生きて行きましょう(笑)。

 とは言っても、ピンと来ない方も多いかと思います。例えば、近年の薬物療法に関する研究では、いつ飲むかによって、薬の効果や副作用に影響される事が知られるようになり、時間治療が実践されるようになって来ました。インフルエンザのワクチン接種を何時受けるのがお得だと思いますか? このお話は、以前HISAKOの美容通信(美容通信2019年10月号)でも取り上げましたが、交感神経の活動が高まる午前中に予防接種を受けた方が、夕方に受けるよりも遥かに抗体価の上昇が認められます。又、スタチン系の脂質異常症治療薬は、コレステロール合成酵素が活発である夕方に投与すると効果が強く出ます。

 最近になって、体内時計と食・栄養の相互関係を調べる”時間栄養学”が注目をされるようになって来ました。HISAKOもついついリコピンリッチ♬と表示があると買ってしまうトマトですが、リコピンは、夕方よりも朝の摂取の方が吸収が良く、血中濃度が上がる事が分かっています。時間栄養学とは、老化による体内時計の異常を改善する為のアンチエイジング食品や栄養物を研究する学問であるのと同時に、既存の、抗酸化作用や抗炎症作用、免疫賦活作用を有する数多くの食品や栄養物を最大限のアンチエイジング効果を発揮させる為に、何時それを摂取するのかというタイミングについても考えるものです。

 そして、最近は時間栄養学の急激な進展に触発?されたのか、”時間運動学”の観点からアンチエイジングが語られるようになって来ました。高齢化によるサルコペニアを始めとしたフレイル(美容通信2019年2月号)(美容通信2018年9月号)の増加、基礎代謝の低下やインスリン抵抗性等による肥満、糖尿病のリスク増大に対し、これ等を予防・改善するのに適切な運動のタイミングについても考えます。

 …左上の絵は、サルバドール・ダリの「記憶の固執」ですが、溶け行くカマンベールチーズの様な時計達は、老化により指針を失って彷徨う体内時計達の不条理な混迷を描いていると、アンチエイジング的な解釈も出来ない訳ではありません(笑)。

メタボ対策として

 メタボ対策の王道と言えば、カロリーや食事(糖質・脂質)を制限する事でした。つまり、摂取カロリーと消費カロリーの差に注目し、摂取カロリーが上回れば太り、下回れば痩せる…と。確かに、熱力学的に、単純に考えれば、その通りなんですが、私達の体の中には、1日単位の体内時計(概日リズム)が備わっており、活動期のエネルギー回転を高め、休息期に低下させると言う時間分業システムが確立しています。エネルギー収支のバランスを、この体内時計にリンクさせる。それが、時間栄養学によるメタボ対策です。

 近年、時間栄養学に関する知見が急速に蓄積し、体内時計と(食)生活のミスマッチが、断片的ではありますが、代謝疾患に繋がる仕組みも解明されつつあります。

食べる時間を変えると、体重が変わる

 先ずは、米国にあるソーク研究所のパンダラボの研究から。

 マウスを、24時間高脂肪食(主にラード等の動物性脂肪)を食べ放題(⋈◍>◡<◍)。✧♡にして飼育すると、肥満→メタボになって早死にする。

 しかし、パンダラボでは、夜間の活動期(←マウスは、人と違って夜行性!)にしか餌を与えないようにしました。マウスもバカではありませんから、のべつまくなしにべ続ける事が出来ないと悟ると、1日分の餌を、餌場の開放時間帯で食べてしまうようになります。このメリハリ状態で約3ヶ月間飼育を続けると、1日当たりの総摂取カロリーは、24時間のべつまくなし群と同等であるにも関わらず、太らない!! 

 この2つの群の違いは、体内時計の深さです。食事の時刻を規則正しく箍を嵌められたマウスは、活動時間帯と休息時間帯がしっかりと分離されています。臓器に於け居る時計遺伝子の発現リズムを確認しても、やはり振幅が大きく、24時間の綺麗なリズムを刻んでいます。それに対し、のべつまくなし自由奔放群!では、リズムの振幅が小さくなっていたそうです。それどころか、時計遺伝子の発現だけでなく、エネルギー代謝系の遺伝子にも同様の減少が認められたそうです。まあ、確かに、体内時計の下流に、脂質代謝や糖代謝に関わる重要な遺伝子達が存在し、その発現が、24時間周期のリズムでコントロールされています。体内時計のお仕事の一つが、エネルギー代謝の日内変動を作り出す(活動期と休息期で、エネルギー代謝経路を変化させる)事ですから、当然と言えば当然です。それなのに、24時間のべつまくなしに食べ続けるなんて無法者されちゃうと、代謝経路の時間切り替えなんて無理です。脂肪合成ばかりが進んでしまいます。特に、高脂肪食は、昼夜の摂食パターン(食欲)のメリハリを減弱させ、脂肪代謝の悪化(=合成が亢進して、燃焼が進まない状態)を齎します。

 

食事時間帯の制限は、ダイエットとして継続性が期待出来る

 定期的な絶食時間を設けるダイエット方法は、食べたい物(カロリー、糖質、脂質等)を制限する訳ではないので、満足度も高く、他のダイエット方法と比較すると継続しやすい方法です。

 前述のパンダラボの論文によれば、食事時間を8時間、絶食時間を16時間にして定期的な絶食時間を設けると、マウスは痩せる。その後の続報では、これを12時間/12時間にしても効果は同等で、更に、週末に相当する2日間は自由摂食に戻しても効果が維持されるとの報告があります。これをそのまま人間に置き換えたのが、ネットで良く知られている海外セレブダイエットだそうです。

 人間での試験報告もありますが、16週間の間、食べる内容については全く制限を設けず、1日の最初の食事から最後の食事までの間隔を10時間以内に収めたところ、体重の減少が認められたそうです。更には、継続使用を敢えて行わずに、1年後の追跡調査を行ったところ、体重は低下傾向のままで、無理なく習慣化した事が判明したそうです。それどころか、被験者のアンケート調査から、活力や睡眠が向上し、満足度が高い方法である事が示されました。概日リズムにメリハリが生まれる事で、昼間の活動が活発になるのと同時に、夜間の休息もしっかり取れる事から、身体の調子の良さを実感し易いようです。

 

夜型の食生活は、様々な疾患リスクを上昇させます

 体内時計によりエネルギー代謝の24時間リズムは制御されており、いつ、何をするのが最適な時間帯かが大体決まっています。例えば、私達の身体機能や脳活動が最大になるのは、体内時計が示す起床時間の約6時間後です。

 朝は、身体機能(基礎代謝)を上げて行く時間帯なので、入って来たエネルギーは備蓄ではなく、活動度の向上に使われます。反対に、夕食の時間帯は、活動を終息させ基礎代謝を下げて行く時間帯なので、摂取エネルギーの大半は、消費ではなく備蓄に回されます。従って、朝ご飯よりも夜ご飯をたっぷり食べると、より肥えてしまうしまうのは自明の理。イギリスのUKバイオバンク・コンホートを用いた43万人の大規模調査からも、夜型生活者は糖尿病、精神疾患、胃腸や呼吸器系疾患等のリスクが高く、死亡率も10%ほど高い事が分かっています。

 

不規則な食事時間はメタボの原因

 昼/夜だけでなく、食事のタイミングとして大事なのが、規則正しさ。体内時計は、食事の時間帯を覚える事にも機能しています。つまり、毎日同じ時間にご飯が食べられるんだあ!と体得すると、例え、エネルギーが目減りして来ても、時間になれば補給して貰える!と分かっているので、無闇矢鱈にエネルギー消費をケチって貯蓄に回さず、バブル街道をそのまま突き進めます。しかし、何時補給部隊が来るんだか皆目見当もつかない( ;∀;)って状況だと、ガチな節約モードにならざる得ません。つまり、不規則な食生活は、蓄財型のエネルギー代謝を余儀なくされるって事です。実際、シフトワーカーの疫学調査に於いて、肥満リスクの上昇を指摘する報告は多く、最近のシステマティックレビューでも、夜のシフトワークと内臓脂肪の増加は強く相関が認められています。

 他にも、シフトワークは癌のリスクを上昇させます。国際癌研究機関(JARC)の発癌性対象一覧に於いて、アクリルアミドや紫外線と同じグループ2A(恐らく発癌性がある)に分類されています。夜型の食生活で、乳癌や前立腺癌のリスクが上昇するとの報告はありますが、シフトワークだけではなく、不規則な食事時間が癌の要因となっている可能性もあります。

 シフトワークほどではないですが、平日と休日の時差(社会的時差)も肥満リスク因子になります。海外の調査だけではなく、日本人を対象にした研究でも、社会的時差が2時間以上の群では、メタボのオッズ比は1.92で、腹回りがデカすぎる件についても、時差1時間の群と比較して、オッズ比は2.26だったんだとか。

 面白い事に、学生の学業成績についても、社会的時差が大きくなる程直線的に低下すると言う報告もあります。…体にも脳みそにも、兎に角、ロクな事がないようです。

 

糖尿病予防の為に

 インスリン感受性には日周リズムがあり、朝に高く、夜に低くなります。

 同じ量の食事を朝/昼/晩と摂取した場合、血糖値の上昇は夜が最も大きくなり、朝が最も小さくなります。通常の日本の食生活では、3食の中で夕食の量が最も多い傾向にある事から、仕事が終わってからの遅い食事は、血糖値を一気に上昇させてしまいます。この改善策としては、分食。つまり、夕方に、夕食の一部を先に食べてしまう。これにより、血糖値上昇が分散され、血糖値上昇の最大値及び総和が低く抑えられます。

 食物繊維を朝若しくは昼に食べる様にするだけで、その食事の血糖上昇がマイルドになるだけでなく、次の‼食事の血糖値の上昇も抑制すると言うセカンドミール効果があり、早い時間帯の食事に食物繊維を多く食べるのも◎。

 糖尿病患者さんを対象にした実験で、①朝食のエネルギーを多くして、夕食のエネルギーを減らした1日3食と、②エネルギーを均等に6食に分けた1日6食を比較したところ、①の方が、体重、血糖値、HbA1c、食欲、インスリン必要量の、いづれにも於いて良い結果が出たんだそうです。単純な分食よりも、早い時間帯にエネルギーを多くして、遅い時間帯にあんまり食べない方が、より効果的に働くようです。

 時差ボケや睡眠不足は、血糖のコントロールを悪化させます。規則正しい朝型生活が、糖尿病の予防には効果的です。実際、糖尿病予備軍の男性被験者を対象にした、超朝型完結的絶食(インターミッテント・ファスティング)実験によると、1日3食を朝8時から午後3時までの間に食べてもらう生活を5週間続けたところ、インスリン感受性、β細胞機能、血圧、酸化ストレス、食欲等、全ての指標に於いて改善が認められたそうです。

筋肉と時間栄養

 骨や骨格筋と言った運動器の機能は、健康寿命に大きな影響を与えます。日本整形外科学会が提唱するロコモティブシンドローム(美容通信2019年2月号)は、運動器の機能低下により、要介護や寝たきりになる and/or そのリスクが高い状態の事を指し、健康寿命を短縮させる要因の一つとされています。

 運動器の中でも、筋肉は加齢や様々な疾病によりその機能が低下しますが、ダンベル等を使った負荷運動、食事(特に、蛋白質をガッツリ食べる)、そしてビタミンD(美容通信2013年3月号)が有効とされています。成長ホルモンのお注射は、勿論、非常に効果的ではありますが、お値段もちょっと庶民には手が出し難いのが現状で、成長ホルモン分泌刺激サプリメントの他、最近は、サルコトロピン舌下錠 Sarcotropin SL美容通信2018年9月号の様なFDA認可のメディカルフード等の、お手軽価格でお茶を濁すって手も良く使われますが、単独ではなく、併せて適度な運動は必須です。

 栄養状態は、全体の骨格筋量に大きな影響を与える為、高齢者の多くに認められる低栄養は筋委縮の一因となります。

 

骨格筋蛋白質量の恒常性維持機構

  骨格筋は、人の体重のうちの約40~50%を占める最大の臓器で、運動や姿勢の保持だけでなく、エネルギー代謝やアミノ酸の主要な貯蔵臓器としての役割も担っています。筋蛋白質量は、蛋白質の合成と分解のバランスにより調節されています。つまり、合成速度が分解速度を上回れば筋肉は肥大するし、逆だと萎縮します。寝たきりや宇宙旅行の様に、骨格筋に負荷が掛からない状態や加齢、糖尿病、炎症、慢性腎臓病、癌悪液質等々の、様々な病気でも骨格筋は萎縮します。

■インスリン/インスリン様成長因子(IGF-1)による筋蛋白質量の調節

 骨格筋に於ける蛋白質の合成と分解を調節する重要な因子は、インスリンとインスリン様成長因子1(insulin-like growth facter 1:IGF-1)です。

 インスリンは、血中グルコース濃度の上昇により、膵臓から血中へ分泌されます。インスリン様成長因子1(IGF-1)は、成長ホルモンの刺激によって肝臓や骨格筋で合成され、血中に分泌されます。ソマトメジンCとも呼ばれます。インスリンに類似した分子構造を有し、組織の恒常性の維持や、成長、発達に関わるポリペプチドです。

 細胞膜上のインスリン/IGF-1受容体に、インスリン/IGF-1が結合すると、リン酸化によるシグナル伝達が、ドミノ倒しの如くに次々と進みます。活性化したAktは、FoxOsをリン酸化して細胞核外へと局在を変化させる事で、それらの標的遺伝子であるAtrogin-1、MuRF1、オートファジー関連遺伝子の発現を抑制します。同時に、Aktは、mTORのリン酸化を介して、mRNAの翻訳を活性化し、蛋白質の合成を促進します。つまり、インスリン/IGF-1シグナル経路の活性化は、筋委縮の予防や治療に繋がります。

 

骨格筋に於ける、蛋白質合成と分解の概日リズム

 概日リズムを支配する体内時計は、中枢である視床下部の視交叉上核と、骨格筋を含む末梢臓器に存在しています。Dyarらは、骨格筋に於ける蛋白質の合成や分解にも概日リズムがあり、それは時計遺伝子により調節されている事を明らかにしました。

 マウスの実験ではありますが、蛋白質合成速度を評価する方法であるSUnSETによれば、骨格筋の蛋白質合成は、寝ている時間帯よりも、起きて活動している時間帯の方が活発だったそうです。分解については、これと反対に、Atrogin-1とMuRF1の遺伝子発現量は、寝ている時間帯の方が増大する傾向があったそうです。

 ところが、尻尾でぶら下って、骨格筋に負荷が掛からない筋委縮モデルマウスでは、Atrogin-1遺伝子の発現のピークは活動期!なんだとか。Atrogin-1遺伝子の発現の概日リズムは、時計遺伝子のcircadina locomotor output kaput(CLOCK)や坐骨神経からのシグナルによって左右されます。又、別の時計遺伝子であるRev-erbaは、筋委縮関連遺伝子の発現を抑制するとの報告もあります。筋委縮の予防や治療として、時計遺伝子への介入が、いづれ主流になる日が来るかも、ですね。

 

絶食のタイミングと筋委縮

 絶食状態では、私達は、肝臓のグリコーゲン、脂肪組織の中性脂肪や骨格筋の蛋白質を分解し、それらをエネルギー源として利用して生きています。この様な状況下では、インスリン/IGF-1シグナルが弱くなるので、Atrogin-1とMuRF1の遺伝子発現が増大し、筋委縮が引き起こされます。

 つまり、活動する時間帯に於ける絶食は、血中IGF-1濃度の低下により、骨格筋に於けるIGF-1シグナル伝達↓→筋蛋白質分解に関わる遺伝子の発現↑→筋委縮!に繋がるって寸法です。

加齢性疾患に対して、時間栄養学&時間運動学の応用する

糖尿病と時間栄養

 前述の如くに、これまでの体内時計と生活習慣の報告から、夜食や夜型の生活は糖尿病リスクを高める事が分かっています。これ等の成果を、爺婆(高齢者)の日常生活に応用出来るかどうかは、まだまだ不明の所はありますが、少なくとも、夕方以降は炭水化物はあんまり食べない。そして、朝ご飯と昼ご飯で、1日摂取エネルギー量の大半を食べてしまう。これは、糖尿病予防の観点からは重要と思われます。

 

加齢性疾患に対する時間栄養学の応用

 爺婆化するに伴い、筋力は低下するし、骨もスカスカの骨密度に低下する。そうなれば、当然、サルコペニアや骨粗鬆症のリスクは上がってしまいます。国民健康栄養調査や米国の疫学的な調査から、蛋白質の摂取量は、1日の中で偏りが大きく、特に朝食での摂取割合が低いんだそうです。特に、フレイル(虚弱)な人は、そうじゃない人に比べてその傾向が強く、朝からいきなりステーキ、朝からいきなりカツ丼なんてとんでもない!(笑)って拒絶反応を示すようです。朝食で、どれだけ沢山の蛋白質を食べるか? これは、サルコペニアやフレイルの発症や重症化予防には、重要と考えられています。又、牛乳やヨーグルト、卵等に多く含まれるカルシウムは、骨粗鬆症の予防の観点から重要ですが、夜や睡眠中に吸収力がUPするんだそうです。

 高齢者では、抑鬱発症のリスクが増す(美容通信2020年3月号)事も知られており、その要因の一つとして、加齢に伴う睡眠・覚醒サイクルの乱れ(美容通信2019年10月号)並びに睡眠の質の低下が挙げられます。睡眠の質の改善に効果的な成分としては、ご存知メラトニン(美容通信2015年8月号)(美容通信2017年1月号)。寝るホルモンとして有名ですね。その他には、色んな企業さんが独自の臨床試験から、トリプトファン、L-テアニン、L-セリン、グリシン、清酒酵母、アスパラガス由来成分等を販売しています。

■睡眠改善効果を有する機能性食品

 幾つかのアミノ酸には、睡眠や体内時計に対する作用が知られており、グリシン、トリプトファン、L-セリン、γ-アミノ酪酸(GABA)、L-テアニン、L-オルニチン等は、動物試験による睡眠調節メカニズムと共に、人間でも睡眠改善効果等が報告されています。唯、睡眠を改善するとされている機能性食品成分の大半は、入眠促進、中途覚醒の減少、熟眠感等の、睡眠そのものをターゲットにしたものでしかありません。唯、L-セリンは、中枢時計をターゲットにした機能性アミノ酸であるとの文献報告があります。

  • グリシン

   体内時計の中枢である視交叉上核にあるN-メチル-Dアスパラギン酸受容体に作用して、体表面の血流を増加させ、深部温度を低下させる事で睡眠の質を上げてくれる成分です。

  • トリプトファン

   脳内の縫線核でセロトニン→松果体で催眠効果のあるメラトニンに出世する、まるで出世魚の様な必須アミノ酸。実際、トリプトファンを多く含む朝ご飯をたっぷり食べて、明るい日差しの中でお昼間を過ごすように心掛けるだけで、夜間のメラトニンの分泌量は増大しますし、ぐっすり眠れたとの実感があったとの報告もあります。

  • L-セリン

   GABAA受容体を介した鎮静効果の他、光による体内時計の位相調節にも作用する可能性が示唆されています。男子学生に於いて(←爺婆ではない!)ですが、L-セリンを就寝前に摂取して翌朝光を浴びた群では、コントロール群と比して、体内時計の前進効果(メラトニン分泌の立ち上がり時間が早まった)が認められそうです。マウスでも人間でも効果が実証されている成分です。

  • γ-アミノ酪酸(GABA)  

   GABAは、脳内に於いて抑制性の神経伝達物質として機能しており、精神安定作用やストレス軽減作用等様々な効果が報告されてはいますが、経口摂取した食品由来のGABAが脳内に取り込まれているかどうか…不明です。

  • L-テアニン

   緑茶の中に非常に多く含まれる旨味成分。脳内に於いてドーパミンの放出を増加させる作用があります。動物実験では、神経保護作用や抗ストレス作用、抗鬱作用等が報告されており、脳内のGABAの量を増加させ、入眠を促していると考えられています。又、人間を対象にした単回摂取実験でも、副交感神経の活性化やα波の放出を促進の報告もあります。

  • L-オルニチン

   マウスのノンレム睡眠を誘発し、成長ホルモンやメラトニンの分泌リズムに作用するとの報告があります。人間を対象にして試験に於いても、唾液中のメラトニンリズムの位相を遅らせる事から、脳内の中枢時計に対して作用する可能性があります。


 …しかし、老化による体内時計の乱れを正す程には至っていません。まあ、中枢時計ってものは、神経細胞やグリア細胞が密に集積する特殊な神経核だけに、鉄壁の要塞みたいなものなんでしょう。ですから、小者ばっかりと言うか…末梢時計をターゲットにしたものばかりで、脳まで影響がある機能性栄養素の報告は少なく、強いて上げるなら、前述のL-セリンの他には、カフェインやノビレチンくらいでしょうか。

  • カフェイン

   中枢時計へ作用し、睡眠・覚醒リズムの周期延長効果があります。細胞レベル、組織培養レベルでは、時計遺伝子発現の周期延長と共に、振幅増加、位相シフト効果もあります。

  • ノビレチン

   シークヮーサー等の柑橘類の果皮に多く含まれるフラボノイドで、抗肥満、抗酸化、抗認知症効果等が報告されています。細胞レベル、組織培養レベルでは、カフェインと同様に、周期延長、振幅増加、位相シフトを来たす強力な概日時計調節成分です。個体レベルでは、本当に中枢時計まで作用してるのかは甚だ疑問ではありますが、動物実験では、高脂肪食を食べさせられて、すっかりハムスターホイール(回し車)(←左の回し車の中を走るジャンガリアンハムスター君の図は、Wikipediaから拝借!)を回すのを放棄していたのが改善されたし、デブ化だって抑制(抗肥満作用)されたそうです。寄る年波に従って、高脂肪食負荷時同様に、回し車を回さなくなるものですが、ノビレチンの投与でその様な減弱傾向も予防出来ただけでなく、老化による睡眠の断片化も同時に予防したそうです。唯、流石に…寿命延長効果は得られてないようですが…。

 概日時計の老化研究は、未だ未だ分からない事だらけ。中枢時計や末梢時計に於いて、コアな時計遺伝子は老化に関わらず正常にリズムを刻んでいます。が、概日時計の制御自体は老化により減弱し、それが睡眠や覚醒リズムの乱れとして表れて来ます。つまり、肝心の何故?が解明されていないのですが、概日時計の本質である時計遺伝子の発現振動と、概日時計制御下にあるアウトプットの連動が上手く行っていない…。

 

爺婆になっても普段から運動はしておくべき

 近年では体内時計を調節する因子として、運動が注目されています。しかしながら、未だ、何時?についてのエビデンスは十分ではなく、世界保健機構(WHO)や米国スポーツ医学会(ACSM)等の運動・身体活動ガイドラインでも、言及すらされていません。

 しかし、朝の運動よりも夕方の運動した方が、アドレナリンやノルアドレナリン等の脂肪分解ホルモンが上がり、その結果、脂質分解の指標である遊離脂肪酸濃度が上がるのが確認されています。又、他の報告でも、筋トレについても、朝よりも夕方に行った方が効果的。筋肉増大ムキムキマンになれるそうです。因みに、Atrogin 1(前述の図を参照! 骨格筋肥大に関わる遺伝子の一つ)も日内変動を示し、骨格筋の萎縮に対するリハビリは、朝する方が顕著に効果が現れます。

 骨格筋の時計遺伝子の発現やミトコンドリア活性には日内変動が認められ、これ等の制御システムが働いてる事を思えば当たり前の話なのですが、サルコペニア予備軍の爺婆では、体内時計の乱れが生じ(←乱れたから、老化した?かの議論は置いといて(笑))、時間運動学的側面からのアプローチに対し全くと言うか…殆ど反応しないんです。実際、日常的に動き回っている元気な爺婆達は、時計遺伝子のPer3発現の振幅が高い状態が保たれている事を鑑みても、普段から動き回って体力水準を落とさないのが肝要なようです。

機能性食品を何時食べるか?

 食物の消化、吸収、代謝には、いずれにも体内時計が深く関与しています。消化管に於いても、糖やペプチド、脂質の吸収に関わる多くの分子の発現に、日内リズムが認められます。食品の様々な機能と摂取のタイミングに関する時間栄養学研究は、今後更に発展するものと思われます。

食品の機能性と摂取のタイミング

■魚の油

 ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)(美容通信2010年6月号)を含み、脂質代謝改善効果を有する魚油。マウスの実験では、マウスの活動開始時間帯(朝食に相当)に魚油を食べさせた方が、活動終了時間帯(夕食に相当)に食べさせた群よりも、血中DHA及びEPA濃度は高く、且つ中性脂肪も減少が認められたそうです。更に、うんこを解析したところ、朝食時に魚油を食べると、体への吸収がUPしているのが分かったそうです。人間を対象にした試験でも、朝食にお魚の油を食べた方が、脂質代謝の改善の効果大だったそうです。

■リコピン

 トマトに含まれるリコピンは、カロテノイドであり、その抗酸化作用により様々な病気の予防に効果があると考えられています。今のところ、そのメカニズムについては分かっていませんが、動物でも人間でも、活動期の初めに食べた方が吸収率が上がり、それも、接種前の絶食時間に依存して吸収率がUPするんだとか。


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

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