2017年春号 | 旭川皮フ形成外科クリニック

季刊『美肌姫』

2017年春号

あなたの夢をかなえるステップ『美肌姫』春号が完成しました。紫外線が増えてくるこの季節、光老化について、Dr.ヒサコからのメッセージをお届けします。

おいしい生活 P.2-3

これからの時代(1980年代における)の豊かさは何か、ということを端的に言い表した、糸井重里氏の有名なコピーです。うれしい、ではなく、楽しい、でもなく、おいしい。文化的空間と街という概念で商業主義を見事にオブラートに包み込んだ、優れたキャッチコピー。

私は学生時代、旭川の西武百貨店でアルバイトをしていました。いわゆる生死に関わる従来の医業ではなく、あえて美容という隙間産業に卒業後の進路を決めたのもこのバイト経験に背中を押されたからかもしれません。大学の周囲の先生達からは、邪道と非難されました。けれど、みんなの心の中にある、今より半歩先行く幸せ(欲望)。その後押しをして、 何が悪い? と。

ぼんやりとした進路でしかなかったものを、完全に決定付けたのは、おそらく子宮癌を患ったことであり、その合併症のリンパ浮腫だったと思います。今でも主流となる癌治療の考え方は、生存率の一言に尽きます。患者の生活の質は、評価の対象ではありません。しかし、癌の患者は、死ぬまで生きています。癌を主軸に考えれば、それは確かに余生です。しかし、生き残った患者にとっては、生は生でしかなく、余ではありません。リアルに生なのです。そして、合併症であるリン 浮腫と死ぬまで付き合わなければいけません。しかし、そのことは医療従事者にとっては些細なことで、余生の、更にはその付録でしかありません。

例えば、リンパ浮腫の保存的な治療として、弾性ストッキングによる圧迫療法があります。弾性ストッキングは、当時、肌色のかわいくない商品しかありませんでした。取り扱いをしている会社に、なぜ、こんな色の商品しか扱っていないのかと問い合わせをしました。
弾性ストッキングは、治療のための装具である。リンパ浮腫の患者は、必死に合併症であるリンパ浮腫の治療に取り組んでいるというのに、その装具に対してかわいいとか、かわいくないとか言うのは、患者に対する冒涜だ。医者のくせに、治療を何だと思っているのか? と言われました。真剣に治療に励む 患者さんに、申し訳ないと思わないのか? と散々非難されました。親しい医者仲間は、業者の様なあからさまな非難はしませんでしたが、「命の代償だから、リンパ浮腫は仕方がない。それならば、なるべく患脚が目立たないようにベージュを選ぶ患者の心理を理解してあげないと」と言いました。

本当にリンパ浮腫の患者さんは、目立たないベ ージュを求めているのでしょうか? 少なくとも、私は嫌だと思いました。人生の限定された一時期なら、治療として諦めて履くことはできます。しかし 組織の非可逆性の変化であるリンパ浮腫に対し、一生、我慢して履き続けるのは、真っ平だと思いました。私は、かわいい弾性ストッキングが履きたい。死ぬまで妥協するのは嫌だ。患者である私がそう思う以上、他に もそう思う患者さんは、きっといるはずだと。

「おいしい生活」。私は、素直に些細な欲望を肯定し、その解放を望む人の手助けがしたいと思いました。医療 の王道ではなく、あえて生命維 持に関与しない医療を選びまし た。反骨精神からでしょうか。 これが、私が美容の世界にどっ ぷり漬かったきっかけです。


光老化 P.4-6

 シミやシワ、皮膚癌、免疫力の低下、白内障等の原因の約割が、紫外線照射による「光老化」です。

紫外線の急性障害

 代表的な反応として日焼けが挙げられます。日焼けは厳密には、サンバーンとサンタンの2段階の反応があります。強烈に太陽を浴びると、皮膚が赤く腫れ上がり、水脹れになったり、発熱したりします。これがサンバーン(即時型色素沈着)の状態で、やけどの一種です。次第に収まり褐色の肌になるとサンタン(遅延型色素沈着)の状態です。この急性障害は主にUV B(短波長紫外線)によって起されますが、UVA(長波長紫外線)がさらに肌の負担を増します。

紫外線の慢性障害=光老化

 長年太陽光線にさらされてきた皮膚は、明らかな老化現象を示します。皮膚には生理的な老化(自然老化)だけではなく、光老化が加わってきます。肌の色は、褐色調となり、質感は艶が失せ、分厚くて硬くキメの粗さが目立つようになります。張りがなくなり、シワが増えるとともに深くなります。いわゆる、老徴(ろうちょう)です。これに老人性皮膚疾患が加わります。多くの色素斑が増え、良性腫瘍だけではなく、日光角化症等の前癌病変(ぜんがんびょうへん)、皮膚癌が合併して起こります。
この光老化を起こす波長域に ついてはまだはっきりと解明されていません。UVBだけでなく、真皮深くまで到達するUVAも関与しているといわれています。UVAは、多量に浴びない限り急性の重篤な反応を引き起こすことがないために、これまであまり危険視されてきませんでした。「日焼けサロン」 がその代表格です。でも近ごろ 研究が進み、その危険性を無視できないことがわかってきました。さらに免疫系に対する慢性的な紫外線の影響が示唆されるようになり、皮膚だけではなく全身にわたる紫外線の影響についてもだんだん解明されていくことでしょう。 代表的な光老化について掘り下げてみましょう。

シミ (色素斑)

 シミは、色々な 色素性疾患の総称 で、それぞれ発症 のメカニズムも異なっていて、一概には論じることはできません。まだまだ謎の 部分も多く残されているのも事 実ですが、顔面に発生するシミのうち紫外線が関与しているものとしては、老人性色素斑、肝 斑、ソバカス(雀卵斑)が主なものです。老人性の色素沈着については、発症のメカニズム自 体すらまだ解明されてはおりませんが、30歳代で20%、40歳代で62%、50歳以上では92%にあるという報告も出ています。長期間にわたって紫外線を浴びることで一部の表皮細胞(ケラチノサイト)の性質に変化が生じ、紫外線を浴びなくても色素細胞(メラノサイト)を刺激する因子を出し続けてしまうようになるのが、原因の一つではないかと考えられています。
即時型の黒化に関わるUVA、 遅発型の黒化に関わるUVBの 両方を防御することがシミの予防には重要です。

シワ

 紫外線は細胞を傷害します。さらに真皮の基質や線維成分に対しても、直接または炎症を介して障害を与えます。当然、エラスチン線維(弾性線維)が傷害されてしまうので、体は一生懸命にエラスチン線維の増産体制に入ります。しかし、この増産されたエラスチン線維は、本来あるべき 直線的な構造を失っていき、弾力のないエラスチン線維にしかなれません。でき損ないの線維成分により弾力のないゴワゴワの肌や、深く刻まれたシワとなってしまうのです。

皮膚癌

 動物実験では、主としてアメリカ 1920年代から、UVBあるいはUVA単独を反復照射することによって皮膚癌が生じることが報告されています。 サンバーン、発癌などについては分子生物学的な面からの研究がなされ、解明されつつありますが 多くの疾患については、まだ生体内の光感作物質が明らかにはなっていません。 また、オゾンホールの問題があります。フロンガスなどによってオゾン層の破壊が進行してしまいオゾン層のフィルターとしての効果が減り、より有害な短波長の紫外線が、多く地上にまで到達することになります。
オゾン量が1%減ると、有害UV量は2%増加し、皮膚癌患者数は3%増加するそうです。

紫外線に対する防御機能

 紫外線は、皮膚の構造とその構成物質により吸収拡散され、皮膚の深部にいくほど減少します。私たちの皮膚には紫外線に対する防御機能があると考えられています。 日焼けして色が黒くなったりシミができる(表皮のメラニンが増える)、皮膚がゴワゴワして透明感がなくなる(角層が厚くなる)という、女性にとって極めてありがたくない肌のトラブルは、言い換えると、紫外線に対する皮膚の(生体の)防御反応でもあるのです。

日焼け止め(サンスクリーン剤)をぬりましょう。

 日焼け止めのパッケージを見てみると、SPFとPAの2つの表示があります。

SPF-Sun Protect Factor

  サンバーン(主にUVBによる日焼けで皮膚が赤くなること)防止効果を示す数値。 どこの国の製品でも、表示内容はほぼ同じです。

PA-Protection grade of UVA

 UVAに対する防止効果を示すもので、PA+〜PA+++の段階の表示です。ただし、日本だけの基準と表示なので、外国製の日焼け止めには表示がないこともあります。SPFと共に忘れずにチェックしましょう。

 日焼け止めは、紫外線をどう防止するかによって2種類に分けられます。一つは、紫外線吸収剤。皮膚の表面で吸収した紫外線のエネルギーを熱として放出し、皮膚の奥深くまで届かないようにするものです。もう一つは、紫外線散乱剤。これは UVA、UVBの両方ともほぼ均一に散乱し、皮膚を紫外線から物理的に遮断します。散乱剤は吸収剤と違って、皮膚の内部へ吸収されることが少なく、シリコンなどで粒子がコーティングされているので安全性の面でもいいと思います。それに、吸収剤と比べて高いUVA防止効果を期待できます。ただし飛躍的に技術革新が進んでいるとは いえ、伸びや色の面では若干劣る印象はあります。
日焼け止めの紫外線防止効果は、基本的には紫外線防止剤がどれ位含まれているかで決まります。しかし、防止剤の濃度を高くすればいいものではなく、高濃度になればなるほど、使用感や安全性で問題が生じてきます。紫外線の量は、季節や地域、天候、環境、そしてライフシーンなどによって変化します。ご自身のスキンタイプを考慮しながら、目的に合った日焼け止めを選びましょう。

日常生活上の注意も必要です。

  日傘、帽子、手袋をはじめ、長袖のシャツ、長ズボンなど服装にも気をつけましょう。白内障の予防にはUV防止効果のあるサングラスが必要です。レンズは黒ではなく、瞳孔が開かないオレンジ色などのものが望ましいです。10時〜14時の紫外線量が多い時間帯は外出を避けるなどの注意も必要です。