HISAKOの美容通信2020年9月号
プロバイオティクスでアンチエイジング
2020年2月10日、STOP感染症2020戦略会議が発表した「新型コロナウィルス感染症対策にかかる緊急提言」として7つの約束は、皆さんの記憶にも新しい事ではないかと思います。その約束3”STOP感染「新生活習慣」をつくる”をの一部を抜粋します。「免疫力を向上させる食品も、感染症予防に大きな効果がある事が分かっています。例えば、酪酸菌や乳酸菌等のプロバイオティクスは、腸内フローラを整え、感染症予防に繋がります。加えて、口腔ケアが感染症予防になる事も、明らかになって来ています。」
プロバイオティクスでアンチエイジングを_。以前にも美容通信で取り上げましたが、幾らヨーグルト等を食べても、所謂摂取した外来のLactobacillusやBifidobacteriumが、私達の腸内で生き残り、定着する事は、日本の海外からの移民の受け入れ態勢を鑑みればお分かりの様に、可成り困難であると考えられています(美容通信2016年2月号)。唯、だからと言って、摂取する事に意味がないかと言うと全くそういう事はなく、これまでのプロバイオティクスによる整腸作用に加え、最近では、生活習慣病、アレルギー、免疫、脳機能への作用が注目されています。アンチエイジングの領域では、Bifidobacterium(LKM512株)がマウスの寿命を延長させる事、早老症マウスに健常マウスの糞便を移植すると健康寿命が延長する事等が報告され、代謝物を含め、未だ未だ研究が始まったばかり。これから面白い事、色々ありそう!って分野なんです。
玄米の力、再発見!
玄米の状態では、お米は糠層で覆われています。この玄米から、糠と胚芽を取り除いたのが、精米された白米です。白米をたらふく食べる事は、物が豊かになった現代でも、日本人にとっての最高の幸せ(⋈◍>◡<◍)。✧♡で、最後の晩餐で定番(笑)とされています。HISAKOも医者を引退したら、今朝、庭で平地飼いした鶏の卵を拾い集めて、数量限定卵かけご飯の朝食のみを、昼下がりから深夜までは、蔵書に埋もれてチョコレートとウィスキーのマリアージュを楽しめる穴蔵みたいな店をオープンしたいなって思ってます。話が逸れてしまいましたが、弥生時代等の大昔は収穫した籾(もみ)を煎り、籾殻を外した焼米を食べていたようです。そこから時代は少し進み、籾を脱穀(だっこく)して玄米にし、それを蒸して強飯(こわいい)にして食べるようになりました。平安時代には水をたっぷり入れて煮る粥(かゆ)が主流となり、「炊く」という技術が生まれてからは、炊きたての白米至上主義に日本人はどっぷり浸かって、今に至ります。
そんなちょっと下位に思われがちな玄米。実際、幾つかの疫学研究によれば、玄米を主食として食べ続けている人は、1万人に数十人程度と、恐ろしく少ないそうです。しかしながら、玄米食ピープルは、白米を食べている人達と比べて、デブが殆どいないし、糖尿病や高血圧等の生活習慣病に罹患するリスクも1/3だったそうです。つまり、健康長寿食なんですね。じゃあ、玄米の何が良かったのでしょう? 玄米の成分で白米にないものは、食物繊維、ガンマオリザノール、抗酸化能、水溶性ビタミン、ビタミンEの他、カルシウム、マグネシウム、カリウム等のミネラルです。玄米食を続けると、腸内細菌叢が変化します。腸内細菌が分解した酪酸は、脳機能に影響を及ぼします。
ところが、玄米の有効な成分や、腸内細菌への影響等の機能面に対する論文は多数ありますが、玄米の美味しさについては、未だ良く分かっていません。記録らしい記録が無いようなんですね。一般社団法人 メディカルライス協会理事長の渡邊昌先生によると、美味しい玄米食を食べるコツは、先ず、美味しい玄米を買う!事なんだそうです。そして、たっぷりのお水に長時間浸けておく。渡邊昌先生直伝の、4人分玄米2カップの美味しい炊き方を載せておきますね。
揉むように玄米を洗い、ザルで一度水を切ってから、圧力鍋に分量の水2と1/2カップと塩少々を入れて、30分以上浸す。圧力鍋に中火で1~2分、弱火にして25分程度炊き、その後20分程度蒸らす。
揉むように玄米を洗い、ザルで一度水を切ってから、炊飯器に分量の水と一つまみ塩を入れ、30分以上浸す。2回に分けて炊き、夫々水2と1/2カップの水と塩一つまみを加える。炊き上がったら、よく混ぜる。
揉むように玄米を洗い、ザルで一度水を切ってから、ボウルに3と1/2の水と塩少々を入れ、2時間以上浸す。土鍋に水ごと移し、25~30分弱火にかける。その後、蓋の穴を塞ぎ、水加減に注意しながら、弱火で更に45~50分炊く。最後に20~30秒中火で水分を飛ばし、火を止めてから15分程度蒸らす。炊き上がったら、良く混ぜる。 |
認知機能の障害を抑制する、ビフィズス菌
加齢は、腸内細菌叢を変化(美容通信2019年11月号)させる大きな要因の一つで、60歳代以降にビフィズス菌が減少し、代わりに大腸菌等が増加する「腸内細菌叢の変化」と、様々な加齢性疾患との間には因果関係が認められています(美容通信2012年8月号)。中でもLeaky Gut(美容通信2014年1月号)は、多くの加齢性疾患と関係する重要な要因で、認知障害との関係性が示唆されています。
ビフィズス菌を増やすプロバイオティクスやプレバイオティクス素材を継続的に摂取する事は、正常な腸内細菌叢や腸管バリア機能の維持に繋がり、有効な抗老化対策の一つと考えられています。
腸内細菌叢の加齢による変化
人の腸内には、数百種類、40兆個に及ぶ腸内細菌叢が棲息(美容通信2013年8月号)しています。私達大家(宿主)の細胞達だけではなく、細菌同士やウィルス、真菌、ファージ等のご近所さんと相互作用しながら、複雑な腸内環境を形成しています。大家(宿主)である私達も、年齢や健康状態、食事や運動等の生活習慣、服薬等の、様々な影響(美容通信2020年6月号)を受け、それが又、店子の腸内細菌叢にも影響します。ですから、腸内細菌と言えども、未来永劫安泰なんて保証はなく、バブルに踊り、リーマンショックで縮こまり、地震に怯え、続く放射能汚染に怯え、新型コロナに翻弄される…私達の人間社会と全く変わりがありません(笑)。
中でも、宿主の年齢は、腸内細菌叢のバランスに大きな影響を与えると考えられています。左図を見て下さい。乳児期、最大最強派閥を誇っていたビフィズス菌(アクチノバクテリア門)も、離乳期を境に大幅に減少し、60歳以降泡沫野党以下の存在に落ちてしまいます。その代わりと言っちゃなんですが、大腸菌やサルモネラ等の病原性細菌が多く所属するプロテオバクテリア門の勢力が、一気に拡大します。
何で、爺婆って名の高齢者になると、斯くも腸内細菌叢に変化を来たしてしまうのか? 咀嚼や嚥下能力の低下、胃酸・胆汁酸の分泌低下、免疫機能の低下等の、宿主サイドの加齢性変化が大きな要因だと考えられています。例えば、唾液には1ml当たり109程度の口腔内細菌が含まれており、1日約600mlの唾液を飲み込む事で、1011程度の細菌が消化管を通過します。その殆どは胃酸によって死滅してしまうので、別に困りもしないんですが、年寄りになると、この正義の味方の警察官=胃酸が分泌低下してしまうが故に、胃液攻撃を逃れた細菌どもが、わんさか生きたまま消化管下部へ怒涛の如く流れ込んでしまいます。実際、健常成人と高齢者を比べると、高齢者では、口腔内細菌叢と腸内細菌叢が非常に似通った構成になっていたそうです。他にも、歯周病に関連するフソバクテリウム・ヌクレアタムは、大腸癌患者の腸内細菌として、癌病変部に多く検出されており、口腔内からの移行が疑われています。歯周病菌は、様々な病気のリスクファクターとも言えます。
爺婆化するにつれて、プロテオバクテリア門やフゾバクテリア等が増える傾向にはなるんですが、この菌体成分であるリポ多糖(LPS)って野郎が曲者で、炎症反応を引き起こすだけでなく、腸管バリア機能を低下(=Leaky Gut)させてしまいます。本来は腸管バリアが働いて、細菌由来成分等の様々なロクでもない連中が血管内へ侵入するのを完全にブロック!してくれているのに、Leaky Gutが一度起きてしまうと、もう奴らの雪崩状態の血管流入を阻止出来ず、全身の慢性炎症や加齢性疾患が更に加速度的に増悪してしまいます。
■正義の味方”ビフィズス菌”を助っ人に。
ビフィズス菌は、乳酸や酢酸を産生します。
酢酸は、腸管上皮細胞に於いて、タイトジャンクション関連因子であるClaudin-1やOccludinの発現を上昇させ、腸管バリア機能を強力にサポートします。それ以外にも、強い殺菌活性があり、大腸菌の増殖を抑え、腸内環境を健やかに整えてくれます。興味深い事に、100歳以上の超高齢者の腸内細菌叢では、ビフィズス菌の占有率が高く、彼らの腸内細菌叢から分離したビフィズス菌をマウスに移植すると、それだけで免疫バリア機能が上昇したとの報告もあります。
つまりは、プロバイオティクスやプレバイオティクスの助けを借りて、年齢と共に激減してしまうビフィズス菌を、現状維持、若しくは多少なりとも増やす努力はする価値があるって事です、はい。
認知症に於ける腸内細菌の作用
超高齢化社会を迎えた日本では、認知症は喫緊の課題とされています。患者数は年々増加しており、2012年の時点で約462万人、2030年には744万人を越え、高齢者の5人に1人が認知症になるとの予測がされています。疫学的な研究によれば、認知症の6割以上がアルツハイマー病(美容通信2019年4月号)に分類されます。未だ、発症後の治療法は確立しておらず、発症する前の段階での予防が重要視されています。つまり、脳腸相関(brain-gut interaction)(美容通信2020年6月号)(美容通信2018年7月号)からのアプローチです。
脳腸相関には、迷走神経を介した経路だけでなく、腸内細菌が産生する代謝産物が、脳機能の維持に関与していると考えられています。美容通信2020年6月号でも取り上げましたが、実際に脳機能障害を有する患者さん達の腸内細菌叢には特徴があります。例えば、アルツハイマー病では、同世代の高齢者と比較して、バクテロイデスの割合が減っているとか、軽度認知障害の患者さんの腸内細菌叢は、認知症の患者さんのそれと酷似している等々。
最近は、ビフィズス菌A1(Bifidobacterium breve)株に、認知機能の改善作用があるのではないかと注目されています。推定される中枢神経系への作用機序としては、以下の3つの可能性が挙げられています。単独なのか、複数のメカニズムなのかは不明ですが。
- ビフィズス菌A1株が産生する液性因子が、血液を介して直接作用したのではないか。
- ビフィズス菌A1株は、末梢のマクロファージの活性に作用します。マクロファージは、血液脳関門(blood brain barrier)の機能が不十分な脈絡叢から脳実質に浸潤し、アストロサイトやミクログリアの活性化に影響を及ぼすと推測されており、この経路から中枢神経系の炎症を抑制したのではないか。
- 迷走神経は、脳内の神経伝達物質の濃度や神経活動に影響を及ぼしますが、ビフィズス菌A1株は、この迷走神経を介して作用したのではないか。
乳酸菌
乳酸菌とは、消費するグルコース量に対し、50%以上の乳酸を産生する細菌の総称であって、分類学上の名称ではないんです。分類学的には、30を超える属が知られていて、属する種は100を超えるそうです。
中でもLactobacillus属5種の動物性乳酸菌株は、多数ある菌種の中から選抜されたエリート軍団であり、発酵乳や乳酸菌飲料の製造に良く用いられています。代表的な乳酸菌とその期待される効果を列挙しておきますね。
- L. acidophilus strain L-92:IgE産生抑制
- L. casei strain shirota(YIT9029):整腸・免疫賦活・抗腫瘍
- L. delbrueckii subsp. bulgaricus:整腸・腸内有害物質産生抑制
- L. delbrueckii subsp. bulgaricus OLL 1073R-1:風邪予防
- L. gasseri OLL2716:ピロリ菌減少
- L. gasseri SBT2055:抗肥満
- L. johnsonii La1(LC1):ピロリ菌減少
- L. lactis subsp. cremoris FC:整腸・免疫賦活・抗腫瘍・コレステロール低下
- L. rhamnosus GG:整腸。腸内有害物質産生抑制
- L. reuteri ATCC 55730:抗生物質ロイテリン産生
- L. reuteri DSM 17938:抗生物質ロイテリン産生
- L. salivarius TI2711(LS1):歯周病抑制
乳酸菌の作用には、プロバイオティクス、即ち生菌でなければならない作用と、必ずしも生菌である必要はないって作用の二つがあります。腸内細菌同士の相互作用には、やはり生!である事が大きな比重を占めていますが、免疫系を介する作用には、寧ろ菌体由来の多糖や蛋白質が重要です。
唯、乳酸菌の効果は、お薬の様なシャープな切れ味を求める類のものではなく、長期間に亘て、たらたらと毎日の様に食べ続けていると、「何となく良い気がするよね、やっぱ!」的な恩恵を得られる。=健康管理に於ける”縁の下の力持ち(⋈◍>◡<◍)。✧♡”と言えるかも知れません。
乳酸菌とプロバイオティクス/プレバイオティクス/シンバイオティクス
1989年、Fullerが定義したのが、プロバイオティクス。腸内細菌叢(フローラ)のバランスを整えて、私達に有益な作用を齎してくれる生きた!微生物の事です。発酵乳や乳酸菌飲料は、乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)により、製品の中に一定数以上の乳酸菌の生菌を含有する事が規定されているので、分類的には、プロバイオティクスに相当します。
1995年、Gibsonらが定義したのが、プレバイオティクス。消化管上部で分解/吸収されず、大腸を塒にしている有益なバイ菌が好んで食する栄養源、例えば、フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラクトスクロース、マルチトール等がこれに相当します。大腸のフローラの健康的なバランスの改善/維持し、牽いては、それが私達宿主さん達の健康増進/維持に役立ちます。
Gibsonらは、更に、プロバイオティクスとプレバイオティクスを合体させた、最強のガンダム的発想の産物をシンバイオティクスとしました。プロバイオティクスの腸管内での増殖を、強力にサポートしてくれるプレバイオティクスを組み合わせる事は、一石二鳥、三鳥系です。コンビニでも、プレバイオティクス添加の発酵乳や乳酸菌飲料が売られています。
乳酸菌の有効性
■L. casei strain shirota(YIT9029)((株)ヤクルト本社)
胃酸に対し耐性を示す菌株として、1930年に見出され、以後、乳酸菌飲料の定番中の定番の座を守っています。整腸作用に加え、寄生虫や細菌に対する抵抗性を高め、アレルギーの抑制効果、ピロリ菌抑制効果等が示されています。
■L. delbrueckii subsp. bulgaricus OLL 1073R-1((株)明治)
炎症性サイトカインの産生を抑制する事で、免疫疾患に対して抑制作用を示す可能性があります。NK細胞の活性化やIgA産生の促進により、抗インフルエンザ作用を発現すると考えられていますが、実は、菌体外多糖が、腸管自然免疫系を介して有効性を発揮している可能性も無きにしも非ず。
■L. gasseri OLL2716((株)明治)
ピロリ菌の増殖を抑えるので、どうも、直接的な抗ピロリ菌作用があるのではないかと考えられています。3剤併用によるピロリ菌除菌を進め、クラリスロマイシン耐性のピロリ菌に対しても有効性を示します。ピロリ菌がIL-8を産生するのを阻止しますが、死んだ菌にはその効果がないそうです。アスピリンによる消化管粘膜の障害に対しても保護作用を示します。整腸作用、免疫促進作用も認められています。
■L. gasseri SBT2055(雪印メグミルク(株))
蛋白性抗菌物質であるgassericin T(bacteriocin)を産生します。Staphylococcusの減少、インフルエンザ感染の予防、Campylobacter jejuni(腸炎原因菌)の接着/侵入の抑制、Helicobacter suis(MALTリンパ腫に関連)及びピロリ菌に対する抑制、Porphyromnas gingivalis(歯周病原因菌)のコロニー形成の抑制、RSウィルス感染の抑制等の効果を示す。それ以外にも、デブ化を阻止してくれたり、脂肪吸収のを抑制、排泄を促す等々と、体重増加、脂肪蓄積を抑制してくれます。脂肪組織へのマクロファージの侵入を抑制して、炎症を軽減します。エネルギー消費を増やし、耐糖能を改善し、インスリン分泌促進作用もあります。
■L. acidophilus strain L-92(カルピス(株))
IgE産生抑制作用に注目して選抜した菌株だけに、通年性アレルギー性鼻炎、スギ花粉症、アトピー性皮膚炎の症状を軽減します。Th1/Th2バランス(美容通信2019年7月号)を矯正し、制御性T細胞を誘導します。NK細胞活性を上昇させ、インフルエンザだけでなく、多分ですが新型コロナ感染に対する予防効果もあると思われます。Caco-2細胞への密着、樹状細胞からのIL-12遊離に、surface layer protein A(SlpA)が重要な役割を演じています。SlpAは、M細胞への取り込みにも関与します。
因みに、これ等の作用は熱処理した菌株でも認められる。つまり、必ずしも生菌である必要はない=プロバイオティクスには当たらない!んです。
乳酸菌の作用機序
私達の体は、約37兆個の細胞で構築されています。腸管内には500~1000種類の細菌が定着して、腸内細菌叢(フローラ)を形成しています。その総数は100兆個にも及ぶそうです。生きた乳酸菌は、新たな移民として定住の道を選択すると言うより、プロバイオティクスとして、これ等の腸内細菌達と相互作用をしているようです。乳酸菌が産生する酸や抗菌物質は、腸内細菌達を唆して?(笑)、好ましくない細菌達が蔓延るのを妨げているようです。それどころか、外界から闖入して来た新型コロナの様な病原微生物に対しても、抑制効果を示すんじゃないかと盛んに期待されています。乳酸菌由来の多糖類は自然免疫系に認識され、蛋白質は獲得免疫系を刺激して免疫系の調整に関わっているようです。具体的には、パイエル板の管腔側粘膜に存在するM細胞(美容通信2014年1月号)が、乳酸菌の菌体表面分子と接着し、菌体を取り込むと考えられています。それ以外にも、管腔側に存在する多糖類、蛋白質等も、樹状細胞によって直接取り込まれているようです。乳酸菌の作用機序の詳細については、分からない事の方が遥かに多過ぎる!と言うのが現状ですが、少なくとも、整腸作用や抗ピロリ菌作用については、この様な機序が働いていると推測されています。
植物性乳酸菌
乳酸菌とは、糖を代謝して乳酸を生成する通性嫌気性菌の総称であり、乳発酵食品(チーズ、ヨーグルト、漬物等)や植物、動物(←私達人間も含む)の腸管、海洋環境等々、地球上の至る所に蔓延っております。植物性乳酸菌は、植物から分離した植物質を発酵させて育てた乳酸菌なので、動物由来の動物性乳酸菌とは異なる分離源です。唯、ヨーグルトやチーズの中には、動物性乳酸菌とは申せ、植物質を発酵させて生育しているものもあったり、また、植物と動物の両方から分離される乳酸菌もありと、温情はせず、分離源できっぱり一線を引いて下さいね。まあ、単に決まり事と言えば、決まり事なんです(笑)。
乳酸菌による発酵食品
私達人類は、長い長い歴史の中で、乳酸菌による様々な発酵食品を摂って来ましたが、その代表格が発酵乳です。メソポタミア文明の頃に世の中デビューしたと考えられており、数千年に亘る長い歴史がある食品です。国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同会議に於いて、「プロバイオティクスとは、適正量を摂取する事により、宿主の健康に有益な作用を齎す生きた微生物」と定義されています。
植物を発酵させた食物は、動物由来の発酵食品と比べてすっと前から、つまり150万年も前から食されていたようです。当初は、穀物や野菜、果物を発酵させていたようですが、食文化の発達に伴って、調味料やお茶、漬物等へと形を変え、幅広い種類の植物性発酵食品が世界中で食べられるようになりました。
■日本のお漬物~L. brevis
日本に於ける植物性の発酵食品には、お漬物以外にも、お味噌や醤油、納豆等の様々な食品があります。中でもL. brevisは、日本のお漬物と言えば!と言う程に、高い頻度で分離される乳酸菌です。このL. brevisは、発酵漬物以外にも、乳製品やサイレージ(発酵性家畜用飼料)、消化管等の様々な場所から分離されます。偏性ヘテロ発酵様式でエネルギーをGETする乳酸菌で、発酵基質に含まれる炭素源(主に糖類)を資化する事で、乳酸のみならず、酢酸、炭酸ガス等を代謝します。この点が、発酵乳でしばしば利用されるホモ発酵様式の乳酸菌とは異なる点です。L. brevisのヘテロ発酵は、ジアセチル等の独自の芳香成分も代謝するので、家畜の餌や伝統的な発酵食品に於ける、独特の酸味や風味の形成に貢献しています。又、L. brevisが産生するバクテリオシンによって、抗菌作用が齎される事も、発酵食品の保存性向上に寄与しています。
■L. brevis KB290による生体機能調節作用
プロバイオティクスがその能力を遺憾なく発揮する為には、宿主である私達の消化管の環境、つまり胃液中での低pH環境や、腸液中に於ける胆汁酸、そして様々な消化酵素に対して、負けない強さが要求されます。L. brevis KB290は、胆汁酸を含めた消化液耐性が強く、L. brevisはプロバイオティクスとして有望株!の菌種の一つと考えられています。実際、L. brevis KB290の生菌には、生きたまま大腸まで届くタフな菌株です。
L. brevis KB290には、インターフェロン(IFN)-αの産生亢進、natural killer(NK)活性の上昇等の免疫賦活作用があり、学童を対象にした試験で、インフルエンザ罹患率が優位に低下したとの報告があります。又、整腸作用としての有効性も既に検証されています。便秘傾向の健常日本人を対象にした試験で、摂取により排便回数及び排便日数を有意に増加させました。作用機序としては、Bifidobacterium属とLactobacillus属を増加させる事、酢酸等の短鎖脂肪酸濃度が糞便中で増加する事が示されています。便秘の改善以外にも、小児期のIBS患者では、水様性の便性状頻度が低下し、腹痛症状の改善が認められたそうです。
■L. brevis KB290による腸管炎症抑制効果
腸管粘膜免疫機構は、様々な免疫担当細胞によって緻密に制御されています。腸管粘膜の炎症ホメオスタシスには、単球から分化するCD11c+マクロファージとCD103–樹状細胞が非常に重要な役割を果たしています。
CD11c+マクロファージは、炎症抑制性サイトカインであるインターロイキン-10(IL-10)を産生する事で、炎症抑制に寄与します。CD103–樹状細胞は、微生物の存在を認識するToll-like receptorのアンテナを立てまくり、感知した微生物刺激に対し、tumor necrosis factor-α(TNF-α)やIL-6、IL‐12等の炎症性サイトカインを産生し、リンパ球のTh1・Th12分化に関わっています。幾つかの動物実験から、CD103–樹状細胞が減少する≒腸管炎症抑制と考えられています。
多くの動物実験の報告を総合すると、L. brevis KB290とビタミンAの併用で、CD11c+マクロファージ/CD103–樹状細胞比が上昇し、結果、腸管炎症病態が抑制されます。
■L. brevisの下痢型IBS様症状に対する効果
様々な介入試験の結果から、L. brevis KB290は、IBS患者さんの下痢や腹部症状を軽減する事が示されました。これは、腸内細菌叢が改善され、本来の整腸作用が機能するようになったのではないかと考えられています。又、近年、下痢型のIBS様症状の一因として、軽微な大腸炎症が関与しているとの報告があります。L. brevis KB290とβカロチンの摂取は、抗炎症サイトカインであるIL-10濃度を有意に高い状態に保ち、抗炎症作用に関与している事が知られており、有効な治療手段となりうると思われます。
酪酸産生菌
酪酸はバターから得られたので、ラテン語でバターを意味する「butyrum」から、酪酸「butyric acid」の名で呼ばれるようにりました。天然に広く分布しており、脂肪酸の分解過程で生合成されます。また、体外へと分泌される皮脂にも含まれており、蒸れた足等から発せられる悪臭!の原因物質の1つでもあります。他には、乳汁を原料としたバターやチーズ等にも含まれていますし、植物にも含まれ、例えば、銀杏の異臭の原因でもある。
微生物によって酪酸が作られる場合もあります。腸内細菌は、私達人間の消化器では消化出来ない食物繊維を原料として、生命維持にに不可欠なビタミン類、酪酸(美容通信2012年8月号)等の短鎖脂肪酸を作ります。
短鎖脂肪酸
脂肪酸は有機酸の一つで、炭素元素が幾つか鎖状に連なる構造になっています。中でも6個以下のものを短鎖脂肪酸と言います。炭水化物と一言で言っても、私達人間が消化酵素で消化出来る易消化性炭水化物と、オリゴ糖類や食物繊維類等の、そのままでは消化吸収が出来ない難消化性炭水化物があります。腸内細菌達の多くは、この難消化性の炭水化物を全てではありませんが、そこそこ分解し、消化吸収の手助けをしてくれます。短鎖脂肪酸とは、この難消化性炭水化物を腸内細菌が分解する時に産生されるもので、酢酸、プロピオン酸、酪酸の3種類があります。
大腸の粘膜細胞達は、血液から栄養を賄っているのはほんの極く一部で、殆どを腸管腔から供給される短鎖脂肪酸由来のエネルギーに依存しています。短鎖脂肪酸は、腸管の蠕動運動を促進したり、小腸や大腸の上皮細胞の増殖を促します。その他にも、腸管の粘液の分泌や水、ナトリウムの吸収を促します。腸の中の便と腸管壁の間にある粘液層へ水分が分泌され、滑り易くなるので、うんこがスムーズに腸内を移動し易くなります。それだけでなく、物理的に!うんこが腸管壁に触れないので、うんこの中の細菌が腸管壁から侵入してしまうなんて不幸な事態を減らしてくれる、まあ、バリアとして働いてくれます。換言すると、短鎖脂肪酸が不足して、うんこが粘液でコーティングされないと、軟便や下痢便になり、バリア機能も破綻すると、一気に腸壁から病原菌が侵入→病気になる。
酪酸菌・酪酸
腸内細菌が作る3種の短鎖脂肪酸のうち、酢酸やプロピオン酸の一部は大腸で消費されますが、殆どは大腸の粘膜から吸収され、血液に乗って全身に行き渡り、肝臓や筋肉、腎臓等に運ばれ、エネルギー源や脂肪を作る為の材料になります。しかし、酪酸は、腸管上皮の増殖作用が最も強く、結腸の粘膜細胞が最も利用しやすい短鎖脂肪酸と言われ、粘膜上皮細胞が必要とするエネルギーの約60~80%を賄ってるそうです。酪酸菌は、私達人間の腸内で、酪酸を産生する細菌の総称です。酪酸には、腸内環境を整え、健康な腸内細菌叢を保つ働きがあり、腸内を弱酸性にし、酸素のより少ない環境に保ちます。
腸内細菌は、その種類によって、酸素を必要とする度合いが異なります。酪酸菌や腸に良い働きをする有用菌(善玉菌)のビフィズス菌等の、所謂イイ子ちゃんグループに所属する細菌達は、低酸素状態が好きなんだそうです。反対に、私達の体に対して悪事を企てるロクでなし軍団、例えば、サルモネラ菌やビブリオ菌、カンピロバクター菌、ブドウ球菌等がこのグループに属しているんですが、こいつら悪い連中は酸素のある環境を好みます。ですから、より酸素が少ない腸内では、酪酸菌が蔓延って酪酸をばかすか増産に走る→大腸の上皮細胞は、酪酸と酸素を使ってエネルギー産生を増やす→酸素がより欠乏する→イイ子ちゃんは酸素が少ない環境が好きなので、ますます増える!という好循環が進み、酪酸菌と上皮細胞のwin-win関係が構築されます。これは、ひいては腸の堅牢なバリアを保つ事に繋がり、腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)を回避してくれます。それだけでなく、酪酸は粘液の分泌を促します。粘液は腸管上皮を覆い、粘膜バリアとして病原菌の侵入を防ぎ、大腸組織を保護する役割をも担ってくれます。バリア機能の低下は、炎症等の病気を誘発します。実際、消化管に慢性的な炎症が起こるクローン病や潰瘍性大腸炎等の全身性疾患を患う患者さんでは、腸内に於ける酪酸の産生が低下しており、乳酸菌やビフィズス菌等の良い子ちゃんグループである善玉菌が、健康な人と比べて少なくなっています。
酪酸菌は芽胞を形成するのが特徴ですが、この芽胞は、光や温度変化、強酸・強アルカリ等の過酷な環境にも屈しない、強固なシェルターでもあります。同じ生菌製剤でも、芽胞がないビフィズス菌等は光に当たれば死んでしまいますが、酪酸菌は芽胞が守ってくれるので変質し難く、色々な病原菌に対する抗菌作用や、腸内細菌叢の正常化等も認められています。
■酪酸と長寿の関係
日本人の腸内フローラは、酪酸や酢酸等の短鎖脂肪酸を多く生成すると言う特徴があります。日本人の腸内細菌叢に類似しているのは、長年に亘り発酵食品をして来た国の人達で、オーストラリア人とフランス人の一部とされています。中国人は、私達日本人と遺伝子的に似通ってはいますが、腸内フローラの構成は全く異なっており、腸内フローラは遺伝より環境の影響を強く受けるようです。日本国内でも、長寿者の多い地域に住む高齢者の腸内細菌には、健康に役立つとの評価が以前より高かったビフィズス菌以外に、酪酸菌が多く検出されるそうで、健康長寿に寄与している可能性があります。
■酪酸とプロバイティクス
現在、国内で販売されている酪酸菌を含むプロバイオティクスは、ミヤBM®(クロストリジウム・ブチリカム MIYAIRI588株を含む)とビオスリー配合錠®(乳酸菌、酪酸菌、糖化菌)です。特に、MIYAIRI588株は、炎症性腸疾患に対し、腸管組織のサイトカインの発現等の調節を介して抗炎症作用を示すだけでなく、腸内細菌叢に影響を及ぼし、結果的に腸内細菌叢による代謝の変化を介して腸粘膜の保護作用を有しているそうです。その他にも、免疫細胞の活性化や、ヒト癌細胞に対する細胞障害活性の増強作用を示し、これ等の作用も長寿に関与しているようです。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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来月号の予告
栄養療法を制するか否かは、プラスαにあり。栄養素を単に補充すれば、つまりサプリメントを飲めばそれだけで成果が上がる? そんな訳ないじゃん。
<栄養療法を成功に導く為の、ノウハウ伝授します>です。