アトピー性皮膚炎治療外用薬|コレクチム軟膏 | 旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2020年12月号

アトピー性皮膚炎治療外用薬|コレクチム軟膏

アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快をー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患です。日本の保険医療に於けるアトピー性皮膚炎の治療目標は、症状が認められない、或いは症状があっても軽微であり、且つ日常生活に支障がない寛解状態への導入及びその長期維持です。コレクチム(デルゴシチニブ)軟膏は、2020年6月24日にデビューしたばかりの、新しいJAK阻害剤です。端的に言ってしまえば、ステロイドではないくせに、ステロイドみたいに炎症を抑える(←まあ、ステロイドのには及びませんが、それなりに)。にも拘らず、ステロイドではないから、ステロイドにありがちな皮膚の菲薄化と言った副作用がない。それじゃあ、大先輩のタクロリムス軟膏(プロトピック)と何が違うんだい?と思われるかもしれませんが、プロトピックにありがちな、唐辛子を肌に塗った様なピリピリ感がない。単にそれだけの、取り敢えず抑えとくかぁ(対症療法)の薬で、勿論、根本から何かする(根治療法)って薬ではありません。しかし、まあ、そんな程度の薬と思って使えば、それなりに以上に使えます。そう言う意味では、悪くない外用薬なのです。

 2020年1月23日の日経新聞でも、デカデカとプレスリリースされていたので、別の意味でも注目のお薬だったのが、このコレクチム軟膏です。以下抜粋です。

 【アトピー性皮膚炎治療薬「コレクチム(R)軟膏 0.5%」の日本国内における製造販売承認取得について

 日本たばこ産業株式会社(以下「JT」)及び鳥居薬品株式会社(以下「鳥居薬品」)は、2019年1月31日にJTが日本国内における製造販売承認申請を行ったヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤「コレクチム(R)軟膏 0.5%」(一般名:デルゴシチニブ)について、アトピー性皮膚炎を適応症として、本日、JTが日本国内における製造販売承認を取得しましたことを、お知らせいたします。

作用機序

 コレクチム軟膏は、日本たばこ産業株式会社にて、ヒトJAK1、JAK2、JAK3及びTyk2に対する阻害活性を指標として見出された、新規JAK活性阻害剤です。JAK/STAT経路を活性化する全てのサイトカインシグナルの伝達を阻害して、各種サイトカイン刺激により誘発される、T細胞、B細胞、マスト細胞及び単球の活性化を抑制します。因みに、JAK阻害薬は、外用薬に先立って既に複数の飲み薬が、関節リウマチや潰瘍性大腸炎の治療薬として広く臨床で使われています。

 また、非臨床試験の結果からですが、コレクチム軟膏は、アトピー性皮膚炎の特徴を有する皮膚炎モデルの炎症抑制(ラット)、皮膚バリア機能関連分子の発現低下の抑制(in vivo)、IL-31が誘発する掻破行動の抑制(マウス)が確認されています。

アトピー性皮膚炎の三位一体病態論

■病態形成で中心的役割を果たす2型サイトカイン

 Th2型免疫異常(美容通信2019年7月号)は、2型サイトカインを介して痒み!を引き起こします。それだけでなく、表皮角化細胞のフィラグリン産生も抑制するので、皮膚バリア機能も低下してしまいます。つまり、全てとは言いませんが、Th2型免疫異常は、アトピー性皮膚炎の病態の、かなり中心的な役割を果たしているんです。

 代表的な2型のサイトカインには、IL-4、IL-13、IL-31等があります。IL-4とIL-13は、表皮角化細胞のフィラグリン発現低下、掻痒の惹起、B細胞のIgEクラススイッチ等に関係をします。IL-31は、神経細胞に受容体があり、専ら、掻痒の惹起に関与します。

 皮膚のバリア機能、免疫異常、掻痒が有機的に相互作用する事で、アトピー性皮膚炎の病態が形成されると考えられます(アトピー性皮膚炎の三位一体病態論)。まあ、アベノミクスの3本の矢の反対です。相乗効果的に増悪を齎す、究極の悪循環って奴ですね。

 ヤヌスキナーゼ(JAK)は、サイトカイン受容体に会合するチロシンキナーゼです。JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2の4種類があります。通常、受容体には2分子のJAKが会合します。サイトカインが受容体に結合すると、JAKがリン酸化されて活性型になります。この活性化したJAKは、近傍のSTATをリン酸化し、リン酸化されたSTATは、二量体を形成し、核に移動し、遺伝子発現を調節すると言う一連の流れが起こります。

 JAS/STAT経路は、アトピー性皮膚炎の病態形成に関わる種々のサイトカインと成長因子のシグナル伝達に関わり、特に、Th2型炎症反応の促進、好酸球の活性化、制御性T細胞の抑制等の免疫調節、皮膚のバリア機能低下に関わっています。

■作用機序

 コレクチム軟膏は、上図の如く、ヤヌスキナーゼファミリー(JAK1、JAK2、JAK3及びTyk2)の全てのキナーゼ活性をブロックし、それに続く種々のサイトカインシグナル伝達を阻害します。サイトカインの指令を受けて、通常なら、免疫細胞や炎症細胞が活性化する、つまり皮膚の炎症が惹起されるものです。しかし、サイトカインの指令自体が発令されていない以上、免疫細胞も炎症細胞も、炎症を起こしようがないんです。つまり、掻き毟る理由がないんだから、掻き毟れない(笑)。それに、サイトカインの指令がないんだから、フィラグリン等の皮膚バリア機能関連分子もその発現が低下しないので、バリア機能もばっちり保たれる。これが、コレクチム軟膏の戦略です。

使用にあたっての注意事項

分子量が小さい! だから、漫然と塗り続けてはいけない!

 コレクチム軟膏の分子量約310です。正常皮膚からの吸収目安である分子量500より小さいんです。ですから、分子量がデカいプロトピック軟膏の様に、漫然と予防と称して塗っていてはいけません。皮膚が正常に戻ったのにコレクチム軟膏を塗り続けるなんて愚行を犯すと、プロトピック軟膏の時と違って、皮膚のバリア機能による抑制が効きませんから、ダラダラと、幾らでも浸透してしまいます。

 1回最大5gで、1日2回。それも、前回塗ってからそんなに時間が経ってないと、血中濃度が上がっちゃうので、12時間程度は開けた方が望ましい。明らかに爛れた患部に塗ったりすると、バリアが損傷されているので、一気に吸収されてしまいます。また、クラシックに密封療法や、亜鉛化単軟膏を伸ばしたリント布を上から貼ったりすると、経皮吸収量が増強してしまいます。粘膜も吸収が高いので、×。

 …じゃあ、吸収量が増え過ぎちゃうと、どんな禍が降り掛かって来るのか? 出エジプト記に記載されているような十の災い、つまり、

  1. ナイル川の水をに変える(7:14-25)
  2. 蛙を放つ(8:1-15)
  3. ぶよを放つ(8:16-19)
  4. 虻を放つ(8:20-32)
  5. 家畜に疫病を流行らせる(9:1-7)
  6. 腫れ物を生じさせる(9:8-12)
  7. 雹を降らせる(9:13-35)
  8. 蝗を放つ(10:1-20)
  9. 暗闇でエジプトを覆う(10:21-29)
  10. 長子を皆殺しにする(11章、12:29-33)

が起こるのかと言うと、それは不明です。コレクチム軟膏は、「世界初! アトピー性皮膚炎への外用JAK阻害薬!」として、今年の6月下旬に日本で発売されたばかりのお薬。取り敢えずの安全量を守っている分には、安全なのは分かっていますが、逸脱するとどうなるのかは、誰も知りません。既承認薬の経口JAK阻害薬では、悪性リンパ腫や固形細胞癌等の悪性腫瘍の発現が報告されています。本剤のマウスを用いた経皮投与癌原性試験では、腫瘍性変化の発生は認められませんでした。が、ラットを用いた本剤の経口投与癌原性試験に於ける大量暴露で、腫瘍性変化が観察されています。ですから、コレクチム軟膏でも、血中濃度が高く維持されてしまった場合、悪性腫瘍の発現率が高まる可能性は否定出来ないんです。

 勿論、動物実験で、胎児や乳汁への移行が認められているので、妊婦さんも授乳中のママさんも、止めといた方が無難です(禁忌ではありません)。

 

免疫抑制作用があるから、

 まあ、コインの裏表ではありませんが、免疫抑制作用が効果の本体である以上、塗布した部位に、①毛包炎及び痤瘡(ニキビ)、②カポジ水痘様発疹症及びヘルペス感染症が、嬉しくないオマケとしてついて来るかも。これは、ステロイド外用薬でもプロトピック軟膏でも言える事なんですけどね。

 

塗り物である以上、塗ったところがカブレるかも。

 塗布した部位では、接触性皮膚炎が起こる事だってあります。

(参考までに)似て非なる輩達

プロトピック(タクロリムス)軟膏

 プロトピック軟膏の主成分は、タクロリムスです。タクロリムスは、1984年に、藤沢薬品工業(現アステラス製薬)の研究により、筑波山の土壌細菌(放線菌の一種、Streptomyces tsukubaensis)より分離されました。23員環マクロライド・マクロラクタム構造を持つ免疫抑制剤の一種で、臓器移植または骨髄移植を行った患者の拒絶反応を抑制する薬剤です。1993年5月に肝臓移植時の拒絶反応抑制剤として、まず認可さました。後に腎臓、肺、骨髄等の移植に用いらるようになり、更にはアトピー性皮膚炎、重症筋無力症、関節リウマチ、ループス腎炎へも適応が拡大されています。飲み薬や注射薬、塗り薬等の形状がありますが、アトピー性皮膚炎については、適応があるのは軟膏だけです。アレルギーの免疫反応を抑える抗炎症作用があり、皮膚炎の赤みや痒みを抑えてくれます。

 プロトピック軟膏は、ステロイド外用薬の「strong」と同等の抗炎症作用を有するとされています。ですが、炎症の上り坂の時には歯止めを効かせ難く、峠を越してからが寧ろ本領発揮の感があります。プロトピック軟膏の分子量は800であり、正常皮膚からの吸収目安である分子量500より大きいので、プロトピック軟膏はステロイド外用剤と異なり、バリア機能が破壊された皮膚のみ吸収され、正常皮膚からは吸収されません。つまり、ステロイド外用剤でありがちな皮膚の菲薄化の副作用がなく、ステロイド外用薬で鎮静化した皮膚にプロトピック軟膏を用いる事で、役割分担ではないですが、長期の再燃予防を目指す事が出来るとされ、日本の保険医療に於けるアトピー性皮膚炎の治療の二大柱の一本(もう一本の柱はステロイド外用薬!)とされています。つまり、漫然と塗り続けてもOK!って、お上のお墨付きのお薬なんです。根治的な事はな~んにもしてくれない(←それが良いか悪いかは別にして!)んですが、まあ、それなりの時間稼ぎ(笑)としては悪くはないんじゃないかしら(笑)。

 プロトピック軟膏を塗ると、唐辛子を肌に塗ったみたいなヒリヒリとした灼熱感があります。これは、サブスタンスPが遊離される為に起こる現象で、唐辛子の成分であるカプサイシンを肌に塗っても同様に遊離するので、唐辛子感!なんですね。唯、サブスタンスPも有限の資源!(笑)なので、塗り続ければ、枯渇します。唐辛子用の灼熱感も、いつかは減弱してしまうものなのです。

 因みに、プロトピック軟膏の一部のメーカーの製品(後発医薬品)では、先発品「プロトピック」以上に塗布時に強い刺激感を感じる事があります。これは、先発品の添加物に含まれる炭酸プロピレンが、一部のメーカーの後発医薬品には添加されていない為に起こっているのではないかと推測されています。尤も、炭酸プロピレンが添加されている後発医薬品も存在はしますが…。

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来月号の予告

アトピー性皮膚炎や脂漏性湿疹、肌荒れ等のお肌のトラブルだけでなく、肥満や糖尿病、脳卒中や心筋梗塞、癌等も、慢性の炎症性の疾患ですが、新型コロナウィルス(COVID-19)感染も、これまた、急性→慢性の炎症性疾患に分類できます。

分子栄養学から考える対策です。

<炎症と病気>です。