HISAKOの美容通信2003年7月号
光老化前編・光老化のメカニズム
「光老化」って言葉を、最近、当たり前の様に耳にすると思います。
私達が老化と思っている様々な症状、例えば、シミやシワ、皮膚癌、免疫力の低下、白内障等の原因の約8割が、紫外線照射による「光老化」です。
つまり、年齢によるどうしようもない老化の部分って、2割程度なんですよ、実は。
確かに母子手帳から、赤ちゃんの日光浴を推奨する項目が削除されて久しい事を、皆さん御存知ですか? アメリカ皮膚科学会では、photoaging(光老化)/photodamege(光による損傷)に対するガイドラインで、小児期の早期から光防御を開始し、一生続けるべきであるとの警告を出しているのを御存知ですか? 南アメリカでも、オーストラリアでも、多くの国々で、同様の警告が発せられ、積極的な啓蒙活動が行われているのを御存知ですか?
紫外線は、日焼け、光アレルギー、光老化、皮膚癌、白内障、免疫抑制作用などの多くの好ましくない障害をもたらします。地球環境の悪化によるオゾン層の破壊など、更に私達の皮膚を取り巻く環境は悪化の一途を辿っています。
もう一度、謙虚に、多くの国が光制御を推奨する意味を一緒に考えてみませんか? 私達の、そして私達の子供達の為にも。てな訳で、今月号は”光老化のメカニズム”です。
紫外線って、何モノ?
紫外線は、可視光線の紫よりも更に短い波長域の光で、右図の様にUVC(200~280nm)、UVB(280~320nm)、UVA(320~400nm)に分けられます。そのうち、300nm以下の短い波長の光(UVCとUVBの一部)は地表を包む成層圏オゾン層で吸収散乱されてしまうので、地上にまでは到達しません。因みに窓ガラスでUVBは吸収されるので、窓ガラス越しの光はUVAとUVAよりも長い波長の光が含まれます!(って事は、屋内だからって安心は出来ないって事だよなあ。)
しかしながら、地表まで漸く届いた紫外線が即、私達の肌に届く、実際はそんな単純な話ではないんです。どうしてかって? 紫外線の強さや量は、地域、季節、そして時間帯により大きく異なって来るから。つまり、地球と太陽の位置関係、更にその地域の天候等により大きく左右されるんです。
- UV量は緯度が低い地域程多く、沖縄は1日のUV量(年間平均)は北海道の約2倍!
- 標高が高い程UV量は多く、300m上昇する毎に4%増加!
- 年間では5~7月が、1日では正午前後の1時間が、UV量が最も高くなる時間帯!
- 更に反射光も考慮する必要がありまよね。例えばUVの反射は雪面では85~88%と高く、海辺の乾いた砂では7.5%~17%、水面では5~19.6%、コンクリートでは5.5%、芝生では1.2%。
- それに私達の体は凸凹。浴びる紫外線量に差が出て来ます。鼻や頬、下唇何かが、概して被曝量が高いよね。
これらの事柄はちょっと詰まんないかも知れないけど、紫外線による皮膚障害を考える時には勿論、来月号の防御の章で再び重要なファクターとしても登場して来るので、頭の片隅に置いておいてね!
しかしながら、紫外線に対して、皮膚は勿論、ぼけーっと手を拱いている訳ではありません。自然の防御機能はやはり存在するんです。
皮膚の紫外線に対する防御機能
紫外線は、皮膚の構造とその構成物質により吸収拡散され、皮膚の深部になる程減少します。大きく分けると、5つの防御機能があると考えられています。
- 角層による紫外線の吸収と散乱。
- 表皮内のメラニンによる紫外線の吸収と散乱、さらに活性酸素の消去。
- 脂肪組織中に蓄積されたβカロチンなどの活性酸素消去剤。
- スーパーオキシドジェスミューターゼsuperoxide dismutase(SOD)やグルタチオン・ペルオキシダーゼ還元酵素:抗酸化分子。
- 紫外線照射後のDNA損傷の修復能力。
5つの防御機能のうち、基底層のメラノサイトって色素細胞から産出されたメラニン(黒い色素)は、特に防御機能は抜群!
つまり、日焼けして色が黒くなったりシミが出来る(表皮のメラニンが増える)とか、皮膚がゴワゴワして透明感が無くなる(角層が厚くなる)って言う、まあ、私達女性陣にとって極めて有難くないお肌のトラブルは、言い換えると、こらから新たに曝露されるであろうと思われる紫外線に対する皮膚の(生体の)防御反応でもあったんですねえ。フムフム。
紫外線に対する最大最強の防御を担うメラニン、これについて基礎的な事柄を補足しておきましょう。てな訳で、メラニン基礎講座! でも、難しい話は、苦手って貴女は省略しちゃっても大丈夫ですよ。
先ずは、顕微鏡で皮膚を拡大して見てみましょう。じゃーん、とこんな感じ。黒い色素(メラニン)を作る色素細胞(メラノサイト)は何処にいるかな?
いましたね、メラニンちゃん。このメラニンは、色素細胞(メラノサイト)内のメラノソームって小器官でのみ作られているんです。メラノソームの中にしかメラニンを作る為に必要な酵素系が無いからなんですよ。上図をもう一度見てみましょう。ウサギさんの顔みたいなのが、色素細胞(電子顕微鏡写真を図式化しちゃいました!えへへ)ですよ。中にフットボールみたいな形をしたメラノソームがありますよね。白い奴は、第Ⅰ期メラノソームと言って、メラニン生成が始まる前の段階です。これが第Ⅱ期に入ると、メラノソーム内のチロジナーゼTyrosinaseの働きで生成過程がスタートし、メラニンポリマーが作られ、メラノソーム内の蛋白と結合して巨大なメラニン蛋白複合体を形成します。それがメラノソームの中を埋めて行き(第Ⅲ期)、やがて充満して、成熟したメラノソーム(第Ⅳ期)になるんです。そして成熟した第Ⅳ期メラノソームは、下図の如く周囲の角化細胞(ケラチノサイト)に渡される…(ちょっとゾンビっぽい絵でゴメンなさい!)。そしてそして、漸くメラニンになるのです。
超参考までに、メラニンの合成経路も載せちゃいましょうか。別に知ってたらどうって訳でもないんだけど、使っている化粧品やシミの塗り薬なんかが、何処をブロックしているのかななんて解っていると、ちょっと楽しいかなあなんて思いまして。まあ、マニアックな喜びとでも申しましょうか。勿論、色素異常の病気何かの原因が何処にあるかも解るしね。便利です。
じゃあ、応用問題。何で日焼けした後や、虫刺され(炎症)の後が茶色くシミになったりするんでしょう? 紫外線に当たると、表皮の角化細胞(ケラチノサイト)や真皮の線維芽細胞(『?』と思った人は、この章の一番上の図を見てね)から、色んなサイトカイン、成長因子、ホルモンと言った物が出て来ます。虫刺され(炎症)でも、アラキドン酸代謝産物を始めとする様々な化学伝達物質が出て来ます。これらの生理活性物質が、直接的及び間接的に色素細胞(メラノサイト)の増殖を促進したり、メラノソームやメラニンの生成を促進したりするんですよ。
さあ、まとめです。いつものお馴染みの<光の皮膚への深達度>の図ですね。
これらの防御機能によって、皮膚内部にまで到達出来る紫外線量は波長の長さによって異なり、短いとなる程真皮深くまでは入り込めないんですねえ…。
紫外線による障害
ではでは、この様に降り注いだ紫外線は私達の体にどんな影響を及ぼすのでしょう? 紫外線と私達の体の関係は、先ずは紫外線が吸収されなければ話が始まりません。それは恋愛感情と一緒。あっ、結構良い男じゃんと、ビビビーッと❤に感じちゃう、その乙女心が生体では光をを吸収するクロモフォア。下にクロモフォアと、それが吸収する紫外線の種類とクロモフォアが存在する細胞を一覧表に纏めてみました。
クロモフォア | 吸収紫外線 | 標的細胞 |
ウロカニン |
UVB | 角層細胞 |
DNA、核酸 |
UVB | 表皮細胞 色素細胞 線維芽細胞 |
蛋白質・アミノ酸(ケラチン、コラーゲン、細胞間基質) |
UVB、UVA |
表皮細胞 |
脂質(細胞膜) | UVB、UVA | 表皮細胞 |
メラニン |
UVB、UVA | 表皮細胞 色素細胞 |
NADH、キノン、フラビン | UVA | 表皮細胞 線維芽細胞 |
これだけじゃあ、ちょっと解り難いので、補足してみましょう。
例えば、ウロカニン酸。ウロカニン酸は紫外線によって、トランス型の同位体からシス型の同位体に変換されて、これがランゲルハンス細胞(皮膚の免疫を司る!)を減少させたり、接触アレルギーの抑制を引き起こします。
核酸のピリミジン、プリンはUVBを吸収してしまうので、細胞のDNA障害を起こしてしまいます。非酵素的に起るシクロブタン型ピリミジンダイマー、光生成物の生成で、修復、サンバーン細胞形成、発癌等の機会を細胞に与える事となってしまいます。又、ヌクレオチドがUVBを吸収すると、DNAの切断、遺伝子変異、光産物(サイトカイン、酵素、遺伝子調節因子)の誘導何かが起ってしまいます。
細胞膜は、不飽和脂肪酸の過酸化。
メラニンは、紫外線照射により生じる活性酸素(みのもんたのTVでもやってるけど、一見名前は良さそげだけど、実は悪玉!)・フリーラジカルを捕まえて酸素ストレスを抑制してはくれますが、同時にメラニン自体が活性酸素・フリーラジカルを発生しちゃうと言う二面性も持っているのでーす! 複雑…。
この様な影響が積もり積もって、まあ雪だるまがどんどん大きくなる様に、皮膚の組織はそれを構成する細胞毎に様々な変化を示して来ます。この紫外線曝露よる皮膚の構成細胞の形態学的変化を簡単に纏めちゃったのが、下の表。
これらが集積して、これから述べる急性若しくは慢性障害として私達が実感する事になるんですねえ。
急性障害 | 慢性障害(光老化) | |
表皮細胞(ケラチノサイト) |
サンバーン細胞形成 |
サイズ・形態の多様性 多様なメラノソーム 増殖>萎縮 |
色素細胞(メラノサイト) | 増殖 メラノソーム産生増加 |
増加→減少 メラノソーム産生増加 |
線維芽細胞 ①コラーゲン ②弾性線維 ③グリコサミノグリカン |
増加 増加 増加 増加 |
増加 減少・新生コラーゲン層(Grenz zone) 日光弾性線維症 増加 |
肥満細胞 | 増加 | |
ヘルパーT細胞 | 減少 | |
サプレッサーT細胞 | 活性上昇 | |
ナチュラルキラー細胞 | 活性低下 |
急性障害
代表的な反応が、日焼け。この日焼けは厳密には、サンバーンとサンタンの2段階の反応から成り立ってます。つまり、南の国でガッツリ太陽を浴びたりすると、皮膚が赤く腫れ上がる。まあ、酷いと水脹れになっちゃったり、熱を出して寝込んじゃったりして、折角の休暇を台無しにしちゃう羽目に陥るのですが、これがサンバーン(即時型色素沈着)。火傷(やけど)の一種です。しかしこの因幡の白兎さん状態は基本的には永遠に続くものではなくて、基本的には次第に収まり、褐色のブロンズ肌に昇格したら、サンタン(遅延型色素沈着)。(例外①:光線性花弁状色素沈着は激しいサンバーンの後に生じるサンタンの一種で、自然消退は致しません。悪しからず!) この急性障害は主にUVBによって惹起されますが、UVAで更に破壊力をパワーアップ!?させます。
慢性障害(光老化)
長年太陽光線に曝露してきた皮膚は、著明な老化現象を示すようになって来ます。つまり、私達の皮膚は生理的な老化(自然老化)のみならず、更に余計な光老化photoagingが加わってくるって事! 肌の色は、黄色調及び褐色調となる。質感も、艶が失せ、分厚くて硬くキメの粗さが目立つ様になり、張りが無くなって、皺が増え且つ深くなる。所謂、老徴って奴。これに、老人性皮膚疾患が加わります。種々の色素斑が増え、良性腫瘍のみならず、日光角化症等の前癌病変、皮膚癌が合併して来るんですねえ。
この光老化を起こす波長域については未だはっきりとは解明されていません。UVBのみならず、真皮深くまで到達するUVAも関与していると言われています。UVAは、多量に浴びない限り急性の重篤な反応を引き起こす事が無い為に、これまであまり危険視されて来ませんでした。補足でも触れている様に、<日焼けサロン>がその代表格。でも近頃漸く研究が進み、その危険性を無視出来ない事が解って来たのでーす。
更に最近では、免疫系に対する慢性的な紫外線曝露の影響が示唆される様になり、皮膚のみならず全身に亙る紫外線の影響についても段々解明されて来る事でしょう。…おー、怖っ!
さあて、代表的な光老化について掘り下げてみましょうか。
- シミ(色素斑)(⇒メラニン基礎講座を参照しておくんなまし) <シミ>は、色々な色素性疾患の総称で、夫々に臨床像か異なるので発症のメカニズムも異なっていて、一概には論じる事は出来ませんし、まだまだ謎の部分も多く残されているのも事実。。しかしながら、顔面に発生する<シミ>のうち紫外線が関与しているものとしては、老人性色素斑、肝斑、ソバカス(雀卵斑)が主なもの。
- 皺
- 皮膚癌
<シミ>の大御所である老人性の色素沈着については、発症のメカニズム自体すら未だ解明されてはおりませんが、30歳代で20%、40歳代で62%、50歳以上では92%にあるって報告も出ている位、無関係であり続けるのは至難の業。宿命と言っても過言ではありません。これは、恐ろしい事に、長期間に亙って紫外線を浴びる事で一部の表皮細胞(ケラチノサイト)の性質に変化が生じ、、紫外線を浴びなくてもメラノサイトを刺激する因子を出しっ放しにし続けちゃう様になるのが、原因の一つではないかと考えられています。入りっ放しのスイッチ…。
…即時型の黒化にあずかるUVA、遅発型の黒化にあずかるUVBの両者を制御する事が<シミ>の予防には重要です。
<皺>を考える前に、<皺>がそもそも起る場所、真皮について知らなきゃ話にもなりません。先ずは、真皮の構造を見てみましょう。
紫外線は繰り返すようですが、細胞を傷害します。更に基質や線維成分に対しても、直接又は炎症を介して障害を与えます。当然、エラスチン線維(弾性線維)が傷害されてしまう訳ですから、体は一生懸命に(代償性に!)エラスチン線維の増産体制に入ります。しかし、しかしながらです、この増産されたエラスチン線維は、まっさらな白いキャンバスに一から絵を描くのと違って、損なわれたエラスチン線維の残党や元々在ったコラーゲン線維の間を掻い潜って継ぎ足し継ぎ足しされて行く訳ですから、増築を重ねた多くの家屋と同様、本来あるべきの直線的な構造を加速度的に失って行き…、弾力のないエラスチン線維としか成れない(エラスチン線維の日本語訳が弾性線維と言葉が示す通り、弾性がなけりゃあ無用の長物!)。それじゃあ、困るから更なる増産体制へと、エンドレスな悪足掻きサイクルへと一気に突き進んで行きます。出来損ないの線維成分、まあ、市場に流すことが出来ない不良品(皮膚の世界には残念ながら、アウトレットって言葉は存在しない…)の山が、斑に、帯状に、沈着し…、弾力のないゴワゴワの肌として、深く刻まれた皺として、私達の顔の上で認識されるに至る…。
動物実験では、主としてアメリカで1920年代から、UVB或はUVA単独を反復照射する事によって皮膚癌が生じる事が報告されています。紫外線の関与が考えられている癌には、①悪性黒色腫、②有棘細胞癌、③基底細胞癌の3種類があり、更に前癌状態としては日光角化症があります。
サンバーン(紫外線誘導アポトーシス)、発癌等については分子生物学的な面からのアプローチが成され、可也解明はされつつはありますが、多形日光疹、慢性光線過敏症皮膚炎、日光蕁麻疹等の多くの疾患については、未だ生体内のクロモフォア(光感作物質)が明らかにはなっていません。悪しからず。
更に、近頃良く耳にするようになったオゾンホール。これも曲者なんです。オゾンホールとは、フロンガス等によってオゾン層の破壊が進行してしまうものです。(オゾン層の)フィルターとしての効果が減ってしまう訳ですから、当然、より有害な短波長の紫外線がより多く地上にまで到達する事になります。ここで怖い試算を一つ。オゾン量が1%減ると、有害UV量は2%増加し、皮膚癌患者数は3%増加するそうです。NASAによると1997年3月の北極域のオゾン量は前年に比べて30%減少し、この傾向は現在も続いている…。北緯30~50度の地域では、この10年間に冬と早春で6~7%、夏では2~3%のオゾン量の減少が認められている…。って、事はですよ…。おー、怖っ!(さあ、電卓片手に勝手に想像しておくんなまし。:夏の怪談話?) 環境問題が急に切実に感じられる今日この頃…。
美しい肌が欲しい。でも、紫外線による障害も怖い…。その矛盾した、でも女心としては当然過ぎる程の欲求を如何に両立させて行くか? それには、私達が出来るだけ防御機能としての生体反応を肩代りし、手助けしてあげるしかありません。そして出来てしまったものを地道に潰して行く。来月号では物理的防御法について詳しく特集します。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。
※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。
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来月号の予告
来月号は、備えあれば憂いなし。”光老化後編~予防方法”を特集します。お楽しみにね!